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フランス語の副詞的形容詞が出現する構文について « payer cher »

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(1)

フランス語の副詞的形容詞が出現する構文について

« payer cher » の場 合

Les structures contenant un adjectif adverbial en français : le cas de

« payer cher »

関 敦 彦 SEKI Atsuhiko 東 京 外 国 語 大 学 博 士 後 期 課 程

Doctoral Program, TUFS

ふらんぼー(Flambeau) vol.44 2018, p.83-102.

原 稿 受 理 2018-12-06 ; 最 終 版 2019-02-11

抄 録

敦 賀(2008)が指 摘 するように、書 き言 葉 における動 詞 payer の項 構 造 は複 雑 であるといえる。ところ で、動 詞 payerには支 払 う金 銭 の大 きさを示 す副 詞 的 形 容 詞cherが頻 繁 に後 置 していると考 えられ る(この構 文 を「payer cher 構 文 」と呼 ぶ)。本 論 文 は、先 行 研 究 を参 照 し、コーパスを検 索 することで、

現 代 フランス語 の書 きことばにおけるpayer cher 構 文 の実 際 の使 用 を記 述 することを目 的 とする。

Résumé

La structure actantielle du verbe « payer », telle que décrite par Tsuruga (2008) en se basant sur un corpus écrit, s’avère complexe. Il semble qu’après le verbe « payer » l’adjectif adverbial « cher », qui souligne l’ampleur de la somme dépensée, apparaît fréquemment. Le présent article a pour objectif de décrire l’usage réel de la structure composée du verbe « payer » et de l’adjectif « cher » en français écrit contemporain, en se référant à l’ouvrage précédant et en s’appuyant sur le corpus.

キ ー ワ ー ド

副 詞 形 容 詞 payer cher 項 構 造

© ふらんぼー Flambeau 44 (2018) pp.83–102.

183-8534 東 京 都 府 中 市 朝 日 町 3-11-1 東 京 外 国 語 大 学 フランス語 研 究 室 183-8534 French Section, Tokyo University of Foreign Studies, 3-11-1 Asahi-cho Fuchu City, Tokyo

本 稿 の著 作 権 は著 者 が保 持 し、クリエイティブ・コモンズ表 示 4.0 国 際 ライセンス (CC-BY)下 に提 供 します。

https://creativecommons.org/ licenses/by/4.0/deed.ja

(2)

0.はじめに

現 代 のフランス語 では形 容 詞 から副 詞 を派 生 する際 には多 くの場 合 で形 容 詞 の女 性 形 に接 尾 辞 の-ment を付 加 することが知 られている。例 えば、例(1)で見 られる「静 かに」や

「優 しく」といった意 味 を持 つ副 詞 doucement は、「甘 い」や「優 しい」といった意 味 を持 つ 形 容 詞 doux の女 性 形 douce に接 尾 辞-ment を付 加 することで、派 生 させることができる。

しかしながら、以 下 の例(2)と(3)のように一 部 の形 容 詞 は接 尾 辞-ment を伴 わずに副 詞 的 な機 能 を果 たすことができる(以 下 、このような形 容 詞 を副 詞 的 形 容 詞 と呼 ぶ)。

(1) Elle me parle doucement et m'offre sans cesse des sucres que je dédaigne.

「彼 女 は私 にそっと話 しかけ、私 には必 要 のない砂 糖 を絶 え間 なく渡 してくれる。」

(GUILLEBAUD Catherine, Dernière caresse, 2009, p.123) (2) Elle parle si bas, mais il sent la tension de sa voix.

「彼 女 はとても小 さな声 で話 すが、彼 はその声 に緊 張 感 を感 じている。」

(GARAT Anne-Marie, L'Insomniaque, 1987, p.57)

(3) Ils paient alors très cher des sociétés pour relooker leurs produits.

「彼 らはその時 、製 品 の模 様 替 えのために会 社 にとても高 い金 額 を支 払 う。」

(BEIGBEDER Frédéric, 99 francs, 2000, p.139)

具 体 的 に見 てゆくと、上 の例(2)では本 来 は「低 い」という意 味 を持 つ形 容 詞 bas が動 詞 句 内 に現 れ「小 さな声 で」という副 詞 的 意 味 で使 用 されている。また例(3)においては、本 来 は「高 価 な」または「親 しい」といった意 味 を持 つ形 容 詞 cher が動 詞 句 内 に現 れ「高 い 金 額 を」という副 詞 的 意 味 で使 用 されている。

現 代 のフランス語 においては、特 に書 きことばでは、形 容 詞 がこのような副 詞 的 な用 法 をもつ頻 度 は必 ずしも高 くない。しかしながら、筆 者 がコーパスを用 いて検 索 したところ、例 (3)であげた形 容 詞 cher は他 の形 容 詞 と比 べ書 きことばで使 用 される頻 度 が高 いと言 える。

形 容 詞 cherはいくつかの動 詞 の動 詞 句 内 で使 用 されることができるが、本 研 究 では、その 中 でも出 現 頻 度 が比 較 的 高 いうえに、以 下 で述 べるように項 構 造 が複 雑 である動 詞payer の句 内 で使 用 される場 合 (以 下 、「payer cher 構 文 」と呼 ぶ)に対 象 を絞 り、その用 法 を統 語 的 および意 味 的 な側 面 から分 析 を行 ってゆく。

1.動 詞 payer がとりうる構 文 の複 雑 さ

動 詞 payer がとりうる構 文 は非 常 に複 雑 である。動 詞 payer は直 接 目 的 語 をとる場 合 が 多 いが、直 接 目 的 語 位 置 には、支 払 う金 額 、金 銭 を支 払 う相 手 、金 銭 を支 払 うことで得 ら れる対 価 、と様 々な意 味 的 機 能 を持 った語 を置 くことができる。これは同 様 に贈 与 を示 す 動 詞 ではあるが、与 える物 のみを直 接 目 的 語 位 置 に置 くことができる動 詞 donner やoffrir などの場 合 とは異 なる。動 詞 payer がとりうる構 文 に関 しては、敦 賀 (2008)がコーパス上 で

(3)

集 めた用 例 を基 に分 析 をし、以 下 のような分 類 を行 っている 1

N-V-N-:特 有 機 能 項 (動 詞 の構 文 を特 徴 付 ける項 )として直 接 目 的 語 名 詞 を少 なくとも 一 つは必 要 とする構 文 。

N-V-f-r-:間 接 目 的 項 を少 なくとも一 つは必 要 とする構 文 2

N-V-Ad:特 有 機 能 項 として副 詞 を少 なくとも一 つは必 要 とする構 文 。 N-V:自 動 詞 構 文 。

N-se-V:代 名 詞 構 文 。 N-être-V:受 動 態 構 文 。

Vinf:独 立 文 をなしていない不 定 詞 構 文 。 Vé:独 立 文 をなしていない過 去 分 詞 構 文 。

敦 賀 (2008)ではまず動 詞 payer が用 いられる構 文 を以 上 のように分 類 した上 で、各 構 文 の各 項 にどのような機 能 を持 つ名 詞 が出 現 しうるかを分 析 している。以 下 では名 詞 の意 味 的 機 能 を表 示 するために各 名 詞 には N0 から N3 までの数 字 が割 り当 てられている。N0 は金 銭 を支 払 う主 体 、N1は支 払 う金 銭 または金 銭 に相 当 するもの、N2は金 銭 を支 払 う相 手 、N3は金 銭 の対 価 として得 られる対 象 を示 している。これらの記 号 は本 研 究 の分 析 でも 使 用 している。

