自動撮影による徳島県吉野川市鴨島町の晴乳類相
野 口 和 恵
〒776−0034 徳島県吉野川市鴨島町飯尾550−253Thefhunaofmammalsbyanautomaticphotogr’aPhinginKamq】1ma−Cho,
YoshinogawaCity,Tokushima
KazueNoguchi,・タータ0−2・タろ玩oq助桝可f肌α−Cん0,y♭5ムf仰gα棚αC去年,rb血5あf椚q7乃−0α弼−J呼α仇 2004年10月までの14ケ月の間で,各月あたり 9日間から21日間カメラを獣道沿いの木に紐で結び付け設置した。使用したカメラは,麻
里府商事製のセンサー・カメラFieldNoteIであ る。餌などの誘引物は使用しなかった。 撮影された種の同定は,哺乳類では阿部は か(1994)を,昆虫規では伊東ほか(1977) および猪又(1990)を参考にした。撮影され た写真のうち,掘影枚数は単に写された枚数 であるが,カメラの設置や取り外しの際の撮 影を除いた。被写体が撮影されている場合を 有効枚数とし,撮影されていない場合を無効 枚数とした。撮影回数は撮影日と撮影時間が 同じで,同一個体による複数回の撮影と考え られるものは1回の出頭とみなして撮影回数 を1回とした。また,カメラの稼動日数あたり の撮影回数を撮影率とした。 結 果 カメラの稼動日数は延べ222日間で,撮影枚 数は101枚であった。有効枚数は54枚(撮影枚 数の53−5%)で,哺乳類が45枚(ヒト4枚お よびイヌ2枚を除く),昆虫類が3枚であっ た。晴乳類の撮影率は調査全体で0.12であった(表1)。無効撮影は47枚(撮影枚数の
は じ め に
中大型噛乳類の調査方法のひとつとして,近年,自動撮影が利用されるようになった
(平川,2004;Yasuda,2004)。そこで著者は,
徳島県吉野川市鴨島町において,2002年と
2003年の冬期に自動撮影による哺乳類の調査の試みをおこない,3日5科6種(イヌを除
く)の哺乳額を撮影した(野口,2004)。しか し,前回は冬期のみの調査であったため,鴨 島町の哺乳類相の一・部を反映しているのにす ぎないと考えられた。本調査では,1年間の 各季節をとおしてカメラを設置し,鴨島町に おける哺乳類相の把握および補足を行うこと を目的とした。材料 と 方法
調査場所は徳島県吉野川市鴨島町に位置し, 標高400∼500mの尾根が東西にのびる山麓で ある。この山麓は植林と二次林(アカマツや 広葉樹),および竹林等から構成されている。 カメラを設置した場所は標高約150mの農道に 面した谷部で,前調査(野口,2004)におけ る地点Cと同地点である(北緯340 2”400,東 経1340 21”110)。調査期間は2003年9月から − 35 −表1∫自動撮影により確認された哺乳類の種リスト,各月の撮影回数,撮影枚数,および撮影率. 合計 撮影率 年 月 稼動 日数 L.b. S.1.Ⅴ−Ⅴ. N.p. P.1. S.s. C,.n. 回数 枚数 (回数/日数) 1(2) 1(2) 3(4)1(2) 3(3) 1(1) 1(2) ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ 2 ︵>0 4 3 1 2 4 0 0 0 5 0 9 7 ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ 1 5 4 2 1 2 3 0 0 0 3 0 りd 3 0.09 0.38 0小31 0.10 0.08 0.10 0.25 0い00 0.00 0.00 0.21 0.00 0.14 0.14 ‖131321132112159 1
910‖1212345678910
3 0 0 2 ︶ ︶ 1 3 ︵ ︵ l り一 4 0 0 2 ︶ ︶ ︵.1 ︶ ︵ 1(1) 1(1) 1(2) 3(9) 1(5)1(1) 1(1) ︶ 5 4 ︵ 7 2 合計 222 5(7)2(2)1(l)5(7) 6(7)7(20)1(l) 割合(%) 18い5 7n4 3.7 18.5 222 25…9 37 0.12 L.b.;ノウサギ,Sい1;ニホンリス,Ⅴ.Ⅴ.;キツネ,N.p;タヌキ,P1.;ハクビシン, S.s.;イノシシ,C.n.;ニホンジカ. ()内の数字は撮影枚数 回と少なかった(3.7′、一7.4%)。 カメラ稼動日数にともなう撮影種数の推移では,1ケ月目では1種,2ケ月日で3種,
