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地下水を水源とする水道水に含まれる硝酸性窒素濃度の空間的分布 利用統計を見る

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論 文

地下水を水源とする水道水に含まれる硝酸性窒素濃度の空間的分布

坂本康 中村文雄 風間ふたば

(平成2年8月31日受理)

Spatial Distribution of Nitrate Concentration

in Groundwater-Derived Potable Supplies

YasushiSAKAMOTO FumioNAKAMURA FutabaKAZAMA

      Abstract   Nitrate concentrations in groundwater・derived potable supplies were examined for its spatial distribution. The observed nitrate concentrations were related to the agricultural nitrogen supPlies.   Sample waters were collected from the faucets of municipal water supplies at 16 points along the Fuefuki・riVer and Kane−river in the winter season. The results showed that the water qualities of two river basins differed from each other and that high nitrate concentrations were observed in the Kane−river basin.   Agricultural nitrogen supplies in the Kane−river basin were estimated on the basis of groundwater base maps, land use maps, and recommended fertilizer application rates. The relation between the nitrate concentrations and the estimated annual nitrogen supplies showed that the former increased as the latter increased.

1.はじめに

 地下水は,一般に水質が良好で,水道水源としてもよ く利用される。しかし,近年その汚染が問題となってき ている。本研究では,汚染物質のうち硝酸性窒素を対象 に検討する。  硝酸性窒素は,植物体の腐朽等によって生じ,自然界 に普通に存在する物質である。しかし,飲用水に高濃度 に含まれていると,乳児にメトヘモグロピン血症を引 き起こすといわれている。このため,水道水の硝酸性窒 素濃度の基準値は,10mg/1に設定されている。 *土木環境工学科,Department of Civil and Environmental  Engineering しかし,飲用地下水でこの値に近い,あるいは超えた値 も,USA(Hulburt(1988)),スウェーデン(Anderssonら (1984)),イギリス(Tester&Carey(1985))等,世界各地で 報告されている。そのような地域では農業活動の影響 が現われている場合が多い。  本研究では,甲府盆地東部の果樹栽培の盛んな地域 を対象とし,地下水を水源とする水道水について,硝酸 性窒素濃度が空間的にどのように分布しているかを示 す。さらに,地下水流,農業活動との関係を検討する。 2調 査 法  2−1 調査対象地域概要  調査対象地域は,甲府盆地東部の笛吹川,およびその 支流である金川に沿った扇状地にある,山梨市,春日居 町,一宮町,御坂町,石和町の一市四町の範囲とした。こ

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平成2年12月 第41号 の地域は,扇状地の砂質沖積土壌が果樹に適するため, ブドウ,モモ等の果樹栽培が盛んである。調査対象地域 の地形の概要を採水点とともに図一一1に示す。  この地域の水道は,ほとんどが深井戸を水源とする 簡易水道である(山梨県厚生部環境衛生課(1989))。図 一1には,対象地域内の水源の位置も示してある。これ らの水源のうち,山梨市の山間部の3点と御坂町の山 間部の4点が湧水,山梨市の笛吹川近くの1点が浅井 戸,御坂町の金川中流部の1点が伏流水である以外は, すべて50m以上の深井戸である。これらの水源用井 戸の平均深さは,約85mであった。ただし取水する深 さはある程度幅がある。たとえぽ,ある100mの井戸の 例では,吸水管,スクリーンの深さは,75m∼100mの範 囲であった。  2−2 i採水方法と分析方法  水道水の採水場所は,採水の容易な学校,公民館等の 公共施設に選定した。採水点は,笛吹川沿いに5点,金川 沿いに5点設定した(図一1)。このうちNo.1の地点の 近くにある水源が湧水である以外は,いずれも近くに ある水源は深井戸である。  各水源ごとの給水範囲は確定できなかった。しかし, 図のように水源がかたよりなく広範囲に分布している こと,地形を考えるとなるべく近くの水源から給水す るのが合理的なことから,各採水点の水道水質は,そ の採水点に近い水源の水質を反映していると仮定し た。また,これらの水道では原水水質が良好なため,         ζ    No.100 17・・ 30砺  No.60         ・q    No.50 No.30 1k田

