ルートヴィヒ・ベヒシュタイン編著
『ドイツ伝説集』
(一八五三)試訳(その九)
鈴
木
滿
訳・注
*凡例 1. ル ー ト ヴ ィ ヒ・ ベ ヒ シ ュ タ イ ン 編 著『 ド イ ツ 伝 説 集 』( 一 八 五 三 )( 略 称 を D S B と す る ) の 訳・ 注 で あ る 本 稿 の 底 本 に は 次 の 版 を 使用。 Deutsches Sagenbuch von Ludwig Bechstein. Mit sechzehn Holzschnitten nach Zeichnungen von A. Ehrhardt. Leipzig, Verlag vonGeorg Wigand. 1853. ; Reprint. Nabu Press.
初版リプリント。因みに一〇〇〇篇の伝説を所収。 2.DSB所載伝説の番号・邦訳題名・原題は分載試訳それぞれの冒頭に記す。 3.ヤーコプとヴィルヘルムのグリム兄弟編著『ドイツ伝説集』 (略称をDSとする)を参照した場合、次の版を使用。 Deutsche Sagen herausgegeben von Brüdern Grimm. Zwei Bände in einem Band. München, Winkler Verlag. 1981. Vollständige
Ausgabe, nach dem Text der dritten Auflage von 1891.
因みに五八五篇の伝説を所収。 なお稀にではあるが、DSの英語訳である次の版(略称をGLとする)も参照した。 The German Legends of the Brothers Grimm. Vol. 1/2. Edited and translated by Donald Ward. Institute for the Study of Human
Issues. Philadelphia, 1981. 4. D S B 所 載 伝 説 と D S 所 載 伝 説 の 対 応 関 係 に つ い て は、 分 載 試 訳 冒 頭 に 記 す D S B の 番 号・ 邦 訳 題 名・ 原 題 の 下 に、 ほ ぼ 該 当 す る D S の 番 号・ 原 題 を 記 す。 た だ し、 D S B 所 載 記 事 の 僅 か な 部 分 が D S 所 載 伝 説 に 該 当 す る 場 合 は こ こ に は 記 さ ず、 本 文 に 注 番 号 を 附 し、 「DS***に詳しい」と注記するに留める。 5. 地 名、 人 名 の 注 は 文 脈 理 解 を 目 的 と し て 記 し た。 史 実 の 地 名、 人 名 と の 食 い 違 い が 散 見 さ れ る が、 こ れ ら に つ い て は 殊 更 言 及 し な いことを基本とする。ただし、注でこれが明白になる分はいたしかたない。 6. 語 ら れ て い る 事 項 を、 日 本 に 生 き る 現 代 人 が 理 解 す る 一 助 と な る か も 知 れ な い、 と、 訳 者 が 判 断 し た 場 合 に は、 些 細 に 亘 り 過 ぎ る 弊 が あ ろ う と も、 あ え て 注 に 記 し た。 こ う し た 注 記 に お け る 訳 者 の 誤 謬 へ の ご 指 摘、 お よ び、 こ の こ と に つ い て も 注 記 が 必 要、 と い っ たご高教を賜ることができれば、まことに幸いである。 7.伝説タイトルのドイツ語綴りは原文のまま。 8.本文および注における〔 〕内は訳者の補足である。 『ドイツ伝説集』 (一八五三)試訳(その一) 一
─
六〇 所収「武蔵大学人文学会雑誌」第四十四巻第一・二号一一七〜二 三五ページ、平成二十四年十一月 『ドイツ伝説集』 (一八五三)試訳(その二) 六一─
九〇 所収「武蔵大学人文学会雑誌」第四十四巻第三号四六三〜五三〇 ページ、平成二十五年二月 『 ド イ ツ 伝 説 集 』( 一 八 五 三 ) 試 訳( そ の 三 ) 九 一─
一 三 四 所 収「 武 蔵 大 学 人 文 学 会 雑 誌 」 第 四 十 四 巻 第 四 号 七 五 〜 一 七 六 ペ ージ、平成二十五年三月 『ドイツ伝説集』 (一八五三)試訳(その四) 一三五─
一八四 所収「武蔵大学人文学会雑誌」第四十五巻第一・二号一五七〜二 八五ページ、平成二十五年十一月 『ドイツ伝説集』 (一八五三)試訳(その五) 一八五─
二二五 所収「武蔵大学人文学会雑誌」第四十五巻第三・四号九五〜一八 〇ページ、平成二十六年三月 『 ド イ ツ 伝 説 集 』( 一 八 五 三 ) 試 訳( そ の 六 ) 二 二 六─
二 八 八 所 収「 武 蔵 大 学 人 文 学 会 雑 誌 」 第 四 十 六 巻 第 一 号 二 〇 九 〜 三 三 〇 ページ、平成二十六年十月『ドイツ伝説集』 (一八五三)試訳(その七) 二八九
─
三三九 所収「武蔵大学人文学会雑誌」第四十六巻第二号一五一〜二四六 ページ、平成二十六年十二月 『ドイツ伝説集』 (一八五三)試訳(その八) 三四〇─
三九四 所収「武蔵大学人文学会雑誌」第四十六巻第三・四号(本誌) *本分載試訳(その九)の伝説 三九五 ヴァルケンリート修道院の話Vom Kloster Walkenried.
三九六 魔法の広間とルターの 陥 か ん せ い 穽
Zaubersaal und Lutherfalle.
三九七
最後のクレッテンベルク伯
Der letzte Graf von Klettenberg.
*DS35 Die vier Hufeisen.
三九八 ケレ Die Kelle. 三九九 救難のマリア Maria im Elende. 四〇〇 乙 ユングフラウ 女 イルゼ Jungfrau Ilse. *DS317 Jungfrau Ilse. 四〇一 レーゲンシュタイン城の井戸の亡霊
Der Brunnengeist auf Regenstein.
四〇二 悪 トイフェルスマウアー 魔 の 壁 Die Teufelsmauern.
*DS189 Die Teufelsmauer. / *DS190 Des Teufels Tanzplatz.
四〇三 馬 ロ ス ト ラ ッ ペ の足跡 と ク ク レ ー ト プ フ ー ル レートの淵
Roßtrappe und Cretpfuhl.
*DS319 Der Roßtrapp und Kreetpfuhl.
四〇四
湧き出る銀貨
Das quellende Silber.
*DS161 Das quellende Silber.
四〇五 娘 メ ー ク デ シ ュ プ ル ン グ たちの跳躍 Der Mägdesprung. *DS320 Der Mägdesprung. 四〇六 ファルケンシュタインとティーディアン
Falkenstein und Tidian.
四〇七 櫃 ひ つ の中の神
Der Gott im Kasten.
四〇八 死 ト ー テ ン ヴ ェ ー ク 人の道 Der Todtenweg.
四〇九 踊 タ ン ツ タ イ ヒ りの池 Der Tanzteich. 四一〇 花 クヴェーステ 冠 Die Quäste. 四一一 発 シ ュ タ ム シ ュ ロ ス 祥の城 アンハルト Stammschloß Anhalt. 四一二 アンハルト城のファウスト博士
Doctor Faust auf Anhalt.
四一三 「 こ れ ぞ か デ ス ・ マ ン ス ・ フ ェ ル ト の 男 の 地 所 な る 」
„Das ist des Manns Feld.
,,
*DS575 Ursprung des Grafen von Mansfeld.
四一四 マンスフェルト城 Schloß Mansfeld. 四一五 ヴ ェ ル フ ェ ス 森 ホルツ の 石 と 会 戦
Stein und Schlacht am Welphesholz.
*DS492 Graf Hoyer von Mansfeld.
四一六
アルンシュタインの亡霊たち
Die Geister auf Arnstein.
四 一 七 一 度 に 九 人 の 子 ど も た ち Neun Kinder auf einmal. *DS521 Ursprung der Welfen. / *DS577 Die acht Brunos. 四一八 聖 ザンクト ブルーノと 驢 エーゼルスヴィーゼ 馬ヶ原
Sankt Bruno und die Eselswiese.
*DS578 Die Eselswiese. 四一九 ゲホーフェンに出現した修道女の亡霊
Der Nonnengeist zu Gehofen.
四二〇
生き続ける
鴉 からす
Der immerlebende Rabe.
四二一
司教の猫
Des Bischofs Katze.
四 二 二 テ ュ ー リ ン ゲ ン 族 と ザ ク セ ン 族 の 由 来 と 争 い Der Thüringer und Sachsen Herkunft und Streiten. *DS415 Herkunft der Sachsen. / *DS416 Die Sachsen und die Thüringer. / *DS424 Die Merovinger. / *DS425
Childerich und Basina. /
*DS550 Amalaberga von Thüringen. /
*DS551 Sage von Irmenfried, Iring und Dieterich.
四二三 ボニファチウスのプ フエ ニヒ Die Bonifaciuspfennig.
四二四 髭 ひ げ もじゃのルートヴィヒとその子孫
Ludwig mit dem Barte und sein Stamm.
四二五
ヴァイセンブルクの奥方
Die Frau von Weißenburg.
*DS552 Das Jagen im femden Walde.
四二六 ギ ー ビ ヒ ェ ン シ ュ タ イ ン か ら の 跳 躍
Der Sprung vom Giebichenstein.
*DS556 Ludwig der Springer.
四二七
聖 ザンクト
ウルリヒの教会
Sankt Ulrichs Kirche.
