外食企業の国際化戦略
─サービスにおけるコンセプトの概念を中心に─
金 炯中
I. はじめに
昨今、外食を含む食文化のグローバル化が進んでおり、自国にいながらに して世界中の料理を楽しめるようになった。また、「和食」のユネスコ無形 文化遺産への登録に伴い、世界各国で日本食の人気も拡大している。それに 歩調を合わせるかのように、数々の外食企業が少子高齢化が深刻化する国内 状況を意識し海外進出を加速させている。 このような状況の中、外食企業の国際化戦略に関する研究も増加傾向にあ る。しかし、外食企業の国際化戦略に関するメカニズムの解明は、製造業な どに比べると遅れているのが現状である。外食の国際化に関する研究は、当 初、進出国の食文化を考慮してメニューや味を修正すべきかどうか、といっ た類の議論が主流であったが、今や食材の調達、従業員教育、そして店舗開 発など、その検討課題は多岐に渡っている。ただし、その大半は、まだ実態 分析の段階に留まっており、理論構築のための知見の提示までは至っていな い。特に外食は、元々サービス業に分類されるにも拘らず、サービス論の観 点から外食企業の国際化戦略について議論した研究は非常に限定的である。 そこで本研究では、外食企業の国際化戦略をサービス論の観点から考察す る。具体的には、サービスにおけるコンセプトの概念に注目しながら、外 食店舗のコンセプトが海外に展開されていくプロセスを明らかにする。その際、アジアを中心に店舗数を増やしている株式会社壱番屋の事例を取り上げ る。 Ⅱでは、先行研究のレビューと共に本研究の分析視点を提示する。Ⅲで は、分析対象の選定理由と研究方法を説明する。続くⅣでは、壱番屋の台湾 進出の事例を紹介し、Ⅴではその考察、Ⅵでは結論を提示する。
II. 先行研究及び分析視点
1. 外食企業の国際化に関する先行研究 外食企業の国際化に関する研究蓄積は、製造業や小売業の国際化研究に比 べるとまだ少ない。日本における外食企業の国際化に関する初期の研究は、 食文化論的なアプローチが多かった。すなわち、味やメニューが現地市場 で受け入れられるかどうかが中心課題として議論されていた。川端(2013) は、流通論的視点を取り入れながら、チェーン・オペレーション・システム を提示し、食材調達や店舗開発、そして人材開発の観点から外食企業の国際 化戦略を分析した。それ以降、日系外食企業の海外展開について、チェー ン・オペレーション・システムの観点から多様な研究が進められているが (例えば、口野・大島、2015;金子・大島、2017)、未だにほとんどが実態調 査の域を脱していない。 また、少数ではあるが、経営学の諸理論を援用しながら、理論的知見の提 示を試みた研究も散見される。宮本(2018)は、設計品質と製造品質とい う概念を用いて外食企業の現地化戦略について議論しており、高橋(2020) は、製品アーキテクチャ論のフレームに基づいて事例分析を行った。ただ し、これらの研究は味や品質、そして食材の調達を中心に検討しており、そ の他の店舗開発や人材管理などについては分析していない。 このように、近年はチェーン・オペレーションの分析枠組みや経営学理論 を取り入れた研究が進んでいるが、まだ外食企業の国際化に関するメカニズ ムは十分に解明されていない。さらに、外食は産業分類上、サービス業に分類されているにも拘らず、外 食企業の国際化に関するサービス論的なアプローチは皆無に近い。もちろ ん、欧米を中心とした実証的研究は多数存在するが、その大半は店舗レベル での消費者行動に関する研究であり(例えば、Gilbert, 2004; Laroche, 2005)1)、 企業の戦略的行動について分析した研究は見受けられない。 もとより、企業の国際化戦略に関する先行研究は、そのほとんどが製造 業を対象としており(Asakawa, et al., 2012)、サービス業の国際化に関する 研究は比較的少ない。もちろん、近年、サービス・ドミナント・ロジック (S-D ロジック)の概念の発展に伴い2)、企業と顧客の価値共創に関する国 際比較研究も増えつつあるが、サービス業の国際化プロセスに焦点を当てた ものは限定的である。最近、一部のサービス企業の国際化について議論した 研究もみられるが、その対象はホテルや宅配サービス業となっており(例え ば、池上、2014;安藤、2020)、外食企業の国際化に関するサービス論的な アプローチは極めて少ない。 以上を踏まえ、本研究はサービス論的観点を取り入れながら、外食企業の 国際化戦略について検討する。 2. 分析視点 本研究で取り上げる事例は、Langeard, et al(1981)が提唱した「サーバ クション・フレームワーク」を用いて検討する。この「サーバクション (servuction)」という用語は service と production を短縮した造語である。こ のフレームワークは、顧客のサービス経験を顧客に見える(可視的)部分 と見えない(不可視的)部分に大別して構造化した枠組みである。可視的部 分としては、物理的な環境、顧客接点の従業員、そしてその顧客に影響を及 ぼしうる他の顧客の存在がある。また、不可視的部分としては、(バックオ フィス)組織と各種システムなどがあげられる。サーバクション・フレーム ワークは、サービスが顧客に提供される局面では、可視的な物的環境、顧客 と接触する従業員、そしてサービスを受ける顧客たちという 3 つの要素が、
