1.はじめに
「フレッシャーズ」需要は、「マザーニーズ」 需要と共に春における一大市場を形成している。 オケージョンには、「オンタイム」と「オフタイム」 に区分され、入学式は「オンタイム」に区分され、 その装いは従来から改まったものであると考え られてきた。しかし服装は時代と共に変化する ものであるから、入学式の服装においても、い つの時代も同じというわけではない。 現在、アパレルファッション・繊維・流通業 界には大きな変化が起きている。一昨年から続 く世界的な景気悪化を受けた大手百貨店の倒産 や経営統合、H&MやFOEVER21の参入 など、かつてない変化が起きている。筆者らは すでに入学式における服装と意識について調査 1)、2)を行い、入学式のファッションがその時 代の状況やファッション傾向に大きく影響を受 けるという結果を得ることができた。 そこで本論では、入学式において服装と意識 の現状を把握すると共に、前回調査との対比を 行いながらどのように変化したのか考察を行な う。2.調査方法
2-1 調査方法 対象として、平成 21 年度名古屋文化短期大学 ファッションビジネス専攻入学生 74 名とした。 調査時期は 2009 年 5 月で、調査方法は記名式 アンケート方式で行った。着装式服については、 入学時に学内で写真撮影を行った。 2-2 分析方法 質問項目は1、式服購入について 2、感覚・ 着こなし分類 3、式服の特性(色柄、素材取 り扱い表示) である。尚、組織表示、混用率表示、 取扱い表示についてはアンケート調査前にあら かじめ調べさせ、そのまま記入させた。色に関 しては流行色協会の JAFCA COLOR CODE 40 に基づいて分類を行った。集計は各質問項目 ごとに単純集計とクロス集計を行った。 表1は対象者の出身地域を示したものである。3.結果及び考察
3-1式服購入について 1)新規購入の意識 図1は新規購入状況を示したものである。 2009 年では入学式服として新規に購入した学生 は 73.0%、一部購入した学生が 14.9%であり、合 計 87.9%となる。新規購入においては、1993 年 の 90.0%から約 17%、1994 年からは約 2.6%減Sawa FUtamURa・Koichi oNo
Actual Condition Survey of Clothes Worn at Entrance Ceremony
二村 佐和・小野 幸一
入学式服における実態調査
表 1 出身地域 出身地域 人数(人) 名古屋市 24 名古屋市以外愛知 34 岐阜 10 三重 5 その他 1 合計 74 単位(%) 73.0 14.9 12.2 75.6 7.9 90.0 2.0 8.0 16.5 図 1 新規購入少していることから、現在の経済状況を大きく 反映していることが推測される。2009 年におい て新規購入していない 12.2%の学生は、母親や 姉から借りたなどが主な理由であった。 また、2009 年新規購入をした学生のうち靴 や鞄を同時に購入した学生は靴が 58.1%、鞄が 24.3%という結果が得られた。 購入時期は3月が全体の 83.3%を占め、1993 年の 65.2%、1994 年の 68.3%から増加している ことから、短期間に集中し、なおかつ直前の購 入をしていることがわかる。 2)購入地域 表2は 2009 年新規購入(一部購入を含む)の 地域を示したものである。表から名古屋市に住 み名古屋市で購入者は 71.4%で割合が高いが、 名古屋市以外の愛知県では地元で 56.7%、岐阜 県 44.4%、三重県 60.0%購入していることが明 らかとなった。 図2は購入店舗の業態を示したものである。 表 2 購入地域 出身地域 購入地域 合計 名古屋市 名古屋市以外の愛知県 岐阜県 三重県 その他 無回答 名古屋市 15 3 1 1 1 21 名古屋市以外の愛知県の愛知県 8 17 1 4 30 岐阜県 1 1 4 1 2 9 三重県 2 3 5 その他 1 1 合計 26 21 4 4 3 8 66 1.2 1.1 2.5 2.2 2.02.4 7.6 9.8 12.3 21.7 20.8 21.7 17.6 29.7 21.7 21.6 25.5 8.6 7.6 18.5 14.1 17.6 3.6 2.2 5.9 単位(%) 図 3 購入金額 4.4 1.1 3.6 4.6 3.8 1.9 単位(%) 39.6 37.7 17.0 19.8 38.7 33.3 30.0 37.8 26.7 図 2 購入業態 単位(人)