四二八 皇帝フリードリヒ Kaiser Friedrich.
*DS494 Der verlorene Kaiser Friedrich.
四二九 皇 帝 フ リ ー ド リ ヒ の 贈 り 物 Kaiser Friedrichs Gaben. *DS23 Friedrich Rotbart auf dem Kyffhäuser. /
*DS297 Der Hirt auf dem Kyffhäuser. /
*DS304 Der Zwerg und die Wunderblume.
四三〇 山の惑わし Bergentrückung. 四三一 皇帝フリードリヒの宮廷の人人
Kaiser Friedrichs Hofgesinde.
四三二 殻 か ら ざ お 棹 使い Die Flegler. 四三三 懺 ざ ん げ 悔 の事業
Werke der Buße.
四三四
啼 な
き叫び
Geheul und Geschrei.
四三五
ゲリンゲンのギュンター聖者
Der heilige Günther in Göllingen.
四三六
シュヴァルツブルク伯爵家の起源
Ursprung der Grafen von Schwarzburg.
四三七
聖女がたのお引っ越し
Die Auswanderung der Heiligen.
四三八 茶 デア・ブラウネ・ビューエル 色 の 丘
Der braune Bühel.
四三九
ご ディー・ヴィルデ・キルヒェ
つごつ教会
Die wilde Kirche.
四四〇
病癒えたるダゴバート王
四四一 悪 デス・トイフェルス・カンツェル 魔 の 説 教 壇
Des Teufels Kanzel.
四四二
ちびっこの仕立て屋さん
Der kleine Schneider.
四四三
ライフェンシュタインの修道士
Der Mönch von Reifenstein.
四四四
王の偉業
三九五 ヴァルケンリート修道院の話 今は昔、 ローレ のうら若き女伯アルハイディス
─
ローレの殿ルートヴィヒの息女─
は、 かのクニグンデ ・ フォ ン・キュナスト(DSB六三七)と全く同じことをした。すなわち求婚する者があると、居城の城壁の周りを三度 騎馬で廻らせたのである。これで彼女は死ぬことはなかったが、少なからぬ男たちが命を落とした。やがてクレッ テンベルク伯フォルクマール殿 がこの冒険を雄雄しく達成、女伯は彼と結婚し、自らの非道罪業を後悔、修道院を 建立しよう夫君と心を一つにした。夫妻はライン河畔のケルンやトリーアにはるばる足を運んで聖なる殉教者がた の 墓 に 詣 で、 カ ン ペ ン 修 道 院 か ら 十 七 人 の 修 道 士 を 所 領 の ヴ ァ ル ケ ン リ ー ト に 連 れ て 来 た。 一 一 二 七 年 こ の 地 に 聖 ザンクト ベ ネ デ ィ ク ト ゥ ス の 戒 律 に 依 拠 す る 壮 麗 な 修 道 院 が 着 工 さ れ た。 も っ と も 後 に シ ト ー 会 派 の 修 道 院 に 変 わ っ た が ………。 二 千 人 の 労 働 者 が 脇 目 も 振 ら ず 工 事 に 邁 ま い し ん 進 し た。 た だ し 竣 し ゅ ん こ う 工 ま で 三 十 年 も 掛 か っ た と い う 話 で あ る。 ヘルツベルク伯とラウターベルク伯も修道院建設に喜捨し、両者は百万個もの石を運搬させた由。とりわけ極めて 熱心だったのは女性創建者のアルハイディスで、彼女は自らの装身具さえも修道院建設に捧げ、祝福につけ 呪 じ ゅ そ 詛 に つ け 修 道 院 が 中 心 だ っ た。 呪 詛 は、 建 設 の 邪 魔 を し た り 修 道 院 か ら 盗 み を 働 く よ う な 輩 やから に 対 す る も の。 こ の よ う に不信心な盗っ人どもへの呪いはこんな具合で肌に 粟 あ わ を生ずるばかりの恐ろしさだった。いわく「かやつの所業は 悉 ことごと く 呪 わ れ よ。 そ の 終 わ り も そ の 初 め も 呪 わ れ よ。 そ の 生 も そ の 死 も 呪 わ れ よ。 か や つ の 死 は 犬 の 死 の ご と く で あれ。かやつを埋葬する者は抹殺されよ。埋葬される土地は呪われよ。かの盗人が悔い改めねば、悪魔と悪魔の使 いどもの 許 も と で永劫の火に焼かれ続けるがよい」 。 かくもキリスト教徒らしく祈念を凝らし、併せて施設の建築と装飾には善美を尽くし、惜しげもなく費用を使っ ( ) 1 ( ) 2 ( ) 3た の で、 修 道 院 の 回 廊 に 囲 ま れ た 中 庭 は 天 パ ラ デ ィ ー ス 国 と 呼 ば れ た。 従 っ て 当 然 悪 魔 も そ こ に ち ょ っ か い を 出 し た。 悪 魔 は 修 道 院 で 実 に さ ま ざ ま な 所 業 を 行 っ た が、 と り わ け 悪 わ る さ 戯 を 恣 ほしいまま に し た の は 農 バ ウ エ ル ン ク リ ー ク 民 戦 争 中。 こ の 折 は こ の 上 も な く 壮 麗 な 修 道 院 附 属 教 会 と 素 晴 ら し い 修 道 院 の 建 物 を た だ た だ 冒 ぼ う と く 瀆 行 為 を 働 き た い 一 心 で ほ と ん ど 完 全 に 打 ち 壊 し、 快 か い さ い 哉 を叫んだ。その結果ヴァルケンリート修道院は鳥や狐の 棲 す み か 処 に成り果てた。農民たちは当時武器を携えて強大 な軍隊と化し、だれかれとなく同志にしようとした。ヴァルケンリートを占拠した農民軍にバルテフェルト出の羊 飼いで向こう見ずなハンス・アーノルトなる男 がいて、これが隊長だったが、 鍔 つ ば ひ ろ ぼ う 広帽 に 雄 お ん ど り 鶏 の尾羽根を飾り、踏ん 反りかえってローレ伯とクレッテンベルク伯の前へ歩み出た。二人の伯爵はこよなく尊い農民友愛同盟に参加を強 制 さ れ て い た の で あ る。 こ の 豪 傑 は 片 脚 を 軸 に ぐ る り と 回 転、 槍 を 振 っ て、 こ う 叫 ん だ。 「 な あ、 兄 き ょ う で え 弟 エ ル ン ス ト 、 分かったかよ、 わっちに 戦 いくさ ができる、 指揮が執れるちゅうことが。あんたにゃいってえ何ができるだな、 ヘッ ヘッヘ」 。クレッテンベルク伯エルンスト は素っ気ない口調でこう答えた。 「まあやらなきゃならんことくらいはで きようて、 ハ ヘ ン ゼ ル ンスくん 。 なるほど 麦 ビ ー ル 酒 は目下ぶくぶく 醱 は っ こ う 酵 しておる。 しかし時至ればしかるべき 樽 た る に収まるものよ」 。 これは 棘 と げ のある言葉で、農民諸氏はそう言われて大いに憤慨し、すんでのところ伯爵をぶん殴るところだった。し かし伯爵は正しかった。形勢が一変すると、 麦 ビ ー ル 酒 は 澱 お り もろともしかるべき樽に収まり、槍は逆方向に、つまり向こ う見ずな農民どもの胴中に突っ込まれたのである。 三九六 魔法の広間とルターの 陥 か ん せ い 穽 ヴァルケンリート修道院では、以前は広間だった、という昔の荒れ果てた敷地を示される。宗教改革後ブラウン ( ) 4 ( ) 5 ( ) 6 ( ) 7 ( ) 8
シ ュ ヴ ァ イ ク 公 ク リ ス テ ィ ア ン・ ル ー ト ヴ ィ ヒ は、 他 の 善 意 の 諸 侯 が プ フ オ ル テ、 マ イ セ ン、 シ ュ ロ イ ジ ン ゲ ン、 ロスレーベン等等で行ったのと同様、ヴァルケンリートに立派なラテン語学校を設立させ、ヴァルケンリート修道 院 の こ れ ま で の 全 収 入 を そ の 費 用 に 充 あ て さ せ、 宗 教 施 設 の 資 産 か ら は 一 文 た り と も 私 わたくし す る つ も り は な い、 と 宣 言 したものである。さてある時、右に述べた広間で生徒たちが目印を置いて、自分たちの内でだれがそれを越えて一 番遠くまで跳べるか、という遊びをしていた。その仲間の中に近くの小さな町エルリヒ の出身で名をダミウスとい う少年(後に有名な教区監督 となった)がいたが、突然ある場所
─
跳んだ先─
で呪縛されたように動けなくな り、どうやっても引き離せなくなった。校長が呼んで来られたが、この人にもどうしようもなかった。そこで校長 は、 こ れ に は 秘 密 の 魔 法 が 介 在 し て い る に 違 い な い、 と 考 え、 そ の 生 徒 に、 何 か 徴 しるし か 文 字 が な い か、 周 り を 見 回 してごらん、と言った。少年がそうしてみると、頭上に円が描かれており、東の壁にはギリシア文字が一字、南の 方にはまた幾つか符号が記されているのに気付いた。それらを描き、その字を唱えると、少年はまた動けるように なった。校長はこのことを報告した。やがて広間西方の壁の窓辺にある 壁 へ き が ん 龕 の中に石製の壺一杯の 薄 ブ ラ ク テ ア ー ト 型貨幣─