まず、N-V-N 型 構 文 について見 てゆく。この構 文 は動 詞 が求 める項 の数 や項 となる名 詞 の機 能 に応 じて、以 下 の表 1 のように多 種 多 様 な構 文 が見 られる。下 の表 を参 照 する と、動 詞 payer においては最 大 で 4 つの項 をとりうることが確 認 できる。また、その際 には、

4 項 目 には必 ず前 置 詞 を伴 っているという点 にも留 意 する必 要 がある。この構 文 は直 接 目 的 語 を必 要 とするが、直 接 目 的 語 として最 も頻 度 が高 いものはN3であり、構 文 としてはN- V-N3 の頻 度 が最 も高 い。さらに主 語 位 置 には N0 以 外 に N1 も出 現 しうるという点 が興 味 深 いと言 える。そして、これはN-V-N構 文 に限 ることではないが、支 払 う金 銭 に相 当 する一 部 の副 詞 的 な語 も項 として認 められることが指 摘 されている 3。表 1 から表 4 の網 掛 け部 分 は副 詞 的 語 彙 が項 として出 現 している構 文 である。

表 1.N-V-N構 文

2 項 3 項 4 項

N0-V-N1 N0-V-N2-N1 N0-V-N2-N1-pour-Vinf3

N0-V-N2 N0-V-N3-N1 N0-V-N3-N1-à-N2

1 執 筆 当 時 に利 用 可 能 な最 新 のデータであった1978年 から 1999年 までのデータを用 い、動 詞

payerが出 現 する例 文 1000例 ほどを対 象 にしている。

2 この構 文 の « f » fonctionnel、日 本 語 にすると機 能 指 示 子 を意 味 し前 置 詞 や従 属 接 続 詞 を指 す。また « r » régi、つまり被 制 辞 を意 味 し、前 置 詞 や従 属 接 続 詞 の支 配 を受 ける語 を指 す。

3 支 払 う金 銭 に相 当 する副 詞 的 な語 としては、本 研 究 で扱 う形 容 詞 cher のほか、副 詞 bien も取 り上 げられている。

(4)

N0-V-N3 N0-V-N1-à-N2 N0-V-N1-à-N2-pour-N3 N1-V-N2 N0-V-N1-pour-N3 N0-V-N1-à-N2-pour-Vinf3 N1-V-N3 N0-V-N1-sur-N3 N0-V-N2-de-N3-avec-N1

N0-V-N1-pour-Vinf3 N0-V-N2-Ad1-pour-Vinf3 N0-V-N2-de-N1 N0-V-N2-Ad1-pour-que-V3 N0-V-N2-en-N1 N0-V-N3-de-N1-à-N2 N0-V-N2-à-N1 N0-V-N3-Ad1-à-N2 N0-V-N2-pour-N3

N0-V-N2-de-N3 N0-V-N2-pour-Vinf3 N0-V-N3-à-N2 N0-V-N3-de-N1 N0-V-N3-à-N1 N0-V-N3-avec-N1 N0-V-N3-en-N1 N0-V-N3-par-N1 N0-V-N3-Ad1

続 いて N-V-f-r-構 文 であるが、これは項 として間 接 目 的 語 を少 なくとも 1 つは必 要 とす る構 文 である。これらの構 文 においては主 語 位 置 に立 つ語 は N0 のみである。また、目 的 語 としては N1 もしくは N3 が前 置 詞 を伴 って出 現 する場 合 が主 である。また、項 として副 詞 が出 現 する構 文 は N0-V-Ad1-à-N2 のみである。

表 2.N-V-f-r-構 文

2 項 3 項

N0-V-de-N1 N0-V-de-N1-pour-N3

N0-V-avec-N1 N0-V-Ad1-à-N2

N0-V-en-N1 N0-V-par-N1 N0-V-à-N2 N0-V-pour-N3 N0-V-pour-Vinf3 N0-V-pour-que-V3 N0-V-à-Vinf3

敦 賀(2008)では N-V-Ad に関 する言 及 はあまりなされていないが、前 述 したように支 払 う 金 銭 に相 当 する副 詞 的 な語 も項 として認 められると指 摘 している。

(5)

N-V は自 動 詞 構 文 である。この構 文 で主 語 位 置 に置 かれる名 詞 は圧 倒 的 に N0 が多 いが、N3 もわずかながら出 現 するようだ。

続 いて代 名 動 詞 構 文 である N-se-V 構 文 に移 る。この構 文 では表 3 で示 されている通 り、N1以 外 の名 詞 が主 語 位 置 に置 かれうるほか、ここでも N3の頻 度 が最 も高 いと言 える。

また項 として副 詞 が出 現 する構 文 は N3-se3-V-Ad1 のみである。

表 3.N-se-V-構 文

2 項 3 項 4 項

N3-se3-V N0-se0-V-de-N1 N0-se0-V-N1-à-Vinf3

N0-se0-V-N3 N0-se0-V-N3-de-N1 N2-se2-V-N3 N0-se0-V-N3-avec-N1 N0-se0-V-à-Vinf3

N2-se2-V-N1 N3-se3-V-à-N1 N3-se3-V-de-N1 N3-se3-V-Ad1

最 後 に受 動 態 である N-être-Vé 構 文 について見 てゆくが、ここまで見 た構 文 では N-V- Ad1 とN-V を除 き N3 の出 現 頻 度 が高 かったのに対 して、受 動 態 では、N2 : N3 = 3 : 1 で あり、むしろ N2 の出 現 頻 度 の方 が高 いという特 徴 がある。

表 4.N-être-Vé構 文

1 項 2 項 3 項

N2-être-Vé N2-être-Vé-N1 N2-être-Vé-au dessus de-N1-par-N0 N2-être-Vé-de-N3 N2-être-Vé-Ad1-pour-Vinf3

N2-être-Vé-par-N0 N2-être-Vé-Ad1-par-N0 N2-être-Vé-pour-N3

N2-êtreVé-en échange de-N3 N2-être-Vé-pour-Vinf3

N2-être-Vé-à-Vinf3 N2-être-Vé-Ad1 N2-être-Vé-Ad3 N3-être-Vé-à-N2 N3-être-Vé-N1 N3-être-Vé-deN1 N3-être-Vé-par-N0

(6)

