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昭和60年法律第34号による改正前の厚生年金保険法に基づく障害年金の支分権の消滅時効の起算点

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判 例 研 究 名 経 法 学  第40 号(2018 年 )

昭和60 年法律第34 号による改正前の

厚生年金保険法に基づく障害年金の

支分権の消滅時効の起算点

最高裁判所 第三 小法廷平成29 年10 月17 囗判 決( 平成29 年( 行ヒ) 第44 号, 障害年金請求事件, 上告棄却) 裁判所時報1686 号1:葭 〔参照条文〕 厚生年 金保険の保 険給付及 び国民 年金 の給付に係 る時効の 特例等に関 する 法律附則4条, 会計法30 条,31 条2項,民 法166 条1項

濱  囗 弘太郎

【 事 実】 X は, 厚 生 年 金 保 険 の 被 保 険 者 で あ っ た が, 1970 ( 昭 和45 ) 年 6 月, 交 通 事 故 に よ っ て 左 下 腿 を 切 断 す る 傷 害 を 負 っ た 。 X は, 2011 ( 平 成23 ) 年 6月 , 厚 生 年 金 保 険 法47 条 ( 昭 和60 年 法 律 第34 号 に よ る 改 正 前 の も の 。) に 基 づ き , 障 害 年 金 の裁 定 及 び そ の 支 給 を そ れ ぞ れ 請 求 し た 。 こ れ に 対 し て , 厚 生 労 働大 臣 は, 2011 年 8月 , X に 対 し, 1970 年 6月 に 年 金 受 給 権 を 取 得 し た も の と し て , 障 害 年 金 の 裁 定 を 行 っ た 。 し か し , 厚 生 労 働 大 臣 は , 厚 生 年 金 保 険 法36 条 (1990 ( 平 成2 ) 年 2 月 1 日 よ り 前 に つ い て は, 平 成 元 年 法 律 第86 号 に よ る 改 正 前 の も の。 以 下 , 同 じ 。) 所 定 の支 払 期 か ら 5年 を 経 過 し た 障 害年 金 に つい て は, そ の 支 給を 受 け る 権 利 が 時 効 に よ り 消 滅 し て い る と し て, 同年 金 を 支 給 し な か っ た 。 X が, 厚 生 年 金 保 険 の 障 害 7θ5

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年 金 の受 給 権 の 消 滅時 効 は, 上 記 裁 定 の 時 か ら 進 行 す る と 主 張 し て, 国 に対 し , 支 給 さ れ なか っ た 同年 金 の 支 払 いを 求 め たの が 本 件 であ る。 原 審 の 札 幌 高 判 平 成28 年10 月13 日 ( 平 成28 年 ( 行 コ)15 号 ) の 内 容 は 確 認 で き て い な い が , 結 論 と し て は, X の 請 求 を 棄 却 し た よ う であ る。 X が, 上 告 。 【判 旨】  上 告棄 却 [ ̄厚 生 年 金 保 険 法47 条 に 基づ く 障 害年 金 の 支 分 権 ( 支 払 期月 ご と に 支 払 う も の と さ れ る 保 険 給 付 の 支 給 を受 け る 権 利 ) は,5年 間 こ れ を 行 わ ない と き は時 効 に よ り 消滅 し ( 厚生 年 金 保 険 の 保 険 給 付及 び 国民 年金 の給 付 に 係 る時 効 の 特 例 等 に 関す る法 律 附 則 4条 , 会 計 法30 条 ), そ の 時 効 は, 権 利 を 行 使 す る こ と がで き る 時 か ら 進 行 す る ( 会 計 法 31 条 2 項, 民 法166 条 1 項 ) と こ ろ , 上 記 支 分 権 は, 厚 生 年 金 保 険 法36 条 所 定 の 支 払 期 の 到 来 に よ り発 生 す る も の の, 受 給 権 者 は, 当 該 障 害年 金 に 係 る 裁定 を受 け る 前 に おい て は そ の 支 給 を受 け る こ と が で き ない 。 し か し な が ら, 障害 年 金 を受 け る 権利 の 発 生 要 件 や そ の 支 給 時 期, 金 額 等 に つい て は, 厚 生年 金 保 険 法 に 明 確 な 規定 が設 け ら れ て お り, 裁定 は, 受 給 権 者 の 請 求 に 基づ い て 上記 発生 要 件 の 存 否等 を公 権 的 に 確認 す る もの に す ぎ な い ので あ っ て ( 最 高 裁 平 成 3年 ( 行 ツ ) 第212 号 同 7年11 月 7 日 第三 小 法 廷 判 決 ・ 民 集49 巻 9 号2829 頁 参 照 ), 受 給 権 者 は, 裁 定 の 請 求 を す る こ と に よ り, 同 法 の 定 め る と こ ろ に 従 っ た 内 容 の 裁定 を受 け て 障害 年 金 の 支 給を 受 け ら れ る こ と と な る の で あ る か ら, 裁定 を受 け て い な い こ と は, 上 記 支 分 権 の 消 滅時 効 の 進 行 を 妨 げ る も ので は な い と い う べ き で あ る 。 し た が っ て, 上 記 支 分 権 の 消滅 時 効 は, 当該 障害 年 金 に 係 る 裁 定を 受 け る 前 であ っ て も, 厚生 年 金 保 険 法36 条 所 定 の 支 払 期 が 到 来 し た 時 か ら 進 行 す る もの と 解 す る の が 相 当 であ る。」 7θ6

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帥60 年法蒻34 号による改正前の厚生年金保鯰 に舮川 讎 年金の支分権の齟 賤 の起勦 (卸 ) 【 評 釈 】 1  本 判 決 の 意 義 本 判 決 は , 厚 生 年 金 保 険 法 に 基 づ く 障 害 年 金 の 支 分 権 に つ き , 会 計 法31 条 2 項 , 民 法166 条 1 項 を 適 用 し , 裁 定 を 受 け る 前 で あ っ て も , 厚 生 年 金 保 険 法 所 定 の 支 払 期 が 到 来 し た 時 か ら , 消 滅 時 効 が 進 行 す る こ と を 明 ら か に し た 。 本 判 決 は , 従 来 , 高 裁 レ ベ ル で 判 断 が 分 か れ て い た , 厚 生 年 金 ・ 国 民 年 金 の 支 分 権 の 時 効 起 算 点 を 巡 る 実 務 上 の 議 論 に 終 止 符 を 打 っ た も の で あ り , こ の 点 て , 意 義 が あ る1 。 ま た , 本 判 決 は , 法 律 上 , 権 利 の 行 使 を 妨 げ る 事 由 が あ る に も 関 わ ら ず , 消 滅 時 効 の 進 行 が 妨 げ ら れ な い 旨 を 判 示 し た も の で あ り , 時 効 起 算 点 に 関 す る 議 論 に も 影 響 を 及 ぼ す も の と 思 わ れ る 。 以 下 で は , 厚 生 年 金 受 給 権 の 消 滅 時 効 に 関 す る 法 規 を 確 認 し , 学 説 及 び 裁 判 例 を 概 観 し た 上 で , 本 判 決 の 意 義 に つ い て 検 討 を 行 う 。 2  厚生 年 金 受 給 権 の 消滅 時 効 に関 する 法 律 (1) 検 討 を 始 め る に 当 た っ て , 厚生 年 金 受 給 権 の 消 滅 時 効 に 関 す る 法 律 の 規 定を 確認 し て お く。 (2) 年 金 は , 反 復 継 続 し て , 金 銭 の 給 付 を 行 う も の で あ る 。 継 続 的 な 債 権 関 係 で あ り, 支 分 権 と, 支 分 権 発 生 の 根 拠 と な る 基 本 権 を 観 念 す る こ と が で き る。 支 分 権 は, 具 体 的 な 支 払 期 に 実 際 に 金 銭 の 支 払 を 受 け る 権 利 で あ る。 一 方, 基 本 権 は 支 分 権 発 生 の 根 拠 であ っ て, 基 本 権 そ れ自 体 を 行 使 す る ( 例 え ば, 給 付 を 求 め て 訴 訟 提 起 す る。) こ と は 通 常 の 形 態 で は 考 え ら れ な い ( 時 効 中 断 の 証 拠 を 得 る た め の 特 殊 1 な お , 行 政 実 務 は, 以 前 か ら , 支 払 期 月 の 翌 月 の 初 日を 時 効 起 算 点 と し て い る。 7θ7

