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総 説 人間ドック 31: ,2016 BNP NT-proBNP 加藤公則 新潟県労働衛生医学協会新潟大学大学院医歯学総合研究科生活習慣病予防検査医学講座 Brain natriuretic peptide(bnp) と N terminal(nt)-probnp は心不全の診断, 予

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(1)

人間ドック

31

541-549

2016

総 説

BNP

NT-proBNP

研究の最前線

加藤公則 新潟県労働衛生医学協会 新潟大学大学院医歯学総合研究科生活習慣病予防検査医学講座 要 約

Brain natriuretic peptide(BNP)とN terminal(NT)-proBNPは心不全の診断,予後を推定できる 有用なバイオマーカーである.しかし,BNPは循環器内科医や一般内科医にとって有用なだけで はなく,将来は健診医にとっても有用なバイオマーカーと成り得ると思われる.つまり,BNPや NT-proBNPは心不全と診断できる値より低値で,将来の死亡,心疾患や脳卒中の発症を予測でき ることが知られてきている.したがって,人間ドックにて高血圧,糖尿病(耐糖能障害も含む),脂 質異常症,喫煙などがあり,すでに将来の動脈硬化性疾患の発症リスクのある人は,BNPや NT-proBNPを測定し,もし,それが正常高値にあれば,将来の脳心疾患の発症を防ぐために,さらに 厳密なリスク管理を施す必要があると思われる.さらに,BNPは糖代謝とも関連していることが最 近知られてきており,将来,糖尿病医にとっても大切なバイオマーカーになる可能性もある. キーワード BNP,NT-proBNP,健診受診者のリスク層別化,糖代謝

はじめに

心房の心筋細胞には分泌顆粒が存在すること1,2) から,心臓が単なる血液を送り出すポンプでない ことは推察されていたが,その分泌顆粒が意味す る機能などは不明であった.その後,その心房 抽出液に利尿作用3)と血管拡張作用4)があること が報告され,

1984

年に日本の研究者が心房性ナ

トリウム利尿ペプチド(

Atrial natriuretic peptide

ANP

)を世界に先駆けて発見した5).その後,相次 いで脳性ナトリウム利尿ペプチド(

Brain natriuretic

peptide

BNP

)6)

C

型ナトリウム利尿ペプチド

CNP

)7)が発見され,循環器疾患の診断,治療, 予後に対するこれらのペプチドの重要性はすでに 確立されている.ちなみに,現在では

ANP

BNP

は,

A-type natriuretic peptide

B-type natriuretic peptide

の略ともなっており,

CNP

3

番目に発見された ため,単純に

C-type natriuretic peptide

と名付けら れた. さらに,

proBNP

furin

などの酵素によって,

BNP

N- terminal

NT

-proBNP

に 切 断 さ れ, 等 モル濃度で血中に放出されるため(図

1

)8)

NT-proBNP

を測定することで,

BNP

の代用もできる ことになり,

NT-proBNP

も普及している. 健診機関では,

NT-proBNP

測定の利便性が高 いと思われる.それは,血漿ならびに血清でも測 定可能であることより特殊な採血管を用意する必 要がないこと,もともと活性を持っていないため 室温に検体を放置しても測定結果に影響がない ことなどが挙げられる.また,保存血清でも

NT-proBNP

は測定可能なため,疫学的研究に向いてい ることも利点の一つである.さらに,

NT-proBNP

は腎排泄のみで,

BNP

は腎排泄に加えて

neutral

endopeptidase

によって分解を受けたり,

clearance

receptor

による

endocytosis

も受けたりすることが 知られている.

NT-proBNP

は生体内で分解されな いため,

BNP

産生の状態をより正確に反映してい るともいえる.この代謝の違いから,

BNP

の血中 半減期は

20

分と短く,

NT-proBNP

120

分と長 い(図

1

)8)

心不全診断と

BNP

BNP

が心不全診断に威力を発揮することはよ く知られている.

