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日本肝臓学会肝炎診療ガイドライン作成委員会 ( 五十音順 ) 朝比奈靖浩 東京医科歯科大学消化器内科 大学院肝臓病態制御学 泉 並木 武蔵野赤十字病院消化器科 桶谷 眞 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科消化器疾患 生活習慣病学 熊田博光 虎の門病院肝臓センター 黒崎雅之 武蔵野赤十字病院消化器科 *

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(1)

1

B 型肝炎治療ガイドライン

(第

1.1 版)

2013 年 5 月

日本肝臓学会

肝炎診療ガイドライン作成委員会 編

(2)

日本肝臓学会肝炎診療ガイドライン作成委員会(五十音順)

朝比奈靖浩

東京医科歯科大学消化器内科・大学院肝臓病態制御学

泉 並木

武蔵野赤十字病院消化器科

桶谷 眞

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科消化器疾患・生活習慣病学

熊田 博光

虎の門病院肝臓センター

黒崎 雅之

武蔵野赤十字病院消化器科

**

小池 和彦

東京大学大学院医学系研究科消化器内科学

鈴木 文孝

虎の門病院肝臓センター

*

滝川 一

帝京大学医学部内科

田中 篤

帝京大学医学部内科

田中 榮司

信州大学医学部内科学講座2

田中 靖人

名古屋市立大学大学院医学研究科病態医科学(ウイルス学)・肝疾患センター

坪内 博仁

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科寄附講座 HGF 組織修復・再生医療学

講座

林 紀夫

関西労災病院

平松 直樹

大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学

四柳 宏

東京大学大学院医学系研究科生体防御感染症学

* 委員長 ** 特別委員

Corresponding author: 田中 篤

〒173-8605 東京都板橋区加賀 2-11-1 帝京大学医学部内科

Tel 03(3964)1211

Fax 03(3964)6627

Email a-tanaka@med.teikyo-u.ac.jp

2013 年 4 月

第 1 版

2013 年 5 月

第 1.1 版

 テキスト中の表ナンバーの修正

 ALT の単位を U/l に修正

 表 3、Peg-IFN の妊娠中の投与についての記載を修正

 表 5、エンテカビルの HBs 抗原陰性化(短期経過)を 0.3%に修正

 p39・p49、エンテカビル治療成績についてのデータを修正

 表 17、3TC の合剤についての記載を追加

(3)

目 次

1.総説

5

1-1.B 型肝炎ウイルス

5

1-2.HBV 持続感染者の自然経過

5

1-3.治療目標 - 何を目指すべきか?

7

1-4.治療薬 - どの薬剤を用いるべきか?

8

1-5.治療対象 - 誰を治療すべきか?

13

1-5-1.慢性肝炎-治療対象とならない症例は?

14

1-5-2.非活動性キャリアの定義

15

1-5-3.肝生検の適応

16

1-5-4.慢性肝炎-治療対象とすべき症例は?

16

1-5-5.肝硬変

16

1-5-6.発癌リスクを踏まえた経過観察

17

2.HBV マーカーの臨床的意義

19

2-1.HBV ゲノタイプ

19

2-2.HBV DNA 定量

20

2-3.HBs 抗原定量

21

2-4.HB コア関連抗原

25

3.治療薬(1)-IFN

27

3-1.IFN の抗ウイルス作用

27

3-2.IFNαおよび IFNβ

27

3-2-1.HBe 抗原陽性慢性肝炎に対する治療効果

27

3-2-2.HBe 抗原陰性慢性肝炎に対する治療効果

28

3-3.Peg-IFNα-2a

28

3-3-1.HBe 抗原陽性慢性肝炎に対する治療効果

29

3-3-2.HBe 抗原陰性慢性肝炎に対する治療効果

30

3-4.B 型肝硬変に対する IFN 治療

31

3-5.核酸アナログ製剤を同時併用すべきか

31

3-6.治療効果を規定する因子

32

3-6-1.HBV ゲノタイプ

32

3-6-2.HBs 抗原量

33

3-6-3.年齢・線維化

34

3-6-4.

IL28B

遺伝子

34

3-7.副作用

35

4.治療薬(2)-核酸アナログ製剤

36

(4)

4-1.ラミブジン

36

4-2.アデホビル

37

4-3.エンテカビル

38

4-4.核酸アナログ耐性ウイルスへの対応

39

4-4-1.ラミブジン耐性ウイルス

39

4-4-2.アデホビル耐性ウイルス

40

4-4-3.エンテカビル耐性ウイルス

41

4-5.Drug-free へ向けて

41

4-5-1.核酸アナログ治療の中止

42

4-5-2.sequential 療法

43

4-5-3.核酸アナログ中止あるいは Sequential 療法終了後の再治療

44

5.慢性肝炎・肝硬変への対応

46

5-1.抗ウイルス療法の基本方針

46

5-1-1.慢性肝炎(初回治療)

46

5-1-2.慢性肝炎(再治療)

46

5-1-3.肝硬変

46

5-2.HBe 抗原陽性慢性肝炎

47

5-2-1.治療開始時期

47

5-2-2.治療薬の選択

48

5-3.HBe 抗原陰性慢性肝炎

50

5-3-1.治療開始時期

50

5-3-2.治療薬の選択

51

5-4.肝硬変

51

5-4-1.代償性肝硬変

52

5-4-2.非代償性肝硬変

52

5-5.抗ウイルス治療による発癌抑止効果

53

5-5-1.IFN

53

5-5-2.核酸アナログ製剤

54

6.その他の病態への対応

56

6-1.急性肝炎

56

6-2.劇症肝炎

57

6-2-1.診断・病態

57

6-2-2.治療方針

57

6-2-3.核酸アナログ

58

6-2-4.IFN

59

6-3.HBV 再活性化

59

(5)

6-3-1.再活性化のリスク

63

6-3-2.スクリーニング

64

6-3-3.基本的な再活性化対策

64

6-3-4.肝移植

66

6-3-5.その他の臓器移植

66

6-3-6.造血幹細胞移植

66

6-3-7.リツキシマブを含む化学療法

66

6-3-8.通常の化学療法

67

6-3-9.リウマチ性疾患・膠原病に対する免疫抑制療法

67

6-3-10.新規分子標的治療薬

68

6-4.HIV 重複感染

68

6-4-1.疫学

68

6-4-2.基本的原則

68

6-4-3.治療上の問題点と対応

69

(6)

1.総説

1-1.B 型肝炎ウイルス

B 型肝炎ウイルス(hepatitis B virus ; HBV)持続感染者は世界で約 4 億人存在すると推定され

ている

1)

。本邦における HBV の感染率は約 1%である。出産時ないし乳幼児期において HBV に感染

すると、9 割以上の症例は持続感染に移行する。そのうち約 9 割は若年期に HBe 抗原陽性から HBe

抗体陽性へと HBe 抗原セロコンバージョンを起こして非活動性キャリアとなり、ほとんどの症例

で病態は安定化する。しかし、残りの約 1 割では、ウイルスの活動性が持続して慢性肝炎の状態

が続き、年率約 2%で肝硬変へ移行し、肝細胞癌、肝不全に進展する

2-4)

HBV に関わる臨床研究の歴史は 1964 年の Blumberg らによるオーストラリア抗原(後の HBs 抗原)

の同定にはじまる。その後、Prince ら・大河内らにより、オーストラリア抗原が肝炎の発症に関

係することが報告され、さらに HBV に感染しても肝炎を発症しない、いわゆる無症候性キャリア

が存在することや、HBV が慢性肝疾患の原因となることなど、新たな事実が次々に判明した。HBV

の本態である Dane 粒子が同定されたのは 1970 年、HBe 抗原が発見されたのは 1972 年である。1979

年にはウイルス粒子から HBV ゲノムがクローニングされ、ウイルス遺伝子(HBV DNA)の測定が可能

となった。

本邦では、1972 年に日本血液センターにおける HBs 抗原のスクリーニング検査が開始された。さ

らに、1986 年に開始された母子感染防止事業に基づく出生児に対するワクチンおよび免疫グロブ

リン投与により,垂直感染による新たな HBV キャリア成立が阻止され、若年者における HBs 抗原

陽性率は著しく減少した。しかし、一方で性交渉に伴う水平感染による B 型急性肝炎の発症数は

減少せず、近年では、肝炎が遷延し慢性化しやすいゲノタイプ A の HBV 感染が増加傾向にある

5)

