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土木学会論文集 B3( 海洋開発 Vol. ), 73, No., I_5-I_3, 17. 極海に進出した. こうした活動により北極圏の情報が拡大し, 北極にむかう活動は海棲哺乳類やトナカイの狩猟目的から, 次第に毛皮 木材などの交易を目的とするものに移行していった. 大航海時代に入り, 航海術の

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北極海航路による海上輸送の変遷と特徴

大塚 夏彦

1

・大西 富士夫

2

・泉山 耕

3 1正会員 北海道大学北極域研究センター (〒001-0021 札幌市北区北 21 条西 11 丁目 北海道大学 次世代ポストゲノムセンター棟 2F) E-mail: [email protected] 2北海道大学北極域研究センター (〒001-0021 札幌市北区北 21 条西 11 丁目 北海道大学 次世代ポストゲノムセンター棟 2F) E-mail: [email protected] 3北海道大学北極域研究センター (〒001-0021 札幌市北区北 21 条西 11 丁目 北海道大学 次世代ポストゲノムセンター棟 2F) E-mail: [email protected] 2010 年以降,北極海航路による東西輸送が拡大中である.当初は燃料や資源の高騰を背景とした欧州・ アジア間輸送が拡大し,それが 2014 年に急減した後は,ロシア北極海沿岸の資源開発が駆動力となって, 輸送貨物量は増大傾向にある.夏期北極海では海氷減少が進行中で,船舶の航行環境は緩和しつつあり, 近年は多様な船が夏の北極海港航路を航行する様になってきた.北極海航路の輸送距離短縮により,燃料 費や船体償却が低減され,ロシアの砕氷船料金などのコスト増を相殺する効果が出る.これにより,バル ク貨物は輸送コスト削減が実現しやすい.当面はロシア北極海沿岸での天然資源開発に関連するバルク貨 物が,北極海航路の主要貨物となって,海上輸送が拡大していくと考えられる.

Key Words : Arctic Ocean, Northern Sea Route, ice navigation, maritime transport

1. はじめに

北極航路とは,北極海を横断して大西洋と太平洋をつ なぐ航路の総称である.このうちロシアの沿岸海域を東 西に結ぶルートは北東航路,北米大陸側の多島海を東西 に横断するルートは北西航路,北極海の中央部を横断す るルートは極点航路と呼ばれている(図-1).厳密には, 北極海航路とは北東航路のうち沿岸国であるロシアの定 義によるノバヤゼムリヤ島の東岸を西端,ベーリング海 峡を東端とする区間の名称で,約2,300NMの航行ルート である.北極海航路を使うと,欧州北部と東アジア地域 の間の海上輸送距離を,現在のスエズ運河回りルートよ りも30%~40%短縮することができると同時に,ソマリア 沖の海賊出没海域や輻輳するマラッカ海峡などのチョー クポイントを回避することができる.また,地球温暖化 による北極海の海氷減少により,氷海航行が容易になり つつあることから,近年注目を浴びるようになった.本 論は,北極海航路利用の変遷,近年の実況を整理し,こ れらを通じて海上輸送路としての特徴について考察した ものである.

2. 北極海航路の沿革

1)2)3) 北極海が歴史記録に現われるのは5~10世紀のことで, 僧侶や漁夫による航海の断片的な記録による.8~10世紀 になるとヴァイキングが登場し,アイスランドやグリー ンランドに勢力を拡大した.14世紀に入ると,ヴァイキ ングに代わり,鯨を求めてバスク人が北極海域に進出し 始め,これに続いてオランダや英国が捕鯨場を求めて北 ①ノバヤゼムリヤ ②スバールバル ③カラ海 ④東シベリア海 ⑤トロムセ ⑥キルケネス 図-1 北極航路 ① ② ③ ④ ⑤ 北東航路 北西航路 極点航路 ⑥ ベーリング海峡

