Vol.116 p. 285 ― 290 (2000)
共存硫酸塩を含む強酸性 MnSO
4
溶液中のオゾン酸化
によって生成した沈殿の X 線回折および放電特性
*
西 村 忠 久
1梅 津 良 昭
2 1.諸 言 オゾンの強い酸化力を利用した技術は,水処理,有機汚染物質 の分解,脱臭等の広範な分野で実用化されて,アメリカおよび ヨーロッパでは広く普及している (Merz and Gaia,1989)。オゾン 酸化のような非常に高いポテンシャルにおいて水溶液中で進行 する反応を明確にすることにより,溶液の酸濃度,温度の枠を従 来よりも大幅に拡大した元素分離,素材合成のための湿式プロセ スの検討が可能になるものと期待される。 著者らは水溶液中および固相中で複雑な酸化状態を有するマ ンガンをとりあげ,MnSO4 溶液中の Mn2 + のオゾンによる酸化, 析出について調べ,オゾン酸化によって硫酸酸性 MnSO4 溶液か ら析出させた二酸化マンガン ( 以下 OMD と記す ) の諸特性は,反 応が進行する温度および溶液の酸濃度によって大きく変化する ことを示してきた ( 西村・梅津,1991,1992a;西村ら,1992b; 西村ら,1992c)。溶液および析出物の化学分析と酸化還元電位 (ORP)の測定によって酸性MnSO4溶液中のオゾン酸化反応の進行 を追跡し,OMD の析出が 25 °Cにおいて 4.0 mol / l ( 以下,mol / l を M と表示する ),70 °Cでは 5.0 M という非常に高い酸濃度にお いても進行し,Fe,As,V,Ti などの共存イオンが酸化・析出反 応の進行に大きな影響を及ぼすことを観察した ( 西村・梅津, 1995)。 本研究では,精鉱中の随伴鉱物に由来し,あるいは再生処理の 対象となる素材に含まれ,種々の湿式プロセスにおいて水溶液中 で Mn と共存する可能性のある 15 種の金属イオンについて,オ ゾン酸化析出物への取り込みおよび析出物の性状に及ぼす影響 を調べた。それぞれの析出物について,Mn および共存金属イオ ンの化学分析,X 線回折を行い,さらに,二酸化マンガンの化学 的特性,結晶構造および格子中の H + の運動等と密接な関連を有 する特性 ( 西村ら,1992c;Kozawa et al, 1988;Ruetsch,1988; Ruetsch・Giovanoli,1988) として知られている 9.0 MKOH 溶液中 の放電挙動を測定し,これを通して酸性 MnSO4 溶液中のオゾン 酸化・析出反応における各共存金属イオンの析出物への取り込み について比較した。 2.実 験 方 法 硫酸酸性 MnSO4単味溶液および共存金属イオンを含む MnSO4 溶液中のオゾン酸化・析出反応は,既報 ( 西村・梅津,1992) に 詳述した実験方法によって進めた。Mn2 + 初期濃度を 0.1 M,硫酸 濃度を 1.0 M とし,これと共存する金属イオンの初期濃度はとく に断らない限り 0.1 M である。また,試料溶液の調製および析出 物の化学分析には市販特級試薬を使用した。 本報告で用いる O3 ― O2混合ガスのオゾン分圧は,25 °Cにおいて KI ― Na2S2O3法によって混合ガスに含まれる O3量を求め,これを オゾン分圧に換算した値である。オゾン分圧 2.7 × 10 ― 2 atm, 70 °Cにおいて O 3 ― O2混合ガスを試料溶液に吹き込んだ。酸化・析 出反応の終了後,直ちに析出物を濾別し,洗浄,通風乾燥の後, 真空デシケータ中に保持 ( 西村・梅津,1992),これを化学分析お よび Cu-Ka 線を用いた X 線回折に供した。析出物のマンガン含 有量は Fe,Ti および V が共存する試料については ICP 発光分光 法,それ以外の試料については EDTA 滴定法によって決定した。 * 1999 年 4 月 19 日受付 12 月 9 日受理 資源・素材学会平成 6 年度春季大会 にて一部発表 1. 正会員 工博 東北大学助手 素材工学研究所 2. 正会員 工博 東北大学教授 素材工学研究所 [ 著者連絡先 ] FAX 022-217-5211 ( 東北大・素材研 ) キーワード:オゾン , 酸化・析出 , 二酸化マンガン , 共存塩 , X 線回折 , 放電特性X-ray Diffraction and Discharge Behavior of Precipitates Produced by Ozone
