日 本 C H O 協 会
NEW S
LETTER
2015
July
明日を担う人事のみなさまへ
日本CHO協会は人事の最高責任者を志す方々のた< CONTENTS >
めのプラットフォームです。 ■これからの人事部門の役割と機能についての研究、 提言 ■C HO ならびに次世代を担うC HO 候補者の育成をミッ ションとし活動 日本CH O 協会は対象層のターゲットを絞った活動を 行います。 1)7月「人事戦略フォーラム」ダイジェスト ◎最強の現場力の磨き方 =「新幹線お掃除の天使たち」になぜ世界 の注目が集るのか= −7月のオープンフォーラム in“H um an C apital 2015 ”− 登壇者:①早稲田大学ビジネススクール教授 株式会社ローランド・ベルガー会長 遠藤功氏 ②おもてなし創造カンパニー代表 (元JR東日本テクノハートTESSEI おもてなし創造部長) 矢部輝夫氏 2)7月「人事実践セミナー」①ダイジェスト ◎レジリエンス(逆境力)∼折れない心の育て方 講師:ポジティブサイコロジースクール代表 久世浩司氏 3) 7月「人事実践セミナー」②ダイジェスト ◎業種特性に沿った人事評価と賃金制度 講師:株式会社 新経営サービス 常務取締役 人事戦略研究所 所長 山口俊一氏 人事部長層 戦略的な テーマ 実践的な テーマ人事課長層 密度の濃い情報、鮮度の高い情報が得られます。 ■ 同 じ課 題 を共 有 す るメンバ ー が 集 まるため 、 より深い議論研究が進みます ■同じ立場の仲間によるコミュニケーションが 進みます ・参加メンバー同士の有益な情報交換◎最強の現場力の磨き方
∼「新幹線お掃除の天使たち」になぜ世界の注目が集るのか∼
1. 早稲田大学ビジネススクール教授
株式会社ローランド・ベルガー会長 遠藤功氏
2. おもてなし創造カンパニー代表
元JR東日本テクノハートTESSEIおもてなし創造部長 矢部輝夫氏
− 7月のオープンフォーラム in “Hum an C apital 2015 ”
ダイジェスト−
7月の人事戦略フォーラムは、日経BP社による日本最大級のHRイベント「ヒューマンキャピタル 2015」との共催 で行われ、講演と対談を織り交ぜながら、競争力の源泉となる「現場力」について考えました。 フォーラムでは、『現場力を鍛える』などの著作で知られ、いち早く「現場力」の重要性を指摘してきた遠藤功氏か らお話を頂いた後、新幹線の清掃チームを世界注目の「おもてなし集団」に変革した矢部輝夫氏が登壇。7分間で 新幹線をピカピカにする「現場力」がどのようにして誕生したのか、お二人の対談で解き明かしていきました。 講演と対談要旨は、次の通り。■講演∼遠藤功氏■
「現場力」をキーワードに、具体的・実践的な話をしたい。現場力とは何なのか、どうしたら高めることができるのか、そ もそも、なぜ現場力を大切にしなければならないのか。私が「現場力」という言葉を使い始めてから20年以上になるが、 日本の強みは現場の力であり、世界の中で勝つためにはこれを高めていくしかないと思ったからだ。 トヨタは、製造現場が優れているからこそ、リーズナブルな価格でいい車を生産できる。現場力は製造業だけでなく、 最近では小売やサービス業でも注目されている。 例えば、ヤマト運輸。時間指定で日本の隅々まで荷物を届けるシステムは、 日本以外では考えられないサービスで、これを支えているのが配送の現場だ。 埼玉のスーパー「ヤオコー」は、個店主義を取り、好業績を上げている。スー パーはこれまで、本社・本部の指令に基づく画一的な店舗経営が主流だった。 ヤオコーは、地域の状況に応じてそれぞれの店が工夫を凝らす現場起点の店 舗運営を行い、成功を収めた。 客の要望を考えたり、問題を解決したり、自律したりする現場力は、どうしたら つくることができるだろうか。今挙げた企業は10年、20年かけて、経営と管理職、 現場がともに努力を重ねてきたのであって、簡単に真似できるものではない。 きょうは、いいお手本として「JR東日本テクノハートTESSEI」の取り組みを紹介 したい。かつては普通の清掃会社で、いわゆる3K職場だった。矢部さんは、そ んな現場に火をつけてその気にさせ、潜在力を最大限に引き出した方だ。経営に必要なものが三つある(図1)。まずは「ビ ジョン」。会社の共通の目標、夢、思いであり、皆 がわくわくできるビジョンが組織の求心力になる。 ビジョンだけでは飯は食えないから、実現させるた めの「戦略」が必要になる。競争相手と差別化する 価値を決めるのが戦略だ。
◇勝負の鍵を握るのは、実行担う「現場力」
近年、現場力を重視する会社が増えているのには、理由がある。戦略は簡単に真似されるからだ。戦略は魅力的であ ればあるほど、真似される。戦略や計画で差別化を図って勝つことは、難しくなっている。勝ち負けは、実行できるかどう かにかかっており、実行を担う現場の力を高めることが大切だ。つまり、競争力は企業活動のオペレーションの現場に埋 め込まれている。成果を生み出すのは、あくまで現場であり、強い企業には「非凡な現場」がある。 しかし、ビジョンと戦略がどんなに立派であって も、実行できなければ絵に描いた餅になる。実行 するのは現場であり、「現場力」が担保されなけれ ば、ビジョン・戦略は実行できない。強い会社は、 この三つがまさに三位一体となっている。 (図1) これまで約400の現場を見てきた。現場力には格 差があり、非凡な現場は10%に過ぎない。80%は可 もなく不可もない平凡な現場。残る10%は平凡以下 の現場で、ルールすら守れず、事故や不祥事が起き かねない現場だった。どこの会社にも現場はあり、強 ビジョン・戦略は、トップダウンで経営が明確に示 さなければならないが、これだけでいい会社にはな れない。「図2」の逆ピラミッドの三角形を併せてつくる 必要がある。「現場力の三角形」「実行の三角形」と 呼んでおり、実行に必要なのはこの逆三角形。一番 上に来る現場が主役であり、エンジンとなる。 (図2)◇仕掛けと仕組みで、目覚める現場
