理学療法学 第 41 巻第 8 号 706 はじめに 熱,音波,電気,光などの物理的刺激を生体に応用して種々 の症状を改善する物理療法は,理学療法士にとって重要な治療 介入法のひとつである。最近,関節炎に対する物理療法の基礎 研究領域では種々の結果が示されはじめている。またそのエビ デンスに基づいて,ヒトに対する新たな臨床応用が開始されは じめている。 以下に変形性関節症などの関節炎に対するいくつかの物理的 刺激について,文献や診療ガイドライン等に触れながら紹介 する。 超音波パルス療法 関節炎に対する超音波パルス療法は現在注目されている物理 療法のひとつであり,肩関節周囲炎急性期1)や変形性膝関節 症2)3)に対する報告などがある。 前者の肩関節周囲炎急性期への適用に関する報告では,患者 12 名を超音波群 6 名と対象群 6 名の 2 群に分け,超音波群に は周波数 1.0 MHz,出力 0.5 W/cm2,時間率 20%,時間 10 分 間の条件で週 3 回,パルス超音波療法を 2 週間照射している。 この研究では,超音波群は対照群に比べ棘上筋腱厚,夜間時痛, 関節可動域が有意に改善したと報告している1)。これは,パル ス超音波療法は関節炎患者の炎症過程の治癒反応促進・鎮痛に 効果があることを示唆している。 後者の変形性関節症への適応では,滑膜炎および関節水腫が 強くみられる初期変形性膝関節症患者に対し,周波数 1.0 MHz, 出力 0.5 W/cm2,時間率 20%,照射時間 10 分間の条件で,週 3 回,4 週間,合計 12 回のパルス超音波療法を実施している2)。 その結果,超音波療法によって滑膜炎と関節水腫,疼痛,関 節可動域,筋力および JKOM は改善したと述べられている2)。 この研究は,パルス超音波には,滑膜炎および関節水腫が強く みられる患者の消炎鎮痛に効果があることを示唆している。 超音波パルス療法では,異なる強度や周波数,パルス幅等々 で超音波を適用することがあるのでそれらに注意を払う必要が ある。関節炎ではないが,骨折治療において使用されるよう になった超音波療法のうち,一般に,超音波強度 0.15 W/cm2, 周波数 1.5 MHz,繰り返し周波数 1.0 kHz,パルス幅 200 μ 秒, 照射時間 20 分の条件で用いられるものは低出力超音波パルス 療法(low-intensity pulsed ultrasound:以下,LIPUS)と呼ば れている3‒5)。この LIPUS には,細胞レベルにおける機械的 刺激による効果があると考えられている。すなわち骨折治癒過 程において,骨芽細胞や軟骨細胞等に対し,おもにその細胞分 化を刺激することで骨膜性骨化や内軟骨性骨化を促進させると いわれている3)。上述の報告1)2)では超音波強度や周波数が LIPUS とは少し異なるが,LIPUS と同様に細胞レベルにおけ る機械的刺激による効果によるものであろう。 この LIPUS は非侵襲的で簡便であるため臨床では大きな利 点があり,今後その応用が広がっていくことが期待されてい る3)。たとえば変形性関節症への応用が挙げられる。変形性関 節症は関節軟骨の基質成分が破壊される病気であり,この基質 成分を合成する重要な役割を果たしているのは軟骨細胞であ る。主要な基質成分はⅡ型コラーゲンとアグリカン(プロテオ グリカン)である。変形性関節症ではこの軟骨細胞による基質 合成機能が低下している。その理由のひとつは,関節症の炎症 によって生じた炎症性サイトカインと呼ばれる物質,たとえば IL-1 や TNF-α などが,基質成分を破壊する軟骨破壊因子(マ トリックスメタロプロテアーゼ:以下,MMP)などを産生す るからである。LIPUS によってこの MMP 産生が抑制される のであれば,変形性関節症にとっては軟骨破壊を抑制すること になるので軟骨保護作用が期待できることになる。 ここで LIPUS 関節軟骨や軟骨細胞に照射した基礎研究6)7), たとえば LIPUS 照射はモルモット膝関節軟骨の MMP13 産 生を抑制したという報告や6),家兎変形性関節症モデルの MMP13 産生を抑制したという報告7),ラット培養軟骨細胞 に対する LIPUS の即時的効果を様々な強度で検討した報告8) などがある。このうち LIPUS の即時的効果の研究では8),変 形性関節症の擬似病態を惹起させるため 100 pg/ml 濃度のイ ンターロイキン -1β を添加した軟骨細胞に対し,0,7.5,30, 120 mW/cm2強度で 20 分間の LIPUS 刺激を行い遺伝子発現解 析したところ,軟骨破壊因子である MMP13 の mRNA 発現は 理学療法学 第 41 巻第 8 号 706 ∼ 708 頁(2014 年)
関節に対する物理的刺激を用いたリハビリテーション
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─基礎研究の視点から─
黒 木 裕 士
**物理療法研究部会
*Rehabilitation for Joints Using Mechanical Stimuli from the Stand Point of Basic Research
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京都大学大学院医学研究科運動機能解析学分野 教授 (〒 606‒8507 京都市左京区聖護院川原町 53)
Hiroshi Kuroki, PhD, PT: Department of Motor Function Analysis, Graduate School of Medicine, Kyoto University