ど れもオルツターラー銀貨 大(三分の一ターラーないし二分の一グルデン銀貨大)─
が見つかった、ということで あ る。 後 に ま た 他 の 者 が 魔 法 の 呪 文 と 占 ヴ ュ ン シ ェ ル ル ー テ い 棒 を 用 い て 探 し た こ と が あ る。 占 ヴ ュ ン シ ェ ル ル ー テ い 棒 は び く っ と 動 き も し た し、 また真っ昼間だったにも関わらず、彼らは恐慌に襲われた。まるで突風が彼らの間を吹き抜け、天井まで巻き上げ るような感じだったそうな。例の校長はひそかにお宝を掘り出し、 この「 財 テサウルス 物 」をいわば「 仏 ど う ふ ぁ ん 蘭西王太子 御用 」と して自分の財布に移したのだ、と説く者もいる。またある者は次のように主張。名高いベネディクト会派修道士に して化学者バジリウス・ヴァレンティヌス─
エアフルトのペータースベルク修道院で暮らした─
は賢者の石 を 所有していたが、一時期ヴァルケンリート修道院にいたことがあり、校長が発見したかの魔法の広間の隠された宝 ( ) 9 ( ) 10 ( ) 11 ( ) 12 ( ) 13 ( ) 14 ( ) 15 ( ) 16 ( ) 17こそこの賢者の石なのだ、と。さりながらこの説は多くの理由から容易に疑問に附されるし、いささか 以 も っ て突拍子 もない。 〔 ヴ ァ ル ケ ン リ ー ト 修 道 院 に つ い て は 〕 ま だ こ ん な 伝 説 も あ る。 マ ル テ ィ ン・ ル タ ー 博 士 は ノ ル ト ハ ウ ゼ ン
─
この地で説教を行い、かのマインツ大司教 についても言及した─
からハールツ山地を通る旅の途次、マインツ大 司教と同行して、ヴァルケンリート修道院へやって来たことがある、と。そこでこの宗教改革者の所業が甚だ気に 喰わなかった修道士たちは奸策を廻らして彼をひそかに葬り去ろうと、ある陥穽へ案内した。これはかねてから罪 人どものために設けられていたもの。この装置は「マリアの 接 く ち づ け 吻 」と呼ばれ、見かけは小さな礼拝堂で、中では黒 い 聖 マ ド ン ナ 母 像の前に常明灯が燃えていた。しかしこの像は実は鉄の処女のようなもの で、だれかがこの礼拝堂に足を踏 み 込 む と、 床 が さ っ と 動 い て、 恐 ろ し い 深 み に 顚 て ん ら く 落 す る の だ っ た。 ル タ ー が こ の 陰 険 極 ま り な い 場 所 に 近 づ く と、 なんとまあ、飼っていた小犬が前に走り出て、先に中へ入り、キャンと一声 啼 な いて姿を消した。そこでルターは片 手 で 陥 穽 を、 片 手 で 天 を 指 し、 厳 か な 声 を 張 り 上 げ、 「 神 ゴ ッ ト ・ ヴ ァ ハ ト は 見 守 り た も う 」 と た だ 二 語 洩 ら し─
立 ち 去 っ た。 修 道士たちは 慄 り つ ぜ ん 然 とした。 三九七 最後のクレッテンベルク伯 ホーエンシュタイン 、ローラ、およびクレッテンベルク伯爵家はハールツ山地の所領豊かな一門であり、エルリ ヒ と ブ ラ イ ヒ ャ ー オ ー デ の 両 都 市 は 彼 ら に 帰 属、 ま た 数 多 く の 町 村、 城 塞、 農 場、 粉 こ な ひ 挽 き 小 屋 を も 保 有 し て い た。 最後のクレッテンベルク伯─
もしかしたらあの農夫の ハ ヘ ン ゼ ル ンスくん に ヴァルケンリートですこぶる適切な返辞をし ( ) 18 ( ) 19 ( ) 20 ( ) 21 ( ) 22 ( ) 23 ( ) 24たあのエルンストの孫かも知れぬ
─
はエルンスト七世伯 である。この大胆不敵な 武 も の の ふ 士 は青年時代─
と言っても この人は残念ながら老境には達しなかった─
愉快な飲み仲間であり果敢な酒豪だった。ある時エルリヒなる伯爵 の居城の 煖 ケ ム ナ ー テ 炉部屋 にハールツの伯爵や騎士たちの相当な人数が集まったことがある。幾つもの 把 フ ン ペ ン 手付き大杯 が樂し く巡り、 朗らかな酒機嫌に盛り上がった陽気な一座は、 他の全員が 卓 テ ー ブ ル 子 の下に酔い潰れても倒れずにいられた者に、 報償として 黄 き ん 金 鎖を提供いたそうではござらぬか、と決めた。戦いは白熱、長長と続き、廻ってくる 高 ポ カ ー ル 脚杯 はひっ きりなしに乾されていたが、とうとう並み居る人人の頭は重くうなだれ、戦士たちは倒れていった。二人だけがま だ 持 ち 堪 え て い た が、 と ど の つ ま り 一 人 が─
玉 ぎ ょ く ざ ん 山 ま さ に 崩 れ ん と す と い う 態 て い で は あ っ た が─
黄 金 鎖 を 摑 つ か み、 鎖は 呂 ろ れ つ 律 も回らぬ勝利者の 頸 く び にぶら下がった。勝利したのはエルンスト伯爵閣下だった。伯爵は酒宴の場にはもう 用 は な か っ た の で、 外 気 が 吸 い た く な っ た。 酒 合 戦 で 夥 おびただ し い 殿 と の ば ら 輩 が 死 屍 累 累 と あ い な っ た の に 戦 場 に 勝 ち 残 っ た の は 並 大 抵 の こ と で は な い。 赫 か っ か く 赫 た る 勳 いさおし を 挙 げ て 贏 か ち え た 黄 金 鎖 を 身 に 飾 っ た 伯 爵 は、 愛 馬 に 鞍 を 置 か せ る と こ れにうちまたがり、エルリヒの町を速歩で駈け抜けて行ったが、どうもなんだか蒸し暑く、外気のせい─
外気以 外に特段の理由がないとしてだが─
で鞍上の伯爵はふらふらした。折しも日曜日のこと、扉が開けっ放しになっ て い る 聖 ザンクト ニ ク ラ ス 教 会 の 中 か ら あ り が た い 風 オ ル ガ ン 琴 と 聖 歌 の 合 唱 が 聞 こ え て き た。 さ て ホ ー エ ン シ ュ タ イ ン 伯 エ ル ン スト七世、ローラ、およびクレッテンベルクの領主、まことに 敬 け い け ん 虔 な英傑にしてヴァルケンリート修道院の管財人 としては、 神様をなおざりにはできない、 と思えたから、 駒を静かに教会に向けた。向けたのはいいが、 ただ一つ、 門前で下馬するのを忘れた。会衆の間を騎乗のままご機嫌上上、 恍 こ う こ つ 惚 として押し通り、真っ直ぐ祭壇を目指したの で、 諸 も ろ び と 人 は愕然とし、坊さんたちはてんでに十字を切った。しかし、なんと、騎乗の姿も無礼千万だったが、これ ま た 礼 拝 を 著 し く 妨 げ て い た 戛 か つ か つ 戛 と い う 蹄 ひづめ の 音 が 突 然 止 ん だ の で あ る。 か か る 冒 ぼ う と く 瀆 に 震 怒 し た 神 が 奇 蹟 を 示 し て ( ) 25 ( ) 26 ( ) 27馬の脚から四つの 蹄 て い て つ 鉄 を同時に外したのだ。そればかりか馬自体も 騎 の り手もろともくたくたとくずおれた。少なく とも膝を突いた。その後エルンスト伯爵は音を立てずに教会から馬を出した。四つの蹄鉄はといえば証拠の品とし て教会の扉に釘づけにされ、火事で教会が焼けるまで長いことそのままそこにあり、火事の後市庁舎に移された。 このたびこそ勝利に輝いたものの、かような激戦にどうやらしばしば参加したらしいエルンスト伯爵の生涯は三 十一年四箇月と二十二日で終わったが、その間二度妻を 娶 め と った。敬虔なキリスト教徒として死に、ヴァルケンリー ト、 そ れ も か の 美 し い 修 道 院 附 属 教 会
─
以 前 の 司 教 座 聖 堂─
