環境整備船「海輝」調査による有明・八代海の
海域環境特性の把握
熊井 教寿
1・大呑 智正
2・滝川 清
3・松下 訓
4・川岸 寛
5 1国土交通省 熊本港湾・空港整備事務所 有明・八代海海洋環境センター(〒861-5274 熊本県熊本市西 区新港一丁目4-14) E-mail:[email protected] 2国土交通省 熊本港湾・空港整備事務所 所長(〒861-4115 熊本県熊本市南区川尻二丁目8-61) E-mail:[email protected] 3フェロー 熊本大学 沿岸域環境科学教育研究センター センター長(〒860-8555 熊本県熊本市中央区 黒髪二丁目39-1) E-mail:[email protected] 4一般社団法人 みなと総合研究財団(〒105-0001 東京都港区虎ノ門三丁目1-10第2虎ノ門電気ビルディ ング3・4階) E-mail:[email protected] 5いであ株式会社 九州支店環境技術部(〒812-0055 福岡県福岡市東区東浜一丁目5-12) E-mail:[email protected] 国土交通省九州地方整備局では,環境整備船「海輝」を用いて,有明・八代海の環境特性の把握を目的 として,水塊構造調査,定点連続水質調査並びに底質・底生生物調査を実施している.2010年度の結果, 有明海の浅海域である三池港沖の底層付近において,DOが3mg/Lの値を示す水塊が確認された.また,八 代海の球磨川沖の底層付近において,DOが3mg/L以下の値を示す水塊が確認された.有明海において,底 質及び底生生物のクラスター解析による分類の組み合わせより7つのグループに細分類することができ, 様々なパターンの底質環境を持つ海域であることが明らかになった.Key Words : Ariake Sea and Yatsushiro Sea, KAIKI, DO value of 3mg/L or less, combination of bottom sediments and benthos
1. はじめに 2000 年のノリ大不作を受けて,2002 年に制定された 「有明海及び八代海を再生するための特別措置に関する 法律」の基本方針に則って,国土交通省九州地方整備局 では,有明・八代海海域の総合的な環境整備を実施する ために浮遊物等の回収機能に加え,広域的な環境調査が 実施できる環境整備船「海輝(かいき)」(以下「海 輝」)を 2003 年度に就航させた.そして,2004 年度か ら本格的に定期環境調査を実施している. これまでの調査結果より,有明・八代海ともに 5 月~ 6 月に塩分成層が,7 月~8 月頃に水温及び塩分成層が 形成され,9 月には水温及び塩分成層が緩和されること が明らかになった.また,底生生物に影響を与えるとさ れる DO が 3mg/L を下回る現象は,これまでほとんど観 測されなかった 1) が,2010 年度の調査では,DO が 3mg/L を下回る現象が観測された. 本論では,「海輝」の 2010 年度定期環境調査結果を 中心に,有明・八代海の海域環境特性について報告する. 2. 調査方法 (1) 「海輝」の性能 「海輝」は全長約 27m,型幅 9m の双胴船であり,満 載吃水は 1.2m と浅く,航海速力が 27.6 ノットと速いた め,有明・八代海の湾奥から湾口までの長軸断面を1日 で観測することが可能である.また,遠隔自動採水器, 多項目水質計,スミスマッキンタイヤ型採泥器,超音波 式多層流速計などの環境調査機器を搭載している2). (2) 2004 年度当初の主な定期環境調査計画
2004 年当初の「海輝」による定期環境調査計画は, 他機関の調査を把握した上で,重複しないよう,かつ他 機関が実施する調査を俯瞰的に捉えることのできる調査 と他機関が実施できていない調査の 2 つの観点から策定 を行った3)4). 前者は,浅海定線水質調査で不足している表層の詳細 な成層構造と湾全体(湾長軸方向)の成層状況の把握を 行うために湾軸ラインにおける「水塊構造調査」を策定 した.「水塊構造調査」は,図-1 と図-2 に示す湾長軸 中央ライン(以下,有明中央ライン,八代中央ライン) の各 10 地点で多項目水質計を用いて水質の鉛直分布を 計測するものであり,調査回数は月 1 回,調査時期は毎 月の朔(新月)の大潮期で,できるだけ浅海定線水質調 査と同時に実施することとした. 