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格付制度における利益相反を回避するための考察 Evading Conflict of Interest in Credit Rating

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格付制度における利益相反を回避するための考察

Evading Conflict of Interest in Credit Rating

波多野 肇

HATANO Hajime

1.はじめに

格付制度は、資本市場における信用リスクを簡潔な記号と文章で表す制度である。

近年、格付機関は不祥事ととられる事態を度々おこしてきたように見える。その度に 利益相反の可能性が指摘されている。格付制度における利益相反とは、例えば甘い格 付をつけることで得られる格付機関の私的利益と格付制度が背負う社会的責任との間 に衝突が生じている(1)状態のことを指す。しかしながら、格付制度は、本質的な構造 は変わることなく存続している。格付制度において利益相反が起きているのを解決す るにはどうしたら良いか。本研究の到達点は、格付制度における利益相反回避の解決 策を見出すことである。格付制度の構造に着目し、格付制度における利益相反回避の 具体的解決策を明らかにすることが、本研究の目的である。

2.格付制度の構造と課題

格付制度とは、格付機関が債券の発行体などに評価を行う制度である。債券の発行 体に代表される格付の依頼者(2)、格付を付与する格付機関、投資家に代表される格付 の利用者によって構成されている。評価結果は、資本市場における信用リスクを判断 するために、広い範囲に受け入れられている。例えば

AAA

といった記号は、お金を貸 した先がお金を返してくれるかを評価した結果をあらわしている。

2.1 利益相反の可能性の指摘

格付を付与するにあたり、複数の段階、明確な判断基準がありながら、実態をあら わしていない格付の存在が指摘されている。その実態をあらわしていない格付によっ て不利益を被った者が存在する。格付制度において利益相反が発生した可能性が指摘 されている。

2001

6

月、政府方針に「貯蓄から投資」への文言が登場する(3)。家計のリスク資 産保有を増加させることによって経済発展を図る目的があった(4)。個人投資家を通し て個人の持つリスク資産を増やそうとする動きに出ていることも格付への依存を高め た。その結果、格付の利用者が利益相反の影響を受けやすくなった。

例えば、甘い格付が付与され、一般市民の投資家が多大な損失を被ったマイカル破

(2)

たん、実態をあらわしていない格付により、本来投資すべきではない層が投資を行っ たサブプライム危機がある。このような事象は、格付制度において最も回避されなけ ればならないものであった。

2.2 格付制度の特徴

格付制度の特徴には以下の項目があげられる。

債券の発行体に代表される格付の依頼者は、格付取得の際に自由に格付機関を指名 でき、かつ、依頼者からは格付機関に報酬が支払われる(格付機関の支払いモデル)。

自由な指名が可能であるにもかかわらず、選択の余地がない寡占構造である。

格付の依頼者と格付機関のみが知り得る情報が存在する。透明性において明らかに されない部分はあるが、不透明な部分に格付における重要な部分がある。

格付は制度に中に組み入れられ、影響度はますます大きくなっている。格付への依 存もそれにあわせて高くなっている。

2.3 格付制度における本質的課題

格付制度における課題の本質とは、どちらかの利害に偏った意見が格付に反映され る可能性があり、それによって不利益を被る者が発生する可能性が出てくることであ る。格付機関は、依頼者の利益を守ると同時に、投資家の利益も守らなければならな い。さらには、営利組織であるがゆえに、格付機関は自らの利益も確保しなければな らない。そのような状況の中で利益相反が発生する可能性が高くなる。

格付制度の構造に起因する本質的課題は、格付機関の私的利益と格付制度が背負う社 会的責任との間に衝突が生じているように見える利益相反を引き起こす。2.2格付制度 の特徴に示した格付制度の構造の中で、格付機関、格付の依頼者、格付の利用者の利害 が対立することがある。例えば、①依頼者は信用を得るために格付を付与してもらう。

その一方で、格付機関は収益を上げるために格付を付与する。②格付の変更は機動的に 行ってほしいという要望がある。その一方で、格付は様々な精度に組み込まれているか ら変更には慎重にならざるを得ない、などである。こうした事例は、当事者の間に利害 の対立が起きていることを示している。格付制度の構造の中で利害の対立が生まれ、そ れが、私的利益と社会的責任の衝突に及ぶと利益相反は引き起こされる。対立が生まれ ても、私的利益と社会的責任の衝突に及ばない場合は、利益相反ではない。格付制度の 構造に見られる利害の対立を解消することは、利益相反を回避することに結び付く。

3.先行研究の整理と分析

先行研究の整理と分析にあたっては「格付制度における本質的課題」の他、「他制度 における利益相反の回避策」「格付制度における利益相反回避のための変更案」が主な 論点となる。仮説の設定に先立って、これらに係る先行研究、文献、他制度等から、

現在の到達点等を整理した。

格付機関と利益相反に関する先行研究、次に、格付制度と問題の構造が似ている監

(3)

査法人制度とコーポレートガバナンスの対応事例を確認した。そして、利益相反に対 する意識の高い臨床研究・治験、大学の産学官連携における利益相反に対する事例等 を整理した。それらの先行研究や対応事例が、格付制度の特徴をどのようにとらえ、

どのように関連があるかについて整理と分析を行った。その上で、利益相反回避の可 能性と、格付制度において利益相反が引き起こされている箇所を明らかにした。

鹿野嘉昭、野間敏克(2012)は、格付機関を市場の中で規律づける仕組みが埋め込 まれていないことを指摘している。仕組みの是正を伴わない限り、監督規制をいくら 強化したとしても所期の効果を得ることは困難であるとしている。スタンダード