3ケ月日で4種,6ケ月目で6種,14ケ月日
で7種になった(表1,図1)。本調査で撮影 されたおもな4種(ノウサギ,タヌキ,ハク ビシン,イノシシ)は,3ケ月目(約40日) で出現した(表1)。 各月の撮影状況をみると,撮影率は調査期 間をとおして変化した(表1)。2003年10月と 11月の撮影率は0.38および0.31と高く,12月から2月に010前後に減少した後,3月に
0.25となった。4月から6月の3ケ月間と8
月はまったく撮影されなかった。2004年7月,9札 および10月の撮影率は020前後であっ
た。 各月の出現種について,調査期間中,ノウ サギおよびタヌキは季節に偏ることなく出現 46.5%)で,動物が写っていない昼間の写真 18枚,露出不足によるもの15枚,動物が写っ ていない夜間の写真14枚であった。掘影された哺乳頬は,4目6科7種(ヒト
およびイヌを除く)で,ノウサギ エ甲〟J
ム′αC々γ〟川5,ニホンリス ∫cん〝〟5Jよ5,キツネ 拘わe5Vゆe5,タヌキ坤cおr・e〟′e5クrOqyO〃Ofゐ5, ハクビンン Pαg〟肌αJα′γα玖 イノシシ∫〟5 5C′qわ,およびニホンジカ Ce′V〝5〃如po〝であった(表1)。昆虫類ではモンキアゲハ
P甲王Jよ0ムek〝〟5およびスズメバチ科の種が撮 影された。 晴乳類において撮影回数が多かった種とそ の撮影回数は,イノシシ7回(25.9%),ハク ビシン6回(22一2%),タヌキ5回(18.5%), およびノウサギ5回(18.5%)の順となった (表1)。他の3種とその撮影回数は,ニホンリス2回,キツネ1回,およびニホンジカ1
ー 36 −した(表1,図2)。一・方,ハクビシンおよび イノシシは9月から11月の秋に比較的多く出 現した。ニホンリス,キツネ,およびニホン ジカについては撮影回数が少なかったため、 出現の傾向は不明であった。 撮影時間帯はおもに夜間であったが,昼間 撮影された種はリス,イノシシ,およびニホ ンジカの3種であった(表2)。これら3種に ついての昼間の撮影を除くと,はとんどの種
がおもに17時から4時の間に撮影されてい
た。また,2ケ月ごとの撮影時間帯には,調 査期間をとおして推移の変化は特にみられな かった。調査期間全体の時間帯別に撮影回数をみると,18∼20時と1時の各時間帯には3
回ずつ撮影され 夜間における他の時間帯よ り多く撮影される傾向があった。 撮影された種の特徴として,2003年9月に 撮影されたイノシシは毛が短く肌のピンク色 8 6 4 撮影種数 2 0 50 100 150 200 250 稼動日数 図1.カメラ稼働日数あたりの撮影種数の推移 臼C.n. 田S.s= 臼P..l.. ロN..pり 臼V.v. 田S.l一. ■L..b.1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1112 13 14
2003
年月 図2.月別の各種の撮影回数の割合.L.b.;ノウサギ,Sり1;ニホンリス,ⅤⅤ;キツネ,N.p;タヌキ,
Pい1:ハクビシン,SりS.;イノシシ,C.n.;ニホンジカ. ー 37 −表2い 種ごとおよび2ケ月ごとの時間帯による撮影回数 2003 2004 9−1011−121−2 3−4 5−6 時間帯 L.b.S.1り N.Ⅰ)“Ⅴ.Ⅴ.P.1.Ss.C.n. 1 3 3 りハ﹀ りム 2 1 0 3 2 2 2 0 0 0 0 0 1 1 0 0 1 11 0 1 1 1 1 1 1 2 1 1 2 2 1 1 1 1 1 1 l
合計 5 2 6 1 6 8 1 7 6 3 3 0 3 6
Lりb;ノウサギ,S.1;ニホンリス,Ⅴ.Ⅴ∴キツネ,N.p;タヌキ,P.1.ハクピシン,
Ss;イノシシ,C.n∴シ九
ラの設置環境が落葉広葉樹を中心どする二次 林であり,比較的明るい環境であったためであろう。また,露出不足による無効撮影も多
かった。電池交換のタイミングを早くすると 露出不足による無効撮影を生じないというこ とから(説田,2004),今後は定期的に電池交 換を徹底して無効撮影を減少させることがで きると考えられる。動物が写っていない夜間 の写真は,説田(2004)が述べるように,セ ンサーが感知した対象がカメラの視野外や死 角に移動したことが原因であろう。 が目立った個体であった。2004年9月と10月 には,パフ色の縦縞がある幼獣のイノシシが撮影された。なお,2004年9月8日1時2∼