N3-être-Vé-Ad1

ここまで見 てきたように敦 賀(2008)はコーパスを基 にした調 査 から、フランス語 の書 きこと ばにおいて動 詞 payer がとりうる構 文 を網 羅 的 に取 り扱 い分 析 している。しかしながら、動 詞 の機 能 的 特 有 項 となる語 は圧 倒 的 に名 詞 が多 いことから当 然 ではあるのだが、副 詞 も しくは副 詞 相 当 語 彙 に関 する分 析 はこの中 では十 分 になされていないように思 える。また、

副 詞 的 形 容 詞 cher は上 で記 述 されているよりもより幅 広 い構 文 で出 現 が確 認 できると言 える。動 詞 payer が出 現 する構 文 おいては、名 詞 と比 べて頻 度 が低 いながらも、いくつか の副 詞 も N1 と近 い意 味 を持 って使 用 されることから、副 詞 に関 する分 析 も重 要 な意 味 を 持 っており、より広 い範 囲 のデータベースを用 いて調 査 し分 析 することは有 用 であると考 え られる。

2.payer cher 構 文 の意 味 内 容

冒 頭 でも触 れたことではあるが、形 容 詞 cher は本 来 は「高 価 な」または「親 しい」といった 意 味 を持 つ語 であり、それが動 詞 句 内 で用 いられると「高 い金 額 を」という意 味 となる。本 研 究 では形 容 詞 cher が動 詞 payer の動 詞 句 内 で用 いられる場 合 を対 象 とするが、この payer cher 構 文 は大 きく分 けて二 つの意 味 を持 つことができる。仏 仏 辞 典 である Le Petit Larousse illustré によると、形 容 詞 cher には副 詞 的 に使 用 される場 合 は以 下 の意 味 があ る。

1. À un prix elevé 「高 い金 額 で」

2. Au prix de grands sacrifices 「大 きな犠 牲 を払 って」

また Trésor de la Langue Française informatisé では、形 容 詞 cher の副 詞 的 用 法 に関 して以 下 のように記 述 している。

A. [Modifie un verbe d'estimation; ne peut-être remplacé par chèrement*] Coûter cher, valoir cher

「 ( 数 量 表 現 の 動 詞 を 修 飾 し 、chèrement に よっ て置 き換 え ることは で きない)coûter cher, valoir cher」

B. Au fig. Coûter cher. Imposer de lourds sacrifices; provoquer de graves inconvénients.

「比 喩 的 。coûter cher。重 い犠 牲 を課 す、重 大 な不 都 合 を引 き起 こす。」

このことから、payer cher 構 文 には金 額 の高 さに関 する本 来 的 意 味 と、犠 牲 や不 都 合 に 関 する比 喩 的 意 味 があることが分 かる。この構 文 の分 析 を行 う上 では、この意 味 の違 いに ついても考 えてゆく必 要 があるだろう。

(7)

3.調 査 目 的

本 研 究 は、現 代 フランス語 の書 きことばにおいて payer cher 構 文 がどのように使 用 され ているかを記 述 することを目 的 とする。本 研 究 では、以 上 の先 行 研 究 等 を踏 まえ、以 下 の 点 に注 目 しながら payer cher 構 文 の実 際 の用 法 を記 述 してゆく。

〔1〕副 詞 的 形 容 詞 cher は敦 賀(2008)で Ad1 が出 現 すると記 述 した構 文 以 外 でも出 現 し うるか?

〔2〕副 詞 的 形 容 詞 cher の意 味 の違 いと各 構 文 における出 現 頻 度 に差 はみられるか?

4.調 査 方 法

本 研 究 では、分 析 に際 してフランス語 の書 きことばにおいて最 大 規 模 のコーパスであると 言 われる Frantext を使 用 する。1.で取 り上 げた敦 賀(2008)もこの Frantextを使 用 して分 析 を行 っている。本 分 析 では、幅 広 い構 文 を記 述 することを目 的 とすることから、1950 年 から 現 時 点 で最 新 である 2013 年 までの用 例 を対 象 とする。また、このコーパスは小 説 をはじめ として戯 曲 、エッセイなど文 学 作 品 を中 心 として幅 広 いジャンルの書 きことばの用 例 が収 録 されている。ジャンルや文 体 によって用 法 に差 が生 じる可 能 性 も考 慮 し、より綿 密 な分 析 を 行 うために、本 研 究 では Frantext の中 でも比 較 的 用 例 数 の多 い小 説 (Roman)にジャンル を絞 る。以 上 の絞 り込 みの結 果 、今 回 の分 析 で対 象 とする著 作 数 は 382 本 、語 彙 数 は約 3000 万 語 である。

ところで、Frantext は 2018 年 以 降 ウェブサイトのデザインが大 きく一 新 したが、本 研 究 で は 以 下 の 図 1 で 示 され ているよ う な や り 方 で 検 索 を 行 っ た 。 本 論 文 の 執 筆 時 点 で は 、 Frantext 上 で調 査 対 象 とする著 作 を選 択 し、 « recherche »のページに入 ると上 部 に様 々 な検 索 方 法 が提 示 される。今 回 はその中 で左 から 2 番 目 にある « assistée »と呼 ばれる項 目 を使 用 する。ここでは複 数 の語 彙 を入 力 し、それらの語 彙 が同 時 に出 現 する用 例 を検 索 で き る よ う に な っ て い る 4。 例 え ば 、 « Mot 1 »の 欄 に « payer »を 、 « Mot 2 »の 欄 に « cher »を入 力 して検 索 すると « payer cher »という連 続 が含 まれた用 例 を検 索 すること ができる 5。さらに、 « payer »と « cher »の間 に副 詞 など何 らかの他 の語 彙 が出 現 している 用 例 も含 めて検 索 したい場 合 は、それぞれの語 の間 に « Joker »と呼 ばれる項 目 を入 力 す ることで検 索 を実 現 することができる。この « Joker »の欄 では入 力 した各 語 の間 に挿 入 さ れる語 の数 を最 小0から最 大10まで設 定 することができる。本 研 究 では、これら動 詞payer と形 容 詞 cherの間 に強 意 を示 す副 詞 などの何 らかの語 が出 現 する可 能 性 も考 慮 して、最 小 語 数 0 語 、最 大 語 数 5 語 の « Joker »を設 けた。

4 Formeの項 目 に語 彙 を入 力 すれば入 力 した形 態 のみを検 索 でき、Lemmeの項 目 に語 彙 を入 力 す れば名 詞 や形 容 詞 の変 化 形 、または動 詞 の活 用 形 を全 て一 括 で検 索 することができる。

5 本 研 究 では副 詞 的 形 容 詞 cher が性 数 一 致 を伴 って出 現 する場 合 を想 定 し、形 容 詞 cher

Lemmeの項 目 に入 力 した。しかしながら、今 回 の調 査 で見 た限 りはいずれの形 容 詞 cher も不 変 化 で

ある。

(8)