キーワード:変形性関節症,物理的刺激,基礎研究 Japanese Physical Therapy Association
関節に対する物理的刺激を用いたリハビリテーション 707 LIPUS 刺激強度依存性に抑制されたと述べている8)。これら の研究はいずれも軟骨破壊に作用する MMP の産生や mRNA 発現を抑制するという報告なので6‒8),LIPUS を変形性関節症 に応用すると関節軟骨保護効果が期待できるのではないかと考 える。適応は,たとえば関節炎症が強い時期に歩行などの関節 荷重を強いる運動は少なくして安静を保ちながら,その一方で LIPUS を使う等のケースが想定される。 ちなみに日本理学療法士協会の理学療法診療ガイドライン 1 版(2011)の「5.変形性膝関節症」では,超音波療法は推奨 グレード A(行うように勧められる強い科学的根拠がある), エビデンスレベル 1(システマティック・レビューまたは RCT のメタアナリシス)に分類されている9)。 温泉療法拡大の可能性 温泉地が多い我が国では温泉療法は以前から使用されている 治療法であるが,最近,Spa therapy や Balneotherapy と呼ば れる温泉療法が世界的に注目されはじめている。 たとえば変形性膝関節症 382 名を 3 週間の温泉療法を行う温 泉療法群(195 名)と,それを行わない対照群(187 名)とに 分けて比較研究を行った結果,温泉療法群は対照群に比べ疼痛 の改善を認めたという報告がある10)。また変形性膝関節症 52 名を温泉水使用群(27 名)と水道水使用群(25 名)に分け, 両群ともに 1 回 20 分の入浴を週 5 回,2 週間実施した研究では, 12 週後に疼痛,50 m 歩行速度,大腿四頭筋筋力,膝屈曲角度 などを比較している11)。その結果,温泉水使用群ではすべて の評価項目において改善を認め,一方,水道水使用群では大腿 四頭筋筋力を除く項目において改善を認めたという11)。した がってこれは,温泉水でなくても通常の入浴で効果が期待でき るという報告である。 これらの温泉療法は日本理学療法士協会の理学療法診療ガイ ドライン 1 版(2011)の「5.変形性膝関節症」では推奨グレー ド A,エビデンスレベル 2(1 つ以上のランダム化比較試験に よる)に分類されている9)。 これらの温泉や水道水を用いる温浴では温度設定が重要であ る。変形性関節症では熱ショック蛋白の産生は温度と関係があ ると報告されており12)13),また,温度によって軟骨基質合成 力に差が生じる可能性があることが報告されている14)からで ある。 この温度比較に関する基礎研究では14),ブタ関節軟骨から 採取した軟骨細胞をペレット培養と呼ばれる培養法で 32 °C, 37 °C および 41 °C で培養したところ,32 ∼ 37 °C での温度刺 激によってⅡ型コラーゲン等の合成力が高まると示唆してい る14)。ただしヒトの細胞を使用していないこと等の理由から, 今後さらなる研究が必要であると思われる。 電気刺激 最近,変形性膝関節症の骨格筋を経皮的に電気刺激すると 筋力改善と膝機能改善の効果が得られるという報告がある15)。 その一方で,経皮的電気刺激を加えても効果があるわけではな いという報告も存在する16)。また家兎実験では,長期にわた り電気刺激して反復した膝関節荷重が行われると軟骨変性と軟 骨細胞死が増えるとも述べられている17)。したがって電気刺 激についてはまだ一定の見解が得られていないといってよいで あろう。 変形性膝関節症の診療ガイドライン
OARSI(Osteoarthritis Research Society International) は 2007 年,2008 年,2010 年および 2014 年18)に診療ガイドライ ンを発表している。最新の 2014 年ガイドラインによると超音 波治療も経皮的電気刺激も効果がある治療とは認められてい ない18)。温泉療法では,合併症がある多関節の関節炎患者に は有効だと定めている18)。こうした厳しい判定となる背景と しては,超音波治療も温泉療法も経皮的電気刺激も,システマ ティック・レビューまたは RCT が少なすぎて OARSI の診療 ガイドライン委員会が判断できなかったためであろう。した がって今後,関節に対する物理的刺激を行うリハビリテーショ ンでは,多数の RCT を可能な限り多施設共同で実施すること が必要であると考える。 おわりに 以上,関節炎や関節軟骨,軟骨細胞などに対する物理的刺激 などを中心として述べてきたが,熱,音波,電気,光など種々 の物理的手段を生体に応用する物理療法は,生体に対し,神経 や筋,その他の臓器,細胞の各機能に影響を与え制御すること はあきらかである。 物理療法領域ではまだその科学的根拠を十分に示していない と思われるので,今後は多くの臨床研究および基礎研究を行う 必要があるであろう。特に臨床研究では RCT を増やす必要が あると考える。それにより,今後,国内外の診療ガイドライン が見直され,効果ある治療としての物理療法の位置づけが確立 するものと信じている。 文 献 1) 大矢暢久,富田知也,他:急性期肩関節周囲炎患者に対するパ ルス超音波療法の非温熱効果の検討.理学療法学.2013; 40(2): 114‒115. 2) 大矢暢久,富田知也,他:変形性膝関節症の膝の疼痛に対するパ ルス超音波療法を実施した一症例の検討 超音波評価装置を用い た病態評価に基づいて.理学療法科学.2012; 27(5): 603‒608. 3) 神宮司誠也:創外固定法の基礎と臨床 最新の話題 低出力超 音 波 パ ル ス に よ る 仮 骨 形 成 促 進. 整 形・ 災 害 外 科.2002; 45(4): 311‒314.
