はじめに
平面代数曲線には長い歴史がある.古代ギリシャ時代には,直線 と円のユークリッド幾何学に続いて,楕円,放物線や双曲線などの 円錐曲線が研究された.17 世紀中頃,座標を用いて図形を考える ことが始まった.デカルトの座標幾何である.この立場では,円錐 曲線は2 次曲線と理解され,より高次の曲線が研究対象になった. 17 世紀後半には,早くも実 3 次曲線の分類がニュートンによって 行われている.ニュートンは特異点解析の創始者でもある.その 後,パスカルのカタツムリ曲線,カッシーニの卵形曲線,ベルヌー イのレムニスケート曲線などの特殊な曲線が研究された. 一方,18 世紀後半から 19 世紀前半には,近代絵画や図学におけ る射影の概念から,射影幾何が発展した.モンジュやポンスレー,vi はじめに 同次座標を導入したプリュッカーなどがその代表的研究者である. 平面曲線も,射影平面曲線の枠組みで研究されるようになった. 19 世紀中頃,リーマンにより双有理幾何の重要性が提唱され, 代数曲線論の一大転機となった.続いて,クレプシュ,マックス・ ネーター等により,代数曲線における双有理幾何の基礎が構築され た.その後も,代数曲線は魅力的な研究テーマであり続け,現在に 至るまで,活発に研究されている. 本書は平面代数曲線の平易な入門を目標にしている.第1 章で は,歴史的に有名な曲線について概観する.第2 章では,多項式 の基本事項を復習する.多項式は意外に奥が深いものである.第 3 章では,アフィン平面曲線を定義し,アフィン変換,接線,特異 点などについて述べる.第4 章では,終結式を導入し,平面曲線 への応用を述べる.第5 章では,射影平面に舞台を移し,射影平 面曲線を考察する.射影変換,特異点,接線,変曲点などについて 述べる.平面曲線論の基軸になるのは,二つの曲線の交点の個数 に関するベズーの定理である.第6 章では,最初に,直線と 2 次 曲線に関する射影幾何を扱い,複比の原理や円錐曲線上の6 辺形 に関するパスカルの定理を述べる.次に,3 次曲線の射影同値類に ついて議論する.第7 章は,特異点における局所解析の話である. べき級数を導入し,ブローイング・アップの手法を解説する.
vii 各章の末尾に「発展」として,関連する興味深いトピックスやも う少し先の段階で必要になる概念に触れておいた.最初に読むとき には,この発展の部分は省略しても差し支えない. 本書の主要部分は1998 年から 2011 年にかけて,埼玉大学,学 習院大学,およびその他の大学で行った講義や集中講義を基にまと めたものである.講義の準備には,標準的な教科書であるFulton [17] や Walker[31] をはじめ,多くの文献のお世話になった.有名 な曲線の性質を整理したWeb サイト Famous Curves Index1)も参 考にした.また,曲線の描画には,戸野恵太氏制作の公開ソフト ICURVE2)と堀井雅司氏によるWinTpic を用いた.美しい曲線を 描くことができたのは,これらの優れたソフトのおかげである. 最後に,本書執筆をお勧めいただいた飯高茂先生(学習院大学教 授)に,永年のご指導とご厚情を深く感謝したい.また,出版に際し てお世話になった共立出版の野口訓子さんにお礼を申し上げたい. 2012 年 2 月 酒井文雄 1)http://www-groups.dcs.st-and.ac.uk/history/Curves/Curves.html 2)http://www.saitama-u.ac.jp/lab.jp/FumioSakai.html