ESRI Discussion Paper Series No.241
首都直下地震における地方財政への影響 宮崎 毅
August 2010
内閣府経済社会総合研究所
Economic and Social Research Institute
Cabinet Office
Tokyo, Japan
ESRIディスカッション・ペーパー・シリーズは、内閣府経済社会総合研究所の研 究者および外部研究者によって行われた研究成果をとりまとめたものです。学界、研究 機関等の関係する方々から幅広くコメントを頂き、今後の研究に役立てることを意図し て発表しております。 論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見 解を示すものではありません。
The views expressed in “ESRI Discussion Papers” are those of the authors and not those of the Economic and Social Research Institute, the Cabinet Office, or the Government of Japan.
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「首都直下地震における地方財政への影響
1」
明海大学経済学部講師 宮 崎 毅 【要旨】 中央防災会議による首都直下地震(東京湾北部地震)の被害想定では、最悪の場合、 死者数約11,000 人、建物全壊棟数・火災焼失棟数約 85 万棟の被害規模が予測されて いる。このような未曾有の大災害に対して、国や自治体、研究者は震災の復興費用や 事業の国費と地方負担額等を推計しているが、団体別、震災後の経過年別に地方負担 額や一般財源負担額、さらに普通交付税増減額を推計した研究はほとんどない。そこ で、本稿では、阪神・淡路大震災の直接被害額と震災財政の関係をもとにして、首都 直下地震が地方財政に及ぼす影響を推計した。推計の結果、次のことが明らかになっ た。第1 に、首都直下地震による震災関連事業における地方負担額は 24.3 兆円だが、 そのうち地方債充当額が 12.6 兆円で一般財源負担額が 11.7 兆円となる。さらに、地 方税収の減少を考慮すると、震災による普通交付税増加額は14.1 兆円に達する。第 2 に、首都直下地震における復旧・復興事業費負担は、特に東京都において大きい。第 3 に、首都直下地震では特に震災後 3 年目、4 年目に地方財政と普通交付税への負担が 大きくなる。 1 浅野憲周氏((株)野村総合研究所)、岩田一政所長(内閣府経済社会総合研究所)、佐藤主光教授(一橋大学)、中林 一樹教授(首都大学東京)及び、ESRI セミナーと地域活性学会防災部会、「巨大災害時における災害政策のサステイ ナビリティに関する研究会」参加者からは、非常に有益なコメントを頂いた。ここに記して、感謝したい。2
The Local Governments’ Cost of Disaster Response for the Tokyo
Inland Earthquake
Takeshi Miyazaki
Assistant Professor, Faculty of Economics, Meikai University
Abstract
Recently, the damage estimations for the anticipated Tokyo Inland Earthquake released by the Center of Disaster Management Council assumed extensive damage, including a death toll of approximately 11,000 people, the collapse of 850,000 buildings, and a maximum economic loss of 112 trillion yen in the event of a severe earthquake in the northern part of Tokyo Bay. While much research in the past has focused on estimating the cost of socioeconomic rehabilitation and reconstruction resulting from an extremely severe earthquake, the issue of cost breakdown and revenue loss at local government level has never been addressed. This paper estimates the cost of disaster emergency response, rehabilitation, and reconstruction from the Tokyo Inland Earthquake based on data from the Great Hanshin-Awaji Earthquake, and concludes that (1) the local governments’ effective cost for disaster response for the Tokyo Inland Earthquake is 24.3 trillion yen, which includes the cost credited to the local government bond (12.6 trillion yen) and general account budget (11.7 trillion yen), (2) the burden of recovery and reconstruction cost is extremely large for the Tokyo metropolitan government as compared to other local governments, (3) the effective recovery cost for the local governments is at its highest (further increases?) three to four years after the occurrence of the Tokyo Inland Earthquake.
3 1.はじめに 中央防災会議による首都直下地震(東京湾北部地震)の被害想定では、最悪の場合、 死者数約11,000 人、建物全壊棟数・火災焼失棟数約 85 万棟の被害規模が予測されて いる。このような未曾有の大災害に対して、政府は首都直下地震対策専門調査会や首 都直下地震避難対策等専門調査会等で首都直下地震対策を進めてきたが、首都直下地 震の復興対策のあり方に関する検討会では生活復興や産業復興、経済・財政への影響 等、首都直下地震における復興のあり方についての議論も進められている。特に、経 済・財政への影響については、中央防災会議をはじめ、国や地方団体、研究者の間で、 首都直下地震における復旧復興事業費、公的部門と民間部門の復興需要や復興資金需 要、復興費用額等が推計され、復旧復興関連経費に対する関心が高まっている。 国土庁(1986)では、南関東地震からの復興について復興時の問題点や条件を検討 し、復旧復興費が 54 兆円、公共と民間を含めた復旧復興投資の総額が 150 兆円にな ることを明らかにしている。公共部門(国及び地方)による復興投資額の総計は、お よそ30,40 兆円、単年度最大で 6-8 兆円と推計している。東京都被害想定を基に「富 士総合研究所」が 2001 年に試算した、東京都・区部直下地震(火災発生)における 財政支出額は国費15.1 兆円、地方 10.5 兆円の計 25.6 兆円であった(東京都資料)。 永松・林(2006)は県民経済計算や総務省の決算統計をもとに復興活動の中での復興 財政の規模を推計しているが、内閣府の試算によると、この結果を元に被害額と財政 規模が正比例すると仮定して首都直下地震で必要となる追加的財政需要を計算すると、 震災関連事業総額が61.2 兆円となる。永松(2008b)では、3 年分の付加価値増分を 災害の復興需要、付加価値額から支出金ベースへの換算を行ったものを復興資金需要 と定義し、首都直下地震における復興需要は、公的部門で7 兆円、民間部門で 14.5 兆 円、復興資金需要は公的部門で12.9 兆円、民間部門で 26.8 兆円であると試算してい る。首都直下地震における復興費用の推計では、国費と地方負担を区別して推計して いるのは富士総合研究所の推計だけであり、しかも震災後の年次別復興費用負担額や 年次別の一般財源負担額の推計、首都直下地震の被災4 都県別費用負担などは推計さ れていない。 そこで、本稿では、阪神・淡路大震災の直接被害額と財政支出額の関係をもとに、 年度別団体別に、首都直下地震の地方負担額、地方債充当額と一般財源負担額、税収 の変動を考慮した普通交付税増減額を推計する。推計の結果、次のことが明らかにな った。第1 に、首都直下地震による震災関連事業における地方負担額は 24.3 兆円だが、 そのうち地方債充当額が 12.6 兆円で一般財源負担額が 11.7 兆円となる。さらに、地 方税収の減少を考慮すると、震災による普通交付税増加額は14.1 兆円に達する。第 2 に、首都直下地震における復旧・復興事業費負担は、特に東京都において大きい。東 京都と都下被災市町村の震災関連事業負担額は5 年間で 17.6 兆円にものぼり、地方債