サービスのベネフィットに影響することを提示した点に加え、顧客に見えな い部分も、サービス提供に大きく影響するとしている点が特徴である。ただ し、この枠組みは、サービス業全般を対象に提示された概念であり、外食 サービスの国際化を分析する際には十分とはいえない。そのため、本研究で は、彼らが提示した構成要素を外食サービスに適合するよう若干の修正を施 しながら事例を分析する。 加えて本研究では、サービスの海外展開におけるコンセプトの概念に焦点 を当てる。コンセプトは、Normann(1984)が提示したサービス・マネジメ ント・システムの 5 つの要素に含まれ、サービスを管理する際に必要とさ れる主要概念である。5 つの要素としてはセグメント、コンセプト、デリバ リー・システム、イメージ、そして文化と理念が挙げられている。そのうち コンセプトは、顧客に提供しようとする特定のベネフィットを意味する3)。 一般的にコンセプトとは、「概念」、あるいは「企画・広告などで、全体を貫 く統一的な視点や考え方」という意味を持っている(『広辞苑』、7586 ペー ジ)。一部のサービス関連の研究では、コンセプトを、「提供したい中核的価 値を言葉で表現したもの」と定義している(西野、2017)。また、日本のサー ビス企業の海外展開について議論した伊丹(2017)は、サービスの海外展開 における鍵要因を提示しているが4)、その 1 つがコンセプトの力である。コ ンセプトの力とは、提供されるサービスのコンセプトの普遍的な魅力を指 す。彼は、言葉として表現されたコンセプトそのものよりも、現地市場でコ ンセプトを具現化する手段を整備することの重要性を指摘している。 以上を踏まえ本研究では、味やメニュー、店舗デザインなどに影響されや すい外食サービスの特徴を考慮し、コンセプトを「顧客に提供しようとする ベネフィットを商品(メニュー)や店舗デザインなどの目に見える形(可視 的)で表したもの」として認識していきたい。
III. 分析対象と研究方法
外食企業の国際化に関する既存研究は、ラーメン店や定食屋などを対象と した研究が多いが、本研究では、カレーライスの専門店である壱番屋に焦点 を当てる。その理由は、カレーライスはラーメンや寿司などに比べ、日本と いう原産国イメージ(Country of Origin)に影響を受けにくいと考えられる からである。日本のイメージが強すぎると、現地顧客にコンセプトを伝える に当たり、何らかの先入観を与える恐れがある。そのため、比較的原産国イ メージの強くない「カレーライス」を選んだ。 本研究は、壱番屋の台湾事業を取り上げる。台湾壱番屋は、現在、市場拡 大段階に位置づけられる。国際マーケティングの発展モデルにおける現地市 場拡大段階は(Douglas & Craig, 1995)5)、現地市場へ参入した企業が、多様な現地化の問題に直面し、市場環境に柔軟に対応できるかどうかが問われる 段階である。ゆえに、台湾壱番屋の事業活動を検討することによって、市場 拡大段階にある数々の外食企業に対し国際化戦略に関する実践的な視点を提 示できると考える。 本研究は、台湾壱番屋 1 社のみを研究対象とするが、単一事例研究を方法 として採用した理由は、外食企業の国際化戦略がどのように展開されている のかを詳細な記述によって明らかにするためである。「どのように」という 研究課題に答えるためには、経時的で対象に密着した追跡が必要になること から、事例研究のアプローチが望ましいとされている(Yin,1994)。単一の 事例から得られた知見であっても、複雑性やプロセスを詳細に調べる場合に は研究方法として有効である(Marshall & Rossman, 1999)。
データの収集は、台湾壱番屋の管理部長 N 氏(2017 年 3 月 1 日)及び、 壱番屋本社海外企画部の部長代理 H 氏(2018 年 1 月 15 日)に対する半構造 化インタビュー調査により得られた。事例の記述は、主としてインタビュー のデータを元にしているが、それを補足するために、新聞や雑誌記事、同社 の広報資料及び社内資料などの文書化された資料も使用している。なお、イ
ンタビュー内容及び台湾壱番屋の社内資料から得られた情報は本文中の注を 省略する。
IV. 壱番屋の台湾進出事例
1. 壱番屋の概要と特徴 壱番屋は、創業者である宗次徳二氏が、自身の経営する喫茶店のメニュー の一つであったカレーライスの人気に手応えを感じ、1978 年にカレーライ ス専門店「CoCo 壱番屋」を創業したのが始まりである。 愛知県からスタートした壱番屋は、カレーという庶民的な料理を一大ビジ ネスに仕立て上げた。オープンしてから 4 年目の 1982 年に法人化され、そ の後も急成長を遂げた。2020 年 2 月基準で、国内に 1,262 店(直営店 153 店、 加盟店 1,109 店)を運営している。「CoCo 壱番屋」以外の業態としては、「パ スタ・デ・ココ」、「麺屋ここいち」、そして「にっくい亭」という外食ブラ ンドを展開している。同社の海外事業は、1994 年にハワイに 1 号店を出店 することから始まる。現在は「カレーハウス CoCo 壱番屋」の海外展開を積 極的に進めており、13 の国と地域に出店している6)。CoCo 壱番屋の海外展 開は、日本式カレーライスを世界に展開すると共に、壱番屋のおもてなし (社是)である「ニコ・キビ・ハキ」(いつもニコニコ笑顔で、キビキビと動 き、ハキハキと受け答えする)を世界共通語にすることを目的としている。 日本式カレーライスをベースに、トッピング、ご飯の量、カレーの辛さを自 分の好みに選べる楽しさを提供するのが特徴である。 壱番屋は、「顧客重視の経営」の実現を目標として様々な取り組みをして きた。その一例として、1987 年から全店舗に、苦情や要望を聞くアンケー トはがきを設置し、創業者自身が毎日全てに目を通し7)、改善を行ってき た。また、同社はフランチャイズチェーン展開をするに当たり、店舗拡大を 急がず、まず「人」を育てることを最優先にしてきた8)。