競争する地方政府 (特集 中国の都市と産業集積
--長江デルタで何が起きているか)
著者
藤井 大輔
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
197
ページ
8-11
発行年
2012-02
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00004057
七 八 年 か ら 始 ま る 改革開放 よ り 、 地 方 政府 に 地 元経済 イ ン セ ン テ ィ ブ を与え る 分 進 め ら れ た 結果 、 基 本的 に 府 の策 定した計 画に従 う だ っ た 計 画 経 済 時 代 に 比 べ 、 府 は よ り積 極的 に 行 動す る な っ た 。 特 に経 済 発 展 の た 期 条 件 が そ ろ っ て い た 長 江 地 域 で は、 地 方 政 府 は、 地 に 対 し て 直 接的な 影 響力を る よ う に な っ た 。 同 時 に 、 う な 地 方 政 府 の 行 動 は、 地 の 経 済発展競争を 生 み 出 業 誘 致 など を通じ た地 域 経 展 を 実 現 さ せた 。 そ の 一 方 の よう な 地 方 政 府 の 行 動 は、 の 面 で の 弊 害も 多く 見 論 も 出 て い る 。 で 本 稿 で は 、 改革開放後 の ル タ 地 域 の 地方政府 の 役 割 て 焦 点 を あ て、 地 方 政 府 間 競争 の 制 度的 な 背 景 な ら び に 、 地 方政府 の 役割 の 変 化 に つ い て 整 理 し、 地 方 政 府 主 導 の 発 展 モ デ ル の 今後 に つ い て 展望 を 行 う 。
●政府間競争の制度的基礎
中国 に は 、 省 ︱ 市 ︱ 県 ︱ 郷 鎮と いう四 層 の 地 方 政 府 が 存 在 し 、 上 級政府が 下級政府 に 行政機能を 請 け 負 わ せ る ﹁ 縦方向 の 行政請負﹂ と同 一 レ ベ ル の地 方 政 府 間 の ﹁ 横 方向 で の 競争﹂ を 組 み 合 わ せ た 制 度的枠組 み が 構築 さ れ て い る 。 各 レ ベ ル の 地 方政府 の 役割 は 、 改革開放後 の 市場経済化 や 地方分 権化 な ど の 制 度改革 に と も な っ て 変化 し て き た が 、 下級政府 は 上 級 政府 に 服 従 し な け れば な ら な い ﹁縦方向﹂ と 、 同 一 レ ベ ル の 地 方政 府間 で 競 争を繰り広 げ る ﹁ 横方 向﹂ の 根 本的構造 は 不 変 で あ る 。 そ し て、 ﹁ 縦 方 向 ﹂ の 構 造 の 下 で、 ﹁ 横 方向﹂ の 政府 間競争 を 生 み 出す背 景 と な っ て いるの が 、﹁ 政 績︵ 政 治 成績︶ ﹂ 制度 で あ る 。 ﹁政績﹂ 制度 と は 、 上 級政府が 下級政府 の 幹部を 評 価す る 人 事考 課シ ス テ ム の こ と で あ る 。 中 央 官 庁に所 属 する国 家 公 務 員 と 各 地 方 公共 団体 の 地 方公務員 に 分 け ら れ、そ の 間 で の 異 動 が 基 本 的 に な い日 本 と は 異 な り 、中 国 で は 良 い 成績を あ げ た 地 方 政府幹部 は 、 よ り上級 の 地方 政 府 の 幹 部 、 さ ら に は中 央 政 府 の 幹 部 へ と 昇 進 が可 能 とな っ て い る 。 ﹁政績﹂ の 評 価項 目 は 、 中 国共 産党中央組織部が 二 〇 〇六 年 に 策 定し た ﹁ 科 学 発 展 観 の 具 現 に要 求 される 地 方 の 党 ・ 政 府 幹 部 の総 合 評価審査 の テ ス ト 方法﹂ に よ る と 、 ⑴資源消費 と 安全 生 産 、 ⑵ 社会保 障、⑶ 人 口 と 計 画 出 産 、⑷ 耕 地 な どの 資 源 保 護 、⑸ 環 境 保 護 、⑹ 一 人当 た り G D P と そ の 成長率 、 ⑺ 都市住 民 ・ 農 民 の 収 入 と そ の 成 長 率 、 ⑻基 礎教育 、 ⑼都市部 の 就 業 ⑽科学技術導 入 、 ⑾ 一 人当 た り 財 政収入 と そ の 成長率 、 ⑿文化的生 活、 の 一 二 項 目 と な っ て い る 。 項目 の 内 容や重点 が 置 か れ て い る項 目は 、 市 場 化 の進 展 な ど に よ り変化 し て い る と 思 わ れ る が 、 G DP 成 長 率 な どの 各 種 の 経 済 成 長 に関 連 す る項 目 が 含 ま れ て 続 け て きた こ と に変 わりはな い 。 そし て 、 分権化 さ れ て い る 下 で 、 こ の よ う な 客 観的な 人 事考課制度が 存在 し てい る 結 果 、 地 方 政 府 の 幹 部 は 、 昇進す る た め に 他 の 地 方政府 の 幹 部 よ り も 良 い ﹁ 政 績 ﹂ を あ げるた めに 各 自 行 動 し 、 地 方 政 府 間の 競 争が 生 ま れ る の で あ る 。 こ の メ カ ニ ズム の こ とを周 黎 安 は ﹁ 昇 進 競 争 ﹂ モ デ ル と 呼 ん で い る ︵ 参考文献⑥︶ 。●地方政府による企業経営
では 、 前 述の 良 い ﹁ 政 績 ﹂ を あ げるため の地 方 政 府の行 動 の具 体 的な方 法 は ど の よ うな も の で あ っ たで あ ろ う か 。ま ず は 、 改 革 開 放 直後 の 状 況 を 見 て み た い 。 こ の 当 時、農 村 部 で は 、 人 民 公 社 の 解 体 と﹁ 農 家 経 営 請 負 制 ﹂ の 導 入 が 行 わ れ た 。 こ の ﹁農家経営請負制﹂す
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とは 、 生 産 量 を 増 や せ ば 増 やした 分だ け 、 各農家 の 取 り 分が 増加 す ると いうシ ス テム で 、 増 産 へ の イ ン セ ン テ ィ ブ を も たらした 。 そ の 結果 、 農 業 の 生 産 性 は 上 昇 し 、 農 家所得が 上 昇 し た 。 こ の 所 得を 元 手 と し て 、 各 地 に さま ざまなタイ プの 郷 鎮 企 業 が 設 立 さ れ た 。その 代 表 的 な モデ ルが蘇 南 モデ ル と 温 州 モ デ ル で あ る ︵ 参考文献③︶ 。 蘇南 モ デ ル と は 江蘇省南部 で 発 展し た郷 鎮 企 業 の モデ ル で あ る 。 その 特 徴 は 、 人 民 公 社 期 の 社 隊 企 業を基礎と し た 郷 村政 府が 所 有 ・ 経営す る 集 団 所有制企 業が 主 体 で あり 、 隣 接 す る上海 な ど の 都 市 部 国有企 業 向 け の 下 請 け 生 産 や 地 元 市場向け の 生 産を 行 っ て い た 。 そ の一方 、 温 州 モ デ ル は 浙 江 省 南 部 沿海部 の 温 州 地 域 で 発 展 し た モ デ ルをさす 。 一 九 八 八 年 に ﹁ 私 営 企 業暫定条例﹂ が 実 施 さ れ る ま で は 、 民営企 業 が 合 法化 さ れ て い な か っ たので 、 公 有 企 業 を 偽 装 す る 形 で 発展 し て き た 事 実 上 の 民営企業 で あり 、 独 自 の 流 通 ネ ッ ト ワ ークを 武器と し て 発 展し て き た 。 