図 1.Frantext の 調 査 語 彙 選 択 画 面

5.分 析

5.1.観 点 1について:敦 賀(2008)との比 較

まず、敦 賀(2008)において項 として副 詞 が出 現 すると記 述 されていた構 文 と、本 論 文 で 見 られた構 文 を比 較 する。以 下 の表5では、敦 賀(2008)と本 研 究 を比 較 して、敦 賀(2008) では見 られ本 論 文 では見 られなかった構 文 を左 側 に、敦 賀(2008)では見 られず本 論 文 で は 見 ら れ た 構 文 お よ び そ の 用 例 数 を 右 側 に 配 置 し て あ る 。 こ の よ う に し て 見 る と 敦 賀 (2008)では確 認 されず本 論 文 では確 認 された構 文 はかなり多 く見 られる。しかしながら、5 例 見 られる N0-V-pour-N3-Ad1 構 文 と 13 例 見 られる N0-V-pour-Vinf3-Ad1 構 文 を除 い て、いずれも 1 例 から3 例 ほどの出 現 と頻 度 は高 くないと言 える。

表 5

敦 賀(2008)のみ見 られた項 構 造 本 論 文 のみ見 られた項 構 造 本 論 文 の用 例 数

N0-V-N2-pour-que-V3-Ad1 N0-V-N2-Ad1 3

N2-être-Vé-pour-Vinf3-Ad1 N0-V-N2-N3-Ad1 1 N2-être-Vé-par-N0-Ad1 N0-V-N3-pour-Vinf3-Ad1 1 N0-V-N3-pour-N3bis-Ad1 1

N0-V-de-N3-Ad1 3

N0-V-pour-N3-Ad1 5 N0-V-pour-Vinf3-Ad1 13 N0-V-de-Vinf3-Ad1 2

(9)

N0-V-à-N2-pour-N3-Ad1 1

N0-se0-V-N3-Ad1 1

N0-se0-V-pour-Vinf3-Ad1 1

N2-se2-V-N3-Ad1 1

5.2.観 点 2:意 味 の違 いと出 現 頻 度 の差

続 いて、意 味 の違 いと各 構 文 における出 現 頻 度 の差 について見 てゆく。今 回 の調 査 で は、表 6 で示 されているように合 計 186 例 の payer cher 構 文 が見 られたが、そのうち本 来 的 意 味 の用 例 は 61 例 、比 喩 的 意 味 の用 例 は 126 例 と、比 喩 的 意 味 の用 例 の出 現 数 が 本 来 的 な用 例 の出 現 数 に対 して約 2 倍 の差 をつけて多 いという結 果 になった。

表 6

本 来 的 比 喩 的 合 計 用 例 数 61 126 186

5.3.N-V-N 構 文

5.3.1.N-V-N かつ 3 項 の構 文

上 では全 体 的 には比 喩 的 な用 法 が本 来 的 な用 法 と比 べ頻 度 が高 いということを見 た。し かしながら、構 文 ごとに見 てゆくと全 ての構 文 で比 喩 的 意 味 の用 例 の頻 度 が高 いわけで はないということが分 かる。以 下 では各 構 文 ごとに見 てゆく。ところで、以 下 の表7から表 13 の右 半 分 には各 構 文 ごとの形 容 詞 cher の出 現 数 が示 してあるが、その左 側 は「高 い値 段 を」という本 来 的 意 味 を示 している場 合 、中 央 は「高 い犠 牲 を払 って」等 の比 喩 的 意 味 を 示 している場 合 の出 現 数 である。この表 では比 喩 的 意 味 を表 している用 例 の方 が本 来 的 意 味 を示 している用 例 よりも多 い構 文 の欄 に網 掛 けがしてある。

まず、N-V-N 構 文 かつ項 を 3 項 とる構 文 について見 てゆく。このタイプの構 文 は表 7 で 確 認 できるように N0-V-N2-Ad1 と N-V-N3-Ad1 の 2 つが見 られる。いずれの場 合 も主 語 位 置 に置 かれる名 詞 は N0 であり金 銭 を支 払 う主 体 を示 している。敦 賀(2008)では支 払 う 金 銭 を示 す N1 が主 語 位 置 に現 れている例 が示 されていたが、副 詞 的 形 容 詞 cher が出 現 する場 合 にはそのような例 が見 られないことが分 かる。もっとも、Abeillé et Mouret(2010) でも指 摘 されているとおり、形 容 詞 cher と数 量 表 現 を示 す名 詞 である N1 は共 起 すること ができないと考 えられることからこの結 果 は妥 当 である 6

6 Abeillé et Mouret(2010)« Après les verbes de mesure, comme avec dire ou risquer, l’adjectif correspond à un complément obligatoire, et n’est pas compatible avec un autre complément nominal »「数 量 表 現 の動 詞 の後 では、direrisquerの場 合 と同 様 に、形 容 詞 は義 務 的 な補 語 の 役 割 を持 っており、他 の名 詞 補 語 とは共 起 することはできない」と指 摘 している。

(10)

表 7

本 来 的 比 喩 的 合 計 N-V-N

3 項

N0-V-N2-Ad1 3 0 3

N0-V-N3-Ad1 20 85 105

今 回 の調 査 では、直 接 目 的 語 位 置 に N2 をとる用 例 は 3 例 確 認 できた。いずれの場 合 も例(4)や(5)で見 られるように payer cher 構 文 は本 来 的 意 味 を持 っている。また例(5)で見 られるように直 接 目 的 語 代 名 詞leがN2の意 味 で出 現 している点 は興 味 深 い。動 詞payer においても与 格 的 な目 的 語 は代 名 詞 化 されると間 接 目 的 語 代 名 詞 として現 れることが一 般 的 であるように思 われるが、実 際 には直 接 目 的 語 代 名 詞 としても出 現 している。しかしな がら、インフォーマントに伺 ったところ N2 に対 して直 接 目 的 語 代 名 詞 を使 用 するのは珍 し く、間 接 目 的 語 代 名 詞 を使 用 する方 が一 般 的 であるという意 見 を得 たことを記 しておく。

(4) Fidèle aux principes de son père, il préférait payer cher l'homme qui lui convenait plutôt que de se pencher sur son cas.

「父 親 の方 針 に忠 実 だったため、彼 は現 在 の状 況 に興 味 を持 つ男 よりも彼 の気 に入 る 男 に高 い金 を支 払 うことを好 んでいた。」(本 来 的 )

(DÉON Michel, La Carotte et le bâton, 1960, p.83)

(5) Il le payerait. Peut-être pas aussi cher qu'à la boulangerie, mais pour occuper ses loisirs, ce serait tout de même pour le garçon un moyen de se faire quelques sous.