2009 年では専門店 39.6%、量販店(SCを含む) 37.7%、百貨店(インショップを含む)17.0%、 ファッションビル 3.8%、その他 1.9%の順である。 1993 年、1994 年では百貨店(インショップを含 む)がそれぞれ 37.8%、38.7%と最も割合が高く、 1993 年では次いで専門店で 30.0%、ファッショ ンビル 26.7%、1994 年では次いでファッション ビル 33.3%、専門店 19.8%である。共に量販店 は低い割合である。1993 年、1994 年当時の量販 店はGMS(General Marchandise Store)と呼 ばれており、あまりファッションナブルなアパ レルは展開されていなかった。2009 年ではイオ ンを中心としたSC形式であり、業態の変化が 結果に影響していると考えられる。また、専門 店においても 2009 年では、洋服の青山に代表に されるような紳士服専門店での購入が多いのも 特徴である。ファッションビルの割合がかなり 減少していることから、トレンドに左右されな いトラディッショナルな式服を購入していると 考えられる。 4)購入金額 図3は購入金額を 1993 年、1994 年と比較して 示したものである。2009 年は 1 ~ 2 万円未満の プライスゾーンが一番多く全体の 25.5%を占め ており、次いで 2 ~ 3 万円未満が 21.6%、1 万円 未満と 3 ~ 4 万円未満が同じ割合で 17.6%とい う結果であった。比較すると 1 万円未満、1 ~ 2 万、2 ~ 3 万の 3 プライスゾーンでいずれも増加 している。特に、過去2年の調査では10%未 満であった 1 万円未満、1 ~ 2 万円未満の低額プ 66.2 53.0 40.5 5.2 37.8 36.5 23.1 39.0 17.6 16.2 16.2 13.5 8.1 10.8 1.4 4.0 4.1 10.8 7.6 8.5 6.5 5.2 3.0 6.5 37.3 単位(%) 1.4 図 4 購入決定要因 表 3 購入アイテム アイテム 1993 出現率(%) 1994 出現率(%) 2009 出現率(%) スーツ テーラードジャケット+スカート 56.5 35.8 42.9 テーラードジャケット+パンツ 4.3 5.3 48.1 テーラードジャケット+キュロット 3.3 5.3 -テーラードジャケット+ワンピース 1.1 0.9 -ノーカラージャケット+スカート 6.5 0.9 -ノーカラージャケット+キュロット 4.3 - -ノーカラージャケット+パンツ - 0.9 -ノーカラージャケット+ワンピース 2.2 - 1.3 その他の衿のジャケット+スカート - 18.4 1.3 その他の衿のジャケット+パンツ - 0.9 -その他の衿のジャケット+ワンピース - - -その他 ワンピース 4.3 11.4 -アンサンブル 6.5 3.5 -ニットスーツ 3.3 - -ブラウススーツ - 0.9 -単品組み合わせ 7.7 15.8 6.5 合計 100.0 100.0 100.1
ライスゾーンの大幅増加が特徴的である。また、 6 ~ 7 万円未満の高額プライスゾーンではわずか 2.0%、7 ~ 8 万、8 万以上では 0.0%という結果 から、現在の経済状況を大きく反映していると 言える。 また、2009 年購入資金の出資者は親が 71.2%、 自分が 12.1%、親戚が 6.0%であった。さらに平 均購入金額はおよそ 23,650 円という結果であっ た。 5)購入決定要因 新規購入の際の購入理由を上位から順番にまと めたのが図4である。1993 年、1994 年は「デザ イン」、「色・柄」がそれぞれ、53.0%、39.0%と 37.3%、23.1%と感性重視の購入姿勢が顕著であ る。2009 年では「デザイン」が 66.2%と第一位 ではあるが、次いで「価格」が 40.5%となってお り、1994 年の 5.2%から約 35.3%増加しているの が特徴としてあげられる。また、「就職」につい ては過去の項目にはあげていないが、37.8%と高 い割合になっていることから、ファッション性 よりも就職活動を意識した式服選びが購入決定 要因に大きく影響していると言える。 式服を購入する際、以前はあまり価格を意識 せずデザイン・色・感覚が気に入れば購入して いたが、今年は就職活動時にも着られるデザイ ン選びと、価格重視という意識が働いているこ とがわかる。