後者は,両海域は最大 6m もの干満差があり,潮位変 動に伴う水質変動も大きいといわれているものの,その ような基本的なデータの報告が少ないことから,「海 輝」を湾奥部の定点に係留して 1 潮汐間の水質・流動の 鉛直分布の変化を把握する「定点連続水質調査」を策定 した.超音波式多層流速計で各層の流速を連続観測する とともに,1 時間毎に多項目水質計で水質の鉛直分布を 計測した.また,底質・底生生物の評価ができるデータ が少ないことから,底生生物の経年変化が評価できるデ ータを取得するため「底質・底生生物調査」を策定し, 両海域 16 地点で実施することとした.スミスマッキン タイヤ型採泥器を用い,採泥を 10 回とすることでデー タのばらつきを押さえた.調査回数は年 1 回とし,調査 時期は底生生物量が多いと言われる春季(5 月)とした. (3) 2010 年度以降の定期環境調査計画 2011 年度以降の「海輝」による定期環境調査計画は, これまでに得られた調査結果を踏まえ,有明・八代海に おける再生技術の実施に向けて,環境特性及び環境変動 の把握を目的として,「水塊構造調査」,「底質・底生 生物調査」並びに「定点連続水質調査」の計画の見直し を行った. 「水塊構造調査」は,水温・塩分等の水質の鉛直断面 特性から水塊構造の季節変化及び経年変化の把握並びに 貧酸素水塊及び赤潮の発生と水塊構造の関係を把握する ため、有明中央ラインに加え,有明東ライン(有明中央 ラインの東側に平行なライン)を追加した.有明東ライ ンは,有明海東側浅海域の水塊構造を把握するため,測 点を 8 点追加した(図-1).また,観測回数を月 1 回の 大潮期に加え,小潮期を含めた月 2 回とした. 「底質・底生生物調査」は,これまでと同様,底質・ 底生生物の分布及び経年変化を把握するための更なるデ ータの蓄積と得られたデータから底質の変化及び底生生 物減少の関係について把握するため,赤潮が頻発する八 代海の御所浦島北部海域に測点を 1 点(No.17)追加し, 両海域 17 地点で実施することとした(図-2). 「定点連続水質」は,八代海における水質の時間的変 動を把握し,同時に貧酸素水塊の発生の有無等を把握す るため,球磨川河口沖に 1 点設定し,貧酸素水塊が発生 しやすい夏季(8 月)に 2 回実施することとした. 図-1 水塊構造調査などの調査地点図(有明海) 図-2 水塊構造調査などの調査地点図(八代海)
図-3 水塊構造調査結果(2010,有明海) 3. 有明・八代海の海域環境特性 2010 年度の調査結果を取りまとめたもの2)に,2011 年 度のデータを追加し,得られた結果について示す. (1) 水塊構造調査結果による特性把握 有明海において,2010 年度は,7~8 月に表層で高水 温・低塩分の成層構造が顕著であり,7 月 21 日小潮期 観測の有明中央ライン湾奥部である St.1~3 と 7 月 22 日小潮期観測の有明東ライン三池港沖である St.22~23 及び熊本港沖の St.25~26 の底層付近を中心に,一部表 層付近まで 4mg/L 以下の DO の分布が見られた(図-3). 図-4 水塊構造調査結果(2011,有明海) 特に,三池港沖の底層付近で DO が 3mg/L の値が確認さ れたのは,2010 年度の調査が初めてであった. 2011 年度は,2010 年度と同様に,7~8 月に表層で 2010 年度より低いものの高水温の成層構造と 2010 年度 と同じ程度の濃度である低塩分の成層構造が顕著であっ た.2011 年度は大潮期において,7 月 14 日観測の有明 中央ライン湾奥部である St.1~3 と 7 月 13 日観測の有 明東ライン三池港沖から熊本港沖までの St.22~26 の広 範囲で,底層付近を中心に一部表層付近まで 4mg/L 以 下の DO の分布が見られた(図-4).八代海において, 2010 年度は,6~8 月調査時に表層で高水温・低塩分の 成層構造が確認された. 空白部は欠測を示す 空白部は欠測を示す 空白部は欠測を示す 32 4 3 4 3 3 24 30 28 26 4 4 3 24 30 28 4 22