「彼 は少 年 に給 料 を払 うだろう。もしかしたらパン屋 で働 いてた頃 ほどの額 ではないかも しれない。しかし、いずれにせよ少 年 にとってそれは遊 ぶためのお金 を得 る手 段 なので あろう。」(本 来 的 )

(CLAVEL Bernard, Les Fruits de l'hiver, 1968, p.33)

今 回 の調 査 で見 られた全 ての構 文 の中 で最 も出 現 数 が多 い構 文 は例(6)と例(7)で見 ら れる N0-V-N3-Ad1 であり全 186 例 中 105 例 がこの構 文 であった。敦 賀(2008)の調 査 でも 直 接 目 的 語 として N3 が出 現 する用 例 が最 も多 く、動 詞 payer にとっては N3 が直 接 目 的 であることが基 本 であると分 析 していたが、副 詞 的 形 容 詞 cher が出 現 する場 合 も同 様 の 結 果 が得 られた。

意 味 的 に見 てゆくと、上 の N0-V-N2-Ad1 構 文 では出 現 した 3 例 とも本 来 的 意 味 で使 用 されていたが、このN0-V-N3-Ad1 構 文 では出 現 した全 105例 中 85 例 と約 8 割 の用 例 が比 喩 的 意 味 で用 いられていた。

(11)

(6) Le tournant ne se prenait pas partout avec la même harmonie : de la Haute- Vienne et du Lot, nous parvenaient des nouvelles de cousins ou d'amis qui payaient assez cher, et parfois de leur vie, des opinions incertaines pendant l'occupation.

「状 況 の変 化 はどこでも同 じように起 きたわけではなかった。オート=ヴィエンヌ県 やロッ ト県 からは、占 領 下 の親 独 的 な意 見 のために大 きな犠 牲 を払 い時 には命 を犠 牲 にし た従 兄 弟 や友 人 たちからの知 らせが我 々に届 いていた。」(比 喩 的 )

(ORMESSON Jean d’, Au plaisir de Dieu, 1974, p.418)

(7) Si vous faites ça, vous le paierez cher!

「もしそれをしたら痛 い目 に遭 うぞ!」(比 喩 的 )

(SABATIER Robert, Les Allumettes suédoises, 1969, p.274)

この N0-V-N3-Ad1 構 文 には直 接 目 的 語 として N3 が出 現 するが、多 くの場 合 で N3 は 形 容 詞 cher の右 側 に出 現 している。しかしながら、一 部 の用 例 では例(8)と(9)のように形 容 詞 cher の左 側 、つまり動 詞 payerと形 容 詞 cher の間 に出 現 している。このような例 は 6 例 見 られた。これらの用 例 に出 現 する形 容 詞 cherは、Abeillé et Mouret(2010)でも扱 われ ているように、直 接 目 的 語 が女 性 名 詞 もしくは複 数 であっても不 変 化 である 7。この構 文 で 興 味 深 い点 としては、今 回 の調 査 で出 現 した 6 例 全 てにおいて形 容 詞 cher の前 に très や moins などの 強 意 を示 す副 詞 や 比 較 級 の副 詞 が出 現 したことが挙 げられる。これは Abeillé et Godard(2004a)が指 摘 している、フランス語 において単 一 形 態 素 かつ音 節 数 の 少 ない軽 い(léger)語 は出 現 位 置 に制 約 があり、動 詞 と離 れた位 置 には出 現 しにくいとい う点 と関 連 があると考 えられる 8。本 研 究 で確 認 された例 はいずれも何 らかの副 詞 を伴 って おり、重 い(lourd)句 となっていたため動 詞 と形 容 詞 の間 に直 接 目 的 語 を挟 むことができ たと言 えよう。

(8) Il avait payé les billets très cher.

「彼 はそのチケットにとても高 い金 額 を払 っていた。」(本 来 的 ) (DOUBROVSKY Serge, Fils, 1977, p.51)

7 Abeillé et Mouret(2010) « On peut considérer que seuls prennent un adjectif invariable les verbes de rémunération, tandis qu’avec les autres, l’adjectif s’accorde avec l’objet »「(目 的 語 属 詞 としては)報 酬 を示 す動 詞 のみが不 変 化 の形 容 詞 をとることができ、他 の動 詞 の場 合 は形 容 詞 は目 的 語 に性 数 が一 致 する」と指 摘 している。

8 例 えば « Paul comprend la leçon correctement. »における副 詞 correctement のように接 尾 辞- ment を伴 う重 い語 は動 詞 から離 れた位 置 でも容 認 されやすいが、 « *Paul comprend la leçon bien.

»における副 詞 bien のような軽 い語 は動 詞 から離 れた位 置 に置 かれると容 認 されにくいと指 摘 されて いる。

(12)

(9) Ils étaient fiers d'avoir payé quelque chose moins cher, de l'avoir eu pour rien, pour presque rien.

「彼 らは何 かを買 うのににあまりお金 を払 わなかったこと、タダもしくはタダ同 然 で手 に 入 れたことを誇 りにしていた。」(本 来 的 )

(PEREC Georges, Les Choses, 1965, pp.42-43) 5.3.2.N-V-N かつ 4 項 の構 文

N-V-N かつ項 を 4 項 とる構 文 としては、表 8 で見 られるように N0-V-N2-N3-Ad1、N0-V- N2-pour-Vinf3-Ad1、N0-V-N3-à-N2-Ad1、N0-V-N3-pour-N3bis-Ad1、N0-V-N3-pour- Vinf3-Ad1 の 5 つである。

表 8

本 来 的 比 喩 的 合 計 N-V-N

4 項

N0-V-N2-N3-Ad1 1 0 1

N0-V-N2-pour-Vinf3-Ad1 3 1 4

N0-V-N3-à-N2-Ad1 1 8 9

N0-V-N3-pour-N3bis-Ad1 0 1 1

N0-V-N3-pour-Vinf3-Ad1 0 1 1

まず、N0-V-N2-N3-Ad1 について見 てゆく。今 回 の調 査 で見 た限 りではこの構 文 の用 例 は例(10)で見 られる 1 例 のみであった。2.で見 たように動 詞 payer は金 銭 を支 払 う相 手

(N2)と金 銭 を支 払 うことで得 られる対 価 (N3)のどちらも直 接 目 的 語 としてとることができる が、例(10)ではその両 方 を直 接 目 的 語 としてとっている点 が特 徴 的 である。通 常 、並 列 の 場 合 を 除 い て 直 接 目 的 語 位 置 に 複 数 の 語 が 置 か れ る こ と は 稀 で あ る と い え る 。 敦 賀 (2008)では直 接 目 的 語 として N1 と N2 もしくは N1 と N3 が出 現 した例 を取 り上 げている が、この点 については数 量 表 現 である N1 が副 詞 性 を帯 びていることから成 立 しているよう に考 えられる。どちらも副 詞 性 を帯 びていない N2と N3が共 に直 接 目 的 語 として出 現 する 例 は少 し特 殊 であるように思 える。

(10) Il a fallu procurer de faux papiers à Majid, payer cher les trafiquants, leur silence.