この よ う な 郷 鎮 企 業 の 発 展 の も と、 郷 鎮 企 業 の 経 営 主 体 と し て の 郷鎮政府 の 行 動 に 注 目 し た オ イ は ﹁地方政 府 コ ーポ ラ テ ィ ズ ム ﹂ 論を 提起 し た ︵参考文献④︶ 。 一 九 八 〇 年代初頭 よ り 、 地 方政府が 地 元 経 済を発展さ せ 、 財 政収入を増や せ ば増やす ほど 、 中 央 政 府 へ の 上 納 を引 い た 地 方 政 府 の 取 り 分 が多 く なると い う ﹁ 地 方 財 政 請 負 制 度 ﹂ が採用さ れ て い た 。 そ こ で 、オ イ は 、 郷鎮政府が 、 財政収入 の 拡 大を イ ンセ ンテ ィ ブ と し て 、 地 元 の 郷 鎮 企業 に 対 し 、 資 金 調 達 や物 資調 達 で便 宜を図るな ど 、 そ の経 営に積 極的 な 介 入を 行 っ て い る こ と を 指 摘し た 。 こ の ような郷 鎮 政 府 の 行 動は 、 改 革 開 放 初 期 の 市 場 に よ る 資源配分が 未 成熟な 状 況下 で の 郷 鎮企 業 の 発展 の 助 け に な っ た と 積 極的 な 評 価を し て い た 。 その 一 方 で 、 地 方 政 府 の 地 元 経 済 への 積 極 的 な 介 入 は、 資 源 の 効 率 配分 を 歪 ま せ る と い う 側 面 も 持 っ て い た 。 地 方 政府 間 の 競争が 行 わ れて い る 下 で 、 各 地 方 政 府 は 地 元 企業を 優 先 的 に 発 展さ せ る た め に 、 例えば 、 石 炭 、 マ ユ な ど の 生産 財 が 他地 域 へ 流出す る こ と を 防 ぐ 囲 い 込 み や 、 ビ ー ル や 自動車 な ど の 消 費財が 自 地 域 に 流 入 し て く る こ と を防 ぐ 市 場 封 鎖 が 行わ れ て い た 。 以上 の よ う に 、 郷 鎮政府が 積極 的に郷 鎮 企 業 経 営 に介 入 す る こ と は 、 プ ラ スの 面 と マイ イ ナ スの 面 を持ち合わ せ て い た わ け で あ る が 、 郷鎮企 業 の 発 展 し た 沿 海地 域 ほ ど 経済成長率も 高 か っ た こ と な ど を 考慮 す る と 、 政府 間 の 競争的環境 の下で 一 九 八 〇 年 代の郷 鎮 政 府 の 行 動 は 、 やはり 肯 定 的 にとらえ る べき で あ ろ う 。
●企業経営から都市経営へ
しかし 、 一 九 九二年の南 巡 講 話 以降 、 市 場経済化が さ ら に 進 展 し たこ と は 郷 鎮 企 業 の 経 営 環 境 に も 大 き な 変 化 を もたらした 。市 場 経 済化 の 進 展 に 伴 い 、 民 営企 業 や 外 資企 業 と い っ た 公 有制 以外 の 企 業 が増 加し 、 市 場に おけ る企業 間 の 競争 も 激 し く な っ て い っ た 。 ま た 、 この 頃 に は 計 画 経 済 期 か ら の ﹁ モ ノ不 足 ﹂ もす で に 解 消 され 、 作 れ ば売れ る 状 態 もなくな っ た 。 そ の 結果 、 郷 鎮企業 の 発展 の 勢 い に も 陰りが 現 れ る よう に な っ た 。 こ の ような状 況 下 で 、 郷 鎮 企 業 の さ ら なる 発 展 のためには 、 あ い ま い な 所有権構造 を 明 確 に す べ き で あ る との 議 論 が 現 れ 、 郷 鎮 政 府 が 所 有 ・ 経営 し て い た 蘇南 モ デ ル の 郷鎮企 業 も 、 一 九九 八年 以降段階的 に 民 営化 さ れ る こ と に な っ た 。 