C組 問21: 10
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1肘( 2012) Carcinological Society 01 Japanザリガニを通じた環境教育と外来種問題への普及啓発
Control o f the alien signal crayfish P a c
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stacus leniusculus using as material o f a n environmental education田中一典
l Kazunori Tanaka 圃 は じ め に 日本には,ニホンザリガニ,ウチダザリガニ,ア メリカザリガニの3 種類のザリガニが分布してい る. そのうち,北海道でのみ3 種類すべてのザリガ ニが分布している. ニホ ンザリガニは日本固有種で あり,他の2種は昭和初期頃に北米から移入された 外来種である ()II井, 2003). ウチダザリガニは環 境省から在来生態系などに対する悪影響を及ぼすた め,外来生物法( 飼育 ・運搬 ・野外放出などを禁止 した特定外来生物による生態系等に係わる被害防止 に関する法律) の規制対象である特定外来生物に指 定されている. またアメリカザリガニは外来生物法 の規制対象ではないが,環境省により要注意外来生 物に選定されている . 3種類がいる北海道では外来 ザリカ♂ニに対する認識をもっていない人が多く存在 する( 中田ら, 2006) . 実際にザリガニに関するパ ネル展を開催すると,入口付近の導入部に掲示して いる「北海道に生息するザリガニ」というパネルの 前では,i
北海道にはザリガニが3 種類もいてスゴ イね, 自然、が豊かなんだね」という声が聞こえる. また,外来ザリガニの見分け方や外来生物法に対す る認識がないため,外来ザリガニの幼体( 図 1) を, ニホンザリガニと見間違い,家へ持ち帰って飼育す l 北海道大学大学院文学部 〒060-0861 札幌市北区北 10条西7Graduate School of Letter, Hokkaido U niversity, N 10-W 7, Sapporo, Hokkaido 060-0861, Japan
E-mail: ittentanaka@ ymail.plala.or.jp
るケースも発生している. 近年,北海道ではニホンザリガニの分布域が減少 し (川井, 1996) ,外来種のウチダザリ力、、 ニやアメ リカザリガニが急速に分布域を拡大している状況に あり,防除活動も北海道内の各地で実施されてい る. 外来ザリガニの分布域拡大は,外来種に対する 認識をもたない人為的な放流にあるといえる. 外来 種が在来生態系などに与える悪影響に ついて個々人 が正しい認識を持っていれば,次々と報告される新 たな定着は避けられることであり,子供や大人にか かわらず環境教育の中でも特に外来種問題に対する 普及啓発が必要である . とりわけザリガニ類は,身 近な生き物であり親しみを持って接することができ る生き物である. 特に実体験型のザリガニ観察会や 外来ザリガニの防除活動は,誰でもが参加できて, 生体を手に取りなが ら学習できるため,外来種に関 する知識や防除の必要性,外来種放流の危険性,在 来の ニホンザリガニが絶滅危慎種に指定されるほど 減少している状況について,より記憶に深く刻まれ る教育効果の高い環境教育ができる. また,観察会 や防除活動の会場では,参加者以外の親子などが やってきて「何をしているのですか
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と声をかけて きたり,i
私も参加したい 」など,当初の参加予定 者以外の多くの人たちが集まってくる . このような 機会を逃さずに,活動の目 的や外来種問題( 日本生 態学会編, 2002) ( 外来種が生態系,生物多様性, 人の健康 ・生命および生産活動などにもたらす望ま しくない影響やそれによって生起する問題) につい て辻説法方式で普及啓発を行って,一人でも多くの 日 本 甲 殻 類 学 会 旬npc
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1 0 3図1 . 日本に生息するザリガニ類. ウチダザリガニ( 左) とアメリカザリガニ( 中央) の幼体は小さく茶色の体色 のため,一見してニホンザリガニ( 右) と間違う人が多い. 図2. 子供も大人も参加できるザリガニ観察会. 野外 での観察会は,副次的な効果として 「何をやっ ているのか」 と集まってくる参加者以外の人達 への啓発の場ともなる . 人に認識を深めてもらい.
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外来生物を無責任に飼 わないJ.
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捨てないJ.
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広めない」 という活動を実 践できる場ともなっている( 図 2). その他の外来ザリガ、ニ問題やニホンザリガニ保全 に対する普及啓発の場として,インターネットを活 用しザリガニに関心のある人は誰でも参加できる市 民参加型の調査活動,ザリヵーニに関するパネル展, 在来種保全や外来種問題のシンポジウム開催, ボラ ンティア組織による小学校におけるザリガニ観察の 出前授業,そして前述の各イベントを新聞やT V
等 のマスメディアへ リリースし取り上げてもうなど も,環境教育とりわけ外来種問題の普及啓発として 有効である . 特にマスメ ディアでニュースソースと して取り上げられる場合は,イベントへの問合せや 参加人数の多さから効果が高いことは言 うまでもな•
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し 環境教育は,学校教育の中ではその学科を設け ず,従来の教科教育の中で折に触れ,また総合学習 の一環として取り上げられてきたため,その知識は 断片的となる( 掘. 2007). その中でも外来種問題 に対する教育は,社会規範や一般常識,交通ル ール のように子供のころから親や先生から何度も繰り返 し教育されてきたのと違い,普及浸透していないの が現状と言える. 散発的に外来ザリガニの分布域が 拡大していくのは,根本的な原因は人間活動にある といって間違いないであろう . 飼いきれなくて放流 する,死なすのがかわいそうだという理由で放流す るなど,寿命まで責任を持って飼育することや放流 することによる後々の影響などを理解していないこ とから起きているといえる. 特に外来種問題は,駆 除して殺処分するという生命倫理の問題,放逐 ・放 流などによる生物多様性に損失を与えるという生態 倫理の問題,農業 ・漁業被害に見る経済的損失など の複雑な問題と状況をかかえている . このような中 で一貫 して言えることは.I
外来生物を野に放すこ とは元々棲んでいる 多くの生き物の命を奪う」こと であるとともに 「外来生物側に何の罪はなくとも駆 除し殺処分しなければならない」 ことである. この ことは 「身勝手な人間の行動が生態系も人間も不幸 にする 」 ということである. 一度定着 してしまった 外来ザリガ‘ニを根絶させることは難し く困難さがう かがえる. それは,現在まで各地で大変な労力と費 用をかけて駆除が実施されてきたが,根絶にいたっ た水系や湖沼が見らないことでも理解ができる. こ のことから意識や認識の無さから起こる放流を阻止 するための教育活動がもっとも効率のよい選択肢の 一つ であり,この現状や外来種問題について個々人 の理解を深め,これ以上,外来種の生息域を拡大さ せないために,そして元々棲んでいた在来生物が生104
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僧r21 (2012)
ザリガニと環境教育 息できる身近な水辺環境を後世に残すために,外来