4

 40m 漣$ s““令     O採水地点  ・水道水源 図一1 調査対象地域概要図 塩素処理のみを行って配水している。このため,浄水 過程での水質変化も比較的少ないと考えてよい。  上記の10点で,1989年の11月24日,12月8日,12月 13日,12月20日,1990年の1月11日の計5回i採水した。 また,金川扇状地では,追加的検討のためにさらに1 月11日に6点で1回採水した。  なお,この地域の施肥の時期は,元肥を10月から12 月上旬,追肥を樹勢・収量により適宜,秋肥(お礼肥) を収穫直後の8月下旬から9月上旬とするのが標準で あった。量的には,元肥,秋肥が追肥の2.5倍から10倍 程度である。したがって,本研究の採水期間は,比較 的施肥の影響の受け易い期間とも考えられる。  採水は,それぞれの施設でよく使われている水道栓 で行った。各水道栓から2分間流した後の水を試料水 とした。  分析は,硝酸性窒素(以下,NO,−Nと記す)以外に, pH, Ca2+, Mg2+,アンモニア性窒素(以下, NH4−N と記す),亜硝酸性窒素(以下,NO2−Nと記す), Cl−, so42−, Po43−, sio2についても行った。有機物は,予 備分析の結果微量であったため,分析を省略した。  分析は,Ca2+, Mg2+はEDTA滴定法, NH、−Nはイ ンドフェノール法,po43一はモリブデン青法, SiO、はモ リブデン黄法,NO3−N, NO,−N, Cl−, SO42一は高速液 クロ(日立L6000シリーズ,電気伝導度検出器)によっ た。 3.調査結果と考察

 3−1 水質概況

 各調査地点での5回の測定の平均値,標準偏差を, 表一1に示す。ただし,NO,−NはNo.3で0.34 mg/ 1,No.6で0.25 mg/1であった以外は検出限界以下で あったので省略した。  山梨県衛生公害研究所の吉澤ら(1989)の甲府盆地地 下水水質分析では,盆地東部の笛吹川流域の地下水は, 盆地内の他地域に比べCa2+, SO42−, NO3−Nの濃度が 高いという特徴があった。表一1によると,地下水が 水源であるこの地域の水道水についても,この傾向が 見られる。また,No。7, No.8のSO42一濃度以外は, 測定日による水質変動は少なかった。No.7では12月 13日,1月11日に,No.8では12月13日に, SO42一濃度 が60mg/1を超えており,この値が標準偏差を大きく している。  NO3−N濃度については, No.2とNo.7で平均値が 水道水基準値10mg/1を超えており,No.3でも基準値 に近い値を示している。No.1の点は,標高の高い位置 の湧水水源の近くにある。したがって,ここでの値は

(3)

表一1 測定濃度の平均値と標準偏差

No. 1

No.2

No.3

No.4

No.5

、 差 、 差 82・・ 胃§:二N

NO3−N

Cl− SO,2− PO43’

SiO2

7.25    0.14 13.75    0.93 4.43   1.05 0.03  0.02 0.78    0.35 1.47    0.42 2.44    0.49 0.03  0.01 24.20    1.08 6.96    0.05 25.68    0.72 8.27    1.57 0.03  0.01 11.40    1.02 8.34    1.23 21:ll l:田 28.81    0.50 7.26   0・07 23.36    0.36 7.90    1.46 0.03  0.01 8.59    1.07 7.72   1.54 13:!l l:諺 30.50    1.90 7.51   0.03 13.18    0.54 4.95   0.96 0.03  0.01 1.06  0.36 1.63    0.64 3.99    1.37 0.35    0.01 32.25    0.79 7.42    0.04 26.90    0.76 8.74    1.32 量:22   8:86 7.59    2.67 28:69 1:訴 29.38    1.22

No. N . 7 No. No. N .

82・.