そこ で 、 企 業 経 営 と い う 形 で 経 済活動 に 介 入 し て い た 郷 鎮政府 に 代わ っ て 積 極 的 に 介入し 、 政 府 間 で競 争 を 繰り 広 げ る よ う に な っ た の が 、県 政府 で あ る ︵ 参考文献⑤︶ 。 そ の き っ か け は 、 一 九九〇年代半 ばに 、 土 地の 開 発 使 用 に 関 す る 権 限が 県政府 に 与 え ら れ た こ と に あ る ︵ 参考文献①︶ 。 一 九九 五 年 施行 の﹁ 中 華 人 民 共 和 国 城 市 不 動 産 管 理法 ﹂ に よ り 、 県 政 府 が都 市 部 不 動産 用地 の 規 画 、 国有地 の 使 用 権 譲渡 に つ い て 責任 を 負 い 、 批准手 続き を行う こ と に な っ た 。 さ ら に 、 一九 九 八 年 に は 、 農 村 の 集 団 所 有 地の 徴 用 な ら びに 開 発 業 者 と の 契 約も 県 政 府が担う よ う に な っ た 。 その 結 果 、 県 政 府 は 、 各 県 内 で は 土 地 の 独占供給者 に な っ た の と 同 時に 、 各 県 政 府 間 の経 済 発 展 競 争 の手 段 と し て 、 土 地 を 利 用 する こ とが可 能 に な っ た の で あ る 。 独占供給者 と し て の 機 能 に 着 目 すると 、 県 政 府 は 売 却 価 格 を つ り あげ る こ と で 独占 レ ン ト を 獲得す るこ と が 可 能 に な る が 、あ く ま で も 県 内 で の 独 占供給主 体 で あ り 、 地 域 間 、 特に地理 的に近 接 し 、 交 通の 利 便 性 な ど の 条 件 が 類 似 し て いる 周 辺 の 県 との 間 で は 、 競 争 関 係にある 。 こ の よ う な 状 況 下で 、 もし 、 あ る 県 が周 辺 地 域 よ り も 高 値で 土 地 を 販 売 し たとす れ ば 、 土競争する地方政府
手 は す べ て 周 辺 地 域 を 選 し まう こ と に な る 。 特に 、 比較的自由 な 外資企業 、 こ の よう な 行 動 を と る 可 高 い 。 つ ま り 、 企 業 誘致 に る た め には 、 独 占 レ ント が が よ い と い うことに な る 。 府 の 企 業誘致行 動を 具現 が開 発 区 設 置 競 争 であ る 。 年 代 半 ば か ら 二 〇〇〇 年 に か け て 、 県政府を 含 め た 競う よ う に 開 発区を 、 土 地 譲渡価 格 を 引 き 下 げ 、 致 し た 。 そ し て 、 県 政 府 て き た企 業から増 値 税 な 政 収 入 を 上 げ よ う と し た の 。 結 果 的に 、 こ の時 期に長 タ 地 域 の 外 資 の 流 入 は 大 幅 ︵ 図 1︶、 産 業 集 積 も 各 地 さ れ 、 経 済 発 展 に貢 献し た。 し 、 地方 政 府 の 開 発区 設 置 弊 害 も もたらした 。 二 〇 〇 点 で 、 各 級 政 府 が設 置 し た は 、 無 許可 の も の も 含 め て カ所以 上 に 膨れ上が っ た れ て い る ︵ 参考文献②︶ が 、 程 で 、 農 地 の 違 法 収 用 、 重 、 工 業 用地 価格 の 過 度 な 引 の ような弊 害 も 現 れ た。 で 、 国 務 院 ︵ 中 央 政 府 ︶は 、 三 年 に 開 発 区 の 整 理 整 頓 に 関す る 通 知を 発布 し 、 さ ら に 省 級 以下 の 地 方政府 に よ る 開発区 の 設 置と拡 張 の 申 請を 一 時 的 に 停 止 し た。 