• 検索結果がありません。

ハイパースキャニングを用いたコミュニケーションの神経基盤の検討

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "ハイパースキャニングを用いたコミュニケーションの神経基盤の検討"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.39.16

ハイパースキャニングを用いたコミュニケーションの神経基盤の検討

小 池 耕 彦

自然科学研究機構生理学研究所システム脳科学研究領域

Hyperscanning to reveal the neural basis of communication

Takahiko Koike

Department of System Neuroscience, National Institute for Physiological Sciences, National Institute of Natural Sciences Hyperscanning is a brand-new research method that aims to reveal the neural basis of communication by mea-suring the brain activity of two participants simultaneously during communication. The method is characterized by the calculation of correlation of brain activity between the two participants. This research method is occasionally met with the reaction that it is unscientific or not meaningful. In the present paper, we will explain the significance of the hyperscanning study and the mechanism behind the emergence of inter-brain neural correlation. We also in-troduce author's previous hyperscanning fMRI studies.

Keywords: Hyperscanning, inter-brain neural correlation, social neuroscience, communication, fMRI 1. は じ め に

ヒトの社会能力の神経基盤に迫る社会神経科学の研究 分野は,「心の理論 (Theory of Mind; ToM)」 と呼ばれる他 者の心を類推する能力 (Koster-Hale & Saxe, 2013) の神経 基盤の検討など,個人の社会能力をターゲットとした研 究を中心として進んできた(Frith & Frith, 2006; Schilbach et al., 2013)。しかしヒトの社会能力の基盤となるコミュ ニケーションは個人だけではなしえず,自分と同様に情 報を処理する他個体が存在し,情報を相互に交換できて 初めて成立する。このことを鑑み,コミュニケーション の神経基盤を解明するためには,実際に他者と情報を相 互交換している最中の脳活動を検討するべきだという立 場の研究が現れた(Schilbach et al., 2013)。この種の相互 作用を対象とした脳機能イメージング研究の中でも最も 極端な考え方が,ハイパースキャニング (Hyperscanning) といえよう。ハイパースキャニングでは,二者(もしく はそれ以上 (Dikker et al., 2017; Xie et al., 2019))の参加者 に実際にコミュニケーションをさせ,その最中の脳活動

を能的磁気共鳴現象画像法 (functional magnetic resonance imaging; fMRI),脳波(electroencephalogram; EEG),脳磁 図(magnetoencephalogram; MEG),機能的近赤外分光法 (functional near-infrared spectroscopy; fNIRS)などを用い て二者から同時に記録し,参加者をまたいだ脳活動相関 を議論する(Konvalinka & Roepstorff, 2012; Koike, Tanabe, & Sadato, 2015; Minagawa, Xu, & Morimoto, 2018)。近年で はこの方法を用いて,実験動物を対象とした電気生理実 験もおこなわれている (Zhang & Yartsev, 2019)。ハイパー スキャニングの研究内容を聞いた際に,読者が最も怪し さを感じるのは,「脳活動の二者間相関を計算する」と いう解析手法であろう。本論文ではハイパースキャニン グについて理解を深めてもらうため,なぜそれが必要な のか,二者間での脳活動相関が何を表象していると考え られるのかを概観した後に,筆者らの研究を紹介する。 2. なぜハイパースキャニングが必要なのか 筆者が知る限りで最初のハイパースキャニングは,双子 の間での脳波の同期を検討することで「虫の知らせ」的 な現象を解明しようとしたScienceの論文である(Duane & Behrendt, 1965)。遠く離れた二者がどのように繋がれ るかという部分が置き去りになっているため,かなりオ カルトな雰囲気を感じる。しかし見方を変えると,他人 の状態を理解できることの原因を,自分の脳の状態が他 Copyright 2020. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. Corresponding address: Department of System

Neurosci-ence, National Institute for Physiological Sciences, National Institute of Natural Sciences, 38 Nishigonaka, Myodaiji, Okazaki, Aichi, 444–8585, Japan. E-mail: tkoike@ nips.ac.jp

(2)

