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Conradの初期の短篇における反復と差異

著者 新屋敷 健

雑誌名 主流

号 57

ページ 19‑32

発行年 1996‑02‑25

権利 同志社大学英文学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000015121

(2)

Conrad の初期の短篇における反復と差異

新 屋 敷 健

Conradの初期の短篇である, AnOutpost of Progress" (1897)や, Ka‑ rain:  A Memory" (1897)や, Youth:A Narrative(1898)は, Heartof  Darkness" (1899)との主題的・技巧的関連性が指摘されているが' 1その登 場人物のみならず,物語の舞台も語りの形式も異なっている. しかし,ある 出来事が異なった条件下で繰り返される,としミう構造的同一性がこれらの三 作品に見出せるのである.この構造を「反復と差異」と名付けた上で,この 反復に伴う差異を分析すると,別の行動の同一性や抑圧・隠蔽関係が顕在化 し,当時の植民地状況が各作品の中にどの様に反映されているかが明らかに なるのである.

論証の手順と

L

ては,全体を三部構成として順次各作品の分析を行うこと とする.その際,具体的に何が反復されどの様な差異が伴うのかが最初に明 らかにされる.そして当時の植民地状況がどの様に反映されているかは各部 の最後で論証することとする.

I  .代理人の魁任の反復と差異

一一− "An Outpost of Progress,,を読む

この作品において反援される出来事は代理人の赴任である.最初の代理人 が熱病で死んだために,後任の代理人達が赴任してくる.この反復に伴う差 異とは,代理人の人数が一人から二人に増えたことの他に,前任者の死が後

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20  Conradの初期の短篇における反復と差異

在の代理人達にとって,従ってはならない規範となることである。しかし,

彼等は前任者の対現地人行動を反復し,死という同じ結末に至る.これらの 代理人達の死は無意味で、あり,このことは,彼等が本国では無用の過剰人口 である事を反映している.

最初の代理人は交易場の建物を作った直後に熱病で死に, KayertsとCar‑ lierという後住の代理人達が交易場に赴任する.この二人にとって,前任者 の熱病による死が従ってはならない規範である事に注意すべ、きである.交易 場に赴任した最初の日に,彼等は前任者の墓の傍を通り,彼が太陽光線を浴 びすぎて熱病で死んだことが話題になる.その際,交易場長であるKyerts は部下である Carlierに you should not expose yourself to the sun ! (7)と命令を下す.つまり,前任者のように死ぬことは,自分一人が生き残っ てアフリカの奥地に取り残されることを内心最も恐れる彼等にとって,あっ てはならないこと,従ってはならない規範なのである.

その後,死んだ前任者は忘れ去られるが,それを示す一文に続くある逸話 によって9彼の対現地入行動の,彼等による反復の予告がなされるのである.

They seemed to forget their dead predecssor;(12)という一文に続けて,

Carli erが前任者の墓の上に立てられた十字架が大きく斜めに傾いていたの を,真っすぐに直した,という逸話が語られる.ここで注意すべきは十字架 の動きによる意味作用である.つまり傾いた十字架から,真っすぐになった 十字架への移行は,前任者の死が否定された(×が付けられた)状態から,

存在するもの[+(プラス)]になった状態への移行を暗示しているのである.

まるで十字架を正しい位置に直すことでP 死んだ、彼の霊を墓から匙らせてし まったかのように.

もちろん,この物語の中には,死んだ、前任者の霊は一切登場しない.しか しこの逸話に続く一節において, KavertsとCarlierはまるで自分達が死 んだ前任者であるかの様に行動するのである.上記の逸話に続いて,現地人 の村の首長である Gobilaが時々交易場を訪れ,彼等とコミュニケーション

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21 

(の真似ごと)を持ち,彼等の元へ毎朝食物を届けさせることが語られてい る.彼等はGobilaが来ると,彼の背中を親しげに叩いたり,マッチを何本 も擦ってみたり,アンモニアの瓶の匂いを嘆がせてみたりして,彼を喜ばす.

この逸話に続けて, Inshort, they behaved just like that white creature

.(13)と語られているのだが,注意すべきは,彼等の行動と死んだ前任者 の行動との類似性(同一性)である.つまり彼等は死んだ前任者の霊に取り つかれたかのように振舞い, Gobilaに対する彼の行動を反復しているので ある.