&

アーズ(2009)とは対照的な考え方である。格付が制度に組み入れられていることを 考えると、規律に反した場合、格付機関に責任を負わせることも必要と考えられる。

鹿野、野間が指摘するように利益相反を回避するためには、格付機関を市場の中で規 律づける仕組みの是正が必要であると考える。

森谷智子(2013)は、利益相反の原因が支払いモデルにあるとした上で、海外に おける格付機関の利益相反の回避に関する提唱を紹介している。しかしながら、手数 料の徴収先を変更しても、別の部分における利益相反の可能性が生まれる可能性があ る。支払い方式を変更するだけでは、対策は不十分と考える。紹介している案の中で、

Altman、Oncu、Richardson、Schmeits and White

(2010)の「発行体が格付の取得に 対し格付機関を自ら選択できないようにすべき」という考えは、指名、評価、報酬の 連鎖関係が断ち切られるという意味において有効と思われる。

格付制度における先行研究の整理と分析を行った結果、どのような対応を行っても、

格付制度における利益相反をなくすことは難しいとの見方がされていた。それでも、

利益相反の影響をマネジメントすることは可能である見方がされていた。

先行研究には、格付制度における利益相反の可能性を指摘し、利益相反の原因を指 摘するものは多かった。しかしながら、格付制度における利益相反を回避するために は、どのような制度にすべきか提示しているものの、本格的に具体策について研究し ているものは見られなかった。

利益相反の回避をマネジメントする仕組みを設けると、格付機関は市場の中で規律 付けられ、格付制度における利益相反は回避される。そのような仕組みを格付制度の 中に組み入れるべきである。

格付アナリストに代表される個人が、格付の依頼者、利用者、格付機関の利益を犠 牲にして自身または第三者の利益を図ろうとする場合がある。このような行為は、個 人の利益相反ではなく実態をあらわしていない格付を付与している制度の問題として 捉えなければならない。格付制度の中にこれらも含め利益相反を回避できる仕組みを 組み入れるべきである。

4.利益相反の回避をマネジメントする制度の設定

先行研究の整理・分析結果を基に、格付機関を市場の中で規律付けるための具体的 解決策をデザインした。

筆者は、格付制度内における対立をマネジメントするためには、格付の依頼者に代

(4)

わって第三者が(1)格付機関を選ぶこと、(2)格付の分析と検証作業を行うことが 有効であるとの考えに至った。そして、格付の依頼者に代わって格付機関を選ぶ組織、

格付機関から提供された情報を分析し利益相反の可能性を指摘する組織はどうあるべ きかについて考察を行った。

実現可能な利益相反を回避する仕組みとは具体的にどうあるべきかを考え提案する。

4.1 提案する制度

格付制度における利益相反を回避するために、格付の依頼者に代わって格付機関を 選ぶ組織、格付の分析と検証作業を行う組織を導入する制度を提案する。

格付の依頼者が自由に格付機関を選択することができなくなれば、格付を金で買う 行為がなくなり、甘い格付や実態をあらわしていない格付の問題は解消に向かう。

独立した第三者が、格付の分析と検証作業を行う仕組みは、利益相反の抑止になり 得る。甘い格付や実態をあらわしていない格付が明らかになり、そのような格付を行 う格付機関は淘汰される。甘い格付や実態をあらわしていない格付によって引き起こ される利益相反は、本制度によって回避される。

図 4.11に提案する制度の組織図を示す。

現在の格付制度において発生する可能性がある対立と提案する制度による解決策の 関係性を図 4.12格付制度における対立と解決策の関係性に示す。

5.利益相反の回避をマネジメントする制度の検証

4

章で設定した利益相反の回避をマネジメントする仕組みを、格付制度関係者およ び利害の対立と解消に取り組んでいる

ADR

制度(5)関係者にインタビューを行い、そ の内容を通して検証を行った。次に、利益相反の可能性が指摘された過去の代表的な 事象について、利益相反の回避をマネジメントする仕組みがあれば、利益相反は回避 図 4.1–1 提案する制度の組織図

(5)

されたのかをケーススタディによって検証した。

格付機関、格付の依頼者、格付の利用者が、格付制度をどのように見ているか、利 益相反への意識、設定した仮説の現実性などをインタビューし、仮説の検証を試みた。

表 51に格付制度関係者に対するインタビュー先一覧を示す。

図 4.1–2 格付制度における対立と解決策の関係性

表 5–1 格付制度関係者インタビュー先一覧

実施日 分 類 組織名 役 職 氏名(敬称略) 選定理由 2015

828 格付機

株式会社

QBR 投資情報

事業部長 清家 武 投資信託の格付に従事

かつて証券会社に勤務し投資家と しての側面も持つ

QBRは中立的な評価会社であり、

中立的な立場で発言している 2015

92 投資家 格付の依頼者

株式会社SBI証券 投資調査部 シニアマーケット アナリスト

藤本 誠之 個人投資家向けに判りやすく伝える ことに定評

格付の利用者としての立場の他、

前職での経験から格付の依頼者 としての立場を理解している 2015

98 投資家 特定非営利活 動法人社会的責任投 資フォーラム

事務局長 吉田 喜貴 個人投資家としてブログにて情報 発信。責任投資関連のNPO事務 局長として、中立的な立場で発 言している

2015

99 格付機

e3 Analytics 小林 修 前職は、格付機関最大手のアナリ

スト。格付機関としての立場でイ ンタビューを受けて頂いた 2015

910 格付機 投資家

公益財団法人 パブリックリ ソース財団

事務局長 岸本 幸子 SRI評価に携わった経験から評価者

(格付機関)としての立場を理解 している。社会的投資の研究者 でもあり投資家としての側面も持

筆者作成

(6)