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な権 利 行 使 とし て, 民 法 上, 承認 書 の 交 付請 求 権 が認 めら れて い る2。)。 (3) 本 件 で 問 題 と な っ た 厚 生 年 金 保 険 は, 政 府 が 管 掌 し て お り ( 厚 生年 金 保 険 法 2条 ), そ の年 金 受 給 権 は,「 ̄国 に 対 す る 権利 で, 金 銭 の 給 付 を 目 的 と す る もの 」 で あ る か ら, 会 計 法30 条 以 下 が適 用 さ れ る。 もっ と も, 厚 生年 金 保 険 法 は, 厚生 年 金 保 険 事業 の 特 殊 性 か ら, 年 金 受 給 権 に つ い て 消 滅時 効 の 特 例 を定 め て い る3。 具 体的 に は, 厚生 年 金 保 険 法92 条 は,「 ̄保 険 給付 を 受 け る 権 利」 は, 5年 を 経 過 し た と き は, 時 効 に よ って 消滅 す る も の と す る。 し か し, 「 ̄保 険 給 付 を 受 け る権 利 」 の 内 容 は, 必 ず し も 明 確 で は な か っ た ( 現 行 法 は,「 ̄保 険 給 付 を受 け る権 利 ( 当 該 権 利 に 基づ き 支 払 期 月 ご と に 又 は 一時 金 と し て 支 払 う も の と さ れ る 保 険 給 付 の 支 給 を受 け る 権利 を 含 む。 … …)」 とし て ,「 ̄保 険 給 付 を受 け る 権 利」 に, 年 金 の 支 分 権 が 含 ま れ る こ と を 明 確 に し て い る。 も っ と も, こ の 括弧 書 き は, 厚生 年 金 保 険 の 保 険 給 付 及 び 国民 年 金 の 給 付 に 係 る 時 効 の 特 例等 に 関 す る 法 律 ( 平 成19 年 法 律 第111 号。 以 下 , 同 法 を 「 ̄年 金 時 効 特 例 法 」 と い う。)4に よ る 改 正 で 挿 入 さ れ た も ので あ る。 本 件 は , 年 金 時 効 特 例 法 施 行 前 に, 保 険 給 付を 受 け る 権利 を 取 得 し た 事 案 で あ り, 同 法 附 則 4 条 に よ り, 改 正 前 の 例 に よ る。 そ の た め, 本 稿 で は, 年 金 時 効 特 例 法 に よ る 改 正 が な い こ と を 前 提 に 検討 を 進 め る。)。 通 説 は, こ の 「 ̄保 険 給 付 を 受 け る 権利 」 と は,「 ̄保 険 給 付 の 裁 定 を 受 け る 権 利 (い わ ゆ る 2  民 法168 条 2項 。 基 本 権 の 時 効 は , 支 分 権 行使 に よ っ て 中 断 す る も の の, 債 権 者 の手 元 に は, 通 常 , 支 分 権 行 使 の 証 拠 は残 ら な い ( 領 収 書 等 は, 債 務 者 の手 元 に 残 る。)。 そ の た め , 悪 質 な 債 務 者 が 弁 済 を 行 い な が ら, 基 本 権 につ い て 時 効 期 間 が 満 了 す る と , た ち ま ち, 弁 済 の 事 実 を 否 定 し て , 時 効 を 援 用 す る と い っ た 弊 害 を 防 止 す る 必 要 が あ る。 そ こ で , 定 期 金 債 権 の 債 権 者 に は, 特 に 承 認 書 の交 付 請 求 権 が 認 め ら れ て い る ( 平 井 宜 雄 『 旧 版 注 釈 民 法 (5 )』( 有 斐 閣, 1967 年 )330 頁 )。 3  喜 多 什 脱史 『 厚 生 年 金 保 険 法 』( 有 泉 亨 ・ 中 野 徹 雄 編, 日 本 評 論 社, 1982 年) 256 頁。 4  年 金 時 効 特 例 法 は, 2007 ( 平 成19 ) 年 6月 9 日 に 施 行 さ れ た。 7 θ ∂

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帥60 年法蒻34 号による改正前の厚生年金翳 法に基づく鬪 年金の尅 ㈲ ㈲ 牆 酳 の起顛 (卸 ) 基 本 権 ) の こ と で あ り , い っ た ん 裁 定 を 受 け れ ば , 別 途 の 失 権 事 由 に 該 当 し な い か ぎ り , こ の 受 給 権 を 喪 失 す る こ と は な い 。」5 と し て い る6 。 支 分 権 に つ い て は ,「 ̄各 支 払 期 ご と に 消 滅 時 効 が 進 行 す る が , こ の 時 効 は , 本 条 に よ る も の で は な く , 会 計 法 三 〇 条 後 段 ( 五 年 ) に よ る も の と 解 さ れ る 。」7。 行 政 実 務 も , こ の 見 解 に よ っ て い る8 。 な お , 国 民 年 金 も , ほ ぼ 同 様 の 法 状 況 と な っ て い る 。 国 民 年 金 法 102 条 は 時 効 を 定 め て い る が , 通 説 は , こ の 規 定 も 基 本 権 に 関 す る も の と し , 支 分 権 に つ い て は , 会 計 法30 条 が 適 用 さ れ る と 解 く9 。 (4 ) 通 説 や 行 政 実 務 は, 厚 生 年 金 に つ い て , 基 本 権 と 支 分 権 , そ れ ぞ れ に 消 滅 時 効 が 存 在 す る も の と し て き たlO。 そし て, 基 本 権 は, 年 金 給 付 に 向 け た 裁 定 請 求 権 と 同 視 さ れ , 厚 生 年 金 保 険 法92 条 は, 裁 定 請 求 の 期 間 制 限 であ る と 解 さ れ て き た。 一 方 ,支 分 権 は, 会 計 法30 条等11によ り , 別 途 ,5年 の 時 効 に 服 す る もの と さ れ た 。 5  喜多 村・ 前 掲 注 (3 )『 厚 生年 金 保険 法 』256 頁。 岩 村正 彦 『社 会 保 障 法 I 』 ( 弘 文 堂, 2007 年 )108 頁 な ど も同 旨。 6 小 西 同 友 『 社 会 保 障 法 』( 有 斐 閣, 2005 年) 340 頁 は , 反 対 。 厚 生 年 金 保 険 法92 条 は , 民 法168 条 と169 条 の 特 則 で あ っ て, 両 条 の 適 用 は排 除 さ れ, 基 本 権 は 時 効 消滅 せ ず , 支 分 権 は厚 生 年 金 保 険 法92 条 に よ っ て 5 年 の 時 効 に か か る と す る。 7  喜 多 村 ・ 前 掲 注 (3 )『 厚 生 年 金 保 険 法 』256 頁。 8  加 茂 紀 久 男 『 裁 決 例 によ る 社 会 保 険 法 一 国 民 年 金 ・ 厚 生 年 金 保 険 ・ 健 康 保 険− 』( 民 事 法 研 究 会 , 第 2 版, 2011 年 )101 頁。 9  喜 多 村 悦 史 『 国 民 年 金 法 』( 有 泉 亨 ・ 中 野 徹 雄 編 , 日 本 評 論 社, 1983 年 ) 254 頁。 10  た だ し, 行 政 実 務 は , 基 本 権 につ い て, 消 滅 時 効 を 排 除 す る 運 用 を し てい るそ う であ る ( 加 茂 ・ 前 掲 注 (8)『 裁 決 例 によ る 社 会 保 険 法 一 国 民 年 金 ・ 厚 生 年 金 保 険 ・ 健 康 保 険− 』100 頁 )。 政 府 の 答弁 書 は, 厚 生 年 金 及 び 国 民 年 金 の 基 本 権 につ い て は, や むを 得 な い 理 由 があ る場 合 は, 時 効 の 援 用 を しな い 取 扱 い を し てい ると い う (2008 ( 平 成20 ) 年12 月 5 日 閣 議 決 定 「’年 金 申 請 遅 れに よ る時 効 撤 廃 に 関す る 質 問 に対 す る 答 弁 書 」)。 援 用を しな い論 理 は 不 明 で あ るが , 厚 生 年 金 保 険 法92 条 や 国民 年 金 法102 条 の 時 効 には , 会 計 法31 条 1 項 の 適 用は ない もの と解 し てい るの であ ろ う。 11  国 民 年 金 基 金 等 の 国 以 外 の 者 が年 金 給 付 を 行 う 場 合 は, 民 法169 条 が 適 用 され ると 説 か れた 。 7θ9