4 発行高は9 兆円、一般財源負担額は 8.6 兆円にもなる。なお、税収の減少による影響 もあり、普通交付税額は震災後3 年目には震災前の 17 倍にもなる。第 3 に、首都直 下地震では特に震災後3 年目、4 年目に地方財政と普通交付税への負担が大きくなる。 震災後1 年目に震災関連事業の地方負担額が最大となるが、災害救助・応急対策や復 旧事業の割合が高いため地方負担が地方債に充当される。一方、復興事業が主となる 3 年目以降は一般財源負担割合が大きくなり、地方財政及び普通交付税への負担が高 まる。震災3 年目の東京における一般財源比率は 42%、普通交付税は 3.5 兆円、震災 前の交付税総額と比べた普通交付税増加額の割合は72%にもなり、地方財政への負担 だけではなく、交付税負担額も非常に大きくなる。また、簡単な推計によると、本稿 の推計では首都直下地震の事業総額は10 年で 55.7 兆円となるが、この結果は永松・ 林(2006)等の既存の研究による事業規模推計値と比べて妥当な値であると考えられ る。 このように、首都直下地震が地方財政と交付税を通じた財政に及ぼす影響は非常に 大きく、現行の震災関連財政支援体制では財政面で立ち行かなくなる可能性も考えら れる。特に本稿の研究からは、震災3、4 年目の地方財政及び普通交付税への負担が大 きくなることが明らかになった。したがって、被災自治体が震災から数年後に重い財 政負担に苦しむことがないよう、後年の財政負担を考慮して、政府と地方自治体によ る基金等を創設することも考える必要があろう。基金をうまく活用することにより、 交付税制度への負担も軽減されると思われる。 本稿の構成は、次の通りである。第2 節では首都直下地震の復興費用を推計する方 法を述べ、第3 節では震災関連事業の地方負担や普通交付税交付額への影響などの推 計結果を述べる。第4 節が、結論である。 2.推計方法 2.1 推計の手順 本稿では、次の手順で首都直下地震における都道府県別地方財政負担を計算する。 1. 阪神・淡路大震災における地方負担額と被害量を項目別に算出 2. 首都直下地震における被害量を項目別推計 3. 被害量に比例させて、項目別に地方負担額を推計 4. 地方債充当率を推計し、地方債負担額を計算 5. 地方負担額と地方債負担額の差として、一般財源負担額を計算 6. 阪神・淡路大震災時の兵庫県と大阪府をモデルとして、首都直下地震の都道府県税収 影響額を推計 7. 一般財源負担額と税収への影響額を用いて、普通交付税額への影響額を推計
5 まず、本稿では阪神・淡路大震災の復興復旧事業費をもとにして首都直下地震時の地方財 政負担を算出することから、阪神・淡路大震災における地方負担額と被害量及び首都直下 地震における被害量を計算する。各財政項目の年次別地方負担額が被害量に比例するとし て、首都直下地震における地方負担額を推計する。その後、地方債負担額と一般財源負担 額及び、首都直下地震における税収変動額を求め、財政需要と税収がわかることから、普 通交付税増加額を推計する。 2.2 阪神・淡路大震災における地方負担額の推計 本稿では、首都直下地震における地方財政負担についての推計を行うが、推計の際 に阪神・淡路大震災の被害量と財政負担の関係を分析の基礎データとすることから、 最初に阪神・淡路大震災における地方負担額の推計方法を述べる。阪神・淡路大震災 の復興財政需要については、様々な方法で推計が試みられており、例えば、安田他 (2000)では、復興財政を「インフラへの投資」、「生活・産業再建への投資」、「その 他」の大分類に分類した上でそれぞれの大分類を小分類に分け、兵庫県と大阪府及び その県府下市町村の復興関連財政支出に関する予算や決算等を用いて、各項目におけ る地方財政支出を計算している。計算の際には、国庫支出金や県支出金が2 重計算さ れないように調整を行っている。また、林(2005)が、国の当初予算や決算、及び兵 庫県と県下市町村の予算を用いて、復興財政の予算措置状況を年度別に計算している し、阪神・淡路大震災の復興事業では、「21 世紀に対応した福祉のまちづくり」等の 5 分野について、国、県、市町、復興基金、その他の復旧・復興事業費を計算している (兵庫県(2009、P 207))。このように復旧・復興事業等を様々な分野に分類した上 で震災対策に係る予算や決算を計算することが多い。 国や地方自治体が独自に定義して分類項目を設定しているが、本研究では実質的な 地方の負担を計算するために地方債の充当率等を計算することから、歳入歳出決算書 等で用いられる定義で震災関連支出を分類した。具体的には、「災害救助・応急対策」 として「災害救助費」、「災害廃棄物処理事業費」、「災害弔慰金」、「災害復旧事業」と して「公共土木施設災害復旧事業」、「農林水産業施設等災害復旧事業」、「その他の災 害復旧事業2」、「被災者支援」として「災害援護資金貸付金」、「育英奨学金」、「要保護 及び準要保護児童生徒援助」、「入学料免除(文部省)」、「授業料免除」、「受信料免除 (NHK)」、「資金調達円滑化」、「操業の早期再開支援等」を分類し、残りの復興事業 全体を「復興事業・その他」とした。したがって、阪神・淡路大震災を分析の基礎と しているため被災者生活再建支援金制度は前提とせず、震災後に設けられた同制度の 支出は復興基金による被災者生活支援金とともに復興事業・その他に含まれている。 2 その他の事業費には、文教施設等災害復旧事業、厚生施設等災害復旧事業、防衛施設の災害復旧を含むその他の災害 復旧事業、工業用水道施設災害復旧事業費、神戸港埠頭公社港湾施設災害復旧事業費、神戸港荷役機械(地方負担は神 戸市)、有料道路災害復旧事業費、各災害関連事業費を含む。
6 災害救助・応急対策、復旧事業、被災者支援の項目は主に『防災白書』の(事業費) と(国費)に対応するため、『防災白書』の決算を用いて事業全体の費用と国費負担額 を計算する。地方負担額は、事業費と国費の差から求める。なお、既存の研究には、 予算を用いた復興財政の推計が行われることがあるが、特に都道府県と市町村では復 興関連事業の予算と決算が大きく乖離することがあることから、本稿では可能な限り 決算を用いて推計を行う。国負担額は、補正を含めた予算と決算の乖離は比較的小さ い。復興事業の全体像は分かりにくいが、国負担額は当初予算や補正予算等の震災関 連経費総額から災害救助・応急対策、災害復旧事業、被災者支援の費用を除して産出 し、事業費総額は「阪神・淡路震災復興計画」の年次別復興事業費34(林(2005))と 災害救助・応急対策、災害復旧事業、被災者支援の事業費の差から求め、復興事業の 地方負担は事業費と区に負担の差から算出する。このような方法で、上記の各分類に ついて、年度別に地方負担額を計算する5。 表1.阪神・淡路大震災と首都直下地震の被害量 被害指標:単位 兵庫県 東京都(例) 首都直下地震における被害指標の計算方法 災害救助・ 応急対策 災害救助費 避難所生活者数(1ヵ月後):人 209,828 1,400,000 災害廃棄物処理事業費 震災廃棄物:万t 2,000 6,700 災害弔慰金 死者数(関連死を含めない):人 5,502 7,800 災害復旧事業 公共土木施設災害復旧事業 公共土木施設、港湾、埋立地、高速道 路 1,852,500 806,553 都道府県別の被害額は下水道、道路(一般道路と高速道路)、港湾、その他の被害額を合 計して算出する。下水道、道路、港湾の都道府県別被害額は分からないため、下水道、道 路、港湾の想定被害額に都道府県の被害割合をかけて計算する。ただし、被害割合は、下 水道の被害割合では1日目機能支障人口の(全体に占める)割合、道路は道路施設被害箇 所の割合(ただし、中小被害は0.5がけ)、港湾は被害を受ける岸壁数の割合を用いる。 農林水産業施設等災害復旧事業 農林水産関係 118,100 34,808 被害額が分からないため、「兵庫県の被害額×各都県と兵庫県の社会資本比(農業施設) ×各都県と兵庫県の全棟数(揺れ)比」で計算する。全壊棟数の比率は揺れの大きさを反映 させるために用いる。 その他 その他の公共施設(文教施設、保健医 療・福祉関係施設、上水道、鉄道) 906,500 1,857,959 上水道と鉄道は、全体の被害額に都道府県の被害割合をかけて算出する。ただし、上水道 の被害割合は断水人口の割合、鉄道は被害箇所割合(中小は0.5掛け)で計算。