1-2.HBV 持続感染者の自然経過

HBV 自身には細胞傷害性がないか,あっても軽度であると考えられている。肝細胞障害は、主と

して HBV 感染細胞を排除しようとする宿主の免疫応答である細胞傷害性 T 細胞による細胞性免疫

によって引き起こされる。この他にも抗原特異的ヘルパーT 細胞、マクロファージ、ナチュラル

キラー細胞、ナチュラルキラーT 細胞などの免疫担当細胞が炎症、病態形成に関与する。HBV 持続

感染者の病態は、宿主の免疫応答と HBV DNA の増殖の状態により、主に 4 期に分類される(図1)。

① 免疫寛容期 immune tolerance phase

乳幼児期は HBV に対する宿主の免疫応答が未発達のため、HBV に感染すると持続感染に至る。そ

の後も免疫寛容の状態、すなわち HBe 抗原陽性かつ HBV DNA 増殖が活発であるが、ALT 値は正常

で肝炎の活動性がほとんどない状態が続く(無症候性キャリア)。感染力は強い。多くの例では乳

幼児期における感染後、免疫寛容期が長期間持続するが、その期間は数年から 20 年以上まで様々

である。

(7)

成人に達すると HBV に対する免疫応答が活発となり、免疫応答期に入って活動性肝炎となる。HBe

抗原の消失・HBe 抗体の出現(HBe 抗原セロコンバージョン)に伴って HBV DNA の増殖が抑制され

ると肝炎は鎮静化する。しかし肝炎が持続して HBe 抗原陽性の状態が長期間続くと肝病変が進展

する(HBe 抗原陽性肝炎)

③ 低増殖期

low replicative phase (inactive phase)

HBe 抗原セロコンバージョンが起こると多くの場合肝炎は鎮静化し、HBV DNA 量は 4 log copies/ml

以下の低値となる(非活動性キャリア)。しかし 10~20%の症例では、HBe 抗原セロコンバージョ

ン後、HBe 抗原陰性の状態で HBV が再増殖し、肝炎が再燃する(HBe 抗原陰性肝炎)

。また 4~20%

の症例では、HBe 抗体消失ならびに HBe 抗原の再出現(リバースセロコンバージョン)を認める。

④ 寛解期

remission phase

HBe 抗原セロコンバージョンを経て、一部の症例では HBs 抗原が消失し HBs 抗体が出現する。寛

解期では、血液検査所見、肝組織所見ともに改善する。HBV 持続感染者での自然経過における HBs

抗原消失率は年率約 1%と考えられている。

図 1 HBV 持続感染者の自然経過

このように、HBV 持続感染者はその自然経過において HBe 抗原陽性の無症候性キャリアから、HBe

抗原陽性あるいは陰性の慢性肝炎を経て、肝硬変へと進展しうる。肝硬変まで病期が進行すれば

年率 5~8%で肝細胞癌が発生する。一方、自然経過で HBe 抗原セロコンバージョンが起こった後

に HBV DNA 量が減少し、ALT 値が持続的に正常化した HBe 抗原陰性の非活動性キャリアでは、病

(8)

期の進行や発癌のリスクは低く、長期予後は良好である。HBV 持続感染者の治療に当たっては、

HBV 持続感染者のこのような自然経過をよく理解しておくことが必要である。

なお、成人に達してからの感染では、感染後早期に免疫応答が起こり、急性肝炎後にウイルスが

排除され肝炎が鎮静化するのが一般的であるが、HBV ゲノタイプ A の増加により近年は成人期の

感染でも慢性肝炎に移行する症例が増えている

5)

1-3.治療目標 - 何を目指すべきか?

HBV 持続感染者に対する抗ウイルス療法の治療目標は「HBV 感染者の生命予後および QOL を改善す

ること」である。

HBV 感染は 3 種の病態を通して生命予後に直接関与する。すなわち、急性肝不全、慢性肝不全な

らびに肝細胞癌である。このうち HBV による急性肝不全発症は、一般には予測ならびに予防が困

難であり、免疫抑制剤などが誘因となる HBV 再活性化の発症予防が治療の中心となる。その一方、

HBV 持続感染による慢性肝不全ならびに肝細胞癌発症については明らかなリスク因子が存在し、

抗ウイルス療法によってリスク因子を消失させ、発症リスクを低減させることが可能である。す

なわち、HBV 持続感染者に対する抗ウイルス療法の治療目標は、

「肝炎の活動性と肝線維化進展の

抑制による慢性肝不全の回避ならびに肝細胞癌発生の抑止、およびそれによる生命予後ならびに

QOL の改善」と言い換えることができる。この最終目標を達成するために最も有用な surrogate

marker は HBs 抗原であり、本ガイドラインでは HBV 持続感染者における抗ウイルス療法の長期目

標を“HBs 抗原消失”に設定した(表1)。

表1 抗ウイルス療法の目標

長期目標

HBs 抗原消失

短期目標

慢性肝炎

肝硬変

ALT

持続正常

*1

持続正常

*1

HBe 抗原

陰性

*2

陰性

*2

HBV DNA

*3

on-treatment

(核酸アナログ継続治療例)

陰性

陰性

off-treatment

(IFN 終了例/核酸アナログ中止例)

*4

4 log copies/ml 未満

陰性

*5

*1. 30 U/l 以下を「正常」とする。

*2. HBe 抗原陽性例では HBe 抗原の陰性化、HBe 抗原陰性例では HBe 抗原陰性の持続。

*3. 高感度 PCR(リアルタイム PCR)法を用いて測定する。

(9)

*4. 抗ウイルス療法終了後、24~48 週経過した時点で判定する。

*5. 肝硬変の場合は核酸アナログを中止しない。

HBs 抗原消失に至るまでの抗ウイルス療法の短期目標は、ALT 持続正常化(30 U/l 以下)、HBe 抗

原陰性かつ HBe 抗体陽性(HBe 抗原陽性例では HBe 抗原セロコンバージョン、HBe 抗原陰性例では

HBe 抗原の持続陰性)、HBV DNA 増殖抑制の 3 項目である。

HBV DNA 量の目標は、慢性肝炎と肝硬変で異なり、また治療薬剤により異なる。核酸アナログ治

療では高率に HBV DNA の陰性化が得られ、治療を継続することで持続的に陰性化を維持すること

が可能である。従って治療中(on-treatment)の目標は、慢性肝炎・肝硬変にかかわらず、高感

度のリアルタイム PCR 法での HBV DNA 陰性である。また、インターフェロン(interferon; IFN)

治療では、治療終了後の HBe 抗原セロコンバージョンや HBs 抗原量の低下・消失が期待できるこ

とから、治療中の HBV DNA 量低下という目標を設定せず、一定期間(24~48 週)の治療を完遂す

ることが望ましい。

一方、off-treatment、すなわち IFN 治療終了後と核酸アナログ投与中止例では、drug free で活

動性肝炎がなく、病状進展のリスクがない状態を目指す。したがって、治療終了後 24~48 週時点

で慢性肝炎では 4.0 log copies/ml 未満、肝硬変では HBV DNA 陰性を目標として設定する。

【Recommendation】

 HBV 持続感染者に対する抗ウイルス療法の治療目標は、肝炎の活動性と肝線維化進展の抑

制による慢性肝不全の回避ならびに肝細胞癌発生の抑止、およびそれによる生命予後なら

びに QOL の改善である。

 この治療目標を達成するために最も有用な surrogate marker は HBs 抗原であり、抗ウイ

ルス療法の長期目標は HBs 抗原消失である。

 HBs 抗原消失に至るまでの抗ウイルス療法の短期目標は、ALT 持続正常化、HBe 抗原陰性か

つ HBe 抗体陽性、HBV DNA 増殖抑制の 3 項目である。

 核酸アナログ製剤治療中(on-treatment)の目標は、慢性肝炎・肝硬変にかかわらず、HBV

DNA 陰性である。

 IFN 治療では、治療終了後の HBe 抗原セロコンバージョンや HBs 抗原量の低下・消失が期

待できることから、治療中の HBV DNA 量低下という目標を設定せず、一定期間(24~48 週)

の治療を完遂することが望ましい。

 IFN 治療終了後と核酸アナログ製剤投与中止後(off-treatment)においては、慢性肝炎で

は HBV DNA 4.0 log copies/ml 未満、肝硬変では HBV DNA 陰性を目標とする。

1-4.治療薬 - どの薬剤を用いるべきか?