1980 年から続く、 独自ののれん分け制度「ブルーム・システム」がその表れである。ブルーム・システムでは、フランチャイズオーナーになる条件として、「まずは壱 番屋の社員になること」を規定している。オーナーを募集し、研修をさせて 独立開業となるのが一般的なフランチャイズであるが、ブルーム・システム では、まず正社員として働き、店舗での店舗運営を学び、その後に独立する のが特徴である9)。なお、壱番屋は、各加盟店の売上の一定比率を受け取る ロイヤルティ制度ではなく、カレーソースなどの食材の販売収入が柱になっ ている10)。 2. 台湾の外食市場 次に、台湾の外食市場の状況について簡単に紹介する。台湾の外食率の 高さは、広く知られており、朝食から外食する人も多い。実際、6 割以上の 人々が、朝食と夕食の両方を週 4 回以上外食するという結果も報告されてい る11)。 台湾の経済部統計処によると、2017 年の外食業の売上高は 6,266 億元に 達した。独立系外食店の売上高は約 65%(4,093 億元)で、外食チェーン店 (2,173 億元)のおおよそ 2 倍となっている。2013 年度の実績と比較すると、 外食チェーンは 11%増加しており、4.4%増えた独立系外食店よりも増加率 が高い。業種別の売上高では、フルサービスレストランが約 42% と最も大 きい割合を占めており、次がファストフード、屋台、ホームデリバリー / テ イクアウト、カフェ / 居酒屋の順となっている(ジェトロ、2018)。このこ とから、台湾では独立系に比べ外食チェーンの売上が増加してきており、中 でもフルサービスを提供するレストランの割合が高いことがわかる。 3. 台湾市場への進出 2005 年、台湾壱番屋はそれまでハウス食品(株)が運営していたカ レーハウスレストラン事業を大幅に改編することから始まる。ハウス食品 (60%)、壱番屋(20%)、そして現地企業(台東興業 20%)の 3 社合弁会社 『台湾カレーハウスレストラン株式会社』を設立し、新たに事業を開始し
た12)。そして同年 9 月に、台湾 1 号店となる「カレーハウス CoCo 壱番屋」 台北漢口店を出店する。続いて、2008 年には高雄、2012 年からは中部、東 部都市にも進出し、そのスピードを加速している。 2017 年 3 月にはこれまで運営してきた『台湾カレーハウスレストラン株 式会社』に対する子会社化が行われ13)、ハウス食品の 60% を含む 80% の 議決権を壱番屋が取得し、社名も『台湾壱番屋株式会社』に変更となった。 2020 年 2 月現在、25 店を運営している。 4. 台湾壱番屋の国際化戦略 (1)可視的要素 ① 物理的な環境(店舗開発) 台湾における店舗展開は、先述のように、2005 年に「CoCo 壱番屋」台北 漢口店をオープンしたことに始まる。出店当時は、それに先駆けて約 1 年前 に開店していた上海の「CoCo 壱番屋」中国 1 号店が店舗開発の手本となっ た14)。台湾壱番屋は中国での経験を活かし、台湾においてもファストフー ド店ではなく、洋食レストランというポジショニングで進出を行った。20 代から 30 代の女性をターゲットに設定し、店舗の内外装の設計においても デザイン性を高め、洗練された空間を演出した(写真 1 左を参照)。また、 カウンター席はほとんど設けず、友人同士や家族で食事を楽しめるようテー ブル席の割合を高くしている。来店客における女性の割合が 2 割弱の日本と は異なり15)、台湾では顧客の 6 割が女性であり、こうした若い女性をメイ ンターゲットにした店舗開発の成果は、来店客の数値でも確認できている。 一方、これは壱番屋を含め、台湾に出店している日系外食チェーン全体 にみられる傾向であるが、従来の店舗は中間層以上を目標顧客として設定 し、主要商業施設を重点エリアとして考えていたため、店舗設計がオーバー スペックになりがちであった。同社も 2012 年までは、平均 40 坪位以上の面 積に 50 席以上の席数を確保する、いわゆるレストラン店の展開を行ってい た。洋食レストランとして、顧客にゆったりとした空間を提供するためには
当然の選択であった。しかし、2012 年以降は、新たな方針として約 30 坪で 40 席前後の小型店舗を出店し始めた。美麗華店、坂橋 GM 店、松山商場店 などがこれに該当する。これは、都市部の商業施設など、狭小地が多いエリ アでも柔軟に出店できるようにした業態である。この小型店は、従来型の店 舗よりも初期投資費用を抑えられるだけでなく、客席回転率も高いことが特 徴である。 外食企業は現地市場において、新規出店や閉店を繰り返しながら、様々な 経験を積んでいる。ただしここで、閉店の原因が必ずしも業績悪化によるも のだけではないことを理解しておく必要がある。例えば、2017 年 3 月に閉 店した壱番屋の店舗も、実際には売上高では台湾で 3 番目に高い店舗であっ た。この店舗は、現地の不動産契約期間満了によって閉店を余儀なくされ たが16)、海外では同様のケースが少なくない。台湾は、不動産価格の上昇 が継続しており、台北市内の物件の賃料は非常に高くなっている。また、50 坪以上の物件の場合、レストランを開業するためにはバリアフリーの環境な ど一定の基準を満たさなければならないという規制がある17)。こうした現 地の規制をクリアした物件は非常に限られるというわけである。 こうした状況の中、台湾壱番屋は、2015 年から現地顧客との接点を高め ると共に、利便性を考慮した業態の開発に取り組み、テイクアウト専門店の 「Express」と、フードコート店の「Kitchen」を開発した。「Express」店は新 幹線主要駅である台北駅や高雄駅の構内に出店しており、メニューも 6 種類 に限定し販売している(写真 1 右を参照)。また、百貨店などのフードコー トに出店した「Kitchen」店では、カレーの種類を通常のレストラン店より 減らし、パスタなどのサイドメニューも少数に絞り込んで対応している。こ のような新業態開発の背景には、日本とは異なる現地の不動産事情に適応し ようとする同社の努力の面が大きい。出店候補物件が挙がってくると、それ に合わせ日本本社から担当者を送り込み、台湾法人の責任者と共に実際の物 件を調査する。これまで開発された業態は、現地と本社担当者の継続的なコ ミュニケーションの中で生まれたアイディアである。こうした新たな店舗形