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極海に進出した.こうした活動により北極圏の情報が拡 大し,北極にむかう活動は海棲哺乳類やトナカイの狩猟 目的から,次第に毛皮・木材などの交易を目的とするも のに移行していった. 大航海時代に入り,航海術の発展も伴い,北に向かう 領域拡大の活動も拡大していった.グリーンランド,ス バールバル海域には多くの捕鯨船が展開した.18世紀, デンマーク人のベーリングは,ロシア皇帝の命の下,カ ムチャツカ,ベーリング海,東シベリア海などを探査し た.北極海を渡って大西洋と太平洋をつなぐ新たな海路 をめざす探検も行われたが,成果を見るには19世紀にま で待たなければならなかった.19世紀末,スウェーデン 人ノルデンショルドは,ノルウェーのトロムセを出港し, 北東航路を通って北極海を横断してベーリング海に到達 し,史上初めて北東航路の完全航海に成功した.一方北 西航路の横断航海は,20世紀初めにアムンゼンによって 実施されたが,これには3年の歳月を要した.欧州からノ ルデンショルドによって啓開されたカラ海地域へ向かう 商業航海は,20世紀初頭まで多数実施されたが,多数の 難破事故や,目的地にたどりつけずに引き返すなど,非 常の危険なものであった. ロシア革命後の1930年代,旧ソ連は,砕氷船に率いら れた貨物船団を運航して西欧との貿易を展開した.1980 年代には氷海商船の船団と,その運航支援のための原子 力砕氷船を中核とする砕氷船団が整備された.旧ソ連時 代,その北極海域は諸外国に対して固く閉ざされてきた が,1987年,ゴルバチョフ書記長が北東航路を国際商業 航路として解放することを宣言した.また北極海航路区 間の航行に関し,ロシア当局への事前申請,原子力砕氷 船に支援された航行とその費用の徴収などを法制化した. 1995年には,INSROP/JANSROPプロジェクトのもと,ロ シアの氷海商船を使って横浜~キルケネス(ノルウェー) 間の実践航海試験が実施された.しかしその後は,ロシ ア経済の混乱や,北東航路の国際的な経済競争力低下な どのため,国際的な関心を集めることはなかった.

3. 北極海航路の概要

(1) 北極海航路の概要 北極海航路が通るロシア沿岸域は西から順に,ノバヤ ゼムリヤ島,セベルナヤゼムリヤ島,ノボシビルスク諸 島,ウランゲル島によって,カラ海,ラプテフ海,東シ ベリア海,チュクチ海に分けられ,航路はこれらの島と 大陸または島同士の間の海峡を通るものとなっている (図-2).北極海航路の水深は全般的に浅く,最も浅いサ ニコフ海峡はロシア政府により,航行船に対して-12.5m の喫水制限が課せられている(図-3). 北極圏では,夏期は終日太陽が沈まない白夜の期間が 出現する一方,11 月には急速に日照時間が短くなり,終 日太陽の出ない極夜の期間が始まる.図-4 は,アメリカ 海洋大気庁が 1948 年からの観測記録を使って全球の気 象を再解析したデータセット NCEP/NCRR Reanalysis4) り,2015 年における北極海航路ルート上の月平均気温を -250 -200 -150 -100 -50 0

60°E 90°E 120°E 150°E 180°E

水深 ( m) 経度 図-3 北極海航路の水深 カラ海東部 ラプテフ海 東シベリア海 チュクチ海 -40 -30 -20 -10 0 10 20 7 2. 5 8 5. 0 9 7. 5 11 0. 0 12 2. 5 13 5. 0 14 7. 5 16 0. 0 17 2. 5 18 5. 0 月平均気 温 ℃ 経度 May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec 図-4 北極海航路ルート上の月平均気温 ① ② サニコフ海峡 ロング海峡 ③ カラ海 図-2 北極海航路ルート ①ノバヤゼムリヤ島 ②セベルナヤゼムリヤ島 ③ノボシビルスク諸島 ④ウランゲル島 ラプテフ海 東シベリア海 カラゲイト ④ チュクチ海 ビルキツキー海峡

