• 検索結果がありません。

【同志社大学刑事判例研究会】強制執行行為妨害罪 が認められた事例

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "【同志社大学刑事判例研究会】強制執行行為妨害罪 が認められた事例"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

【同志社大学刑事判例研究会】強制執行行為妨害罪 が認められた事例

著者 大谷 實

雑誌名 同志社法學

巻 71

号 4

ページ 1469‑1475

発行年 2019‑09‑30

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000442

(2)

◆同志社大学刑事判例研究会◆

強制執行行為妨害罪が認められた事例

最高裁平成31年1月29日第二小法廷決定 平成30年(あ)1428号強制執行行為謀議 被告事件(判例誌不登載)

大  谷   實 

〈事実の概要と争点〉

 被告人Ⅹ(母)およびY(娘)は、平成29年3月3日午前11時27分頃、神 戸市灘区六甲町2丁目3番14号の敷地内において、境界確定訴訟判決に基づ く境界鋲等設置代替執行を行うに当たり、その執行補助者Mが測量器具を用 いて作業を行っていた際、Yは、測量を行っているMの隣で、立ったりしゃ がんだりしながら膝で測量器具を払いのけたり、測量点の上にレンガを置く などし、また、Ⅹは、Mが鋲を打とうとした地点にしゃがみ込んで測量器具 の上に木片を置いたり、木片を揺すって測量器具に当てるなどしたために正 しい測量ができず、Mは何度か「やめてください」と言ったが、ⅩおよびY は妨害行為を止めなかったので、Mと同行して現場に来ていた警察官が強制 執行行為妨害罪等で現行犯逮捕したところから、間もなくMは測量行為を終 わり、同日0時30分に金属製境界鋲を設置したというものである。

 この事実に対し検察官は、本件の事実を強制執行行為妨害罪に当たるもの として公訴を提起し、被告人Ⅹ、Yおよび弁護人は、①強制執行を妨害した ことはなく、これを共謀したこともない、②本件代執行は民事訴訟法上違法 であるから強制執行行為妨害罪は成立せず、無罪である旨を主張した。これ

(3)

同志社法学 71巻4号[通巻407号](2019)

160 (1470)

について第一審裁判所は、「被告人両名は、境界鋲設置代替執行を行うに当 たり、共謀のうえ、執行補助者Mが測量器具を用いて土地の測量作業行って いた際、その測量地点付近に座り込むなどしたうえ、前記測量器具を足や木 の枝で押すなどして執行官の強制執行の行為の遂行を困難にさせ、もって威 力を用いて執行官の強制執行の行為を妨害したものである」と判示して、被 告人Ⅹ、Yをそれぞれ懲役8月、執行猶予3年に処したのである。

 弁護人の控訴趣意は、公務執行妨害罪等で現行犯逮捕したことは不当であ ることなど多岐にわたっている。しかし、特に本件事実に係る強制執行行為 妨害罪の成立について、第一審は、「威力」を用いて強制執行の行為を妨害 したとしているが、「同罪にいう妨害とは、強制執行行為の円滑な進行を物 理的又は精神的に不可能または困難ならしめる状態を生じさせることを意味 し、妨害罪は現実に結果が発生したことを要する侵害犯であるのに、結果に つき判断することなく、同罪を適用して、被告人らを有罪とした原判決は間 違っている」とした。この点につき控訴審の大阪高等裁判所判決は、「強制 執行の行為の円滑適正な実施という同罪の保護法益に照らせば、同罪にいう 妨害とは、強制執行の行為の円滑な進行を物理的又は精神的に不可能または 困難ならしめる状態を生じさせること」を意味し、強制執行の円滑な執行を 一時的でも阻害すれば同罪は成立する危険犯と解されるから、開始された強 制執行を現実に不能とする結果の発生までは必要としないというべきであ る。被告人らの行為が強制執行行為を妨害するに足りる威力の行使であると した原判決も、これと同旨の前提に立つものと理解できるのであって、その 判断に誤りがあるとはいえない」と判示して、控訴を棄却した。

 これに対して弁護人は、①強制執行妨害罪は、「偽計又は威力」を用いて 強制執行を妨害することを構成要件とする犯罪であり、威力とは、「犯人の 威勢、人数、四囲の情勢から客観的に見て被害者の自由意思を制圧するに足 る犯人側の勢力」を意味する、②高齢女性Ⅹおよび中年女性Yとが、被告人 らをはるかに超える人数の執行官、神戸市職員、警察官らが取り囲む状況下 では、測量地点で座り込む、木の枝や膝で押すといった行為が「自由意思を

(4)

制圧するに足る勢力」があったとはいえない、③「妨害するとは、強制執行 行為を不可能または著しく困難にする行為」をいい、危険犯でなく侵害犯で あるから、単に構成要件に該当する実行行為が行われたのみでは既遂とはな らず、実際に法益が侵害されたことを必要とする。したがって、本件では、