人と同一になることに求めるという点では,相手の行動 をシミュレーションするミラーニューロン(Iacoboni & Dapretto, 2006) などと近い考え方のようにもみえる。その 後ハイパースキャニングは忘れ去られていたが,半世紀 ほどを経て,経済学の実験との組み合わせでよみがえっ た(Montague, 2002)。その後は,社会神経科学の分野に 広く取り入れられて,今に至る。Montague以降の研究者 は (筆者の知る限り),脳と脳が何らかの超自然的な方法 で情報をやりとりしていると信じているわけではないし, それを示唆する結果もない。たとえば,筆者らはみつめ あい中の脳活動を記録し,右中側頭回,右下前頭回およ び島皮質において脳活動の二者間相関が観察されること を報告した(Koike et al., 2016; Koike, Sumiya, Nakagawa, Okazaki, & Sadato, 2019a)。しかし実験参加者が「みつめ あっている」と信じていても,画面に映っているパート ナーの顔が過去の顔映像である場合には,二者間の脳活 動相関は存在しなかった (Koike et al., 2016, 2019a)。この 結果は,みつめあい中に二者間の脳活動相関が発生する 原因は,虫の知らせや以心伝心といった摩訶不思議な力 ではなく,実際に「見た」「見られた」という情報の相 互交換であることを示す。これをより一般化すれば,二 者間の脳活動相関は,パートナーの行動を観察してそれ に基づいて自分の行動を起こし,パートナーが自分の行 動を観察した結果として次の行動をするという,個人間 をまたいだ知覚–運動ループによって生起すると考えられ る (Noy, Dekel, & Alon, 2011; Froese, Iizuka, & Ikegami, 2013)。 そうであれば,従来の通り,社会的場面において他者に 向けて行動する際の脳活動を,もしくは他者の行動を観 察する際の脳活動を,1台の脳機能イメージング装置で記 録解析するだけで十分なのではないだろうか(Schilbach et al., 2013)。筆者は,以下のような幾つかの点で,ハイ パースキャニングにはアドバンテージがあると考えてい る。 2.1  相互作用を伴うコミュニケーションの神経基盤を 解明する コミュニケーションとは,言語情報や非言語情報を介 して知識や感情や思考を相互に伝達する行為である。そ の場において我々が表出する行動は他者に知覚されるこ とを意図しており,また我々が知覚する他者の行動には 必ず何らかの意図が付随している。つまり,コミュニ ケーションは個人に閉じた行動や知覚には還元できず, 相対する他者の存在を考慮に入れなければならないこと を示す。会話を例にとって考えてみよう。会話は発話者 と聴取者の間で起こるターン制のコミュニケーションで あり,発話者から聴取者へと一方向性に情報が流れるプ ロセスを,役割を入れ替えながら交互に繰り返している ように見える。これが正しければ,会話の神経基盤は (1) 画面に向かって発話をする際の脳活動,そして (2) 相 手の発話を聴取する際の脳活動へと還元した実験により 解明できる。しかし実際の会話は,もう少し複雑である。 筆者らは,面白いネタを喋って相手を笑わせる大喜利課 題中の脳活動をMRI装置で記録し,自分の発話に対する 相手の反応(社会的随伴性)の影響を検討した(Sumiya et al., 2017, 2020)。その結果,自分の行動が相手の反応 を引き起こした場合に特異的な脳活動パタンがあること (Sumiya et al., 2017),またコミュニケーションを不得手 とする自閉症者ではそれが見られないことを明らかにし た(Sumiya et al., 2020)。この結果は,会話のような明ら かにターン制のコミュニケーションであっても,「発話 する」「相手の反応を聴取する」という独立のプロセス に還元できず,それぞれのプロセス間には相互作用が存 在することを示唆している。これは,二者が相互作用し ている最中の脳活動を記録解析するという,ハイパース キャニングの方法論を支持する。しかし相互作用に特異 的な脳活動が存在することは,二者から同時に脳活動を 記録解析する必要性を必ずしも支持しないことに注意す る必要がある。相互作用中の二者のうち片側の参加者の 脳活動を記録するだけでも,相互作用に特異的な脳活動 は描出可能である(Redcay et al., 2010)。 2.2 二者間脳活動相関を用いた神経基盤の描出 ハイパースキャニングを最も特徴づけるのは,脳活動 の二者間相関を計算することである。なぜ二者間脳活動 相関を計算するのか? 繰り返しとなるが,ハイパース キャニングでは,個人の脳が体を動かして社会的なキュー を作り出し,そのキューが他者の脳活動を変化させると いう,行動を介した知覚–運動ループの存在が仮定され

ている (Noy et al., 2011; Froese et al., 2013)。この仮定の下 では,二人は相互に運動と知覚を介して結びつき,情報 を共有して協力するという目的を達成するための 「我々」 というメタなシステムを作っていると考えられる (Gallotti & Frith, 2013; Koike et al., 2015)。このメタなシステムの背 後にある神経基盤を理解しようとするときに,その一構 成要素に過ぎない個人の脳だけでなく,要素の関係性, すなわち二者間の脳活動相関に注目するのは自然である。 システムの基盤を知るために,複数の構成要素の関連性

に着目する必要性は, fMRI研究で主に用いられてきた機

能的結合解析(Biswal, Yetkin, Haughton, & Hyde, 1995)で も明らかになっている。機能的結合性解析では,実験条

(3)