Maisel AS

らの報告によれば,

Receiver Operating Characteristic

ROC

)解析の

Area Under the Curve

AUC

)は

0.91

と極めて

1

に近 く,心不全診断に関わる因子:心不全の既往歴,心

(2)

筋梗塞の既往歴,肺ラ音,肺血管陰影の増強,浮 腫,頸静脈の拡張などと比べても,その診断能は はるかに高いのである9).そして,

NT-proBNP

BNP

と比べてもその心不全の診断能に対しては 遜色なく8)

NT-proBNP

BNP

はともに腎排泄 性であることから,

BNP

NT-proBNP

eGFR

50mL/min/1.73m

2を下回るところで両者とも 増加して行き,

NT-proBNP/BNP

比をみた場合,

eGFR

15mL/min/1.73m

2未満で有意に増加す ることが知られている(図

2

)10).したがって,腎 機能がかなり進行した状態で,

NT-proBNP

がよ り強く腎障害の影響を受けるようである.さらに,

BNP

NT-proBNP

の心不全診断能を比べた論 文11)によれば,両者の心不全判定能力を

ROC

析の

AUC

で比べた場合,

NT-proBNP

の方が少し 高い数値を示すものが多い(表

1

).これは,前述 したように

BNP

は体内にて分解されることから,

NT-proBNP

に比べて診断能がわずかに劣るのか もしれない.例えば,肥満者ほど

BNP

が低いこと が知られており,これは脂肪組織にある

clearance

receptor

の増加により

BNP

の分解能が高まった せいであるとされていた12).このように

BNP

値を理解するときには,体内で分解されるとい う特性を加味する必要もあると考えられる.しか し,この肥満者における

BNP

の低下は,

clearance

receptor

の増加によるものではなく,産生の低下 ではないかと最近はいわれている13) いずれにしても,日本循環器学会の慢性心不全 治療ガイドライン(

2010

年改訂版)によれば,

BNP

100pg/mL

以 上,

NT-proBNP

400pg/mL

以 上 で心不全を強く疑うこととなっている14)

心不全患者の予後と

BNP

BNP

測定の意義のもう一つに,心不全患者の予 後を推定できるという点も挙げられる.心不全の 予後を推定する閾値は,心不全診断の閾値よりは 高めであり,

BNP 200pg/mL

以上,

NT-proBNP

900pg/mL

以上15)が一つの目安ではないかと考え ている.日本循環器学会の慢性心不全治療ガイド ライン(

2010

年改訂版)や日本心不全学会予防委 図1 BNPならびにNT-proBNPの産生,放出,受容体について

BNPは心筋細胞にて産生される.循環系に放出される際に,proBNPがBNPとNT-proBNPに開裂されるため,BNPとNT-proBNPは 等モルとなる.BNPとA-type natriuretic peptide receptorとの結合により,細胞内cGMP産生を介して生物学的効果を発揮する8)

(3)

員会の提言によれば,

BNP 200pg/mL

以上,

NT-proBNP 900pg/mL

以上あれば,心不全が確実に あるものとして診療を進めていくことを推奨してお り,治療の対象となる場合が多いとしている14,16) また,

BNP 200

250pg/mL

が心不全患者の退院 のタイミングの指標になる17),外来通院中の心不 全患者においては

BNP 190pg/mL

以上で心事故が 増加する18),心筋梗塞後の患者においては

180pg/

mL

以上(心筋梗塞発症から約

1

ヵ月後の測定値)で 心臓死が増加する19)などの報告があり,この

BNP

200pg/mL

NT-proBNP 900pg/mL

に相当すると 考えられる. 今までは,心不全管理とは,体重増加,下腿浮 腫,自覚症状,胸部

X

線などを組み合わせて総合 的に判断する,まさしく内科医の熟練の技の一つ であったわけであるが,

BNP

を測ることで心不全 コントロールがより簡便になったのではないかと考 えられる.しかし,ここで一つ注意しなくてはいけ 図2 eGFRを10mL/分毎に10群に分けた血中濃度の検討(A:BNP,B:NT-proBNP,C:NT-proBNP/BNP比)

ほぼ正常群を使って検討したいため,BNPが100pg/mL未満の症例のみ解析に用いた.*p<0.0510)

(4)

ないポイントとして,生物学的変動が大きいことが 挙げられる.