現在、HBV 持続感染者に対する抗ウイルス治療において用いられる薬剤は、IFN と核酸アナログ製

剤である。表2に本邦における抗ウイルス療法の経緯を示す。

(10)

表2 日本における抗ウイルス療法の経緯

1987 年

従来型インターフェロン(28 日間; HBe 抗原陽性のみ)

2002 年

従来型インターフェロン(6 か月間; HBe 抗原陽性のみ)

2000 年

ラミブジン

2004 年

アデホビル

2006 年

エンテカビル

2011 年

ペグインターフェロン

IFN は期間を限定して投与することで持続的効果をめざす治療である。本邦において IFN による

治療が開始されたのは 1987 年である。当初は投与期間が 28 日間に限定されていたが、2002 年に

は 6 か月間に延長され、さらに 2011 年になって B 型慢性肝炎に対するペグインターフェロン

(pegylated interferon: Peg-IFN)が一般臨床で使用可能となった。IFN は、HBV DNA 増殖抑制作

用とともに抗ウイルス作用、免疫賦活作用を有しており、さらにペグ化された Peg-IFN を用いる

ことによって治療成績が向上している。治療期間は一定期間に限定され、治療反応例では投与終

了後も何ら薬剤を追加投与することなく、drug free で治療効果が持続するという利点があり、

さらに海外からは長期経過で HBs 抗原が高率に陰性化すると報告されている。しかし、Peg-IFN

による治療効果が得られる症例は HBe 抗原陽性の場合 20~30%、HBe 抗原陰性では 20~40%にとど

まる。加えて週 1 回の通院が必要であり、様々な副作用もみられる。また、現段階において本邦

では Peg-IFN の肝硬変に対する保険適用はない。

一方、核酸アナログ製剤は、もともとヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus;

HIV)の治療薬として開発された抗ウイルス剤であるが、HBV 増殖過程での逆転写を阻害すること

がわかり、本邦では 2000 年から 2006 年にかけて、3 種類の核酸アナログ(ラミブジン、アデホ

ビル、エンテカビル)が B 型肝炎に対して保険適用となった。核酸アナログ製剤は、ゲノタイプ

を問わず強力な HBV DNA 増殖抑制作用を有し、自然治癒の可能性が低い非若年者においても、ほ

とんどの症例で抗ウイルス作用を発揮し、肝炎を鎮静化させる。ことに現在第一選択薬となって

いるエンテカビルは、ラミブジンと比較して耐性変異出現率が極めて低く、各種治療前因子に関

わらず高率に HBV DNA 陰性化と ALT 正常化が得られる。経口薬であるため治療が簡便であり、短

期的には副作用がほとんどないことも利点である。しかし投与中止による再燃率が高いため長期

継続投与が必要であり、さらに長期投与において薬剤耐性変異株が出現する可能性、さらに安全

性の問題を残している。また IFN 治療と比較して HBs 抗原量の低下が少ないことも指摘されてい

る。

このように、Peg-IFN とエンテカビルはその特性が大きく異なる治療薬であり、その優劣を単純

に比較することはできない(表3)。HBe 抗原陽性例

6-19)

・陰性例

13, 20-24)

のいずれにおいても、

(11)

長期目標である HBs 抗原陰性化率は Peg-IFN の方が優れているが、短期目標である ALT 持続正常

化率、HBV DNA 増殖抑制率はエンテカビルの方が良好である(表4・表5)。また治療効果予測因

子も Peg-IFN とエンテカビルでは若干異なっている(表6)。B 型肝炎症例の治療に当たっては、

B 型肝炎の自然経過に加えて、Peg-IFN とエンテカビルの薬剤特性をよく理解し、個々の症例の病

態に応じた方針を決定する必要がある。

【Recommendation】

 Peg-IFN とエンテカビルはその特性が大きく異なる治療薬であり、その優劣を単純に比較

することはできない。

 B 型肝炎症例の治療に当たっては、B 型肝炎の自然経過、及び Peg-IFN とエンテカビルの薬

剤特性をよく理解し、個々の症例の病態に応じた方針を決定する必要がある。

表3 Peg-IFN とエンテカビル:薬剤特性

Peg-IFN

エンテカビル

作用機序

抗ウイルス蛋白の誘導

免疫賦活作用

直接的ウイルス複製阻害

投与経路

皮下注射

経口投与

治療期間

期間限定(24~48 週間)

原則として長期継続投与

薬剤耐性

なし

3 年で約 1%

副作用頻度

高頻度かつ多彩

少ない

催奇形性・発癌

なし

催奇形性、および長期投与での

発癌の可能性が否定できない

妊娠中の投与

原則として不可

*

原則として不可

非代償性肝硬変への投与

禁忌

可能

治療反応例の頻度

HBe 抗原陽性の 20~30%、

HBe 抗原陰性の 20~40%

(予測困難)

非常に高率

治療中止後の効果持続

セロコンバージョン例では高率

低率

* ヨーロッパ肝臓学会(EASL)

25)

、アジア太平洋肝臓学会(APASL)

26)

の B 型慢性肝炎に対するガイドラ

インでは、妊娠中の女性に対する Peg-IFN の投与は禁忌とされている。

(12)

表4 Peg-IFN

6-11)

とエンテカビル

12-19)

:HBe 抗原陽性例における治療効果

Peg-IFN

エンテカビル

短期目標

HBV DNA 陰性化

短期経過

14%

6)

67~75%

12, 13)

長期経過

13%

9-11)

93~94%

13, 14)

HBe 抗原セロコンバージョン

短期経過

24~36%

6-8)

16~21%

12, 13)

長期経過

37~60%

9-11)

34~44%

15-17)

ALT 正常化

短期経過

37~52%

6-8)

68~81%

12, 13)

長期経過

47%

9-11)

87~95%

13, 18)

長期目標

HBs 抗原陰性化

短期経過

2.3~3.0%

6-8)

1.7%

12)

長期経過(全体)

11%

9)

0.6~5.1%

14, 15)19)

長期経過(治療反応例

*

30%

9)

Peg-IFN (Peg-IFNα-2a

6-8,10)

、Peg-IFNα-2b

9,11)

):

短期経過

治療終了後 24 週

6-8)

長期経過

治療終了後 3 年

9) *

治療反応例:治療終了後 26 週で HBe 抗原陰性達成例(全体の 37%の症例。ただしこのうち 21%では

ラミブジン追加治療が行われている)

エンテカビル:

短期経過

治療開始後 1 年

12)

長期経過

治療開始後 2 年

18, 19)

、3 年

15-17)

、4 年

13)

、5 年

14)

(13)

表5 Peg-IFN

20-22)

とエンテカビル

13, 23, 24)

:HBe 抗原陰性例における治療効果

Peg-IFN

エンテカビル

短期目標

HBV DNA 陰性化

短期経過

19~20%

20)