文教施設と 保健医療・福祉関係施設は被害額が分からないため、「兵庫県の被害額×各都県と兵庫県 の社会資本比(社会保険・社会福祉施設・学校・病院・一般行政資産のうち専売公社以外) ×各都県と兵庫県の全壊棟数(揺れ)比」で計算する。 復興事業 インフラ整備:公共土木施設(港湾を含 む)、農林水産関係、文教施設、保健 医療・福祉関係施設 生活再建:全壊棟数(火災含む)(被災 者支援と同じ) 1,922,700 4,876,265 復興事業の被害指標は中央防災会議のインフラの整備と生活再建における復興費用試算 を参考にして、社会資本と全壊棟数を元にし、阪神・淡路大震災の復旧・復興事業費のウェ イト付き平均で計算する。まず、公共土木施設(港湾を含む)、農林水産関係、文教施設、 保健医療・福祉関係施設の各項目別に「兵庫県の被害額×各都県と兵庫県の社会資本比 ×各都県と兵庫県の全壊棟数(揺れ)比」で計算する。なお、公共土木施設の社会資本は 治山・治水施設、道路(国・県道)、道路(市町村道)、港湾・空港、都市公園・自然公園・下 水道、農林水産関係は農業施設、文教施設と保健医療・福祉関係施設は社会保険・社会福 祉施設・学校・病院・一般行政資産のうち専売公社以外である。ウェイトは阪神・淡路大震災 の復旧・復興事業費の項目2と3を生活再建、4と5をインフラ整備への事業費として計算す る。 被災者支援 全壊棟数(火災含む):棟 111,039 530,000 注:災害復旧事業と復興事業の指標は被害額(百万円)。兵庫県の被害指標は、兵庫県知事公室消防防災課(1996)に基づいている。被害指標の算定で用いている 社会資本は電力中央研究所の推計値で、兵庫県は1994年、その他の都県は2005年の実質値である。 また、被害の大きさを比較して地方負担額を推計するため、阪神・淡路大震災と首 都直下地震の双方について、事業費と同様の項目に関して被害量指標を設定する。各 項目の被害量指標及び阪神・淡路大震災と首都直下地震(東京都)の推計結果は、表 1 の通りである。災害復旧事業の被害指標は被害額で、公共土木施設災害復旧事業に 3 復興事業費は、国庫支出金と県支出金の 2 重計算を考慮して計算してある。 4 復興事業費からは、民間事業者の事業費を控除する。なお、民間事業者の年次別事業費は、各分野別に年次別復興事 業費の割合を求め、それに民間事業費を乗じて求める。 5 各災害復旧事業の阪神・淡路大震災関連事業費をなるべく用いるが、阪神・淡路大震災関連事業費を分類していない 場合には、平成7 年災の値を代理変数として用いる。平成 7 年災の災害復旧事業では阪神・淡路大震災関連の事業費 が大きく、分析上大きな問題はないと考えられる。
7 は公共土木施設の他、港湾、埋立地、高速道路を含み、その他は文教施設と保健医療・ 福祉関係施設、上水道、鉄道などから構成される。復興事業では、インフラ整備の指 標として公共土木、港湾、農林水産関係、文教施設、保健医療・福祉関係施設などの 被害額6の合計を、生活再建の指標として全壊棟数を用い、ウェイト付き平均から被害 量を計算する。ウェイトは、林(2005、P.376)にある阪神・淡路大震災の復旧・復 興事業費の項目2 と 3 を生活再建、4 と 5 をインフラ整備への事業費として年度別に 計算する。 2.3 首都直下地震における地方負担の推計 2.2 節では、阪神・淡路大震災における地方負担額と被害指標の推計方法を述べた。 次に、東京都を例に首都直下地震における被害指標を計算し、阪神・淡路大震災にお ける被害量と復興財政需要額の関係から首都直下地震の地方負担額を求める方法を述 べる。なお、想定するのは、死者が約11,000 人、建物全壊棟数・火災消失棟数約 85 万棟と予想されている、M7.3、冬 18 時、風速 15m/s の東京湾北部地震である。 2.2 節と同様に、首都直下地震でも表 1 にある各被害指標の被害量を計算する。た だし、災害復旧と復興ではこれらと一致する被害額が計算されていないため、関連す る指標を用いて算出した。災害救助・応急対策の各被害指標は、中央防災会議による 「首都直下地震の被害想定」を用いている7。公共土木施設災害復旧事業の被害額は、 下水道、道路、港湾、その他公共土木施設の被害額から計算するが、都道府県別被害 額が分からない項目はそれぞれ関連する指標の被害量を用いて被害額を按分する8。農 林水産業施設等災害復旧事業の被害額について、被害想定には適当な被害指標がない ことから、兵庫県の農林水産関係被害額に2005 年の東京都と 1994 年の兵庫県の社会 資本比率9(農業施設)と、地震の被害量を考慮して東京都と兵庫県の全壊棟数(揺れ) 比率を乗じて推計する。その他の公共施設では、東京都における上水道と鉄道の被害 額を断水人口と鉄道の被害箇所から求め、文教施設と厚生施設については適当な被害 額指標がないことから、兵庫県の被害額に「社会保険・社会福祉施設・学校・病院・ 一般行政資産のうち専売公社以外」の社会資本比率と全壊棟数比率を乗じて計算する。 復興事業は、既述の通り、インフラ整備の指標である社会資本比率と生活再建に関す る指標である全壊棟数比率を用いて東京都における被害額を推計する。計算方法の詳 細は、表 1 を参照されたい。なお阪神・淡路大震災は 1994 年度末に発生したため、 6 被害指標及び被害額は、兵庫県知事公室消防防災課(1996)に基づいている。なお、被害額は兵庫県のみを対象と している。 7 首都直下地震の被害想定は、内閣府防災情報のページ ( http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/taisaku_syuto/syousai/higai_syousai.html )の各資料に記述している。 8 下水道の指標は 1 日目機能支障人口、道路は道路施設被害箇所数、港湾は被害岸壁数である。ただし、道路施設被害 箇所数の中小被害は0.5 掛けしている。 9 社会資本は電力中央研究所の推計値を用いる。
8 震災1 年目の財政需要は 1994 年と 1995 年の需要額を合計し、12/14.5(1 年と 2.5 ヶ月分になるため)を乗ずることで調整する。 各被害指標の被害量を推計した後に、兵庫県と東京都の被害量に比例して地方負担 額が増加すると仮定して、首都直下地震における東京都の負担額を計算し、各項目を 合計することで、災害救助・応急対策、災害復旧事業、復興事業、被災者支援の地方 負担額を求める10。埼玉県、千葉県、神奈川県についても、同様の方法で地方負担額 を計算する。なお、この地方負担額には、都道府県分だけではなく、市町村の負担分 も含まれている11。 2.4 その他の指標の推計 2.2 節で作成した、首都直下地震における、各都県の年度別地方負担額を用いて、首 都直下地震が地方自治体の財政運営に及ぼす影響を多面的に考察する。震災時におけ る都道府県の負担額を求めることが出来たが、震災対策に必要な財政支出のうち一部 に地方債を充当することが認められており、さらにそのうちの一部を基準財政需要に 算入することが出来る。残りが、都道府県の一般財源負担額となるが、地方自治体に とっての当面の財政支出は一般財源負担分であることから、地方債負担額と一般財源 負担額を計算して震災直後の地方財政への影響を考察する。また、震災直後は減免等 によって地方税収入が減少する一方で、復興特需によって税収が増加する等、震災に より地方税収入は大きな影響を受ける。そこで、阪神・淡路大震災時の兵庫県と大阪 府をモデルとして、首都直下地震が都道府県税収に及ぼす影響を推計し、分析する。 なお、震災による一般財源負担額と税収への影響額の推計結果を用いて、震災が4 都 県の地方交付税額に及ぼす影響も推計する。 最初に、地方債充当率の推計方法を述べる。災害救助費と災害廃棄物処理事業費に ついては、阪神・淡路大震災に係る地方財政対策により、全額災害対策債の発行が許 可されたこと(石井他(1995))から、地方負担の 100%が地方債に充当されたものと する。災害弔慰金は特に地方財政対策が実施されていないので、弔慰金については地 方債を発行しなかったものとする。一方、災害復旧事業は事業によって充当率が異な る上、補助事業と単独事業でも地方債充当率が大きく異なる。そこで、兵庫県につい て、『都道府県決算状況調』(各年度版)の災害復旧事業費の内訳から「公共土木施設、 農林水産施設等、その他」の補助事業と単独事業の地方負担分を利用して地方債充当 率を計算し、補助事業と単独事業の地方負担額をウェイトとして年度別の地方債充当 率を算出する。復興事業については、震災関連支出が大きいと思われる兵庫県と神戸 市、西宮市の年度別震災関連事業への地方債発行高を算出し、地方負担額から災害復 10 中央防災会議の復興費用推計は、基本的に同じ考え方に基づいて推計している。 11 算出にあたり、阪神・淡路大震災の被害量には大阪府は含まれていないが、地方負担には大阪府が含まれているの で、首都直下地震の被害額が大きめに推計されている可能性がある。ただし、兵庫県以外の被害は微少なので大きな影 響はないと思われる。