45E 60E 75E 90E 105E 135E 150E 165E 180E

120E 30E

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抽出した結果である.気温は西側のカラ海および東側の チュクチ海で比較的高く,中間のラプテフ海および東シ ベリア海は相対的に低くなっている.6 月~9 月の 4 か月 間で月平均気温は概ねプラス,5 月および 10 月以降は氷 点下となる.また 10 月から 11 月の間に急激に気温が低 下し,11 月の月平均気温は主要区間で-15℃以下となる. 北極海航路の重要な特徴は,欧州北部と東アジアの主 要港湾間距離を,スエズ運河を通過するルートに比べて 30~40%短縮できることである.表-1 はロッテルダム港 からアジアの主要港までの距離を北極海航路ルートとス エズ運河ルートで比較した結果である. (2) 北極海の海氷減少 北極海の海氷は,衛星観測が始まった 1970 年代以来, 継続的に減少してきたことが明らかになっている(図-5). 特に 21 世紀に入って,夏期の海氷面積の減少傾向は加速 し,2012 年 9 月には,北極海の海氷面積は衛星観測史上 最少を記録した.北極海航路はすでに 1990 年代に開通す る(海氷が無くなる)ことがあったが,近年は,夏期に は常態的にほぼ開通するようになってきた.2016 年にお ける北極海の最小海氷面積は,衛星観測開始以来,月平 均では5番目,日平均では2番目に少ないものとなった. 図-6 は北極データアーカイブ 6)を利用して,2014~2015 年における北極海航路ルート上の海氷密接度の半月平均 値を,ノバヤゼムリヤ島北端から西方向への距離に沿っ て整理した結果である.6 月後半においてもラプテフ海 以外の海域にはかなりの海氷が残っている.その後海氷 は急速に減少し,8 月下旬から 10 月初旬にかけて最も少 なくなる.このうち 9 月には,航路区間上からほとんど 海氷が無くなる.しかし 10 月後半には急速に海氷面積は 増大し,11 月後半には航路のほとんどが海氷に覆われる. (3) 北極海航路の航行 1994 年に発効した国連海洋法条約第 234 条では、氷に 覆われた水域で,特に厳しい気象条件が航行に障害,又 は特別な危険をもたらす水域について,沿岸国に海洋汚 染の防止に無差別の法令を制定する権利を認めている. また国際海事機関(International Maritime Organization)は, 極海域を航行する船舶の安全に関わる規則である Polar Code を定め,これは 2017 年に発効した. ロシアは国連海洋法条約を根拠に,EEZ 内を通る北極 海航路に関し,通航船の事前申請,通航船の構造的要求, 船員の氷海航行経験,航路管制,砕氷船による航行支援 を受ける義務,砕氷船支援料金,刑罰などを規定した北 極海航路法を制定し,通航する船舶に適用してきた.こ の北極海航路法は 2013 年と 2014 年に改訂されて現在に 至っている.現在の規定では,通航事前申請はインター ネットを通じて受付けられ,申請受理後 2 週間以内に審 査結果が通知される.航行許可証では,北極海航路を 7 つの海域に分け,海域別に季節,海氷の厳しさ,航行船 舶の氷海船級に応じて砕氷船支援の要否の条件が示され る.砕氷船支援はロシアの国営会社(Rosatomflot)が実 施し,その料金は利用者と砕氷船運航会社との協議で決 めることになっている.もし海氷条件が緩ければ氷海船 級の低い船舶の航行が許され,海氷のない海域では氷海 船級を持たない船舶の航行も許可される.実際に通航許 可を受けた貨物船は,海氷のある区間では,ロシア国営 会社が運航する原子力砕氷船に先導されながら航行して いる.航行船舶数が多くなると,複数航行船が一列に連 なったキャラバンを組み,この船団を同時にロシアの原 子力砕氷船が氷海中を先導する方式がとられている. 表-1 ロッテルダム港からの距離(単位:NM) 北極海航路 スエズ運河 航路 横浜 7367 11169 釜山 7674 10754 大連 8233 10858 青島 8146 10686 上海 8132 10409 香港 8813 9684 シンガポール 10234 8265 タンジュンプリオク 10479 8542 0 2 4 6 8 10 19 79 19 82 19 85 19 88 19 91 19 94 19 97 20 00 20 03 20 06 20 09 20 12 20 15 海氷面積 ;ar ea, (1 00 万 m 2) 図-5 北極海の海氷面積の推移5) 7月 8月 9月 10月 0 20 40 60 80 100 0 500 1000 1500 2000 2500 海氷密接 度 ( %) ノバヤゼムリヤ北端からの距離 (NM) Jun-2nd half Jul-2nd half Aug-2nd half Sep-2nd half Oct-2nd half Nov-2nd half

100E 140E 150E 170E

70E 経度

(4)