かねない現場だった。どこの会社にも現場はあり、強 い経営を目指すなら、非凡な現場を目指す必要があ る。 では、この逆三角形をどうやってつくるのか。現 場は主役だが、彼らにつくることはできない。現場 に火をつけ、目覚めさせるプロデューサーが必要に なる。仕掛けや仕組みをつくってきたプロデュー サーのお手本が矢部さんだ。まずは、TESSEIがど んな会社なのか紹介する(図3)。 (図3) この能力・モチベーションが高くなければ、どんな ビジョン・戦略も形にはならない。経営はいかにして この現場を支えるのか、考える必要がある。新幹線車両の清掃会社で、7分間で完璧に清掃する。3年前に書いた『新幹線お掃除の天使たち』にはさまざまなエピ ソードが盛り込まれているが、職員は仕事に誇りを持ち、喜びとやりがいを見出している。自ら業務改革していく自律した 現場であり、今や「清掃の会社」ではなく「おもてなしの会社」に生まれ変わった。フランスの国鉄総裁は「輸出してほしい」 とまで絶賛し、ハーバード大学ビジネススクールはM BAのケーススタディとして取り上げている。矢部さんとの対談前に、 2本のビデオを見ていただきたい。 ※ 米CNNで放映されたニュース映像と、エピソードを集めた映像を上映。 てきぱきとした仕事ぶりを“7 m inutes m iracle”と呼んで感心するだけでなく、何をモチベーションにこんなに一生懸命作 業しているのか、海外は驚いている。映像を見てお分かりのように、乗客に対するサービス、おもてなしについてもたくさ んのエピソードがある。「快適な旅をしてもらいたい」「いい思い出をつくってもらいたい」と、職員はきめ細かなサービスを 提供している。ただ単に、掃除が早いだけの会社ではない。 では、清掃会社がいかにして「おもてなしの会社」に変わっていったのか、その立役者、矢部さんに語ってもらう。 遠藤:JR時代は、どんなキャリアを? 矢部:蒸気機関車の整備から始まったが、国鉄・JR勤務40年のうち、30 数年 が安全の仕事だった。現場は人で成り立ち、安全にとって大切なのは人への信頼 性だから、私にとって「現場が大切」というのは、当たり前のこと。 遠藤:安全の仕事をしていた矢部さんが清掃の会社に行くように、と言われたと きはどう思ったか。10年前のTESSEIは、矢部さんの目にどのように映っていたか。 矢部:言われたときは引け目を感じたが、入ってからは「やったろか」という気持 ちになった。スタッフは真面目で、細かいことにもよく気づいて頑張っていたが、マ ネジメントにはやや問題があった。99%の仕事をJR東日本から受注していたので、 どうしてもJR本社を向いて仕事している。クレームもミスも多かった。
■対談∼遠藤功氏・矢部輝夫氏■
遠藤:なるほど。「やらされ感」では駄目で、仕事には能動的に取り組む必要があるということ。矢部さんがそうした現 場にも「可能性がある」「もっとできるはずだ」と感じたきっかけは? 矢部:スタッフにはいろいろな会社を経験した人が多かっただけに、それぞれの経験に基づく「思い」が少しずつ見えて きた。「∼をなんとかしたい」「∼が必要だ」と意見してくれたり、「地道にこつこつと頑張っている人がいるから、しっかり見 てほしい」と言われたりして…。 遠藤:真面目にやっているだけでは駄目だと…。 矢部:心のゆとりが必要。人生はハッピーエンドの短編小説と言うが、まるで悲 劇の主人公のように仕事している感じがした。◇現場の「可能性」「潜在能力」を信じ、引き出す
遠藤:現場の潜在能力には、大きな期待を持たれた? 矢部:会社としてやるべきことをやっていけば、できるのだと思った。潜在的な力は、どの会社にもあると思うが、見てい ない、見ようとしないのではないか。 遠藤:現場が持っている可能性を信じるところから始まると。 矢部:信じるなら徹底的に信じ、約束したことは必ず守ることが大切。 遠藤:現場との信頼関係を築くためには長い時間が必要だが、矢部さんを見る現場の目はどうだったか。 矢部:最初は所詮JR東日本からの天下りと見られていたと思う。私は後輩によく言うのだが、主任や課長の肩書きが ついたからと言ってリーダーになれる訳ではない、スタッフがリーダーと思ったときに、リーダーになる。TESSEIに来てか ら、リーダーたらんとして、「厳しさ・温かさ・公平さ」の三つを常に心がけてきた。 遠藤:最初に必要なのは「厳しさ」なのか。 矢部:TESSEIは温かい、ほんわかムードの会社と思うかもしれないが、現場は厳しい。秩序あってこその自由と同じよ うに、厳しさがあっての温かさ。これに公平さを示し、リーダーとみてくれるよう心がけた。遠藤:その小さな成功体験を誰が見るのか、 どう報告するのか。 遠藤:なるほど。求められた仕事をきちんとこなし、決められたことはきちんと守る。仕事をきちんと仕上げる厳しさ が必要であり、規律あってこその現場であると。現場には厳しく、ルールは徹底的に守ることが第一。 矢部:上映ビデオを見れば、現場の厳しさ・秩序はよく分かると思う。TESSEIが認められているのは、そこにプラ スアルファがあるからだ。TESSEIの最高のおもてなしは、早くて、正確で、完璧な掃除であり、その芯は崩さない。 遠藤:一方で、規律だけでは現場力は高まらない。 矢部:規律を守れと言うだけで、365日守り続けることはできない。ハッピーエンドを得たいという気持ちがあって、 規律・ルールを守ろうという気になれる。 遠藤:基本を徹底すること、規律を守るというのが第一の使命だが、それだけでは足りない。現場にはたくさんの 知恵やアイデアがあるのだから、それらをいかに引き出すかが大切。
◇まずは「規律」、そして「褒め合う」
