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病期別にみた脳卒中片麻痺者の歩行改善に向けて

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Academic year: 2021

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理学療法学 第 41 巻第 8 号 562 はじめに  脳卒中治療ガイドライン 20091)では,座位・立位,装具を 用いた歩行練習といった内容で,できるだけ早期からの積極的 リハビリテーションを行うこと,また,理学療法診療ガイドラ イン・脳卒中2)では,早期理学療法,早期歩行練習,装具療 法がグレード A で推奨されている。早期からのリハビリテー ションは,廃用症候群を予防し,早期の ADL 向上と社会復帰 を図ることが目標になるが,その中でも,“できる”“できない” だけでなく,質の部分について考える必要がある。動きの手順 を覚えるよりも,動ける体をつくっていくこと,力学的にも, 脳にとっても負担が少なく,その患者さんにとって努力の少な い,もっとも効率的な動きを求めること,そのことが歩行の改 善につながっていくと考える。 当院における患者動向  当院は脳卒中の専門病院として,病院全体が stroke unit と いう形で,2000(平成 12)年に開設した。現在は,頸部・腰 部の手術が主体の脊椎・脊髄センターが加わり,脳卒中セン ターと合わせ,300 床の診療体制となっている。SCU が 12 床, ICU が 6 床,回復期が 102 床あり,救急で入院してからリハビ リを行い社会復帰までを一貫して担う病院完結型の形をとって いる。救急入院した脳卒中患者に対するリハビリテーションの 実施にあたっては,PT・OT 各 2 名が急性期診療担当としてリ ハオーダー当日からの開始を担っている。  図 1 に示すように,平成 24 年度の当院における救急から入 院となった脳卒中患者 743 人のうち,約 6 割の 414 人にリハビ リテーションが実施され,その内 30 日以内に退院となった患 者は 46%と半数近くに上る。また,リハ実施患者の約 25%, およそ 100 人の患者は,引き続き当院の回復期リハ病棟へ転棟 している。743 人の中には死亡例や重度な障害となった患者も 含まれてはいるが,このように軽症例も多く,脳卒中で救急搬 送されたすべての人が,片麻痺を呈し歩行困難というわけでは ない。 歩行の神経機構  歩行のシステムを考えるうえで,概念的に脳神経系を制御系 として,筋・骨格系を構造系として考える3)。脳神経系に於い て,発動系として大脳皮質・大脳辺縁系があり,大脳皮質は 「意思や意図」により歩行の開始と停止,正確な位置に足を置 く,障害物をのりこえるなど,大脳辺縁系は「快−不快の情動」 により,瞬時に危険を察知して逃避する歩行,脳の高次脳を必 ずしも必要としないステレオタイプの運動パターンなどに関与 する。調整系としては,適切さの大脳基底核,正確性にかかわ る小脳がある。これらの実行系として脳幹−脊髄(投射)系が ある。実行系は「姿勢を維持すること」「歩行リズムを生成す ること」に関与し,これには脊髄 central pattern generators (以下,CPGs)がある。  CPGs の活用に関して,スイス連邦工科大学で脊髄損傷(以 下,脊損)の研究をしている神経科学者,Grégoire Courtine 氏の脊損ラットの歩行トレーニングの概念モデルがある4)。 ラットの脊髄を T7・T10 のレベルでそれぞれ半切し,完全麻 痺の状態となったラットを段階的にトレーニングして歩かせて いる。脳卒中片麻痺者では,脳の損傷はあるが脊髄レベルの損 傷はない。それ故,脊損ラットのモデルではあるが,皮質下の 機能の賦活や,免荷式トレッドミル歩行トレーニング(Body-Weight Supported Treadmill Training:以下,BWSTT)の活 用など,脳卒中者の歩行を考えるうえでも非常に参考になるた めここで紹介する。  損傷部より下位の休眠状態にある脊髄に,興奮性薬物を注入 し,電気刺激を加える。その状態で,あらゆる方向の制御と免 荷の調節が可能なロボットで上半身を吊り下げて,上体をアッ プライトに保っている状態にすると,下肢は伸展し,立ってい ることが可能になる。この状態でトレッドミルを動かすとラッ トは歩きだす。但し,トレッドミルを止めれば,下肢の動きも 止まってしまう。このような受動的な練習だけでは,CPGs の 賦活と反射的な歩行は促せても,随意的な部分の回復はみられ ないため,次に免荷した状態で床の上をロボットでアシストし ながら前進させる。前方では動くためのモチベーションとして, 理学療法士がチョコレートを使っている。その次の段階では, 理学療法学 第 41 巻第 8 号 562 ∼ 566 頁(2014 年)