5.1 インタビューの要旨とまとめ

(1)対立を生む理由として考えられること

格付制度において対立を生む理由として考えられることについて、格付制度の関係 者に聞いた。

①インタビューの要旨

サブプライム危機。一番の問題点は、本来リスクのある商品に対して投資すべきで はない層の投資家がリスクのある商品に対して投資を行うようになり、格付というも のをむやみに信じてしまったこと。サブプライム商品の格付が仮に低かったとしたら、

サブプライム商品は買われていなかったと考えられる(藤本氏)。

サブプライムとかの時にアナリストが基準に手心を加えた事実はないとは言ってい る。ただ、結果的には想定している以上のやっぱり変動が起きてしまったことが一番 の原因である(小林氏)。

サブプライム商品のような新しい商品、それが格付をすることにより初めて販売可 能となる商品の場合、市場の変化を情報収集し、それがもたらすかもしれない社会的 なリスクについて検討することは、通常業界団体がやることではないか。社会的責任 というか、業界としてのリスクマネジメントも考慮されるべきと考える(岸本氏)。

②まとめ

対立を生む理由として考えられることにサブプライム危機を多くの関係者が指摘し た。

格付関係者は、サブプライム危機を「これまでに想定していないことが起きた」と 捉えていた。

格付制度において、これまでに想定している以上の変化が起きた際、利益相反でな くとも利益相反ととられかねない事象が発生することが確認できた。格付制度関係者 は、新たなリスクの存在を口にし、想定していなかったことがサブプライム危機では おきたと指摘した。しかしながら、新たなリスクを特定し、指摘することこそ格付関 係者に求められる行動である。

(2)利益相反に対する意識

格付制度の関係者に、利益相反に対する意識を聞いた。

①インタビューの要旨

利益相反に対する格付機関として対応がきちんとできていないと、自社の提供する 格付の信頼性が損なわれる。利益相反の可能性は常に存在する。そのため、それを徹 底的に排除していく。(小林氏)。

格付を依頼する側からすると、甘い格付を行ってほしいというのはある。あまりに もおかしな格付をすると、格付機関の信頼性がなくなる。格付機関だけが格付の付与 が甘くなり、金を払えばいい格付をくれるのであれば、利益相反はあると思う(藤本 氏)。

(7)

格付を利用する立場からは、利益相反の可能性について強い意識は確認できなかった。

②まとめ

利益相反の可能性について、最も強く意識しているのは、格付機関であった。利益 相反の可能性を常に意識し、回避を行おうとしていることが確認できた。その一方で、

格付を依頼する側は、自分達をできるだけ高く評価してもらうことを考えており、利 益相反の可能性を作り出そうとする考えすらあることが確認できた。そして、格付の 利用者も、利益相反に対する意識が低いことが判った。

格付制度の関係者のなかでも、利益相反に対する意識は同等ではなく、それぞれの 立場によって明らかに違いが見られる。

格付機関は市場の中で自ら規律付けを行おうとしており、むしろ、格付の依頼者が 規律付けを壊す可能性、または利益相反の状況を作ろうとする可能性のあることが確 認できた。

(3)当事者間の利害対立解消

格付機関の指名を当事者に代わって執行し、当事者の行った格付を独自に分析、検 証することにより、格付制度における利益相反の回避をマネジメントできると筆者は 仮説を設定した。

ADR

制度と仮説には、当事者と当事者の間に独立した第三者が入ることで当事者間 の関係性を変化させ、紛争を解消させるという共通性が存在するため、インタビュー の対象とした。

表 5.11

ADR

制度関係者のインタビュー先一覧を示す。

ADR

制度の関係者に、当事者の間に第三者が入ることにより当事者と当事者の間の 関係性はどのように変化するかを聞いた。

①インタビューの要旨

当事者の接し方について心掛けていることの中で、最も大切なものは、傾聴である。

表 5.1–1 ADR 制度関係者インタビュー先一覧

実施日 組織名 役 職 氏名(敬称略) 備 考

2015

820 特定非営利活動法人 証券・金融商品あっ せん相談センター

課長 絹村 司

1 日本証券業協会から委託さ れた証券関連の紛争調停団

2015

826 公益財団法人 家庭問題情報セン ター

事務局長 鶴岡 健一 鶴岡氏は、養育費相談支援 センター長としても、家庭 問題の解決に取り組む 2015

97 立教大学観光ADR

ンター 立教大学大学

院法務研究科 総務主任・教

安達 栄司 大学内に設置されたADR

筆者作成

(8)

傾聴することによってのみ問題点が整理され、争点は何であるかが明確になる(絹村 氏)。

ADR

制度によって当事者の関係性は良くなる、と言える。ADR制度は、話し合い のルールを共有するもの。それにより、当事者間のコミュニケーションが促進される。

それは、意思の疎通が活発になることをあらわす。紛争の当事者には、コミュニケー ションの阻害により、紛争を混乱させる原因となる情報の歪みが生じている場合があ る。

コミュニケーションが多くなると、論点が整理されるようになる。論点が整理され ると、何で対立しているのか、その理由が明確になる。理由が明確になると合理的な 話し合いが行われるようになる。(村岡氏)。

当事者の話を聞くというのは前提。ADRの解決というものは、双方の合意がなけれ ば、解決は行われない。解決案を提示するということも行われなければならない。あ る程度、解決案を提示しないと合意は達成できない。お互い全く話にならないといっ たものが、真ん中に入ってその関係性に変化が生まれる。お互いの言い分を聞くとい う余裕が生まれる。双方の当事者にとって変化はある(安達氏)。

②まとめ

当事者と当事者の間に第三者が入ることによって、関係性が改善される。当事者双 方の話に耳を傾け、当事者双方に同じ言葉を使うことで、問題点が整理され、理由が 明確になると合理的な話し合いが行われるようになる。利益相反が起きている要因を 格付制度の関係者が理解し共有する仕組みが必要である。