矢部:30人のエンジェルリポーターを任命してい る。「いいな」と思ったエピソードなら何でもよく、会 社で「基準」は設けない。リポーターには主任を任 命し、併せて、人を見る力、褒める力を身につけて ほしいと思っている。 矢部:現場にあった「いい話」を報告してもらう「エンジェルリポートは平成9年から始まり、26年までに2万3,000件も集 まった。それまでは埋もれていた小さな成功体験を、皆で共有している。見ていないと「やっても仕方がない」という気持ち になってしまうので、見逃さないことが大切だ。小さな成功体験の積み重ねの上に今のTESSEIがある。 ほしいと思っている。 遠藤:こうした「褒め合う文化」がTESSEIの現場 力向上に貢献した。 矢部:以前は「やれ」と言うばかりで、「よくやった」の一言がなかった。行動する文化とともに、認め合う文化が必要。そ れも会社が褒めるのではなく、皆で褒め合うことが大切。 遠藤:現場力の最大の敵は、無関心。無関心が蔓延する組織は、絶対にうまくいかない。自分の仕事は一生懸命やる が、周りが何をやっているのか興味も関心もないという状況は、現場力にとって大きなマイナス。皆の協力が根底にない と、現場力は高まっていかない。 矢部:とりわけ、TESSEIはチームを組んで作業する。1チーム22人で、16両編成なら2チーム44人。チームワークを保つ ためには、お互いが認め合わなければならない。 遠藤:エンジェルリポートで徐々に現場の意識が変わっていった。次に矢部さんが仕掛けたのは? 矢部:制服を変えた。組織の名称もクリーンセンターはサービスセンター、整備係は技術サービス係と変え、チーム責 任者はチューターと呼んだ。横文字にすればいいというものではないが、意識を変えてもらうために、あらゆることをやっ た。 遠藤:清掃会社のイメージを打破するために、さまざまな工夫を行ってきた訳だが、意識を変える上で、「赤いジャン パー」など、制服の役割も大きかったとか。 矢部:制服を変えることで、会社が考えていることを伝えたかった。赤は際立ち、目立つ。こそこそ、ひそひそ掃除する のではなく、目立つことが大切。目立つから、「∼号車はどこですか」と聞かれる。聞かれるから、掃除だけすればいいと いう訳にはいかなくなる。 遠藤:その通り。現場は奥に引っ込めておくのではなく、表に引っ張り出したらいい。その方が現場の力を生かすことが できる。遠藤:クリスマスのサンタ帽も印象に残るが、清掃会社として 革命的だと思ったのは浴衣姿。現場のアイデアらしいが、よくぞ これを認めたなと。このように現場から提案して、それが形になる と、自分たちの会社という意識が生まれてくる。 遠藤:「会社が変わり始めた」と手応えを感じたのはいつか。 矢部:提案すればやらせてもらえる、という意識を持ってもらえ た。以前は何でもかんでもJR東日本にお伺いを立てて、駄目にな ることが多かったが、ひとつの会社として判断するようになった。 遠藤:こうして矢部さんに対する信頼感も増していったのではないか。 矢部:信頼感というよりは「使いやすい上役」だろう。どんどん提案して形になり、スタッフもお客もハッピーになれば、こ んなにいいことはない。 遠藤:提案には基本的に「ノー」と言わない? 矢部:建設的な提案であるならば。「二流三流の戦略で構わないから、実行だけは一流で」と言っている。「7分間」の基 本さえきちんと守ってくれれば、それ以外のことはどんどんやってもらって構わない。 矢部:「白い制服」を採用した時、同業者から「汚れが目立つで しょう」と言われたが、「うちは清掃会社ではなく、おもてなしの会 社ですから」と答えた。汚れたら 一生懸命クリーニングして、お 客の前には清潔な装いで立つ。これも意識の問題。
◇求めるは「一流の実行力」
矢部:平成17年7月にTESSEIに来たが、1年半くらいは何もしなかった。19年から一気に仕掛け、それから3年でエン ジェルリポートの件数が増え、内容も変わってきた。ホームに出ると、スタッフから随分と声を掛けられるようになった。こ の3年間が地ならしの期間だったと思う。 遠藤:種をまいて、芽吹くまでには、3年ぐらいは必要だったと。 矢部:10年経って、つぼみが咲き出すという感じではないか。 遠藤:会社の規模にもよるだろうが、現場力をつけるには5年10年単位で考えてもらいたい。これくらいの時間軸でない と、本物の現場力はつかない。矢部さんにしても、取り組んでいる過程では、ここまで注目される今の形は見えていな かったと思う。 矢部:新卒は採っておらず、入ってくるのはすべてパート。最近は新幹線の掃除がしたいと、若い人も入ってくるが、10 人採用したら1カ月で半分が辞める。1年後に残っているのは3人くらい。適性がないと思ったら、他の会社に行った方が いいと勧めるなど、厳しく見極めている。スタッフ全員のモチベーションを高く保つことなど、あり得ない。100人いたら、10 人に自分のマインドを植え付け、残る90人にはついてきてもらう。 遠藤:矢部さんが作った仕組みの中で、パートを正社員に登用し、管理職にもなれるキャリアパスを用意したことも、大 きかったと思う。 矢部:入社当時、パート比率は55%だったが、今は40%。パートをコストとみなさず、将来を支える人ととらえた。登用試 験にもどんどん挑戦するよう促した。 遠藤:パートにとっては、新しい世界が広がり、自分の可能性を見つける人もいる。やる気のある人にとっては、とても いい刺激になる。現場はとかく、決められたルーティン業務をこなすだけに陥りがち。挑戦する場に出会い、自分を変える 気になるのは難しいが、そうした場を用意し、やる気が芽生える仕組みを矢部さんはつくられた。 おもてなしの会社となったTESSEIだが、860人全員の意識が変わった訳ではないと思う。パートは1年後に正社員に なる資格を得るとのことだが、なじめずに辞めていく人も多いのか。矢部:先生が先ほど、逆ピラミッドの図を示したが、当たり前のようにやってきた。「安全はトップダウンで始まり、ボトム アップで完成する」という言葉がある。「安全」を「改善」「組織」「現場力」に置き換えてもいい。 遠藤:トップダウンがなければ、ボトムアップはできない。ボトムアップは、トップダウンからしか始まらない。どの分野で あっても、経営が関心を持たないことを現場は絶対にやらない。経営が品質に関心なければ、現場は一生懸命に品質管 理する気になれない。 矢部:「ヒラメ症候群」は上だけを見る指示待ち人間を指すが、社員は上をよく見ているのだから、トップはしっかりした 方針・夢を示すこと。それを階層別に落として、実行すればいい。
◇トップダウンで始まり、ボトムアップで完成