件と対照条件を比較してある単一領域の脳活動が有意に 増加することではなく,条件間で複数領域の活動パタン の位相差(相関)が変化することを指標として,実験条 件の背後にある神経基盤を描出する。この方法は,単一 領域の脳活動量というパラメータの検討から領域間での 脳活動相関というハイパーパラメータの検討へとパラダ イムシフトを起こした。脳内の領域間と個人間という差 異はあるものの,構成要素の関係性にのみ埋め込まれた 情報があるという事実は,二者間の脳活動相関を検討す ることでコミュニケーションの神経基盤を理解しようと するハイパースキャニングの有用性を支持するものだと いえよう。ただし,二者間の脳活動相関は機能的結合と は異なり,脳活動とは全く異なる特性を持つ行動を媒介 としていることに注意しておく必要がある。行動がどの ように二者間脳活動相関を媒介するかについては,今後 のさらなる研究が必要である。 3. 被験者間の脳活動相関の発生機序 ハイパースキャニングの最大の特徴は二者間脳活動相 関を計算可能な点にある。二者間脳活動相関を引き起こ すメカニズムは多岐にわたる(Frith & Hasson, 2016)。そ のため,ある実験で二者間脳活動相関がみられたとして も,その解釈には注意が必要である。以下では二者間脳 活動相関の発生機序を,例を挙げながら説明する。 3.1 共通入力による同期 二者間での脳活動相関が生まれる1つ目の原因は,二 者への共通入力である。この種の脳活動相関を示した研 究で最も有名なのは,Hassonらの研究である(Hasson, Nir, Levy, Fuhrmann, & Malach, 2004)。実験参加者達はMRI 装置内で,映画「続・夕陽のガンマン」をそれぞれ個別 に視聴した。解析では,参加者群の中からランダムに 2人を選び出し,二者の相同な位置に対応するボクセル (データ点)間で脳活動の時間相関を計算した。この手 続きにより,脳のどの位置において活動の時間変動が他 者のそれとよく相関しているのかを示すデータが得られ る。この実験では,皆が同じ映画を視聴していた。つま り全員が共通する入力を受け取っていたわけだから,例 えば顔関連領域では,映画で顔が出たり消えたりするの に合わせて脳活動が上下動することが予想される。つま り顔が共通入力として与えられることにより,顔領域の 被験者間相関は高くなることが予想される。解析の結果, 高い二者間脳活動相関を示す領域には顔関連領域が含ま れ,映画で顔があらわれるタイミングで,特に相関は高 くなっていた。共通入力によるこの脳活動相関は,実験 条件から明らかなとおり,コミュニケーションとは何ら の関係がない(Frith & Hasson, 2016)。しかしコミュニ ケーション課題においても,二者間脳活動相関に共通入 力が与える影響は多い。たとえばドラムを叩いてリズミ カルに相手と相互作用するような課題の場合は,課題自 体がリズミカルな脳活動を引き起こし,二者間相関とし て観 察 さ れ る 可 能 性 は あ る(Konvalinka, Vuust, Roep-storff, & Frith, 2010; Novembre, Knoblich, Dunne, & Keller, 2017)。明らかに共通入力が二者間脳活動相関の原因と なりうるような課題を用いる場合は,これら先行研究と 同様に,適切な対照条件を準備する必要があるだろう。

3.2 一方向性の情報の流れによる脳活動の同期

2つ目の原因は,二者間での一方向性での情報の流れ である(Frith & Hasson, 2016)。テレビを見ている場合を 想像してみよう。出演者の脳活動はその行動を介して, 視聴者の脳活動,ひいてはその行動に影響を与えうる。 すなわち出演者と視聴者の脳活動には,有意な相関が発 生しうる。視聴者の行動が出演者に影響を与えることは あり得ないから,この場合の行動および脳活動相関は, 一方向性の情報の流れによるものと結論できる。自然な 会話場面を考えてみると,発話者も自分の発話内容が聴 取者にどのように受け取られたかを観察しながら行動を 変容させており,発話者から聴取者への流れがすべてで はない(Sumiya et al., 2017)。とはいえ,会話は情報の出 し手と受け手が比較的はっきりと分かれており,二者間 の情報の流れの大部分は発話者から聴取者の一方向であ ることも事実である。そこでそれら比較的に小さな要素 を捨象してしまい,一方向性の流れにのみ着目した研究 をすることも可能である(Schippers, Roebroeck, Renken, Nanetti, & Keysers, 2010; Liu et al., 2017)。このように割り 切ってしまえば,二台のデバイスが不要なこと,相関解 析だけでなく因果性解析を利用可能なこと,結果の解釈 が容易なことなど,多くのメリットもある。コミュニ ケーションを構成する相互の情報交換のうち一方向性の 情報の流れのみに着目した実験を計画する手法は疑似 ハイパースキャニング(Pseudo hyperscanning)と呼ばれ ており(Liu et al., 2018),会話のみならず,知識の伝達