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本 件 で 問 題 と な っ た, 支 分 権 の 時 効 起 算 点 につ い て は, 会 計 法31 条 2 項 で 準用 さ れ る, 民 法166 条 1 項 に よ り 「 ̄権 利を 行 使 す る こ と が で き る 時 」 と す る の が 一 般 的 で あ る 。 も っ と も,「 ̄権 利 を 行 使 す る こ と が で き る時 」 が 具 体 的 に ど の 時点 を 指 す の か は, 解 釈 に よ っ て 特 定 し な け れ ば な ら な い。 3  学 説 及 び 裁判 例 (1) 伝 統 的 な議 論 以 前 か ら, 年 金受 給 権 の 消滅 時 効 に 関 す る 議論 は な さ れ て き た が, そ の ほと ん ど は, 基 本 権 に 関 す る もの で あ っ た12。 こ れ ら の 議 論 は, 「 ̄毎 支 給 期 ご と に派 生 す る 支 分 権 が, そ れ ぞ れ の 支 分 権 を 行 使 し う る 時 か ら 進 行 す る こ と はい う ま で も な い」13 な ど とす る の み で あ り, そ こ に は, 裁定 を受 け る 前 に 支 分 権 の 消滅 時 効 が 進 行 す る か とい う 本 件 の 問 題 に 対 す る 関 心 は 見 ら れ な い。 (2) 裁 判 例 の登 場 裁判 例 を 調 べ る と, 2009 (平 成21 ) 年 こ ろ14か ら , こ の 問 題 に 関 す 12  青 谷 和 夫 匚年 金 の基 本 権 と 支 分 権 お よ び そ の 消 滅 時 効」民 商 法 雑 誌54 巻 2 号(1966 年) 163 頁 , 藤 田 恒 雄 匚公 的 年 金 の 消滅 時効 につ い て」季 刊 ・ 社 会 保 障 研 究26 巻 3 号(1990 年) 283 頁 や 山 口浩 一 郎 匚労 災 保 険 に お け る 保 険 給 付 請 求 権 の 消 滅 時 効」法 曹 時 報48 巻 4 号(1996 年 )1 :rtな ど。 13  青 谷 ・ 前 掲 注 (12 ) 匚年 金 の基 本 権 と 支 分 権 お よ び そ の 消 滅 時 効」172 頁。 14  旧 社 会 保 険 庁 の 管 理 す る 厚 生 年 金 保 険 の 被 保 険 者 資 格 に 関 す る 記 録 や 国 民 年 金 の 保 険 料 納 付 に 関 す る 記 録 に つ き, 帰 属 先 と な る 被 保 険 者 が 不 明 の も の5000 万 件 余 りあ る こ と が 判 明 し た , い わ ゆ る 年 金 記 録 問 題 が 国 会 で 問 題 と な っ た の が2007 年で あ る。 同 年 に は, 議 員 立 法 で , 年 金 時 効 特 例 法 が 成 立 し て い る。 同 法 1 条 及 び 2 条 は , 年 金 記 録 の訂 正 に 基 づ く 裁 定 又 は 裁 定 の 訂 正 が 行 わ れ た場 合 は , 時 効 が 完 成 し た 場 合 に お い て も, 年 金 給 付 を 行 う こ と と し て い る。 支 分 権 の 消 滅 時 効 に 関 す る 訴 訟 が 提 起 さ れ る よ う に な っ た こ と の 背 景 に は , 年 金 に 対 す る 権 利 意 識 の 高 ま り が あ る も の と 思 わ れる 。 例え ば, 東 京 地 判 平 成22 年11 月12 日 賃 金 と 社 会 保 障1541 号16 頁 の 原 告 は, 2007 年 9月 4 日 に, 旧 社 会 保 険 庁 長 官 に 対 77 θ

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帥60 年法蒻34 号による改正前の厚生年金保鯰 に齔j く轄 年金の支分権の前 回J の起勦 (卸 ) る 訴 訟 が 見 ら れ る 。 東 京 地 判 平 成22 年11 月12 日 賃 金 と 社 会 保 障1541 号16 頁 ( 以 下 , こ の 判 決 を 「 ̄平 成22 年 東 京 地 判 」 と い う 。) は , 国 民 年 金 に 関 す る も の で あ る が ,「 ̄裁 定 前 の 年 金 の 支 給 を 受 け る 権 利 ( 支 分 権 ) に つ い て は , 受 給 権 に つ い て の 裁 定 請 求 を し て 行 政 庁 の 裁 定 を 受 け な い 限 り , 現 実 に そ の 支 給 を 受 け る こ と は で き な い が , そ の よ う な 障 害 は 受 給 権 者 に お い て 裁 定 請 求 を し さ え す れ ば 除 く こ と が で き る も の と い う こ と が で き る か ら , た と え 受 給 権 に つ い て の 裁 定 請 求 が さ れ ず 行 政 庁 の 裁 定 が さ れ て い な い と し て も , そ の 消 滅 時 効 の 進 行 を 止 め る も の で は な い 」 と し て い る 。 そ の 理 由 は 多 岐 に わ た る が , 要 約 す る と , 受 給 権 の 発 生 要 件 や 年 金 給 付 の 支 給 時 期 ・ 金 額 に つ い て 明 確 な 規 定 が 設 け ら れ て い る こ と , 即 ち , 裁 定 は 確 認 行 為 に す ぎ な い こ と を 考 え る と , 裁 定 請 求 を し な い 場 合 で も , 支 分 権 は 潜 在 的 ・ 抽 象 的 に 発 生 す る も の と 観 念 す る こ と が で き る 。 受 給 権 者 は , 裁 定 を 受 け さ え す れ ば , 直 ち に , 裁 定 前 の 支 分 権 を 行 使 す る こ と が で き ,[ ̄裁 定 請 求 を す る こ と の ほ か に 特 段 の 行 為 や 負 担 を 要 す る も の で も な く , 裁 定 請 求 を す る こ と が ち ゅ う ち ょ さ れ る 事 情 も う か が わ れ な い か ら , 権 利 の 性 質 に 照 ら し て も , そ の 権 利 行 使 が 現 実 に 期 待 の で き る 」 と い う も の で あ る 。 こ の 判 決 に 対 し て , 岡 田 正 則 「 ̄判 批 」 賃 金 と 社 会 保 障1541 号10 頁 が 反 対 し た 。 岡 田 は , 年 金 の 受 給 要 件 が 複 雑 で あ る こ と や 一 般 的 に 受 給 権 者 は 高 齢 者 が 多 い こ と な ど か ら ,「 ̄客 観 的 に 見 て , 一 定 の 手 続 を 行 っ た 受 給 権 者 に 対 し て も は や 裁 定 請 求 を 行 う こ と が 現 実 に 期 待 で き な い 状 態 に あ る と き は , 裁 定 に よ る 支 分 権 の 具 体 化 の 時 点 で 支 分 権 も 発 生 す る 」 と し , 当 該 事 案 の 下 で は ,[ ̄裁 定 が あ っ た 日 が … … 支 分 権 し , 国 民 年 金 の 裁定 の 請 求 及 び 未 支 給 年 金 の 支 給 請 求 を 行 っ た。 同長 官 は , 裁 定 を 行 っ た が, 年 金 の う ち 請求 時 に 5年 以 上 経 過 し て い る 部 分 に つ い て は, 不 支 給 決 定 を 行 っ た。 そ の 後 , 審査 請 求, 再 審 査 請 求 を 経 て, 2009 年 3月31 囗に 提 訴 に 及 ん で い る。 7 77