遠藤:矢部さんの本の中に「TESSEIの現場は以前から真面目にやっていた、現場は変わっていない、変わったのは本 社だ」という一説があって、感銘を受けた。 矢部:人はなかなか変わらない。人を変えるのはとても大変なことだから、マネジメントのやり方を変えればいい。マニュ アルやマニュファクチャー、マニュピュレーターなど、共通する「M a」の語源は要するに「手」。マネジメントとは、指で差し 示すことであり、私はその思いでやってきた。 遠藤:経営が方針を示せば、自ずとその方向に向かって現場は動いていく。そして、1年2年ではなく10年単位で見ていく。 上が方針をころころ変えたら、下は不信感を抱くばかりで、決してついていかない。 矢部:TESSEIも「さわやか、あんしん、あったか」は変えていない。 遠藤:これをやると決めたら愚直にやり続ける。自分たちのやり方を徹底的に貫く。その力強さが必要。TESSEIがここ まで世界に注目されることになろうとは、矢部さん自身思ってもみなかっただろうが、こうした状況を今どう考えているか? 矢部:短時間に、これだけ正確に完璧にこなす日本人の国民性に関心を持ったのだろう。注目したのは、最初はフラン ス、次は米C NNで、海外で騒がれてから、日本のマスコミにも取り上げられるようになった。 遠藤:日本人にとっては当たり前のことだが、海外にとっては当たり前ではなかったということだろう。 矢部:グローバル化というが、外国の真似をするのではなく、日本でやっていることをきちんと見直すことも大切だと思 う。 遠藤:今日はさまざまな業界の方が参加し、いろいろな現場を持っている。まずはどこから始めたらいいか、アドバイス を。 矢部:「褒めるのは苦手」という人から相談を受けたことがある。厳しくして組織が活性化する会社なら、そのやり方でい い。100の会社があれば、100のやり方がある。自分の会社には何が必要なのかを考え、それを重点的に、戦略的に取り 組むことが大切。 遠藤:規律が守られていない会社なら厳しさから入る、守られているなら褒めることによって動機付けにする。それぞれ の状況、抱えている問題は違うのだから、よく見定めた上で取り組むことが大切。「トップダウンかボトムアップかの二元論ではなく、それを融合させることにより、ビジョンも現場力もある組織を作ってい く、という考え方に共感しました。自らの組織で日々の活動に、エッセンスを取り入れたいと思います」 「限られた時間に、コンパクトにエッセンスを伝えていただけて、参考になりました。帰りには東京駅で、TESSEIの皆様の 勇姿を拝見したいと思います」 「ひと言ひと言が大変興味深く、素晴らしい時間を過ごすことができました。同じく3Kと呼ばれる医療現場の力を高める 矢部:安全も、現場が自律しなければ、確保できない。指示・命令だけで交通の安全が守れるなら、事故はとっく にゼロになっている。どうしたら安全を守れるか、現場で考える必要がある。かつて、通達を出せば、その内容を読 み、守るはずだという「通達幻想」があったが、まさに幻想に過ぎない。 遠藤:組織には2種類ある。ひとつは「管理集中型」の組織。本社に権力を集中させ、決めた方針・戦略を現場に 指示する。役所や大手の銀行、韓国のサムスンなどがその例。もうひとつが「自律分散型」で、それぞれの現場に 権限を委譲し、現場は工夫しながら、その役割を果たす。自律分散型の組織をつくろうと思ったら、現場力が必要に なる。 どちらが良い悪いの問題ではないが、日本の特徴を活かし、競争力・独自性につながるのは、自律分散型だと 思っている。そうした現場を作り、組織を活性化してもらいたい。道のりは決して簡単ではないが、ここにTESSEIとい う良いお手本がある。10年でこれだけ変わることができるのだから。 矢部:スーパーの話をされたが、我々がやってきたことはまさに「個店主義」だと思う。5万人の大会社TESSEIを見学に 来た時、規模の違いから「参考にならない」と言っていたが、とんでもない。5万人が1カ所にいるわけではない。支店や工 場といった現場は、100人とか500人の規模だろう。それぞれの現場から始めればいい。 遠藤:ひとつひとつの現場が自律することがまさに大切。ドラッカーは「日本の会社の強みは自主管理することにある」 と言った。海外では自主管理しないから、誰かが誰かを管理しなければならない。管理する者と管理される者が生まれ、 その立場を固定すると現場はやる気をなくす。自律して自主管理できる現場をつくれば、組織は活性化して、コストもか からない。どうずれば自主管理できる現場を作れるのか、考えていくことがポイントになる。
◇「自律した現場」で組織活性化
◆参加者の意見・感想から 「ひと言ひと言が大変興味深く、素晴らしい時間を過ごすことができました。同じく3Kと呼ばれる医療現場の力を高める べく、壁にぶつかりながらも信念を持ち続けようと改めて強く思いました 「矢部様の厳しさの奥にある、本質的な人間に対するあたたかさを感じました」 「自律型組織にするために、しっかり考えたいと思いました」◎レジリエンス(逆境力)∼折れない心の育て方
=ポジティブサイコロジースクール代表 久世浩司氏=
−7月の人事実践セミナー①・ダイジェスト−
7月の人事実践セミナーでは、人事業界でも最近よく耳にする「レジリエンス」を取り上げました。その訳語がまだ 普及しているわけではありませんが、「精神的回復力」「逆境力」と聞けば、メンタルヘルス対策に悩む担当者にとっ ては、思わず知りたくなる世界です。セミナーでは、レジリエンスの第一人者久世浩司氏がグループワークを織り交 ぜながら、その理論を解説しましたが、関心高いテーマと興味深い「教材」が相まって、これまでにない盛り上がりを 見せたワークになりました。 講演要旨は、次の通り。 今日は、「レジリエンスが高まるとはどういうことなのか」「ストレスへの対処にはどんな手法があるのか」を参加者自身 で体験し、身につけてもらいたいと思っている。そして、「変化に柔軟に適応する力」「困難な業務から逃げずに目標を達 成する力」についても触れていく。◇しなやかに、柔軟に、立ち直る力