9 旧事業関連地方債の発行高を除した上で復興関連事業の地方債発行高を計算して、復 興事業における地方債充当率を推計する12。なお、被災者支援事業の地方債充当率は、 復興事業と同じと想定する。 このようにして算出された年度別項目別地方債充当率を、年度別項目別の各都県に おける地方負担額に乗じて地方債負担額を計算し、それらを集計して地方負担の地方 債充当額と一般財源負担額を計算する。1995 年 1 月に阪神・淡路大震災が発生したた め、1994 年度にも震災関連地方債は発行されているが、額が小さいと考えられること から、1995 年度の充当率を震災 1 年目の充当率とする。なお、地方負担額のうち地方 債に充当されない部分は一般財源負担額とする。通常、地方債を発行すると5 年後ぐ らいから元利金の償還が始まるが、本稿では震災後5 年目までしか分析の対象として いないことと、阪神・淡路大震災では平成12 年度以降の震災関連地方債について償還 期間の延長等の措置が講じられたことから、地方債の元利償還金の地方負担分を一般 財源負担額に含めなかった。また、地方債負担と一般財源負担の大きさを比較するた め、前者は2006 年の地方債残高に対する比率、後者は 2006 年の一般財源額に対する 比率を算出し、地方財政に及ぼす影響を調べている13。 また、阪神・淡路大震災における地方税収の推移を元に、首都直下地震が地方税収 に及ぼす影響を調べ、算出された地方税と一般財源負担額から普通交付税への影響も 考察する。地方税収への影響は、都道府県税及び市町村税への影響に分類し、双方の 税収への影響を合算して推計する。都道府県税については、1993 年から 1999 年まで の兵庫県における個人住民税、法人住民税、個人事業税、法人事業税、不動産取得税、 その他の税収から、1993 年を基準とした税収の推移を求める。さらに、震災による税 収変動を抽出するため、これらの税目について都道府県合計額の変動で調整した兵庫 県税収を計算する14。2007 年の東京都における各税収に兵庫県の税収の推移を乗じて、 首都直下地震における東京都の震災後税収を計算する。なお、1994 年度の末に震災が 発生したことから、1995 年度の税収を震災 1 年目として計算する。埼玉県と千葉県、 神奈川県は震災被害の大きい兵庫県とは異なる税収変動が予想されることから、阪 神・淡路大震災の被害が比較的小さかった大阪府の税収変動を用いて首都直下地震時 の税収の推移を推計する。一方、市町村税については、1993 年から 1999 年の神戸市 における個人住民税と固定資産税、その他の税収について、都道府県税と同じ計算を 行い、東京都区部における地方税への影響を計算する。なお、東京都区部の法人住民 税と固定資産税は、23 区の地方税への影響を算出する際に一緒に計算している。震災 による財政への影響が考えられる、埼玉県さいたま市及び東部と南部、千葉県千葉市 12 兵庫県の年度別震災関連事業地方債発行高は、年度別県債発行高から震災と関係ない県債発行高を除して推計した。 13 なお、地方負担額には都県だけではなく市町村も含まれることから、東京都では都と 23 区、埼玉県では県とさいた ま市、及び埼玉南部、東部の市、千葉県では県と千葉市及び西地域の市、神奈川県では県と横浜市と川崎市の地方債残 高と一般財源に対する比率を計算している。埼玉県では、5 か年計画「ゆとりとチャンスの埼玉プラン」(計画期間: 2007∼2011 年度)に用いられている 10 地域区分における南部と東部の定義を利用している。 14 兵庫県の税収は兵庫県統計資料、税収の都道府県合計額は『地方財政統計年報』(各年版)より計算している。
10 と西地域、神奈川県の横浜市と川崎市については、兵庫県西宮市の税収変動を元に、 震災による地方税収への影響を計算した。都道府県税と市町村税への影響を合算して、 4 都県における震災後地方税収を推計する。 また、地方の一般財源負担額が全額基準財政需要に算入され、地方税収のうち75% が基準財政収入に算入される15とした上で、普通交付税への影響額と普通交付税を算 出し、普通交付税総額への影響を調べる16。災害時には地方財政措置として特別交付 税の増額が実施されることがあるが、本研究では特別交付税については考慮していな い。 3.分析結果 3.1 震災関連事業の地方負担額 表2.首都直下地震における都道府県別項目別地方負担額 東京都 震災1年目 震災2年目 震災3年目 震災4年目 震災5年目 合計 総額 4,623,524 3,945,798 3,877,625 2,799,959 2,401,178 17,648,083 災害救助・応急対策 567,904 74,279 25,686 23,760 33,417 725,046 災害復旧事業 469,898 104,758 47,033 39,518 24,997 686,204 復興事業・その他 3,404,149 3,763,367 3,803,732 2,736,222 2,342,582 16,050,053 被災者支援 181,573 3,394 1,174 458 181 186,780 埼玉県 総額 407,041 313,543 307,449 224,677 195,127 1,447,836 災害救助・応急対策 76,535 8,785 3,398 5,939 8,353 103,009 災害復旧事業 37,413 6,428 2,814 2,094 1,324 50,073 復興事業・その他 269,454 297,888 301,083 216,585 185,426 1,270,437 被災者支援 23,639 442 153 60 24 24,317 千葉県 総額 782,461 554,913 542,608 392,963 340,042 2,612,987 災害救助・応急対策 102,733 11,753 4,548 7,975 11,217 138,226 災害復旧事業 167,279 17,594 7,325 3,283 2,077 197,558 復興事業・その他 474,763 524,862 530,492 381,610 326,711 2,238,437 被災者支援 37,685 704 244 95 38 38,766 神奈川県 総額 791,422 552,971 538,096 388,270 335,675 2,606,434 災害救助・応急対策 133,664 16,808 6,038 7,296 10,262 174,068 災害復旧事業 146,731 15,892 6,718 3,156 1,996 174,493 復興事業・その他 469,916 519,503 525,075 377,714 323,375 2,215,583 被災者支援 41,111 768 266 104 41 42,290 4都県合計 総額 6,604,447 5,367,225 5,265,778 3,805,869 3,272,021 24,315,341 災害救助・応急対策 880,836 111,625 39,670 44,970 63,249 1,140,350 災害復旧事業 821,321 144,672 63,889 48,051 30,394 1,108,327 復興事業・その他 4,618,283 5,105,620 5,160,382 3,712,131 3,178,095 21,774,511 被災者支援 284,007 5,308 1,837 717 284 292,152 注:単位は百万円。被災者支援には被災者生活再建支援は含まれておらず、復興基金は復 興事業・その他に含まれる。 第2 節で説明したように、本研究では阪神・淡路大震災時の地方負担額を阪神・淡 路大震災の被害額と首都直下地震で予想されている被害額を比例させて計算した。表 2 が、震災後 1 年目から 5 年目までにおける東京都と埼玉県、千葉県、神奈川県の項 15 法定外普通税や法定外目的税は基準財政需要に算入されないが、地方税全体に占める割合が小さいのでこの点は考 慮していない。 16 また、東京都及び 23 区の基準財政需要と基準財政収入には、23 区の財政調整交付金の基準財政需要と基準財政収 入を加え、23 区の個人住民税は交付税の基準財政収入として計算されるものとする。