Oxidation in Acidified MnSO
4Solutions with Addition of Other Sulfate
by Tadahisa NISHIMURA
1and Yoshiaki UMETSU
11. Institute for Advanced Materials Processing, Tohoku University, Aoba-ku, Sendai 980 - 8577
The incorporation of coexisting metal ion in the precipitates produced by ozone oxidation-precipitation in
acidified MnSO
4solutions with an added sulfate was investigated for 15 elements (18 ionic species) by chemical
analysis, X-ray diffraction and discharge curve measurement of the precipitates.The precipitates were formed in the
stream of O
3― O
2gas mixture with ozone partial pressure of 2.7 × 10
― 3atm at 70
°C in the solutions of 1.0 M sulfuric
acid, 0.1 M MnSO
4and other metal sulfate. A little incorporation in the g ― MnO
2based precipitate was detected for
alkali metal ions, Mg, Cu, Co and Ni ions. Both Fe (Ⅱ) and Fe (Ⅲ) ions were captured in the precipitate and affected
significantly the discharge curve of the precipitate. The precipitates formed in the presence of Ti, V or As showed a
fairly high content of the coexisting element, X-ray diffraction peaks remarkably differing from those for g ― MnO
2and poor discharge behavior. These suggest possibility for Ti, V or As to be precipitated as some compounds with
Mn rather than to be incorporated into the MnO
2-based precipitate.
KEY WORDS
:Ozone, Oxidative Precipitation, Manganese Dioxide, Coexisting Sulfate, Incorporation, Discharge
Curve
ぞれの試料と同時に測定に供した。 3.実験結果および考察 3・1 共存金属イオンの析出物中の含有量 共存金属イオンを含む酸性MnSO4溶液からオゾン酸化によって 生成した析出物の Mn およびそれぞれの共存金属イオンの含有量 を Table 1 に示す。ここでは,析出物の共存金属イオンの含有量 をそれぞれの mass% で示した。含有量が低い金属イオンについて は,前報 ( 西村ら,1992c) に図示した値を再掲した。 アルカリ金属イオンを含む溶液からの析出物では,アルカリ金 属イオンの含有量は低いが,析出物に含まれている共存金属イオ ンのマンガンに対するモル比 ( 共存金属イオンが析出物中に均一 に含まれていると考えたときのモル比,M / Mn 比 ) は,Li,Na お よび K について,それぞれ 8.3 × 10 ― 4,1.9 × 10 ― 3および 1.7 × 10 ― 2であり,イオン半径が大きくなるほど析出物への取り込みが 多くなる傾向がみられる。 