このことは購入金額に於ける低額 プライスゾーンの増加結果と一致している。 3-2 式服の着装形態 1)購入アイテム 表3は購入アイテムをまとめたものであるが、 前回の調査と比較すると組合わせアイテム数の 減少が顕著である。中でもテーラードジャケッ トのスーツに集中している点が特徴としてあげ られる。「テーラードジャケット+スカート」が 42.9%、「テーラードジャケット+パンツ」が 48.1%と全体の9割をしめており、ワンピースや キュロットとの組み合わせが見られないことか ら、ベーシックなスーツを選ぶ傾向にあるとい える。 ボトムのシルエットとして、スカートではタ イト、パンツではストレートやブーツカットと、 シンプルなものが多くみられた。インナーとし てはシャツブラウスが多く、衿のデザインとし てはシャツカラーが多くみられた。上記5)購 入決定要因でも明らかなように、これらは就職 活動を意識した式服選びが影響しているといえ る。特にパンツスーツの割合が大幅に増加し、 活動的でマニッシュなデザイン選びをしており、 将来働くことに対して活動的な意識がうかがえ る。 またその他では、単品組み合わせの割合は 1994 年の 15.8%から 6.5%に減少している。「ワ ン ピ ー ス 」 や「 ア ン サ ン ブ ル 」 に お い て は、 2009 年では 0.0%となっている点も特徴のひとつ である。 2)色・柄 1993 年 で は 無 地 が 93.3 % で 22 色 が 出 現 し、 BL5(こい青)が 19.4%、NE5(黒)13.3%であっ た。1994 年は無地 87.7%とやや減少し、21 の色 が出現し、NE5(黒)25.4%、次いで BL5(こい 青)が 14.7%であった。 2009 年では出現色は 7 色で、圧倒的に NE5 (黒)が 77.9%と多いのが特徴である。NE5(黒)、 NE4(にぶい灰)、NE2(白)以外の色は 5.2%と 少なく、購入決定要因や購入アイテムからもわ かるように、式服としてだけでなく就職活動を 意識した式服選びをしたため、黒が多く出現し たと思われる。 柄としては無地が 72.7%で、1994 年で 10.0% だったストライプが 22.1%と、約 12.1%増加し ている。 3)着こなし分類 1993 年、1994 年には「ベーシックタイプ」、「ゴー ジャスタイプ」、「トレンディータイプ」、「フェ ミニンタイプ」の4つに分類して分析を行っ た。2009 年においては、「ベーシックタイプ」が 85.7%と圧倒的に多く見られた。その代表的な着 こなしを写真 1-5 に示す。 各タイプ別の特徴を見ていくと、写真 1・2 で 示したように「ベーシックタイプ」のほとんど がテーラーカラーのジャケットを着用し、色も 黒と灰色でありベーシックタイプに集中してい 表 4 使用繊維 単位:% 繊維 1993 年 2009 年 毛(他の獣毛を含む) 34.4 28.6 ポリエステル 32.2 20.4 ポリエステル・レーヨン 4.4 22.4 綿 1.1 6.1 他 27.9 22.5 合計 100 100
る。だが、前回の調査で多く見られた衿の折れ 先が首につまったデザインはみられず、また大 きく開いたものも少ない傾向にある。着こなし としては、スーツのインナーとして多くがシャ ツカラーブラウスを着用していることが特徴と してあげられる。ベーシックタイプで着用して いるボトムはスカートとパンツのみとなってお り、そのシルエットもシンプルなもので、スカー トではタイト、パンツではストレートやブーツ カットがほとんどであった。前回までの調査で みられたキュロットは一人もおらず、「トレン ディータイプ」、「フェミニンタイプ」では、ボ トムのデザインに特徴がみられる。 写真 3 の「トレンディータイプ」では、ノー カラージャケットやダブルのテーラージャケッ トがみられた。ボトムはスカートが多くプリー ツスカートやギャザースカートなどで、他のタ イプにはみられないワンピースが出現している。 また、ミニ丈のボトムが目立つことから、前回 の調査同様にボトムの丈に特徴があるといえる。 トレンディータイプでは他のタイプよりも単品 組み合わせが多いためか、色や柄にも特徴がみ られアクセサリーなどを使い流行を取り入れた 着こなしが目立った。 「フェミニンタイプ」の特徴として、写真 4 のようにスーツのインナーにタイカラーやボー カラーのブラウスを組み合わせていることがあ げられる。