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の 消 滅時 効 の 起 算 点」 と な る と い う。 さ ら に, 加 茂 紀 久 男 『 裁 決 例 に よ る 社 会 保 険 法一 国民 年 金 ・ 厚生 年 金 保 険 ・ 健 康 保 険− 』(民 事 法 研 究 会, 第 2版, 2011 年 )101 頁 は, [ ̄裁 定 前 に 支 分 権 を 行 使 す る こ と な ど お よ そあ り 得 な い と こ ろ か ら み れ ば, 裁 定 が な い う ち に年 金 の 支 分 権 の 時 効 期 間 が 進 行 を 開始 す る と は 考 え ら れ な い」 と い う。 し か し , 東 京 高 判 平 成23 年 4月20 日 【Lex/DB 文 献 番 号2544393 2】( 平 成22 年 東 京 地 判 の 控 訴 審 ) は, 原 審 の判 断 を 是 認 し た 。 名 古 屋 地 判 平 成23 年11 月24 日 【Lex/DB 文 献 番 号25481212 】(以 下 , こ の判 決 を [ ̄平 成23 年 名 古 屋地 判 ] と い う。) も, 国 民 年 金 に 関 し て, 平 成22 年 東 京 地 判 と 同 様 の 判 断 を 行 い, 裁 定 前 で あ っ て も, 各 支 分 権 に つ い て, そ の 支 払 期月 が時 効 の 起 算 点 と な る 旨判 示 し た。 (3) 裁 定 を 受 け る まで は時 効 は進 行 し ない とし た裁 判 例 と こ ろ が, 平 成23 年 名 古 屋 地 判 の 控 訴 審 に 当 た る 名 古 屋 高 判 平 成 24 年 4 月20 日【Lex/DB 文 献 番 号25481213 】 ( 以 下 , こ の 判 決 を [ ̄平 成24 年 名 古 屋 高 判 ] とい う。) は, 一 転 し て, 裁 定 を 受 け ない 限 り, 支 分 権 の 消 滅 時 効 は進 行 し な い 旨 を 判 示 し た。 そ の 理 由 は,[ ̄社 会 保 険庁 長 官 に 対 し て 裁定 請 求 を し, 社 会 保 険庁 長官 の 裁 定を 受 け な い 限 り, 支 分 権を 行 使 す る こ と が で き な い の であ っ て, 社 会 保 険庁 長 官 の 裁 定 を 受 け る ま で は, 支 分 権 は , 未 だ 具 体 化 し て い ない 」。 そ の た め ,[ ̄裁 定 を 受 け てい な い こ と は, 支 分 権 の 消滅 時 効 と の 関 係 で , 法 律 上 の 障 碍 に 当 た り , 時 効 の 進 行 の 妨 げ に な る 」 と い う も の で あ る15。 同 判 決 は , 時 効 起 算 点 を , 受 給 権 者 に裁 定 が 通 知 さ れ た時 点 で 15 772 な お , 堀 勝 洋 『 年 金 保 険法 一 基 本 理 論 と 解 釈 ・ 判 例 』( 法 律 文 化 社 , 第 4 版, 2017 年) 350 頁 に よ る と, こ の名 古 屋 高 判 に対 し て は, 上 告 受 理 申 立 が な さ れ た も の の, 2014 ( 平 成26 ) 年 5月19 囗, 最 高 裁 判 所 は, 不受 理 決 定 を し た そ う で あ る。

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帥60 年法律 斟4 号による改 正前 の厚生年 金保険法に 基づく障害 年金の支分 権の消滅時 効の起算点 (卸 ) あ る と し て い る16 。 学 説 は , こ の 判 決 を 批 判 し た 。 嵩 さ や か 「 ̄判 批 」 ジ ュ リ ス ト1467 号104 頁 は , 「 ̄法 律 上 の 障 碍 が あ っ て も , そ の 障 碍 が 債 権 者 側 の 意 思 に よ っ て 除 く こ と が で き る 場 合 に は , 時 効 の 進 行 を 止 め な い と 一 般 に 解 さ れ て い る 」 と 指 摘 し , 「 ̄年 金 の 裁 定 は 行 政 処 分 で 受 給 権 者 の 意 思 に よ っ て 直 接 実 現 さ せ る こ と は で き な い た め 上 記 の 場 合 … … そ の も の に は 当 た ら な い 。 し か し , 受 給 要 件 を 満 た し た 者 か ら 裁 定 請 求 さ れ れ ば , 行 政 庁 は こ れ に 対 し 裁 定 を 行 う 義 務 を 負 っ て い る と 解 さ れ る た め … … 上 記 の 場 合 と 実 質 的 に 同 視 で き る 」 と い う 。 林 健 太 郎 「 ̄判 批 」 社 会 保 障 法 研 究 5 号168 頁 は , 「 ̄裁 定 と い う 法 技 術 は … … 確 認 的 行 政 処 分 に 過 ぎ ず , 支 分 権 を 発 生 さ せ る 為 の 形 成 的 行 政 処 分 で は な い 。 そ し て , 基 本 権 の 要 件 を 満 た す 者 か ら 裁 定 請 求 が な さ れ れ ば , 行 政 庁 は 直 ち に 応 答 し な け れ ば な ら な い の で あ っ て , 未 裁 定 の 状 態 は 基 本 的 に 受 給 権 者 自 ら の 発 意 に よ っ て 除 去 し う る も の で あ る 。」 と 指 摘 す る 。 そ し て , 平 成24 年 名 古 屋 高 判 に よ れ ば 「 ̄個 々 の 受 給 権 者 が 裁 定 請 求 を し な い 限 り は 消 滅 時 効 そ の も の が 進 行 し な い こ と と な り , 当 該 支 分 権 に 関 す る 消 滅 時 効 規 定 の 適 用 は お よ そ あ り 得 な い こ と に な る 。」 と し て 現 実 的 妥 当 性 か ら し て も , 消 滅 時 効 制 度 の 趣 旨 か ら し て も 首 肯 し 難 い と い う 。 16  こ れ は, 労 災 保 険 法 に基 づ く 年 金 給 付 や 恩 給 の 支 分 権 と 同 じ で あ る 。 行 政解 釈 に よ れ ば, 労 災 保 険 法 の年 金 給 付 の 支 分 権 は, 匚支 給 決定 通 知 の あ っ た 日 の 翌 日 ( そ の 日以 後 に生 じ た 年 金 の 支 払 請 求 権 に つ い て は , 支 払 期 日 の 初 日 ) か ら … … 会 計 法 三 〇 条 後 段 の 規 定 に よ り 五 年 で 時 効 消 滅 す る ( 昭 四 一 ・ 一 ・ 三 一  基 発 第 七 三 号 )。」( 厚 生 労 働 省 労 働 基 準 局 労 災 補 償 部 労 災管 理 課 編 『 労 働 者 災害 補 償保 険 法 』( 労 務 行 政, 2008 年) 662 頁。)。 恩 給 の 支 分 権 に つ い て は,「’時 効 の 起 算 点 は, 行 政 解 釈 で は 基 本 権 の 裁 定 の 効 力 の 発 生 時 (恩 給 証 書 が受 給 権 者 に 到 達 し た と き ) ま で に 既 に 所 定 の 支 給 期 が 到 来 し て い た 支 分 権 に あ っ て は 当 該 裁 定 の 効 力 の 発 生 時 」 と さ れ て い る よ う で あ る ( 藤 田 ・ 前 掲 注 (12 ) 匚公的 年 金 の 消 滅 時 効 につ い て」284 頁 )。 7 73