Mn イオンと共存することが多く,酸性電解液中に蓄積される 不純物イオンとして知られている Mg が共存する MnSO4溶液から の析出物では,Mg / Mn モル比が 3.5 × 10 ― 3と低く,オゾン酸化 による析出物への取り込みが少ない。また,Al (Ⅲ) も析出物の Al / Mn比が 1.6 × 10 ― 3であり,析出酸化物への混入が少ない。 Ⅱ B 族 (12 族 ) 元素イオンでは,Zn,Cd の M / Mn 比がそれぞ 添加した Fe イオンの価数によらず,析出物の Fe 含有量がいずれ も約 4 % に達した。また,Fe(Ⅱ) 初期濃度が高くなるに従って析 出物の Fe / Mn 比が上昇した。鉄と同じくⅧ A 族 (8,9,10 族 ) に 属する Co および Ni イオンは,酸濃度 1.0 M ではオゾンによって も酸化されず (Nishimura and Umetsu,1992),析出物への取り込み も Fe に比較して少ない。 As を含む溶液では,As (Ⅲ) および As (Ⅴ) のいずれを添加して も,As 初期濃度が 0.02 M と低いにもかかわらず,析出物中の As 含有量は約 4 % (As / Mn 比= 5.4 × 10 ― 2) となった。溶液の As (Ⅱ) 初期濃度が高くなるほど析出物の As の含有量は増加するが, 溶液に添加した As に対する析出物へ取り込まれる As の割合は, 初期濃度が低くなるに従って高くなる傾向がみられる。 さらに,析出物中の Ti および V の含有量は,それぞれ 10.4 お よび 6.9 % (M / Mn 比はそれぞれ 2.9 × 10 ― 1および 1.6 × 10 ― 1) と 他の金属イオンに比較して非常に高いことが注目される。両イオ ンについて,溶液中の初期濃度の上昇に従って析出物中の含有量 が大幅に上昇する傾向がみられた。 3・2 析出物の X 線回折および放電挙動 共存金属イオンを含む酸性 MnSO4溶液からの析出物について, 共存金属イオンの取り込みによる結晶構造の変化の可能性を調べ るために,X 線回折および放電試験を行った。各試料に対する放 電曲線について,放電の進行に伴って電位が降下する均一酸化還 元体としての MnO2の放電部分および MnOOH の放電に対応する 電位 (Kozawa et al.,1988;Ruetsch,1988;Ruetsch and Giovalino, 1988) に注目した。いずれの場合も,共存金属イオンを含まない MnSO4溶液からの OMD を基準試料 ( 表および図中で "nil" と表 示 ) とした。また,共存塩を添加した溶液から生成した析出物に ついては,図中にそれぞれの共存金属イオンの含有量を mass% で 示した。析出物に取り込まれる量が多い共存金属イオンについて は,その初期濃度を変えて共析の様子を調べ,その結果を ( ) 内 にそれぞれの初期濃度を記して各図に示した。基準試料の X 線回 折では,低角側から 110,021,121,221 および 002 回折ピークと いうg ― MnO2に特徴的な (De Wolff,1959;西澤・小柴,1969;西 村・梅津,1992a) 5 つの明瞭なピークが観察された。 3・2・1 析出物への混入が少ない元素 Fig.1 に Li (Ⅰ),Na (Ⅰ) あるいは K (Ⅰ) を含む溶液から生成した析出物についての結 果を示す。電解法による乾電池材料用のg ― MnO2(EMD) の製造で は,電解液中に少量の K (Ⅰ) イオンが共存すると,K (Ⅰ) イオン を格子中に組み込んだa ― MnO2が電析しやすいことが知られてい る。ところが,オゾン酸化では,溶液中に 0.1 M のアルカリ金属 イオンが共存するにもかかわらず,いずれの析出物も基準試料と 合致するg ― MnO2の X 線回折ピークを示しており,アルカリ金属 イオンの共存による結晶系の変化は見られなかった。また,放電 曲線も基準試料の OMD の結果と実験誤差範囲内で一致している。 したがって,酸性溶液中の Mn2 + のオゾン酸化・析出反応では,g ― MnO2が生成し,溶液中に共存するアルカリ金属イオンによる析 出物の結晶系および放電挙動へのに影響は観察されなかった。
Table 1 Chemical analyses of precipitates produced from 0.1 M MnSO4-1 M