瓶二。

NO3−N

86:2− §96; 6.68    0.14 25.33    0.83 1:li l:69 6.67    1.41 13.17    3.31 29.44    4.60 0.07    0.01 32.12    0.98 7.13    0.05 38.45    5.47 9.21   tr.98 0.03   0.01 11.77    1.88 12.09    0.40 53.18   10.27 0.25    0.06 31.52    1.18 7.24   0.08 48.05    2.55 10.14   1.07 0.03  0.01 3.07    0.97 11.42  1.36 45.73   10.88 0.03  0.00 34.31    1.24 7.57   0.04 23.87    0.65 8.88    1.41 0.04    0.02 2.50   0.29 4.81   0.51 6.92    1.52 0.20    0.01 39.66    0.95 7.39   0.07 15.80    0.70 6.80  1.10 0.04    0.02 2.11  0.33 5.28    0.74 11.34    1.67 0.17   0.01 42.07    1.01 (単位は、pH以外はmg/1) 二 、 旦 鱒 ; ε 50 0        50    SO42一濃度 (mg/1) 図一2 Ca2+とSO,2一の濃度の相関 自然状態のバックグランド値と想定できる。それと比 較すると,No.2,3,7では10倍以上もの濃度が観測され ており,なんらかの人為的汚染が疑われる。  3−2 水質項目間の相関と水系の影響  各水質項目間で濃度の相関が高かったのは,Ca2+濃 度とSO42一濃度(相関係数:r=0.882), Ca2+濃度と Mg2+濃度(r・0、689)であった。 NO3−N濃度と他の水 質項目との相関は低いが,そのなかでも比較的高い相 関を示したのは,Ca2+濃度(r=0.443)とSO42一濃度(r= 0.571)であった。最も相関係数の値が大きかったCa2+ 濃度とSO42一濃度との相関図を図一2に示す。また, NO3−N濃度とCa2+濃度, SO42一濃度との相関図を,図 一3,図一4に示す。図一2∼4には,10地点すべて のデータをプロットし,回帰直線を図一2では実線で, 図一3,図一4では破線で示す。 20 = ㌃

5

縛10

8

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0

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     Ca2◆濃度(mg/1) 図一3 NO3−NとCa2+の濃度の相関 50  次に,全地点を二つの水系にわけて,それぞれにつ いて水質の相関を検討した。ただし,地下水の水系は 明確でないので,河川の水系に準じて各地点の属する 水系を推定した。  水系の一つは笛吹川水系であり,No.8∼No.10を 含む。図一2∼4では,黒塗り円で示す。いま一つは 金川水系であり,No.1∼NO.7を含む。図一2∼4で は,白抜き円で示す。No.6とNo.7は笛吹川と金川 との合流点の下流右岸にあり,地図上は笛吹川水系に 属するように見える。しかし,相関の検討により金川 水系に属すると判断した。これは,金川扇状地の地下 水流が合流点よりも下流の水質にも大きく影響してい るためと考えられる。  表一2に,笛吹川水系と金川水系とに分けたときの 相関係数を,全体の相関係数と共に示す。また,図一3, 図一4には,二つの水系それぞれの回帰直線を実線で 示す。相関係数の値をそのまま比較するのは適当では ないが,図一3,図一4の点の分布と合わせて考える

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平成2年12月 山梨大学工学部研究報告 第41号 と,NO3−N濃度の高い金川水系で,とくにNO3−N濃 度とCa2+濃度, SO42一濃度との相関が高いといえる。  以上の検討から,NO3−N濃度は金川水系で高いと 判明した。そこで対象を金川水系に絞って,さらに細 かく濃度の空間的分布を検討した。  標高500m以下の点で農業活動の影響が出ているな ら,濃度と農業活動に関した指標との間に相関がある ことが予想される。以下では,この考え方により,各 採水地点より上流部での施肥によるN施用量とNO3 −N濃度との関係を検討する。

 3−3 金川水系のNO3−N濃度分布

 金川水系について採水点を6地点増やし,13地点に ついてNO3−N濃度を測定した。結果を,濃度分布図と して図一5に示す。また,右岸と左岸とにわけて,標 高と各水質との関係を図一一 6,図一7に示す。  図一一 5によると,標高が500m以下の扇状地部分の 左岸,金川より少し離れたところで濃度が高い。図 一6,図一7によると,左岸の方が右岸より濃度が高 く変動も大きい傾向が見られる。図一6によると左岸 では,標高300m以下の点と500mの点で濃度が高い。 図一7によると,右岸では濃度は標高によらずほぼ一 定であるが,中流部の標高350m∼450m程度の点で幾 分高い。  図一6のように,標高300m以下の笛吹川近くの点 で濃度が高いのは人口密集地の生活排水の影響も考え られる。しかし,人工密度のそれほど大きくない標高 300m∼500 mの範囲では,農業活動の影響がより大き いと考えられる。500mの点で濃度が高いのは,同じ扇 状地部分でも扇頂部にあたることが影響しているのか もしれない。   20 ρ 一lb

5

測10

8

z

 oo(9

00()o ミ・

W

,∼卵 /6 0      50       SO42一濃度(mg/1)  図一4 NO3−NとSO42一の濃度の相関 表一2 水質項目間の相関係数 笛吹川+ 金川水系 笛吹川水系 金川水系