病期別にみた脳卒中片麻痺者の歩行改善に向けて

─急性期から─

斎 藤   均

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神経理学療法研究部会

Towards the Improvement of Walking Stroke Hemiplegia Who Have Seen in Another Stage Separately Disease: From Acute Phase

**

横浜市立脳血管医療センターリハビリテーション部 (〒 235‒0012 神奈川県横浜市磯子区滝頭 1‒2‒1)

Hitoshi Saito, PT: Yokohama Brain and Stroke center, Department of Rehabilitation

キーワード:脳卒中,歩行,急性期

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病期別にみた脳卒中片麻痺者の歩行改善に向けて 563 ロボットによる前方への動きの誘導なしに,モチベーションに 誘導されラットが自ら前に歩きだす。さらには,階段,障害物 をのりこえる,より随意的な歩行へと進めていく。この随意的 な動きができるようになったラットは,剖検により皮質との繋 がりが認められている。一方で受動的なトレッドミルのトレー ニングだけでは,皮質との繋がりは獲得されていなかった。  このように,まずは脊髄レベルの歩行神経回路を賦活してい くことからアプローチし,アシストしながら随意的な歩行の獲 得をすすめ,最終的には“障害物をのりこえる”といった環境 の中で適応的に動くことを実現してくという段階的なプログラ ムは,片麻痺者の歩行練習を考えるうえでも,非常に参考にな ると考える。 歩行改善のために  歩行は,いったん開始されると四肢の動きを意識することは ない。CPGs は,大脳皮質や脳幹からの入力と,荷重の情報・ 股関節伸展といった末梢からの感覚フィードバックによって, 働きが調整されている。CPGs を駆動・維持する末梢からの感 覚フィードバックを得るためには,非麻痺側下肢を一歩踏みだ すことを可能にする強い麻痺側下肢が必要である。そのために は,二足直立で立てることが求められる。そのうえで,体幹直 立を保ったまま重心を動かせるための姿勢制御が必要となり, これには両上肢(肩甲帯)の参加も不可欠である。  立位における矢状面での姿勢運動戦略5)は,研究では外乱 に対する reactive なバランス反応で,身体運動を介して重心を 安定な位置に回復する戦略を示すが,臨床場面では,足関節戦 略で二足直立位が取れることが大切となる。股関節戦略は,早 い応答,棒の上など前後に狭い支持面での外乱に対する応答 として,重心を動かさずに体の形を変えて,重心線の前後に 重さを振り分けてバランスを回復する戦略で,足部の base of support(以下,BOS)の中で足圧中心の移動は少ない。この 動きでは,足を前にだすことと,臀部を後ろに引くことを釣り 合わせているため,降りだした足は戻ってくることになり,前 に進まない。そして支持脚は股関節屈曲となり,立脚期で下腿 前傾は見られないといった動きにならざるを得ない。一方でヒ トの歩行におけるロッカーファンクションでは,足部を支点に 逆振り子,アンクルロッカーで重心を前に運ぶ機能を本来もっ ているが,これには体幹直立が保たれていることが前提とな る。足関節戦略は,足関節の動きで踵からつま先までの BOS の中で重心が動く体幹直立のままバランスをとる戦略で,この 姿勢戦略を可能にすることが歩行へと繋がっていく。足関節戦 略は片麻痺者では足関節背屈・底屈の可動性・運動性の問題に より,非常に難しい課題だが,これをトレーニングし,少しで も最適な状態になるようにセラピストが関わることが求められ る。これらのことを実現するために,急性期の臥位・座位・立 位や,その姿勢変換のプロセスにおいても,姿勢制御に配慮し た運動を経験し学習していく必要がある。 急性期の取り組み  急性期脳卒中の捉え方としては,まず,画像所見から運動麻 痺を予測し,臨床所見と乖離がないか評価を行いながら,離床 を進めていく。急性期ではじめに獲得した動きは,それがベー スとなり,日常のなにげない動きの中で,その後,何回も繰り 返されるため,非対称な動き,代償的な動きはなるべく避ける ように介入していく。脳内の連絡がある部位では,互いが興奮 性にも抑制性にも影響を及ぼすので,非麻痺側を使うことは脳 の興奮性を高めるが,損傷された側の脳の興奮性を抑制してし まうことがある。脳の興奮性のバランスを考え,非麻痺側の強 制使用・麻痺側の不使用の学習にならないように,ペナンブラ 領域・脳浮腫・機能乖離の改善といった神経学的な自然回復 による機能回復を妨げないように介入していくことが重要で ある。  具体的な考え方として,柵を引っぱる・引きこむ,上肢でバ ランスをとるといった非麻痺側の手からはじまる非対称性な動 図 1 当院における脳卒中救急患者動向(平成 24 年度)