(4)格付のもつ公益性

格付制度の関係者に、格付を商品としてとらえているか、公益財としてとらえてい るかを聞いた。

①インタビューの要旨

安心料のようなもの。この人に大丈夫と言ってもらえたということ。投資家に安心 してもらうためにお金を払っているものである(藤本氏)。

公開されていない情報を利用して格付が行われているから商品。完全に公開されて いる情報のみで作成されているのであれば公共財。格付会社は、それで利益をあげて いる訳だから商品。誰でも見られる格付、アクセスできる格付であれば、公共財と言 える。どこまで、オープンかというのが、公共財と商品の分かれ目である(吉田氏)。

格付評価は、ある種の価値観や哲学に基づき、それぞれの人が出すものなので商品 と言える。そこに公共性は存在する。商品であるが、公共性や社会性というか責任を 持つというのはあるのではないか(岸本氏)。

格付という商品を販売することで成長し利益を上げていく。明らかに商品。ただ、

金融市場や規制当局というのは、格付を金融市場のインフラいわゆる公共材に近い形 で見ている。かつて、銀行に対して箸の上げ下げのような作業が起動されるようなこ とが格付会社にも行われるようになっており、おそらくそれが利益相反の生じてくる

(9)

素地になっているというのはあると思う(小林氏)。

②まとめ

格付関係者のほとんどが格付は商品であると回答した。

格付がさまざまな制度の中に組み入れられているから公益財としてとらえていると いう回答は、格付機関のみであった。格付機関が利益をあげるために利用しているの だから商品であるとする回答が多かった。

格付機関は、格付が社会インフラの中に組み込まれているので公益財としてとらえ る。公益財だから専門性も重要であると同時に透明性も重要と考えている。

その一方で、格付の依頼者や利用者は、格付を商品としてとらえている。商品だか ら専門性は求めるが、透明性は求めていない。

さまざまな制度の中に格付は組み入れられている。そのことからも格付は公益財と しての側面を有している。しかしながら、依頼者の公益財としての意識の低さが見て 取れる。

(5)格付の依頼者に代わって格付機関を選ぶと対立は解消されるか

利益相反の原因であるとされた、格付の依頼者が格付機関を選び、費用を格付機関 に支払うことに対して格付関係者に聞いた。

①インタビューの要旨

格付機関が公的な存在であればあり得るが、営利企業である格付機関に対して仕事 を割り振る組織になる。そうなった場合、格付機関が営利企業として成り立つ存在意 義が持てるのかという根本的なところがある。

格付会社は皆同じ尺度でやっている訳ではない。その場合、各社間の違いをどのよ うにここに織り込むのかはひとつの課題。依頼者に代わり格付会社を選ぶ組織が、公 正な判断を出し切れるのかといったことを明らかにする必要がある(小林氏)。

中間に入って割り当てるというのは、少し違う感覚がある。5つの格付機関には、そ こまで明確な哲学とか競争原理とか個別性とかはあるのだろうか。どこに重きをおい て格付しているのか、各社によって違うのではないか。格付機関を依頼者に代わって 選ぶ組織の独立性と持続可能性がなければ、多分問題は解消には向かわない(岸本氏)。

格付の依頼者から見た場合、指名された格付機関を不満に思うことはあるだろう。

全ての評価結果とその理由が開示されることが大前提である(清家氏)。

間に仲介者が入ることでのプラスアルファがないと難しいのではないか(吉田氏)。

格付機関の収益にも影響がでる。投資家のほうも格付機関を見ている。格付の依頼 者は、投資家に評価されている格付機関を選んで依頼している(藤本氏)。

②まとめ

全ての人が格付の依頼者に代わって格付機関を選ぶことの有効性を疑問視した。利 益相反の回避には有効であるかも知れないとした上で、否定的な回答を行った。

格付機関は、わずか数社であるが、それぞれ格付に対する価値観、着目点、格付に

(10)

対する哲学がそれぞれ異なっている。格付の依頼者、格付の利用者はそういった格付 機関の性格を見極めた上で、依頼し利用している。そこにこそ、格付の価値が認めら れる部分であるにもかかわらず、それが失われることは余りに大きいというものであっ た。

この他には、格付は営利企業の商品であり、格付機関を選ぶことができなくなると 格付機関が営利企業として成り立つ存在意義がなくなるという考えがあった。

格付の依頼者に代わって格付機関を選ぶことは、利益相反の回避には有効であるも のの、格付が持つ本質的価値を失わせる。そして、格付機関が営利企業として成り立 つ存在意義もなくなる。そのため、実現性は全くないという結果が得られた。

(6)格付の分析と検証作業を行うことは利益相反の回避に有効か

格付の分析と検証作業を行うことが、利益相反の回避には有効かを格付関係者に聞 いた。

①インタビューの要旨

格付機関が行った格付が正当であったという過去検証をきちんとすべきではないか と思う。それを開示する部署・団体があると、それを見て判断するということになる。

それは、独立性を持った団体であることが望ましい(藤本氏)。

評価に対する評価を行ってはどうか。お金の流れが発生している以上、利益相反は なんらかの形で発生するのではないか。評価があるところには、リスクが存在する。

リスクを冒してまで、評価を行おうとするところは、民間企業においてはないのでは ないか(清家氏)。

本当にこれは私の個人的な意見ですが、第三者が格付の分析の検証作業というのは、

もちろん全く意味がないとは思いません(小林氏)。

格付の分析と検証作業を行うことは、利益相反の回避に有効である(岸本氏)。

組織を立ち上げるのであれば、まずこの事業から始めるべきではないか。あまりお 金をかけずにできて、さらに注目を集めることができ、この組織が有益だということ がアピールできる。まずこの組織を立ち上げるべきでは(吉田氏)。