「マジドに偽 の書 類 を出 し、静 寂 を買 うために密 売 人 に高 い金 を支 払 わなければなら なくなった。」(本 来 的 )

(GARAT Anne-Marie, Pense à demain, 2010, p.157)

(13)

続 いて、N0-V-N2-pour-Vinf-Ad1 構 文 であるが、今 回 の調 査 では 4 例 見 られた。そのう ち 3 例 が例(11)のように本 来 的 意 味 で用 いられている。

(11) Est-ce que les gabelous me paieraient bien cher pour dénoncer les faux- sauniers ?

「税 吏 たちは塩 の密 売 人 を非 難 するために私 に高 い金 額 を払 ってくれるだろうか?」

(本 来 的 )

(CHANDERNAGOR Françoise, L'Enfant des Lumières, 1995, p.199)

N0-V-N3-à-N2-Ad1 構 文 は今 回 調 査 した限 りでは 9 例 と 4 項 の N-V-N 構 文 としては比 較 的 出 現 数 が多 い。意 味 的 には、本 来 的 意 味 の例 が 1 例 、比 喩 的 意 味 の例 が 8 例 と比 喩 的 意 味 の用 例 が多 い。

(12) Mais tu me le paieras cher. Très cher.

「お前 を痛 い目 にあわせてやるぞ。かなりの痛 い目 だ。」(比 喩 的 ) (CLAVEL Bernard, La Maison des autres, 1962, p.183)

さらに、N0-V-N3-pour-N3bis-Ad1構 文 は、例(13)で見 られる1例 のみが出 現 し、比 喩 的 意 味 で用 いられている。この構 文 では支 払 う対 象 となるものが直 接 目 的 語 位 置 と前 置 詞 pour の後 ろの 2 ヶ所 で表 示 されている。

(13) Il venait de le payer très cher pour peu de chose.

「彼 は些 細 なことのためにその犠 牲 を払 ったところだった。」(比 喩 的 ) (GIONO Jean, Les Récits de la demi-brigade, 1955, p.78)

また N0-V-N3-pour-Vinf3-Ad1 構 文 も例(14)で見 られる 1 例 のみの出 現 であり、この用 例 の形 容 詞 cher は比 喩 的 意 味 を持 っている。

(14) Donc de Klercq a levé un lièvre. Un joli garenne que d'aucuns paieraient cher pour étouffer.

「ところで、ド・クレールはウサギを持 ち上 げた。絞 めるのに苦 労 する者 もいる可 愛 いア ナウサギだ。」(比 喩 的 )

(PÉCHEROT Patrick, Les brouillards de la Butte, 2001, p.213) 5.4N-V-f-r-構 文

5.4.1N-V-f-r-かつ 3 項 の構 文

続 いて、目 的 語 の導 入 に前 置 詞 を必 要 とする N-V-f-r-構 文 かつ項 を 3 項 とる構 文 の分 析 に移 りたい。このタイプの構 文 としては N0-V-à-N2-Ad1、N0-V-de-N3-Ad1、N0-V-pour-

(14)

N3-Ad1、N0-V-pour-Vinf3-Ad1、N0-V-de-Vinf3-Ad1 の 5 つが見 られる。

表 9

本 来 的 比 喩 的 合 計 N-V-f-r

3 項

N0-V-pour-N3-Ad1 2 3 5

N0-V-pour-Vinf3-Ad1 4 9 13

N0-V-de-Vinf3-Ad1 0 2 2

まず、N0-V-à-N2-Ad1 について見 てゆくが、この構 文 の用 例 は 3 例 出 現 し、そのうち本 来 的 意 味 が 1 例 、比 喩 的 意 味 が 2 例 であった。ところで、この構 文 では分 析 の困 難 な点 が一 つ挙 げられる。それは 1 人 称 と 2 人 称 の目 的 語 代 名 詞 (me、te、nous、vous)はいず れも与 格 と対 格 の間 の形 態 的 な違 いが見 られないという点 である。1.や 5.3.1.で見 たよう に動 詞 payer は直 接 目 的 語 として N2 をとることができる。そのことから例(15)で見 られる代 名 詞 me が前 置 詞 à を伴 った間 接 目 的 語 と考 えるべきか、それとも直 接 目 的 語 と考 えるべ きかは議 論 の余 地 が見 られるだろう。

(15) Mais il faudra qu'on me paye très cher.

「しかし私 に高 い金 額 を支 払 わなくてはならなくなる。」(本 来 的 ) (DURAS Marguerite, Un barrage contre le Pacifique, 1950, p.224)

続 いて、N0-V-de-N3-Ad1 は 3 例 見 られ、形 容 詞 cher はいずれの例 でも本 来 的 意 味 を 指 している。

(16) Et puis, je paie très cher de loyer.

「そして、私 はとても高 い家 賃 を払 う。」(本 来 的 )

(CLAVEL Bernard, Les Fruits de l'hiver, 1968. p.365)

そして、N0-V-pour-N3-Ad1は 5例 見 られ、形 容 詞 cherはそのうち3例 で本 来 的 意 味 を 示 し、2 例 で比 喩 的 意 味 を示 している。

(17) Je ne paierai jamais assez cher pour les péchés de ma vie.

「私 は人 生 における罪 の代 償 は決 して払 わない。」(比 喩 的 )

(OLDENBOURG Zoé, Les Cités charnelles ou l'histoire de Roger de Montbrun, 1961, p.513)

さらに、N0-V-pour-Vinf3-Ad1 構 文 は 13 例 出 現 し、そのうち 4 例 において形 容 詞 cher

(15)

は本 来 的 意 味 で用 いられ、9 例 において比 喩 的 意 味 で用 いられている。

(18) C'étaient les voyageurs d'une carriole de contrebande arrêtés la veille au soir : forcément riches car il fallait payer cher pour soudoyer un cocher.

「前 日 の夜 に逮 捕 されたのは密 輸 品 を運 ぶ馬 車 の乗 客 たちであった。御 者 への賄 賂 として大 金 を払 わなくてはいけないのだから、彼 らは裕 福 にちがいない。」(本 来 的 ) (GIONO Jean, Le Hussard sur le toit, 1951, p.539)

最 後 に、N0-V-de-Vinf3-Ad1 構 文 は 2 例 現 れ、そのいずれも場 合 も形 容 詞 cher は比 喩 的 意 味 で使 用 されている。

(19) Camille, si longtemps sommée de penser à Demain sans s'y résoudre, avait payé assez cher de se souvenir, d'aller jusque dans le coffre de Zurich recevoir le terrible legs de son amour perdu.

「長 い間 将 来 について考 えるよう言 われていたカミーユだが、チューリッヒにある金 庫 に亡 くなった恋 人 の遺 産 を受 け取 りに行 った時 のことを思 い出 すととてもつらく、実 行 できずにいる。」(比 喩 的 )

(GARAT Anne-Marie, Pense à demain, 2010, p.698) 5.4.2.N-V-f-r-かつ 4 項 の構 文

N-V-f-r-構 文 で 4 つの項 をとる構 文 は以 下 の例(20)で見 られる N0-V-à-N2-pour-N3- Ad1のみであった。この構 文 は1 例 のみ出 現 し、形 容 詞 cher は本 来 的 意 味 で使 用 されて いる。

表 10

本 来 的 比 喩 的 合 計 N-V-f-r

4 項

N0-V-à-N2-pour-N3-Ad1 1 0 1

(20) Rien n'expliquait pourquoi on m'avait payé si cher pour ce qui ressemblait à une farce de carabin.