もちろん彼等は死んだ前任者の行動を知っているわけで、はないし,意識的 に真似をしているわけではない.しかも,交易場の代理人の行動としては,

これらの行動は象牙の取引のない近隣の村の首長に向けられているが故に,

現地人との交易に役立つものではなし全く無意味な行動だといえる.しか し,このような対現地人行動の類似性(同一性)をもたらすのは,この交易 場の持つ,現地入社会に対する寄生虫的性格の同一性なのである.Gobila  の彼等に対する friendship(13)の結果,村の女性達に毎朝交易場へ食料を 運ばせるという逸話に続く箇所がその性格を示している. TheCompany  never provisions the  stations  fully,  and the  agents  required  those  local  supplies to live.(13)という一節は,交易場が実際に現地入社会の寄生虫 的存在だったという事実2と一致し代理人達に,交易を持たない現地人に 対する迎合的な行動を取らせる理由を示している.死んだ前任者が彼等が受 けたような恩恵を享受したかどうかは語られていない.しかし彼が完成させ た交易場の基本的状況(慢性的な食料不足)は同一なのである.

逆に, Gobilaに対する迎合的行動を後任者達が反復することは,彼の彼 等への行動にも影響している.白人は皆 indistinguishablyalike (except  for stature)(12)に見えるので, allbrothers, and also immortal" (12‑13)  だと信じ込んでいる首長は,前任者の死を,単に墓の中に隠れているだけだ と否認している.従って,彼と殆ど見分けのつかない後任者のご人がやって

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22  Conradの初期の短篇における反復と差異

来て,彼と殆ど同じ様な迎合的行動を取ることは, Gobilaに, Perhaps they were the same being with the other ‑ or one of them was.(13)と思 わせてしまう.つまり,彼にとって,親密になった最初の白人である,死ん だ前任者がこのように二人になって戻ってくることは,解明不可能な mys‑

tery(13)であり続けるが,同時に彼への absurdaffection" (13)を後任者 達にも与える基盤となっているのである.

しかし,彼等が前任者の行動を反復することは,彼等の文字通り墓穴を掘 る原因ともなるのである.彼等は現地人との象牙の取引をMakolaという現 地人事務員に一任していたのだが,彼は会社が別に雇っていた役立たずの現 地人労働者達を,人手を必要としていた商人に象牙と交換で引き渡してしま う. しかしその場に居合わせたGobilaの村の村人達も一緒に連れ去られ,

それに気付いたその内の一人は射殺される.その結果,首長は後任者達に Evil Spirits" (24)が取り付いてこのような災難が起こったのだと考え,交 易場との,食料の供給を含めた一切の交流を絶つ.彼は thewoe those  mysterious creatures, if  irritated, might bring(24)を恐れるが故にこのよ

うな行動を取るのだが,そもそも,彼等を自分達とは根本的に違う存在(決 して死なずに複数化して戻ってくる存在)だと思い込んで、いることが,彼を 極度に怯えさせ彼等との交流を絶たせる原因となるのである.

この結果,二人の代理人達は食料不足に悩まされ,六ヵ月後に交易場に戻 る予定の会社の船が八ヵ月を過ぎても戻らない状況下で,些細なことから口 論となる.そしてCarlierはKayertsを追い駆け回した挙げ句に,逆に怯え た彼に射殺され,その後彼も死んだ前任者の墓の十字架で首吊り自殺をして しまう.ここでまず見落としてはならないのは,彼等にとって前任者の熱病 による死は依然,否定すべきものであり,従ってはならない規範でしかない ことである.米とコーヒーしか食べるものが無い中で,大事にしまってある,

残り僅かの砂糖を Carlierが要求し, Kayertsに拒否されることから口論と なったのだが,彼が砂糖を使わなかったのは, m case of sickness" (26)つ

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まり,前任者のように病気になって死ぬことを恐れているからである.この ように,前任者の熱病による死は,依然として否定すべきものなのである.