内 に そ の 奥 お く つ き 津 城 が 設 け ら れ た。 家 紋 を 描 い た 盾、 伯爵の幾つかの印章、および 佩 は い け ん 剣 はともに埋葬された。伯爵のためにまことに立派な葬礼が行われ、堂堂たる記念 碑 が 建 立 さ れ、 碑 面 に は 武 装 し て 跪 ひざまづ い て い る 等 身 大 の 像 が 彫 ら れ て お り、 そ の 胸 に は 高 価 な 宝 玉 を 鏤 ちりば め た か の 名高い黄金鎖が垂れている。ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン騎士の 墓碑に極めて似ている。 三九八 ケレ ケレ というのは見物客の多い 石 せ っ こ う ど う く つ 膏洞窟 だが、以前は、徐徐に崩壊してしまった現在とはまるで別物でずっと美し かった。これについては少なからず伝説がある。本来の名称はケーレ 、すなわち「 咽 の ど 喉 」ほどの意味である。伝説 に よ れ ば、 こ の 美 し い が、 お ど ろ お ど ろ し く も あ る か っ と 開 い た 口 は、 毎 年 一 人 人 間 の 生 い け に え 贄 を 要 求 し た、 と い う。 これを 宥 な だ めるため、昔はエルリヒから司祭が教区の全住民から成る行列を従え、キリスト 磔 た く け い 刑 像、教会旗、聖人像 を 掲 げ、 洞 窟 近 く の 聖 ザンクト ヨ ハ ン ニ ス 礼 拝 堂 へ お 練 り を や り、 次 い で 洞 窟 自 体 に 訪 れ、 氷 の よ う に 冷 た い 水 面 に 十 字 架を浸してから再び引き揚げ、こう叫んだもの。 ( ) 28 ( ) 29 ( ) 30 ( ) 31こうしてケレを 覗 の ぞ いたからには そなたは 地 ヘ レ 獄 に行きはせぬ。 ケ レ に は や は り 女 ニ ク セ の 水 の 精 が 一 人 棲 ん で い て、 冷 た い 毒 水 に 人 間 を 誘 いざな う こ と を 習 い と し て い る。 こ こ で は 蛙 を 水中に投げ込むとすぐに硬く 強 こ わ ば 張 ってしまう。蛙ならぬ人間であればどうなることやら。 リスボンが恐ろしい地震のため倒壊したあの日 (一七五五年十一月一日) 、ケレを覆うケールの森では奇妙な地鳴 り が 聞 こ え た。 エ ル リ ヒ の 人 人 は 長 く 続 く 遠 雷 の よ う な 轟 とどろ き を 耳 に し た。 ま た 粉 こ な ひ 挽 き た ち は、 水 流 が 突 然 異 常 な 力で水車に 奔 ほ ん と う 騰 してきた、と指摘した。同日同様にザルツング湖 は激しい動揺に見舞われ、水が 漏 じ ょ う ご 斗 のように深み へ渦を巻いて呑み込まれ、 次いで 轟 ご う ご う 轟 と音を立てて再び噴出したので、 岸辺一帯は洪水に見舞われた。まだ〔一八〕 二〇年代でも、身を以て目撃した、とこのことを語ってくれた信頼するに足る老人がいたが、新知識のお利口さん 連はこれをせせら笑い、他愛のないお伽話さ、と片づけたがる(DSB七四九) 。 三九九 救難のマリア 冬の最中、ハールツ山地深くで一人の 車 し ゃ り き 力 が 葡 ワ イ ン 萄酒 の荷を運んでいたが、道もない沼地で荷馬車がにっちもさっ ちも動けなくなった。それどころか、何もかも一切合切雪 溜 だ まりと 泥 ぬ か る み 濘 の中に沈んでしまいそうだった。人里離れ た深い森のこととて、人間の手助けはまず得られそうもない、そう思いながら、車力は神と聖処女に、この難儀か らお救いください、と呼び掛けた。すると、なんと、天の女王〔=聖母マリア〕が目の前に 御 み す が た 姿 を現して、助けた ( ) 32 ( ) 33
も う た の だ。 ま ず 聖 母 は、 ど ん な 貨 物 を 運 ん で い る の か、 と 訊 い た。 「 葡 ワ イ ン 萄 酒 な ん で し て 」 と 答 え る と、 聖 母 は、 その 葡 ワ イ ン 萄酒 を味わいたい、 とおっしゃった。もちろん車力はすぐさまお望みに応えたかったが、 「お杯がござんせん」 と 悔 や ん だ。 す る と マ リ ア は 近 く の 茨 いばら の 繁 し げ み に 触 れ た。 途 端 に 薔 ば ら 薇 が 何 輪 も 咲 き 開 い た。 マ リ ア は こ れ を 手 た お 折 る と酒杯の形にし、車力に渡した。車力が 葡 ワ イ ン 萄酒 を〔 樽 た る から〕薔薇の杯に注ぐと、 脆 も ろ い杯なのにちゃんと酒が 湛 た た えら れた。けれども車力がその 葡 ワ イ ン 萄酒 を救い主に捧げようとすると、相手の姿は消えていた。ぐるりを見回したがどこ にも見当たらなかった。 さてそれからというもの 輓 ば ん ば 馬 たちは楽楽と荷馬車の重荷を 牽 ひ いて行き、 やがてぽつんと建っ ている小さな教会へとやって来た。これは既にボニファチウス の時代この荒涼とした森の奥に建立されたとか。輓 馬たちが教会の傍で脚を留めたので車力は、これはここで感謝の祈りを捧げよとの天の啓示だ、と悟り、中に入っ た。すると、堂内に安置されているマリア像が先ほど現れて救いの手を差し伸べてくれた優雅な 女 に ょ に ん 人 とそっくりで あ る こ と に 気 付 い て 仰 天 し た。 跪 ひざまず い て お 礼 を 申 し 上 げ、 あ の 奇 蹟 の 器 うつわ 、 花 の 杯 を 祭 壇 に 置 い た 車 力 は、 そ れ か ら出逢う人ごとに崇高な奇蹟を物語った。間もなく救難のマリアのありがたい御力に縋ろうと、 遠 お ち こ ち 近 から信徒の群 れがどっと押し寄せるようになった。ちょうどヘンネベルク地方のグリンメンタールで起こったこと(DSB七三 五)と同様で、ここは巡礼地となり、救護所ができた。教会の壁には新たにたくさんの扉が作られ、四壁はここへ 詣 で て 癒 や さ れ 帰 っ て 行 っ た 蹇 あ し な え 者 た ち の 撞 し ゅ も く づ え 木 杖 で 覆 わ れ た。 や が て 女 子 修 道 院 と 壮 麗 な 新 教 会 が 建 立 さ れ、 薔 ロ ー ゼ ン キ ル ヒ ェ 薇の教会 と名付けられた。なぜなら七十四の石の薔薇がその軒蛇腹を飾ったからである。六人の司教座聖堂参事 会員のための館も造られ、莫大な財宝が集まった。これはまだ同地に埋蔵されたままだとか。栄光と 敬 け い け ん 虔 な奇蹟信 仰はもうとっくに消え去って久しい。劫略の時代が襲来すると救難のマリア像は隠されたが、その後世に出てハイ リゲンシュタット へと動座し、同地で今日に至るまで篤信のキリスト教徒の崇敬を集めている。 ( ) 34 ( ) 35
四〇〇 乙 ユングフラウ 女 イルゼ 巖 い わ だ ら け の ブ ロ ッ ケ ン 山 の 高 み か ら 渓 流 が 迸 ほとばし り、 急 な 滝 つ 瀬 と な っ て タ ー レ へ と 流 れ 下 っ て 行 く。 こ れ が イ ル ゼ 川 で あ る。 下 の 谷 間 の、 か つ て の イ ル ゼ ン ブ ル ク 修 道 院 か ら 程 遠 か ら ぬ と こ ろ に 鉄 製 の 十 字 架 を 戴 いただ く 険 し い 巖 い わ ね 根 が 屹 き つ り つ 立 し て い る。 こ れ は イ イ ル ゼ ン シ ュ タ イ ン ル ゼ の 巖 と い う。 こ の 巖 は 渓 流 の 女 ニ ク セ の 水 の 精 、 乙 ユ ン グ フ ラ ウ 女 イ ル ゼ の 棲 す み か 処 で あ る。 し ば し ば 彼 女 は 月 明 の 夜 か 暁 あ か つ き ど き 刻 に 巖 の 中 か ら 出 て 来 て 清 ら か な 流 れ で 水 浴 を す る。 幸 い に も そ の 姿 を 目 に す る
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た だ し、こうしたことは滅多にない─
ことのできた者は、彼女に裕福にしてもらえる。イルゼはハールツの王の息女 だ っ た が、 あ る 邪 よこしま な 魔 女 に 妬 ま れ て 巖 に 変 え ら れ た の だ そ う な。 救 済 さ れ る 時 が 来 る ま で こ う し て い な く て は な ら な い。 完 全 に 純 潔 で 徳 高 く、 乙 ユ ン グ フ ラ ウ 女 イ ル ゼ と 同 様 に 美 し い 若 者 だ け が そ う で き る。 つ ま り、 こ の 若 者 は そ れ ま で に一度も恋されたことがなく、ひたすら愛を捧げる最初の娘がイルゼでなくてはならない。かつてある炭焼きが早 朝 に 道 を 外 れ て こ の 木 の 生 い 繁 し げ る 谷 間 に 迷 い 込 ん だ こ と が あ る。 彼 は 乙 ユ ン グ フ ラ ウ 女 イ ル ゼ に 出 逢 い、 挨 拶 を し た。 彼 女 が 手招きをしたので、その後に 随 つ いて巖まで行くと、これまで見たことのない扉が巖にあるのに気付いた。この門の 傍 ら で イ ル ゼ は 炭 焼 き の 背 は い の う 嚢 を 取 り、 巌 の 中 に 入 っ た。 間 も な く 出 て 来 た 乙 ユ ン グ フ ラ ウ 女 イ ル ゼ は 背 嚢 を 返 し て く れ た が、 家に帰り着くまで背嚢を開けてはいけません、 と言った。背嚢は初めの内は軽かったが、 歩くに連れて重くなった。 中に何が入っているのか、炭焼きは一歩一歩重さが増すごとに知りたくて 堪 た ま らなくなった。