態の開発によって様々なロケーションに対応できるようになり、出店可能な 物件の幅も広がった。 同社の店舗展開における重点エリアは、商業地域や台北駅の周辺であり、 また中山・松江南京周辺ビジネス街の路面店を注目してきたが、家賃高騰 により現在(2017 年 3 月)は出店を控えている状態である。2016 年頃から は出店数にこだわらず、確実に収益が見込める物件の確保を最優先としてい る。 これまで台湾壱番屋が開発してきた業態の代表的店舗を比較すると、表 1 の通りである。進出初期から継続的に面積や席数、そしてメニュー数などを 調整しながら、新業態を開発していることが見て取れる。 ② 商品開発18) 台湾壱番屋の商品は、日本のメニューを基本としており、日本の定番メ ニューである「ロースカツカレー」などは日本と同じ味で提供されている。 しかし、台湾では中国の「CoCo 壱番屋」のように、洋食レストランという ポジショニングに合わせ、パスタやサイドメニューといったカレー以外のメ ニューを取り入れているのが日本と大きく異なる点である。これは、メイン ターゲットとしている女性客の中にはカレーを苦手とする顧客がいることを 台北漢口店 高雄左営高鉄 Express 店 出所:台湾壱番屋ホームページ。 写真 1 台湾「CoCo 壱番屋」店舗
想定した対応である。ここで、パスタ関連メニューの導入においては、中国 の壱番屋の経験が生かされた。 一方で、カレーの辛さやトッピング、そしてご飯の量が選べる注文方式は 日本と同様であるが、辛さの段階は 1 段階から 7 段階(甘口、普通、1 辛∼ 5 辛)までとなっており、12 段階(甘口、普通、1 辛∼10 から)まで設定し ている日本とやや異なる。辛いものに対する感覚の違いからくる辛いカレー に対する需要の少なさを反映して独自の辛さの段階を設定している。また、 辛さの段階を上げる際に追加料金がかかる日本と違い、台湾では無料で辛さ の調節が可能である。実際の注文率を確認すると、「普通」の辛さを注文す る顧客が圧倒的に多い。なお、2015 年 6 月から日本で始まった甘さを選択 できるサービスは、台湾では導入していない。 台湾での商品開発は、現地法人が考案し、日本本社から訪れた担当者と意 見交換を通して商品化されていく。台湾壱番屋は他の海外法人よりも現地 市場向けのメニュー開発に積極的に取り組んでいる。その代表的なものが、 「オム(オムレツ)カレー」である。この商品は、卵料理を好む台湾人の嗜 表 1 台湾壱番屋の業態開発への取り組み 各業態例 レストラン店 小型店 Express 店 Kitchen 店 店舗面積 208.3 ㎡ 90.8 ㎡ 11.6 ㎡ 46.3 ㎡ 席数 60 34 0 0 客単価 264 元 237 元 168 元 203 元 出店時期 2008 年 2012 年 2015 年 2015 年 メニュー数 カレー、パス タ、ドリア他 27、サラダ、 スープ、ドリ ンク カレー、パス タ、ドリア他 27、サラダ、 スープ、ドリ ンク カレー 6、サラ ダ、ドリンク カレー 15、サ ラダ、スープ、 ドリンク 出所:台湾壱番屋の内部資料をもとに筆者が修正・加筆。
好を反映して開発されたメニューである。実は、台湾から新メニューとし て「オムカレー」が提案された際、日本の本社からは反対の声もあった。そ の理由は、オペレーションが困難なフライパンメニューであったからであ る。卵を使ったメニューは、調理の作業が複雑で、厨房の従業員が習得する のも簡単ではない。ただし、店舗のポジショニングが日本とやや異なる洋食 レストランとなっており、料理の提供に多少時間が掛かっても、大きな問題 にはならないという理由などから、最終的には承認されたのである。結果、 顧客から好評を博し、現在は台湾で定番メニュー化している。実際、「オム カレー」関連メニューの注文率は、全体メニューの中で約 36%を占めてい る。ランキングを確認すると特に人気なのが「チキンカツオムカレー」(2 位)と「ロースカツオムカレー(写真 2 右)」(3 位)である19)。現地店舗の 注文メニューベスト 10 位の中で、6 つが「オムカレー」関連メニューとなっ ており、いかに現地市場で受け入れられているかが伺える。「チーズカレー」 (1 位)や「ロースカツカレー」(2 位)、「ほうれん草カレー」(3 位)、「やさ いカレー」(4 位)が毎年上位を占めている日本に比べると20)、その違いは 明白である。なお、台湾で開発した「オムカレー」関連メニューの多くは、 韓国や中国などの壱番屋でも採用され、現在では定番メニューとなってい る。なお、最近(2017 年 3 月)の例としては「麻婆オムカレー(写真 2 左)」 を開発し、中国壱番屋に移転した。 写真 2 台湾壱番屋の「オムカレー」関連メニュー 麻婆オムカレー キノコクリームオムカレー ロースカツオムカレー 出所:台湾壱番屋ホームページ。