次に注意すべきことは,彼等の死と前任者の死との同一性である.銃声を 聞いて駆け付けたMakolaIi,  Carlierが丸腰のまま銃殺されたことを確認 した上で"Hedied of fever(31)とKayertsに言う.すなわち,実際には射 殺されたのだが,公式には(会社の現地人事務員による記録上は)前任者同 様,熱病で死んだこととされるのである.一方,彼を誤って射殺した Kayertsは,死んだ、前任者が埋葬されているまさにその場所で,十字架と同 一化するかのように首吊り自殺をとげるのである.このように,記録土の死 因の同一性と死に場所の同一性が見出されるのである九

最後に,これらの代理人達の死が彼等が知ってはならない,当時の植民 地をめぐる,抑圧された真実の顕在化であることを見落としてはならない.

つまり,彼等は本国においては無用の過剰人口でしかない.本国での過剰人 口の処理場としての植民地3という,抑圧された真実の顕在化としてこれら の代理人達の死を読まねばならないのである.最初の代理人は,本国での貧 困に耐えられずに植民地に来た, anunsuccessful painter(4)であり,娘 の持参金を稼ぎに電報局の職を捨てたKayertsと親戚から厄介払いされた元 軍人のCarlierも,会社の支配人に useless(5)だと見倣されているこの交 易場に相応しい, imbeciles(5)である.これらの代理人達は本国では無用 の過剰人口なのである.

そして,前任者は useless(5)な交易場の施設を築いただけで死に,後 任のCarlierはコーヒーに入れる砂糖のことでKayertsと喧嘩になり,その 挙げ勾に彼に射殺される.このように彼等の死自体も無意味なのである.更 に, Kayertsの死自体の無意味さも,自殺直前の彼の内省によって明らかに されるのである.彼はCrlierの死体を見て,彼の死は couldnthave any  importanc,巴atleast to a thinking creature.(32)だと考える.そして,逆に 彼が生き残って自分が死んだ場合を想像し,その結果," notat all  sure who 

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24  Conradの初期の短篇における反復と差異

was dead and who was alive.(32)になって激しく動揺し,その後自殺を実 行する.ここで注意すべきは athinking creature(32)を自認している彼の,

その内省の論理的帰結である.つまり,自分が生き残ったのは単なる偶然の 結果であり,逆に自分の方が殺されても不思議はなく,またそうなっても何 の違いもないという彼の内省は,必然的に自分自身の死も, athinking  creature(32)である彼自身に取って無意味であるという結論をもたらす.

従って,彼の自殺の原因自体は明示されていない4が,彼の死自体は無意味 に他ならない.ここで見落としてはならないのは,本国における過剰人口と して抹消された彼等の存在自体の無意味さが,彼等の死自体の無意味さとい うことである.つまり彼等が植民地で無意味な死を遂げることが,彼等の存 在自体の,本国での過剰人口としての無意味さを浮かび上らせており,当時 の植民地状況を反映しているのである.

I I . 亡霊の抑圧の反復と差異−

"Karain: A Memory を読む

この作品で反復される出来事はKarainの元へ回帰してくる Mataraの亡 霊の抑圧である.そしてこの反復に伴う差異とは,二度目の抑圧が現地人魔 術師によってではなく,白人交易者達によって行われることと,魔よけの材 料に六ペンス硬貨が使われることの他に,その儀式の場所となる彼等の船自 体が亡霊が現れない唯一の場所だということである.しかし,その儀式の直 前に,それを行う彼等自身も別の物神崇拝を実践していることが明らかにな るのである.だが, Karainを亡霊から救う為という目的は,この儀式が彼 を大英帝国に従属させると言う形式上の意味を持つことを,彼等自身に対し て隠蔽する.そしてこの形式上の意味には,当時の大英帝国の植民地政策が 反映されているのである.

a ... corner of Mindanao" (41)の首長である Karainは昔,親友の Mataraと共に,婚約中でありながら現地のオランダ人交易者と駈け落ちし た彼の妹を追跡し続け,ついに彼等を発見するが,彼女に襲いかかる

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Mataraを射殺してしまい,それ以来彼の亡霊に悩まされていた.その後,

Karainは亡霊を抑え込む魔法を使う老人と出会い,彼を従者にすることで 心の平安を得て,現在の地位を築く.しかし彼の死と共に再ぴMataraの亡 霊が延り,助けを求めて,銃器を買うことを通じて親交のあった,英国人交 易者達の船に逃げ込む.ここで注意すべきは,彼等の船だけには亡霊が現れ ないことである.彼等は allthings seen(78)しか信じないので, Karain だけに見える亡霊は居場所を持たないのである.