3−4 N施用量とNO3−N濃度との関係

施肥によるN施用量とNO3−N濃度との関係を検

ミ 旦 鱒 ミ 旦 灘 50 0 50       O採水地点 図一5 金川水系のNO3−N濃度分布 NO3−N Ca2+ Mg2+ C1− SO42  200       300       400       500       600        標高(m)   図一6 金川左岸の水質と標高の関係  NO,−N  Ca2+  Mg2+  C1− ◇SO42一 Ca2+とSO,2’  0.882 NO3−NとCa2+   0.443 NO3−NとSO42−  0.571 0.893 0.633 0.523 0.931 O.827 0.743 0 200       300       400       500         標高(m)   図一7 金川右岸の水質と標高の関係 600

(5)

討するために,各採水地点より上流地域でのN施用量 を以下の(1)∼(4)の手順で推計した。  (1)影響流域の推定  不透水性基盤等高線図(図一8)を参考にして,地 下水流の流向を推定し,地下水流域界を設定する。こ の境界は図一9に示す。さらに,この流域を各採水地 点を通る等高線により区切る。これにより,各採水点 より上流の流域範囲をそれぞれ定める。この範囲での 農業活動が各点の水質に影響していると考え,この範 囲をそれぞれの採水点の影響流域と呼ぶ。  (2)果樹園単位面積当りN施用量の推定  各市町の農協の資料により,果樹の種類ごとに単位 面積当りのN施用量,栽培面積を調べる。これらの資 料から,果樹園単位面積当りの平均年間N施用量を各 市町毎に算出する。  (3)影響流域内の果樹園面積の推定  果樹園分布図(図一9)を用いて,(1)で推定した各 影響流域内に含まれる果樹園面積を,各市町毎に求め る。  (4)影響流域内のN施用量の推定 /! ノノ

図一8 金川水系不透水性基盤等高線図        \志

        lk轟

鷹毎

図一9 金川水系果樹園分布図 (z2z)果樹園  (1)で推定した影響流域について,(2),(3)の結果から, N施用量を求める。  以上のように,N施用量は各市町毎の資料を基に推 定した。これは,各市町の農協ごとに施肥方法が異な ること,果樹種類ごとの栽培面積は各市町毎の資料で ないとわからないことによる。  不透水性基盤等高線図(図一8)は山梨県(1969)の 調査結果を用いた。図一8によると,不透水性基盤の 深度は約100m程度であり,水源の深井戸の深さにほ ぼ対応している。果樹園分布図(図一9)は,国土地 理院2万5千分の1地形図より求めた。  対象地域では,肥料は,もも,ぶどう(デラウェア, 巨峰等)等の種類ごとに各農協で定めた複合肥料を用 いていた。肥料中のN量は各農協の複合肥料成分表よ り求めた。なお,肥料以外に堆肥(バーク堆肥等)も 施用されていた。堆肥は,土壌改良材として果樹の種 類に関係なく一定量が撒かれ,またその成分は農協の 資料に示されていなかった。ここでは,堆肥の肥効は 複合肥料の肥効に比べて小さいと仮定し,N施用量の 計算には堆肥は含めなかった。  以上のようにして求めた影響流域内のN施用量と NO3−N濃度との関係を,図一10に示す。図では金川右 岸のデータを黒塗り円,左岸のデータを白抜き円で示 す。  図一一10より,左岸ではN施用量が多いほどNO3−N 濃度が高い関係が見られる。N施用量とNO3−N濃度 との間に線形関係があると仮定して求めた回帰直線 を,図一10に実線と破線で示す。破線は,左岸と右岸 を合わせたデータでの回帰直線であり,このときの相 関係数はr=0.663であった。実線は,左岸のみのデータ での回帰直線であり,このときの相関係数はr=0.845 であった。  図一10の()で囲った点は回帰直線から大きく外れ るデータである。このうち,白抜き円の点は図一1の No.2の点である。ここは扇頂部であるため,流域界の 推定が難しく,実際の影響流域が図一9で示した範囲 よりも広かった可能性がある。黒塗りの点は右岸で一 番笛吹川に近い点である。ここでは,笛吹川沿いに流 れる地下水流の影響を受けている可能性がある。  図一10の実線の回帰直線を用いると,上流でのN施 用量が約80 t−N/年以上の地点で,NO3−N濃度が基準 値10mg/1を超えるといえる。また,図一10の点の位置 から見ると,約40t−N/年以上で基準に近い,あるいは 越える値になるおそれがあるともいえる。80 t−N/年と いう施用量は,流域単位面積当りになおすと,約300kg −N/ha/年に相当する。スウェーデソの例(Andersson