90~99%

13, 23)

長期経過

18~21%

21)22)

100%

13)

HBV DNA 低値

短期経過

(<20,000

copies

/ml)

43~44%

20)

長期経過

(<10,000

copies

/ml)

25~28%

21)

ALT 正常化

短期経過

59~60%

20)

78~85%

13, 23)

長期経過

31%

21)

91%

13)

長期目標

HBs 抗原陰性化

短期経過

2.8~4.0%

20)

0.3%

23)

長期経過(全体)

8.7~12%

21)22)

0%

13)

長期経過(治療反応例

*

44%

21)

Peg-IFN (Peg-IFNα-2a

20-22)

):

短期経過

治療終了後 24 週

20)

長期経過

治療終了後 3 年

21)

、5 年

22) *

治療反応例:治療終了後 3 年で HBV DNA 陰性(全体の 15%の症例)。

エンテカビル:

短期経過

治療開始後 1 年

23)

長期経過

治療開始後 4 年

13)

(14)

表6 Peg-IFN とエンテカビル:治療効果予測因子

HBe 抗原陽性

HBe 抗原陰性

Peg-IFN

エンテカビル

Peg-IFN

エンテカビル

人種

関連なし

関連なし

関連なし

関連なし

年齢

報告により不一致

関連なし

関連なし~若年

関連なし

関連なし~女性

関連なし

関連なし~女性

関連なし

ALT

高値

高値

関連なし~高値

関連なし~高値

HBV DNA 量

低値

低値

関連なし~低値

低値

HBs 抗原量

低値

関連なし

ゲノタイプ

関連なし~

A (vs D)

関連なし

関連なし~

B, C (vs D)

関連なし

IL28B

Major

1-5.治療対象 - 誰を治療すべきか?

HBV 持続感染者に対する抗ウイルス治療の適応は、年齢、病期、肝病変(炎症と線維化)の程度、

病態進行のリスク、特に肝硬変や肝細胞癌への進展のリスクなどの治療要求度をもとに判断する。

現在、治療対象を選択する上で最も重要な基準は、①組織学的進展度、②ALT 値、および③HBV DNA

量である。抗ウイルス治療の効果に関連する因子については多くの報告があるが、ALT 値と HBV DNA

量とは病態進行と関連するだけでなく、IFN と核酸アナログに共通する治療効果関連因子であり、

今まで公表された米国肝臓病学会(AASLD)

27)

、ヨーロッパ肝臓学会(EASL)

25)

、アジア太平洋肝

臓学会(APASL)

26)

の各ガイドライン、および本邦の厚生労働省研究班によるガイドライン

28)

にお

いても治療対象選択基準として用いられている(表7)。ALT 値と HBV DNA 量はいずれも自然経過

で変動するため、適切な治療開始時期を決定するにおいては、ALT 値と HBV DNA 量の時間的推移

を勘案する。

なお、最近 HBs 抗原量と発癌との関連が注目され、HBe 抗原セロコンバージョン後で HBV DNA が

4 log copies/ml 未満であっても、HBs 抗原量が高値の症例では肝病変進展率や発癌率が高いとの

報告がある

29)

。しかし HBs 抗原量と長期予後との関連について現時点で十分なエビデンスは得ら

れておらず、HBs 抗原量を治療対象選択基準に含めるか否かは今後の検討課題である。

【Recommendation】

 B 型慢性肝炎の治療対象を選択する上で最も重要な基準は、①組織学的進展度、②ALT 値、

および③HBV DNA 量である。

 HBs 抗原量を治療対象選択基準に含めるか否かは今後の検討課題である。

(15)

表7 各ガイドラインにおける治療対象選択基準

HBe 抗原陽性

慢性肝炎

AASLD

(2009)

25)

EASL

(2012)

26)

APASL

(2008)

27)

厚労省

(2013)

28)

HBV DNA

(log copies/ml)

≥5

≥4

≥5

≥4

ALT

①>2X ULN

①>1X ULN

①>2X ULN

≥31 U/l

②1-2X ULN

> 40 歳超

肝細胞癌家族歴

→肝生検

②<1X ULN

→肝生検

②≤2X ULN

> 40 歳超

→肝生検

HBe 抗原陰性

慢性肝炎

AASLD

(2009)

EASL

(2012)

APASL

(2008)

厚労省

(2013)

HBV DNA

(log copies/ml)

≥4

≥4

≥4

≥4

ALT

①>2X ULN

①>1X ULN

①>2X ULN

≥31 U/l

②1-2X ULN

> 40 歳超

肝細胞癌家族歴

→肝生検

②<1X ULN

→肝生検

②≤2X ULN

> 40 歳超

→肝生検

肝硬変

AASLD

(2009)

EASL

(2012)

APASL

(2008)

厚労省

(2013)

HBV DNA

(log copies/ml)

≥4

(<4

*1

)

detectable

≥4

≥2.1

ALT

>1X ULN

(>2X ULN

*1

)

normal

normal

normal

*1 ALT >2x ULN であれば、HBV DNA が<4 log copies/ml であっても治療適応

1-5-1.慢性肝炎-治療対象とならない症例は?

慢性肝炎における治療適応は、ALT が異常値、HBV DNA が高値、および組織学的な肝病変の存在で

ある。したがって、ALT が正常であり組織学的な肝病変がないか、あるいは軽度である2つの病

態、すなわち、免疫寛容期にある HBe 抗原陽性の無症候性キャリアと、HBe 抗原セロコンバージ

ョン後の非活動性キャリアには治療適応がない。さらに、HBe 抗原陽性慢性肝炎の ALT 上昇時に

は、自然経過で HBe 抗原が陰性化する可能性が年率 7~16%あるため

4, 30-32)

、線維化進展例でなく、

劇症化の可能性がないと判断されれば、自然経過での HBe 抗原セロコンバージョンを期待して1

年間程度治療を待機することも選択肢である。

(16)

【Recommendation】

 HBe 抗原陽性の無症候性キャリア、および HBe 抗原陰性の非活動性キャリアは治療適応が

ない。

 HBe 抗原陽性慢性肝炎の ALT 上昇時には、線維化進展例でなく、劇症化の可能性がないと

判断されれば、1年間程度治療を待機することも選択肢である。

1-5-2.非活動性キャリアの定義

非活動性キャリアの診断には注意が必要であり、慎重な判断を要する。

まず、ALT 値がいくつ以上の場合異常とするかという問題がある。ALT の正常値についての明らか

なコンセンサスは存在せず、国内・海外の臨床研究のほとんどがその施設における基準値を正常

値と定義している。欧米において、男性 30 U/l 以下、女性 19 U/l 以下を正常値とするという提

案がなされたが

33)

、B 型肝炎における妥当性は検証されていない。近年では治療適応となる ALT

の基準値は下がりつつあり、より積極的な治療介入を推奨する傾向にある。一方、本邦において

は厚生労働省研究班により、2008 年から ALT 値の治療適応基準が 31 U/l 以上と定義されており

28)

、本ガイドラインにおいても、慢性肝炎における ALT 正常値を 30 U/l 以下と定義し、31 U/l

以上は異常として治療対象とする。なお、脂肪肝、薬剤、飲酒など、B 型肝炎以外の原因が ALT

値上昇の主因であると判断される場合は、抗ウイルス治療の対象としない。

HBV DNA の治療適応基準についてもコンセンサスは存在せず、現時点で AASLD、EASL、APASL の各

ガイドラインにおいて相違があるが(表7)、いずれのガイドラインも治療法の進歩とともに治療

適応基準が引き下げられてきた。HBV 持続感染者では、ALT 正常例においても肝細胞癌が発生し、

HBV DNA 量の上昇に伴って発癌率が上昇し、HBV DNA 量が 4 log copies/ml 以上では有意に発癌率

が上昇することが明らかになっている

34)