妨害行為を受けたとされるMの自由な意思を制圧して、その執行に係る行為 の遂行が不可能となったという事実の立証が必要であるなどと主張して、原 判決の破棄を求めた。

〈決定要旨〉

 上告棄却。 「被告人、弁護人の上告趣意は、憲法違反をいう点を含め、

実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であり、いずれも刑訴法405条の上 告理由には当たらない。」として、原審の判断を維持したのである。

〈研 究〉

 ⑴ 刑法96条の3第1項の趣旨  本事件に係る刑法96条の3第1項は、

「偽計又は威力を用いて、占有者の確認その他の強制執行の行為を妨害した 者は、3年以下の懲役若しくは250万円の罰金に処し、又はこれを併科する」

と規定している。この規定は、2011(平成23)年の刑法一部改正によって新 設されたものであるが、その当時においては、例えば家屋の明け渡しを求め て執行現場に赴いた執行官が、目的家屋の付近で放し飼いにされている猛犬 のために執行できないといった事態、あるいは債務名義等に表示された占有 者を次々と入れ替えて占有者の確定を妨害する事態がしばしば発生したこと から、それに適切に対応する必要があった。

 しかし、強制執行妨害行為のうち、執行官等の公務員に対して暴行・脅迫 が向けられた場合については、公務執行妨害罪(95条1項)で対応できるし、

私人である債権者に対して妨害行為が行われた場合には、強要罪(223条)、 信用毀損罪(233条前段)、業務妨害罪(233条後段、234条)で対応できるが、

先に掲げた事例は、①公務員に向けられた妨害行為が暴行・脅迫には至らな

(5)

同志社法学 71巻4号[通巻407号](2019)

162 (1472)

いで威力や偽計に留まるものであり、公務執行妨害罪や強要罪を適用するこ とはできないし、②強制執行行為は強制力を行使する権力的公務であるから、

判例の立場を採る限り業務妨害罪や信用毀損罪の適用は不可能であるため、

処罰の間隙が生じたのである。そこで、執行官や債権者などの「人」に向け られた妨害行為のうち、偽計または威力を用いた場合を処罰するために、威 力業務妨害罪の補充規定として刑法96条の3が設けられた次第である。

 ⑵ 本罪と威力妨害罪との関係  刑法96条の3第1項は、偽計または威 力を用いて立入り、占有者の確認その他の強制執行行為を妨害する行為を犯 罪とするものであるが、本件で問題となったのは、①ⅩとYの行為が「威力」

に当たるか、②「妨害した」と言えるか、以上の2点である。

 ア 「威力」の意義  強制執行行為妨害罪は、「偽計又は威力」を用いて 強制執行を妨害する行為を構成要件とする犯罪である。そして、第一審裁判 所は、被告人ⅩとYは、強制執行補助者Mが土地の測量作業を行っている際、

その測量地点付近に座り込み、測量器具を足や木の枝で押すなどした行為を 捉えて、「威力を用いて」強制執行の行為を妨害したとして、強制執行行為 妨害罪に当たるとしたのである。そこで、本罪にいう「威力」とは何かが問 題となるが、その点についての判例は、現在までのところ見当たらない。ま た、学説上もこの点につき論じたものは皆無であり、ほとんどは、規定ぶり を同じくしている威力業務妨害罪(刑法234条)に準じた解釈を展開している ように思われる(高橋則夫・刑法各論〈3版〉639頁)。

 そこで、威力業務妨害罪における「威力を用いて」について検討してみる と、そもそも「威力」とは、人の意思に働きかけて服従させる力を意味する が、判例によると、威力妨害罪における「威力」とは、「犯人の威勢、人数、

四囲の情勢から客観的に見て被害者の自由意思を制圧するに足りる勢力」と 解されている。最高裁になってからのリーディングケースとなっている最判 昭和28年1月30日刑集7巻1号128頁の事案は、工場の役員室内に侵入して 工場長に対し団体交渉を強要したというもので「威力」に当たる典型的な行 為であり、また、総会屋が株主総会の議場で怒号した事例(東京地判昭和50

(6)

年12月26日刑月7巻11=12号981頁)、大声や怒号を発して卒業式の遂行を妨げ た事例なども、問題なく「威力」に当たるであろう。威力業務妨害罪におけ る「威力」は、相手方の意思に働きかけ、行動の自由を制圧するところに本 質があると考えられる。

 しかし、裁判例を見ると、机の引き出しに猫の死骸等を入れ、これを被害 者に発見させた事例(最決平成4年11月27日刑集8号623頁)、デパートの食堂 配膳部に縞蛇をまき散らす行為(大判昭和7年10月10日刑集11巻1519頁)、キ ャバレーの客席で牛の内臓をコンロで焼き悪臭を放つ行為」(広島高岡山支判 昭和30年12月22日裁特2巻18号1342頁)、弁護士を困らせようとして、訴訟記 録などの入っていた鞄を奪って隠匿する行為(最決昭和59年3月23日刑集38巻 5号2030頁)、貨車の開閉弁を開放して積載中の石炭を落下させる行為(最判 昭和32年2月21日刑集11巻2号877頁)、捕獲されたイルカを収容中の網のロー プを切断する行為(長崎地佐世保支判昭55年5月30日判時999号131頁)など、