そ し て、 国 土 資 源 部 も 工 業 用 地の 譲 渡 価 格 に 地 域 や 条 件 ごと の 最低価格を 設 定 し た 。 そ の 後 、 開 発区 の 批 准 手 続き は 再 開さ れ た も のの 、県 級 以 下 の 地 方 政 府 に よ る 開発 区設置 は 認 め ら れ な く な っ た 。 こ の よ う な形 で 、 二 〇〇〇 年 代半 ば に は 、 地方政府 、 特 に 下 級 政府 に よ る 開 発 区 設置競争 に 一 定 の歯 止めがかけられた の で ある。
●政府間競争と公共支出
では 、 開 発 区 設 置 の 制 限 が 実 施 された 結 果 、 企 業 誘 致 な ど の県 級 政府 間 の 競争 は 行 わ れ な く な っ た ので あ ろ う か 。 こ こ で は 、 開 発 区 設置規制前 の 二 〇 〇 〇 年 と 規制後 の二 〇 〇 七 年 の 江 蘇 ・ 浙 江 ・ 上 海 の三 省 市 の 県 政 府 財 政 デ ー タ を 用 いて 、検 証 し て み たい 。 もし 、 図 2のよ う な 各 県 間 で の 競争的 な 企 業 誘致 の 構 造が 依然 と して 見 ら れ る ので あ れ ば 、 イン フ ラ整備など の た め の 公 共 投 資も 県 政府 間 で 競争的 に な り 、 支 出水準 は各 政 府 で似た よ うなも の に な る はず で あ る 。 なぜ な ら ば 、 も し 、 ある県 政 府 が 財 政 支 出 水 準 を 低 下 させた場 合に は 、 企 業 はそ の県で はなく 、 近 接 するより 財 政 支 出 水 準の 高い県 に 進 出 ・移 転 し ま う か らで あ る 。 特に、 こ こ で 分 析 対 象 と し て い る 長江 デ ル タ 地 域 は 、 中 国 の 中 で も 相対的 に 経済発 展 の 進 ん で い る 地 域であ り 、 自 主 的 に 支 出 内 容 を 決 定でき る 地 方 税 や 共 有 税 か ら の 地 方分 に よ る 本 級収 入 も 他 地 域 に 比 べ て 多 く な っ て い る 。 財 政 部 予 算 司 の二 〇 〇 七 年 デ ー タ に よ る と 、 県 政府 の 全 収 入 に し め る 補助金 な ど を除 い た 本 級 収 入 は 、 全国 平 均 の 約四五 % に 対 し て 、江 蘇 は 約 六 八 % 、 浙江 は 約 六 二 % と な っ て い る 。 つ ま り、 各 県 政 府 が 競 争 的 な 公 共 投 資 を行 うた め の 財 源 も他 地 域 に 比 べ て相 対 的 に豊 富 で あ る こ と に な る。 さて 、各 県 政 府 の 財 政 支 出 構 造 が競 争 的 に な っ て い る か を 検 証 す るため に 、 以 下の よ う な シ ン プ ル なモ デ ル を 用いる こ とに す る 。被 説明変数を各県 の 一 人 当た り財政 支出額 と し 、 こ れ が ど の よ う な 要 素に よ っ て決 定 さ れ て い る かを み るため に 、説 明 変 数に 二 種 類の デー タを準 備 し た 。 一 つ は 、 各 県 の 経 済発展度合 い な ど を 示 す地 域特性 データ 、 もう 一 つ は当 該 県 から の 距離 な ど を 考 慮 し た 他 県 の 財政支 出 デ ータ である。 後 者 の デ ータは、 当 該 県の 財 政 支 出 水 準 が 近 隣の県 の財 政 支 出 水 準 の 影 響 を 受 け て い るか見 る ため のも の で ある 。 