レジリエンスが近年注目され、認知度も上がってきた。ガン予防が重要なように、レジリエンスはメンタルヘルスの一次 予防と位置づけられる。全米心理学会は「レジリエンスとは、逆境や困難、強いストレスに直面したときに、適応する精神 力と心理的プロセス」と定義している。 ここで大切なのが「適応する」ということ。闘うのではなく、しなやかに、柔軟に対処するというのが、レジリエンスの肝に ここで大切なのが「適応する」ということ。闘うのではなく、しなやかに、柔軟に対処するというのが、レジリエンスの肝に なる。 多くの人はストレスや失敗があったときに、心が落ち込む。それは人として当然のことだが、レジリエンスを持っている 人は、底打ちして立ち直ることができる。レジリエンスは生物学では「復元力」と訳されるが、生物には元々、復元・回復す る力が備わっている。怪我は自然に治癒し、子供は一度泣いたらけろっと立ち直るように。レジリエンスは元々持ってい る力だが、疲労が重なるなどして徐々に失われ、元に戻す習慣がないと、その力は脆弱なものになってしまう。 レジリエンスには「回復力」「緩衝力」 「適応力」の3つの特徴がある。例えると、 しなやかに回復する「竹」、弾力性をもっ て跳ね返る「テニスボール」、アスファルト の割れ目から芽を出す「タンポポ」といっ たところ。 レジリエンスは①精神的な落ち込みを 「底打ち」する ②スムーズな「立ち直り」 を図る ③逆境体験を「教訓化」する − と いう3つのステージを辿る(図1)。このサ イクルが短期で完成することも、長期に わたることもある。「教訓化」すれば、次 の問題に直面したときに対応できるし、 事態が発生する前に予防できる。 (図1)「底打ち」「立ち直り」「教訓」それぞれ の局面で、どのようにレジリエンスを高 めていくのかを「図2」に示す。この図は、 心理学がベースになっており、これから トレーニングの手法をひとつひとつ紹介 していく。 まず、精神的落ち込みの最も大きな 要因である「ネガティブ感情」について。 ネガティブ感情の引き金には、ストレス や失敗などがあり、その経験を話し合う。 (図2) 【グループワーク1(2人1組)】 仕事や生活の中で最近、失敗して落ち込んだ経験をそれぞれ話す。 失敗により、気持ちが大きく揺らいだ体験を話すこと。 心が揺れ動いた体験を、自分の内側にとどめるのではなく、誰かに話すだけでも、気持ちは落ち着く。共有化により 心が沈静化するので、話せる相手がいるというのは、とても大切なこと。今のペアワークだけでも「底打ち」の力は高 心が沈静化するので、話せる相手がいるというのは、とても大切なこと。今のペアワークだけでも「底打ち」の力は高 まったと思う。 失敗体験があると、人は「困った、どうしよう」と思考停止し、「自分のせいだ、迷惑をかけた」と自責の念にかられる。 「自分にはできない、私は役に立たない」と、ネガティブ感情に襲われる。ここでの大きな問題は、失敗を怖れて新しい 仕事を避けるなど、「行動回避」につながる点だ。 先ほどのワークのように話す相手がいないと、心の中でネガティブ感情が反芻され、高血圧、高血糖といった健康リ スクにもつながる。ネガティブな感情は、衝動的・突発的な行動に結びつきやすく、「怒り→攻撃」「怖れ→逃避」「不安 →回避」「悲しみ→内向」「羞恥→隠遁」といった行動に出てしまう。
◇「感情」を認知してコントロール
ネガティブ感情への対処には、①呼吸法でクールダウン ②感情の「ラベリング」③感情の「気晴らし」−をすると効果的 だ。 失敗してパニックになったり、気が動転したりした場合は、呼吸法によるクールダウンがある。「3分間マインドフルネス 呼吸法」といって、禅寺などでも同様なやり方が行われている。約4秒かけて息をゆっくり吸い、約6秒かけてゆっくり吐く。 1分間に4∼6回の呼吸が目安で、ストレスの緊張緩和に有効だ。ある人事部長は、人事評価の前にこの呼吸法を行い、 緊張を和らげている。 ネガティブ感情「ラベリング」の目的は、ストレスや失敗によって発生した感情を認知すること。自分の感情を知ることに よって、コントロールも可能になり、海外ではそうした習慣を付けるための「感情教育」が盛んに行われている。 【グループワーク2(2人1組)】 「不安」や「怖れ」「怒り」「疲労感」「罪悪感」といった10枚の「感情カード」があり、特徴やリスク、効果に関 する解説が書かれている。ワーク1で話し合ったストレス体験について、そのときに芽生えた感情がどの カードに該当するのか、互いに問いかけながら選んでいく。 感情は一次感情から二次感情、三次感情と芋づる式につながることがあるので、複数選んで構わないが、カードの選び方は、人によってかなり違っていると思うが、これを職場で行うと、同じパターンになりがち。感情は人から 人へと波及し、とりわけネガティブな感情は伝染しやすいからだ。 次に、怒りをどう晴らすか、不安にどう対処するかなど、認知したネガティブ感情の「気晴らし」についてお話する。ポイン トは、気持ちを切り替え、逸らすこと。気晴らしのためには、興味ある分野に没頭することが効果的で、①エクササイズ、 ダンス、各種スポーツの「運動系」②音楽演奏・鑑賞、カラオケの「音楽系」③ヨガ、瞑想、早足散歩の「呼吸系」④ライティ ング、日記、手紙の「筆記系」− がある。 【グループワーク3(4人1組)】 ネガティブ感情の「気張らし」として、普段行っているやり方、自分に 合った方法をそれぞれ紹介し、共有する。 気張らしは、その日のうちに、寝る前に行いたい。ネガティブな感情は睡 眠に悪影響を与え、目覚めも悪くなるので、宵越しさせないことが大切。そ の日のうちに対処できなければ、週末にでも行うことになり、複数の気晴ら し法を持つことが望ましい。
◇ネガティブ感情を誘発する「思い込み」