また、「セットメニュー」を導入したのも台湾壱番屋である。進出当時、 台湾壱番屋は、カレーライスという単品メニューだけでは洋食レストラン として顧客に十分な満足を与えることができないと認識していた。同時に、 トッピングの注文率が高い日本に比べ、大半の顧客がトッピングをそれほど 好まないことも悩みの種であった。そうした中、台湾では外食する際に単 品のメイン料理だけでなく、色合いを考慮して多様な料理が盛り付けられた メニューが好まれるという点に着目し、「セットメニュー」を新たに導入し たのである。これは一般的なファミリーレストランではごく普通のメニュー であるが、これまでファストフード店的な傾向が強かった日本の壱番屋と しては必要性の無いものであった。台湾壱番屋が開発した「選べるセットメ ニュー」は、A・B・C の 3 つに設定され、飲料、スープ、サラダ、そして デザートが選択できる。こうした同社のアイディアは現地消費者に見事に受 け入れられ、セットメニュー注文率約 55% という結果につながった。この セットメニューのサービスも、現在は中国や香港、そして韓国などの壱番屋 に拡がっている。 ③ 価格設定 価格についてみると、定番メニューである「ロースカツカレー」が台湾で は 245 元(約 900 円)であったが、日本では 809 円となっている。メニュー によっては、日本と変わらないものもあれば(例えば、「フライドチキンカ レー」は台湾では約 735 円で、日本では 757 円)、日本より安いメニューも (例えば、「ほうれん草カレー」は台湾では約 588 円で、日本では 745 円)、 高いメニューも(「シーフードカレー」は台湾では約 1,010 円、日本では 818 円)ある21)。メニューの価格に関しては、直接比較することは無理がある かもしれないが、基本的には日本と同水準に設定されているといえる。た だ、現地の物価水準を考えると全体的にやや高価格の食事である。また、 2018 年 2 月基準で客単価を比較すると、台湾は 950 円(1 元= 3.7 円で換算) で日本の 922 円より高い(株式会社壱番屋、2018)。日本より客単価が高い 理由としては、先述のように、台湾の壱番屋は短時間でカレーだけ食べる
ファストフード店ではなく、洋食レストランとして位置づけられており、単 品ではなくセットメニューを注文する顧客が多いためである。 ④ プロモーション活動 台湾でのプロモーション活動は、主にホームページや SNS を利用して実 施している。その内容は新規出店情報、新メニュー発売情報、祝日に合わせ たイベント情報など、日本と類似したものが多い。特に Facebook を通じた 口コミ効果を狙い、多様なイベントを企画・発信している。プロモーショ ンの実施時期は基本的に現地基準で進められている。例えば、母の日(母 親節)や子供の日(児童節)、そして中秋の名月には、ドリンクの無料券を 配布するなどのイベントを実施している。直近ではハロウィンに合わせ、 「Happy Halloween」という子連れ客向けのイベントを企画し、子供に玩具を プレゼントするプロモーションを行った。それに合わせ、子供向け食事メ ニューのバリエーションを増やす対応もしている。 ⑤ 従業員教育 現地店舗の従業員教育については、壱番屋独自のシステムを採用してい る。現地従業員のマニュアルは日本のマニュアルをベースに現地状況を勘案 したものが用いられている。日本では 1 人の従業員が調理や接客、そしてレ ジも担当する、いわばマルチプレイヤーである。現地でも基本的に同等のス キルを習得させるために取り組んでいるが、店舗の大きさなどの違いから 分担制で実運用されている。また、現地では壱番屋のおもてなしである「ニ コ・キビ・ハキ」を実践するため従業員教育を徹底している。なお、従業員 教育は、現地法人に全てを任せるのではなく、定期的に日本本社から担当者 が台湾を訪れ、現地スタッフを対象に教育を実施している。 (2)不可視的要素 ① 食材調達システム 台湾壱番屋では、基本的に日本と同じクオリティーの料理が食べられる。 店舗の裏側では、注文を受けると、寸胴鍋からカレーソースを小鍋にすく
い、1 人前ずつ温める。カツなどの揚げ物類の注文がある場合は、その都度 調理し、アツアツの状態で提供される。こうしたシステムは日本と同様であ る。 海外市場に一定水準の料理を提供するためには、食材の調達が非常に重要 である。基本的に壱番屋はカレーは輸入し、それ以外の食材は現地調達方式 を採用している。台湾壱番屋のカレーの味は、日本と同じである。標準化し たカレーの味を現地消費者に提供するため、日本から直接調達しているので ある。日本から輸入したカレーソースは現地の各店舗で若干加工した後に提 供される。このように、壱番屋はカレーの味を均一にしており、自社サービ スのコアの部分を妥協せず、現地に拡げていることがわかる。一方、カレー 以外の米や野菜、そして肉類などの食材は現地で調達している。こうした食 材の手配や配送、保管などは現地業者に委託している。これらの業務は、一 般的に現地の合弁相手が担当するケースが多いが、大東興業は食材調達など に関する業務は行わず、主として店舗用食器の輸入業務を担っている。 ② 組織システム 日本では、店舗展開において独自のブルーム・システムを導入し、店舗を 拡大してきた。しかし、台湾では、ブルーム・システムによる展開も検討し たが、すべての店舗を直営で運営している。直営店方式で展開することで、 現地顧客の声を商品開発などに迅速に反映することができたと推測できる。 これまで台湾法人には、日本のハウス食品から駐在員を派遣し、本国で 培ってきた駐在員の知識や経験を現地での事業活動に生かしてきた。現地に 派遣される前には、一定期間壱番屋の名古屋本社に出向することが多い。こ こで店舗運営に関する様々な教育を受けてから現地へ派遣され、壱番屋本社 とハウス食品国際事業部との協力のもとで事業活動を進めている。 5. 台湾での経営成果 壱番屋の台湾事業の成果は表 2 の通りである。決算時期の変更に伴い、9 か月間の合計額となった 2017 年度を除けば、比較的順調に業績を伸ばして