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理学療法学 第 41 巻第 8 号 564 きを,症例の潜在能力を見ながらコントロールしていく。また, “麻痺”を学習しないように,手・足部の末梢の随意性を最大 限引きだすことが求められる。末梢が動かないと,患者自身は, 動かないという感覚が強化され,それが中枢部が先に動きはじ めるパターンにつながり,やがて,その動きが繰り返されるよ うになっていくことは,臨床上よく観察される。片麻痺患者は, 突然の発症により,身体片側からの情報が失われ,思うように 動けないことで自分の姿勢がどういう状態かわからなくなって いる。身体図式は,姿勢制御における基本的な枠組みを提供し ているため,皮膚,筋,関節などからの様々な感覚入力により 身体図式を再建していくことが大切である。麻痺側・非麻痺側 ではなくひとつの身体として捉え,動くための基盤となり,絶 えず更新されている身体の地図が最適な状態になるように固有 感覚をしっかりと入れていく必要がある。  次に急性期での運動療法の実際を述べる。安静臥床を強いら れる時期から,姿勢制御に配慮して介入する。背臥位で左右対 称的な姿勢にしていくが,その際には,下肢側から見たときに, 左右対称な立位姿勢を想定する。このためには,麻痺側肩甲帯, 上肢が BOS になっていること,骨盤が中間位にあることが重 要で,必要に応じて適宜,麻痺側をタオル等でポジショニング する。背臥位の姿勢から,麻痺側下肢を膝立て位にし,足底を ベッドにつけ,“地に足がついている”感覚を入力する。この 状態から臀部挙上などを通じて,非麻痺側の過剰な活動をコン トロールしながら,麻痺側股関節周囲筋の活動を促す。また, 左右の寝返り,起き上がりを通じて,骨盤の動きや,正中を経 験してもらう。座位姿勢は,左右対称で,体幹が直立であり, そこから骨盤を動かすことができ,両足底がついた姿勢が望ま しい。24 時間の中で,セラピストが関われる時間はわずかな ので,車椅子での食事の際には,両足が床面についていること なども,他職種と協力しながら進めている。起立着座は,手す りを引く動作で立つのではなく,骨盤の前後傾と,足関節背屈 を伴った,麻痺側の踵がついた対称的な動作が望ましい(図 2)。 急性期/早期の実際の現場では,全身状態,ルート類など様々 な制約により歩行練習を進めていくのが困難な場合が多い。起 立着座の動作の中には歩行に必要な動きの要素が多くあるた め,上述の動きをアシストしながら,歩行に必要な強い麻痺側 下肢をトレーニングにより獲得していく。麻痺があっても反射 的な活動から下肢の筋活動を促していくことは可能であり,反 射的な筋活動から,さらには,抗重力筋の持続的な筋活動を促 していくことを常に念頭において取り組む必要がある。立位 は,膝の伸展を意識しなくても立っていられること,そして前 述したように股関節戦略による立位ではなく,足関節戦略によ る二足直立位を促していき,ここから,ステップ練習,歩行へ とつなげていく。  先に脊損ラットのトレーニングモデルでも示したが,損傷さ れていない皮質下のシステムを賦活していくことが,重要とな る。動きの手順を覚えるのではなく,動ける体をつくっていく こと,実行系である皮質下の機能,それを実現する構造である 筋骨格系の弱化している部分を賦活していくことが必要で,こ の動くための基盤がしっかりとしていないと,手順,動きのバ リエーションも少なくなる。これらのことを実現するために, hands on でセラピストが手で触れて,on line で筋収縮を確認 しながら,筋活動を促していく。患者一人ひとり,病態や,病 前の機能は異なるため,個別に,テーラーメイドの介入が求め られる。急性期からの,これらの取り組みのすべてが,歩行の 改善につながると考えている。 図 2  起立着座:抗重力伸展の座位から,①体前傾:足背屈,膝が前に(下腿前傾),体幹 の直立,股関節での屈曲,②離殿:骨盤前傾,踵接地,足圧中心は踵→足部前方⇔ 後方,③鉛直方向への伸展,骨盤は前傾から後傾へ,④重心は高く,骨盤は中間位, 足関節戦略による二足直立位.ここから抗重力伸展活動を保ったまま,遠心性の筋 活動により着座へ.