ストレスや失敗の体験が引き金となって、不安や憂鬱といったネガティブな感情につながるが、「体験」と「感情」の間に、 人それぞれの「思い込み」がある。つまり、出来事がきっかけとなって思い込みを刺激し、感情を生み出す。同じ体験でも、 感情反応が人によって異なるのは、思い込みという「色眼鏡」を通すからで、自分の「思い込み」を認識しておくのはとても 大切なこと。 思い込みに縛られると、人は冷静に考えられ なくなり、「歪曲的な認識」「固定的な解釈」「非 自分のネガティブ感情の原因が何であるの か、発見するためのワークを行う(図3)。思い 込みの癖を7種類にタイプ分けし、心の中に 飼っている「犬」とみなす。ワーク2の「失敗体験 による感情」で1枚残した「感情カード」のきっか けとなった思い込みを推察してみる。例えば、 上司から無視されているように感じ、「自分に は価値がないのだろうか」と思い込む人は「負 け犬」カードが該当する。 なくなり、「歪曲的な認識」「固定的な解釈」「非 合理的な思考」に陥りがちになる。性格とは異 なり、思い込みは体験を通じて後天的に身に ついたものだから、捨てることができる。ネガ ティブ感情につながる邪魔なものは、捨ててし まえいい。 【グループワーク4(2人1組)】 7タイプの思い込み犬を「批判犬」「正義犬」「負け犬」「あきらめ犬」「心配犬」「謝り 犬」「無関心犬」と名づけ、それぞれのカードを並べる。各自、ネガティブ感情の原因 となった思い込みの癖はどの「犬」なのか、互いに問い掛けながら見出し、「感情カー ド」と「思い込み犬カード」をペアにする。 (図3)心の中に住みついた犬に気づかないと、思い込みに支配されてしまう。あくまで、主はあなたで、犬は従に過ぎない。犬 が吠えたときは、主人として適切に対処しなければならない。対処法には「追放」「受容」「訓練・てなずけ」の3つがある。 思い込みが理不尽で、信用できそうにない場合は、思い切って追放する。逆に、思い込みが現実的な場合などには、受 け入れる。例えば「心配犬」はリスク回避のために必要なことがあり、こうした犬は受け入れる。思い込みを信じていいか 分かりにくい時には、場面によって使い分ける。「批判犬」や「正義犬」にはそんなケースがある。
◇「強み」を伸ばし、自信増加・幸福感アップ
「底打ち」の次は、ステップ2の「立ち直り」。元の意欲に戻すには、心理的な筋肉が必要で、ポジティブ心理学が用いら れる。筋肉を鍛えるには「強みの活用」「社会的支援」「自己効力感」「感謝のポジティブ感情」の4つがある。 「強み」とは「前向きな価値観」であり、普段から鍛えておけば、ストレスへの耐性が増す。ポジティブ心理学では、「6つ の美徳」(知恵、勇気、人間性、正義、節制、超越性)に基づいた「24種類の人格の強み」が主流になっている。強みの活 用によってレジリエンスが高まり、自信の増加、幸福感アップ、能力発揮などの効果がある。 弱みには対処しても、強みを伸ばす意識はまだまだ足りないように思う。かつて勤務したP&G では「強み文化」が根付い ており、部下は「3つの強み」と「1つのポテンシャル」を上司に申告していた。強みを伸ばすことが上司の仕事であり、弱み に触れることはなかった。 【グループワーク5(2人1組)】 過去の成功体験で発揮した「強み」を振り返る。「創造性」「好奇心」「誠実さ」「勇敢さ」「親切心」 「愛情」「リーダーシップ」「チームワーク」「寛容さ」など、24枚の「強みカード」を並べる。 仕事やプライベートでの成功体験を思い出し、その原動力となった強みが何であったのか、 カードの中から3∼5枚を選ぶ。 強みを理解して活用する際のもうひとつのメリットが「自己 肯定感」の高まり。自己肯定感とは、失敗しても過剰に自己 否定しないこと。自分は有能であると信じ、自分の価値を保 てる心の状態で、「自尊心」と言い変えてもいい。 自己肯定感が育てられると、①幸福感の高まり ②レジリ エンスの強化 ③抑うつ症状の防止 − のメリットがある。「褒 める教育」はまさに、その生徒の価値を認めることで、自己 肯定感育成の役に立つが、日本の教育はこの点が遅れてい る。 日本の中学・高校で自己肯定感がある生徒は10%に過ぎ ないが、韓国20%、中国40%、米国58%と差がある。自己肯 定感が強ければ、自分に自信を持てるので、きちんと自己主 張できる。グローバルの競争で、日本はここが劣勢になる。 【グループワーク5(4人1組)】 強みを伝えることで、「自己肯定感」を高める。 過去の成功体験を具体的に話す。聞き手3人は、その成功体験で発揮したと思われる強みをそれぞれ指摘 し、該当する「強みカード」を話し手に渡す。 聞き手が指摘した強みと、話し手が感じていた強みが一致することもあれば、異なることもある。聞き手の指 摘と自己認識の一致・差異など、気づきを共有する。 他者の強みを見出す時は、話す相手の言葉だけでなく、目の輝きや笑顔など表情や仕草にも注目したい。困難に直面したときに、強みを活用して壁を乗り越えたり、しなやかに回避したりすることができる。しかし、1人では解決 できないケースもあり、そんなときには「ソーシャル・サポート(社会的支援)」が必要。
◇支え、支えられ、人も組織もレジリエンス向上
逆境の代表的なもののひとつは病気で、例えばガンを告知された人が立ち直るきっかけとなるのは、支える人の存在。 「私を待つ人がいる」「私には生きる価値がある」といった気持ちになることができ、周りのサポートがある患者はレジリエ ンスが強くなる。人と人の関係というのはとても重要で、幸福度TO P20%の人の共通点は「親密な関係にある人の存在」 というデータもある。レジリエンスを高めるためにも、人間関係を深めたい。 東大の中原淳准教授の調査によると、「孤独なマネジャー」と「助言をもらえるマネジャー」の職場業績を比較すると、4.4 対4.8と差がついた。1人が孤軍奮闘するのではなく、助け合う職場をつくることが大切だ。職場に「助け合いの仕組み」を つくり、個人だけでなく、組織のレジリエンスを高めたい。 心の支えとなるサポーターには、「仲間(友人、同窓生)」や「家族」「職場」「援助者(医師、カウンセラー)」「尊敬する人 (恩師、偉人)」などがある。サポーターとして接するときに大切なのは、同情ではなく共感すること。同情は「上から目線」 になってしまうため、相手に劣等感を与えることがある。 【グループワーク6(2人1組)】 困難に直面したとき、心の支えとなるサポーターを互いに5人挙げてみる。 