4. 北極海航路の利用動向

(1) 輸送貨物量の変遷 旧ソ連体制が崩壊するまで,北極海航路はロシアの北 極沿岸拠点への国内輸送を主体に継続的に貨物量を増や し,1980 年代後半には歴代最大の 658 万トンを輸送した. しかし旧ソ連体制の崩壊,並びにその後の経済危機等に よって急激に貨物量は減少した.その後 21 世紀に入って, アジア諸国の経済発展と天然資源や原油高騰などを背景 に貨物量は増大に転じ,2016 年には 690 万トンに達したと 報じられている(図-7).この間,北極海の海氷勢力の急 速な減退によって,航行環境が緩和しつつあることが明 らかになり,欧州アジア間の国際輸送路としての可能性 に関心が集まるようになった.2010 年には北極海航路に よる欧州・アジア間の貨物船試験運航が実施され,これ を契機に 2013 年にかけて,北極海航路による欧州・アジ ア間の輸送実績が急拡大した.2013 年に北極海航路を横 断して輸送された貨物量は 136 万トン,横断航行船舶数は 71 隻に達した(図-8). 2010~2013 年において欧州側からアジア側に輸送さ れた貨物は,鉄鉱石(フィンランド及びロシア産),ガス コンデンセート,ナフサ,LNG などであった.またアジ ア・太平洋側からはジェット燃料,石炭,冷凍水産品な どが欧州に運ばれた.アジア側の主な仕向け先は,中国, 韓国である.日本には,ノルウェーのハンメルフェスト から LNG が 2 度,欧州からナフサが 2 度,アイスラン ドから冷凍鯨肉が 1 度輸送された. しかし 2014 年,船舶燃料価格の下落,中国における 鉄鉱石市場価格の下落,国際海上輸送価格の下落などか ら,北極海航路を通じた欧州・アジア間の天然資源輸送 は急速に減退した.これに,ロシアのクリミア半島併合 に対するロシアへの経済制裁が発動し,ロシアが管轄す る北極海航路を利用する東西輸送は低迷することとなっ た.この状況は 2016 年の夏シーズンにおいても継続して いる.にもかかわらず,北極海航路による総貨物量は依 然として増大している.これは,ロシア北極海沿岸にお ける天然資源開発の拡大を背景に,資源開発関連貨物の 輸送が活発化していることに起因している.図-9 に, 2014 年 6~11 月に北極海航路を航行した貨物船の仕向け 先と隻数を示す. (2) 北極海航路航行船舶の特徴 図-9 より,欧州側からカラ海地域への航行数が突出し ていることがわかる.その主体となっているのが,ヤマ ル半島で進められているヤマル LNG プロジェクトの拠 点港であるサベッタ港と,エニセイ川下流の鉱業活動の 拠点であるドゥディンカ港である.サベッタ港には 2014 年以来,欧州及びアジア地域から LNG 基地建設のため の資機材の輸送が本格化している.2015 年からは,総数 150 基,総重量 45 万トンにのぼる大型プラントモジュール の,アジアの製造基地からサベッタ港への輸送が始まっ たところである.また,この建設プロジェクトのために 多くの作業船もサベッタ港へ集結している. このほか夏期の海氷勢力の減退によって,客船が北極 海を航行できるようになってきており,客船による観光 クルーズへの関心も高まりつつある.2015 年には複数の 客船が北極海航路に入った.2016 年は北西航路を横断す る観光クルーズも実施された. 図-10 は 2013~2015 年の 6 月~11 月の 6 か月間に北極 海航路を航行した船舶の種類を整理した結果である. このように,北極海航路の利用は,2010 年に始まった 横断輸送の拡大に続き,ロシア北極圏における資源開発 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 19 20 19 30 19 40 19 50 19 60 19 70 19 80 19 90 20 00 20 10 20 20 年間貨物量(千ト ン) 図-7 北極海航路の総輸送貨物量(1933~2016) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 20 10 20 11 20 12 20 13 20 14 20 15 20 16 横断航海数 北 極 海 航路横断貨物量 (千 トン ) トランジット航海数 トランジット貨物量 図-8 北極海航路横断貨物量と航海数 :ヤマル LNG、 :ドゥディンカ 西向横断(国際):2 西向横断(国 内):12 太平洋地域 間輸送:30 欧州地域間 輸送:47 東 向 横 断 (国内):9 欧州地域間輸 送:167 図-9 北極海航路貨物の仕向け先

(5)