(Zadbood, Chen, Leong, Norman, & Hasson, 2017)などの 神経基盤を明らかにするのに寄与している。

3.3 相互作用による同期

3つ目が,主にハイパースキャニングのターゲットと なる,二者間での相互作用による同期である(Frith & Hasson, 2016)。コミュニケーション場面にいる二者はそ

(4)

れぞれ,行動を介して情報を送り出す,または知覚を介 して他者から情報を受け取る能力を持っており,相互に 情報を入出力することで自他が繋がり,メタなシステム を構成していると考えられる (Noy et al., 2011; Froese et al., 2013; Koike et al., 2015)。相互作用による二個体の同期現 象は非常に興味深いものであるが,二者を繋いだプロセ スを同定することは,極めて困難であることに注意する 必要がある。たとえば会話は,発話者から聴取者へと一 方向性に情報が流れる過程 (Schippers et al., 2010; Liu et al., 2017),発話者が聴取者の反応を伺うプロセス(Sumiya et al., 2017),会話により知識が転移したことによる影響 (Zadbood et al., 2017),聴取者が微表情や姿勢などの非言 語キューによる反応を発話者に返すプロセスなど,情報 の再帰性に関連した複雑なプロセスが二者の脳活動相関 に影響しているだろう。前出の自然な場面における会話 を例にとれば,たとえば実験条件を「相互に情報が流れ うる自然な会話」とし,対照条件として「発話者は聴取 者の反応を知ることができない,一方向に情報が流れる 条件」として,その差分をとることで「相互作用性がど のように,会話中の行動や脳活動,および脳活動相関に 影響を与えるか」を検討することができそうである。し かしこの実験では,「発話者は,情報の流れが一方向で あることを知っている」ことが二者間の同期の低減に効 いている可能性はあり,脳活動や行動の相関の変化が相 互作用性の欠如に拠るのか,相互作用性が欠如している と知っていること4 4 4 4 4 4 4 に拠るのかは不明である。相互作用の 神経基盤をハイパースキャニングで解明するには,相当 に巧妙な実験計画が求められ,それをもってしても確定 的なことをあまり多くは言えない。「とりあえずデータ をとってから考えよう」は全く通用しないことに注意し てほしい。 4. ハイパースキャニングの実際: fMRIを用いて 著者らは,二台の MRI装置を利用してHyperscanning fMRI実験をおこなっている。fMRIとは,磁気共鳴現象 を利用して血液中に存在する酸化・還元ヘモグロビンに よって発生する磁場不均一性を計測することで,神経活 動由来の血流変化を代理変数として脳活動を計測する方 法である(宮内・星・菅野・栗城,2016)。基本的には 1台のMRIで一人の脳活動のみが計測可能であり,物理 的な接触や実際の対面を伴うコミュニケーションをする ことは困難なこと(例外は存在する; Renvall, Kauramäki, Malinen, Hari, & Nummenmaa, 2020)),装置が比較的高額 であることなど,ハイパースキャンをするうえでのデメ リットはあるものの,ミリメートル単位で全脳の活動を 記録できるという大きなメリットがある。筆者らは,二 台の MRIをオーディオビデオ系で接続したハイパース キャニングMRIにより,画面越しではあるが,対面コ ミュニケーションの神経基盤を検討している。 4.1 注意共有の神経基盤 4.1.1 アイコンタクト(相互注視)の神経基盤(Koike et al., 2019a) 互いに視線を向けあう行動(アイコンタ クト,相互注視)は,「私はあなたに注意を向けている」 という情報を二者が共有する行動であり,二項関係の注 意共有である(Tomasello, Carpenter, Call, Behne, & Moll, 2005)。我々は,アイコンタクトを特徴づけるのは,視 線を介した情報がリアルタイムで相互に交換されうる状 態であると考え,その神経基盤を解明するの研究をおこ なった。実験参加者は同性のパートナーとペアを組み, ハイパースキャニングMRI 装置に入った。参加者は, 装置内のスクリーン上にリアルタイムで映されるパート ナーの顔映像を見つめるように教示された(アイコンタ クト条件)が,実際には実験全体の半分では20秒前の 顔映像が映し出されており,情報の相互作用は起こり得 ないようになっていた(遅延条件)。これら2条件での 脳活動を比較したところ,アイコンタクト条件では小脳 と前部帯状回の脳活動,また前部帯状回と右島皮質の結 合が増強されていることが明らかとなった。参加者は, 一部の条件で遅延映像が流されていることには全く気が つかなかった。このことは,本研究が描出した神経基盤 は,アイコンタクトをしていると思って他者の目を見て いることを表象するのではなく,アイコンタクトにより 情報が相互に交換されうる場にいることを表象している ことを示す。 4.1.2 共同注意の神経基盤 (Koike et al., 2019b) 共同 注意とは,視線や指差しなどの社会的キューを利用して 自分の注意がどこに向いているかを他者に理解させる (IJA; Initiating Joint Attention; 共同注意の開始),もしくは社 会的キューを知覚して他者の注意の所在を理解する行動 (RJA; Responding to Joint Attention; 共同注意への応答) の組 み合わせである。自分と他者以外の対象のうえで注意が 共有されるため,三項関係の注意共有とされる (Tomasello et al., 2005)。発達段階では,二項関係の注意共有である アイコンタクトの後に現れ,心の理論など他者の意図を 理解する能力のさきがけとされる(Baron-Cohen, 1995; Tomasello et al., 2005)。共同注意において,我々は視線の ような社会的キューを介して他者と注意や意図を共有す ることは明らかである。しかし,共有を支える神経基盤 は明らかになっていない。筆者らは,IJAと関連した自ら