ボトムはスカートで、Aラインのシ ルエットのセミフレアースカートやプリーツス カートであった。 写真 5 の「ゴージャスタイプ」は 1.3%と少な い傾向にある。 4)素材と品質表示 表4は 1993 年と 2009 年のスーツを中心とし て使用されている繊維の割合を示したものであ る。1993 年では、毛(他の獣毛を含む)とポリ エステル、その他が 34.4%、32.2%、とほぼ1 /3 を占めていた。2009 年では毛(他の獣毛を含 む)とポリエステルは 28.6%、20.2%と割合が低 下しているが、ポリエステル・レーヨン、一般 的に業界でT / Rと呼ばれている繊維が 22.4% と高い割合を示している。これまで一般的に毛 100%は高価であり、T / Rはその代用品として 使用されてきた。現在のヤングファッションで はどちらかというとシーズンを通して毛は好ま れていないのが現状である。また、2009 年スー ツ、ボトム素材としてT / Rが売れ筋素材であ ることから、ファッション素材傾向が式服にも 表れていることがわかる。ブラウスを中心とし たインナーでは、綿が 34.0%、ポリエステルが 30.0%、綿・ポリエステルが 20.0%の順でありそ の年のファッション素材傾向をよく反映してい ることが明らかである。
4.おわりに
2009 年における入学式服に関する調査を行い、 1993 年、1994 年と比較をすることによって下記 のことが明らかになった。 1)入学式のために新規購入者は 73.0%で 1993 年の 90.0%、1994 年 75.6%と比較して減少 している。靴で 58.1%、鞄では 24.3%が同時に購 入している。購入時期は 2009 年で 83.3%が3月 であり、1993 年の 65.2%、1994 年の 68.3%から 増加しており直前に購入している。購入場所と しては名古屋が 40%で最も多い。購入店舗の業 態として、1993 年、1994 年では百貨店(インショッ プを含む)と専門店とファッションビルの割合 が高かったが、2009 年では専門店 39.6%、量販 店(SCを含む)37.7%、百貨店(インショップ 写真 1 ベーシックタイプ① 写真 2 ベーシックタイプ② 写真 3 トレンディタイプ 写真 4 フェミニンタイプ 写真 5 ゴージャスタイプ着こなし分類
を含む)17.0%、ファッションビル 3.8%、その 他 1.9%の順であり、大きく変化していることが 明らかである。具体的には洋服の青山に代表に されるような紳士服専門店での購入が多いのも 特徴である。購入金額の最も割合が高いプライ スゾーンでは 1993 年では 3 万~ 6 万が 65.1%、 1994 年では 3 万~ 4 万で 29.7%であるが、2009 年では 1 万~ 2 万 25.5%である。平均購入金額 は 23,650 円である。購入時の決定要因として、 1993 年 1994 年は「デザイン」、「色・感覚」と感 性重視の購入姿勢が顕著であるが、今年は「価格」 が 40.5%となっており、また、「就職」37.8%と 就職活動を意識したものと思われる。 2)購入アイテムでは 1993 年、1994 年、2009 年ともスーツの割合がそれぞれ 78.2%、68.4%、 93.6%と高い割合を示す。組み合わせとしてテー ラードジャケット+スカートが 1993 年、1994 年 が最も高い割合を示しているが、2009 年ではボ トムがパンツである割合が 48.1%とスカートの 42.9%より高い割合を示している。 3)着こなし分類として、1993 年、1994 年に は「ベーシックタイプ」、「ゴージャスタイプ」、「ト レンディータイプ」、「フェミニンタイプ」の4 つに分類して分析を行った。2009 年においては、 「ベーシックタイプ」が 85.7%と圧倒的に多く見 られた。 4)式服のスーツ類に使用される繊維として、 1993 年、1994 年では、毛(他の獣毛を含む)と ポリエステル、その他が 34.4%、32.2%、とほ ぼ1/3 を占めていた。2009 年では毛(他の獣毛 を含む)とポリエステルは 28.6%、20.2%と割 合が低下しているが、ポリエステル・レーヨン、 一般的に業界でT / Rと呼ばれている繊維が 22.4%と高い割合を示している。ブラウスを中心 としたインナーでは、綿が 34.0%、ポリエステ ルが 30.0%、綿・ポリエステルが 20.0%の順で ありファッション素材傾向をよく反映している ことが明らかである。