11 目別地方負担額の推計結果である。東京都は5 年間の震災関連事業費が 17.6 兆円とか なり大きく、千葉県や神奈川県の6 倍と突出した復興財政需要があることが分かる。 なお、東京都の被害想定を元に富士総合研究所が 2001 年に試算した、東京都・区部 直下地震における地方の財政支出額10 兆 5,200 億円(火災発生時)よりも、若干大き い数字が得られている17。阪神・淡路大震災では、県と市町村、県・市町関係団体を 合算した復旧・復興事業費は約5 兆 9,700 億円(兵庫県(2009 年))であったが、本 研究から推計された4 都県の地方負担額は 24.3 兆円であり、4 倍強の地方負担が生ず ることが分かる。この額は、阪神・淡路大震災の直接被害額 9.9 兆円に対して首都直 下地震の直接被害額が66.7 兆円で、被害額が 7 倍近いことを考えるとかなり小さいが、 近年では耐震化が進んで公共施設の被害が比較的小さいことが要因と考えられる18。 また、どの団体でも、震災1 年目には災害救助・応急対策費、復旧事業の割合が高 くなり、2 年目以降は復興事業の割合が突出して高くなることが分かる。災害救助・ 応急対策においても東京都の負担額は非常に大きいが、復興事業では東京都の負担は 他の事業と比べて突出して高くなり、復興事業費が3 県の中で最も高い千葉県と比べ ても各年度7 倍以上となっている。図 1 は 4 都県の各震災関連事業項目が総事業費に 占める割合だが、4 都県とも災害救助・応急対策及び復旧事業の割合が小さい代わり に、災害復興事業が全体の85%以上となっている。図 2 は年度別の都道府県別に見た 地方負担額の推移である。震災1 年目に地方団体の財政需要がピークとなり、その後 減少することが分かる。また、東京都の地方負担額が非常に大きく、次が千葉県と神 奈川県、一番負担額が小さいのが埼玉県であることがわかる。首都直下地震被害想定 では港湾被害が 2.7 兆円と公共施設の中では比較的額が大きいが、埼玉県では港湾被 害がないためと考えられる。 17 東京都資料より。 18 例えば、首都直下地震被害想定では、高速道路の橋梁・高架橋が落橋・倒壊するなどの機能障害(大被害)をおこ すとは考えられていない。
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図1.都道府県別震災関連事業の割合
13 また、表3 は地方団体別の、2008 年決算額と比べた震災関連事業の歳出比と一般財 源比である。なお、地方負担額には都県と市区町村の負担額が含まれていたため、阪 神・淡路大震災における兵庫県と県下市町村の震災対策予算を用いて年度別に都県と 市区町村の負担額を計算し、都県の歳出額と一般財源を用いて比較を行った19。3 県の 歳出に占める震災関連支出負担割合は震災1 年目を除けば 20%を下回っているが、東 京都では震災1 年目に 67%となり、その後歳出比が 20%を越えることから、震災関連 支出が歳出に占める割合がかなり高くなると予想できる。また、一般財源比で比べる と状況はさらに深刻となり、3 県のうち千葉県は震災 1 年目から 5 年間、一般財源比 が20%を超え、他の 2 県も 5 年間は 10%を越える。東京都の一般財源比は震災 1 年目 に86%となる他、震災 5 年目まで 29%を超え、一般財源だけで震災関連事業を実施す るのは困難な水準となる。 表3.震災関連地方負担の歳出比と一般財源比 歳出比 震災1年目 震災2年目 震災3年目 震災4年目 震災5年目 東京都 0.669 0.278 0.354 0.258 0.225 埼玉県 0.257 0.096 0.123 0.091 0.080 千葉県 0.515 0.178 0.225 0.165 0.145 神奈川県 0.441 0.150 0.189 0.138 0.121 一般財源比 東京都 0.861 0.358 0.456 0.333 0.290 埼玉県 0.394 0.148 0.188 0.139 0.122 千葉県 0.859 0.296 0.376 0.275 0.241 神奈川県 0.614 0.209 0.264 0.192 0.169 注:分母は2008年の各都県における歳出と一般財源。 表4.地方負担の地方債充当額と一般財源負担額 地方債充当額 震災1年目 震災2年目 震災3年目 震災4年目 震災5年目 合計 東京都 3,515,582 2,775,134 788,332 632,913 1,334,287 9,046,248 埼玉県 316,728 220,955 63,102 53,206 110,692 764,683 千葉県 623,400 391,805 112,046 90,881 191,282 1,409,413 神奈川県 633,839 391,569 112,016 89,272 188,433 1,415,129 合計 5,089,550 3,779,463 1,075,494 866,272 1,824,694 12,635,473 一般財源負担額 東京都 1,107,942 1,170,664 3,089,293 2,167,045 1,066,891 8,601,835 埼玉県 90,312 92,588 244,347 171,471 84,435 683,153 千葉県 159,061 163,108 430,563 302,082 148,760 1,203,574 神奈川県 157,583 161,402 426,081 298,999 147,241 1,191,306 合計 1,514,897 1,587,763 4,190,284 2,939,597 1,447,327 11,679,868 注:単位は百万円。 19 林(2005)の資料を用いたが、県予算と県下市町村予算の国庫支出金と県支出金は控除されていない。
14 表5.首都直下地震後の都道府県別地方債残高比率と一般財源比率 地方債残高比率 震災1年目 震災2年目 震災3年目 震災4年目 震災5年目 累計 東京都 0.446 0.352 0.100 0.080 0.169 1.124 埼玉県 0.108 0.075 0.021 0.018 0.038 0.260 千葉県 0.170 0.107 0.031 0.025 0.052 0.384 神奈川県 0.104 0.064 0.018 0.015 0.031 0.231 一般財源比率 東京都 0.151 0.160 0.422 0.296 0.146 -埼玉県 0.056 0.058 0.153 0.107 0.053 -千葉県 0.097 0.100 0.263 0.185 0.091 -神奈川県 0.065 0.067 0.176 0.124 0.061 -注:震災関連地方債の元利償還は考慮していない。 震災関連事業では、災害救助・応急対策と復旧事業を中心に地方債の発行が認めら れ、地方自治体の一般財源負担が小さくなるように制度が整備されている。そこで、 地方負担の地方債充当額と一般財源負担額を調べ、地方債充当分を除いた一般財源に よる地方負担額を算出する。第2 節で述べたように、災害救助・応急対策では災害弔 慰金以外は地方債充当率を1 とした。災害復旧事業では補助災害復旧事業と単独災害 復旧事業で充当率は異なるが、永松(2008a)、宮崎(2009)で指摘されているように 地方債充当率は高く、公共土木施設災害復旧事業では概ね95%以上などとなっている。 復興事業の地方債充当率は最も高くても70%であり、災害復旧事業と比べて充当率は 低くなった20。表 4 は、各都県の年度別地方債充当額と一般財源負担額である。震災 後 2 年目までは地方債充当額は一般財源負担額を大幅に上回るが、3 年目以降一般財 源負担額が大幅に増加し、地方債充当額を上回ることが分かる。震災後2 年目までは、 災害救助・応急対策や復旧事業等地方債充当率が高い事業が震災関連事業の中心だが、 3 年目以降は地方債充当率が低く単独事業が中心の復興事業が主に実施されるためで ある。阪神・淡路大震災における兵庫県と被災10 市 10 町は(震災関連事業以外も含 むが)平成6 年から 16 年の 11 年間に 7 兆 3,600 億円の地方債を発行(普通会計ベー ス)しているが、首都直下地震では震災後5 年で 12 兆 4,500 億円の地方債発行が見込 まれる。表5 は、都県と市区町村の地方債残高に占める震災関連地方債発行額と、同 様に一般財源に占める震災関連一般財源の比率である。図3 は、地方債残高比率と一 般財源比率の推移である。2006 年の地方債残高に対して、東京都では震災 1 年目に 42%、震災 2 年目に 35%の地方債を発行し、5 年間で残高の 112%もの地方債を発行 することが予測される。一方、3 県については累計でも 23-39%程度の地方債発行高と なる。一般財源比率は、震災後1 年目と 2 年目はほぼ同水準だが、3 年目に大幅に増 加している。震災後2 年目までは災害救助・応急対策や災害復旧などのため財政需要 20 なお、震災が 1994 年度末に発生したため、震災 1 年目の地方債充当率は 1995 年の値としている。
15 が高いが、3 年目には復興需要の高まりによって地方負担の地方債充当率が低くなる ことが要因と考えられる。東京都の一般財源比率は震災後3 年目にピークの 42%とな り、4 年目も 30%と高水準の負担を強いられる。 表5.首都直下地震後の都道府県別地方債残高比率と一般財源比率 地方債残高比率 震災1年目 震災2年目 震災3年目 震災4年目 震災5年目 累計 東京都 0.446 0.352 0.100 0.080 0.169 1.124 埼玉県 0.108 0.075 0.021 0.018 0.038 0.260 千葉県 0.170 0.107 0.031 0.025 0.052 0.384 神奈川県 0.104 0.064 0.018 0.015 0.031 0.231 一般財源比率 東京都 0.151 0.160 0.422 0.296 0.146 -埼玉県 0.056 0.058 0.153 0.107 0.053 -千葉県 0.097 0.100 0.263 0.185 0.091 -神奈川県 0.065 0.067 0.176 0.124 0.061 -注:震災関連地方債の元利償還は考慮していない。