。また、1 年間に 3 回以上測定した ALT が 40 U/l 未満の

HBe 抗原陰性症例において肝生検所見を検討した結果からは、HBV DNA 量が 4 log copies/ml 未満

であれば肝炎活動性・肝線維化とも軽度であり、長期予後が良好であると報告されている

35)

以上から本ガイドラインでは、治療適応のない HBe 抗原セロコンバージョン後の非活動性キャリ

アを、「抗ウイルス治療がなされていない drug free の状態で、1 年以上の観察期間のうち 3 回以

上の血液検査で①HBe 抗原が持続陰性、かつ②ALT 値が持続正常(30 U/l 以下)、かつ③HBV DNA が

4.0 log copies/ml 未満、のすべてを満たす症例」と定義した。しかし、この条件に合致しても

線維化進展例では発癌リスクが高いため、画像所見や血小板数などで線維化の進展が疑われる場

合には肝生検による精査を行い、治療適応を検討しなければならない。

なお、本ガイドラインでは、前述した慢性肝炎の off-treatment における目標と、HBe 抗原陰性

の非活動性キャリアの定義とを統一し、HBV DNA 量 4.0 log copies/ml 未満と設定した。すなわ

ち、off-treatment の目標が達成されることは、HBe 抗原陰性非活動性キャリアとなり、治療対象

から外れることを意味する。

【Recommendation】

 HBe 抗原陰性の非活動性キャリアは、1 年以上の観察期間のうち 3 回以上の血液検査におい

て、HBe 抗原陰性、ALT 値 30 U/l 以下、HBV DNA 4 log copies/ml 未満、の 3 条件すべて

を満たす症例と定義される。

(17)

1-5-3.肝生検の適応

肝生検によって抗ウイルス治療の適応を判断する際に有用な情報が得られる。ALT が正常~軽度

上昇する症例や、間欠的に上昇する症例では、以下に述べる治療適応基準に該当しなくてもオプ

ション検査として肝生検を施行し、中等度以上の肝線維化(F2 以上)

、肝炎活動性(A2 以上)を

認めた場合には治療適応とする。特に、40 歳以上で HBV DNA 量が多い症例

2, 36, 37)

、血小板数 15

万未満の症例、肝細胞癌の家族歴のある症例

38, 39)

では発癌リスクが高いため、肝生検を施行して

治療適応を検討する。HBe 抗原陰性の非活動性キャリアでは線維化進展例・非進展例の鑑別はし

ばしば困難であり、正確な診断には肝生検が有用である。一方、臨床的に明らかな肝硬変や、ALT

が正常値の 2 倍以上を持続する慢性肝炎では、治療適応判断のみを目的とした肝生検は必須では

ない。

肝生検に代わる非侵襲的方法による肝線維化評価としては、血液線維化マーカー、CT や超音波検

査などの画像診断、肝硬度評価

40-44)

などがあり、これらの方法で明らかな肝線維化を認めた場合

には治療適応とする。ただし、血液線維化マーカー単独による線維化の評価は診断精度が低いた

め適切ではない。血液による線維化の指標としては血小板値、血清γグロブリン値、血清α2マ

クログロブリンなどが参考になるものの、単独のマーカーによる評価は困難である

45)

1-5-4.慢性肝炎-治療対象とすべき症例は?

無症候性キャリアではなく、非活動性キャリアの定義にも該当しない慢性肝炎は、抗ウイルス療

法による治療対象となる。すなわち、HBe 抗原の陽性・陰性や年齢にかかわらず、

「ALT 31 U/l 以

上、かつ HBV DNA 4.0 log copies/ml 以上」という条件を満たす慢性肝炎は治療対象とするべき

である(表8)。また、非活動性キャリアの定義を満たす症例でも、HBV DNA が陽性であり、かつ

線維化が進展し発癌リスクが高いと判断される症例は治療対象となる。

【Recommendation】

 慢性肝炎の治療対象は、HBe 抗原の陽性・陰性にかかわらず、ALT 31 U/l 以上かつ HBV DNA

4 log copies/ml 以上である。

 上記基準に該当しなくても、ALT が軽度あるいは間欠的に上昇する症例、40 歳以上で HBV

DNA 量が多い症例、血小板数 15 万未満の症例、肝細胞癌の家族歴のある症例、画像所見で

線維化進展が疑われる症例は発癌リスクが高いため、オプション検査として肝生検あるい

は非侵襲的方法による肝線維化評価を施行することが望ましい。

 非活動性キャリアの定義を満たす症例でも、HBV DNA が陽性であり、かつ線維化が進展し

発癌リスクが高いと判断される症例は治療対象となる。

1-5-5.肝硬変

肝硬変においても、治療の必要性は慢性肝炎と同様に ALT 値と HBV DNA 量を参考として判断する。

ただし、肝硬変は慢性肝炎と比較し慢性肝不全、肝癌への進展リスクが高いため、より積極的な

治療介入が必要であり、慢性肝炎とは異なる治療適応基準が採用される。すなわち、肝硬変では

(18)

HBV DNA が陽性であれば、HBe 抗原、ALT 値、HBV DNA 量に関わらず治療対象とする(表8)。一方、

HBV DNA が検出感度以下の症例は抗ウイルス治療の対象外である。

【Recommendation】

 肝硬変では HBV DNA が陽性であれば、HBe 抗原、ALT 値、HBV DNA 量に関わらず治療対象と

する。

表8 HBV 持続感染者における治療対象

ALT

HBV DNA 量

慢性肝炎

*1*2*3

≥31 U/l

≥4.0 log copies/ml

肝硬変

陽性

(≥2.1 log copies/ml)

*1 慢性肝炎では HBe 抗原陽性・陰性を問わずこの基準を適用する。

*2 無症候性キャリア、および非活動性キャリア(1 年以上の観察期間のうち 3 回以上の血液検査において、

HBe 抗原陰性・ALT 値 30 U/l 以下・HBV DNA 4 log copies/ml 未満)は治療対象ではない。また、HBe 抗

原陽性肝炎例の ALT 上昇時には、線維化進展例でなく、劇症化の可能性がないと判断されれば、ALT、

HBe 抗原、HBV DNA を測定しながら1年間程度治療を待機することも選択肢である。ただし HBV DNA が

陽性かつ線維化が進展した非活動性キャリア症例は治療対象となる。

*3 ALT が軽度あるいは間欠的に上昇する症例、40 歳以上で HBV DNA 量が多い症例、血小板数 15 万未満

の症例、肝細胞癌の家族歴のある症例、画像所見で線維化進展が疑われる症例では、肝生検あるいは非

侵襲的方法による肝線維化評価を施行することが望ましい。

1-5-6.発癌リスクを踏まえた経過観察

治療をせず経過観察を基本とする症例のなかでも、発癌リスクの高い症例、すなわち 40 歳以上、

男性、高ウイルス量、飲酒者、肝細胞癌の家族歴、HCV・HDV・HIV 共感染、肝線維化進展例、肝

線維化進展を反映する血小板数の低下例、ゲノタイプ C、Core Promoter 変異型などでは、定期

的な画像検査による肝細胞癌のサーべイランスが必要である。また HBs 抗原が陰性化し HBs 抗体

が出現した慢性肝炎症例でも、HBs 抗原消失前にすでに肝硬変に進展していた症例では発癌リス

クがあり

46-52)

、および HBVcccDNA が排除されても HBV ゲノムの組み込みにより肝細胞癌の発症リ

スクが残る

53-55)

ことを認識すべきである。

【Recommendation】

 経過観察を基本とする症例でも、発癌リスクの高い症例では定期的な画像検査による肝細

胞癌のサーべイランスが必要である。

 慢性肝炎からの HBs 抗原消失例でも肝細胞癌発癌のリスクがあることを認識するべきであ

る。

(19)