もしかしたら彼女は自 分 に 悪 ふ ざ け を し て、 石 こ ろ を 入 れ た の か も、 と さ え 考 え た の で あ る。 そ こ で イ イ ル ゼ ン ブ リ ュ ッ ケ ル ゼ 橋 の 上 で 立 ち 止 ま り、 背 嚢 を 開 い て み る と、 入 っ て い た の は 団 ど ん ぐ り 栗 と 樅 も み の 毬 き ゅ う か 果 ば か り だ っ た。 「 こ ん な つ ま ら な い も の を ど う し て 運 ば に ゃ な ん ねえ」と言うなり、炭焼きは中身をイルゼ川に振り落とした。すると河原の石に当たってチリンと音が聞こえ、純 ( ) 36 ( ) 37金 の よ う に 何 か が ぴ か っ と 光 っ て、 消 え た。 急 い で 背 嚢 を 閉 じ る と、 ま だ 幾 つ か 団 栗 が こ ろ こ ろ ぶ つ か り 合 っ た。 家へ帰って調べると、それは皆金貨だった。それでもこの残りだけで炭焼きが裕福になるには充分だった。 四〇一 レーゲンシュタイン城の井戸の亡霊 レ ー ゲ ン シ ュ タ イ ン あ る い は ラ イ ン シ ュ タ イ ン と い う の は 下 ニーダー ハ ー ル ツ の ご く 古 い 巖 が ん せ き 石 城 で あ る。 ハ イ ン リ ヒ 捕 デ ア ・ フ ィ ン ク ラ ー 鳥 帝 の 時 代 に 築 か れ た も の で、 全 体 が 巖 い わ か ら 斫 き り 出 さ れ た。 こ こ を 居 城 と し た 伯 爵 一 門 は 紋 章 に 牡 ヒ ル シ ュ 角 鹿 を 入 れていた。この一門でその名をフリードリヒという人は奥方との間に嗣子がなく、二人は自分たちで一族が絶える ことを憂えていた。さて、レーゲンシュタインには深い巖井戸があり、そこには祖先の亡霊が呪縛されていて、時 時忠告をしたり、未来のできごとを予言したりした。そこでフリードリヒ伯爵の奥方は夫に、一族が存続するのは 無理なのか、どうか亡霊に 訊 き いてください、と頼んだ。
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そこで聖母マリアの日 の真夜中、フリードリヒ伯爵が 井 戸 に 近 づ く と、 祖 先 の 亡 霊 が 現 れ、 「 そ な た ら の 望 み は 成 就 す る だ ろ う 」 と 言 っ た。 伯 爵 が 亡 霊 に、 憩 い と 救 済 の希望はないのですか、と問うと、亡霊は「このラインシュタイン城が 瓦 が れ き 礫 と化せばのう、そういたせばわしは安 息を見出すだろう」と答えて姿を消した。これはあまり見込みのない言葉だった。なにしろこの城塞、この巖石城 がいつの日か瓦礫と化すなんて想像もできない、と思われたからである。その年の内にフリードリヒ伯爵の奥方は 伯爵に跡継ぎを生んだ。元気な男の子でコンラートと命名された。その翌年、また男児が生まれ、ヘルモルトと名 を付けられた。この子の誕生の際、祖先の亡霊は井戸の中に出現していわく「わしの名を名乗るこの子こそわしの 救済を実現してくれるだろう」と。そこで井戸の亡霊がかの悪逆無道だった祖先ヘルモルト ・ フォン ・ レーゲンシュ ( ) 38 ( ) 39 ( ) 40タ イ ン で あ る こ と が 明 ら か に な っ た。 次 子 ヘ ル モ ル ト は 躾 しつけ を 受 け 付 け な い 少 年 で、 や が て 出 奔 し て 盗 賊 団 の 首 領 と な っ た。 両 親 が 死 ぬ と、 ヘ ル モ ル ト は 兄 の コ ン ラ ー ト に 遺 産 の 相 続 分 を 要 求、 拒 否 さ れ る と、 手 下 ど も を 糾 き ゅ う ご う 合 して城を制圧、兄から相続分を無理やりせしめたが、その後仲直りもして、兄を追剥ぎ行為に誘い込んだ。その結 果ブラウンシュヴァイク公が城を包囲、占領、強盗の巣窟を 完 か ん ぷ 膚 無きまでに破壊した。かくして祖先の亡霊はよう やくレーゲンシュタインの井戸から解放され、 永 と わ 遠 の憩いを授かったしだいである。 四〇二 悪 トイフェルスマウアー 魔 の 壁 ブ ラ ン ケ ン ブ ル ク 近 郊 の 古 き 巖 が ん せ き 石 城 レ ー ゲ ン シ ュ タ イ ン か ら ゲ ル ン ロ ー デ と バ レ ン シ ュ タ ッ ト の 方 角 を 望 む と、 これらの町とクヴェードリンブルク との間に高く尖った 巖 い わ や ま 山 が連なっているのが見える。遠見にはところどころ崩 壊 し た 壁 の 廃 は い き ょ 墟 そ っ く り で あ る。 こ れ ら は 砲 撃 で 突 ブ レ シ ュ 破 孔 を 開 け ら れ た 昔 の 城 壁 に 似 て お り、 さ ま ざ ま の 幻 想 的 な 恰 か っ こ う 好 をしている。伝説にいわく。 主 し ゅ なる神が地をお 創 つ く りになった時、 元 ウ ア コ ム ニ ス ト 祖共産主義者 たる悪魔は分配を要求、早速 このハールツの麗しき地域で自分の王国の境界を設け始めた。とりわけ、 己 お の が玉座の山ブロッケンのあるハールツ 山 地、 タ ー レ 近 く の 悪 ト イ フ ェ ル ス プ フ ー ル 魔 の 淵 、 そ れ か ら 他 に も か な り の 場 所
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悪 魔 は 今 日 に 至 る ま で ま だ 全 て 放 棄 し た わ け で は な い─
を 自 分 の も の に し、 神 様 に は 平 地 を 譲 っ た の だ。 そ し て お 気 に 入 り の 山 地 と そ こ に あ る 悪 ト イ フ ェ ル ス バ ー ト 魔 の 浴 場 、 悪 ト イ フ ェ ル ス ベ ッ ト 魔の寝台 、 悪 ト イ フ ェ ル ス カ ン ツ ェ ル 魔の説教壇 、幾つもの 悪 ト イ フ ェ ル ス ミ ュ ー レ 魔の水車小屋 の所有権を一層確実にしておこうと、周りを巨大な 巌 い わ か べ 壁 で囲 い 始 め た。 神 様 は し ば ら く 悪 魔 の 仕 事 を 傍 観 し て い た が、 と う と う け り を つ け る こ と に し て、 ち ょ い と 睫 まつげ を 動 か しただけで壁を壊したのだ、と。ゲルンローデからクヴェードリンブルクへ徒歩道を行くと、壁の中央部を針の穴 ( ) 41 ( ) 42 ( ) 43 ( ) 44 ( ) 45 ( ) 46を通るように通り抜けることになる。 四〇三 馬 ロ ス ト ラ ッ ペ の足跡 と ク ク レ ー ト プ フ ー ル レートの淵 ハールツ山地の 巖 が ん か い 塊 群の中でもターレ村近くで山の激流であるボーデ川 が 奔 ほ ん と う 騰 して 穿 う が った恐ろしい 擂 す り 鉢 ば ち 谷ほど 数 多 く の 伝 説 の 舞 台 と な っ て い る と こ ろ は な い。 昔 む か し の そ の 昔、 ハ ー ル ツ 山 地 に は 巨 人 た ち が 蟠 ば ん き ょ 踞 し て い た。 こうした巨人の一人に綺麗な娘がいて、やはり巨人の息子である若者と恋をした。若者の名はヴィッティヒ、今日 馬 ロ ス ト ラ ッ ペ の足跡 と呼ばれている 巖 い わ ね 根 の向かいに 棲 す み か 処 があった。しかし娘の父親は二人の恋など 歯 し が 牙 にも掛けず、娘に厳し く禁じた。そこで巨人の乙女はひそかに家出をしようと決心、こうした状況であってみれば父親が婚資など考えて くれるわけはなかったから、これも自分で持って行くことにした。そこで他の宝物とともに父親の重い黄金の冠を 盗み、頭に 被 か ぶ り、馬に乗り、恋人の棲処の近くに身を隠そうと巖だらけの山地に急いだ。しかし家出はほどなく知 れて、追っ手が後ろから急迫して来た。ぐるりには巖また巖が 聳 そ び え、谷底では黒黒と山の流れが渦巻き泡立つ、切 り立った絶壁に突き出している高い巌頭で彼女は取り囲まれた。しかし乙女は馬に途方もない跳躍を強い、擂り鉢 谷を跳び越えて、追っ手が 跟 つ いて来られない向こう側へ無事に着地した。ただ冠が頭から転げ落ちてボーデ川の渦 に 沈 ん だ。 昔 日 の ハ ー ル ツ 王 の 冠 が 相 変 わ ら ず 深 淵 に 眠 っ て い る 場 所 は 今 日 で も 人 呼 ん で 冠 ク ロ ー ネ ン ロ ッ ホ 穴 と い う。 馬 が 力 一 杯 跳 躍 し た 折 巌 に 刻 ん だ 蹄 ひづめ の 跡 は あ り あ り と 残 っ て い て、 た め に 辺 り 一 円 の 荒 荒 し く も 壮 麗 な 巖 塊 群 全 体 に 「 馬 ロ ス ト ラ ッ ペ の 足 跡 」 な る 名 を 与 え て い る。 こ の 近 く に は「 踊 タ ン ツ プ ラ ッ ツ り 場 」 と い わ れ る 場 所 が あ る。 巨 人 の 娘 は、 追 っ 手 を 免 れ、 恋 人 と 一 緒 に な れ た 嬉 し さ の あ ま り そ こ で 踊 っ た の で あ る。 こ こ を 悪 デ ス ・ ト イ フ ェ ル ス タ ン ツ プ ラ ッ ツ 魔 の 踊 り 場 と 呼 ぶ 者 た ち も い る。 ブ ロ ッ ( ) 47 ( ) 48