(5)

の行動を介して意図や注意を送り出すネットワーク,お よびRJAと関連した他者の行動から意図を読み取るネッ トワークが二者間で共鳴しており,個人の脳内でもこれ らのネットワークが相互作用しているのではないかと考 えた。実験参加者は同性のパートナーとペアを組み,ハ イパースキャニングMRI装置内で共同注意課題をおこ なった。解析の結果,IJAとRJAの神経基盤は多岐にわ たっているものの,右前部島皮質においてIJAとRJAの 神経基盤が接していることが明らかとなった。加えて, 全脳の中で右島皮質のみが,有意な二者間脳活動相関を 示した。共同注意はIJAとRJAが必ず対になるコミュニ ケーションであることを考えると,右島皮質が,共同注 意において自分と他者の行動を繋いでコミュニケーショ ンを成立させるのに重要な役割を果たしていることを示 唆する。 4.1.3 アイコンタクトと共同注意の関係性(Koike et al., 2016) 発達心理学研究は,アイコンタクトと共同注 意に関連があることを示している(Baron-Cohen, 1995; Tomasello et al., 2005)。また我々の一連の研究は,アイ コンタクトと共同注意のどちらにも,右前部島皮質が重 要な役割を果たすことを示している(Koike et al., 2019a, 2019b)。これらの事実は,アイコンタクトと共同注意の 神経基盤に何らかの関係があることを示唆するが,それ についての検討はなされていない。我々は,アイコンタ クト–共同注意–アイコンタクトと続く実験を計画し,共 同注意がアイコンタクトおよびその神経基盤に与える影 響を検討した。二者間の脳活動相関を解析した結果,最 初のアイコンタクト条件において右側頭回において二者 間相関が存在し,共同注意課題をおこなった後のアイコ ンタクトでは加えて右下前頭回–前部帯状回も有意な二者 間相関を示した。このとき,先行研究(Nakano, Yama-moto, Kitajo, Takahashi, & Kitazawa, 2009)と同様に,二者 間では瞬きのタイミングの相関が観察され,瞬きの相関 と二者脳活動相関の間には有意な相関が存在した。共同 注意課題をおこなわなかった群,または共同注意課題後 に異なるパートナーとアイコンタクトをおこなった群で は,脳活動および瞬きの相関の増加は観察されなかっ た。これらの結果から,注意の共有は,時間的な注意の 切れ目(Shultz, Klin, & Jones, 2011) を相手と合わせると いう行動上の二者間相関としてされ,脳活動上では右下 前頭回の二者間脳活動相関という形で表象されることが 示された。 4.2 共同作業の神経基盤(Abe et al., 2019) 複数のヒトが共同作業を成功させるためには,互いが 相手の状況や意図を推測し,それに基づいて自分の行動 を調整する必要がある。このような共同作業のうちで も,たとえば重い荷物を複数人で持つ場合のように,連 続的に調整をおこないつづける共同作業の神経基盤につ いては,明らかになっていない。筆者らは,二人の実験 参加者が把持力の合計を目標に合わせる実験課題をおこ ない,その最中の脳活動をハイパースキャニングMRI装 置で計測した(Abe et al., 2019)。個人の把持力を目標に 合わせる対照条件と比較したところ,右側頭–頭頂連合 野 (TPJ; Temporo–Parietal-Junction)の後部や前頭前野の 脳活動が共同作業時に強くなった。共同作業中は相手を 慮る必要があることを考えると,本研究の結果は,TPJ 後部が他者の視点に立ち他者の状態を慮る役割を果たす メンタライジングシステムの一部であるする先行研究 (Amft et al., 2015)と合致する。またTPJ前部は共同作業 条件で一律に活動が上がることはなかったが,自分の行 動が相手の状況に影響される(もしくは他人の行動を自 分で制御できる)被験者ほど高い活動を示していた。自 他の影響は,自分と他人の行動に注意を向け,それらが どのような関係にあるかを検討しなければ理解すること はできない。よってこの結果は,TPJ前部が自他に向け る注意の振り分け (Newman-Norlund, Bosga, Meulenbroek, & Bekkering, 2008)や社会的な場面における期待と結果 の差分を検出する機能(Blakemore & Frith, 2003)に関連 するとの報告と合致するように思われる。さらに本研究 では,時系列因果性解析 (Bosch-Bayard et al., 2012) を用 いて,TPJ後部とTPJ前部の間でどのように情報が流れ ているかを検討した。その結果,共同作業中に特異的 に,TPJの前部から後部に情報が流れていることが明ら かとなった。これらの結果は,自他の関係性の情報が TPJ前部において取り込まれ,それをTPJ後部において 他者を慮るシステムにより利用していると解釈できる。 5. ま と め 本稿では,コミュニケーションを二者が相互作用して いる最中の脳活動を二者から同時に記録し解析するハイ パースキャニングについて,筆者らの研究を含めて紹介 した。ハイパースキャニングに興味を抱かれた方は,数 多くの英語レビュー論文が上梓されているので,そちら も参考にしていただきたい。日本は,ハイパースキャニ ングの盛んな国である。世界でも非常に稀なハイパース キャニングfMRIもあり,またハイパースキャニングMEG (Hirata et al., 2014)も現在2施設で稼働中である。これ らの施設を利用することで,コミュニケーションの神経 基盤の理解がより一層進むことを期待している。