BNP

30%

20)

NT-proBNP

25

40%

21)にも上るため,経過をみていくときには多少 注意が必要である.前値の

2

倍となるような

BNP

NT-proBNP

の値を示したら,心不全の病態に必 ず変化が起きているものと考え,病態の再検討な らびに治療の変更も必要であると考える16) この

BNP

NT-proBNP

の予後に対する判定と して,どちらがすぐれているかを比べた研究結果 によれば,少し

NT-proBNP

の方がその予測能は 高いようである22)

その他の

BNP

の特性

1

)加齢や性別と

BNP

BNP

の産生上昇は,心筋へのストレス,虚血な どのシグナルで説明されている(図

1

)が,

BNP

は 加齢とともに上昇し,男性よりも女性の

BNP

が 高いことも知られている.この一つの機序として, テストステロンの関与が示唆されている23,24).し たがって,テストステロンが高い若年者や男性は,

BNP

が低値になる. さらに,加齢による変化には腎機能との関連も考 えられる.何故なら,加齢による腎機能の潜在的 低下は明らかであり,この影響で加齢に伴い

BNP

が上昇している要素もあると思われる.次に,加齢 に伴い心筋細胞の脱落が起きることも知られてお り25),左室は

3,800

万個,右室は

1,400

万個の細 胞が

1

年間に失われ,残った心筋細胞が肥大化し ストレスも高まり,

BNP

も上昇するのであろう.

2

)高血圧と

BNP

血圧上昇と

BNP

が関連することも良く知られお り,我々の人間ドック受診者の解析でも認められ ている(表

2

)26).しかし,それよりも

BNP

に期待 する点は,白衣高血圧と真の高血圧を区別できる 可能性にある.一過性に血圧が上昇する白衣高血 圧では

BNP

も上昇しないと思われる.実際に,診 察室血圧より家庭血圧によく

BNP

が相関するとい う論文27)もあり,治療が必要な高血圧の判定にも

BNP

測定は活かされるべきと考える.

3

)不整脈と

BNP

心電図が正常である

BNP

上昇例において,発 作性心房細動の関与も報告されている28).した がって,心不全の自覚症状や他覚所見が乏しい場 合,発作性心房細動など頻脈発作の合併を念頭に 入れて,病歴の聴き直しやホルター心電図など検 査の追加が必要なのかもしれない. 我々の報告26)では,心室性期外収縮や上室性 期外収縮がある群では,

NT-proBNP

の平均値は 上昇している(図

3

).これは,期外収縮があって

NT-proBNP

が上昇している例があることを意味 しており,そのような健診受診者は専門機関に紹 介するべきであり,発作性心房細動や他の重篤な 不整脈の合併,器質的心疾患の除外診断などが必 要となってくる. この,高血圧や不整脈に関連する

BNP

NT-proBNP

の上昇27,28)は,心不全診断に閾値(

BNP

100pg/mL

NT-proBNP

400pg/mL

)ではなく, 後述する正常高値レベルの閾値(

BNP

40pg/mL,

NT-proBNP

125pg/mL

)程度の上昇に留まって いる場合が多いことから,このレベルからの介入 が必要と思われる16)

健診医からみた

BNP

さて,今まで述べてきた

BNP

の役割は,主に循 環器専門医が対象となる分野での利用法であった. しかし,我々健診医からみた

BNP

の使い道はない のであろうか.一般住民を対象とした

6

年間の追 跡調査29)では,男性

12.8pg/mL

,女性

15.8mg/mL

以上で有意に死亡率の上昇が認められている.そこ では,将来の心不全や心房細動の発症を規定できる ことに加えて,驚くべきことに脳梗塞や一過性脳虚 血性発作の発症も予測できているのである.このよ うに心疾患のマーカーである

BNP

が脳梗塞発症ま で予測できるという報告は他にもあり,

Kistorp C

らの報告30)では,死亡,主要心血管イベント,虚 血性脳卒中のすべてを

NT-proBNP

が予測できてお り,その予測能はほぼ尿アルブミン-クレアチニ ン比に匹敵し,高感度

CRP

を上回るものであった. さらに,日本の久山町研究の報告31)でも同様の結 果であり,

NT-proBNP

55pg/mL

を超えると 全身血管イベントが有意に高まり,

125pg/mL

を超えると,冠動脈疾患,虚血性脳梗塞,心血管

(5)

死が有意に高まることが証明されており,

BNP

NT-proBNP

が心臓だけではなく,脳梗塞ならびに 死亡まで予測できるマーカーであることは興味深 い.