「なぜそんなたやすいことに対 して私 にそんな高 い金 を支 払 ったかについては一 切 理 解 できなかった。」(本 来 的 )

(PÉCHEROT Patrick, Belleville-Barcelone, 2003, p.57)

(16)

5.5.N-V-Ad 構 文

N-V-Ad 構 文 に関 するものは N0-V-Ad1 構 文 のみであった。これは自 動 詞 として、もしく は他 動 詞 の絶 対 的 用 法 として使 用 されていると考 えられるものである。出 現 した用 例 数 は 24 例 である。そのうち 17 例 において形 容 詞 cher は本 来 的 意 味 で、7 例 において比 喩 的 意 味 で用 いられており、本 来 的 意 味 で使 用 されている用 例 が多 い。

表 11

本 来 的 比 喩 的 合 計 N-V-Ad

N0-V-Ad1 17 7 25

ところで、ここで扱 う N0-V-Ad1 構 文 では目 的 語 が少 なくとも明 示 されていない。しかしな がら、動 詞 payer においては、本 来 的 意 味 であれ比 喩 的 意 味 であれ、金 銭 を支 払 うことで 得 られる対 価 、もしくは大 きな犠 牲 を払 うはめになる何 らかの原 因 が存 在 しないという状 況 は 考 え に く い 。 今 回 の 調 査 で コ ー パ ス を 調 べ た 限 り で は 例(21)に お け る « l'on paie toujours un peu trop cher le plaisir de payer trop cher »「人 は高 すぎるお金 を払 う喜 びに いつもいささか高 すぎる代 償 を払 っている」のようなメタ言 語 的 に使 用 されている場 合 を除 き、何 らかのN3に対 応 するものごとが存 在 していると考 えるべきである。そのことから、自 動 詞 として用 いられているからといって、目 的 語 に対 応 するものごとが存 在 しないというわけで はないことに注 意 されたい。

(21) Ils étaient plus fiers encore (mais l'on paie toujours un peu trop cher le plaisir de payer trop cher) d'avoir payé très cher, le plus cher, d'un seul coup, sans discuter, presque avec ivresse, ce qui était, ce qui ne pouvait être que le plus beau, le seul beau, le parfait.

「彼 らはとても高 い金 額 を、いや最 も高 い金 額 を、相 談 もせず、ほとんど酔 った状 態 で、

全 くもって、そして唯 一 の美 しいものや完 璧 なものに一 括 で支 払 ったことを今 でもさら に誇 りにしている(しかしながら人 は高 すぎるお金 を払 う喜 びにいつもいささか高 すぎ る代 償 を払 っている)。」

(PEREC Georges, Les Choses, 1965, p.43) 5.6.N-se-V 構 文

N-se-V 構 文 の分 析 に移 りたい。このタイプの構 文 としては、N0-se0-V-Ad1-N3、N0-se0- V-Ad1-pour-Vinf、N2-se2-V-Ad1-N3、N3-se3-V-Ad1 の 4 つが出 現 した。主 語 位 置 には N0 と、N2、N3 が出 現 する。形 容 詞 cher が N1 と同 様 の機 能 を果 たしているためN1 は主 語 位 置 に立 てないが、それ以 外 の機 能 を持 つ名 詞 は全 て主 語 位 置 に現 れることができる。

(17)

表 12

本 来 的 比 喩 的 合 計 N-se-V

N0-se0-V-N3-Ad1 1 0 1

N0-se0-V-pour-Vinf3-Ad1 0 1 1

N2-se2-V-N3-Ad1 0 1 1

N3-se3-V-Ad19 2 4 5

まず、N0-se0-V-Ad1-N3 構 文 は 1 例 出 現 し、形 容 詞 cher は本 来 的 意 味 で使 用 されて いる。

(22) Ce qu'il y a de bien avec les flics privés, il s'est marré, c'est qu'on peut se les payer pour moins cher que les vrais.

「民 間 の警 察 官 の長 所 。彼 は笑 った。それは本 物 の警 察 よりも安 いということだ。」

(本 来 的 )

(PÉCHEROT Patrick, Belleville-Barcelone, 2003, p.272)

そして、N0-se0-V-Ad1-pour-Vinf 構 文 も出 現 数 は 1 例 であるが、形 容 詞 cher は比 喩 的 意 味 で使 用 されている。

(23) Après la vie que j'ai menée avec toi, il faudrait me payer cher pour que je me remarie.

「あなたとの人 生 を終 えたら、私 は再 婚 するために苦 労 しなくてはならないでしょう。」

(比 喩 的 )

(BURON Nicole de, "Chéri, tu m'écoutes ? : alors répète ce que je viens de dire...", 1998, p.137)

また、N2-se2-V-Ad1-N3 構 文 も1 例 のみ出 現 し、形 容 詞 cher は比 喩 的 意 味 で使 用 さ れている。

9 この構 文 に関 しては、本 来 的 意 味 の場 合 の用 例 数 が2例 、比 喩 的 意 味 の場 合 の用 例 数 が 4例 で あるにもかかわらず、合 計 が5 例 となっている。これは後 述 するように本 来 的 意 味 と比 喩 的 意 味 の両 方 の解 釈 が可 能 な用 例 が1例 見 られたためである。

(18)

(24) Les yeux se font payer cher les spectacles qu'ils donnent à l'homme, l'illusion qu'ils lui donnent de ne pas être seul.

「目 に見 える視 界 のおかげで、その男 は孤 独 ではないという幻 想 を得 ることができるが、

同 時 にそれは問 題 でもある。」(比 喩 的 )

(DUCHARME Réjean, L'avalée des avalés, 1966, p.139)

最 後 に、N3-se3-V-Ad1 構 文 は 5例 出 現 している。N-V-N構 文 では N3が直 接 目 的 語 となる例 が圧 倒 的 に多 かったが、敦 賀(2008)での結 果 と同 様 に、目 的 語 が主 語 位 置 に 置 かれる代 名 動 詞 構 文 においても N3 の出 現 数 が N0 やN2 と比 べて多 いということが分 かる。この構 文 では形 容 詞 cher は 2 例 において本 来 的 意 味 で、4 例 において比 喩 的 意 味 で使 用 されている。ところで、2 例 プラス4 例 の合 計 は6 例 になることから計 算 が合 わな いように思 えるが、これは例(26)の形 容 詞 cher が、後 ろに「お金 がかかるということと、体 力 や自 由 が奪 われることである」と続 くため、負 担 するべき金 銭 に関 する本 来 的 意 味 と比 喩 的 意 味 の両 方 の解 釈 を一 手 に受 けていることによる。

(25) Ces brefs triomphes enfin se payent trop cher.