(6)

引用文献

Abe, M. O., Koike, T., Okazaki, S., Sugawara, S. K., Takahashi, K., Watanabe, K., & Sadato, N. (2019). Neural correlates of online cooperation during joint force production. Neuroim-age, 1, 150–161. doi: 10.1016/j.neuroimage.2019.02.003 Amft, M., Bzdok, D., Laird, A. R., Fox, P. T., Schilbach, L., &

Eickhoff, S. B. (2015). Definition and characterization of an extended social-affective default network. Brain Structure and Function, 220, 1031–1049. doi: 10.1007/s00429-013-0698-0 Baron-Cohen, S. (1995). Mindblindness: An essay on autism

and theory of mind. Cambridge: MA, The MIT Press. Biswal, B., Yetkin, F. Z., Haughton, V. M., & Hyde, J. S. (1995).

Functional connectivity in the motor cortex of resting. Mag-netic Resonance in Medicin, 34, 537–541.

Blakemore, S. J., & Frith, C. (2003). Self-awareness and action. Current Opinion in Neurobiology, 13, 219–224. doi: 10.1016/ S0959-4388(03)00043-6

Bosch-Bayard, J., Wong, K., Okazaki, S., Oshio, R., Galka, A., Ozaki, T., Sadato, N., & Hospital, M. G. (2012). Directed causality for non-stationary time series based on Akaike’s noise contribution ratio. Formath, 11, 121–131.

Dikker, S., Wan, L., Davidesco, I., Kaggen, L., Oostrik, M., Mc-Clintock, J., . . . Poeppel, D. (2017). Brain-to-brain synchro-ny tracks real-world dynamic group interactions in the classroom. Current Biology, 27, 1375–1380. doi: 10.1016/ j.cub.2017.04.002

Duane, T., & Behrendt, T. (1965). Extrasensory electroenceph-alographic induction between identical twins. Science, 150, 367.

Frith, C. D., & Frith, U. (2006). The neural basis of mentalizing. Neuron, 50, 531–534. doi:10.1016/j.neuron.2006.05.001 Frith, C. D., & Hasson, U. (2016). Mirroring and beyond:

Cou-pled dynamics as a generalized framework for modelling social interactions. Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences, 5, 371. doi:10.1098/rstb.2015. 0366

Froese, T., Iizuka, H., & Ikegami, T. (2013). From synthetic modeling of social interaction to dynamic theories of brain– body–environment–body–brain systems. Behavioral and Brain Sciences, 36, 420–421. doi:10.1017/S0140525X12001902 Gallotti, M., & Frith, C. D. (2013). Social cognition in the we-

mode. Trends in Cognitive Sciences, 17, 160–165. doi:10.1016/ j.tics.2013.02.002

Hasson, U., Nir, Y., Levy, I., Fuhrmann, G., & Malach, R. (2004). Intersubject synchronization of cortical activity during natural vision. Science, 303, 1634–1640. doi:10.1126/science.1089506 Hirata, M., Ikeda, T., Kikuchi, M., Kimura, T., Hiraishi, H.,

Yoshi mura, Y., & Asada, M. (2014). Hyperscanning MEG for understanding mother–child cerebral interactions. Frontiers in Human Neuroscience, 8, 118. doi:10.3389/fnhum.2014. 00118

