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大内伸哉 著『非正社員改革─同一労働同一賃金によって格差はなくならない』(PDF:642KB)

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Academic year: 2021

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日本労働研究雑誌 92

読書ノート

「働き方改革」の 1 つとして政府が正社員と非正社 員間の格差是正に向けた「同一労働同一賃金ガイドラ イン」(2016 年)をだすなかで,本書はそれに対する アンチテーゼである。副題には「同一労働同一賃金に よって格差はなくならない」との筆者の結論が示され ている。とはいえ本書は,「同一労働同一賃金」だけ ではなく,雇用の継続・終了に関する不安定性にも触 れており,有期・パート・派遣労働含めまさに非正社 員全般の問題を取り扱っている(なお,本書を含め著 者の本はキャッチーなタイトル・小見出しが多く,内 容もわかりやすいので,西の大内,東の森戸と勝手に 紹介し大学の演習等で多用させて頂いている)。 本書の内容は大きく 4 つに分かれる。第 1 編「日本 型雇用システムと非正社員」では,日本型雇用システ ムにおける正社員と非正社員という分類は法律の要請 ではなく,労使自治によって自発的に生まれたもので あり,正社員を中心とする雇用システムを補完する存 在として非正社員が形成されてきたと指摘する。統計 資料から多数を占める自発型非正社員は正社員の妻や 子,定年後の高齢者であることが多く世帯単位でみれ ば貧困とはいえないが,若年期の非自発型非正社員は 教育訓練機会の喪失や再チャレンジの困難を伴い法的 に看過できないとする。 第 2 編「非正社員をめぐる立法の変遷」では,私的 自治尊重の時代,2007 年のパート法改正等による消極 (抑制)的介入の時代を経て,現在は 2012 年の派遣法・ 労契法改正および 2018 年のパート・有期法等によっ て積極的介入の時代に移っており,私的自治の危機で あるとする。 本書のポイントである著者の主張は第 3・4 編で展開 される。第 3 編「非正社員を理論的・政策的に考える」 では,採用の自由と契約内容の自由(私的自治)に対 する法介入を批判する。たとえば有期労働契約の無期 転換権を定めた労契法 18 条は,5 年という年数要件 だけで,企業の(高度の)帰責性による正当化もない まま企業の採用の自由(更新拒否)への強い制約が課 されており,撤廃を検討すべきであるとする。労働条 件はそのままで期間だけが無期になるという中途半端 な地位での採用強制は格差問題への解決につながらな いという。有期労働契約であることを理由とする不合 理な労働条件の禁止を定めた労契法 20 条(現パート・ 有期法 10 条)は均衡待遇規定であり,立法・司法で は強行規定と解されているが,訓示(理念)規定と解 するべきであるとする。有期・無期労働者間の比較可 能性を広く肯定する抽象的で広い射程をもつ規定であ り,労使交渉のガイドラインを示したものと解する方 が規範構造になじむからである。「同一労働同一賃金」 は政治的スローガンにすぎず,企業の説明義務(パー ト・有期法 14 条)が労使の話合いを促進する上で重 要であるとする。 第 4 編「真の格差問題とは」では,非正社員の雇用 の不安定性や低処遇の原因は,労働者が企業の求める 正社員基準に合致しなかったため正社員の地位を得ら れなかったことに起因し,企業が非正社員を「濫用」 や「差別」したからではないとする。したがって,正 社員と非正社員との能力の差を縮めるべく「正社員と して採用されるに適した人材を育成する」ための職業 ●中央経済社 2019 年 3 月刊 B6 判・268 頁 本体 2500 円+税 ●おおうち・しんや   神戸大学大学院法学 研究科教授。 大内 伸哉 著

『非正社員改革』

─同一労働同一賃金によって格差はな

くならない

阿部 未央 (山形大学人文社会科学部准教授)

(2)

No. 713/December 2019 93 訓練に政府の非正社員改革の力点が置かれるべきであ るという。また,日本型雇用システムは第 4 次産業革 命の到来等によって,定型性の高い作業が多かった非 正社員の雇用がなくなり,ネット上でのマッチングに より個人自営業者へのアウトソーシングが増加し正社 員の雇用も減少することが予想される。新しいデジタ ル技術をつかいこなせるかどうかの格差(デバイスデ バイド)が新たな格差問題として浮上するのでその対 応策がより重要であると結ばれる。なお,本書のエッ センスは,著書のブログ(2019 年 5 月 9 日)や日経新 聞(2019 年 5 月 10 日)でも紹介されている。 「正社員とは,企業によって人材育成の対象に適し たと評価され選別された者」であり,政府による「正 社員になるための」教育訓練の充実が第一の(暫定的 な)提言に挙げられているが,それは狭き門の「正社 員枠」競争を,裏表でそれに敗れた非正社員というス テレオタイプを加速化してしまわないかとの懸念が残 る。ただ,著書が指摘している通り,ポスト日本型雇 用システム時代を迎えつつあり,「労働者」以外の個 人自営業者がふえていくなかで正社員・非正社員とい う雇用形態に基づく格差は相対化していくことが予想 される。格差対策にはいくつものアプローチがあり併 用もありうる。企業における労使の取組み,立法や司 法による取り組みなど主体もさまざまである。著者と は異なり,評者をはじめ法介入による格差是正に肯定 的な論者も少なくないし,その程度も様々である。プ ラス・マイナスの効果・副作用含め引き続き検討して いくことが求められている。

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