こ こ で、 影 響 を 受 け や す い で あ ろ う 競 (出所)『江蘇統計年鑑』、『浙江統計年鑑』各年版より筆者作成。 (出所)筆者作成。 30 25 20 15 10 5 0 江蘇 浙江 億ドル 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 インフラ 整備など 財政支出 集積 下級政府 インフラ 整備など 財政支出 集積 下級政府 労働者 企業 政府間競争 労働者 企業 政績評価システム 上級政府 図1 江蘇省・浙江省の実際利用外資金額 図2 政績評価システムの元での地方政府間競争争相手を 考慮 す る た め に 、 地 理 的 条件 の 類 似す る 、 距離 の よ り近 い 県 の 財 政 支 出 に重 みをおく 方 法 と、 政 績 シ ス テ ム を 考 慮 し て 同 一 地区 級 市 に所 属 す る県 の 財 政 支 出 に重 みを置 く 方 法 の 二 種 類 の デー タを 用 い 、 そ れ ぞ れ別 途 推 計し た。 もし 、 後 者の他 県 の財 政 支 出 水 準か ら の 影 響 を 示 す 係 数 が 有 意 に 正の 値 を と る と 、 各 県 間 で の 財 政 支出水準 に は 正 の 相関が み ら れ る ことに な り 、 こ の よ う な 場 合 は 前 述の図 2のよ う な 競 争 的 な 支 出 が 行わ れ て い る こ と に な る 。 こ の 係 数が 有意 で な い 場 合 に は 、 各県間 の財 政 支 出 水 準は他 県 の 影 響 を受 けて いな い こ と を 意 味 し 、 各 県 間 の 競 争的財政支出行動 は 見ら れ な いと い う ことに な る 。 な お 、 負 の 係数を と っ た 場合 は 、 他県 の 影 響 を受け る が 、 図 2とは 逆 に 、 隣 接 の県 が 財 政 支 出 を 増 や す と 、 当 該 県は財 政 支 出 を減 らすようなパ ター ン で ある。 推計結果を み る と 、 い ず れ の データセ ッ ト も地 域 特 性 を 示 す 係 数な らび に 近 接県 の 財 政 支 出 水 準 から の影 響 を 示 す 係 数 は 、 正 に 有 意とな っ た ︵ 注 推定 の 詳 細 は 、 勁草書房 よ り 出版 予定 の 加 藤弘 之 ・ 藤井大輔 ﹁競争す る 地 方政府 ︱ 企 業経営 か ら 都 市経営 へ ﹂ を 参 照の こ と ︶。 ここ で 、 注 目 す べ き は 、 他 県 の 財政支出水準 の 影 響を 示す係数 は 、 開発 区設置規制前 の 二 〇 〇 〇 年と規 制 後 の 二 〇 〇七年 の い ず れ も、 有 意 に正とな っ た こ と で ある。 開発 区設置規制後 も 依 然 と し て 、 各県間 で 競争的な 財政支出が 繰 り 広げ ら れ て い る こ と が わ か っ た 。 また 、 同 一 地 区 級 市 内 の県 の影 響に重 みを置 い た モデ ル も 他 県 の 財政支出水準 の 影 響を 示す係数 は 正 に 有 意 とな っ て い た 。 こ れは 、 同 一地 区 級 市 内 の 県 で 、 昇 進 競 争 が 行わ れ て い る こ と を 示 唆し て い る 。 以上 の 推 定結 果 よ り 、 下級政府 は上 級 政 府に 服 従 し な けれ ば な ら な い ﹁縦方向﹂ の 構造 の 下 で 、 県級 政 府 間 が 競 争 を繰り 広 げ る ﹁ 横 方 向 ﹂ の 根 本 的 な構 造 は 、 二 〇〇〇 年代後半 に 入 っ て か ら も 依 然 と し て 変化が 見 ら れ な い こ と が わ か っ た 。