しかし見落としてはならないのは,亡霊が英国人交易者達によって再び抑 圧される直前に,彼等自身も別の物神崇拝を実践していることが明らかにな ることである.彼等の一人であるHollisは,以前の会話の中でKarainがヴイ クトリア女王に対し強い関心と敬意を常に示していたのを思い出し,偶然 持っていた aJubilee sixpence" (83)を彼用の魔よけにすることを思いつ く.そして自分の小物入れの箱から取り出す前に,初めは探して殺すはず、だ、っ たMataraの妹の幻影に取りつかれ(恋をし),それ故彼女ではなく彼を射 殺してしまったKarainに対して同情を示して, everyone of us  . has  been haunted by some woman  .. .'(81)と言う.ここで見落としてはなら ないのは, Hollisが硬貨を探している聞に語り手の Iが箱の中に見つける 物が,まさしく物神崇拝的実践の対象に他ならないことである.彼は一人の 女の子の肖像写真や後で魔よけの材料の一部となる,リボンと白い革手袋や,

手紙の束等を見つけ,それらのものが Amuletsof white men! Charms and  talismans!(82)であることに感嘆する.つまり, Hollisはそれらを,彼の 恋人の代用物として取り扱い,物神崇拝を実行しているのである. He knows very well how things really are, but still he is  doing it  as if  he did  not know. d という彼の行動は,物神崇拝に他ならないのである.更に,こ の洞察の後, allthe ghosts driven out of the unbelieving Wt(82)が突 然Hollisを取り囲むかのように船のキャビンに現れるのを語り手 Iが一瞬 感じる,と言う逸話は,自分達には無縁だと思っていた物神崇拝的実践を,

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26  Conradの初期の短篇における反復と差異

実は自分達自身も行っていたことへの観察者自身の認識を示している.6こ のように,自分達も物神崇拝を実践していることに少なくとも彼等の一人は 気付くのである.

しかし,英国人交易者達が行う物神崇拝的儀式の内容は,その形式の意味 を,逆に彼等自身に対して抑圧することになるのである.Hollisはその場 に居合わせた,語り手の?と Jacksonにその硬貨が themost powerful  thing the white men know" (83)であるかの様なふりをするように頼み,自

ら魔術師の役割を演じ, Karainを亡霊から解放してやる.注意すべきこと はこの儀式の「真の意味はj亡霊の除去という「内容にではなく

J

,物神の 授与と言う「形式にあるJことである.7つまり, Karainが女王の肖像の刻 まれた硬貨を魔よけとして与えられ,彼女の(想像上の魔力による)庇護を 受けることは,彼自身が thespirit of her nation(83)を支配する女王に従 属し,その一臣民になることを,形式上意味する.要するに, Karainを亡 霊から救うつもりですることが,実際は彼をヴィクトリア女王の形式上の臣 民にしてしまうのであり,彼等のこの思い込みが,儀式の真の意味を彼等自 身に対して抑圧するのである.

この儀式の真の意味の,彼等による抑圧が明らかになるのは,女王の肖像 を彼に与えることへの,彼等の懸念においてである.儀式の際Hollisは, Karainと最も親しい話し手の Iに彼が verystrict in his faith(82)かど

うか確認し, ifonly his puritanism doesnt shy at  a likeness  (83)と 心配する.この懸念は,イスラム教での,人間等の偶像の使用禁止に由来す る様に思える.8しかし,語り手の Iの"Hispeople will be shocked" (84)  との言葉に反応して, Hollisが自分自身の talismans(82)を使って a thing like those Italian peasants wear(84)を作る逸話に注意すべきであ る.すなわち,彼が隠蔽するものは,その魔よけの内容(女王の肖像)では なく,それが示す形式性(Kaminの女王への従属の証し)であり,この従 属が成立するためには,彼の支配民にその事実を知られてはならず,従って

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それを示すものは隠蔽されねばならないのである.このようにして,英国人 交易者達の物神主義的儀式の真の意味は抑圧されることになる.