いることが見て取れる。また、台湾では店舗運営を直営形式で行っているた め、店舗数が急増こそしていないものの、着実に増加している。2005 年に 1 号店を出店して以来、2008 年には 3 店舗、2010 年には 6 店舗(レストラン 店)まで店舗を増やした。その後 2012 年から展開した小型店の影響により、 2012 年の 12 店舗から 2013 年には 19 店舗まで拡大することになる。また、 2015 年から開始した「Express」と「Kitchen」の出店によって、さらに店舗 数が増加し、今に至る(25 店舗)。 近年、台湾では、日系コンビニエンスストアのカレー弁当やハウス食品の カレールウの販売拡大などにより、カレーライスの普及が加速している。進 出当初、カレーライス専門店は存在していなかったが、現在は、本格的な日 本式カレーライスを提供する現地の外食チェーンも複数登場している。台湾 壱番屋は、現地に日本式カレーライスという食文化を定着させるに当たり、 中心的な役割を果たしている。 表 2 台湾壱番屋の売上高の推移 (単位:百万円) 出所:各年の『決算説明用補足資料』を参考に筆者作成(2017 年度は 9 か月決算)
V. 考察
1. 事例の要約 本研究では、サーバクション・フレームワークをベースに、壱番屋が、ど のように台湾市場を開拓してきたかについて検討した。 壱番屋は、台湾出店の約 1 年前に中国 1 号店を上海に出店しており、その 際、上海向けに開発した店舗コンセプトに、ある程度手応えを感じていた。 つまり、壱番屋は日本の「CoCo 壱番屋」のコンセプトの中で、中国市場で も通用するコアの部分を見極めることができていたのである。そのため、そ の後の台湾 1 号店の出店においても、上海の店舗と類似したコンセプトで進 出を図ったのである。 台北などの大都市は先述した通り、不動産価格の顕著な上昇により出店可 能な物件が限られている現状である。台湾壱番屋は、こうした外部環境要因 と、店舗の収益改善という企業の内部要因を考慮し、これまでとは違う「小 型店」を開発した。提供するサービスは従来のレストラン店とさほど変わら ないが、店舗面積が狭くなった分、初期費用が抑えられた。その後も、顧客 接点の拡大を狙いつつ、現地の不動産事情に対応する形で新たな業態を開 発した。「Express」店と「Kitchen」店は、出店予定場所の視察段階で関与者 (ハウス食品、壱番屋)との相互作用によって生み出された業態である。こ のように、台湾壱番屋は、自社戦略と現地環境を考慮しながら、次々と業態 を開発していることが明確になった。 台湾では、こうした物理的な環境(店舗)の管理にとどまらず、提供する 商品(メニュー)においても様々な取り組みを行った。現地の食文化や嗜好 を考慮し、「オムカレー」に代表される新たなメニューを開発したのである。 現地では洋食レストランというイメージで出店していたため、見栄えのいい 「オムカレー」は現地顧客に受け入れられた。同時に、人気となった「セッ トメニュー」も、そうしたレストランとしての店舗コンセプトを定着させる 段階で生まれたアイディアである。さらに壱番屋は、台湾で開発したコンセプト(メニュー、業態)を中国や韓国など、第 3 国の壱番屋にも移転してい ることが明らかになった。 サーバクション・フレームワークで考えると、壱番屋は台湾市場におい て、可視的部分の中でも店舗デザインやメニューといった周辺的サービスの 部分を現地特性に合わせて積極的かつ継続的に開発していたことが明確に なった。これに対し、不可視的部分においては、特に、サービスの中核的な 部分であるカレーソースを日本から調達するシステムを構築し、このシステ ムによって日本と同様のカレー味を提供していることが判明した。 図 1 台湾壱番屋のコンセプト関連能力と組織体系 コンセプト コンセプト コンセプト 普遍化能力 再構築能力 移転能力 合弁同士の共通目標 意思決定権限のバランス 円滑なコミュニケーション 出所:筆者作成 2. 考察 ここでは、サービスにおけるコンセプトの概念を取り入れながら、壱番屋 の事例を検討する。とりわけ、ベネフィットをメニューや店舗デザインなど 目に見える形で表した外食サービスのコンセプトに注目し、考察する。 日本における壱番屋のコンセプトを言葉で表すと、「カレーライスを自分 好みにアレンジできる」であろう。このコンセプトの海外での普遍性は比較