図-5 水塊構造調査結果(2010,八代海) 図-7 八代海における定点連続水質調査(2010.8.4) 特に,その傾向は7月が顕著であり,7月23日小潮期観測 の八代中央ライン湾奥部St.11~13の底層付近で4mg/L以 下のDOの分布が見られた(図-5).2011年度は,2010年 度と同様に,6~8 月調査時に表層で高水温・低塩分の 成層構造が確認され,7 月 26 日小潮期の八代中央ライ ン湾奥部 St.11~13 の底層付近で, 4mg/L 以下の DO の 分布が見られた(図-6). 図-6 水塊構造調査結果(2011,八代海) 図-8 八代海における定点連続水質調査(2010.8.26) (2) 八代海における定点連続水質調査結果による特性把 握 2010 年度は 8 月 4 日小潮期と 8 月 26 日大潮期の 2 回 実施した. 8 月 4 日小潮期は,表層において低塩分の成層構造が 顕著であり,底層付近の DO が 3mg/L を下回る値が 2010 年度の調査で初めて観測された(図-7).8 月 26 日大 潮期は,水温・塩分による顕著な成層構造は確認されて 空白部は欠測を示す 空白部は欠測を示す 空白部は欠測を示す 4 3 3 3 3
おらず,DO は底層付近においても 4mg/L を上回る値であ ったが,表層と比較すると上げ潮時及び満潮時にかけて 底層付近でやや低い値が見られた(図-8). (3) 有明海における底質・底生生物調査結果による特性 把握 底質・底生生物による特性把握の検討に使用したデータ は,「海輝」による 2004~2010 年度の底質・底生生物 調査と環境省による 2003~2009 年度の底質及び 2005~ 2009 年度の底生生物調査結果である 1)2)5).22 地点にお ける底質・底生生物調査結果を用いてクラスター解析 (Ward 法)を実施した. 底質におけるクラスター解析は,含水率,強熱減量, 硫化物,COD,T-N,T-P,シルト・粘土分の 7 項目を用 いて実施した(表-1).解析した結果,泥質で,有機物, 栄養塩の堆積量が最も多い底質環境をグループ A,泥分, 有機物,栄養塩の堆積量が多く,グループ A より泥分が 少ない底質環境をグループ B,砂泥質で,栄養塩,有機 物の堆積が少ない底質環境をグループ C,砂質で,栄養 塩,有機物の堆積が最も少ない底質環境をグループ D の 4 つのグループに区分することができた.地点毎に見る と,湾奥部西部及び諫早湾は全ての地点がグループ A に 分類され,最も有機物及び栄養塩が堆積している底質環 境が広がっている.湾奥東部の筑後川河口域に位置する 地点はグループ B に,三池港周辺の地点はグループ C も しくは D に分類される.比較的水深が浅い湾央部はグル ープ C に,比較的水深が深い湾口部はグループ D に分類 され,東部の干潟域に近い菊池川沖周辺はグループ B に, 熊本港周辺部はグループ C に分類される(図-9). 底生生物調査におけるクラスター解析は,種類数,個 体数,湿重量の 3 項目を用いて実施した(表-2).解析 した結果,種類数,個体数が最も多い特徴を有する生息 状況をグループⅠ,種類数,個体数が少なく,湿重量も 少ない特徴を有する生息状況をグループⅡ,種類数,個 体数が最も少なく,湿重量が最も多い特徴を有する生息 状況をグループⅢの 3 つのグループに分類することがで きる.地点毎に見ると,種類数,個体数の最も多いグル ープⅠに分類された地点は,三池港周辺部及び湾央部か ら湾口部にかけての比較的水深が深い地点である.これ らの地点では,節足動物門が優占している.湾奥西部及 び諫早湾はグループⅡ,Ⅲに分類される.これらの地点 では、軟体動物門に属する種が優占しており,種類数, 個体数が少ない特徴を有しているものの,場所によって は湿重量が大きい地点がある.その理由として,湾奥西 部及び諫早湾では,シズクガイ等二枚貝が多かったため と考えられる.また,湾奥東部はグループⅡに分類され る(図-9). 図-9 有明海における底質・底生生物による細分類 表-1 有明海における底質項目の平均値 表-2 有明海における底生生物項目の平均値 区分名 地点数 地点 A-Ⅲ 5 Asg-3、No.1、No.2、Ang-2、No.6 A-Ⅱ 3 Asg-2、Asg-4、No.3 B-Ⅱ 4 Afk-1、No.4、Akm-1、No.8 C-Ⅱ 3 No.9、Akm-2、Akm-3 C-Ⅰ 2 No.5、Ang-1 D-Ⅱ 1 Ang-3 D-Ⅰ 4 Afk-2、No.7、Akm-4、No.10 凡例 底質分類 底生生物分類
