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インタビューは一瞬一瞬が勝負 (フィールドワーク心得帖 第28回)

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Academic year: 2021

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インタビューは一瞬一瞬が勝負 (フィールドワーク

心得帖 第28回)

著者

佐藤 幸人

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

203

ページ

45-46

発行年

2012-08

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003911

(2)

ਸ਼৚ؙ佐藤幸人

  インタビューでは即興の力が 問われる。タイミングよくあと 一歩踏み込んだ質問ができるか どうかで、インタビューの出来 映えが格段に違ってくる。もち ろん事前の準備も重要だ。即興 ができるかどうかも、準備の程 度に大きく依存する 。しかし 、 どんなに周到に準備をしても 、 インタビューには相手がいる以 上、完全にコントロールするこ とはできない。大なり小なり予 期せぬ展開になる。むしろ想定 外の話のなかに、研究にとって 意味のある内容を見出していく 積極性と即応力が求められるの だ。反対に予め用意したシナリ オにこだわりすぎれば、インタ ビューがぎこちなくなるばかり か、重要な話につながる鉱脈を 自ら閉ざしてしまうことにもな りかねない。   では、即興の力はどのように 磨けばよいのか。最良の方法は 経験から学ぶことだと思う。こ の文章を書くにあたって改めて 自分自身のことを考えてみる と、経験からの学習を通して気 をつけるようになったことが二 つある。ひとつはAという結果 の原因や理由がBだという説明 があったとき、さらにBの原因 や理由を尋ねることである。も うひとつは実際にはCという行 為や判断が行われたとき、何故 CではないDやEを選ばなかっ たかを尋ねることである。たい したことではないように思うか もしれないが 、実際のインタ ビューでは話の流れのなかで短 時間のうちに疑問点を明確に し、適切なタイミングで質問し なければならず、 意外と難しい。   以下ではわたしがこれまでの インタビューにおいて、今述べ た二点をどのように踏まえてき たのかを説明したい。なお、う まくいったケースばかりを取り あげているが、それは自慢話が したいからではなく、うまくい かなかったケースは、記録にも 記憶にも漠然としか残っていな いからである。実際には成功例 の何倍もしくじっている。そし て気づかないままになっている 失敗はもっとあるだろう。 ●理由の理由を尋ねる   たいていの事象の原因や理由 は重層的である。インタビュー で直接の原因や理由を聴くこと ができたとしても、整理する段 になって、それだけでは非常に 浅い理解でしかなかったことに 気づくことがしばしばある。直 接の原因や理由の背後にある原 因や理由こそが往々にして重要 であったりするからである。し かし、インタビューは通常一発 勝負であり、後から挽回できる 機会は少ない。メールで補足の 質問をしても、返答をもらえな いことの方が多い。それ故、イ ンタビューでは聴いたことの背 後になお原因や理由があること を即座に察知し、そこに切り込 んでいく必要がある。以下、二 つのケースを紹介しよう。   二〇〇七年秋、わたしは台湾 の高炉メーカー、中国鋼鉄を訪 問した。調査の目的は中国鋼鉄 と川下の企業との研究開発聯盟 の狙いを知ることだった。その 発案者であるC氏の説明は明解 だった。中国鋼鉄は製品の高度 化を進めたい。しかし、日本や 韓国では自動車産業が大口の ユーザーとして鉄鋼製品の高度 化を牽引するが、台湾の自動車 産業は弱い。そこで種々の金属 および機械産業と共同で研究開 発を進め、それによって増加し た高級材に対する小口の需要を 束ねることで、自動車産業の代 わりにしようと考えていたので ある。レベルアップを目的とし た企業間関係の強化は、二〇〇 〇年代に入って台湾の諸産業に おいて活発になっていた。C氏 の回答によって、中国鋼鉄の研 究開発聯盟をそのひとつとして 理解することができた。   しかし、なお不満が残り、質 問を重ねた。何故、C氏は研究 開発聯盟というアイデアに到達 できたのかと 。C氏は自身の キャリアを説明した。以前に営 業部門の責任者だったとき、C 氏は顧客である川下の企業のレ ベルアップへの意欲に触れてい たが、それに応えることができ なかった 。技術部門に移って 、 顧客の意欲に応えるために創り 出した仕組みが研究開発聯盟 だったのである。こうして、台 湾製造業のダイナミズムが企業 の戦略に具現化するプロセスが 明らかになったのである。

