歯
と
口
の
健康づくり
~オーラルフレイルを予防するには~
いつまでもおいしく
食べることは、生きるために欠かせない本能的な欲 求ですが、単に空腹を満たすためだけの行為ではなく、 その意義や重要性と効果が存在します。そのため歯科 医師は食の支援を日々行っております。 「おいしい」と感じる気持ちは喜びにつながる為、精 神的に安定し、幸福感を生む事ができます。
1. 体は栄養素と水分からできている
「体」は、食べ物を介して体内に取り入れた、炭水化物(糖質)・脂質・タンパク質・ ミネラルなどの栄養素と水からできています。2. 体は常にエネルギーが必要
何もしないでじっとしている時でも、呼吸や心臓の拍動など、常にエネルギーを使っ ています。規則正しい食事でエネルギーを補給する必要があります。3. 絶えず体は作り変えられている
臓器や筋肉、骨などの組織は、常に古い細胞から新しい細胞へと作り変えられてい ます。その材料となるのが食べ物に含まれる栄養素です。4. 必要量は少なくても体にとっては欠かせない栄養素がある
ビタミン・ミネラルなどの微量栄養素は、他の栄養素が体を作る際の補助役です。 そのため、不足すると他の栄養素が上手く機能せず、骨がもろくなる・貧血など健康 を損なう原因となります。●
食べ物の刺激による体への影響
①食べ物を口に入れ、噛んで飲み込む
➡
②味覚・視覚・触覚・温覚・嗅覚・聴覚が働く
➡
③口腔内からの感覚により、中枢神経を介して消化・吸収・代謝まで
連動して作用がおこり、生命力や免疫力、代謝機能に大きな影響を
与える。
食べることは生きる喜び
◆
咀
そ し ゃ く嚼………食物を噛み、食べやすく、飲み込みやすくすること。
◆
摂食………食事を摂ること。
◆
嚥
え ん下
げ………飲み込むこと。
◆
味覚………食べ物のおいしさを感じること。
◆
構音・発音……言葉を発する、 口笛を吹く。
◆
脳への刺激……噛む動作が脳への活性化になる。
◆
呼吸への関与…鼻とともに、呼吸する。
◆
力の発生………瞬間的な力を出すときに食いしばる 等
参考文献:EBMに基づいた口腔ケアのために:必読文献集:2002年:医歯薬出版口腔機能の役割
オーラルフレイルとは「口腔機能の虚弱」を指し、身体の衰え (虚弱)の一つです。 この「オーラルフレイル」は健康と機能障害との中間にあり、可逆的であることが大き な特徴の一つです。つまり早めに気づき適切な対応をすることにより健康に近づきます。 この「オーラルフレイル」の始まりは、滑舌低下、食べこぼし、わずかなむせ、噛めな い食品が増える、口の乾燥等ほんの些細な症状であり、見逃しやすく、気が付きにくい特 徴があるため注意が必要です。オーラルフレイルが改善されないと栄養障害に陥り、全身 の虚弱化につながります。オーラルフレイルとは
心身の虚弱は、精神面の不安定から口腔機能管理への自己関心度が低下し、歯周病、残 存歯数の低下が現れる「第1段階」より始まり、口腔機能の軽度低下に伴う食習慣悪化の 兆候が現れる「第2段階」が「オーラルフレイル期」となります。 さらに口腔機能が低下し栄養障害に陥り、全身の筋力が衰えてくる「第3段階」を経て、 要介護状態に陥る「第4段階」へと続いていきます。
オーラルフレイルの位置づけ
QOL(口腔・全身)
・生活機能
口腔リテラシーの候補 ①口腔への無関心 ②口腔保健行動 ③口腔情報活用能力 等疾患(多病)
・多剤
心身機能
口腔機能
【第1段階】 社会性/ 心のフレイル期 歯の喪失 歯周病・齲蝕 口腔リテラシー低下 (口腔への関心度) 精神(意欲低下) 心理(うつ) 活動量低下 生活の広がり 【第2段階】 栄養面の フレイル期 ・ 滑舌低下 ・ 食べこぼし ・ わずかなむせ ・ 噛めない食品増加 ・ 食欲低下 ・ 食品多様性低下 【第3段階】 身体面の フレイル期 ・ 咬合力低下 ・ 舌運動の力低下 ・ 食べる量低下 ・ サルコ・ロコモ ・ 低栄養 ・ 代謝量低下 【第4段階】 重度 フレイル期 ・ 摂食嚥下障害 ・ 咀嚼機能不全 ・ フレイル ・ 要介護 ・ 運動・栄養障害 ※ ※回復する機能もあります。 ※ オーラルフレイルオーラルフレイルを予防するには