が大きな駆動力となって拡大し,横断輸送はその後減退 したものの,資源開発関連や観光クルーズなど航路の利 用が多様化し,北極海航路に進入する船舶の種類も多様 化する傾向を示している. (3) 北極海航路の航行実態 国際航海に従事する 300 トン以上の船舶は,SOLAS 条約によって AIS(Automatic Identification System)の搭載 が義務付けられた.AIS は船上から船舶を識別する静的 情報,船位や船速などの動的情報を陸上局に送信してい る.この AIS 信号を人工衛星で受信したデータを用い, 北極海航路を航行する船舶の航行速度を分析した結果を 図-11 に示す.同図は 5,000DWT 以上の貨物船 13 隻分を 示したものである.これ以外の船舶を含め,海氷がほと んど無かった 8 月下旬~10 月上旬は,ほとんどが砕氷船 支援を受けない航海で,船速は 10~14kn であった.その 前後で海氷のあった月も,砕氷船支援によって船速低下 事例はわずかであった.ただし 6 月~7 月は航行海域が 西部のカラ海にほぼ限られ,船速は 8~10kn 程度であっ た.この中には,厳しい海氷に阻まれて,砕氷船支援航 行にもかかわらず,氷域通過に船速 1kn 程度で数日間を 要した事例が確認された.しかしこれ以外の多くの船速 低下事例は,海氷が原因と思われる状況ではなく,業務 上の都合での減速であったと推定している.

5. 北極海航路輸送コストと今後の展望

(1) 輸送コストの特徴7)8) ドライバルクや液体バルクの海上輸送コストにおい ては,一般に燃料費が卓越し,輸送コストの 30%~50% 程度を占める場合が多い.北極海航路を利用した欧州・ アジア間のバルク輸送の場合には,砕氷船支援料が燃料 費と同等程度を占める.ただし,同じ港湾間をスエズ運 河経由で輸送する場合に比べ,輸送距離が 30~40%短縮 され,燃料・油費および貨物船の運転経費の削減が可能 となる.また北極海航路区間は海氷に対する安全のため, 通常海域よりも低速で運航することになり,これも燃料 削減につながる.加えて砕氷船支援料がスエズ運河通航 料程度まで割引されれば,北極海航路輸送は,同型船で あれば,スエズ運河ルートによる輸送コストに対して優 位となる傾向がある. LNG 輸送では,船体償却費が輸送コストに占める割合 が卓越するため,輸送日数減少は輸送コスト削減に大き な効果を発現する.北極海航路を通じてサベッタ港(ヤ マル LNG)から横浜港に LNG を輸送する場合,輸送距 離はカタールからの輸送距離の約 76%となる.ヤマル LNG の輸送コストは,北極海航路による輸送日数短縮に よって,高額な氷海 LNG タンカーの船体償却費が相殺 され,カタール産 LNG の輸送コストをわずかに上回る 程度と推算された.自動車運搬船による完成自動車のブ レーマーハーフェン~横浜間の輸送では,LNG と同様に 輸送期間短縮による船体償却費削減が,北極海航路にお ける費用増を相殺し,スエズ運河ルートよりも優位にな る可能性がある結果となった. コンテナ定期輸送については,7 隻の 4,000TEU 耐氷コ ンテナ船にてアジア 3 港,欧州 3 港を 49 日で往復し,夏 は北極海航路,冬はスエズ運河を通航するシナリオにて, スエズ航路を 8,000TEU 船で通年運航する場合に匹敵す るコストでの輸送が可能となる.しかし今日の超大型コ ンテナ船によるスエズ航路での輸送コストにはかなわな い.北極海航路の優位性は,コストよりも,約 80 日を要 するスエズ航路往復を大幅に短縮できる速達性にあると 考えられる.北極海航路の航行可能期間が拡大するほど 輸送コストは抑えられ,航行の難易度も軽減される.た だし現時点では,運航の定時性がどこまで担保できるか, さらなる実証が必要な段階である. 燃料価格は,北極海航路による輸送コストの優位性に 大きく影響する.2010 年台初頭は燃料価格が高騰し,北 極海航路の輸送コスト削減効果に注目が集まった.しか し近年は燃料価格が大幅に下落し,北極海航路によるコ 0 50 100 150 200 250 300 350 400 2013 2014 2015 船 舶 数( 隻) 年 Other Icebreaker

Other working vessel Dredger

Tow boat Tug

Offshore supply ship Research/survey Vessel Passenger ship Trawler&fishing boat Reefer Fish carrier Inland tanker/vessel LNG tanker Oil/chemical tanker Crude oil tanker Heavy lift Ro-ro cargo Container General cargo/container General cargo Bulk Carrier 図-10 北極海航路を航行した船種(6月~11月) 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 0 50 100 150 200 船速 ( kn ) 経度 Jun Jul Aug Sep Oct Nov

(6)