しかしこの儀式の抑圧された真の意味は,彼等の口から明らかにされるの である.このことは,語り手の Iが数年後にロンドンでJacksonと再会す る,物語の最後の場面で示される.JacksonはKarainを話題に出し,新聞 記事で variousnative risings in  the Eastern Archipelago" (37)を知り,

"He will make it  hot for the caballeros.(88)と言う.つまり,彼がヴイク トリア女王の想像上の庇護を得,自分達から買った武器で,英国人交易者に とっての脅威である植民地宗主国の Spanishgun‑boats" (41)相手に戦って いることをJacksonは知識として知っているのである.このようにして,

彼等が抑圧した,物神主義的儀式の真の意味が,新聞記事からの推測という 形で明らかにされるのである.

ここで注意すべきことは彼等のこの会話の内容自体の果たす機能である.

as a kind of  fetish... whose inert presence conceals iぉownform9機能 を,この会話は果たすのである.JacksonはKarainの話の真実性に疑念を 表明し,語り手のT に youhave been too long away from home. What a  question to ask!(88)と反論され,ロンドンの街頭の現実を見るようにと言 われる.しかしJacksonはこの現実を認めた上で、それはKarainの話ほど real(89)でないと言う.語り手の Iは,この発言から hehad been too  long away from home." (89)だと結論付ける.注目すべきは,彼等のこの会 話の内容ではなく,それが果たす機能である.つまりこの会話は,彼等が行っ た物神主義的儀式の形式の持つ真の意味を,彼等自身に対し抑圧する為に行 われている.当時Hollisの作った魔よけがこの物神主義的儀式の形式の示 す意味を隠蔽し抑圧したように,彼等の噛み合わない会話の内容自体が,彼 等の儀式の論理的帰結(K紅白nの現在の反乱)の意味を隠蔽し抑圧してい

るのである.

最後に,彼等が自ら抑圧し隠蔽した,この物神主義的儀式の形式の意味が,

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28  Conradの初期の短篇における反復と差異

大英帝国の実際の植民地政策を反映していることに注意すべきである.つま り魔よけに六ペンス硬貨を使うことで彼等は,現地人達の首長である Ka‑ rainを大英帝国に従属させるだけでなく, Jacksonの neverwas a sixp‑ ence wasted to better advantage!(88)という言葉が暗示するように最小限 の投資で大英帝国にとって最大限の利益(スペインへの軍事的打撃)を得る のである.このことは,現地入社会を隷属させ,そこへの投資によって,経 済的・軍事的利益を得るという,大英帝国の植民地政策10を反映している.

19世紀の大英帝国の植民地政策の,同時代の小説の物語構造への反映11が, 19世紀末に発表されたこの作品においても,別の形で見出されるのである.

盟国過去の出来事の語りによる反復と差異

一 一 一

Youth:A Narrative

,,を読む

この作品において反復される出来事は,登場人物兼主要な語り手である Marlowの,東洋への初航海での出来事である.そしてこの反復に伴う差異 とは, 22年後に彼の語りによって当時の出来事が再現されることである.し かし当時の彼の,東洋に魅惑された視線を媒介にして彼の語りは成立してお り,この視線は物語の最後に,彼が遭遇する東洋人達の視線の対象となる.

このことは,中立的な観察者としての,彼の東洋への視線を無力化するのだ が,彼の視線の無力化は神秘的な不変の東洋という観念を利用して隠蔽され る.この観念は英国人の人種的優越性という,彼によって提示された観念を 補完するものだが,共に何も正当な根拠を持たない.そしてこの無根拠性は,

大英帝国による植民地支配の正当な根拠の不在(と暴力的な起源の抑圧)を 反映しているのである.

商船の船員としての経歴を共有する4人の英国人を相手に, Marlowは彼 の22年前の東洋への,二等航海士としての初航海の思い出を語る.彼は石炭 を積んだ老船を目的地の東洋の港に到達させることに失敗した過程を順を 追って語っており,彼の語りは東洋への彼の初航海の chronicle(93)のよ

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29  うに見える.しかし注目すべきは,当時の彼の東洋に魅惑された視線を媒介 にして,彼の語りが成立していることである.当時の彼は初航海の目的地の Bankok(95)と言う地名に Ithrilled(96)と言い,この地名は何度も言 及される.当時の彼にとってそれは Magicname(105)であり,そこへの 到達が困難であればあるほど,単に東洋の港の一つに過ぎないこの地名に魅 了されていく.つまり東洋に魅せられた当時の彼の mnocent,naive gaze  

12を通して,当時の出来事は経験され,見られていたのであり,この視線を 媒介にして,彼の語りは成立しているのである.