2.HBV マーカーの臨床的意義

HBV マーカーは B 型急性肝炎・慢性肝炎・肝硬変の病態を把握する上で欠かすことができない。

臨床においてさまざまな HBV マーカーが用いられているが、ここでは経過や治療効果を予測する

上できわめて重要である、HBV ゲノタイプ・HBV DNA・HBs 抗原・HB コア関連抗原について解説す

る。

2-1.HBV ゲノタイプ

一般に DNA ウイルスは RNA ウイルスに比較して遺伝子変異が少ないが,HBV は DNA ウイルスであ

るにも関わらず、ウイルス増殖の中に逆転写過程を持つため、高率に変異を起こすことが知られ

ている

56)

。この遺伝子変異に由来する塩基配列の違いによる分類が HBV ゲノタイプであり,現在

A 型から J 型までの 9 つのゲノタイプ(I は C の亜型)に分類されている。本邦においてはゲノタイ

プ A,B,C,D の 4 種がほとんどである。HBV ゲノタイプ検査法には,RFLP(restriction fragment

length polymorphism)法,EIA(enzyme immunoassay)法,塩基配列に基づく系統解析がある。

これらのうち保険収載されているものは EIA 法のみである。EIA 法は Usuda らの開発した方法で,

PreS2 領域のゲノタイプ特異的なアミノ酸を認識するモノクローナル抗体を組み合わせた酵素免

疫測定法である

57)

。HBV ゲノタイプによる臨床像の差異が数多く報告されており、予後や治療効

果予測に有用である(表9)

58)

表9 HBV ゲノタイプとその特徴

ゲノタイプ

地域特異性

日本における臨床的特徴

A

欧米型(HBV/A2/Ae)

アジア型・アフリカ型(HBV/A1/Aa)

慢性化しやすい(5~10%)

若年者を中心に増加傾向

B

アジア型(HBV/Ba)

日本型(HBV/B1/Bj)

劇症化しやすい

10 数%を占める

C

東南アジア(HBV/Cs)

東アジア(HBV/Ce)

肝細胞癌を発症しやすい

約 85%を占める

D

南ヨーロッパ,エジプト,インドなど

わが国ではまれ、治療抵抗性

E

西アフリカに分布

わが国では極めてまれ

F

主に中南米

わが国では極めてまれ

G

フランス、ドイツ,北米などで報告

わが国では極めてまれ

H

主に中南米

わが国では極めてまれ

J

ボルネオ?

わが国では極めてまれ

(20)

HBV ゲノタイプ A は本邦において若年者間での水平感染に関与しており、都市部を中心に HBV ゲ

ノタイプ A の割合が増えつつある

59)

。ことに HBV ゲノタイプ Ae は本来欧米に多く存在したが、最

近の検討から性行為や薬物乱用により本邦の若者の間で感染が広がっていることが明らかとなっ

ている。一般に B 型肝炎は成人期に感染した場合、急性肝炎後にウイルスが排除され肝炎が鎮静

化するが,HBV ゲノタイプ A では急性肝炎後感染が遷延化する傾向があり、キャリア化しやすい

ことが特徴である

5)

。ただし HBV ゲノタイプ A は一般に予後良好である。

HBV ゲノタイプ B は、日本型である HBV ゲノタイプ Bj と日本以外のアジアに分布する HBV ゲノタ

イプ Ba とに大きく分類される。日本型とよばれる HBV ゲノタイプ Bj は日本でのみ認められる株

で、東北地方、沖縄、一部の北海道に多く分布している。病態としては非常に穏やかで、そのほ

とんどが無症候性キャリアとしてその一生を終え、肝細胞癌の発症頻度は非常に低い。しかしな

がら、Bj タイプはプレコア領域に変異(1896 番目)が入りやすく、このプレコア変異株に感染する

と個体内で急激にウイルスが増殖し、劇症肝炎の要因となりうる。HBV ゲノタイプ Bj と 1896 変

異は劇症肝炎の独立した因子としても報告されており、注意が必要である

60)

。HBV ゲノタイプ Ba

はコアプロモーターからコアにかけての一部分が HBV ゲノタイプ C と類似の遺伝子配列となった

組換え型である。HBV ゲノタイプ Ba は肝細胞癌発症リスクが比較的高いことが報告され、亜型に

よりその性質が大きく異なる。

HBV ゲノタイプ C は肝細胞癌の発症リスクが高く、予後不良である

61)

。HBV ゲノタイプ C の肝細胞

癌発症リスクは HBV ゲノタイプ Ba よりも高く、従来型 IFN 治療に対して抵抗性である。

HBV ゲノタイプ D は通常欧米に分布しているが、局地的な感染地域がいくつかあり、亜型が複数

存在している。HBV ゲノタイプ D の中では HBV ゲノタイプ D1 が最も多く確認されており、多数の

検討がなされている。HBV ゲノタイプ D1 には特異的な遺伝子変異があり、病態との関連について

の報告がなされている

62)

。ヨーロッパからの報告では、HBV ゲノタイプ D は HBV ゲノタイプ A に

比較して IFN 治療抵抗性であり、予後不良である

63)

【Recommendation】

 HBV ゲノタイプ A は本邦において若年者間での水平感染に関与している。急性肝炎後キャ

リア化しやすい。

 HBV ゲノタイプ B のうち HBV ゲノタイプ Bj は日本でのみ認められる。ほとんどが無症候性

キャリアとしてその一生を終え、肝細胞癌の発症頻度は非常に低いが、プレコアに変異の

入った変異株に感染すると劇症肝炎の要因となりうる。

 HBV ゲノタイプ C は肝細胞癌の発症リスクが高く、従来型 IFN 治療に対して治療抵抗性で

あり、予後不良である。

2-2.HBV DNA 定量

HBV DNA 量は、病態の把握や治療効果判定、breakthrough の診断に有用である。また、HBV DNA

量が高値な場合は発癌率が高いため、予後にも関連する因子である

64)

。HBV DNA の測定法として、

従来は Amplicor HBV Monitor test (Roche Diagnostics Systems、Branchburg、NJ、USA)、HBV DNA

TMA-HPA test (transcription-mediated amplification-hybridization protection assay、Chugai

(21)

Diagnostics Science、Tokyo)が用いられていたが、現在では、これらの 2 法と比較して高感度か

つ測定レンジが広い real-time detection PCR test(リアルタイム PCR 法)が使用されることが多

い。このリアルタイム PCR 法では HBV ゲノム上の保存された S 領域にプライマーとプローブが設

定されている。HBV プローブは 5’末端に蛍光標識し、3’末端にクエンチャ-を標識した短いオ

リゴヌクレオチドである。リアルタイム PCR による HBV DNA 量測定では、ある一定の蛍光強度に

到達した時の PCR サイクル数から PCR プロダクト量を算出するため、感度が良く、ダイナミック

レンジも広いのが特徴である。高感度であるため、抗ウイルス療法の効果判定のみならず、viral

breakthrough や HBe 抗原陰性例での HBV 検出、肝炎再燃・再活性化症例の早期予測、さらには潜

在性 HBV 感染の検出が可能となる。TMA 法との相関も良く、臨床において HBV DNA を定量する際

にはリアルタイム PCR 法を使用することが望ましい。

なお、HBV DNA 定量の単位表記に留意すべきである。本ガイドラインを含め、日本では HBV DNA

の単位として copies/ml が採用されているが、国際的には IU(国際単位)/ml が採用されており、

AASLD、EASL、APASL のガイドラインでも IU/ml によって表記されている。表10に IU/ml と

copies/ml との換算係数を示す。例えば、治療の目安にもなっている 2,000 IU/ml は、TaqMan 法

(Roche)では 4.07 log copies/ml (換算係数 x 5.82)となる。ところが同じリアルタイム PCR 法

でも、AccuGene 法(Abbott)では 3.83 log copies/ml (換算係数 x 3.41)となり、若干異なる値

となってしまう。この点は今後の検討課題である。

表10 HBV DNA 定量(リアルタイム PCR 法) -

TaqMan 法と AccuGene 法の測定範囲・換算係数

測定法

検体

測定範囲

2,000 IU/ml を

換算すると?