スト削減幅が縮小した状態にある.またバルク輸送では, 燃料費に匹敵するコストである砕氷船支援料が,ロシ ア・ルーブルの為替動向よって大きく変化する.現在の ロシア・ルーブルは米ドルに対し, 2013 年に比べ約半 分の価値となっており,ルーブル建て契約であれば砕氷 船料金は,2013 年当時に比べて 50%割引状態となる. 以上の様に貨物種別や輸送条件により,北極海航路に よる輸送コスト削減効果は変化する.また海氷条件の緩 和により,北極海航行のコスト増要因も緩和する.しか し実際の輸送価格は多くの市場要因から形成されており, 上記特徴がそのまま価格形成につながるとは限らない. (2) 今後の北極海航路利用の可能性 2014 年以降,欧州・アジア間の北極海航路横断輸送は 低調である.これに代わり,ロシア北極海沿岸から積み 出される石油・天然ガスが今後の貨物の大半を占める見 通しである.2017 年末に生産開始が見込まれているヤマ ル LNG は,本格稼働時には年間 1,650 万トンの生産能力に 達し,その積出と帰港のための航海は年間約 320 回に達 する.これにロシアのカラ海沿岸から積み出される原油 を加えると,計画では年間 6,000 万トン以上が積み出され る.これは 2016 年の貨物量の 10 倍に迫る.また,こう した資源開発のために多くの資機材がアジアや欧州から 北極海沿岸に輸送されることになる.現にヤマル半島で は,第 2 の LNG 生産基地建設の計画が現実化しようと している.こうしたロシア北極海沿岸を起終点とする貨 物輸送の拡大に先導されながら,北極海航路利用はさら に多様化する可能性がある.しかし北極海とその沿岸に 関しては,情報もインフラも不十分であり,遅延や安全 性,衛生,環境影響,社会影響などのリスクの把握・分 析,その対策・予防策・被害・損害予測など,持続的な 北極海航路利用を実現するには,まだ多くの課題がある.

6. まとめ

本論では,北極海航路の沿革および航路としての特徴 を総括し,続いて近年の輸送貨物の特徴,氷海航行の実 態について整理した.続いて,北極海航路を利用した場 合の輸送コストの特徴,および今後の航路利用の可能性 について考察した.北極海航路による国際輸送はまだ始 まったばかりであり,氷海航行,海運市場での価値,環 境影響など,まだ多くの技術的課題が存在し,研究・開 発と実際の産業利用が並行して進行する状態にある.北 極海は 21 世紀に出現した新しいフロンティアであり,そ の持続的利用を慎重に進めることが求められている. 謝辞:本研究は,文部科学省の補助事業 ArCS 北極域研 究推進プロジェクトのテーマ 1・テーマ 7 のもとで実施 したものである. 参考文献 1) 財団法人シップ・アンド・オーシャン財団:北極海航 路 -東アジアとヨーロッパを結ぶ最短の海の道 -, pp.5-13,財団法人シップ・アンド・オーシャン財団, 2000. 2) ツェンケビッチ夫妻(徳力真太郎訳):北極に挑んだ 男たち, pp.2-35,原書房,1978. 3) ローレンス・カーワン(加納一郎訳):極地探検の歴 史 白い道,pp.13-51,社会思想社,1971.

4) NCEP Reanalysis data provided by the NO-AA/OAR/ESRL PSD, Boulder, Colorado, USA, http://www.esrl.noaa.gov/psd/.

5) The National Snow and Ice Data Center, University of Colorado, Boulder, (NSIDC) , https://nsidc.org/data/seaice_index/archives.html よ り 著 者作成.

6) 国立極地研究所北極観測センター,北極データアーカ イ ブ (Arctic Data Archive System) , https://ads.nipr.ac.jp/portal/index.action?lng=ja,.

7) Otsuka, N., Imai, K., Nagakawa, K. and Furuichi, M.,: Northern Sea Route Transport Scenarios for various car-goes, the 31st International Symposium on Okhotsk Sea &

Sea Ice, 2016.

8) Furuichi, M. and Otsuka, N. : Container Quick Delivery Scenario between East Asia and Northwest Europe by the NSR/SCR-combined Shipping in the Age of Mega-ships,

Maritime Economics & Logistics, The International

Asso-ciation of Maritime Economists. 2016.

(2017.2.2 受付)

REVIEW OF THE RECENT NORTHEN SEA ROUTE ACTIVITIES

Natsuhiko OTSUKA, Fujio OHNISHI and Koh IZUMIYAMA

This paper is aiming at reviewing current status of the Northern Sear Route. In the paper, historical back ground, geographical features, recent activities of cargo shipping, actual navigation in ice infested waters, and characteristics of shipping cost is described.

図 -6  北極海航路上の半月平均海氷密接度

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