例えば、「大変な経験をした時、助けてくれた人(助力)」「困った時に情報を提供してくれた人(情 報)」「問題に直面した時、有用なアドバイスやガイダンスを与えてくれた人(助言)」「辛い時に一緒 にいるだけで安心できた人(親密)」。歴史上の人物でも、キャラクターでも構わない。 最後に「感謝」の話をしたい。感謝とは、人に助けてもらったときや 良い状況に恵まれたときに生まれるポジティブな感情で、レジリエン スの原動力になる。感謝の念が豊かな人は打たれ強く、回復力もあ スの原動力になる。感謝の念が豊かな人は打たれ強く、回復力もあ る。感謝には、幸福度の高まりやストレスの低下、道徳的行為の促 進・関係性の改善といった効果があり、「サンクスカード」を導入して いる企業も多い。 感謝の気持ちを心の中で高める手法として「感謝の日記」「感謝の 手紙」を書くことを勧めたい。感謝の念は消えがちなので、感謝した 体験を回想し、どんな好影響を与えたかなどを記録にとどめることに より、その感情を高めていく。 きょうは、レジリエンスを高める7つの技術のうち、キーになるもの はお伝えできたと思う。最後の「グループワーク 7」として、一人一言 ずつ「気づいたこと・明日から仕事や生活に活かせること」を紹介し 合って、終わりたい。 「テーマにぴったりなポジティブな雰囲気の中、本当に有意義でした。感謝の気持ちを忘れずに、職場でこの気づきを活 かしていきます」 「非常に良いセミナーでした。グループワークもあり、自分の気づきにつながるようなアプローチの仕方で、成果が上 がったと思います。グループでの親密度を増す研修でした」 「会社の人事評価でも、自分の強みを生かしたキャリア開発プランを立てます。強みが分からなかったため、クリアなプ ランにならなかったのですが、きょうのグループワークで、強みの見つけ方が分かりました」 「自分が思考停止になる要因、自分の強みがはっきり分かったことが大いに参考になりました。職場で使えると感じまし た」 「自分自身の心が折れそうになりかけていたので、大変参考になりました。あすから実践していきたいと思います」 「社内で活用をと思い、参加しましたが、個人的にも大きな学び、気づきがあり、感謝しています。自部門、営業部門へと 広げていきたいと思います」◆会員の意見・感想から
◎業種特性に沿った人事評価と賃金制度
=株式会社 新経営サービス 常務取締役
人事戦略研究所 所長 山口俊一氏=
−7月の人事実践セミナー②・ダイジェスト−
7月の人事実践セミナーは2回開催され、本セミナーでは、業種の特性に応じた人事評価・賃金制度を取り上げま した。職種・雇用形態が多様化する中、自社にとって「最適な仕組み」の構築は、決して簡単ではありません。400を 超す企業の人事・賃金制度づくりを支援してきた山口氏は、数多くの事例を踏まえて、最近のトレンドや課題解決の 手法を紹介しました。 講演要旨は、次の通り。 人事制度づくりに際して大事なことは、業種や職種の特性をよく考えること。ある電機メーカーは、子会社のソフトウェア 会社にもほぼ同じ制度を導入したが、製造系の評価手法はSEやプログラマーにはほとんど機能しなかった。アパレル小 売業者は、販売員の売り上げが30代後半から落ち込むのに給与は年功序列で上がるなど、生産性を無視した賃金体系 になっており、収益が悪化した。このように、働き方や給与水準など業種の特性を無視すると、制度はうまく機能しない。◇稼ぎどころ・重点職種のやる気を引き出す仕組み
人事制度で考慮すべきポイントは「図1、2」に示 すように、業種によって少しずつ異なる。例えば 「メーカー」は、さまざま職種があるので、全体の バランスをとるか、職種別の制度とするかの選択 になる。 制度設計に当たり、重点職種を中心に考えるの はどこでも共通するが、「卸売業」ではとりわけ、 はどこでも共通するが、「卸売業」ではとりわけ、 稼ぎどころである営業部門のやる気を引き出す制 度とする。併せて、マネジャーとプレイヤーのコー ス分けが検討課題になる。 人事制度では最近、「専門職制」がうまく機能し ていないケースが目立つ。高齢化に伴うポスト不 足から、「管理職になれなかった層」の受け皿に なるなど、専門家として輝いてほしいという目的と かい離してしまっている。ひと言で専門職といって も、課長になれない層から役職定年まで、さまざ まなタイプが入ってくる。 「ITサービス業」では大半が技術者だが、評価 項目は技能レベルやプロジェクト成果一辺倒とせ ず、ほんの少し「営業・経営センス」を加味するだ けで、会社は大きく変わる。 (図1)「図3」は専門職を細分化してうまくいったケー ス。制度をつくるだけでは、課長になれない層を はめるだけになってしまう怖れがあるので、「課 長以上の給与を出せる技術、専門性があるか 否か」をまず考えて、導入してほしい。 「成果」を目標管理で評価している会社が多 いと思う。運用がうまくいっているなら変える必 要はないが、もし問題があるならば、評価項目 を見直すこと。目標管理制度は全社一斉、一律 に導入することが多いが、職種によって評価項 目を変えるのもひとつの手法で、その組み合わ せ例を「図4」に示す。 例えば、「営業職」の場合、業績の指標は「目 標達成率」だけではなく「前年伸長率」と「絶対 値」も加えて3つの観点から評価する。さらに、営 業はチームで動くことも多いので「個人業績」「組 織業績」のどちらを重視するのか、ウェイト配分 を考えたい。 「事務職・製造職」は、成果を測りにくいので、 目標管理ではうまく機能しないことが多い。職務 遂行タイプの職種なので、さまざまな業務を「期 限までに」「正確に」処理することが第一義的に 求められる。人事でも総務でも、だれがきちんと 仕事しているかは評価できても、基準づくりが難 しい。そうした職場では、「業務の量・難易度・ス (図3) 「業績評価」だけでは、短期的思考に陥りや すいほか、実力を100%正確には評価できな いという欠点もあるので、「職務プロセス評価」 (図5)で補完する。職務評価の項目も、職種に よって異なるが、重要なのは、評価項目の中 に会社が求めているものを盛り込むこと。 しい。そうした職場では、「業務の量・難易度・ス ピード・品質」といった定性評価を中心にして、目 標はあくまで「+αの評価」とすればいい。 (図4) 例えば、「新規 開拓活動」「コスト 管理」「創造性」な どで、会社の人事 理念とか行動指 針といったものが 入ってもいい。