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(4) そ の後 の裁 判 例 そ の 後 , 東 京 地 判 平 成26 年10 月 8 日 【Lex/DB 文 献 番 号2552191 5】 は, 平 成24 年 名古 屋高 判 と 異 な り, 厚生 年 金 及 び 国民 年 金 につ い て, 裁定 前 の[ ̄支 分 権 は, そ の ま ま で は 現実 に年 金 の 支 給 を受 け る こ と は で き な い が, そ の よ う な状 態 は, 受 給 権 者 に お い て 裁 定 の 請 求 を し さ え す れ ば 除 く こ と が で き る 」 と し て, 支 分 権 につ い て, 裁 定 前 で あ っ て も, そ の 支 払 期 月 の 翌月 の 初 日 が 時 効 起 算 日 と な る と し た。 大 阪地 判 平 成28 年 2月10 日 【Lex/DB 文献 番 号25448052 】(以 下 , こ の 判 決 を[ ̄平成28 年 大 阪地 判 ] とい う。) は, 本 件 と 同 様 厚 生年 金 の 障 害年 金 に つ い て, 裁定 前 で あ っ て も, 支 分 権 の 消 滅時 効 の 起 算 点 は,[ ̄各 支 払 期 の到 来 時 ] で あ る と し た。 そ の 控 訴 審 に 当 た る大 阪 高 判 平 成28 年 7月21 日【Lex/DB 文 献 番 号25448489 】 も, 原 審 の 判 断 を 是認 し た。 (5) /.い亅舌 多 く の 裁判 例 は, 裁 定を 受 け てい ない こ と は 支 分 権 につ き時 効 の 進 行 を 妨 げ な い と し て い る。 も っ と も, 平 成23 年 名 古 屋 高 判 は , 裁 定 を受 け な い 限 り, 支 分 権 の 消滅 時 効 は 進 行 し ない と し て お り, 判断 は 分 か れ て い る。 学 説 も, 裁 定 が あ っ た 日 を時 効 起 算点 と す る 見 解 と, 裁定 を受 け る 前 で も時 効 が 進 行 す る と す る 見 解 が あ り, 結 論 が 出 て い な か っ た。 4  本判 決 の 検討 (1) 既 に 明 ら か な よ う に, 支 分 権 の 時 効 起 算 点 を 検 討 す る 上 で 問 題 と な る の は, 裁定 を受 け な い 限 り, 年 金 支 給 を受 け る こ と が で き な い こ と を, 時 効 と の 関 係 で, ど の よ う に 理 解 す る か であ る。 こ の 検討 を す る た め に は, 裁 定 が ど の よ う な 性 質 の もの か, 時 効 起 算 点 が[ ̄権 利 を 行 使 す る こ と が で き る時 ] と さ れ てい る の は な ぜ か につ い て 掘 り 下 774

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帥60 年法蒻34 号による改正前の厚生年金保鯰 に尠j く鬪 年金の支分権の前 駁1 の起勦 (卸 ) げ る 必 要 が あ る 。 そ こ で , 以 下 で は , 裁 定 の 性 質 を 明 ら か に す る た め , 厚 生 年 金 保 険 の 受 給 の 仕 組 み を 確 認 し , そ の 後 , 時 効 起 算 点 に 関 す る 議 論 の 状 況 を 見 た 上 で , 厚 生 年 金 受 給 権 ( 支 分 権 ) の 消 滅 時 効 起 算 点 に つ い て , 検 討 す る 。 (2) 厚 生 年 金 保 険 は, 保 険 事 故 (老 齢 厚 生 年 金 で あ れ ば 支 給 年 齢 に 到 達 す る こ と, 障 害 厚 生 年 金 で あ れば 障害 の 発 生。) が 発 生 し た場 合 に, 受 給 権 者 に, 保 険 金 を 支 給 す る 制 度 で あ る。 受 給 資 格 や受 給 す る こ と が で き る 年 金 の 額 につ い て は, 厚生 年 金 保 険 法 に 規定 が あ る ( 同 法43 条 ,50 条 ,60 条 )。 し た が っ て, 裁 定 の 際 に, 受 給 権 の 内容 は 問 題 と な ら な い17。 も っ と も, 保 険 事故 が 発 生 し た か ら と い っ て, 当然 に, 保 険 給 付 を 受 け る こ と が で き る わ け で は な い。 保 険 給 付 を受 け る た め に は, 実 施 機 関 の 裁 定 を 受 け る 必 要 が あ る ( 厚 生 年 金 保 険 法33 条 )。 こ れ は, 「 ̄画 一 公 平 な 処 理 に よ り 無 用 の紛 争 を 防 正 し , 給 付 の 法 的 確 実 性 を 担 保 す る た め, そ の 権利 の 発 生 要 件 の 存 否 や 金 額等 につ き … …公 権 的 に 確認 す るのが 相当 であ ると の見地 か ら, 基本 権た る受 給権 につい て,… … 裁定 を受 け て 初 め て年 金 の 支 給 が可 能 と な る 」 も の と さ れ て い る ( 最 判平 成 7年11 月 7 日民 集49 巻 9 号2829 頁 参 照18。 以 下, こ の 判 決 を 「 ̄平 成 7年 最 判 」 とい う。)。 裁定 の 法 的 性 質 につ い て は, 議論 の余 地 が あ る が, 平 成 7年 最判 は, 17  も っ と も , 老 齢 厚 生 年 金 の よ う に , 受 給 資 格 が年 齢 とい う 明 確 な 基 準 で 判 断 さ れ る 場 合 と異 な り , 本 件 で 問 題 と な っ た障 害 年 金 ( 障 害 厚 生 年 金 も 同 様。) に つ い て は, 障 害 に 該 当 す るか な ど の 判 断 が 求 め ら れ るこ と に な る 。 し か し , 障 害 年 金 につ い て も, 結 局 は , 一 定 以 上 の 障 害 に該 当 す る こ と が 認 定 で き れ ば 良 い ( 労 災 な ど と 異 な り そ の 原 因 は 問 題 と な ら な い。) の で あ る か ら, そ の 判 断 は 容 易 で あ る と い う こ と が で き る。 18  こ の 判 決 は, 国 民 年 金 に 関 す る も の で あ る。 7 75

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行 政 行 為 の う ち 確 認 に 該 当 す る こ と を 明 ら か に し た も の と い え る19。 こ れ を 前 提 と す る と, 受 給 権 者 の年 金 を受 給 す る 地 位 (民 法168 条 の 定 期 金 債 権類 似 の 公 法 上 の 地 位 ) は 裁定 に よ っ て 生 じ る と いえ る。 支 分 権 は, 少 な く と も, 具 体 的 な 権利 と し て は, 裁 定 に よ っ て 初 め て 発 生 す る と い う こ と が で き よ う20。 (3) ア  裁 定 が 行 政 行 為 で あ る こ と を 考 え る と, 裁 定 を 受 け る ま で は, 支 分 権 を 行 使 す る こ と は で き ず, 時 効 は 進 行 し な い と いえ そ う で あ る。 し か し, 時 効 起 算点 は, 単 に, 法 律上 , そ の時 点 で 権利 を 行 使 す る こ と が で き る か ど う か で 決 ま る もの で あ ろ う か。 時 効 の 議 論 を 見 て お こ う。 イ  消 滅 時 効 の 起 算 点 は [ ̄権 利 を 行 使 す る こ と が で き る 時 ] で あ る (民 法166 条 )。 こ れ は, 旧 民 法 証 拠 編125 条 が, 期 限 未到 来・ 条 件 未 成 就 を 時 効 の 停 止 事 由21と し て い た も の を , 消 滅 時 効 の 起 算 点 と し て 再 構 成 し た も の で あ る22。 伝 統 的 な通 説 判 例 は,「 ̄権利 を 行 使 す る こ と が で き る 時」 と は, 法 律上 の 障 碍 が な い 場合 を い う も の と し, 債 権 者 の不 在・ 疾 病 な ど の 事 実上 の 障 碍 は 時 効 の 進 行 を 妨 げ な い もの と し て き た。 も っ と も, 法 律 上 の 障 碍 で あ っ て も, 債 権 者 側 の 意 思 に よ っ て 除去 す る こ と が で き る 場合 (留 置 権 や 同 時履 行 の 抗弁 権 が 付 着 す る 場 合 な ど。) は, 時 効 の進 行 を 妨 げ ない23。 し ば し ば 問 題 と な る の が, 権 利 者 が 権 利 の 存 在 や そ の 行 使可 能 性 を知 ら な い場 合 で あ る が, 権利 者 の不 知 は 時 効 の 進 行 を 妨 げ な い と す る の が 確 定判 例 で あ り, 学 説上 も 異論 が な い24。 一 方 で , 現 在 の通 説 判 例 は, 事 実 上 の 障碍 で あ って も, 19  川 神 裕 「’判 解」 最 高 裁 判 所 判 例 解 説 民 事 篇 平 成 7 年 度(下) 939 頁。 20  仮 に , 裁 定 を 経 ず に 給 付 訴 訟 を 提 起 し て も, 棄 却 さ れ る もの と 思 わ れ る。 21  こ こ で い う 匚停 止 」 と は 進 行 停 止 の 意 味 で あ り, 現 行 民 法 の 匚停 止 」( 完 成 猶 予 ) と は 異 な る。 22  法 務 大 臣 官 房 司 法 法 制 調 査 部 監 修 『 法 典 調 査 会 民 法 議 事 速 記 録 一 ( 日 本 近 代 立 法 資 料 叢 書 1 )』( 商 事 法 務 研 究 会, 1983 年) 530 頁 参 照。 23  森嶋 昭夫 『 旧 版注 釈 民法 (5)』( 有 斐閣, 1967 年) 281 頁。 なお, 債権 法改 正 後 も同 様( 松久 三 四彦 『民 法I 総則 』(有 斐閣 , 第 4版, 2018 年) 292 頁)。 776