以上より,底質は 4 つのグループ,底生生物調査は 3 つのグループに分類され,これらの特性を組み合わせる と 22 地点は 7 つのグループに細分類することができ, 有明海は様々なパターンの底質環境を持つ海域であるこ とが明らかになった(図-9). このグループ分類は,今後,有明・八代海において再 生技術を適用する際に,効果の持続性等の技術選定の検 討資料として活用できる. 4. おわりに 2010 年度以降,新たに策定した定期環境調査計画を 実施した結果,これまで確認されていなかった有明海の 三池港沖と熊本港沖及び八代海の球磨川河口沖において, 新たに DO が 3mg/L 以下を下回る貧酸素水塊が確認され た.底質・底生生物調査結果を用いたクラスター解析に より,有明海の調査地点は 7 つのグループに細分類する ことができることから,有明海は様々なパターンの底質 環境を持つ海域であることが明らかになった. 底質の性状は主に底層流によって規定されており,底 生生物のほとんどは幼生の段階で浮遊生活を送るために 流況に大きく影響されることが予想できる. しかしながら,本検討では,底層流の分布等の流況に ついてのデータが不足しているため充分な検討は行えな かった.今後は,流況・水質と底質特性・底生生物の生 息状況の関係把握が課題である. 謝辞:本論は,有明・八代海海域環境検討委員会の多く の学識経験者の方々,有明・八代海の関係 5 県および国 土交通省九州地方整備局の様々な関係機関の方々に多く の貴重なご意見を頂きました.ここに謝意を表します. 参考文献 1)国土交通省九州地方整備局熊本港湾・空港整備事務所:平 成16~20年度における海域環境調査のまとめ 改訂版,48p, 2010. 2)国土交通省九州地方整備局熊本港湾・空港整備事務所:平 成 22 年度環境整備船「海輝」年次報告書,有明・八代海の 海域環境調査結果,134p,2012. 3)中村義文・吉田秀樹・滝川 清・瀬口昌洋・大島 巌・堀 川鎮史:環境整備船「海輝」による有明・八代海の海域環 境の特徴,海岸工学論文集,Vol.54,2, pp.1136-1140, 2007a. 4)中村義文・福田治美・滝川 清・瀬口昌洋・大島 巌・堀 川鎮史:環境整備船「海輝」による有明海・八代海の環境 調査計画の策定と調査結果,海洋開発論文集,Vol.23, pp.597-602,2007b. 5)環境省:平成 21 年度有明海・八代海再生フォローアップ調 査(底質環境等調査)報告書,pp7-56,2009.
ENVIRONMENTAL CHARACTERISTICS IN ARIAKE SEA AND YATSUSHIRO SEA BY
THE INVESTIGATION USING THE SHIP "KAIKI"
Norihisa KUMAI, Tomomasa ONOMI, Kiyoshi TAKIKAWA, Satoshi MATSUSHITA,
and Hiroshi KAWAGISHI
Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism is conducting the investigation of environmental characteristics in Ariake Sea and Yatsushiro Sea by using the ship "KAIKI". As a result of environmental monitoring, we obtain three results from this project of 2010; 1) the DO value of 3mg/L has been observed for the first time off Miike port and estuary of Kumagawa river, 2) the classification of seven patterns in Ariake Sea by combination of bottom sediments and benthos cluster analysis.