IU/mL

(換算係数) copies/ml

log

copies/ml

TaqMan

(Roche)

血清/血漿 20~1.7×10

8

(×5.82)

116~

9.9×10

8

2.1~9.0

4.07 log copies/ml

AccuGene

(Abbott)

血清/血漿 10~1.0×10

9

(×3.41)

34~

3.4×10

9

1.53~9.5

3.83 log copies/ml

TaqMan と AccuGenet 法では単位換算係数(IU ⇒コピー)が異なるため、コピー単位での報告値は 【 1 :

1 】の関係にはならないことに注意。

【Recommendation】

 臨床において HBV DNA を定量する際にはリアルタイム PCR 法を使用することが望ましい。

2-3.HBs 抗原定量

HBs 抗原は HBV のエンベローブに存在する抗原であり、血中には Dane 粒子のほかに中空粒子、小

型球形粒子、管状粒子として存在し、いずれも肝細胞内の covalently closed circular

(22)

図2 HBV 関連マーカー

従来、HBs 抗原の測定には定性法試薬が使用され、B 型肝炎の診断だけに用いられてきたが、近年

複数の定量試薬が開発され、予後や治療効果判定における有用性が注目されるようになった

65, 66)

表11に HBs 抗原測定試薬の一覧を示す。

定性試薬では測定結果はカットオフ・インデックス(COI)で表記され、1.0 以上を陽性と判定し、

それ以上の測定値は半定量であり、参考値として表示される。一方、定量試薬としては、アーキ

テクト(アボット社)と HISCL(シスメックス社)が使用されている。それぞれの判定基準値及

び測定範囲は表11に示す通りであり、IU/ml で表記され、希釈により広範囲の定量が可能であ

る。さらに最近、従来の約 10 倍高感度の HBs 抗原定量試薬(ルミパルス HBsAg-HQ)が開発され、

臨床応用が期待されている。

(23)

表11 HBs 抗原測定試薬

販売名

ルミパルス II/ プレスト HBsAg コバス e411/e601/ e602/E170 ケンタウルス HBsAg アーキテクト HBsAg QT HISCL HBsAg ルミパルス HBsAg-HQ

会社名

富士レビオ ロシュ・ダイア グノスティック ス シーメンスヘル スケア・ダイア グノスティクス アボット ジャパン シスメックス 富士レビオ

測定原理

CLEIA ECLIA CLIA CLIA CLEIA CLEIA

報告

COI(定性) COI(定性) COI(定性) IU/mL(定量) IU/mL(定

量) IU/mL(定量)

サンドイ

ッチ抗体

ポリ モノ (2 種) モノ モノ モノ モノ (2 種)

モノ(2 種) ポリ・モノ モノ ポリ モノ モノ (2 種)

反応時間

(min)

25-30 18 30 30 17 30

検体量 (μL)

100 50 100 75 20 100

陽性判定基準

C.O.I ≧1.0 C.O.I ≧1.0 C.O.I ≧1.0 ≧0.05 IU/mL

≧0.03 IU/mL ≧0.005 IU/mL

*測定範囲

0.1~2000 0.001~ C.O.I. 0.1~1000 Index 0.05~250 IU/mL (マニュアル希釈) 0.03~2500 IU/mL (自動希釈) 0.005~150 IU/mL (自動希釈)

*測定範囲については、理論的に数値がでる範囲として記載。

HBs 抗原量は、年齢や HBV DNA 量、HBV ゲノタイプなどにも影響される

67)

。HBV DNA 量は抗ウイル

ス治療により速やかに感度未満となる場合が多いため、HBV DNA による治療効果判定は困難であ

ることが指摘されており、HBV DNA 量に代わって HBs 抗原定量値を経時的に把握することが有用

とする報告が散見されるようになった。HBe 抗原陽性の B 型慢性肝炎では、Peg-IFNα-2a 単独ま

たはラミブジンとの併用療法において、投与開始 24 週時点での HBs 抗原量を測定することにより、

治療終了 24 週後の HBe 抗原セロコンバージョン、HBV DNA 量、HBs 抗原消失率が予測可能なこと

を示した報告が海外からなされた

68)

。また、Peg-IFNα48 週治療において、12 週、24 週投与時の

HBs 抗原値を測定することにより、投与終了 6 か月後の HBe 抗原セロコンバージョン、かつ HBV DNA

(24)

図3 HBe 抗原陽性慢性肝炎に対する Peg-IFNα48 週治療における HBs 抗原値測定は

効果予測に有用である

図4 HBe 抗原陰性かつ低ウイルス量の症例では

肝細胞癌の発症は HBs 抗原量に相関する

(25)

一方、HBe 抗原陰性の B 型慢性肝炎に対しても、治療開始 12 週、24 週、48 週での HBs 抗原の

低下量をみることによって、治療終了 1 年後の HBV DNA 量や 5 年後の HBs 抗原の消失が予測可能

であったとの報告がある

73, 74)

。また、抗ウイルス治療の効果予測だけではなく、HBV の自然経過

においても経時的な HBs 抗原測定の必要性が提言されている。台湾で行われた抗ウイルス治療歴

のない自然経過例に対する前向き研究では、ベースラインの HBV DNA が高値(>2000 IU/mL)である

ほど肝細胞癌の発症率は高くなる一方、HBe 抗原陰性かつ低ウイルス量の症例(<2000 IU/mL)にお

いては肝細胞癌の発症は HBs 抗原量に相関していると報告されている(図4)

29)

。すなわち、

HBV-DNA<2000 IU/mL (4 logcopies/mL)であっても、HBs 抗原>1000 IU/mL の場合は発癌リスクが

高く、3 年の経過で HBs 抗原>1000 を持続する群ではさらにリスクが高い。また、アラスカの前向

き研究では HBs 抗原消失後の肝細胞癌の発症率は 0.0368/年であり、HBs 抗原が持続陽性例の

0.1957/年に比し、有意に肝細胞癌の発症率が低下していると報告している

51)

。この機序として、

HBs 抗原が消失することにより、肝臓内の cccDNA も低下して発癌が抑制された可能性が考えられ

る。

以上より、B 型慢性肝炎の抗ウイルス治療では HBV DNA 量だけではなく HBs 抗原も定期的に測定

し、治療の長期目標は HBs 抗原の消失におくべきである。

【Recommendation】

 B 型慢性肝炎の抗ウイルス治療では HBV DNA 量だけではなく HBs 抗原も定期的に測定し、

治療の長期目標は HBs 抗原の消失におくべきである。

2-4.HB コア関連抗原

HB コア関連抗原(HBV core-related antigen)は、pregenomic mRNA から翻訳される HBc 抗原、

precore mRNA から翻訳される HBe 抗原、p22cr 抗原の 3 種類の抗原構成蛋白の総称である(図2)。

わが国で開発された測定系で、測定が簡便であり、短時間での自動測定も可能である。抗ウイル

ス治療がなされていない症例では HBe 抗原陽性・陰性を問わず HB コア関連抗原は血清中 HBV DNA

と正の相関があった

75)

。また肝内の total HBV DNA、肝内の cccDNA とも正の相関が得られた

76)

(図

5)。更に HBV DNA 感度未満の検体についても、HB コア関連抗原が検出される例が存在し、HBV DNA

と同程度以上の感度が得られていた。

一方、核酸アナログ投与下においては HBV DNA 量は急激に減少しその多くは検出感度未満となる

のに対し、HB コア関連抗原の減少は緩やかであり、HBV DNA との乖離が報告されている

77)