4 Fig.2 に Mg (Ⅱ) イオンおよび Al (Ⅲ) イオンを添加した溶液か らの析出物の特徴を示す。両金属イオンを含む溶液からの析出物 については,X 線回折ピークおよび放電曲線のいずれも基準試料 とよい一致を示しており,両イオンともに析出物への取り込みが 少なく,析出物は OMD と同様な特性を示した。 Fig.3 に,Zn (Ⅱ),Cd (Ⅱ) あるいは Hg (Ⅱ) を共存イオンとする 溶液からの析出物について X 線回折および放電曲線を示す。各試 料の X 線回折ピークはg ― MnO2に特徴的な 5 個のピークを示して おり,ピーク位置およびその強度,半値幅に顕著な変化は見られ ず,これらの析出物は γ タイプの MnO2の結晶と同じ基本構造を 保っていると考えられる。また,それぞれの放電曲線は基準試料 の OMD と実験誤差範囲内で一致している。このように,溶液中 の Cd (Ⅱ) および Hg (Ⅱ) イオンはオゾン酸化時に MnO2の結晶内 に取り込まれるが,その結晶構造および放電挙動にはほとんど影 響を及ぼさない。図では省略したが,Hg (Ⅰ) イオンを添加した場 合には,生成する析出物の X 線回折ピークおよび放電曲線はいず れも Hg (Ⅱ) イオンを含む溶液からの析出物とほぼ同様であった。 酸濃度が高い MnSO4溶液から析出させた OMD について,含水量 が高く,イオン交換反応による Zn および Cd の吸収容量が大きく なる傾向があるが,OMD のイオン交換反応は pH が低い溶液では 進行しないことが観察されている ( 梅津・西村ら,2000)。した がって,硫酸濃度 1.0 M の溶液からの析出物への Zn および Cd の 取り込みはいったん析出した OMD のイオン交換反応によるもの ではなく,オゾン酸化・析出の過程で結晶へ取り込まれるものと 推定される。
Fig.4 に Co (Ⅱ),Ni (Ⅱ),Cu (Ⅱ) を含む溶液からの析出物につ いての結果を示す。いずれの試料もピーク位置および強度ともに 基準試料とほぼ等しい X 線回折ピークを示した。放電曲線に現れ た電気化学的挙動もいずれも実験誤差内で基準試料と一致してお り,共存金属イオンによる影響は検出されなかった。酸濃度が 1.0 Mの溶液中では,オゾンを用いても,Co (Ⅱ) および Ni (Ⅱ) イオ ンの酸化・析出は進行せず (Nishimura and Umetsu,1992),本実験 の条件の下では,g ― MnO2 の構造および放電特性を有する結晶が 生成する。 3・2・2 析出物中の含有量が高い元素 Fe (Ⅱ) あるいは Fe ( Ⅲ )をそれぞれ0.1 M含む溶液からの析出物についての結果をFig.5 に示す。前述のように,析出物の Fe 含有量は約 4 % と高い値を とった。この Fe を含む析出物の X 線回折では,g ― MnO2の 110, 121および 221 回折ピークに顕著に現れるように,ピークがブロー ドになり,それぞれの強度が基準試料に比較して減少しており, 基本構造がg ― MnO2からやや偏倚していると考えられる。さらに, Feを含有する析出物では放電曲線が基準試料と異なった。すなわ ち,基準試料である OMD に比較して放電に伴って電位の降下が 大きくなり,放電の進行とともに電位が降下する,いわゆる均一 相酸化還元体としての放電の後半にその影響がとくに強く現れて いる。Fe (Ⅱ) を含む溶液からの析出物の X 線回折結果および放電 挙動が Fe (Ⅲ) を添加した溶液からの析出物に対する結果と非常に 類似している。Fe (Ⅱ) イオンの Fe (Ⅲ) への酸化が析出物の生成 に先行して起こり,Fe (Ⅱ) あるいは Fe (Ⅲ) のいずれの形で溶液 に添加しても,Fe (Ⅲ) として析出物に取り込まれたと推定される。
Fig.1 X-ray diffraction patterns (a) and discharge curves (b) for precipitates containing Li (Ⅰ), Na (Ⅰ) or K (Ⅰ) produced by ozonation.
Fig.2 X-ray diffraction patterns (a) and discharge curves (b) for precipitates containing Mg (Ⅱ) or Al (Ⅲ) produced by ozonation.