的高いと考えられる。しかし、壱番屋はこのコンセプトを台湾で実現するた め、現地でも通用するコンセプトの中核要素(コアサービス)を見極めると 同時に、その中で普遍化できる部分を明確にした。このことは「コンセプト の普遍化能力」と呼ぶことができる。同社は自社が提供する多様なサービス 要素の中で、特有なカレーの味及び、辛さ・ご飯の量・トッピングが選択で きるという部分を普遍化し、台湾で受け入れられた。普遍化能力で重要なの は、このように現地市場で受け入れられるサービスの中核要素を見極めるこ とである。 台湾壱番屋は、顧客にコンセプトの普遍化した部分を理解してもらうため に、様々な工夫を施した。例えば、現地の文化を考慮した新たなメニュー の開発を通し、洋食レストランとしてのコンセプトを確かなものにした。ま た、企業の内部及び外部要因に対応しながら、新たな業態を継続的に開発 することでコンセプトを再構築した。「小型店」や「Express」など、新たに 開発した業態は、各々の面積やメニュー数などは異なるが、中核となるコン セプトは変わっていない。このように、異なる文化に合わせて周辺的サービ スの修正を行いつつ、本来のコンセプトを再現する能力を「コンセプトの再 構築能力」と名付ける。なお、壱番屋は、日本ではシンプルなカレーライ ス(例えば「ポークカレー」)にトッピングを乗せて食べるスタイルが主流 となっており、トッピングの注文が売上高に占める部分は大きい。しかし、 台湾では、トッピングの注文よりセットで食べるスタイルが人気となってお り、「セットメニュー」の高い注文率で収益を得ている。こうした収益モデ ルも現地市場で再構築したのである。 最後に、壱番屋は、現地で再構築したコンセプト(周辺的サービス)を台 湾市場のみならず、他の海外拠点にも積極的に移転させていることが確認さ れた。「オムカレー」関連の複数のメニューや「セットメニュー」を台湾で 開発・定着させ、中国や韓国、香港などの店舗へ拡大した。また、「Kitchen 店」などの新しいスタイルの業態も、韓国などの第 3 国に拡散させている。 このように、同社はベストプラクティスを海外の各拠点に移転できるシステ
ムを整えていることが明らかになった。これは「コンセプトの移転能力」と 呼ぶことができよう。 以上のように、サービスのコンセプトという観点から外食企業の国際化を 考えると、台湾壱番屋の国際化は、コンセプトの「普遍化→再構築→移転」 という一連のプロセスとしてとらえることができる。各々の段階は、台湾事 業の関与者同士がこれまでに得た情報や知識を共有・活用することで進展し た。 次は、こうした 3 つのコンセプト関連能力を支える組織の仕組みについて 検討する。1 つ目は、明確かつ共通した目標を持っていたことである。台湾 壱番屋は、ハウス食品及び壱番屋の本社、そして現地企業の 3 社による合弁 会社である。当初から現地での運営は、資本金の 60% を出資しているハウ ス食品に任されていた。壱番屋が「カレーレストラン」を通して「世界にカ レーライスを普及させたい」という目標を持っていたとするならば、ハウス 食品は「カレールウ」の販売によって「世界にカレーライスを普及させた い」という目標を持っていた。そのため、ハウス食品は外食事業がメインで はなかったが、「カレー」そのものについてはスペシャリストであったため、 目標に賛同しカレー普及に関する多様なアイディアを創出することができた と推測できる。 2 つ目は、現地責任者と日本本社の間で意思決定権限がバランスよく配分 されていたことである。特に、ハウス食品と壱番屋は、長い時間をかけて信 頼関係を構築しており22)、台湾事業においても互いの信頼がベースとなっ た事業展開がなされたと考えられる。意思決定権の所在について確認する と、実は、台湾壱番屋の現地事業に関する意思決定権限は、最終的には日本 の本社側が持つことが多い。例えば、新メニューや価格設定の場合、日本が 最終決裁権を有する。また、物件開発や店舗デザインについても日本が決定 権を持っている。もちろん、現地で決定できる一部事項もある。例えば、販 売促進の場合、その実施内容によっては台湾側が決定権を持つこともある。 同様に、人事採用においても、役職や業務内容次第で台湾と日本本社に意思
決定権が分かれる。ここで注目すべきは、最終的な決定権は日本側にあるも のの、台湾法人が提案するアイディアの大半は認めてもらえるということで ある。台湾壱番屋が次々と新たなメニューや業態を開発できた背景には、こ うした現地の意見が尊重される仕組みの存在があった。 3 つ目は、日本の本社と台湾壱番屋の間で円滑なコミュニケーションが取 れていたことである。台湾壱番屋は、壱番屋及びハウス食品本社の国際事業 部と積極的に意見交換ができる協力体制を構築している。事業関与者たちの 話し合いは主に、対面コミュニケーションで行われていた。日本からの出張 者は、概ね半月に 1 回のペースで現場に立ち会った。それにより、近年多数 の企業が採択しているオンライン会議システムよりも高い相互理解が得られ たと予想できる。特に、壱番屋とハウス食品がこれまで蓄積してきたカレー 普及に関する知識や経験は、こうしたコミュニケーション活動を通して十分 に共有され、現地での事業展開に生かされたと考える。
VI. おわりに
本研究は、外食企業の国際化戦略をサービスの観点から考察することを目 的に、壱番屋の事例を用いて検討した。その結果、台湾壱番屋の国際化を、 サービスコンセプトの展開プロセスとしてとらえることができた。それに伴 い、壱番屋はコンセプトに関する 3 つの能力を有することが明らかになっ た。まず、海外でも通用するコンセプトの中核要素(コアサービス)を見極 め、普遍化できる部分を明確化する「コンセプトの普遍化能力」、また、現 地状況に合わせて周辺的サービスの修正を行いつつ、本来のコンセプトを再 現する「コンセプトの再構築能力」、そして、周辺的サービスに関するベス トプラクティスを海外の各拠点に移転する「コンセプトの移転能力」であ る。なお、本研究ではこれらの能力を支えている組織体系も明確にした。 本研究の学術上の意義としては、サービスの概念を用いた先行研究が乏し い現状に対し、サービスのコンセプトに焦点を当てた事例研究を通じて理論構築に向けた第一歩を提示したことにある。つまり、外食企業の国際化をコ ンセプトの「普遍化」「再構築」「移転」という活動が実現されていくプロセ スとして捉えたのである。