ここで重要なことは,当時の彼の東洋に魅惑された視線が東洋人達の視線 の対象になることである.積み荷の石炭が自然発火し災上している船の最後 を見届けた後に,彼は救命ボートの内の一轄の指揮を初めて任され,数日後 の夜ある港に辿りつく.そこで帰国する汽船を見つけ,その船長に乗組員の 乗船許可をもらい,桟橋にボートで戻ってそのまま眠ってしまう.日が覚め た時 themen of the East" (130)が自分達を無言で見つめているのにMar‑

lowは気付く.ここで見逃しではならないのは,当時の彼の東洋に魅惑され た視線が東洋人達の視線の対象になることである.つまり,彼は自分が既に 彼等によって見られているのを見るのであり,このことは彼の視線自体も彼 等の視線の対象に含まれることを意味する.具体的には,死んだように眠り 込む白人船員達を挑める東洋人達と言う光景の中に,それを眺める彼の the very frame (of his view) is  already inscribed" 13ことを意味するのであ る.

このように,当時の彼の東洋に魅惑された視線が東洋人達の視線の対象に なることで,魅惑の対象である東洋に対する彼の観察者としての asafe,  'objective distance" 14が脅かされる.何故なら,彼はもはや東洋の中立的 な観察者ではなく,彼の存在そのものが東洋人達の視線に曝されることで,

utterly helpless" 15になっており,彼の視線自体も彼等に対して無力化され ているからである.

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30  Conradの初期の短篇における反復と差異

しかし,神秘的な不変の東洋というオリエンタリズム的観念16を利用する ことで,彼の視線の無力化は隠蔽されるのである.彼は東洋人達が自分を見 ているのに気付いた次の瞬間に theEast of the ancient navigators, . . so  mysterious ... and unchanged" (131)を見たと語る.つまり神秘的で、不変 の東洋という観念を利用し,それを視線の対象に程造することで,彼は自分 の視線が無力化されていたことを隠蔽するのである.更に彼は最後に all the East is  contained in that vision of my youth" (132)と言うことで,東 洋を再び彼の視線の対象にするのである.

見逃してはならないのは,この利用された神秘的な不変の東洋という観念 が,回想する彼が見出す英国人の人種的優越性の観念を補完することである.

彼は積み荷の石炭の自然発火が発見される直前に乗船した Thatcrew of  Liverpool hard cases(115)がそれを知り航海の失敗を確信しても職務に忠 実だ ったことに thatgift  of good or evil that makes racial differ印町、

that shapes the fate of nations(119)を見出す.乗組員が全員英国人だ、った こと17がその根拠だが,この観念は必然的に他人種の劣等性を,東洋では東 洋人の劣等性を暗黙の前提としている.例えば,石炭が爆発して甲板を吹き 飛ばされた船を汽船に曳航してもらう際に彼が出会ったマレ一人水夫の unconcern(117)は東洋人の backwardness18の表れなのである.この様 に神秘的な不変の東洋という観念は英国

λ

の人種的優越性の観念を補完して いる.

しかしこのような人種主義的観念(ステレオタイプ)の同一性は,その根 拠の不在に脅かされているのである.19何故東洋が神秘的で不変なのか,何 故英国人は人種的に優れているのかを,根拠付ける事はできない.故に Marlowは東洋が神秘的で不変である理由を説明せず,またできない.彼の 言う英国人の人種的優越性の観念も,彼の疑わしい解釈以外にその根拠を見 出せないのである.