①「社会性(他人とのコミュニケーションの維持)」
②「バランスのよい食事と歯・口の定期的な管理」
③「運動」
の要素を維持することが重要です。
オーラルフレイルの予防
《みんなで取り組みたいこと》
要支援・要介護状態になる前からの介護予防を推進するとともに地域における包括的・ 継続的なマネージメント機能を強化する点から、市町村において「地域支援事業」を実施 しています。要支援・要介護状態になる恐れのある虚弱な方に対して、今後も元気で生活 できるように口腔機能の維持管理を行います。みんなでみんなを支援します。
手を取り合って…
老人ホーム 地域包括支援センター 地域の医療機関 薬剤師・看護師・リハビリ 医師・歯科医師 介護支援専門員・介護福祉士 岩手県および市町村患者・家族
歯科的な観点においては、むし歯・歯周病などの口腔トラブルの治療や、歯を喪失した 際の早期治療、さらに歯科医院で定期的に検診を受け、健康な口腔環境を維持することが オーラルフレイルの効果的な予防につながります。 歯周病や虫歯などで歯を失った際には適切な処置を受けることはもちろん、定期的に歯 や口の健康状態をかかりつけの歯科医師に診てもらうことが非常に重要です。 また、地域で開催される介護予防事業などさまざまな口腔機能向上のための教室やセミ ナーなどを活用することも効果的です。介護予防に向けた取り組みの1つとして「口腔管理」や「摂食 機能の維持・向上」の重要性が指摘されています。栄養状態の改 善や誤嚥性肺炎の防止などはもとより、「口から食事を摂る」こと による生活の質の向上も期待され、地域包括ケアシステムの構築 においても重要テーマの1つとなります。
①嚥下体操
嚥下(えんげ)とは「飲み込み」のことです。嚥下は、舌やお口の周り、首などの筋肉を 使って、食べ物や飲み物をのどの方へ送り込み、のどを通過した食べ物をさらに食道へ送り 込む一連の動作を指します。嚥下体操は、そのために必要な筋肉の体操です。②唾液腺マッサージ
お口の中には、だ液腺と呼ばれるだ液の出やすいポイントがあります。だ液の分泌を促す ために、だ液腺を刺激することを、だ液腺マッサージと言います。③口腔周囲筋ストレッチ
口腔周囲筋とは、名前の通り、お口の周りの筋肉のことです。唇やほほ、舌、あごなどが 含まれます。口腔周囲筋のストレッチをすることは、筋肉の動きの改善につながります。つ まり、お口の働きの改善や誤嚥性肺炎の予防にもつながるのです。④口腔内ストレッチ
口腔内の粘膜は、口腔ケアの際に発生する刺激により、だ液の分泌が促されたり、お口の 筋肉のトレーニングになったりします。口腔周囲筋ストレッチでも分かるように外からの刺 激も大切ですが、もちろん口腔内からの刺激も必要です。⑤ガムラビング
ガムラビングとは、器具を使わずに指で歯ぐきのストレッチをすることです。口腔ケアの 器具が手元にない場合や、お口の周りの筋肉が硬いために、スポンジブラシでは柄が曲がっ てしまって、うまく行えない場合にガムラビングを行います。⑥パタカラ体操
パタカラ体操はお口の代表的な体操の一つで、食べ物を上手にのどの奥まで運ぶ一連の動 作を鍛えるための、発音による運動です。 加齢に伴い筋肉が弱ってくると、お口の周りの筋肉や舌の動きが悪くなります。その予防・ 改善が目的です。「パ」「タ」「カ」「ラ」と発音することで、食べるために必要な筋肉をトレー ニングします。口腔機能向上に向けて
地域における方々のかかりつけ歯科医としてお口の問題やトラブルを早期発見する為、 定期検診を行い、可能な範囲で歯科治療予防処置、口腔の維持・機能 向上を行います。さらに、咬合の構築を行い、いつまでもおいしく食 事ができるよう管理します。 オーラルフレイルに関する研修に積極的に参加し研鑽に努めるとと もに、地域の方々を支える保健医療福祉の活動に積極的に協力します。