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17 3.2 震災が税収及び普通交付税に及ぼす影響 震災は歳出だけではなく、震災に伴う減免措置や経済の停滞、復興特需などを通じ て税収にも大きな影響を及ぼす。そこで、阪神・淡路大震災における兵庫県、神戸市 と西宮市の税収変動に基づき、首都直下地震における4 都県と都県下自治体の地方税 収の推移を推計する。第2 節で述べたように、東京都は兵庫県の税収の推移、その他 の3 県は大阪府の税収の推移を参考とし、市区においては、東京都 23 区は神戸市、そ の他の3 県は西宮市を参考として、税収の変動を求める。図 4 は、項目別に見た兵庫 県と大阪府の税収の推移である。兵庫県では 1995 年に不動産取得税や個人事業税、 個人住民税が大幅に減少しているものの、1996 年には復興特需により回復し、個人住 民税はその後 1998 年まで上昇を続けている。一方、大阪府は震災後徐々に住民税と 事業税が減少し、住民税に至っては1996 年には 1993 年に比べて 72%まで減少してい る21。なお、図4 は全国平均の変動で調整した後の値である。表 6(P19)は、首都直下 地震における地方税収(都県と被災市区)の推移を推計したもので、図5(P19)はその 推移である。都道府県については、2007 年の都道府県別項目別税収について、震災後 兵庫県或いは大阪府と同様に税収が変動すると仮定して推計し、被災市区は神戸市或 いは西宮市に基づいて推計した22。震災の 1 年目に税収が大きく減少するが、特に東 京都は震災前の 86%と大きく減少し、翌年には復興特需で回復するものの震災前の 95%までしか回復しない。また、震災 5 年目には 3 県は震災前の水準近くまで回復す るが、東京都は震災前の94%と回復が難しい。 21 大阪府については、住民税と事業税の内訳、及び不動産取得税のデータが入手できなかったことから、住民税、事 業税、その他に分類して算出した。 22 東京都の市町村税における法人住民税と固定資産税は、23 区の税収として計算した。
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図4.震災後の兵庫県と大阪府の税収の推移
19 図5.首都直下地震の 4 都県の税収の推移 注:震災前を100 とする。 表6.首都直下地震後の都道府県別地方税額 東京都 震災前 震災1年目 震災2年目 震災3年目 震災4年目 震災5年目 地方税 6,163,823 5,306,214 5,881,746 5,829,620 5,886,420 5,814,227 都県税 3,367,485 3,072,972 3,366,865 3,248,564 3,242,099 3,195,119 市町村税 2,796,338 2,233,242 2,514,880 2,581,056 2,644,322 2,619,108 埼玉県 地方税 1,363,945 1,276,791 1,301,245 1,301,136 1,354,385 1,362,848 都県税 867,379 868,894 860,455 837,077 878,082 890,015 市町村税 496,566 407,897 440,790 464,059 476,303 472,834 千葉県 地方税 1,432,613 1,320,156 1,354,624 1,364,496 1,419,045 1,424,830 都県税 784,015 786,347 780,113 758,820 796,559 807,009 市町村税 648,598 533,809 574,511 605,676 622,486 617,821 神奈川県 地方税 2,294,318 2,096,810 2,146,369 2,158,962 2,226,697 2,244,062 都県税 1,281,172 1,267,936 1,247,799 1,212,961 1,255,298 1,279,840 市町村税 1,013,147 828,874 898,570 946,000 971,399 964,222 注:単位は百万円。震災前は2007年の値。東京都は兵庫県と神戸市、その他の3県は大阪府 と西宮市の項目別地方税収から推計。 これまでの試算から首都直下地震時の震災関連事業一般財源負担額と地方税収変動 額を求めることが出来たことから、基準財政需要と基準財政収入への影響額及び普通 交付税への影響を推計する23。第 2 節で述べたように、地方の一般財源負担は全額都 県と被災市区の基準財政需要に算入され、震災による地方税影響額は75%の算入率で 23 基準は 2007 年である。
20 基準財政収入に算入されるとし、基準財政需要と基準財政収入から普通交付税を算出 する。なお、各自治体の基準財政需要と基準財政収入から交付税への影響額を計算し ているわけではないので、推計には誤差が生じる点に注意が必要である。表7 は各都 県の経過年別基準財政需要、基準財政収入、普通交付税額である。また、図6(P21)は 震災前を100 としたときの普通交付税の推移で、図 7(P21)は普通交付税額の推移であ る。表7 より、震災後東京都の基準財政需要は大幅に増加し、基準財政収入が減少し ていることから、普通交付税交付額が大きく増加しており、震災後3 年目には震災前 と比べて17 倍以上になっている。一方、他の 3 県も震災後基準財政需要が増加してい るが、東京都ほどの大きな影響はない。なお、図6 にあるように、神奈川県は川崎市 が不交付団体であること等から普通交付税額が小さいため、震災後の増加率は震災前 と比べて 6210 倍にもなっている。図 7 は震災後の普通交付税額だが、震災前には団 体間の格差はそれほど大きくないものの、震災後東京都の交付税額が大幅上昇してい ることが分かる。表8(P21)は、震災の普通交付税増加額と震災後の 2007 年の普通交 付税総額に対する交付税影響額の割合である。震災3 年目には 4.64 兆円もの追加的な 普通交付税が必要となり、交付税総額に占める割合も32.5%に達する。震災 1 年目か ら5 年目までは交付税比率が 10%を超えており、この期間地方交付税制度を維持する のは困難を極めるものと考えられる。なお、震災後5 年で、普通交付税交付額は総計 14.1 兆円にも上ることが分かる。 表7.首都直下地震後の都道府県別基準財政需要、基準財政収入及び普通交付税 東京都 震災前 震災1年目 震災2年目 震災3年目 震災4年目 震災5年目 基準財政需要 3,614,813 4,722,755 4,785,477 6,704,106 5,781,859 4,681,704 基準財政収入 3,408,787 2,765,581 3,197,229 3,158,135 3,200,736 3,146,590 普通交付税 206,026 1,957,174 1,588,247 3,545,971 2,581,123 1,535,114 埼玉県 基準財政需要 1,214,637 1,304,949 1,307,225 1,458,984 1,386,108 1,299,072 基準財政収入 1,045,137 979,771 998,112 998,030 1,037,967 1,044,315 普通交付税 169,500 325,178 309,113 460,954 348,140 254,757 千葉県 基準財政需要 1,209,880 1,368,940 1,372,988 1,640,442 1,511,962 1,358,640 基準財政収入 1,100,569 1,016,226 1,042,077 1,049,481 1,090,393 1,094,732 普通交付税 109,311 352,714 330,911 590,961 421,569 263,908 神奈川県 基準財政需要 1,716,523 1,874,106 1,877,925 2,142,604 2,015,522 1,863,764 基準財政収入 1,707,864 1,559,733 1,596,902 1,606,347 1,657,148 1,670,172 普通交付税 8,659 314,373 281,024 536,257 358,374 193,593 注:単位は百万円。震災前は2007年の値。
21 表8.普通交付税総額への影響 震災1年目 震災2年目 震災3年目 震災4年目 震災5年目 合計 普通交付税増加額 2,455,943 2,015,799 4,640,648 3,215,711 1,753,876 14,081,977 交付税比率 0.1719 0.1411 0.3247 0.2250 0.1227 -注:単位は百万円。交付税比率は、普通交付税総額(道府県と市町村)に対する、震災の普 通交付税影響額。 図6.震災後の普通交付税の推移 図7.震災後普通交付税額