ケン山頂の高みにある大きな 悪 デス・トイフェルスタンツプラッツ 魔 の 踊 り 場 の雛形というべきか。 ある時周辺の住民たちが、ハールツ王の黄金の冠を引き揚げたい、と思った。潜水者が募られ、ボーデ川の渦に 跳び込むことになった。好きでやったわけではなかったが、潜水者は幸い冠を発見、片手を挙げ、冠のぎざぎざが 水 上 に 燦 き ら め い た。 し か し そ の 直 後 手 か ら 冠 が 落 ち た。 男 は も う 一 度 潜 り、 も う 一 度 発 見、 光 る ぎ ざ ぎ ざ を 夥 おびただ し い 群 衆 に 見 せ た。
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し か し ま た し て も 冠 が 手 か ら 落 ち た。 な に ぶ ん に も 重 か っ た か ら で あ る。 潜 水 者 は 改 め て ク ク レ ー ト プ フ ー ル レートの淵 深くに潜ったが、二度と浮かんで来なかった。一条の血が渦から噴き上がった。冠を守護している地 下 の 力 が 潜 水 者 を 殺 し た 徴 しるし だ っ た。 今 で も 一 頭 の 黒 犬 が 冠 を 見 張 っ て い る そ う な。 こ の 身 の 毛 も よ だ つ 深 淵 の 上 には深沈たる静けさが支配していて、ボーデの川水だけが黒黒とした巖の上を絶えず 滔 と う と う 滔 と流れている。 四〇四 湧き出る銀貨 ボーデ川が 馬 ロ ス ト ラ ッ ペ の足跡 の峡谷から奔出し、それまでよりは穏やかに流れ下って行く谷合いに、その昔貧しい農夫が 住 ん で い た。 農 夫 は 娘 を 近 く の 森 に や っ て 薪 たきぎ を 集 め さ せ た。 女 の 子 は 地 面 に 落 ち て い る 大 枝 小 枝 で 背 し ょ 負 い 籠 か ご を 一 杯にすると、できるだけたくさん持って帰ろう、と手籠にもぎっしり詰め、それから家路についた。すると髪も 髭 ひ げ も雪のように白い小人の 爺 じ い さんに出逢った。爺さんは「拾った薪は籠からうっちゃって、わしに 随 つ いといで、もっ といいものを見せたげる」と言った。そして女の子の手を取り、来た道を引き返してとある丘の麓に来ると、 卓 テ ー ブ ル 子 が二つ置かれている場所を指さした。 卓 テ ー ブ ル 子 の上には銀貨ばかりが大小入り混じって湧き出していた。銀貨にはごく 古い銘が記され、ハールツ山地縁辺の都市ゴスラール の紋章に描かれ、そこで鋳造された多くの貨幣にあるような ( ) 49 ( ) 50聖母マリアの像が刻まれていた。少女は湧き出る銀貨にびっくり仰天、怖がったが、小人はごく古いけれども今な おピカピカ光っているハールツ・グルデン銀貨を女の子の手籠に手ずからぎっしり詰めてくれた。しかし小娘は背 負 い 籠 を 空 に し た が ら ず、 「 う ち で は 小 さ い 子 た ち に お ミ ル ク 乳 を 温 め た り 汁 スープ を 煮 た り し て あ げ る の に、 そ れ か ら お 部 屋 を暖かくするのに、 薪がやっぱり要るの」と言った。
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すると小人はそれで打ち切りにして、 娘を家へ帰らせた。 この子が自分の好運を話し、その噂が村中に拡がると、大変な競争がおっぱじまり、我こそ一番乗り、とばかり意 気込んで、火事かなんぞのようにおのおの消火用の水桶やら手桶やらを引っ提げて行ったが、小人の爺さんに逢え た 者 も、 湧 き 出 る 銀 貨 の 場 所 を 見 つ け た 者 も い な か っ た。 ブ ラ ウ ン シ ュ ヴ ァ イ ク 公 は そ の 古 銭 を ま る ま る 一 磅 プフント 分 購入、貨幣を金蔵に保管させた。 四〇五 娘 メ ー ク デ シ ュ プ ル ン グ たちの跳躍 ゼ ル ケ 谷 タール に は、 イ ル ゼ 谷 タール の イ イ ル ゼ ン シ ュ タ イ ン ル ゼ の 巖 に も 似 て、 こ ご し い 巖 い わ か べ 壁 が そ そ り 立 ち、 そ の 頂 き に は や は り 同 様 に 鉄 の 十字架が飾られている。もう一つ、かつては仲間同士だったかのようないくらか低い巖がその向かいにある。この 二つの巖の上にはそれぞれ足跡が一つづつ深く刻み込まれており、 イ イ ル ゼ ン シ ュ タ イ ン ルゼの巖 の話のような伝説が語られている。 恋しい男が向かいの巖の上で待っているので、 愛 い と しさに 駈 か られたある娘が必死の大跳躍をし、こちらとあちらの 巖に足跡を附けたそうな。地域によっては、こんなことができるのは巨人の娘だけだ、とする。一説では、これは 可 愛 い 女 の 子 が 遊 び の 時 に 残 し た だ け の こ と、 と か。 つ ま り、 ペ ー タ ー ス 山 ベルク か ら 巨 人 の 少 女 が 来 た の だ が、 遊 び 友 だ ち が ラ ム 山 ベルク 山 頂 悪 ト イ フ ェ ル ス ミ ュ ー レ 魔 の 風 車 小 屋 の 下 に い る の を 見 つ け、 思 い 切 っ て 跳 ん だ の で あ る。 こ の 子 は、 友 だ ち が 向 ( ) 51こうから手招きしていたけれども、 しばらくの間決心がつかずに 佇 たたず み、 距離を測っていた。すると下の谷間でハー ルツゲローデ の土地を耕していた下男がげらげら笑って「跳びな、跳びなよ、巨人のあまっこ」と呼び掛けた。そ こで巨人の女の子は大きな体を谷に屈め、新鋳のスイスの貨幣に刻まれている乙女ヘルヴェツィア のように片腕を 長く伸ばし、下男を馬たちや 犁 す き もろとも 攫 さ ら うと、前掛けにくるんで、これと一緒にぴょんと跳んだ。それから二人 の巨人の娘たちはちっちゃな人間、ちっちゃなお馬、へんてこりんなちっちゃな道具、ちっちゃな犁といった可愛 い 玩 お も ち ゃ 具 で大いに楽しんだ。 四〇六 ファルケンシュタインとティーディアン ハ ー ル ツ の ゼ ル ケ 谷 タール を 見 下 ろ す 威 風 堂 堂 た る フ ァ ル ケ ン シ ュ タ イ ン 城 は 世 に 遍 あまね く 評 判 だ が、 と り わ け こ の 城 の 名 が 喧 伝 さ れ る の は、 既 に 遙 か な る 昔 か ら 雄 雄 し き ハ ー ル ツ の 伯 爵 フ ァ ル ケ ン シ ュ タ イ ン 家 の 居 城 だ っ た か ら で、 中 で も フ ァ ル ケ ン シ ュ タ イ ン 伯 ホ イ ア ー な る 人 は か の 世 に 名 高 い 古 いにしえ の 法 律 書 を ザ ク セ ン 宝 シ ュ ピ ー ゲ ル 鑑 と 命 名、 エ ッ コ・ フォン・レプカウなる貴族に編纂させ、ラテン語からドイツ語に翻訳させた。 ファルケンシュタイン城には城附きの精が棲んでいて、数数の 妖 あ や かしごとを行った。かつて一帯の伯爵や領主た ち
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中にはアンハルトのさる伯爵もいた─