②まとめ

全ての人が、格付の分析と検証作業を行い、その結果を公開することが利益相反の 回避につながると回答した。

過去において、格付機関の格付はどうだったかということが明らかになれば利益相 反の回避に有効であるということが確認できた。

(7)利益相反の回避をマネジメントする組織の独立性

仮説では、利益相反の回避には独立した第三者の指摘が有効であるとした。利益相 反の回避をマネジメントする組織の独立性の重要度について、格付制度の関係者と

ADR

制度の関係者に聞いた。

(11)

①インタビューの要旨

独立性は

ADR

制度を運営していく上で重要なもの。当事者の権力、表現力の差、経 済的地位に左右されることなく、精神的な独立性を保つことが大切である。

家庭問題情報センターは、寄付、会費によってまかなわれている。財政基盤の独立 性を保つことで、精神的な独立性を保っているといえる(村岡氏)。

独立した第三者が格付を確認する仕組みはあったほうがよい(藤本氏)。

独立性は、双方の言い方を聞く、相手に言い方を伝える際の信頼性にかかっている もの。独立性は必要でないとだめなもの。独立性を保つための工夫としては、中立的 な人材を配置することである。費用面の独立性とは、費用面をその属する業界団体に 依存しないことである(安達氏)。

独立性を維持するためには、金銭的な独立があってはじめて独立性が保たれる。も うかっていないと悪いことをしてしまう。格付機関は数が少ないので、価格競争する というイメージはない。だから、精神的独立性の問題の方が大きいかもしれない(吉 田氏)。

②まとめ

全ての団体が、独立性を重要視していることが確認できた。格付機関は、アナリス トの独立性を重要視していた。格付対象をはじめとしたあらゆる関係者からの独立性 である。その他の団体は、財政面での独立性がその団体の独立性につながるという考 えを示していた。そして、どの団体も財政基盤の独立性を保つことで、精神的な独立 性を保っていることが確認できた。

これらより、公平に判断し、公平性を保つ上では、判断対象や当事者から独立性を 保つことは最も重要なことである。そして、財政面での独立性を保てていないと、精 神的な独立性も失われる。

(8)利益相反の回避をマネジメントする組織の客観性

仮説では、利益相反の回避には客観的な判断を下すことが有効であるとした。利益 相反の回避をマネジメントする組織における判断基準の客観性の重要度について、格 付制度の関係者と

ADR

制度の関係者に聞いた。客観的な判断を下すためのものとして ガイドラインの存在をあげてインタビューをおこなった。

①インタビューの要旨

ガイドラインを設けて、客観的に判断するやり方が望ましい。ロジックが全て公開 されており、それに従って客観的に判断を行うことが全てである(清家氏)。

ガイドラインを作って守るというのは大切である。自分達の公共性、透明性を担保 せねばならないからガイドラインを作る。そういう意味では、どこが主導してガイド ラインを作るんだろう。ここは、評価の評価される対象なのかもしれない(岸本氏)。

利益相反の指摘という面で言うと、ガイドラインに単純に従うというより、お互い の意見を丁寧に聞いた上で判断するということになるのではないか。ガイドラインの ように明確になっていると、それに合わないように対応してしまう動きが出てくる。

(12)

ずるいほうずるいほうにずれてしまう動きが出てくる(藤本氏)。

ADR

制度の裁定結果は、当事者に納得してもらうことが大切である。それだけでは なく、第三者も納得する結果を導き出すことが大切である。専門性に裏付けされた客 観性が担保されなければならない(村岡氏)。

②まとめ

利益相反の回避をマネジメントする組織は、その専門性に裏付けされた客観性が必 要である。

ガイドラインの存在は、客観性を担保するものであることが確認できた。大きな枠 組みとしてのガイドラインの存在が重要とした上で、それぞれが独自のルールを策定 するのが望ましいとする考えが見られた。その一方で、ガイドラインがあると、それ を見越した動きが生まれ、ガイドラインが悪用される可能性があることを指摘する向 きもあった。ガイドラインの策定も含めた格付に対する専門性が、組織の客観性を担 保する。

(9)利益相反の回避をマネジメントする組織の運営費用徴収先

利益相反の回避をマネジメントする組織には、財政基盤が必要である。独立性を保 ちつつ組織運営するための費用は、誰が負担すべきかを格付制度の関係者に聞いた。

①インタビューの要旨

格付の依頼者である債券の発行元から徴収、それを債券取引の仕組みの中に構築す る、というのであればできるのではないか。それを、投資家保護の名目で徴収すると いうのであれば考えられるだろう(清家氏)。

債券の発行体ということになるのではないか。(このような組織があると)格付機関 の信頼度は高まる。その場合のコストは、格付機関が支払うのが良いのではないか(藤 本氏)。

投資家がまず支払うべきではないか。どこからお金をとるのが楽かと考えると発行 体であるが、誰が支払うべきなのかを考えると投資家だと思う。投資にかかる費用が 高くなるのはしようがない。発行体と投資家の両者が支払うのが良い。発行体につい ている格付の信頼性が向上することになるからである(吉田氏)。

格付制度の参加者が等分して費用を負担するという考えについて、それができれば 一番良いのではないか(岸本氏)。

これにより格付会社がやっていることの透明性なりをアピールできる。そういった ことを以前にもまして担保できるということであれば当然格付会社にとってメリット がある。格付会社が負担をするというのはおそらくあり得る。もちろん投資家も恩恵 を受ける。さすがに個人からとるわけにはいかないだろうと思う。機関投資家までは 対象にするのはあるかも知れない。お金を出してくれる人は発言権というのを当然持 つということになる(小林氏)。