最後に,神秘的で不変の東洋や,英国人の人種的優越性の観念の根拠の不

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在は,大英帝国の植民地支配の正当な根拠の不在を反映していることに注意 すべきである.何故なら,大英帝国の植民地支配は,これらの観念以外には その正当な根拠を持てないからである.更に正当な根拠の不在は,その支配 の根底に aviolence founding the system and none the less disavowed20 

が存在していたことを暗示している.このようにして,大英国帝国の植民地 支配の正当な根拠の不在(とその暴力的な起源の抑圧)がこの作品の中に反 映されているのである.21 

結び

以上の論証によって示されたように,「反復と差異」という同ーの構造が 各作品に見出される.すなわち代理人の赴任や,亡霊の抑圧や,過去の航海 での出来事が,それぞれ異なった条件下で反復されるのである.そしてこれ らの反復に伴う差異の分析は,代理人達の行動の同一性や,物神崇拝の白人 交易者達による実践(とその自己認識)の抑圧や,東洋に魅惑されたMar‑

lowの視線の無力化の隠蔽を顕在化させ,最終的には,過剰人口の処理場と しての植民地や,現地入社会の隷属化という大英帝国の植民地政策や,その 植民地支配の正当な根拠の不在(とその暴力的な起源の抑圧)が,各作品の

中に反映していることをも明らかにするのである.

1 Joseph Conrad,'Heart of Darkness" and Other Tales, edited with an introduction  by Cedric Watts (Oxford: Oxford UP, 1990) Vii.以下本文で論じる各作品からの引 用は同テクストに基づき,括弧内に頁数を示す.

2 Norman Sherry, Conrad's Western World (London: Cambridge UP, 1971), 128‑

29. 

3 Hannah Arendt,  ImperJm:Part  Two of theαTginsof Totalitariaπism (San  Diego: Harcourt, 1968) 69を参照.

4 Jakob Lothe, ConradsNa・ativeMethod (Oxford: Oxford UP, 1989) 52  53.  5 Slavoj Zizek, 訪eSublime Object of Ideology (London: Verso, 1989) 32  33但し

文脈に合う様に人材、代名詞を変えた.

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32  Conradの初期の短篇における反復と差異

6 Slavoj Zizek, For T何 KMwNot What They Do: E明ymentas a Political Factor  (London・  Verso,  1991) 59,  n28での, othernessof  consciousness,,から con‑ sciousness itself in its otherness,,へのinversionに関する議論を参照.

7 Zizek, For 司のK M NotWhat坊のDo157‑64の,形式の意味作用の説明を参 照.

8 Cedric Watts, Explanatory Notes, 官eartof Darkness'259, n82. 

9 Zizek, For ThのJKMw Not What 

訪 の

Do163の,内容の物神性に関する議論を 参照.

10  J. A. Hobson, Imperialism: A Sti功F(London: Unwin Hyman, 1988)を参照.

11  Edward W. Said,Jane Austen  and Empire Culture and Impelism(New  York: Knopf, 1993) 80‑97でのMansfieldParkの読解を参照.

12  Slavoj Zizek, Looki Awη:AnIntroducti仰 初JacquesLacan through Popu Culture (Massachusetts: MIT P, 1991) 114.また同書111‑16のノスタルジーに関す る議論も参照.

13  Zizek, Looking Awry 125.但し文脈に合う様に人材、代名詞を変えてある.又,対 象としての視線に関しては問書全体を参照.

14  Zizek, LokingAuη125. 

15  Zizek, Looki Awη126.

16  Edward W. Said,

α

ぉ,ztalism(London: Penguin, 1985)での詳細な分析を参照.

17  Watts, Introduction,'Heart of Darkness.,xiv.物語のモデルになった実際の航海 では船の乗組員は多国籍だった.

18  Said,

α

italism206. 

19  Homi K. Bhabha,The Other Question:  Stereotype, Discrimination,  and the  Discourse of  Colonialism The Loca加見 ofCulture (London: Routledge,  1994)  66‑84での人種主義的観念の分析を参照.

20  Zizek, For T向FKMwNot What T拘yDo 215.又同書203‑14の,起j原作分析も参 照.

21 Youthに続く Heartof Darkness,,ではMarlowが同じ聞き手達を相手に,大 英帝国の起源の考察から彼の語りを始めることは示唆的である.そして彼の植民地 経営擁護の(論理的に破綻した)試みが Heartof Darkness,,でなされるのである.

詳しくは新屋敷健内閣の奥』におけるマーロウの「参照の枠組みJJNew Perspec‑ ti 156(1992) 60‑68を参照.

参照

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