「このつかの間 の勝 利 は結 局 高 い代 償 を払 うことになる。」(比 喩 的 ) (CAMUS Albert, La Chute, 1956, p.1487)

(26) C'est vrai que c'est attachant, un enfant, mais le plaisir se paie cher : en charges, en limitations de ressources et de libertés.

「実 際 、子 供 というものは魅 力 的 である。ただ、喜 びには代 償 が伴 う。お金 がかかると いうことと、体 力 や自 由 が奪 われることである。」(本 来 的 、比 喩 的 )

(BAZIN Hervé, L'école des pères, 1991, p.87) 5.7.N-être-Vé 構 文

受 動 態 である N-être-Vé 構 文 としては、例(27)で見 られるような N2-être-Vé-Ad1 と例 (28)で見 られるような N3-être-Vé-Adv1の 2つが見 られた。前 者 は 2 例 、後 者 は1 例 出 現 し、どの例 も本 来 的 意 味 で使 用 されている。上 の代 名 動 詞 構 文 の場 合 と比 較 して N3 より も N2 が現 れる用 例 の数 が多 いが、これも敦 賀(2008)での結 果 と同 様 である。

表 13

本 来 的 比 喩 的 合 計 N-être-Vé

N2-être-Vé-Ad1 2 0 2

N3-être-Vé-Adv1 1 0 1

(19)

(27) Il fallait que je sois payé cher, sans doute afin qu'on m'entendît avec plus d'attention.

「たぶんより注 意 をもって聞 いてもらうためだが、私 は高 いお金 をもらっていなければな らなかった。」(本 来 的 )

(QUIGNARD Pascal, Le salon du Wurtemberg, 1986, p.350)

(28) J'étais sans doute née d'une passe, d'une étreinte fugitive, d'un petit quart d'heure payé pas très cher, à peine deux cents balles.

「おそらく私 は、たった 200 フランと安 い、15 分 ちょっとのつかの間 の売 春 行 為 によっ て生 まれていたのだろう。」(本 来 的 )

(AVENTIN Christine, Le Cœur en poche, 1988, p.191) 6.おわりに

本 論 文 では、〔1〕副 詞 的 形 容 詞 cher は敦 賀(2008)で Ad1 が出 現 すると記 述 した構 文 以 外 でも出 現 しうるか?〔2〕副 詞 的 形 容 詞 cher はその意 味 の違 いによって出 現 しうる構 文 に差 はみられるか?という観 点 から分 析 を行 った。

前 者 の観 点 については、本 研 究 では調 査 する範 囲 が増 えていることから当 然 ではあるが、

敦 賀(2008)と比 べて非 常 に多 くの種 類 の構 文 を見 つけることができた。しかしながら、N0- V-pour-N3-Ad1構 文 とN0-V-pour-Vinf-Ad1構 文 を除 き、多 くは1例 から3例 ほどの出 現 でありどちらかというと周 辺 的 なものであった。

後 者 の観 点 について見 てゆくと、payer cher 構 文 には本 来 的 意 味 と比 喩 的 意 味 の 2 つ の意 味 があるが、全 体 的 に見 ると比 喩 的 意 味 で使 用 される用 例 の方 が頻 度 が高 いという ことが言 える。しかしながら、構 文 ごとに見 てゆくと全 ての構 文 で比 喩 的 意 味 の用 例 の方 が 多 いわけでは ないという ことが 分 か る。比 喩 的 意 味 の 方 が 用 例 数 の 多 い構 文 は 、N0-V- N3-Ad1、N0-V-N3-à-N2-Ad1、N0-V-N3-pour-N3bis-Ad1、N0-V-N3-pour-Vinf3-Ad1、 N0-V-à-N2-Ad1、N0-V-pour-N3-Ad1、N0-V-pour-Vinf3-Ad1、N0-V-de-Vinf3-Ad1、N0- se0-V-pour-Vinf3-Ad1、N2-se2-V-N3-Ad1、N3-se3-V-Ad1 で あ っ た 。 特 に 、N0-V-N3- Ad1、N0-V-N3-à-N2-Ad1、N0-V-pour-Vinf3-Ad1 は比 喩 的 意 味 の出 現 数 が本 来 的 意 味 の出 現 数 に比 べて 2 倍 以 上 の差 をつけて多 い。ところで、これら 3 つの構 文 はいずれも、

目 的 語 として N3 もしくは Vinf3 が存 在 している。また比 喩 的 意 味 を示 す用 例 126 例 のう ち実 に 116 例 と 9 割 以 上 の確 率 で N3 もしくは Vinf3 が出 現 していることから、payer cher 構 文 が比 喩 的 意 味 を示 すためには、不 都 合 を引 き起 こす原 因 となる対 象 を明 示 する必 要 がある可 能 性 も考 えられる。一 方 で、N3 の見 られない N-V-Ad1 構 文 では総 出 現 数 25 例 のうち 7 割 弱 にあたる17 例 が本 来 的 意 味 で用 いられるほか、残 り8 例 が比 喩 的 意 味 で用 いられており、本 来 的 意 味 の頻 度 が比 喩 的 意 味 の頻 度 に比 べ高 いことも興 味 深 い。この ことからも、payer cher 構 文 が比 喩 的 意 味 で用 いられるためには不 都 合 を引 き起 こす原 因 となる対 象 を明 示 する必 要 がある可 能 性 が考 えられる。

ところで、ここまでの各 例 を見 ても分 かるほか関(2017)でも言 及 されているが、payer cher

(20)

構 文 では動 詞 と形 容 詞 の間 に très や trop、plus など強 意 や比 較 級 に関 する副 詞 が高 い 頻 度 で出 現 している。これらの出 現 頻 度 もpayer cher構 文 の意 味 の違 いと関 連 している可 能 性 が考 えられるため、今 後 この点 についても論 じてみたい。

参 考 文 献

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表 7  本 来 的 比 喩 的 合 計 N-V-N  3 項 N0-V-N2-Ad1  3  0  3  N0-V-N3-Ad1  20  85  105  今 回 の調 査 では、直 接 目 的 語 位 置 に N2 をとる用 例 は 3 例 確 認 できた。いずれの場 合 も例 (4) や (5) で見 られるように payer cher 構 文 は本 来 的 意 味 を持 っている。また例 (5) で見 られるように直 接 目 的 語 代 名 詞 le が N2 の意 味 で出 現 している点 は興
表 12  本 来 的 比 喩 的 合 計 N-se-V  N0-se0-V-N3-Ad1  1  0  1  N0-se0-V-pour-Vinf3-Ad1  0  1  1  N2-se2-V-N3-Ad1  0  1  1  N3-se3-V-Ad1 9 2  4  5  まず、 N0-se0-V-Ad1-N3 構 文 は 1 例 出 現 し、形 容 詞 cher は本 来 的 意 味 で使 用 されて いる。

参照

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