Fig.3 X-ray diffraction patterns (a) and discharge curves (b) for precipitates containing Zn (Ⅱ), Cd (Ⅱ) or Hg (Ⅱ) produced by ozonation.
Fig.4 X-ray diffraction patterns (a) and discharge curves (b) for precipitates containing Co (Ⅱ), Ni (Ⅱ) or Cu (Ⅱ) produced by ozonation.
これは,Fe (Ⅱ) と Mn (Ⅱ) の混合溶液のオゾン酸化において,ORP が最初は Fe (Ⅱ) 単味溶液中と同様な変化を示し,ついで OMD の 析出を示す高い電位へ移行したという既報の観察結果 ( 西村・梅 津,1995) と合致している。 Fe (Ⅱ) の初期濃度が 0.001 M,0.01 M および 0.1 M の溶液から の析出物について X 線回折および放電試験の結果を Fig.6 に示す。 Fe (Ⅱ) イオンを含む溶液からの析出物では,Fe (Ⅱ) の初期濃度が 0.01 M (0.056 g Fe (Ⅱ) / l) と低い水準ですでに Fe が析出物に取り 込まれており,Fe (Ⅱ) 初期濃度の上昇に従って,析出物の Fe 含 有量が上昇,回折ピークはブロードになった。また,放電特性も Fe含有量とともに変化し,0.90 % Fe を含む析出物では放電後期 の電位の降下が速くなり,Fe 含有量の増加に従って放電全域にわ たって電位の降下が速くなった。 湿式プロセスにおいて,その挙動のコントロールが常に課題と なる As を含む溶液からの析出物についての結果を Fig.7 に示す。 Asが共存する溶液では,その初期濃度が 0.02 M と低いにもかか わらず,As (Ⅲ),As (Ⅴ) のいずれの場合も析出物の As 含有量が 4 % (As / Mnモル比= 5.4 × 10 ― 2) と高い値を示した。析出物の X線回折ピークおよび放電挙動は,出発溶液中の As の酸化状態 によらずほぼ同様であった。前報 ( 西村・梅津,1995) に示したオ ゾン吹き込み時の ORP の変化を考え合わせると,はじめにオゾン によって As (Ⅲ) が As (Ⅴ) へ酸化され,これに引き続いて起こる Mn2 + の酸化に伴って析出物が形成されると考えられる。 As を含む析出物では,X 線回折ピークが基準試料に比較して著 しくブロードになった。さらに,g ― MnO2に特徴的な 110 および 002 回折ピークがとくに不明瞭になり,低角におけるバンドの強 度が上昇している。As を含む析出物の放電曲線も基準試料と著し く異なり,初期電位 (open circuit voltage) が低く,均一酸化還元体 としての放電における電位の降下が著しく大きくなり,2 相平衡 における反応に対応する電位まで短時間で降下した。 As (Ⅲ) の初期濃度が異なる溶液からの析出物の X 線回折パター ンおよび放電曲線を Fig.8 に比較する。As (Ⅲ) の初期濃度が高く なるに従って析出物の As 含有量が上昇し,回折ピークがブロー ドになり,ピーク強度が低下する傾向がみられた。 As (Ⅲ) の初期濃度が 0.0002 M と低い溶液からの析出物では,As の取り込みによる放電への影響はみられなかった。しかし,溶液 の As 初期濃度が上昇し,析出物の As 含有量が高くなるに従って, 析出物が示す初期電位が低くなり,放電に伴う電位の降下が著し く速くなった。このように,As (Ⅲ) あるいは As (Ⅴ) が共存する 溶液から生成した析出物では,1.0 M と高い酸濃度においても As が結晶内に取り込まれており,Mn (Ⅱ) の酸化が進む過程ですでに 溶液中にある As(V) と Mn の間で化合物が形成されると推定され る。 Table 1 に見られるように,Ti および V は沈殿中の含有量が非常 に高い値を示している。 異なる初期濃度で Ti(SO4)2を共存させた MnSO4溶液からの析出 物についての結果を Fig.9 に示す。析出物の Ti の含有量は,Ti 初 期濃度の上昇とともに高くなり,0.1 M の Ti を含む溶液からの析 出物では 10.4 % (Ti / Mn モル比= 0.29) に達した。析出物の X 線 回折では,Ti 含有量の増加に伴って,g ― MnO2を特徴づける 110 や これと直交する 002 あるいは 221 回折ピークがいずれもブロード になり,かつ強度が低下し,10.4 % Ti では低角領域に大きなバン
Fig.8 X-ray diffraction patterns (a) and discharge curves (b) for precipitates produced at various concentra-tions of As (Ⅲ) by ozonation.