22 3.3 推計結果の評価 3.2 節まで、首都直下地震における地方財政負担を復旧復興財政需要と震災の税収へ の影響及び普通交付税への影響の両面から検討してきた。本節では、本研究の推計結 果を過去の震災や首都直下地震の事業費に関する既存の研究と比較することで、本稿 の推計結果の妥当性について検討してみたい。 まず、死者・行方不明者が10 万 5,000 人、全壊・焼失棟数が 57 万 5,000 棟という 未曾有の被害をもたらした関東大震災では、被害額が182.3 兆円(現在価値に換算)、 復興財政の規模は20.6 兆円(現在価値に換算)と推計されている(内閣府(2008))。 復興財政の規模は当初40 億円(当時)とも言われていたが、当時の厳しい財政状況に よって結局6 億円(当時)にまで減額され、復興事業は必要最低限に絞られた。また、 阪神・淡路大震災(死者・行方不明者が6,437 人、全壊・焼失棟数が 19 万 5,144 棟) では、直接被害額は9.9 兆円(兵庫県のみ)、復興復旧財政規模は国、地方及び民間事 業者を合わせて16.3 兆円と推計されている。 一方、本稿で想定している首都直下地震では死者・行方不明者11,000 人で、経済被 害は全壊・焼失棟数が85 万棟、直接被害額が 66.7 兆円と想定されている。本稿では、 首都直下地震の地方負担額を推計したが、阪神・淡路大震災の総事業費と地方負担額 の関係を用いて年度別に総事業費を推計して合計し、さらに震災後6-10 年の事業費を 求めて首都直下地震の復旧復興事業費を求めた。事業費は55.8 兆円と推計され、関東 大震災の被害額は首都直下地震の3 倍弱であるが、復旧復興事業費は首都直下地震が 2.7 倍となっており、関東大震災と比べると復興財政の規模が大きいことが分かる。ま た、首都直下地震の直接被害額は阪神・淡路大震災の6 倍以上であるが、復興財政規 模は阪神・淡路大震災の 3.4 倍程度であり、震災規模と比較して復興財政規模は小さ いといえる。 また、首都直下地震及びそれに類した震災の財政規模を推計した研究があることか ら、既存の研究と本稿の推計結果を比較する。国土庁(1986)は南関東大地震からの 復旧復興について、公共部門の復興投資額の総計(国及び地方を含む)は現在の経済 規模ではおよそ30-40 兆円と推計している。また、永松・林(2006)の推計方法に従 って計算すると、首都直下地震の震災関連事業総額は61.2 兆円と推計される。本稿の 推計結果は国土庁(1996)の推計結果よりも大きいが、永松・林(2006)に基づく推 計値よりも若干小さい。したがって、本稿の推計結果は他の首都直下地震級震災にお ける復興財政と比べて、特別異常な結果ではないと言えるだろう。 3.4 分析の拡張 3.2 節では、地方税収が東京都と 23 区ではそれぞれ兵庫県と神戸市、その他の 3 県 と県下自治体では大阪府と西宮市と同じように変動すると仮定して、首都直下地震に
23 おける基準財政収入と普通交付税への影響額を推計した。しかし、震災が税収に及ぼ す影響は阪神・淡路大震災と首都直下地震で異なる可能性があり、また経済構造など が異なるため税収の変動パターンも兵庫県、大阪府、神戸市、西宮市が必ずしも良い 指標となるわけではない。そこで、地方税収が阪神・淡路大震災の変動パターンより も10%減少した場合についても、同様の検証を行った。 表 9.首都直下地震後の都道府県別基準財政需要、基準財政収入及び普通交付税:地 方税が10%減少のケース 東京都 震災前 震災1年目 震災2年目 震災3年目 震災4年目 震災5年目 基準財政需要 3,614,813 4,722,755 4,785,477 6,704,106 5,781,859 4,681,704 基準財政収入 3,408,787 2,367,615 2,756,099 2,720,914 2,759,254 2,710,523 普通交付税 206,026 2,355,140 2,029,378 3,983,193 3,022,605 1,971,181 埼玉県 基準財政需要 1,214,637 1,304,949 1,307,225 1,458,984 1,386,108 1,299,072 基準財政収入 1,045,137 884,012 900,519 900,445 936,388 942,101 普通交付税 169,500 420,937 406,706 558,539 449,719 356,971 千葉県 基準財政需要 1,209,880 1,368,940 1,372,988 1,640,442 1,511,962 1,358,640 基準財政収入 1,100,569 917,214 940,480 947,144 983,964 987,869 普通交付税 109,311 451,726 432,508 693,298 527,998 370,770 神奈川県 基準財政需要 1,716,523 1,874,106 1,877,925 2,142,604 2,015,522 1,863,764 基準財政収入 1,707,864 1,402,472 1,435,924 1,444,424 1,490,145 1,501,867 普通交付税 8,659 471,634 442,001 698,179 525,376 361,897 注:単位は百万円。震災前は2007年の値。 表10.普通交付税総額への影響:地方税が 10%減少のケース 震災1年目 震災2年目 震災3年目 震災4年目 震災5年目 合計 普通交付税増加額 3,205,941 2,817,098 5,439,714 4,032,202 2,567,323 18,062,278 交付税比率 0.2243 0.1971 0.3807 0.2822 0.1797 -注:単位は百万円。交付税比率は、普通交付税総額(道府県と市町村)に対する、震災の普 通交付税影響額。 表9 が、地方税収が 10%減少したと仮定したケースの、基準財政需要と基準財政収 入、普通交付税である。基準財政需要は表7 と同じだが、表 7 と比べて基準財政収入 は減少し、普通交付税は上昇していることが分かる。特に、震災1 年目の普通交付税 額は、東京都で1.2 倍、埼玉県で 1.3 倍、千葉県で 1.3 倍、神奈川県で 1.5 倍と軒並み 1.2 倍以上増加している。東京都では、震災 3 年目の普通交付税額が 4 兆円にも達す ることが分かる。表10 は普通交付税への影響だが、普通交付税総額が 5 年間で 18.1 兆円にも達し、表8 と比べると 1.28 倍も交付額が増加していることが分かる。普通交
24 付税総額に占める震災関連交付額の割合は、震災1 年目から 4 年目まで 20%を超える 上、震災3 年目には 38%にも達し、震災関連の交付税が財政に及ぼす影響は非常に大 きくなる。 また、2007 年 7 月の新潟県中越沖地震では株式会社リケンの柏崎工場が被災し、ピ ストンリングの生産が停止したが、リケンは国内シェアの5 割を占めていたため、国 内の自動車メーカー全社が一時的に生産停止するという事態が発生した。リケンは各 取引先自動車メーカーの支援を仰ぎ、いち早く復旧がなされ、2 週間後には生産ライ ンは完全に回復した。このようにサプライヤーとメーカーは相互補完関係にあり、一 方が震災被害によって生産停止すると他方の生産にも影響が及ぶことが知られている 24。リケンは取引先企業の協力によりいち早く復旧できたが、再建が遅れて一度受注 を受けられなくなると、受注が戻ってこないということも指摘されており、中小企業 はネットワークを活用して一時的に仕事を回すなど協力体制をとることもある25。こ のように、一度特別な技術を持つ地場産業が甚大な被害を受けると、震災後工場や企 業が戻ってこず、速やかな復興や産業再建が難しくなる。
24 Blanchard and Kremer (1997) は旧共産圏諸国では多くの企業が 1 つのサプライヤーに依存していたため、経済体 制の移行に伴って企業間の関係がうまくいかなくなると、生産の連鎖によって生産が急激に下降することを指摘してい る。