どこから、人とお金を調達するか。中立的な機関における共通課題である(安達氏)。

(13)

②まとめ

費用を徴収しやすい先として、格付の依頼者である債券の発行体があげられた。格 付の依頼者からは投資家保護の名目で徴収できる可能性があるという意見があった。

その際、投資信託における信託報酬のように、既に引かれているという徴収方法が現 実的であるという意見もあった。

投資家も格付における利益相反の回避がマネジメントされれば情報を得られるため、

利用料の名目で費用を徴収する意見もあった。そして、利益相反の回避がマネジメン トされれば格付機関の信頼性向上にもつながるため、格付機関も費用負担を行うべき との考えも見られた。全てが費用の徴収先をあげており、費用を徴収することは難し いとする考えは見られなかった。

運営費用をどのような形で徴収するかを考えることは今後の課題である。

(10)利益相反の回避をマネジメントする組織の現実性

利益相反の回避をマネジメントする組織が現実的に機能するかを格付関係者に聞い た。

①インタビューの要旨

コスト面で言うと難しいんじゃないかというのが正直なところ。コスト面が何とか なるのであれば、マネジメントする組織はあった方が良いと思う。それよりも、基準 を統一して格付の比較可能性を持たせるほうが格付に対する理解度が高まり、組織を 作るよりかはコスト的に安上がりになるのではないか。利益相反の回避をマネジメン トする組織はあって良い。単純に事実関係を出すだけで良いのではないかと思う。過 去データの検証とか、それだけで充分なのではないか(藤本氏)。

チェックする機関は必要だと思う。でも誰がやるかと言うと、誰もやりたがらない ということではないでしょうか。例えば、大学が研究機関を作って、そのような事を やるとかという考えもあると思う(安達氏)。

現実性という意味ではまだまだ乏しいという段階なのではないかという気がします。

しかしながら、そういったものを研究検討される意味というのはあると思います。

格付会社からの協力体制を得ること。格付会社が協力せざるを得ない仕組みにして いくということがやっぱり大切なんではないかなと思います(小林氏)。

組織の実現性については、リスクマネジメント部門を持たせるのが良いのではない でしょうか。現実性はあると思います。現実的に組織を作るというのは、とても難し いことであると思うんですけれど。それを動かす言葉が利益相反への絞り込みだけだ と難しいかも知れません(岸本氏)。

②まとめ

格付制度に利益相反の回避をマネジメントする組織はあった方が良いとする考えが 多数であることが確認できた。その一方で、組織の実現は難しいとする考えも多くみ られた。費用面の課題と利益相反への絞り込みだけでは組織を作る動機が希薄である ことが主な理由であった。格付機関の業界団体は現在存在しないが、業界団体のよ

(14)

うなものを作り、そこに利益相反の回避をマネジメントする組織を置く。利益相反の 回避をマネジメントする組織にリスクマネジメント部門を持たせるべきという意見も あった。

5.2 提案する制度の検証

(1)インタビューによる検証

インタビューによる検証では、提案する仕組みについて、格付の分析と検証作業を 行うと利益相反の回避をマネジメントできることが支持された。

その一方で、格付の依頼者に代わって格付機関を選ぶと利益相反の回避をマネジメ ントできることは支持されなかった。

新たなリスクの発見と特定を行い、それらを格付関係者全体で共有することの重要 性が指摘された。

課題は提案する仕組みの運営費用徴収先と徴収方法、専門性を持つ人材の確保であ ることが認識できた。

①格付の分析と検証作業を行うと利益相反の回避に有効である。

格付機関の格付が横並びに比較できるよう格付の比較可能性を持たせると利益相反 の回避に有効である。

格付機関は、格付の方法論に対して独自の哲学を有しており、格付があらわしてい るものは、格付機関によって異なっている。同じ記号で示された格付であっても、格 付機関が異なる格付を単純に比較することはできない。格付機関の格付表示を統一す ることについては否定的回答が得られた。各機関の格付に対する着眼点の違いや表示 が統一されると、差別化をするために、この部分を甘くしておこうといった考えが発 生するという指摘もあった。

②格付機関が公表している格付ごとの過去のデフォルト率は利益相反回避のための比 較対象として有効である(6)

格付機関は、このような過去のデフォルト率の開示など、自らの透明性を向上させ る取組みを行っている。しかしながら、それらの情報を第三者が客観的に判断すると いう仕組みがなく、格付制度の関係者にも共有されていない。過去のデフォルト率は、

格付機関が既に公表しているものである。そのため、格付機関の作業負担も増えず、

デフォルト率を分析するための利用料も当初設定したスコア算出に比べるとはるかに 安価で済む。その一方で、格付の比較可能性といった分析作業を行う者には、高度な 専門性が必要とされる。そのため、専門性に見合った人材を確保するには、仮説で設 定した金額よりも多くの費用が必要となる(7)

③格付の依頼者に代わって格付機関を選ぶと利益相反の回避をマネジメントできるこ とは支持されなかった。理由は、格付機関は格付の着目点や格付に対する哲学が異なっ ており、格付の依頼者がそれを選べないことは、格付にとって最も重要なものが失わ れてしまうというものであった。また、格付は営利企業の商品であり、格付機関を選

(15)

ぶことができなくなると格付機関が営利企業として成り立つ存在意義がなくなるとい う指摘もあった。

④格付機関は、利益相反に対して高い意識を持ち、利益相反の回避に取り組んでいる ことが確認された。しかしながら、格付を依頼する側からすると、甘い格付を行って ほしいと言った考えが残っており、格付の依頼者、格付の利用者にも利益相反に対す る高い意識があるとは言えなかった。