Fig.5 X-ray diffraction patterns (a) and discharge curves (b) for precipitates produced in the presence of Fe (Ⅱ) or Fe (Ⅲ) by ozonation.
Fig.6 X-ray diffraction patterns (a) and discharge curves (b) for precipitates produced at various concentra-tions of Fe (Ⅱ) by ozonation.
Fig.7 X-ray diffraction patterns (a) and discharge curves (b) for precipitates produced in the presence of As (Ⅲ) or As (Ⅴ) by ozonation.
4 ドが現れている。放電時の試料電極の電位についても,Ti 含有量 が 0.27 % と低い沈殿で基準試料よりも降下が速くなるという影響 がすでに現れ,2.0 および 10.4 % Ti を含む析出物では,電位の降 下が著しく速く,その放電曲線は OMD とは全く異なるものであっ た。 Fig.10 に,VOSO4が共存する溶液からの析出物についての結果 を示す。V (Ⅳ) はオゾンによって酸性溶液中でも V (Ⅴ) に酸化さ れる (Nishimura and Umetsu,1996)。Ti あるいは As を含む系と同 様に,析出物の V 含有量が高く,溶液の V (Ⅳ) の初期濃度の上昇 とともに析出物の V 含有量が上昇し,それぞれの X 線回折ピーク はブロードになり,強度が著しく低下した。V 含有量が 6.9 % の 析出物では,低角領域にブロードなバンドが現れ,基準試料と異 なる構造を有する化合物が含まれていることが示されている。析 出物への V の取り込みは放電挙動にも顕著な影響を及ぼし,含有 量が 0.5 % の析出物では均一酸化還元体の放電後期に電位降下が 速くなるという変化が現れた。V 含有量が高い析出物では,放電 開始直後から急激な電位の低下が始まり,6.9 % V の析出物では OCVが基準試料よりも著しく低くなった。 このように,As,Ti あるいは V イオンを含む MnSO4溶液から の析出物は,基準試料と大きく異なる X 線回折ピークおよび放電 挙動を示しており,g ― MnO2 とは異なる基本構造を有する生成物 を含んでいると推定される。析出物に含まれるこれらの共存金属 イオンについては,電池活物質であるg ― MnO2への取り込みより も As,Ti あるいは V を含む Mn の複合酸化物を形成すること,あ るいは低含有量の試料ではg ― MnO2の基本格子に入って大きな歪 を発生させ,これが放電反応に大きく寄与するプロトン (Kozawa et al.,1988;Ruetsch,1988;Ruetsch and Giovalino,1988) の結晶 内の運動に抵抗を与えることなどが考えられ,放電挙動の劣化, すなわち放電の進行に伴って分極が大きくなる現象が現れると推 定される。オゾン酸化によって生成する可能性があるg ― MnO2以 外の酸化物析出物としては,それぞれに X 線回折ピークが確認さ れている MnVO3あるいは Mn2(AsO4)3などをあげることができる。 3・3 析出物の放電量 Fig.1 ∼ 10 に示したそれぞれの共存金属イオンを含む析出物の 均一相還元に対応する放電曲線の部分から,試料電極の電位が所 定の値に降下するまでに取り出された電力 ( 本研究では mA・h・ volt (mW・h)),いわゆる電池活物質としての放電量を求め,これ を析出酸化物の強制放電における活性度を比較するための尺度と した。これは乾電池材料としての MnO2の特性の評価に一般に用 いられている方法に準拠したものである。