4) Azuma Y, Ito M, et al.: Low-intensity pulsed ultrasound accelerates rat femoral fracture healing by acting on the various cellular reactions in the fracture callus. J Bone Miner Res. 2001; 16(4): 671‒680.
5) Kristiansen TK, Ryaby JP, et al.: Accelerated healing of distal radial fractures with the use of specifi c, low-intensity ultrasound. A multicenter, prospective, randomized, double-blind, placebo-controlled study. J Bone Joint Surg Am. 1997; 79(7): 961‒973. 6) Gurkan I, Ranganathan A, et al.: Modifi cation of osteoarthritis in
the guinea pig with pulsed low-intensity ultrasound treatment. Osteoarthritis Cartilage. 2010; 18(5): 724‒733.
7) Li X1, Li J, et al.: Effect of low-intensity pulsed ultrasound on MMP-13 and MAPKs signaling pathway in rabbit knee osteoarthritis. Cell Biochem Biophys. 2011; 61(2): 427‒434. 8) 伊藤明良,青山朋樹,他:低出力超音波パルス療法が関節軟骨代
謝に与える即時的影響 異なる刺激強度を用いた研究.理学療法 学.2012; 39(5): 307‒313.
9) 日本理学療法協会:「理学療法診療ガイドライン第 1 版(2011)」 Japanese Physical Therapy Association
理学療法学 第 41 巻第 8 号 708
に つ い て.http://www.japanpt.or.jp/academics/establishment_ guideline2011/(2014 年 5 月 31 日引用)
10) Forestier R, Desfour H, et al.: Spa therapy in the treatment of knee osteoarthritis: a large randomised multicentre trial. Ann Rheum Dis. 2010; 69(4): 660‒665.
11) Yurtkuran M, Yurtkuran M, et al.: Balneotherapy and tap water therapy in the treatment of knee osteoarthritis. Rheumatol Int. 2006; 27(1): 19‒27.
12) Kubo T, Towle CA, et al.: Stress-induced proteins in chondrocytes from patients with osteoarthritis. Arthritis Rheum. 1985; 28(10): 1140‒1145.
13) Arai Y, Kubo T, et al.: Control of delivered gene expression in chondrocytes using heat shock protein 70B promoter. J Rheumatol. 1999; 26(8): 1769‒1774.
14) Ito A, Aoyama T, et al.: Optimum temperature for extracellular matrix production by articular chondrocytes. Int J Hyperthermia.
2014; 30(2): 96‒101.
15) Pietrosimone BG, Saliba SA, et al.: Effects of transcutaneous electrical nerve stimulation and therapeutic exercise on quadriceps activation in people with tibiofemoral osteoarthritis. J Orthop Sports Phys Ther. 2011; 41(1): 4‒12.
16) Palmer S, Domaille M, et al.: Transcutaneous electrical nerve stimulation as an adjunct to education and exercise for knee osteoarthritis: a randomized controlled trial. Arthritis Care Res (Hoboken). 2014; 66(3): 387‒394.
17) Horisberger M, Fortuna R, et al.: Long-term repetitive mechanical loading of the knee joint by in vivo muscle stimulation accelerates cartilage degeneration and increases chondrocyte death in a rabbit model. Clin Biomech (Bristol, Avon). 2013; 28(5): 536‒543. 18) McAlindon TE, Bannuru RR, et al.: OARSI guidelines for the
non-surgical management of knee osteoarthritis. Osteoarthritis Cartilage. 2014; 22(3): 363‒388.
Japanese Physical Therapy Association