格付機関は利益相反の回避に取り組むものの、格付の依頼者が利益相反を発生させ ようとする可能性も否定できない。これは、先行研究の多くで指摘されている格付機 関が利益相反を発生させているとする考えとは逆の結果であった。

⑤利益相反の回避に向かおうとする規律付けを行う仕組みがないままでは、利益相反 が回避されるとは言えない。

格付機関、格付の依頼者、格付の利用者全てが利益相反の回避を意識するように変 わらねばならない。制度の参加者全てが利益相反に対する高い意識をもつために、利 益相反の回避をマネジメントする組織の運営費用を格付機関、格付の依頼者、格付の 利用者全てが負担することが望ましい。費用をとりやすいのは、格付の依頼者である 発行体である。格付の信頼性が向上することにより、格付機関、格付の利用者である 投資家も費用を拠出すべきではないかとの意見も見られた。

⑥サブプライム商品のような新しい商品、それが格付をすることにより初めて販売可 能となる商品の場合、市場の変化を情報収集し、それがもたらすかもしれない社会的 なリスクについて検討し共有しなければならない。

(2)ケーススタディによる検証

利益相反の可能性が指摘された過去の代表的な事象について、筆者の提示する利益 相反の回避をマネジメントする制度があれば、利益相反は回避されたのかを検証した。

代表的な事象として、2001

9

月におきたスーパー業界大手のマイカル破たん、

2001

11

月におきたアメリカエネルギー関連のエンロン破たん、2007年から

2008

にかけて発生したサブプライム危機をとりあげた。

マイカル破たんでは、破たんの

1

年以上前から格付機関間で評価の大きな乖離が見 られた。JCRは、第

3

回債から第

12

回債、第

22

回債から第

27

回債の無担保普通社債 に対し依頼格付を行っていた。R&Iは、第

13

回から第

21

回までの無担保普通社債に 対し依頼格付を行い、それ以外の債券については依頼格付を行っていなかった。非依 頼格付(8)のムーディーズ、スタンダード

&

プアーズ(以下

S&P)は、破たんの 2

以上前から、安全な投資には向かないことを示す投機的格付を付与していた。2000

3

1

日に

S&P

が、投資不適格である

B

に格下げを行った。この時点で、JCRのみが 投資適格、ムーディーズと

R&I

が投機的であり、各機関のマイカルに関する見方が大 きく分かれた。依頼格付が甘い格付となっており、各機関の見解が

3

つに分かれる異 常な状態となっていた。この時点で、マイカル債に対する新規投資は控えるべきであ

(16)

り、既に行っていた投資は回収すべきであった。

エンロンの各格付機関の格付を比較すると、10

16

日にムーディーズが格下げ検 討を行い、実際格下げを行ったのが

10

29

日である。追加融資を受けたにも係らず

11

1

日には、S&Pが長期格付を

1

段階格下げしている。格下げ検討からわずか

2

間で全ての格付機関が格下げを行っており、異常な状態となっていたと言える。筆者 の提示する組織が各格付機関の格付の分析と検証を行い、格付の比較可能性を持った 結果を提示していれば、破たんの

1

カ月前には利益相反の回避をマネジメントするこ とができた。ただし、この時点では、エンロン債が組み入れられている投資信託の新 規購入を控えるといった一部の個人投資家しか救済することしかできなかった。

サブプライム危機時に、格付の分析と検証を行っていれば、サブプライム商品の格 付に想定していなかったことが起きていることは指摘できた。2008

1

1

日時点で 最高位格付である

Aaa

を取得していたサブプライム商品の

93%が 1

年以内に投資不適 格になっていた。投資適格とされていたサブプライム商品の

9

割以上が短期間で投資 不適格に変更された。変更後の格付が実態をあらわしているのであれば、変更前の格 付は甘い格付ということになる。格付の分析と検証を行っていれば、利益相反となっ ていることを指摘できた。

ケーススタディによる検証から、筆者の提示する仕組みが有効であること、格付制 度における新たなリスクとは何か、そしてそのリスクに対してどのように対応すべき かを指摘する仕組みが新たに必要なことがわかった。

格付の各機関間での比較を行うと、格付の歪みが検出できる。その結果、甘い格付 を行っている格付機関が明らかになる。格付が付与される状況を格付機関間で比較す ると、短期間に頻繁に格付の見直しが行われる異常状態であることが指摘できる。エ ンロン破たんの場合、わずか

1

カ月程度で全ての格付機関が

2

段階格下げした。その ような対象への投資を避けることで、短期的ではあるが、被害を少なくすることがで きる。

6.結論と残された課題

(1)結 論

格付制度における利益相反回避の具体的解決策を明らかにすることを目的として格 付制度の構造に関する分析をおこなった。格付制度での実施事例や制度そのものの変 化を年代ごとに整理したところ、格付制度の利益相反には歴史的に形成されてきた同 制度の構造的問題が関連していることが明らかとなった。格付制度に関連する先行研 究のレビューをおこなった結果、格付制度の構造的問題について触れられていないこ とが明らかとなった。また、他制度で類似した構造的問題とその改善策を検討したと ころ、それら他制度の問題改善策が格付制度に応用可能であることが示唆された。格 付の依頼者に代わって格付機関を選ぶ組織、格付機関から提供された情報を分析し利 益相反の可能性を指摘する組織はどうあるべきか、構造的問題に着目して考察を行っ た。以下のとおり、格付制度における利益相反回避の解決策が明らかになった。

(17)

1)

格付制度における甘い格付、実態を伴わない格付に起因する利益相反を回避する ためには制度を変える必要がある。

2)