。この

理由は、核酸アナログにより逆転写が阻害され HBV DNA 複製は阻止されるが、肝組織中には HBV

の cccDNA が残存し、cccDNA から HB コア関連抗原は放出され続けることであると推測されている。

実際に、核酸アナログ投与下においても HB コア関連抗原は肝組織中の cccDNA 量と相関しており、

核酸アナログ治療中の再燃の予測

78)

や治療中止時期の決定

79)

の血清マーカーとして有用である。

【Recommendation】

 HB コア関連抗原は肝組織中の cccDNA 量と相関しており、核酸アナログ治療中の再燃の予

測や治療中止時期の決定の血清マーカーとして有用である。

(26)
(27)

3.治療薬(1)-IFN

IFN は B 型慢性肝炎の治療に古くから用いられてきた抗ウイルス剤である。IFN にはウイルス増殖

抑制作用の他に免疫賦活作用があり、この点が核酸アナログ製剤とは異なる。また、核酸アナロ

グ製剤が一般に長期間投与されるのに対して、IFN 治療では治療期間が 24〜48 週間と限定されて

おり、催奇形性もないため若年者で比較的使用しやすい。また、耐性ウイルスを生じないことも

大きな特徴となっている。わが国では従来から HBe 抗原陽性の B 型慢性活動性肝炎に対して非 PEG

化製剤の IFNαおよび IFNβに保険適用があったが、これに加え 2011 年には、PEG 化製剤である

Peg-IFNα-2a が HBe 抗原の有無に関わりなく B 型慢性活動性肝炎に保険適用となった。

3-1.IFN の抗ウイルス作用

80-82)

IFN は標的細胞膜上の I 型 IFN 受容体に結合することにより作用する。I 型 IFN 受容体は IFNα、

βに共通であり、IFNαまたはβが受容体に結合することによりチロシン型蛋白リン酸化酵素であ

る JAK1 が活性化され、IFN 受容体の細胞内ドメインのチロシン残基のリン酸化を引き起こす結果、

STAT1 のリン酸化および 2 量体形成が起こり、これが核内へと情報を伝達する。核内に情報が伝

達されると、IFN 誘導遺伝子 (IFN stimulated genes; ISGs) が誘導・増強される。ISG は多種多

様であり、種々の抗ウイルス遺伝子、免疫調節遺伝子が含まれ、これらの遺伝子が誘導され蛋白

が発現することにより、抗ウイルス効果が発揮されると考えられている。

3-2.IFNαおよび IFNβ

PEG 化されていない従来型 IFN は不安定で血中半減期は 3~8 時間と短く、24 時間後には検出感度

以下となる

83)

。したがって、B 型慢性肝炎治療においては少なくとも週 3 回の投与を必要とする。

また、従来型 IFN は IFN 血中濃度の上昇・下降を繰り返すため発熱・悪寒・頭痛などの副作用を

きたしやすい。従来型 IFN のうち天然型 IFNαは自己注射が認可されており、2 週間毎の通院で良

いのみならず、夜間就寝前に自己注射することで血中濃度をコルチゾールの体内変動に適応させ

ることが可能となるため、発熱などの副作用軽減が期待できる

84-86)

IFNβは天然型の非 PEG 化製剤で静注または点滴静注で投与され週 3 回以上の投与を行う。IFNβ

は IFNαと共通の I 型 IFN 受容体に結合し、抗ウイルス効果は IFNαと同等であるが、副作用のプ

ロフィールが IFNαとは異なる。特に、うつなどで IFNαが投与できない症例では、天然型 IFNβ

を用いた治療が推奨される。

3-2-1.HBe 抗原陽性慢性肝炎に対する治療効果

1993 年に発表された、海外における無作為比較臨床試験を対象としたメタ解析(n=837)によると、

IFN 治療群の HBe 抗原陰性化率は 33%、HBV DNA 陰性化率は 37%で、無治療対照群のそれぞれ 12%、

17%に比して IFN 投与群の有用性が示されている

87)

。また、HBs 抗原の陰性化も 7.8%に認められ対

照群の 1.8%に比し高率であった。90%近い症例において HBe 抗原セロコンバージョンが持続し、

治療終了 1~2 年後に遅れてセロコンバージョンが生じる症例も 10~15%認められる

88-90)

。このよ

うに、HBe 抗原陽性例における IFN 治療では、HBe 抗原セロコンバージョンが達成されればその効

(28)

告では長期的に効果が維持される割合は低く、HBs 抗原の陰性化はまれとされる

88, 91)

。これには、

人種などの宿主側の要因のほかに、ゲノタイプ、感染期間、感染経路などが影響している可能性

が指摘されている。

わが国において HBe 抗原陽性の B 型慢性肝炎を対象とした 24 論文の治療成績の集計が報告されて

いる

92)

。IFN 治療例における HBe 抗原の陰性化率は 1 年 29%・2 年 55%、HBe 抗原セロコンバージ

ョン率は 1 年 12%・2 年 29%で、自然経過におけるそれぞれ年率 10%および 5%よりも高率であり有

効性が示されたが、投与終了後に HBe 抗原が再陽性化する症例や肝炎が持続する症例も認められ

た。もっとも、これらの報告がなされた時点では本邦における IFN 治療は 4 週間の短期投与が主

体であり、IFN 長期投与では投与終了後 6 か月の HBe 抗原陰性化率は 29%で、短期投与に比し良好

である

92)

3-2-2.HBe 抗原陰性慢性肝炎に対する治療効果

本邦では HBe 抗原陰性の B 型慢性肝炎に対する従来型 IFN 製剤の保険適用はない。欧州を中心と

した海外における検討では、HBe 抗原陰性例における IFN 治療終了時の生化学的またはウイルス

学的治療効果は 60~90%の高率であると報告されているが、治療終了後の HBV DNA の再上昇と肝

炎の再燃が高頻度に認められ、4~6 か月間の IFN 治療では持続的効果は 10~15%にとどまり、12

か月間の治療では 22%であった

93, 94)

。アジアにおける検討では、6~10 か月間の IFN 治療により

30%の症例で治療終了後 6 か月時点の治療効果が認められ、対照群の 7%に比し高率であった

95)

また、より長期の 24 か月間の治療では、30%の症例において持続的な肝炎鎮静化が達成され、6

年を経過した時点での HBs 抗原消失率は 18%であった

96)

。これらの結果に基づいて、海外では HBe

抗原陰性の B 型慢性肝炎に対して IFN の長期投与が推奨されている。加えて、HBe 抗原陰性慢性

肝炎においても HBe 抗原陽性例と同様に IFN による発癌抑制や生命予後の改善が示されている

97)

【Recommendation】

 HBe 抗原陽性の B 型慢性肝炎に対する IFN 治療では、無治療と比較し、HBe 抗原の陰性化率、

HBe 抗原セロコンバージョン率、HBV DNA 陰性化率、ALT 正常化率が有意に高い。

3-3.Peg-IFNα-2a

PEG 化 IFN には、IFNα-2a に 40kD の分岐鎖 PEG を共有結合させた Peg-IFNα-2a と、IFNα-2b に

12kD の一本鎖 PEG をウレタン結合させた Peg-IFNα-2b があるが、わが国で B 型慢性活動性肝炎

に保険適用があるのは Peg-IFNα-2a である。PEG は水溶性の中性分子でそれ自体に毒性はなく、

エチレンオキサイド・サブユニットの数で分子量が規定される。IFN を PEG 化する目的は、体内

での薬物動態を変化させること、宿主の免疫系による認識・排除から IFN を守ることの 2 点であ

る。Peg-IFNα-2a の最大血中濃度(Cmax)は投与後 72~96 時間で、単回投与により約 168 時間

にわたり治療域の血中濃度が維持される

98)

。海外(アジア)における、Peg-IFNα-2a と従来型 IFN

α-2a の治療効果を比較した検討では、著効すなわち HBe 抗原の消失・HBV DNA 増殖抑制・ALT の

正常化が達成された症例の割合は、Peg-IFNα-2a で 28%であるのに対し IFNα-2a では 12%と

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