25 図8.首都直下地震後の都道府県別地方税額:法人関連税減少のケース 注:震災前を100 としている。 表11.首都直下地震後の都道府県別基準財政需要、基準財政収入及び普通交付税:法 人関連税減少のケース 東京都 震災前 震災1年目 震災2年目 震災3年目 震災4年目 震災5年目 基準財政需要 3,614,813 4,722,755 4,785,477 6,704,106 5,781,859 4,681,704 基準財政収入 3,408,787 2,591,974 2,998,989 2,970,117 3,015,374 2,959,837 普通交付税 206,026 2,130,781 1,786,487 3,733,989 2,766,484 1,721,867 埼玉県 基準財政需要 1,214,637 1,304,949 1,307,225 1,458,984 1,386,108 1,299,072 基準財政収入 1,045,137 960,420 978,210 978,654 1,019,947 1,025,294 普通交付税 169,500 344,529 329,015 480,330 366,161 273,778 千葉県 基準財政需要 1,209,880 1,368,940 1,372,988 1,640,442 1,511,962 1,358,640 基準財政収入 1,100,569 997,669 1,022,976 1,030,759 1,072,820 1,076,272 普通交付税 109,311 371,271 350,012 609,683 439,142 282,368 神奈川県 基準財政需要 1,716,523 1,874,106 1,877,925 2,142,604 2,015,522 1,863,764 基準財政収入 1,707,864 1,525,068 1,561,180 1,571,417 1,624,477 1,635,796 普通交付税 8,659 349,037 316,745 571,187 391,045 227,968 注:単位は百万円。震災前は2007年の値。
26 表12.普通交付税総額への影響:法人関連税減少のケース 震災1年目 震災2年目 震災3年目 震災4年目 震災5年目 合計 普通交付税増加額 2,702,122 2,288,764 4,901,694 3,469,336 2,012,485 15,374,401 交付税比率 0.1891 0.1602 0.3430 0.2428 0.1408 -注:単位は百万円。交付税比率は、普通交付税総額(道府県と市町村)に対する、震災の普 通交付税影響額。 首都直下地震の震災被害が大きいと予測されている荒川沿いや環 6、環 7 沿いには 古い工場などが密集していることから、密集工場地域が被災し、復興が遅れる可能性 を考慮して、首都直下地震が地方財政に及ぼす影響を再度考察する。具体的には、阪 神・淡路大震災のケースよりも事業税と法人住民税が10%減少したと仮定して、地方 税収及び普通交付税に及ぼす影響を調べる。図8 は法人関連税が減少したケースの 4 都県と都県下自治体の税収だが、東京都は法人関連税収の割合が高いため、図5 と比 較して、税収の減少幅が相対的に大きい。表11 は法人関連税が減少した場合の都県別 基準財政需要と基準財政収入、普通交付税だが、震災1 年目には表 7 のケースと比べ て普通交付税交付額が1.05-1.11 倍となっており、東京都では震災 3 年目に 3.7 兆円の 交付が推計された。表12 は震災関連事業に関する普通交付税増加額の推移だが、震災 1 年目から 4 年目まで普通交付税総額に対して増加額が 15%を超えており、この期間 の普通交付税負担はかなり大きくなることが分かる。また、5 年間の震災関連普通交 付税は、15.4 兆円と 15 兆円を超えることになる。 表13.普通交付税への影響:3 県の税収を兵庫県の変動で近似 震災前 震災1年目 震災2年目 震災3年目 震災4年目 震災5年目 合計 東京都 206,026 1,957,174 1,588,247 3,545,971 2,581,123 1,535,114 -埼玉県 169,500 374,047 312,662 447,276 357,196 293,045 -千葉県 109,311 388,867 330,789 573,800 424,633 292,578 -神奈川県 8,659 381,051 269,030 503,068 345,230 226,333 -総額への影響 普通交付税増加額 2,607,644 2,007,233 4,576,620 3,214,686 1,853,575 14,259,757 交付税比率 0.1825 0.1405 0.3203 0.2250 0.1297 -注:単位は百万円。交付税比率は、普通交付税総額(道府県と市町村)に対する、震災の普通交付税影響額。 本稿では3 県の税収が大阪府と同様の推移をすると仮定して分析していたが、大阪府の 震災被害は兵庫県に比べると小さいため、税収への影響を捉えていない可能性がある。そ こで、3 県の税収が兵庫県の税収で近似できると仮定した推計も行った。表 13 が推計結果 だが、表7 と比べると各県別では普通交付税額が震災 1 年目から増加していることが分か
27 る。しかし、普通交付税増加額の総額では東京都の影響が大きいため、表 8 の総額 14.1 兆円に対して増加額が14.3 兆円となり、総額に大きな影響を及ぼすことはないと考えられ る。 4.結論 中央防災会議による首都直下地震(東京湾北部地震)の被害想定では、M7.3 で冬 18 時、風速 15m/s のケースで死者数約 11,000 人、建物全壊棟数・火災焼失棟数約 85 万棟の被害規模が予測されている。近年、日本で発生した数少ない都市型震災である 阪神・淡路大震災では直接被害額9.9 兆円に対して、復旧・復興事業費は総計 16.3 兆 円であることが分かっているが、一方で未曾有の大震災である首都直下地震でも多大 な復旧復興関連の財政需要が生じることが指摘されている。政府や自治体、研究者が 首都直下地震時の直接被害額から公的部門や民間部門の復興需要や復興資金需要、復 興財政規模などを推計しているが、震災関連事業の地方負担額を団体別に推計してい る研究はほとんど存在しない。そこで、本稿では、阪神・淡路大震災の被害額と復興 財政をもとに、首都直下地震における東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県の震災関連 事業負担額とその地方財政への影響額を推計した。 推計の結果、次のことが明らかになった。第1 に、首都直下地震による震災関連事 業における地方負担額は 24.3 兆円だが、そのうち地方債充当額が 12.6 兆円で一般財 源負担額が11.7 兆円となる。さらに、地方税収の減少を考慮すると、震災による普通 交付税増加額は14.1 兆円に達する。第 2 に、首都直下地震における復旧・復興事業費 負担は、特に東京都において大きい。東京都と都下被災市町村の震災関連事業負担額 は5 年間で 17.6 兆円にものぼり、地方債発行高は 9 兆円、一般財源負担額は 8.6 兆円 にもなる。なお、税収の減少による影響もあり、普通交付税額は震災後3 年目には震 災前の17 倍にもなる。第 3 に、首都直下地震では特に震災後 3 年目、4 年目に地方財 政と地方交付税への負担が大きくなる。震災後1 年目に震災関連事業の地方負担額が 多大となるが、災害救助・応急対策や復旧事業の割合が高いため地方負担が地方債に 充当される。一方、復興事業が主となる3 年目以降は一般財源負担割合が高まり、地 方財政及び普通交付税への負担が高まる。また、簡単な推計によると、本稿の推計で は首都直下地震の事業総額は10 年で 55.7 兆円となるが、この結果は永松・林(2006) 等の既存の研究による事業規模推計値と比べて妥当な値であると考えられる。 なお、本研究はなるべく精度の高い復興財政の推計を試みたが、データの制約等か ら分析の限界がある。まず、首都直下地震の被害額を推計する際に阪神・淡路大震災の 被害額と震災関連事業費の関係を適用しているが、阪神地区と首都圏で経済構造などが異 なることから必ずしも阪神・淡路大震災の関係が適用できるわけではないだろう。また、 復興事業を中心に、首都直下地震の被害額が不明な場合は社会資本比率や全壊棟数比を用
28 いて推計している。さらに、首都直下地震における東京都の税収の変動は兵庫県と神戸市、 他の3 県の税収は大阪府と西宮市と同じであると仮定している。このように、地方財政デ ータの制約や阪神・淡路大震災の経験のみを参照していることから、本研究で得られた結 果には限界があることを留意する必要があるだろう。より精度の高い推計については、今 後の課題としたい。 また、本稿は地方財政への影響の分析が中心なので明示的に取り扱わなかったが、首都 直下地震に伴う政府の負担には地震保険や被災者生活再建支援金の支払いもある。地震保 険金は2009 年時点で政府責任準備金の残高は約 2.1 兆円だったが、政府は最大 5.5 兆円 の支払い責任があり、生活再建支援制度では首都直下地震における支払額は約3.6 兆円に 達するという試算もある26。そのため、こうした政府の財政負担も考慮しておく必要があ るだろう。さらに、首都直下地震による首都機能への甚大な被害が、為替レートや金利、 株式、物価等日本経済全体に影響を及ぼす可能性があるし、阪神・淡路大震災では大きな 混乱はなかったようだが、モラトリアム等の発令が金融システムに及ぼす影響も懸念され る。本稿では阪神・淡路大震災の経験をもとに財政負担を推計しているため、こうした首 都直下地震に特有の重要な論点には対処できていないという問題もある。これらも、今後 の課題としたい。 26 平成 19 年被災者生活再建支援法改正作業時の試算の例である。