(6)

平成2年12月 第41号 ミ 旦10 〒 ぷ

z

0          100 推定施用N量(t/年) 図一一一10 金川水系NO3−N濃度と推定施用N量の関係 ら(1984))では,約100kg−N/ha/年で地下水汚染が見 られた地域もあったから,この値は影響があっても不 思議ではない値である。  もし,農業活動の影響で水道水のNO3−N濃度が高 くなっているなら,果樹栽培が盛んになった戦後の 高々40年程度でこのような影響が現れていることにな る。甲府盆地の年間降水量,約1100mmは,一年に空 隙率0.3の土壌を3.7mつつ飽和させる水量に相当す る。この割合でNO3−Nも流下したら深さ85 mに達す るまでに23年かかる。しかし,実際には蒸発散量も多 いため,その速度はこの数分の一程度であろう。例え ぽ,Anderssonら(1984)の土壌中のNO3−N濃度分布 の観測結果では,移動速度は約1.5m/年であった。  以上の点から,何十年も以前の施肥の影響が深層地 下水まで達して,現在の水質を決定しているとは考え にくい。また,本研究で示したように,現在のNO3−N 濃度は現在のN施用量とある程度相関関係がある。し たがって,なんらかの原因により,農業活動の影響が 比較的早く地下水水質に影響を与えている可能性が考 えられる。その原因としては,①水が速く流下するよ うな構造が土壌中にある可能性,②井戸による汲み上 げそのものが流下を速くしている可能性,③井戸の構 造の影響で深い良好な水でなく,浅い汚染された水を 取水している可能性(Tester&Carey(1985)),が考え られる。 4.ま と め 本研究では,甲府盆地東部の果樹栽培の盛んな地域 を対象とし,地下水を水源とする水道水の硝酸性窒素 濃度が,空間的にどのように分布しているかを検討し た。その結果,笛吹川沿いよりも金川沿いの方が硝酸 性窒素濃度が高いことを示した。また,地下水流を考

慮して推定した影響流域内N施用量とNO3−N濃度

との間にある程度相関があることを示した。  ただし,本研究で用いた秋から冬にかけての数回の 試料は年間の水質を代表するものではないこと,地下 水の流れが明確には分かっていないことから,確証を えるには至っていない。もし,施用された窒素が比較 的短い時間で地下水に達するのであれぽ,年間の施用 量,降水量変化に対する年間の濃度変化の応答もかな り明瞭に現われると予想される。現在は,このような 視点での検討をすすめている。  また,農業活動が高濃度の硝酸性窒素の原因ならぽ, 水処理技術による対策ぼかりでなく,灌概法,施肥法 の改善という原水対策(Ritter&Manger(1985))をこ うじる必要があろう。 謝  辞  本研究の実施には,日本水道協会の研究助成を得た。 また,水質分析には本学環境整備工学科平成元年度卒 業生,瀬下睦弘君(現,㈱アイシン精機)の協力を得 た。ここに記して,謝意を表したい。

参考文献

山梨県(1969):「山梨県深層地下水調査解析書」。 山梨県厚生部環境衛生課(1989):「山梨県の水道(昭和62年4月1   日∼昭和63年3月31日)」。 吉澤一家,清水源治,高橋照美,茅野陽子,堤充紀(1989):甲府盆   地及び周辺部の地下水の水質について,日本陸水学会甲信越   支部会会報,第15号,pp.22−23, Andersson, R., T. Kindt, P. O. Johansson, and L. Maxe(1985):   An Attempt to Reduce Nitrate Content in Ground Water   used for M皿icipal Water Suuply by Changing Agricul−  tural Practices, Nordic Hydrology, Vol.15, pp.185・194. Hurlburt, S.(1988):The Problem with Nitrates, Water Well  J.,Vol.42, No.8,pp.37・42. Ritter, W. F., and K. A. Manger(1985):Effect of Irrigation  Efficiencies on Nitrogen Leaching Losses, J. Irrigation  and Drainage, Vol.111, No.1, pp.230・240. Tester, D. J., and M. A. Carey(1985):The Prediction of  Nitrate Pollution in Chalk Groundwater−Derived Potable  Supplies and the Renoation of an Affected Source, Water  Pollution Control, Vo1.84, No.3, pp.366・379.

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