BNP

100pg/mL

NT-proBNP

400pg/mL

以上はもちろん心不全の診断という意味で重要な閾 値であることから,循環器専門医に紹介すべき基準 であるが,例えば

BNP

40pg/mL

NT-proBNP

125pg/mL

という軽度の上昇の場合,すでに将来の 虚血性心疾患,心不全,虚血性脳疾患,全死亡のリ スク上昇が疑われているので,肥満,高血圧,糖尿 病,脂質異常症があった場合,無治療のまま放って おかずに,適切な介入(生活指導,薬物治療)が必要 なリスクの高い集団ととらえるべきである. 最近,この

NT-proBNP

の軽度上昇者に対して 治療を行った論文32)が発表された.これは,糖 尿病患者にて,明らかな心疾患の合併のない

NT-proBNP

125pg/mL

以上の人を

2

群に分けて,一 方には循環器医にも診てもらいレニン・アンジオ テンシン系阻害薬と

β

遮断薬を増量し

NT-proBNP

の正常化を目指す治療を行い,コントロール群は 糖尿病医が標準的治療を行ったもので,

primary

endpoint

は心疾患による入院と死亡であった.循 環器医が介入した群では,

primary endpoint

の有 意な改善が認められ,この改善効果は糖尿病で

NT-proBNP

125pg/mL

の患者と同様のイベント 発生まで抑えられていた(図

4

).これは,一般住 民を対象とした疫学調査から得られた

BNP

NT-proBNP

の軽度上昇のカットオフ値を用いて積極 因子 相関係数 有意確率 推定値 標準誤差 t 値 p値(Prob>|t|) 切片 400.0529 24.2338 16.51 <0.05 年齢 0.2529 <0.05 0.9604 0.0753 12.75 <0.05 BMI –0.1057 <0.05 –0.4491 0.4774 –0.94 0.31 腹囲 –0.0953 <0.05 –0.1703 0.1744 –0.98 0.36 心拍数 –0.0167 0.28 収縮期血圧 0.0638 <0.05 0.3958 0.0512 7.73 <0.05 拡張期血圧 –0.0025 0.87 喫煙指数 –0.0165 0.28 中性脂肪 –0.0945 <0.05 0.0025 0.0101 0.25 0.78 LDL-C –0.1068 <0.05 –0.1016 0.0225 –4.51 <0.05 HDL-C 0.0574 <0.05 総蛋白 –0.0692 <0.05 –0.6206 2.1656 –0.29 0.83 アルブミン –0.2541 <0.05 –29.0225 3.3559 –8.65 <0.05 総ビリルビン –0.0498 <0.05 AST –0.0135 0.38 ALT –0.1304 <0.05 –0.0313 0.0516 –0.61 0.61 γ -GTP –0.0430 <0.05 –0.0079 0.0140 –0.56 0.59 尿酸 –0.1314 <0.05 0.5850 0.6722 0.87 0.74 クレアチニン –0.1371 <0.05 白血球数 –0.0610 <0.05 赤血球数 –0.2449 <0.05 –0.1034 0.0215 –4.80 <0.05 空腹時血糖 –0.0566 <0.05 –0.0999 0.0415 –2.41 <0.05 HbA1c(JDS 値) –0.0119 0.44 高感度 CRP 0.0540 <0.05 6.1440 2.3879 2.57 <0.05 男女別[男] <0.05 –6.9969 1.0128 –6.91 <0.05 上室性期外収縮の有無[無] <0.05 –18.9576 4.5414 –4.17 <0.05 心室性期外収縮の有無[無] <0.05 –10.1801 4.1180 –2.47 <0.05 右脚ブロックの有無[無] <0.05 –4.1370 2.5161 –1.64 0.10 左脚ブロックの有無[無] <0.05 –119.4804 11.0093 –10.85 <0.05 左脚前枝ブロック[無] 0.51 心房粗細動の有無[無] <0.05 –72.5625 9.8922 –7.34 <0.05 左室肥大の有無[無] <0.05 –6.9302 1.2981 –5.34 <0.05 表2 NT-proBNPを規定する因子 連続変数においては単相関解析を行い,性別および心電図異常の2群間の比較においては対応のないt-検定を用いて検討し た.そして,有意差を認められた因子のみを採用しステップワイズ法を用いた多重回帰分析を行った26)