本研究では,析出物試 料の放電時の電位が HgO / Hg9.0 MKOH 比較電極に対してそれぞ れ ― 0.2 および ― 0.4 V になるまでの放電量を Fig.11 に比較した。本 研究で取り上げた元素の中で,とくに Ti,V,As および Fe が析 出物に入り,その放電量を著しく低下させることが明らかである。 これらの共存金属イオンは,溶液中の濃度の上昇に従って析出物 中の含有量が高くなり,その電気化学的活性度を著しく低くする ようになる。Fe は他の 3 元素とは一般的な化学的性質を異にする が,酸濃度が 1.0 M の溶液から析出物中へ取り込まれて,放電量 を減少させる。Fe 含有量が 4.5 % の試料 (No.16,Fe (Ⅱ) を共存金 属イオンとして添加 ) と 3.9 % の試料 (No.17,Fe (Ⅲ) を溶液に添 加 ) では,放電量が異なっており,Fe 含有量の上昇とともに放電 量を小さくする作用が強く現れるようになる。
Fig.10 X-ray diffraction patterns (a) and discharge curves (b) for precipitates produced at various tions of V (Ⅳ) by ozonation.
Fig.9 X-ray diffraction patterns (a) and discharge curves (b) for precipitates produced at various concentra-tions of Ti (Ⅳ) by ozonation.
Fig.11 Discharge capacity of precipitate samples containing added metal element; (1) nil,(2) 0.006 % Li (Ⅰ),(3) 0.045 % Na (Ⅰ),(4) 0.67 % K (Ⅰ), (5) 0.090 % Mg (Ⅱ),(6) 0.045 % Al (Ⅲ),(7) 0.48 % Zn (Ⅱ), (8) 1.6 % Cd (Ⅱ),(9) 0.49 % Hg (Ⅱ)*,(10) 0.45 % Hg (Ⅱ), (11) 1.7 % Co (Ⅱ), (12) 0.41 % Ni (Ⅱ),(13) 0.81 % Cu (Ⅱ), (14) 0.14 % Fe (Ⅲ)*,(15) 0.90 % Fe (Ⅲ)*,(16) 4.5 % Fe (Ⅲ)*, (17) 3.9 % Fe (Ⅲ),(18) 0.14 % As (Ⅴ)*,(19) 1.2 % As (Ⅴ)*, (20) 3.8 % As (Ⅴ)*,(21) 4.0 % As (Ⅴ),(22) 0.27 % Ti (Ⅳ), (23) 2.0 % Ti (Ⅳ),(24) 10.4 % Ti (Ⅳ),(25) 0.50 % V (Ⅴ)*, (26) 3.0 % V (Ⅴ)*,(27) 6.9 % V (Ⅴ)*,(28) EMD (IC No-20), (29) CMD(IC No-5) * valence after ozonation
イオン半径が大きくなるに従って,析出物への取り込みが多くな る傾向がある。 2.Zn,Cd,Cu,Co,Ni,Mg などの 2 価金属イオンは,析出 物の X 線回折および放電特性に顕著な影響を及ぼさない。 3.Fe は析出物に入り,X 線回折ピークをブロードにし,放電 中の電位の降下を速くする。 4.Hg は溶存イオンの約 70 % が析出物に含有された。 5.As,V および Ti については,析出物の含有量が他の金属イ オンに較べて非常に高くなり,放電中の試料電位の低下を著しく 西村忠久・釜谷 隆・梅津良昭 (1992b):資源と素材 , Vol. 108, p. 473 ― 477 西村忠久・梅津良昭・佐々木正元 (1992c):資源と素材 , Vol. 108, p. 891 ― 895 西村忠久・梅津良昭 (1995):資源と素材 , Vol. 111, p. 329 ― 334
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