が数多くファルケンシュタイン城に集まって 賭 か け事にいそしんだこ と が あ る。 ア ン ハ ル ト 伯 は 所 持 金 を 悉 ことごと く 失 い、 と う と う 生 や し た 髭 ひ げ を 一 本 だ か 数 本 だ か 賭 け の 担 保 に し、 こ れ も 摩 す ってしまった。この髭をあえて引っこ抜こうとする者はいなかったし、伯自身もそうしなかった。しかしその夜 城の精がふわふわ訪れて賭けの担保を要求、これをせしめた。別の殿の話だが、錠の下りた部屋で眠っていたとこ ( ) 52 ( ) 53 ( ) 54 ( ) 55 ( ) 56ろ、 こ の 精 に よ っ て 寝 台 か ら 投 げ 出 さ れ た と い う こ と で あ る。 も っ と も 精 は 精 で も 酒 ア ル コ ー ル 精 の な せ る わ ざ だ っ た か も 知れない。ファルケンシュタイン城は今日なお見事に保存されていて、興味深い物がたくさん見られる。 ファルケンシュタイン城近傍にはティーディアンの森 があり、森には深い 洞 ど う く つ 窟 がある。ティーディアン洞 と呼ば れている。 これには少なからぬ伝説がある。 洞内にはさまざまの豊かな財宝の他に全身黄金でできた男子像がある。 幸いこの像の一部を取って来た者が、金細工師がやるように成分を調べたところ、精錬の度がまたと比類無い黄金 だった。また、例の魔法の花 をうまく見つけることができたある羊飼いが、このティーディアン洞をも発見。鉄の 洞門が開いて黄金をどっさり手に入れた。 クヴェードリンブルクのある金細工師がこれを羊飼いから買ったのだが、 羊 飼 い は 金 細 工 師 に ど こ で 手 に 入 れ た 隠 し 立 て を し な か っ た。 金 細 工 師 が「 も っ と 持 っ て お い で 」 と 言 っ た の で、 有 う け 卦 に入った羊飼いは相変わらず魔法の花を持って洞窟に行き、もっと持って来た。たまたまファルケンシュタイ ン伯が装身具を求めにこの金細工師の 許 も と に立ち寄り、極上の黄金製の物を望むと、金細工師は「極上の黄金はティ ディアンから出ます」と言った。
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「なんと、ティーディアンからとな。わしの領分にある森の」と伯爵はびっ くりして問い返し、羊飼いの好運の話を知ったのである。伯爵はこの好運を羊飼いと分ける気は毛頭無く─
伯爵 がたのような上つ方が 下 し も じ も 下 と物を分かち合うなどということはどこでだって決してありはしないし、金輪際友だち にはならないからで─
これを独り占めにしたかった。そこで羊飼いを呼びつけると、なにゆえ自分(伯爵)の山 か ら 黄 金 を 運 び 出 し た の か、 と 容 赦 無 く 糾 き ゅ う も ん 問 、 た だ ち に そ れ を 見 つ け た 場 所 を 教 え よ、 と 命 じ た。 悪 事 を 働 い た などとは思いもよらず、親切な山の精が恵んでくれた物を 貰 も ら ったに過ぎなかった羊飼いは心底震え上がり、手にし ていた帽子を取り落とした。すると伯爵の飼い猿が跳びついて帽子を奪い、 それを 玩 お も ち ゃ 具 にし、 〔帽子に 挿 さ してあった〕 魔 法 の 花 を 嚙 か み 裂 い て、 ず た ず た に し て し ま っ た。 羊 飼 い は 従 順 に 峻 し ゅ ん げ ん 厳 な ご 主 君 を テ ィ ー デ ィ ア ン に 案 内 し、 洞 ( ) 57 ( ) 58 ( ) 59窟を見つけもしたが、以前は開いて中へ入れてくれた鉄門は無く、険しい 巖 い わ か べ 壁 が行く手を 阻 は ば んでいた。 伝説にいわく。ファルケンシュタイン城に一人は 瞽 め し い 者 、一人は 蹇 あ し な え 者 、一人は 聾 ろ う あ 啞 の殿が三人生まれ、城主となる まで、ティーディアン洞はその財宝を守り通さなければならない、と。こうしたことはいまだかつて起こっていな い。 四〇七 櫃 ひ つ の中の神 ハ ー ル ツ ゲ ロ ー デ と ギ ュ ン タ ー ス ベ ル ク の 辺 り に ご く 古 い 村 が あ り、 ヴ ァ ー タ ー レ ー ベ ン( ヴ ァ ッ サ ー レ ー ベ ン ) と い う。 こ の 村 に、 高 徳 な ハ ル バ ー シ ュ タ ッ ト 司 教 フ リ ー ド リ ヒ の 時 代、 二 人 の 信 心 深 い 姉 妹 が 住 ん で い た。 一人はかつがつではあったが、まあ、なんとか暮らしており、もう一人はせっせと働いていたのに、生計は苦しく な る 一 方 だ っ た。 そ こ で 少 な か ら ず 嘆 き、 姉 妹 を 羨 うらや み、 口 に 出 し て そ れ を 訴 え も し た。 困 っ て い な い 方 の 姉 妹 が こ う 言 っ た。 「 な ん だ っ て あ た し を 羨 む の さ。 あ た し ゃ あ ね、 主 し ゅ な る 神 様 を 櫃 に 入 れ て あ る ん だ よ。 神 様 は あ た し の 持 ち 物 一 切 合 切 祝 福 な さ っ て、 あ た し が 眠 っ て る 間 に 幸 せ を 恵 ん で く だ さ る 」。 貧 し い 姉 妹 は こ の 言 葉 を 真 に 受 けて、 復 オ ー ス テ ル ン 活祭 の夜食に〔教会へ〕行った時、 聖 ホ ス チ ア 餅 を呑み込まないで口に含んだままにし、それからこっそり布切れ にくるんで持ち帰り、櫃にしまった。そうして二、三日後櫃の中の神様が何か大した品を授けてくれたかどうか確 かめようとしたところ、 麦 ビ ー ル 酒 樽 だ る の前に 聖 ホ ス チ ア 餅 を埋めたマルク地方のツェーデニックの女(DSB三五〇)の時みたい に、 聖 ホ ス チ ア 餅 から血が 浸 し み出して
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くるんである布全体がぐっしょり濡れていた。仰天した女は夫を呼び、夫は司祭 に、司祭はハルバーシュタットの司教にこれを見せた。そこで界隈の坊さんがたが全部集まり、司教を先頭に行列 ( ) 60 ( ) 61して、 この 聖 ホ ス チ ア 餅 を推戴、 聖歌を歌い、 燃える 蠟 ろ う そ く 燭 を手に手に、 ハウスラール(ホイデバーと言う者もある)まで練っ て行った。 本当はハルバーシュタットへ持って行くつもりだったのだ。 ところがそこの教会の祭壇に 聖 ホ ス チ ア 餅 を置くと、 もうそこから引き離すことができなくなった。で、 聖 ホ ス チ ア 餅 をそこに留めざるを得ず、 聖 ホ ス チ ア 餅 はずっとそこで血を流し続 けた。かくしてこの地へ大勢の 敬 け い け ん 虔 な巡礼者が引きも切らずに詣でたので、 その献金ですぐに修道院が建立された。 神様を櫃の中に欲しがった例の貧しい女に聖なる血が何か良いことをしてくれたかどうか、伝説は何も語っていな いが、願い事は 叶 か な ったのであろう。 四〇八 死 ト ー テ ン ヴ ェ ー ク 人の道 ヴァーターレーベンから程遠からぬところにあるロットレベローデ村の近くに、池が一つと人呼んで 死 ト ー テ ン ヴ ェ ー ク 人の道 と い う 凹 く ぼ み ち 道 が あ る。 数 あ る ハ ー ル ツ の 伯 爵 の 中 で シ ュ ト ー ル ベ ル ク 伯 ボ ー ト 七 世 、 そ の 舅 しゅうと シ ュ ヴ ァ ル ツ ブ ル ク 伯 ハ インリヒ 、 並びに 剛 デア・キューネ 胆 伯 と添え名されたホーンシュタイン伯ハインリヒ が領土相互相続契約者 としてハルバーシュ タット司教ブルヒャルト三世 に対して戦った。この司教は 黄 ディー・ギュルドネ・アウエ 金 の 沃 野 で数数の劫略を働き、 狼 ろ う ぜ き 藉 の限りを尽くし た の で あ る。 伯 爵 た ち は ハ ー ル ツ 山 地 に 幾 つ も 道 を 切 り 開 き、 こ の 凹 道 で 司 教 の 軍 勢 に 襲 い 掛 か っ た。 そ し て 夥 おびただ しく屍骸の山を築き、七百人以上を捕虜とし、残余をかの池に追い込んだ。以来凹道は 死 ト ー テ ン ヴ ェ ー ク 人の道 と呼ばれ、夜とも なればしばしばこの道で合戦の荒荒しいどよめきが聞こえ、亡霊たちがお互いに激しく闘う姿が見られた。 ( ) 62 ( ) 63 ( ) 64 ( ) 65 ( ) 66 ( ) 67 ( ) 68