(6)

的介入することは,予後の改善につながることを 示唆するものである.しかし,本論文を詳細に読 むと,循環器医が積極的に介入した群においてさ え

NT-proBNP

の減少は認められていない.つま り,薬剤を工夫しても,この

NT-proBNP

の軽度 上昇を数値的に改善することは難しいことが示唆 されており,それでもなお予後は改善されている 点に注目すべきと考える.

BNP

の新しい世界

最近,発表された総説13)によれば,

BNP

は循環 器医だけのものではなく,代謝内分泌医にとって も重要なマーカーとなりつつあるとのことである. 疫学的検討において,

BNP

は肥満,インスリン抵 抗性,糖尿病があると減少傾向にあることが知ら れており,これは

NT-proBNP

も低下していること から,単なる分解系の亢進ではなく,産生系の抑 図3 性別と心電図異常におけるNT-proBNP値(pg/mL)の比較26)

(7)

制もあることが推定されている.そして,

BNP

に は中枢においては交感神経を抑制し,骨格筋にお いてはミトコンドリアにおける酸素消費能と脂質 代謝の亢進を促し,脂肪組織において脂肪分解を 亢進させ,褐色脂肪組織活性を亢進させ,アディ ポネクチン分泌を亢進させる作用があると報告さ れている(図

5

)33).そして,肥満(

BMI

30kg/m

2 があり,かつ

NT-proBNP

が低下している人は将 図4 ベースラインのNT-proBNPと治療方針別の主要エンドポイントにおけるカプラン−マイヤー曲線32) NT-proBNPが125pg/mL未満で今回の試験の対象とならなかった群と,125pg/mL以上で,従来のように糖尿病医が診ていた群 (controls),循環器医が125pg/mL未満を目指してRAS系阻害薬とβ遮断薬を積極的に導入した群(intensified)の3群間の比較.

(8)

来の糖尿病発症が有意に高まるとの報告34)もあっ た.つまり,

BNP

は単なる肥満による結果として 減少しているわけではなく,積極的に

BNP

そのも のが代謝をコントロールしている可能性が示唆さ れているのである.いずれにしても,この肥満者 において

BNP

が低下している機序や,

BNP

減少 で糖尿病発症が起こる機序についての将来の解明 が待たれるところである.

終わりに

近年,

BNP

濃度に影響を与える薬剤も増えてい る.例えば,糖尿病治療に多く用いられている

DPP

dipeptidyl peptidase

-4

阻害薬は,血中

BNP

の分 解を抑制することで

BNP

の血中濃度が高まる可能 性がある35).また,最近心不全治療薬で脚光を浴び

ている

NEP

neutral endopeptidase

)阻害薬は,まさ しく

BNP

を分解する

neutral endopeptidase

を阻害 し

BNP

を上昇させることで心不全の治療を行うと いう薬物であることから,心不全の状態を正確に 把握するためには薬剤の影響の少ない

NT-proBNP

の方が有用であろう. さらに,血清で測ることができて,室温でも安 定な

NT-proBNP

は健診に向いている検査ともい える.

BNP

NT-proBNP

の測定によって,より ハイリスクな健診受診者を見出し層別化できる可 能性もあり,このような観点から,健診医にとっ ても再度

BNP

NT-proBNP

を見つめ直すことが 重要と思われる.

利益相反

生活習慣病予防検査医学講座は,寄付元が新潟 県労働衛生医学協会の寄附講座である. 文 献

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図 2   eGFR を 10mL/ 分毎に 10 群に分けた血中濃度の検討( A : BNP , B : NT-proBNP , C : NT-proBNP/BNP 比) ほぼ正常群を使って検討したいため, BNP が 100pg/mL 未満の症例のみ解析に用いた. *p < 0.05 10) .
図 5  心臓由来のナトリウム利尿ペプチドである ANP と BNP の主たる生物学的標的臓器とその効果 33 )

参照

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