また、コンセプトを再構築するプロセスにおい て、現地の創造的な取り組みを許容する組織体制の重要性を提示した。外食 企業の海外展開において、最初から普遍化すべき要素を明確に提示するより は、不明確な部分を残すことが創造的な取り組みを誘発する動因ともなるこ とを示したのである。 次に、実践上の示唆としては、第 1 に、外食企業が国際化を推進する際、 コンセプト関連能力に焦点を当てることによって、その効果を高める可能性 があることを示した。第 2 に、「コンセプト普遍化能力」や「コンセプト再 構築能力」などの概念は、サービスの海外展開に係る企業レベルで検討が可 能なものであり、今回分析した外食企業に限らず、多様なサービス企業にお いて応用可能なものである。第 3 に、事例研究を通じて提示した 3 つの能力 は、企業の目標や意思決定権限といった組織的構造によって支えられている ことを指摘した。この組織体系に対するマネジメントこそが、外食企業の国 際化において重要な役割を果たすことを示唆している。 しかし、本研究はいくつかの課題も有する。第 1 に、外食企業の国際化戦 略におけるコンセプト関連能力の重要性について議論した本研究は、国際 化プロセスの中で主に「普遍化」と「再構築」の活動に焦点を当てており、 「移転」に関する詳細については追加的な研究を要する。第 2 に、本研究が 示している結論は単一の事例から導いたもので、仮説的なものに留まる。1 つの企業に焦点を当てることで様々なレベルの事業活動を検討することが できたが、そこから得られた知見を一般化するにはさらなる研究が必要であ る。とりわけ、今後は、原産国イメージの影響を受けやすい外食企業や、顧 客との接点が比較的少ない(セルフ・サービス型)外食企業への適用可能性 も検討していきたい。
*謝辞 本研究の執筆に当たり、台湾壱番屋株式会社、株式会社壱番屋、ハウス食品 グループ本社国際事業部の担当者の方々にご協力を頂いた。ここに記して心 より感謝申し上げたい。本研究においてありうる誤謬はすべて筆者の責任で ある。なお、本研究は、科学研究費補助金(課題番号:16K03957、研究代 表者:金炯中)による成果の一部である。 注 1)Gilbert(2004)は外食チェーン店の顧客満足度を 4 か国で実施しており、 Laroche(2005)は外食店舗のおけるクーポンの選好度を複数の国で分析し、 その違いを明らかにした。
2)S-D ロジックに関する詳細は、Vargo & Lusch(2004)を参照。
3)Normann(1984)が提示したベネフィットは、その重要性に注目し「コアサー ビス」と「周辺的サービス」に分類されている。 4)成功の鍵要因としては、コンセプトの力、ビジネスシステムの翻訳、経営理 念の伝道、空間あるいは「場」の輸出、の 4 つがあり、その背後要因として 「モノの助け」が挙げられている。 5)彼らの提示するモデルは、初期参入(initial entry)、現地市場拡大(local market expansion)、グローバル合理化(global rationalization)の 3 段階に構成 される。 6)具体的には、中国、イギリス、台湾、アメリカ(本土)、香港、タイ、韓国、 アメリカ(ハワイ)、シンガポール、インドネシア、マレーシア、フィリピ ン、ベトナムに進出している。詳細は、株式会社壱番屋(2020)『2020 年 2 月 期決算説明資料』を参照。 7)はがきの内容は良い評価と悪い評価に分けて『店舗運営ヒント集』として毎 月全店に配布された。 8)日経ビジネス(2020.4.13.) 9)独立開業前に店舗経営のノウハウを徹底的に習得させるため、フランチャイ ズの継続率が約 90% に達する。詳細は、東洋経済(2019.7.9.)を参照。 10)日本経済新聞(2005.5.20.) 11)川端(2016)218-219 を参照。 12)台東興業は、台湾において元々ハウス食品の食品輸入代理業務を担当する企 業であった。
13)その背景には、約 2 年前の 2015 年 12 月に壱番屋がハウス食品グループ本社 の子会社となり、海外の外食事業については本家である壱番屋が直接担当す ることが好ましいとする判断があった。 14)2004 年 6 月、ハウス食品と壱番屋は中国に合弁会社「上海ハウスカレーココ 壱番屋レストラン有限会社」を設立している。 15)2018 年度基準で男性客は 75.7%、女性客は 19%、子供は 5.3% であった。「2019 年 2 月期第 2 四半期決算説明用補足資料」を参照。 16)現地では 3 年(または 5 年)契約が一般的であるが、再契約をしない事も多 い。 17)野村総合研究所(2017)を参照。 18)この項目は、サーバクション・フレームワークには提示されていないが、外 食企業の提供するサービスには「料理」という商品が重要となるため、新た に追加した。これに合せ、価格とプロモーションも追加した。 19)台湾壱番屋の注文メニュー第 1 位は「ロースカツカレー」である。台湾壱番 屋社内資料(2017)。 20)壱番屋の『決算説明用補足資料』2017 年、2018 年、2019 年、2020 年を参照。 21)価格については、台湾と日本の公式ホームページを参考に調べた。現地通貨 での価格は(2020 年 10 月現在)、「フライドチキンカレー」は 200 元、「ほう れん草カレー」は 160 元、「シーフードカレー」は 275 元である。 22)壱番屋は創業当初からハウス食品のカレールウを使用しており、早い時期か らハウス食品は壱番屋の株式の一部を所有していた。 【参考文献】
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