10分には最大3個体の幼獣が同時に撮影され ていた。 考 察 本調査における有効撮影枚数は53.5%と少ない結果であった。無効撮影のうち,動物が
写っていない昼間の写真はセンサーが太陽に反応したものと考えられる。すなわち,カメ
− 38 −本調査における撮影率は全体で012と低く, 前調査での同地点Cの撮影率0.17と近い債で あった。日数あたりの撮影枚数である撮影率 は,同じ個体の撮影も含むため−・概に比較で
きないのであるが,前調査のA地点では089
であり,B地点の0.65と比較しても,C地点の撮影率は前回・今回ともに低い値であっ
た。撮影率はカメラの稼動日数を増加させて も撮影率は低いこ.とから,こ.の地点における 獣道の利用頻度は低いのであろう。 本調査では前回(野口,2004)と比べて, 新たに2種が確認された。す−なわち,前調査 で確認されたノウサギ,キツネ,タヌキ,ハ クビシン,およびイノシシに加えて,ニホン リスとニホンジカが撮影された。しかし,前回確認されたテンは本調査では撮影されな
かった。前回および今回の調査結果から,徳
島県に分布する中大型晴乳類のうち(阿部は か,1989;徳島凰1979),−・般的に広い範囲 に生息する種が,2回の調査で確認されてい るので,鴨島町に生息するおもな中大型の噛 乳類相が自動撮影で把握されたといえるので はないだろうか。なお,イタチ科のイタチ 肋5JβJα 如毎 チョウセンイタチ 肋5JeJα 5∼あ∼′∼cα,およびアナグマ〟ピノe∫仇eJe5 につい て−は,本調査地点の調査期間では確認されヂ, カメラを設置する際にはこ.れらの種の生息環 境をどのように抽出するのか,あるいは設置 場所の工夫をする必妻があるであろう。 カメラの稼動日数と撮影された種数の関係 については,日数が増加するとともに種数も 増加した(表1,図1)。岐阜県関市では,6 種がカメラ稼動日数50日弱で,7種が約180日 で撮影されている(説田,2004)。また, Yasuda(2004)は,ある地域の対象種をある 確率で撮影するために必要な調査努力量(最 ′ト調査努力量)が40カメラ日と推定している。本調査では,おもな4種が調査開始後
3ケ月(約40日)で確認されており,撮影回 数の少ない種についてはカメラ稼動日数の長 期化にともなって出現していることが明らか になった(表1)。以上のことより,ある地域 の哺乳燥相を自動撮影で調査するためには, −・定以上の期間をとおして調査することが重 要であると示唆された。 月別の撮影の特徴として,秋(10−11月) と早春(3月)に撮影率が高い傾向があること,および春から初夏(4−6月)に全く撮
影されなかったことがあげられる(表1)。撮 影率の季節的な変化については,動物の生括 史と関係がある可能性が考えられる。−・般的 に,秋は分散期,春は繁殖期であり,動物の これらの油動による行動圏の拡大あるいは縮 小と撮影率が相互的につながっていることが 考えられるが,今回,その間題を扱うことは できなかった。今後の課題としたい。 撮影回数が比較的多かった18∼20時および1 時の時間帯は,日没後数時間と深夜に該当する。今回確認された種は,昼行性のニホンリ
スを除くと,おもに夜行性であり,特に日没 および日出前後に活動のピークがある(阿部はか,1994;平凡 2003;岡田,1965;山本,
1993)。本調査では撮影が日没後の3時間に集 中して−いる傾向を示し(表2),これまでの知 見と類似する結果を得た。撮影時間帯の季節 による相違に、ついては,本調査ではデータ数 が不十分なので,明らかな結果が得られてい ない。 謝 辞 本論文を作成するにあたり,御指導および 御校閲を賜った香川大学教育学部生物学教室の金子之史教授に謝意を表する。また,昆虫
の同定においてアドバイス頂いた相田和博氏 に御礼申し上げる。引 用 文 献
阿部近一・・石井憶義・友成孟宏・木内和美 − 39 −野口和恵小 2004.徳島県鴨島町における晴乳 類の自動撮影の試み.香川生物31:7−11. 徳島県=1979.第2回自然環境保全基礎調査 動物分布調査報告書(晴乳類),徳島市.