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  二〇一〇年の秋、わたしは台 湾人のH氏が経営する江蘇省の 鍍金メーカーY社を訪ねた。H 氏によると、中国の地場の鍍金 メーカーは品質が低いので、輸 出向け中心のY社との直接的な 競合は少ない。品質が低いのは 彼らが安い染料を使っているか らであり、彼らは上質の染料の 入手先も知らない。また、成分 や温度の調節もできない。ここ までが中国企業の品質が低い直 接の理由の説明である。 しかし、 ひとつの疑問が湧いた。染料の 購入先を調べることはそれほど 難しいのだろうかと。   そこで少し角度を変えて質問 をすると、中国企業に品質を引 き上げる力がないわけではない らしいことがわかった。こうな ると疑問は大きく膨らんだ。す かさず 、では中国企業は何故 、 品質を向上させないのかと尋ね た 。その答によってようやく 、 中国企業は品質を高められない のではなく、中国市場では品質 の低い製品でも売れ、十分に利 益を得ているので、高める必要 を感じていないということが判 明した。こうして技術水準が市 場を決めているというよりも 、 市場の棲み分けが技術水準を決 めていることが理解できたので ある。 ● 選ばれなかった選択肢を尋ねる   何故、ある行為をしたのかを 尋ねても、曖昧な回答しか得ら れない場合がある。この時、あ り得たかもしれない他の選択肢 を想起し、何故、それを選ばな かったのかを尋ねると、回答が 俄然明瞭になることが少なくな い。また、二つのケースを紹介 しよう。   二〇〇二年から二〇〇三年に かけて、わたしは台湾半導体産 業の出発点となる国家プロジェ クトに参加した技術者たちを訪 ねて回っていた。この国家プロ ジェクトの成功の一因は、参加 した技術者たちが非常に意欲的 に取り組んだことにあることが わかっていた。彼らのプロジェ クトに参加した動機や意欲の源 泉を究明することが調査の目的 だった。   詳細は覚えていないが、ある インタビューの際に、技術者た ちには国家プロジェクトととも に、外資系企業という選択肢も あったことに気づき、何故、外 資系企業を選ばなかったのかと いう質問を投げかけた。これは 非常に効果的な質問だった。そ の後のインタビューでは、繰り 返しこの質問を使うようになっ た。彼らの回答からは、当時の 外資系企業に対する不満が溢れ 出していた。一九七〇年代に台 湾で活動していた外資系企業 は、低賃金労働力の利用を目的 とし、低い技術水準に留まって いたからである。 それに対して、 国家プロジェクトは台湾にとっ て空前のチャレンジであり、技 術者たちにとっては能力を高め る大きなチャンスだった。 また、 技術者たちの回答のなかに、彼 らが抱いていた一種のナショナ リズムを観察することもでき た。   二〇一〇年二月、わたしは北 京のセブンイレブン中国を訪ね た。セブンイレブンは二〇〇四 年から北京のコンビニエンスス トア・チェーンを直営していた が 、上海市場進出に際しては チェーン経営を台湾の統一グ ループにライセンシングした 。 インタビューにおける最大の関 心は、何故、上海では直営から ライセンシングに切り替えたか であった。 それに対する回答は、 中国という大きな市場を攻略す るには自社の資源だけでは不十 分であるというものだった。明 解な説明である。   この時は確か予め準備してい たと思うが、さらに次のような 質問を続けた。上海の事業をラ イセンシングする候補は統一グ ループ以外にもいたはずであ る。何故、 統一グループを選び、 何故、統一グループ以外を選ば なかったのかと。セブンイレブ ン が 回 答 し た 選 択 の 理 由 は 、 まったくチェーン経営の経験が ない企業と比べ、統一グループ が台湾において長年経験を積み 重ねていたことであった。 また、 統一グループが既に中国におい て多くの経営資源を保持してい たことも有利な要素であった 。 いずれも上海における事業立ち 上げの時間の短縮に寄与するも のだった。こうして、セブンイ レブンにとって時間が重要だっ たこと、また経験の蓄積や中国 での資源が台湾企業の強みと なっていることがより鮮明に なったのである。   繰り返しになるが、理由の理 由を 尋ね る こ と も 、選 ば れ な か っ た選択肢を尋ねることも、多く の場合、事前に完全に準備でき るものではなく、インタビュー のなかで瞬時に行わなくてはな らない。それ故、うまくいかな いことも多い。 しかし、 だからこ そインタビューは面白く、醍醐 味があるとも言えるだろう。 さとう ゆきひと/アジア経済研究所 企業・産業研究グループ 台湾を中心とした東アジアの産業発展および台湾における経済と政治・社 会の関係を研究している。2012年、『交錯する台湾社会』(沼崎一郎との共編)、 『馬英九再選―2012年台湾総統選挙の結果とその影響―』(小笠原欣幸との 共編)を刊行。

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