四〇九 踊 タ ン ツ タ イ ヒ りの池 ザクスヴェルフェン村 の傍、ノルトハウゼンからイーレフェルトに通じる街道沿い、険しい石灰岩の 巖 い わ か べ 壁 の直下 に広さ六モルゲン以上の池がある。昔この場所に 旅 は た ご や 籠屋 が一軒建っていて、毎週日曜必ず踊りが行われた。本来な らこれ自体は罪深いことではなかったが、踊り熱が 嵩 こ う じた余り、人人は教会にいる時からもうぴょんぴょこ 跳 は ね始 めたもの。最初こんな始末になった時は嵐が襲来、一本の木に雷が落ちた。二度目には地震が起こって、 梁 は り という 梁がみしみし音を立てた。三度目、踊り手たちがこうした予兆に平然としていたので、 主 し ゅ は嵐と地震を同時に送り たもうた。雷が旅籠屋を直撃、地震が楽士たちと踊り手たちを残らず奈落の底に埋めた。旅籠屋のあったところに は 深 い 池 が 生 じ、 今 日 に 至 る ま で 踊 タ ン ツ タ イ ヒ り の 池 と 呼 ば れ て い る。 池 に は 夥 おびただ し い 魚 が 棲 み、 中 に は ご く 歳 古 ふ り た も の も いるとのこと。 何年も前この池でだれにも正体の分からない謎めいた生き物が見掛けられた。 捕まえようとしたが、 潜ってしまい、二度と現れなかった。 踊 タ ン ツ タ イ ヒ りの池 の水は黒黒として不気味である。小舟で池を渡ろうとすると、小舟 がぐらぐら踊りだす、とも伝えられる。池の傍には 牝 ツ ィ ー ゲ ン ロ ッ ホ 山羊穴 なる 洞 ど う く つ 窟 があり、池の水がここに奔入する由。 四一〇 花 クヴェーステ 冠 ハールツ山地の縁、 ロスラ とヴァルハウゼン から程遠からぬところ、 クヴェーステン 山 ベルク の頂きに城の 廃 は い き ょ 墟 がある。 ク ヴ ェ ー ス テ ン 山 ベルク は そ の 昔 陰 フ ィ ン ス タ ー ベ ル ク 鬱 山 と 呼 ば れ て い た、 と い う こ と で、 山 裾 の ク ヴ ェ ー ス テ ン ベ ル ク 村 は か つ て 町 だったそうな。 ( ) 69 ( ) 70 ( ) 71
いつの頃の城主であろうか、 まだいとけない息女が城から遊びに出て、 花を探す内、 城の周囲の森で迷ってしまっ た。 幼 い 姫 君 が 帰 っ て 来 ず、 行 方 不 明 と な っ た の で、 城 主 夫 妻 は 娘 の 身 を 気 遣 っ て 大 層 心 配 し、 召 使 い を 悉 ことごと く 捜 索に送り出した。ある炭焼きが深い森の中で娘を見つけたが、この子は無邪気に摘んだ花で冠を編んでいた。炭焼 きは子どもの氏素性については何も聞き出せぬまま、とりあえず自分の小屋へ連れて行き、食べ物を与え、面倒を 見てやった。何分そこは人里離れた森の奥だったので、行方不明の子どもを人人が気遣ったり探し回ったりしてい ることなど何も聞こえて来なかったが、やがてマンスフェルト伯領の村ロータ の村人らがこの女の子がある草原で またしてもせっせと花冠を編んでいるのを見つけ、炭焼きの小屋へ案内された。村人たちは子どもの行方不明事件 を知っていたから、炭焼きにいろいろ問い質し、彼がこの子が森に独りでいるのを見つけたことを聞かされた。そ こで一同は子どもを連れてフィンスターベルクへ急いだ。この時炭焼きは女の子が編んだ冠を頭に 被 か ぶ っていた。こ うした花冠は当時クヴェーステと呼ばれた。子どもが無事に戻ったので城では大喜び。城主の騎士は炭焼きとロー タの村民に姫が発見された草原を贈り物とし、姫が見つかった日である 聖 プ フ ィ ン グ ス テ ン 霊降臨節 の三日目に毎年祭を行うよう取 り計らわせた。 城 し ろ あ と 址
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というのは〔城が無くなった〕今日もなお祝祭が行われているからだが─
へ若者たちは 太い 柏 ア イ ヒ ェ の樹 を引っ張って来、 馬車の車輪ほども大きい花冠を梢に飾り、 これを立てる。記念の 弥 ミ サ 撒 さえ捧げられる。 さて、城主の騎士は以来自城をフィンスターベルクではなくクヴェーステンベルクと呼ぶようになった。民衆は今 日なお荒涼とした廃墟をクヴェーステと称する。 ( ) 72四一一 発 シ ュ タ ム シ ュ ロ ス 祥の城 アンハルト フ ァ ル ケ ン シ ュ タ イ ン 城 の ほ ん の 近 く、 た っ た 半 哩 マイル し か 離 れ て い な い 大 き な 里 ハ ウ ス ベ ル ク 山 の 上 に 城 の 僅 か な 名 残 が あ る。この城こそいまだに栄えている王侯一門、かつて全ハールツに覇を唱えた一族発祥の地である。すなわちアン ハ ル ト で、 遙 か な 昔「 樹 オ ー ネ ・ ホ ル ツ 木 の 無 い 」 碧 へ き ぎ ょ く 玉 の 巖 い わ ね 根 に 築 か れ た の で、 オ ン= ホ ル ト と い わ れ た。 山 上 に は 極 め て 深 い 巖井戸がある。これは長いこと埋まっていたが、近世底まで掘り返された。井戸には宝が隠されている。これは 釜 か ま に入っているのだが、いまだにだれも引き揚げることができないでいる。かつてある団体が坑夫を一人井戸に降ろ そうと計画した。この坑夫は必要な呪法を無事にやってのけた。すると、なんと、本当に釜が上がり始めた。これ には昔のターラー銀貨と金貨がぎっしり詰まっていた。そしてもうちょっとで 摑 つ か めるほど坑夫に近づいた。坑夫が 手を差し伸べて袋に入れようとすると、釜はつんと澄ました美女みたいにすっと退き、それからまた近づくという 具合におちゃらかし続けたので、とうとう坑夫はこんな悪ふざけに 堪 た ま りかね、一言 呪 じ ゅ そ 詛 を吐いた。ドッスーン、途 端に釜は奈落の底へ。 坑夫の耳には長いこと金貨銀貨が転げて井戸の巖壁にリンリンと当たって鳴る音が聞こえた。 井 戸 の 近 く に は 平 プ フ ァ ン ネ ン ヴ ィ ー ゼ 鍋 の 原 な る 草 原 が あ る。 こ の 原 に 金 貨 銀 貨 で 一 杯 の 醸 造 用 鍋 が 隠 さ れ て い る か ら、 と い う の が 名の由来。魔法で呪封された山の宝が隠されている、との伝説はハールツ山地一帯とその縁辺には際限なく語られ ているが、これもその 類 たぐい である。 ( ) 73 ( ) 74
四一二 アンハルト城のファウスト博士 冬のこと、アンハルトの伯爵の 許 も と へ高名なファウスト博士 がやって来たことがある。ファウストは伯爵の奥方が 妊 娠 し て い る の を 知 り、 「 身 持 ち の 女 に ょ し ょ う 性 に は 珍 ら か と は 申 せ ま せ ぬ か、 何 か 特 別 に 召 し 上 が り た い、 欲 し い と 思 お ぼ し 召す品はござるまいか、もしおありなら魔法を用いて調達いたしましょうぞ」と言った。伯爵夫人はこうした 慇 い ん ぎ ん 懃 な申し出を喜んで受け、 こう返辞した。 「水気のないお砂糖菓子や乾いた 胡 く る み 桃 などではなく、 葡 ぶ ど う 萄 や桜んぼ、 桃 も も といっ た 新 鮮 な 果 物 が 戴 いただ け ま し た ら ね え、 欲 し く て 欲 し く て 堪 た ま り ま せ ん の。 で も、 こ ん な 厳 し い 冬 の 真 っ 最 中 で す も の、 いかにあなた様でも、それから他の魔法使いのかたでもこうした物を取り寄せることはおできになりませんでしょ う」 。するとファウスト博士は 白 し ろ が ね 銀 の皿を三枚手に取り、それを食堂の窓の外へ置き、何か呪文を唱えた。そして、 一 枚 目 の 皿 に 採 れ た て の 林 り ん ご 檎 、 梨 な し 、 桃 が、 二 枚 目 の 皿 に 桜 桃、 杏 あんず 、 李 すもも が、 三 枚 目 の 皿 に 青 い 葡 萄 や 緑 の 葡 萄 が 山 盛 り に な る と、 こ れ ら を 早 速 室 内 へ 持 ち 込 ま せ、 「 ご 斟 し ん し ゃ く 酌 な く 召 し 上 が れ 」 と 言 っ た。 伯 爵 夫 人 は 大 層 喜 ん で そ う した。 ファウスト博士がアンハルト城に暇を告げる時が来ると、彼は伯爵夫妻に「ご散策がてらてまえに 随 つ いていらっ しゃってはいかが。さすればおもしろいものをお目に懸けましょう」と言った。伯爵家の従者たちも同行してのこ ととなり、皆が城門の外に出ると、ロームビュールという丘の上に新築の館が 聳 そ び えているのが目に入った。館を取 り巻く広広とした 濠 ほ り には水鳥が何羽も泳いでいる。 館には塔が五つあり、 一行が近づくと、 二つの門と 空 ツヴィンガー 濠 が珍獣 ・ 奇 獣 の 飼 育 場 と な っ て い る の が 分 か っ た。 中 に は、 お 互 い に 危 害 を 加 え 合 う こ と な く、 尾 無 し 猿 や 尾 長 猿、 熊 く ま 、 羚 か も し か 羊 、 駝 だ ち ょ う 鳥 などなどが歩き回ったり、跳びはねたりしていた。広間の一つには選り抜きの朝食が待っており、ファ ( ) 75 ( ) 76
ウ ス ト 博 士 の 学 僕 ク リ ス ト ー フ・ ヴ ァ ー グ ナ ー が 給 仕 役 で 控 え て お り、 目 に 見 え ぬ 楽 士 た ち が 音 楽 を 奏 で て い た。 料理といい 葡 ワ イ ン 萄酒 といい、素晴らしいもので、だれもかれも上上の機嫌で満腹した。