Iacoboni, M., & Dapretto, M. (2006). The mirror neuron system and the consequences of its dysfunction. Nature Reviews Neuroscience, 7, 942–951. doi:10.1038/nrn2024

Koike, T., Sumiya, M., Nakagawa, E., Okazaki, S., & Sadato, N. (2019a). What makes eye contact special? Neural substrates of on-line mutual eye-gaze: A hyperscanning fMRI study. eNEURO, 6, ENEURO.0284-18. 2019. doi:10.1523/ENEURO. 0284-18.2019

Koike, T., Tanabe, H. C., Adachi-Abe, S., Okazaki, S., Nakagawa, E., Sasaki, A. T., . . . Sadato, N. (2019b). Role of the right an-terior insular cortex in joint attention-related identification with a partner. Social Cognitive and Affective Neuroscience, 14, 1131–1145. doi:10.1093/scan/nsz087

Koike, T., Tanabe, H. C., Okazaki, S., Nakagawa, E., Sasaki, A. T., Shimada, K., . . . Sadato, N. (2016). Neural substrates of shared attention as social memory: A hyperscanning func-tional magnetic resonance imaging study. Neuroimage, 125, 401–412. doi:10.1016/j.neuroimage.2015.09.076

Koike, T., Tanabe, H. C., & Sadato, N. (2015). Hyperscanning neuroimaging technique to reveal the “two-in-one” system in social interactions. Neuroscience Research, 90, 25–32. doi: 10.1016/j.neures.2014.11.006

Konvalinka, I., & Roepstorff, A. (2012). The two-brain approach: How can mutually interacting brains teach us something about social interaction? Frontiers Human Neuroscience, 6, 215. doi:10.3389/fnhum.2012.00215

Konvalinka, I., Vuust, P., Roepstorff, A., & Frith, C. D. (2010). Follow you, follow me: continuous mutual prediction and adaptation in joint tapping. Quarterly Journal of Experimen-tal Psychology, 63, 2220–2230. doi:10.1080/17470218.2010.4 97843

Koster-Hale, J., & Saxe, R. (2013). Theory of mind: A neural prediction problem. Neuron, 79, 836–848. doi:10.1016/j. neuron.2013.08.020

Liu, D., Liu, S., Liu, X., Zhang, C., Li, A., Jin, C., . . . Zhang, X. (2018). Interactive brain activity: Review and progress on EEG-based hyperscanning in social interactions. Frontiers in Psychiatry, 9, 1–11. doi:10.3389/fpsyg.2018.01862 Liu, Y., Piazza, E. A., Simony, E., Shewokis, P. A., Onaral, B.,

Hasson, U., & Ayaz, H. (2017). Measuring speaker-listener neural coupling with functional near infrared spectroscopy. Scientific Reports, 7, 1–13. doi:10.1038/srep43293

Minagawa, Y., Xu, M., & Morimoto, S. (2018). Toward interactive social neuroscience: Neuroimaging real-world interactions in various populations. Japanese Psychological Research, 60, 196–224. doi:10.1111/jpr.12207

宮内 哲・星 祥子・菅野 巖・栗城真也 (2016).脳の イメージング 共立出版

Montague, P. (2002). Hyperscanning: Simultaneous fMRI during linked social interactions. Neuroimage, 16, 1159–1164. doi: 10.1006/nimg.2002.1150

Nakano, T., Yamamoto, Y., Kitajo, K., Takahashi, T., & Kitazawa, S. (2009). Synchronization of spontaneous eyeblinks while viewing video stories. Proceedings of the Royal Society B: Bi-ological Sciences, 276, 3635–3644. doi:10.1098/rspb.2009. 0828

Newman-Norlund, R. D., Bosga, J., Meulenbroek, R. G. J., & Bekkering, H. (2008). Anatomical substrates of cooperative joint-action in a continuous motor task: Virtual lifting and

(7)

balancing. Neuroimage, 41, 169–177. doi:10.1016/j.neuro image.2008.02.026

Novembre, G., Knoblich, G., Dunne, L., & Keller, P. E. (2017). Interpersonal synchrony enhanced through 20 Hz phase-coupled dual brain stimulation. Social Cognitve and Affec-tive Neuroscience, 12, 662–670. doi:10.1093/scan/nsw172 Noy, L., Dekel, E., & Alon, U. (2011). The mirror game as a

paradigm for studying the dynamics of two people impro-vising motion together. Proceedings of the National Acadmy of Sciences of the United States of America, 108, 20947–20952. doi:10.1073/pnas.1108155108