利益相反の回避をマネジメントする組織を格付制度に作れば、甘い格付、実態を 伴わない格付に起因する利益相反を回避することができる。

利益相反の回避をマネジメントする組織を格付制度に作ることが、格付制度におけ る利益相反回避の具体的解決策である。

過去の格付の分析と検証を行い、格付を各社で比較可能な形に整える。その結果を 制限せずに公開する。そして、新しい商品に対する格付の可否等、新たなリスクの発 見と特定を行い、それらを格付関係者全体で共有する。これらが、格付制度における 利益相反回避の具体的解決策の概要である。

図 61に、利益相反の回避をマネジメントする組織図を示す。

利益相反についての強い意識を格付制度の参加者で共有しながら、独立性をもった 団体が、過去の分析と検証を行う。さらに新たなリスクを探しだし、格付制度の参加 者で共有する。その結果、格付制度の参加者は利益相反を回避するような行動をとる ようになる。そして、投資家の利益と格付の依頼者の利益も守りつつ、格付機関自ら の利益も確保することができる。

図 62に、格付制度の構造に着目した利益相反の回避をマネジメントする制度を示す。

利益相反の回避をマネジメントする制度が格付制度にあると、規律付けが行われ、

格付制度における利益相反はマネジメントされ回避される。

図 63に格付制度における対立の内容と利益相反の回避をマネジメントする制度に より解決する内容の関係性を示す。

格付を付与する際の透明性は重要であるとする考えがある一方で、経営トップへの インタビューや公開されていない秘密性のある情報こそ重要であるとする考えがある 透明性と秘密性の対立は解決されなかった。

格付制度における利益相反回避の具体的解決策とは、格付の分析と検証作業を行う 図 6–1 利益相反の回避をマネジメントする組織図

(18)

こと、新たなリスクを探し指摘すること、であることが明らかになった。

(2)残された課題

利益相反の回避をマネジメントする制度には、それを実行に移す組織が必要である。

その運営経費をどのような形で徴収すべきか(9)。次に、格付の比較可能性に代表され る専門的知識を持つ人材の確保をどうするか(10)。これらが残された課題である。また、

格付の依頼者、利用者は、利益相反に関する意識は高いとは言えない結果が得られた。

格付、格付制度に関する理解度についても同様である。情報を的確に理解・解釈し行 動するリテラシーをどう高めるかが残された課題である。格付には、外部には公開さ れない情報と、各格付機関独自の方法論が用いられている。それゆえに、格付には情 図 6–2 利益相反の回避をマネジメントする制度

図 6–3 格付制度における対立の内容と利益相反の回避をマネジメントする制度により解 決する内容の関係性

(19)

報の非対称性が存在する。しかしながら、本論文において情報の非対称性の存在とそ の対応策については十分に論じられていない。格付制度における情報の非対称性の対 応策も今後の課題である。

■註

(1)新谷由紀子(2015)『利益相反とは何か ─ どうすれば科学研究に対する信頼を取り戻せる のか』筑波大学出版会、p.14.

 教員の個人的利益と大学における職務上の責任との間又は大学の利益と大学自体の社会 的責任との間に衝突が生じているように見える状況、を基にして定義した。

(2)格付の依頼者には、中央政府、地方自治体、一般事業会社などがある。

(3)今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針、2001626日 http://

www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2001/honebuto/0626keizaizaisei-ho.html(201510 11日アクセス)

(4)小池拓自(2009)『家計の保有するリスク資産 ─ 「貯蓄から投資へ」再考 ─ 』レファレンス 20099月号、p.78. http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/refer/200909_704/070404.

pdf(20151011日アクセス)

(5) ADR制度(Alternative Dispute Resolution)とは、裁判によらずに、紛争を解決しようと する裁判外紛争手続きのことである。紛争の解決手段を裁判と比較した場合、柔軟な解決 方法が選択できる制度である。そこから導き出される結果は、拘束力のない任意のもので ある。双方の当事者の間には当事者から独立した第三者が介在し、当事者間に発生してい る対立(紛争)に関する調停をおこなっている。和解の実績が多く、訴訟に比べて解決す るまでの時間が短いという特徴を持っている。

(6) 「過去の格付の実績において、格付のデフォルトリスクがどうなっているのかというのが、

明らかにされていれば使えると思います(藤本氏)。」

「実は格付会社はデフォルト率とか統計とかいろんな形で処理をして公表しているのは、当 然自分たちの格付の信頼性を自らが検証する作業でもある(小林氏)。」

(7)利益相反の回避をマネジメントする組織の運用費用を算定したところ、年間で最低約9,000 万円の経費が必要であった。これに加えて、監査費用等を加算すると年間で約1億円程度 の経費が必要となる。月額では約800~900万円程度となる。

(8)岡東務(2004)『日本の債券格付』税務経理協会、p.196.

(9) (1)投資家保護の名目で格付の依頼者から格付費用に上乗せして徴収する。(2)格付の信

頼性が向上するため、格付機関から徴収する。(3)制度により投資家は保護されるので格 付を利用する投資家が取引の際、取引費用に上乗せして徴収する。これら3つの方法が考 えられる。

(10) 証券アナリストの活用。格付機関も法人会員に加入しており、証券アナリストの資格を有

するものは、格付の分析と検証ができる人材である。利益相反の回避をマネジメントする 組織で採用する専門家であるが、格付機関のOBOGでは、手心を加える恐れがあるとされ る。独立性の点からは、ユーザーである機関投資家の証券アナリストから採用することが 望ましい。これらのアナリストが持つ専門性を利益相反回避のマネジメントのために生か すことは実現性があると言える。

■参考文献

森谷智子、2013、「証券化商品市場における格付機関の適切な行動」『嘉悦大学研究論集』第56 巻第1号通巻103号、201310月、pp.2431

北川哲雄、2007、「アナリスト格付けの絶対性と相対性」関東学院大学『経済系』第233集、

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