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帥60 年法蒻34 号による改正前の厚生年金保鯰 に齔j く轄 年金の]攴分権の前 回J の起勦 (卸 ) 時 効 の 進 行 を 妨 げ る 場 合 が あ る こ と を 認 め て い る 。 判 例 は ,「 ̄『 権 利 ヲ 行 使 ス ル コ ト ヲ 得 ル 』 と は , 単 に そ の 権 利 の 行 使 に つ き 法 律 上 の 障 害 が な い と い う だ け で は な く , さ ら に 権 利 の 性 質 上 , そ の 権 利 行 使 が 現 実 に 期 待 の で き る も の で あ る こ と を も 必 要 と 」 し て い る25。 ウ  な お , 本 件 と 類 似 し た 問 題 と し て , 形 成 権 の 行 使 の 結 果 生 じ た 請 求 権 の 消 滅 時 効 の 問 題 が あ る 。 例 え ば , ① 売 買 契 約 の 買 主 が , 履 行 期 か ら10 年 近 く 経 過 し た 後 , 同 契 約 を 解 除 し , そ の 数 年 後 に , 支 払 っ た 売 買 代 金 の 返 還 請 求 を し た , ② 無 権 代 理 行 為 を そ の 行 為 の 時 か ら 10 年 以 上 経 過 後 に 本 人 が 追 認 し , 無 権 代 理 人 に 受 領 金 の 引 渡 し を 請 求 し た と い っ た 問 題 が あ る 。 判 例 は , こ れ ら の 問 題 に 対 し て , 形 成 権 を 行 使 し た 時 点 を , 形 成 権 の 行 使 に よ っ て 生 じ た 請 求 権 の 時 効 の 起 算 点 と し て い る ( ① に つ き 大 判 大 正 7 年 4 月13 日 民 録24 輯669 頁 , ② に つ き 大 判 昭 和17 年 8 月 6 日 民 集21 巻837 頁 。)。 も っ と も , 学 説 は , 反 対 し て い る26。 エ  近 時 , 最 高 裁 判 所 は , 日 本 放 送 協 会 ( 以 下 , 日 本 放 送 協 会 を 「 ̄N H K 」 と い う 。) と 受 信 設 備 設 置 者 と の 関 係 に つ い て , 興 味 深 い 判 決 を 下 し た ( 最 大 判 平 成29 年12 月 6 日 【 Lex/ D B 文 献 番 号25449082 】。 以 下 , こ の 判 例 の 事 件 を [ ̄N H K 事 件 ] と い い , 判 決 を 「 ̄平 成29 年 最 判 」 と い う 。)。 平 成29 年 最 判 に よ れ ば, NHK は , 受 信 設 備 を 設 置 し な が ら , 受 信 契 約 を 締 結 し な い 者 に 対 し て , 受 信 契 約 締 結 の 意 思 表 示 を す る こ と を 請 求 す る こ と が で き る ( 放 送 法64 条 1 項 本 文 )。 こ の 場 合 , 受 信 設 備 設 置 者 は , 受 信 設 備 設 置 の 月 か ら , 受 信 料 を 支 払 わ な け れ ば な け れ ば な ら な い 。 も っ と も , 受 信 設 備 設 置 者 が 受 信 契 約 締 24 森嶋・ 前掲注(24)『旧 版注釈民 法(5)』281 頁。 25 最大判昭和45 年 7月15 日民 集24 巻 7号771 頁。 最判平成8年 3月 5日 民 集50 巻3号383 頁 や最判平成15 年12 月11 日民集57 巻11 号2196 頁 も同旨。 26 平井・ 前掲注(2)『旧 版注釈民 法(5)』296 頁。 7 77

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結を 拒 ん だ 場 合 は, 受 信 設 備 の設 置 よ り 契 約 締 結 が遅 れる こ と と な る。 平成29 年 最 判 は, こ の場 合 ,「 ̄受 信 契約 に 基 づ き 発生 す る受 信 設 備 の 設 置 の月 以 降 の 分 の受 信 料 債 権 (受 信契 約成 立 後 に履 行 期 が到 来 す る もの を 除 く。) の消 滅 時 効 は, 受 信 契 約 成 立 時 か ら進 行 す る」 とい う 。 こ の受 信契 約 締 結 の 意思 表示 を 請 求 す る 権 利 は, 一 方 的 な 意 思 表 示 に よ っ て 法 律 関 係 を形 成 す る わ け で は な い か ら, 形成 権 と はい い が た い。 もっ と も, 意 思 表 示を 命 ず る判 決を 得 て, こ れを 執 行 す る こ と に よ り ( 民 事 執 行 法174 条 ), 受 信 設 備 設 置 者 の 意思 に か か わら ず , 法 律 関 係を 形成 す る こ と が で き る の で あ る か ら, 形 成 権 に類 似 す る 権 利 とい う こ と が で き よ う。 平 成29 年 最 判 の多 数 意 見 は,「 ̄受 信 料 債 権 は受 信契 約 に 基づ き 発 生 す る もの であ る か ら, 受 信 契約 が成 立 す る 前 に お い て は, 原 告 ( 引 用 者 注− NHK の こ と ) は, 受 信 料 債 権 を 行 使 す る こ と が で き ない 」 と し て, 前 述 の と お り, 受 信 契約 成立 前 の受 信 料 債 権 の 消滅 時 効 の 起 算 点を 受 信 契約 成立 時 と し て い る。 こ れ に 対 し て, 木 村 反 対 意 見 は, 受 信設 備設 置 者 が「 ̄お よ そ 消 滅時 効 に よ り 消滅 す る こ と の な い 債 務を 負 担 す る べ き 理 由 は ない 」 と す る。 評 釈 は, 事 実上 , 受 信 料 債 権 が時 効 消 滅 す る こ と が ない こ と に反 対 し,「 ̄権 利 の 性 質 に 応 じ た 権 利 行 使 の 現 実 の 期 待 可 能 性 を 必 要 とし , 受 信 器設 置を 確認 で き 契約 締 結 の強 制を 期待 し う る よ う に な っ た時 か ら の 起 算 を認 め, 悪質 な妨 害 事 例 は 信義 則 に よ る 時 効 援用 を 禁 止 す る こ と で 対 応 す べ き 」 と し て い る27。 27 77 ∂ 平 野 裕之 「’判批 」 新 ・ 判 例解 説Watch (Web 版) 民 法 ( 財 産 法) 140 号 4 頁。 平 野 は , 受 信 料 契 約 の 時 効 起 算 点 を め ぐ る 議 論 を , 匚取 消 権 や形 成 権 に お け る そ の 行 使 に よ る 原 状 回 復 請 求 権 に つ き , 取 消 権 の 成 立 時 か ら 権 利 行 使 で き る の に等 し い と い う 議 論 に 類 似 す る 。 た だ し , 取 消 し を す る か 解 除 を す る か の 熟 慮 期 間 の 保 障 と , そ の 行 使 後 の 原 状 回 復 請 求 権 の 時 効 と は 別 個 に 考 え ら れ る べ き で あ る の に 対 し て , 受 信 器 設 置 者 に 締 結 さ れ る か 否 か NHK に は 選 択 の 余 地 が な く, パ ラ レ ル に は 考え ら れ な い 。」 と し て, 形 成 権 に 関 す る 議 論 は 妥 当 し な い 旨 を 述 べ て い る。