Redcay, E., Dodell-Feder, D., Pearrow, M. J., Mavros, P. L., Kleiner, M., Gabrieli, J. D. E., & Saxe, R. (2010). Live face-to- face interaction during fMRI: A new tool for social cognitive neuroscience. Neuroimage, 50, 1639–1647. doi:10.1016/j. neuroimage.2010.01.052

Renvall, V., Kauramäki, J., Malinen, S., Hari, R., & Nummenmaa, L. (2020). Imaging real-time tactile interaction with two-person dual-coil fMRI. Frontiers in Psychiatry, 11, 279. doi:10.3389/ fpsyt.2020.00279

Schilbach, L., Timmermans, B., Reddy, V., Costall, A., Bente, G., Schlicht, T., & Vogeley, K. (2013). Toward a second-person neuroscience. Behavioral and Brain Sciences, 36, 393–414. doi:10.1017/S0140525X12000660

Schippers, M. B., Roebroeck, A., Renken, R., Nanetti, L., & Keysers, C. (2010). Mapping the information flow from one brain to another during gestural communication. Proceedings of the National Acadmy of Sciences of the United States of America, 107, 9388–9393. doi:10.1073/pnas.1001791107/-/ DCSupplemental.www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.1001 791107

Shultz, S., Klin, A., & Jones, W. (2011). Inhibition of eye blinking reveals subjective perceptions of stimulus salience. Proceed-ings of the National Acadmy of Sciences of the United States of

America, 108, 21270–21275. doi:10.1073/pnas.1109304108 Sumiya, M., Koike, T., Okazaki, S., Kitada, R., & Sadato, N.

(2017). Brain networks of social action-outcome contingency: The role of the ventral striatum in integrating signals from the sensory cortex and medial prefrontal cortex. Neuroscience Research, 123, 43–54. doi:10.1016/j.neures.2017.04.015 Sumiya, M., Okamoto, Y., Koike, T., Tanigawa, T., Okazawa, H.,

Kosaka, H., & Sadato, N. (2020). Attenuated activation of the anterior rostral medial prefrontal cortex on self-relevant social reward processing in individuals with autism spectrum disorder. NeuroImage: Clinical, 26, 102249. doi:10.1016/j. nicl.2020.102249

Tanabe, H. C., Kosaka, H., Saito, D. N., Koike, T., Hayashi, M. J., Izuma, K., . . . Sciences, S. W. (2012). Hard to “tune in”: Neural mechanisms of eye contact and joint attention in high-func-tioning autistic spectrum disorder. Frontiers in Human Neu-roscience, 6, 268. doi:10.3389/fnhum.2012.00268

Tomasello, M., Carpenter, M., Call, J., Behne, T., & Moll, H. (2005). Understanding and sharing intentions: the origins of cultural cognition. Behavioral and Brain Science, 28, 675–691. doi:10.1017/S0140525X05000129

Xie, H., Karipidis, II, Howell, A., Schreier M., Sheau K. E., Manchanda, M. K., . . . , Saggar M. (2020). Finding the neu-ral correlates of collaboration using a three-person fMRI hyperscanning paradigm. Proceedings of the National Acad-my of Sciences of the United States of America, 117, 23066– 23072. doi.org/10.1073/pnas.1917407117

Zadbood, A., Chen, J., Leong, Y. C., Norman, K. A., & Hasson, U. (2017). How we transmit memories to other brains: Con-structing shared neural representations via communication. Cerebral Cortex, 27, 4988–5000. doi:10.1093/cercor/bhx202 Zhang, W., & Yartsev, M. M. (2019). Correlated neural activity

across the brains of socially interacting bats. Cell, 178, 413– 428.e22. doi:10.1016/j.cell.2019.05.023

参照

関連したドキュメント

Research Institute for Mathematical Sciences, Kyoto University...

AY2022 Grant Proposal for RIMS Joint Research Activity (RIMS Workshop (Type C)) To Director, Research Institute for Mathematical Sciences, Kyoto University

† Institute of Computer Science, Czech Academy of Sciences, Prague, and School of Business Administration, Anglo-American University, Prague, Czech

RIMS has each year welcomed around 4,000 researchers in the mathematical sciences in Japan and more than 200 from abroad, who either come as long-term research visitors or

Pacific Institute for the Mathematical Sciences(PIMS) カナダ 平成21年3月30日 National Institute for Mathematical Sciences(NIMS) 大韓民国 平成22年6月24日

The diagnosis of dementia due to Alzheimerʼs disease: recommendations from the National Institute on Aging—Alz- heimerʼs Association workgroups on diagnostic guidelines

Amount of Remuneration, etc. The Company does not pay to Directors who concurrently serve as Executive Officer the remuneration paid to Directors. Therefore, “Number of Persons”

Using the CMT analysis for aftershocks (M j >3.0) of 2004 Mid Niigata earthquake (M j 6.8) carried out by National Research Institute for Earth Science and Disaster Prevention