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病期別にみた脳卒中片麻痺者の歩行改善に向けて 565 補装具の使用  臨床場面で,弾性包帯やスポーツタイツを使用することもよ いアイデアである(図 3)。急性期の緊張を失って重力方向に 垂れ下っている筋肉・筋膜に対して弾性包帯を使用すると,下 肢の剛性感や動きの感覚が得られやすくなることを経験する。 弛緩した下肢では,脛腓関節,足関節は弛緩し,足部のアーチ はつぶれ,荷重をしても足部の剛性がないため床反力を得られ 難い状態となっている。また関節が緩んでいることで筋の起始 停止の位置関係が変化し筋緊張も得られず,腱反射も出現しに くい状態となっていることがしばしば観察される。装具を装着 しても,装具の中でこのような状態となっていては,荷重の感 覚や筋活動も得られにくい。図 3 の左の患者は,視床出血で感 覚・運動ともどちらも重度な障害があり,長下肢装具で立位を とっても,足が着いていないといわれていたが,下腿に弾性包 帯を巻いたうえで,長下肢装具で立位をとったところ,足が地 面に着いているのがわかるとの発言が聞かれた。  急性期の脳の可塑的変化が著しい時期に装具を使用する場合 には,装具を装着しないと歩けないという状態を目標にするの ではなく,下肢の支持性を補い,荷重の情報を伝える,セラピ ストの第 3 の手として患者の下肢機能の改善を求めていくこと を目的に使用するべきである。急性期の支持性の弱い下肢で歩 図 3 弾性包帯の使用 弛緩した筋肉をまとめるように,弾性包帯,スポーツタイツなどを使用する ことにより,構造的な安定化が得られ,また筋を圧縮・圧搾することで運動 感覚が得られやすい. 図 4 底屈制動機構の長下肢装具の使用

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理学療法学 第 41 巻第 8 号 566 行練習を行う際,近年,底屈制動機構付き長下肢装具の有効性 を報告したものが散見される。底屈制動機構付き長下肢装具 は有効な装具ではあるが,装着すればよいというのではなく, 使用する側のスキルも必要である(図 4)。特に,体幹の直立, 股関節の伸展を促すように介入することはもっとも重要であ る。さらに三次元動作解析装置で見ると,床反力ベクトルと関 節の位置関係も大切で,荷重応答期に床反力ベクトルが股関節 に対し後方を通るような関係になると,股関節伸展筋力が働 かず,患者が自分自身の力で支える練習になりにくい(図 5)。 臨床場面では,装具の中で,下肢のアライメントが保たれてい るか,目的の筋活動は促されているか,実際に患者に触れて, 検証していくことを大切にしてほしい。 ま と め  脳は使用依存性に可塑的に変化(use-dependent plasticity) していく。はじめに経験したことは,その後,何回も繰り返さ れることを重ねて強調したい。それゆえ急性期の関わりは,回 復期,維持期への基盤として,非常に重要である。 文  献 1) 日本脳卒中学会ホームページ 脳卒中治療ガイドライン 2009. http://www.jsts.gr.jp/jss08.html(2014 年 7 月 31 日引用) 2) 公益社団法人日本理学療法士協会ホームページ 理学療法診療 ガ イ ド ラ イ ン 第 1 版(2011) 脳 卒 中.http://www.japanpt.or.jp/ academics/establishment_guideline2011/(2014 年 7 月 31 日引用) 3) 土屋和雄,高草木薫,他:移動知.オーム社,東京,2010,pp. 1‒4.

4) Van den Brand R, Heutschi J, et al.: Restoring voluntary control of locomotion after paralyzing spinal cord injury. Science. 2012; 336: 1182‒1185.

5) Shumway-cook A, Woollacott MH: Motor Control. 4th ed, Lippincott Williams & Willkins, Philadelphia, 2012, pp. 167‒180.

図 5 底屈制動機構付き長下肢装具

足関節が底屈しないと,荷重応答期に足部が股関節より前方に位置するアラ イメントになりえない=股関節伸展筋の活動を促せない.

図 5 底屈制動機構付き長下肢装具

参照

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