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帥60 年法蒻34 号による改正前の厚生年金保鯰 に舮 川 讎 年金の]攴分権の齟 賤 の起勦 (卸 ) (4 ) ア  そ れ で は , 以 上 の 議 論 を 元 に , 厚 生 年 金 の 支 分 権 の 消 滅 時 効 起 算 点 を ど の よ う に 考 え る べ き か 。 こ れ ま で 見 て き た よ う に , 支 分 権 の 時 効 起 算 点 は , 会 計 法31 条 2 項 後 段 , 民 法166 条 1 項 に よ り [ ̄権 利 を 行 使 す る こ と が で き る 時 ] で あ る 。 そ し て , 受 給 権 者 が 裁 定 を 受 け な い 場 合 で も , 権 利 を 行 使 す る こ と が で き る も の と し て , 支 分 権 に つ き , 時 効 が 進 行 す る か が 問 題 と な っ て い る 。 イ  裁 定 を 受 け な い 限 り , 支 分 権 を 行 使 す る こ と は で き な い ( そ も そ も , 支 分 権 が 具 体 的 な 権 利 と し て 発 生 し て い な い 。) の で あ る か ら , 裁 定 を 受 け て い な い こ と は [ ̄法 律 上 の 障 碍 ] と い え そ う で あ る 。 し か し , 法 律 上 の 障 碍 で あ っ て も , 債 権 者 側 の 意 思 に よ っ て 除 去 す る こ と が で き る 場 合 は , 時 効 の 進 行 を 妨 げ な い と 解 さ れ て い る 。 受 給 権 者 に は , 裁 定 請 求 権 が 認 め ら れ て い る こ と を 重 視 す れ ば , 裁 定 を 受 け る 前 で あ っ て も [ ̄権 利 を 行 使 す る こ と が で き る ] と い え そ う で あ る 。 し か し , 障 碍 を 債 権 者 側 の 意 思 に よ っ て 除 去 す る こ と が 可 能 で あ る 限 り , 時 効 進 行 の 妨 げ に な ら な い と の 論 理 を 徹 底 す れ ば , 形 成 権 の 行 使 の 結 果 生 じ た 請 求 権 の 時 効 起 算 点 は , 形 成 権 の 行 使 が 可 能 に な っ た 時 点 に な る は ず で あ る 。 形 成 権 の 行 使 は , 一 方 的 な 意 思 表 示 で よ い の で あ る か ら , 裁 定 以 上 に , 債 権 者 側 の 意 思 に よ っ て 除 去 す る こ と が 容 易 で あ る 。 そ れ に も か か わ ら ず , 判 例 は , 形 成 権 の 行 使 の 場 合 は , そ の 行 使 の 時 が 新 し い 請 求 権 の 時 効 起 算 点 と な る と す る 。 N H K 事 件 と の 関 係 も 問 題 で あ る 。 N HK 事 件 で は , 法 律 上, NHK が 受 信 設 備 設 置 者 に 対 し て , 受 信 契 約 締 結 の 意 志 表 示 を 請 求 す る こ と に つ き 妨 げ と な り う る 事 情 は 見 当 た ら な い 。 も ち ろ ん , 平 成29 年 最 判 の い う よ う に , 受 信 契 約 成 立 前 に, NHK が 受 信 料 債 権 を 行 使 す る こ と は で き な い が , ま っ た く 同 じ 論 理 が , 本 件 の 支 分 権 に も 妥 当 す る 。 判 例 が , 形 式 的 に ,[ ̄法 律 上 の 障 碍 ] に 該 当 す る か ど う か で 起 算 点 を 決 定 し て い る の で は な い こ と は 明 ら か で あ ろ う 。 そ れ に も か か わ ら ず , 本 判 決 は , 結 論 を 導 く た め に 形 式 的 な 説 明 し か し て お ら ず , そ の 7 79

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理 由 付 け は 説 得 的 と は 言い 難い 。 ウ  こ こ で, 時 効 制 度 の 根 拠 に 立 ち 戻 っ て, 検討 し よ う。 周知 の よ う に, 時 効 制 度 の 根 拠 に 関 し て は, 議 論 が あ る と こ ろ で あ る。 代 表 的 な もの と し て は, ① 継 続 し た 事実 状態 の 維 持 に よ る 社 会 秩序 の安 定, ② 過去 の 権 利 関 係 に 関 す る立 証あ るい は採 証 の 困難 か ら の 救 済, ③ 権 利 の上 に 眠 る 者 を 保 護 せ ず, ④ 権 利 行 使 と い う 債 務 者 の 不安 定 な 状態 を 除去 す る こ と があ げ ら れ る28。 し か し な が ら, ① 社 会 秩 序 の 安定 は, 不動 産 の 取 得 時 効 な ど に は よ く妥 当 す る で あ ろ う が, 本 件 の よ う に, 国 が 金 銭 の支 給 を 行 う 場合 は, 支 給 を 行 わ な か っ た こ とを 前 提 に 法 律 関 係 が 形成 さ れ る と は 考 え に く い。 こ の 根 拠 は, 本 件 に は, あ ま り 妥 当 し な い よ う に 思 わ れ る。 ② 立 証 の 困難 は, 本 件 で は, ま っ た く 妥 当 し ない 。 裁 定を 受 け てい ない 以 上, 受 給 権 者 が年 金 給 付を 受 け てい ない こ と は 明 ら か であ っ て,二重 弁 済 は 起 こ り え な い。 ③ 権 利 の 上 に 眠 る 者を 保 護 せ ず は, 受 給 権 者 が 権利 行 使 を し な か っ た とい う 意 味 で は 妥 当 す る で あ ろ う。 し か し, あ え て 年 金 の受 給を 請 求 し な い 者 は 稀 であ ろ う。 多 く の 場合 , 年 金 の受 給 資 格を 満 た す こ とを 知 ら ず, あ る い は, な ん ら か の 事 情 で, 年 金 を 請 求 で き な か っ た もの と思 わ れ る。[ ̄権 利 の 上 に 眠 っ た ] とい え る か は疑 問 が 残 る。 こ れ ら に 対 し て, ④ 債 務 者 の 不安 定 な 状態 の 除 去 は, 本 件 の 事 案 に 大い に 妥 当 す る。 本 件 で, 時 効 が 問 題 と な る の は, 国 の 会 計 上 の 要 請 が大 きい 。 未 支 給 年 金 を 永 久 に 支 払 わ な け れ ば な ら な い と な れば , 会 計 上 の 負 担29は 膨 大 な も の と な る 。 時 効 制 度 は, こ れ を 一定 期 間 ( 本 件 で あ れ ば, 過去 5年 間。) に制 限 す る点 に意 義 があ る。 時 効 制 度 の 根 拠 を, ④ 債 務 者 の不 安定 な地 位 の 除去 に 求 め る の で あ 28  松 久 三 四 彦 「’消 滅 時 効 制 度 の 根 拠 と 中 断 の 範 囲」 同 『 時 効 制 度 の構 造 と 解 釈 』( 有 斐 閣, 2011 年 )10 頁 及 び36 頁。 29  資 金 面 の 他 に, 会 計 書 類 の 保 存 の 負 担 も 大 き い。 72θ