人の意思の制圧に向けられたものでなくても威力に当たると解されており、

著しく拡大されつつあると言ってよいであろう(山口厚・刑法各論〈第2版〉

165頁)。しかし、本罪は、業務活動の自由に対する罪であるから、威力は偽 計と並んで人の意思に対する働きかけでなければならないから、上記のよう な対物的加害行為をも含めることは妥当でないと考える。

 それはさておき、既述のように、強制執行行為妨害罪は、業務妨害罪の補 充的犯罪と解すべきであるから、本件の行為が「威力」に当たるかどうかに ついて考えてみると、被告人らの行為は、対人的なものか否かは微妙である が、問題は、本件におけるⅩとYの測量地点付近に座り込む、木の枝や膝で 測量器具を押すといった一種の抵抗行為が、威力を用いたことになるかどう かである。この点につき上告趣意書も主張しているように、高齢女性である

Ⅹおよび中年女性であるYの行為は、被告人らをはるかに超える人数の執行 官、補助者や神戸市職員そして警察官らが取り囲む状況の下では、「客観的 に見て被害者の自由意思を制圧するに足りる勢力」とはいえないから、本件 のⅩおよびYの行為は、「威力をもって」には当たらないと考える。

(7)

同志社法学 71巻4号[通巻407号](2019)

164 (1474)

 イ 危険犯か侵害犯か  既述ように、控訴審判決は、「強制執行の円滑 適正な実施という本罪の保護法益に照らせば、強制執行の円滑な執行を一時 的にでも阻害すれば同罪は成立する」から、強制執行を妨害されたという結 果の発生までも必要とするものではないと判示した。つまり、強制執行行為 妨害罪は、危険犯であって侵害犯ではないとしたのである。この判断は、お そらく控訴審として初めてのものとして記憶すべきであるが、本罪の前提と なった威力業務妨害罪については、「妨害した」点につき、危険犯か侵害犯 かで争われてきたところである。

 この点に関する判例は、妨害の結果発生は不要であり、業務を妨害するに 足りる行為が行われればよいとして、これを危険犯と解している(大判昭和 11年5月7日刑集15巻573頁)。学説も、これを支持する見解が有力である(団 藤重光・刑法綱要各論〈3版〉520頁、大塚仁・刑法概説各論〈3版増補版〉160頁、

井田良・講義刑法学・各論179頁など)。しかし、「妨害した者」として業務の 妨害の結果を必要とする法文の文理から、また、名誉棄損罪のような業務妨 害の結果発生を認定することに問題があるわけではないから、これを侵害犯 と解し、業務が妨害され、業務遂行に著しい障害が生じたことを要求する学 説が多数を占めつつある(平野龍一・刑法概説188頁、中森喜彦・刑法各論〈4版〉

63頁、西田典之〈橋爪隆補訂〉・刑法各論〈7版〉142頁、山中敬一・刑法各論〈3 版〉244頁、山口厚・前掲書167頁、高橋則夫・前掲書304頁、大谷實・刑法講義各 論〈4版補正版〉147頁など)。

 既述のように、強制執行行為妨害罪は、業務妨害罪を補充する犯罪であり、

その解釈も行為の客体を「業務」から「強制執行の行為」に転ずれば足りる ところから、「妨害」の意義も業務妨害罪における「妨害」と同じように解 してよいと考える。そこで筆者は、刑法96条の3第1項の「妨害した」とは、

強制執行の行為に支障を来すこと、すなわち強制執行の円滑な進行を不可能 または著しく困難な状態を生じさせることをいう」とし、本罪を危険犯では なく侵害犯と解してきた(大谷・前掲書583頁。なお、高橋・前掲書639頁)。本 罪を抽象的危険犯と解し、本件事案につき強制執行行為妨害罪の成立を認め、

(8)

また、その判断を維持して上告を棄却した本決定は妥当でないと考えるので ある。

 ⑶ 本決定の意義  本決定は、土地の境界争いをめぐって展開された民 事裁判の結論を不服として、その強制執行に抵抗する形で行われた行為を強 制執行妨害罪として起訴したものであり、大変珍しいケースの判決として貴 重である。また、控訴審判決は、本罪における「威力」の解釈を示し、特に、

「妨害」の意義について危険犯とする立場を明らかにし、最高裁はこの原審 の解釈を維持したのである。

 従来、ほとんど論じられることがなかった強制執行行為妨害罪について、

本件は、裁判所として、おそらく初めて同罪における「威力」および「妨害」

の意義を明らかにしたものと思われる。これまでの判例の態度から予想され た解釈ではあるが、本決定は、今後リーディングケースとして引用されるで あろう。本件を紹介し論評を加えた所以である。

参照