◇「メリハリ運用」「重点配分」、社内外の環境で制度は変わる
職種別の「評価」に続き、「給与」の問題に移る。成果主義のブームが去り、賃金をめぐる話題は近年、少なくなったが、 改定を考えている会社があったら、参考にしてほしい。 「製造業」の賃金体系では、冒頭でも話したように、職種別を採用するかどうかが検討課題になる。あるメーカーは、① 成果重視の「営業・開発・企画職群」②時間の概念を残す「生産・事務職群」− の2群に分けた。前者は、裁量ないしみな し時間外として、時間管理せずに成果を見ようとしている。併せて、とりわけ上位等級では、両者の賃金水準にかなり差 をつけている。社内で格差をつけにくいときには、生産部門を分社化することになる。 「卸売業」で、営業職のみに「評価連動給」を 導入した事例を紹介する(図6)。「営業職基本 給」の水準は、「非営業職基本給」と変わらない が、評価を8段階に増やしている。営業職には 「昇給」の概念がなくなり、評価によって給与の 絶対値が決まる。給与は毎年洗い替えすること になり、過去からの積み上げではなく、今の貢 献度を重視する考え方だ。営業職は数字が明 確に出るので、納得性も高い。 「小売業・飲食業」では、賃金水準がそれほど 高くないので、重点配分を考慮する必要がある。 優秀な人を引き上げる一方で、上位ランクに昇 格できない人材に対しては、一定年数後には標 準評価であっても号俸が上がらないなど、「給与 改定基準」を工夫し、ブレーキをかける仕組みを 取り入れる。 (図6) 「ITサービス業」では、SE不足もあって、転職市場を意識する必要がある。早めに給与を上げておかないと、引き留める ことができない。残業時間の多い人が優秀なわけではなく、逆のケースが多いので、裁量労働制を入れたい。30歳前後 が分岐点で、マネジメント、プロフェッショナル、エキスパートといったコースに分け、「上げる人」「抑える人」をしっかり区 別する。 このように、業種・職種によって工夫すべき点は異なり、給与水準や人員構成などを考慮しながら、設計する必要があ る。◇親子関係の濃淡踏まえ、グループ各社の制度を検討
参加者の中には、グループ会社の制度を見 ている方もいれば、逆に、関連会社として親会 社の方針に沿って運用している方もいるかと思 う。 人事制度の統一を図る親会社もあれば、各 社の自主性を尊重するケースもあるなど、グ ループによって「レベル」や「パターン」は「図7」 のように異なる。最近では、親会社との取引関 係が事業の中心でない子会社が増え、出向で はない転籍・プロパー社員の比率も高まってお り、それぞれの会社に適した人事制度が求めら れる。 「会社が求める人材像」や「組織のあり方」 「人材育成の方針」など、グループ共通の人事 理念を定めた上で、子会社の人事制度を考え たい。設計に当たっては、状況に応じた工夫が【親:消費財メーカー/子:倉庫・運送業】 親子の間で人事異動しやすいように、等級は親会社で相当するランクを意識して設定した。「親会社の課長が子会社 の部長」といったように、等級に対応する役職は親子間で差があり、同じ名称だと混乱しやすい。親会社が「課長」「係長」 と漢字表記だったので、子会社は「マネジャー」「リーダー」と横文字にした。 【親:通信機器メーカー/子:機械メーカー】 親会社が新人事・給与制度を導入したが、親子間で取引関係がほとんどなく、業種や年齢構成も違うので、子会社独 自の制度設計を容認。役員賞与の支給基準も、グループ業績ではなく、子会社業績連動とした。親に依存せず、収益責 任がある子会社は、独自性を発揮することができる。 【親:生命保険会社/子:ビルメンテナンス業】 生保が所有するビルの設備管理・警備の会社で、親会社との取引によって成り立つ。設備管理は正社員、清掃は パートなど雇用体系を明確化し、技術者・管理者の等級・人事評価・資格手当を盛り込んだ制度を整備した。全くの異業 種なので、給与は業界の水準を調査して設定。親会社に100%依存していると、業績主義は取りにくく、昇給や賞与水準 も独自基準を打ち出すのは困難。 子会社や関連会社が人事制度を改定するときは、親会社の方針や親 子間の関係性で対応が異なる。以下の点に留意する必要がある。 ・人事制度の独自性を認める場合、認めない場合 ・給与、賞与水準の親子逆転を認める場合、認めない場合 ・昇給、賞与の自社業績連動が可能な場合、不可能な場合 ・親会社からの転籍者、出向者が多い場合、少ない場合 ・グループ共通の企業年金など、分離困難な制度がある場合、 ない場合 ・グループ共通の労働組合がある場合、ない場合 最後に、各テーブルで「各社の業種特性に沿った人事制度例紹介」「各社のグループ人事制度方針紹介」に関するグ 最後に、各テーブルで「各社の業種特性に沿った人事制度例紹介」「各社のグループ人事制度方針紹介」に関するグ ループディスカッションを行い、終了する。 「昨年7月に会社統合となり、さまざまな職種が組み合わさったため、職種別の賃金制度を検討しています。今日 は、非常に参考になる話を聞かせていただきました」 「職種に応じた評価制度の考え方が比較検討でき、理解が進みました。当社でも、職種に応じた評価制度の導入 を進めていますので、参考にさせていただきます」 「業種ごとの違いが思った以上にあることに、驚きました。今後、戦略的に人事評価制度を改定していく必要性を 感じました」 「異業種の人事制度フレームが当社にも活用できるのではないか、と感じました。また、グループディスカッション で他社、他業種の課題等を共有でき、有意義でした」 「やる気にさせたい層(一番稼ぐところ)に適した制度を入れるべきだという説明が、シンプルで分かりやすかった。 ただ現実には、組合とどう合意を図っていくのかという点に大きく左右されてしまうのが悩ましいところ」