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帥60 年法蒻34 号による改正前の厚生年金保鯰 に齔j く轄 年金の]攴分権の前 回J の起勦 (卸 ) れ ば , 当 事 者 の 利 益 の 調 整 と い う 観 点 を 欠 く こ と は で き な い30。 時 効 起 算 点 に 関 し て も ,「 ̄法 律 上 の 障 碍 」 が あ っ た と し て も , 債 権 者 に , そ の 障 碍 を 除 去 す る こ と を 期 待 ・ 要 求 で き る か が 問 題 と さ れ な け れ ば な ら な い で あ ろ う 。 エ 「 ̄法 律 上 の 障 碍 」 が あ る 場 合 に も , 障 碍 除 去 の 期 待 可 能 性 が 問 題 と な る と す れ ば , 次 の よ う に い え ま い か 。 民 法 典 起 草 時 に 想 定 さ れ て い た , 典 型 的 な 「 ̄法 律 上 の 障 碍 」 で あ る 期 限 未 到 来 ・ 条 件 未 成 就 に つ い て は , 債 権 者 の 努 力 に よ っ て 如 何 と も し が た い も の で あ り , 期 待 可 能 性 は な い 。 形 成 権 の 行 使 に よ っ て 生 じ た 請 求 権 に つ い て は ,「 ̄取 消 し を す る か 解 除 を す る か の 熟 慮 期 間 の 保 障 と , そ の 行 使 後 の 原 状 回 復 請 求 権 の 時 効 と は 別 個 に 考 え ら れ る べ き で あ る 」 と の 指 摘 が あ る31。 こ の 指 摘 に 従 え ば , 単 一 の 期 間 内 に , 形 成 権 行 使 の 判 断 と 請 求 権 の 行 使 の 両 方 を 行 う こ と は 要 求 で き ず , 別 途 , 時 効 期 間 を 考 え る 必 要 が あ る こ と に な ろ う 。 N H K 事 件 に つ い て は, NHK が 受 信 設 備 設 置 者 に 対 し て , 受 信 契 約 締 結 を 求 め る こ と に 法 律 上 の 障 碍 は な い 。 し か し , 事 実 上 , 受 信 設 備 設 置 者 が 自 ら 受 信 契 約 を 締 結 す る の で な け れ ば, NHK が 設 置 者 を 把 握 す る こ と は 困 難 で あ る 。 そ れ ゆ え, NHK が 現 実 に 権 利 行 使 が 可 能 に な る 時 点 ま で 時 効 起 算 点 を 遅 ら せ る 必 要 が あ る32。 オ  本 件 で 問 題 と な っ た 年 金 受 給 権 は , 権 利 行 使 を 躊 躇 す る 類 い の 権 30  松 久 ・ 前 掲 注 (28 )「’消 滅 時 効 制 度 の 根拠 と 中 断 の 範 囲」42 頁 は ,「’消 滅 時 効 制 度 は, 法 の二 つ の 要 請, す な わ ち , ① 債 務 者 とい え ど も永 遠 に 権 利 不 行 使 と い う 不 安 定 な 状 態 に 置 か れ る べ き で は な い … … と の 要 請 と, ② 債 務 は 履 行 さ れ る べ し と の 要 請 の 調 和 を 図 り, 権 利 不 行 使 と い う 事 実 の 一 定 期 間 経 過 によ り , 債 務 者 に 形 成 権 た る 援 用 権 … … を 与 え , 援 用 権 の 行 使 に よ り 法 律上 の 債 務者 の 地位 を 免 れ せし め る 制 度 で あ る。」 と い う。 31  平 野 ・ 前 掲 注 (27 )「’判 批」4 頁。 32  も っ と も, 受 信 契 約 成 立 時 ま で 時 効 起 算 点 を 遅 ら せ る必 要 が あ る か は 疑 問 で あ る。 727

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利 で は な い。 そ の 意 味 で, 形成 権 の 行 使 に よ っ て 生 じ た 請 求 権 と は 異 な る 。 ま た, NHK 事 件 の よ う に , 権 利 の 行 使 を 事 実 上 困 難 な ら し め る 事 情 も ない 。 支 分 権 の 行 使 の た め に は, 裁 定を 受 け る こ と が 必 要 で は あ る が , 裁 定 は ,[ ̄発 生 要 件 の 存 否 等 を 公 権 的 に 確 認 す る も の に す ぎ な い ]。 一 般 的 に, 厚 生 年 金 の 年 金 受 給 権 の 裁定 を 請 求 す る こ と は 容 易 であ り, 裁定 請 求 ま で の 準 備 期 間を 別 途 定 め る必 要 は ない よ う に 思 わ れ る。 も ち ろ ん, 年 金 の 種 類 に よ っ て は, 受 給 要 件 が 複 雑 であ る もの も( 例え ば, 平成22 年 東 京 地 判 で 問 題 と な っ た通 算 老 齢 年 金 。), 本 件 の 障 害年 金 の よ う に, 必 ず し も受 給 要 件 の判 断 が 容 易 であ る と は 言い 切 れ ない もの も存 在 す る。 し か し, こ れ ら は, 年 金 保 険 の 実 施 機 関 に 問い 合 わ せ る こ と で 解 決 で き る 問 題 であ る。 裁定 は, 法 的 に は 行 政 行 為 で あ り, そ れ に よ っ て, 年 金 を受 給 す る地 位 が 発生 す る とい っ て も, 通 常人 の 意 識 で は, 単 に, 年 金を 受 給 す る た め の手 続 き に 過 ぎ ない とい え よ う。 実 際, 裁 定 請 求 と 年 金 支 給 の 請 求 ( 支 分 権 の 行 使 ) は, 同時 に 行 わ れ てい る。 こ の よ う に 考え れ ば, 裁 定を 受 け てい ない とい う[ ̄法 律 上 の 障 碍 ] があ る に も関 わ ら ず, 本判 決 が, 厚 生年 金 保 険 法 所定 の 支 払 期 到来 時 か ら, 消 滅時 効 の 進 行 を認 め た こ と は 妥 当 と いえ よ う。 な お, こ の よ う に 解 す る と, 裁定 請 求 を し て も, い つ 裁 定を す る か は, 行政 庁 に 委 ね ら れ てい る以 上, 裁定 を受 け る ま で の 間 に, 消滅 時 効 が 進 行 す る こ と が 問 題 と なろ う。 し か し , 裁 定 請 求 に は,( 暫定 的 な) 時 効 中断 効 が 認 め ら れ る と 解 さ れ る。 裁 定 請 求 は, 支 分 権 行 使 の 意思 を 明 ら か に し た も の と いえ る か ら, 催 告 (民 法153 条 ) に 該 当 す る。 そ し て, こ の 催 告 は, 裁定 を受 け る ま で ( 審 査 請 求等 が な さ れ た 場 合 は, そ れ が 確 定 す る ま で。) の 間, 継 続 す る も の と 解 す る こ と が で き る ( 平 成28 年 大 阪 地 判 も同 様 の 趣 旨 を 述 べ る。)。 裁 定 を 受 け た に も 関 わ ら ず, 厚 生年 金 保 険 の 実 施 機 関 が 未 支 給 年 金 の 給 付を 行 わ な い場 合 は, 裁 定 後,6 ヶ月 以 内 に, 裁判 上 の 請 求 な どを す れ ば よい 。 722

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帥60 年法蒻34 号による改正前の厚生年金保鯰 に尠j く鬪 年金の尅 ㈲ ㈲ 牆 酳 の起勦 (卸 ) 5  本 判 決 の 射 程 本 判 決 で 問 題 と な っ た 厚 生 年 金 の 支 分 権 の 消 滅 時 効 起 算 点 に つ い て は , 民 法 ( 債 権 関 係 ) の 改 正 に 伴 い , 厚 生 年 金 保 険 法92 条 1 項 で 「 ̄支 払 期 月 の 翌 月 の 初 日 」 と 明 定 さ れ る33。 そ の た め , 以 後 は , 支 分 権 の 時 効 起 算 点 に 関 す る 論 点 自 体 が な く な る こ と と な る 。 そ の 意 味 で は , 本 判 決 の 射 程 は 狭 い と い わ ざ る を 得 な い 。 し か し , 本 判 決 は ,「 ̄法 律 上 の 障 碍 」 が あ る 場 合 に , な お , 権 利 行 使 を 期 待 ・ 要 求 す る こ と が で き る と の 理 解 に 立 っ て , 時 効 起 算 点 を 明 ら か に し た も の と い え る 。 そ の 意 味 で は , 民 法 ( 債 権 関 係 ) の 改 正 後 も , 時 効 起 算 点 を 巡 る 議 論 に も 影 響 を 及 ぼ す も の と 考 え ら れ る 。

※ この研 究は, 科学 研究費 の助成を受け た もので す(JSPS

KAKENHI Grant Number JP 16K17016 )

33 週刊年金実務2247 号28 頁 は,匚この改正に よって行政実務上の取扱 いに 変更はない」 という。 なお, この改正 法は, 2020 (平 成32 )年 4月 1 囗 に施行される。

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