貧困削減を伴う工業化 -- バングラデシュとカンボ
ジアの事例 (特集 国際シンポジウム -- 貧困削減
を越えて -- 低所得国のための開発戦略)
著者
山形 辰史
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
152
ページ
14-15
発行年
2008-05
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00005005
アジ研ワールド・トレンド No.52(2008. 5)―
貧困削減
を
伴
う
工業化
─
バ
ン
グ
ラ
デ
シ
ュ
と
カ
ン
ボ
ジ
ア
の
事例
山形辰史
特
集
特
集
後 発 開 発 途 上 国 に お い て 多 く の 人 々 は 農 村 に 暮 ら し て い る 。 し た が っ て 、 貧 困 層 も 、 そ の 多 く が 農 村 に 住 ん で い る 。 そ の こ と か ら 、 農 村 を 開 発 す る こ と が 貧 困 削 減 の 王 道 で あ る と 考 え ら れ る こ と が 多 い 。 し か し 近 年 貧 困 削 減 の 歩 み を 速 め て い る 後 発 開 発 途 上 国 の 中 に は 、 都 市 や 工 業 地 域 で の 労 働 集 約 的 工 業 を そ の 原 動 力 と し て い る 場 合 が あ る 。 具 体 的 に は バ ン グ ラ デ シ ュ と カ ン ボ ジ ア が そ の 例 に 当 た る 。 こ れ は イ ー ス タ リ ー 教 授 が 主 張 し た 「 自 由 市 場 を 通 じ た 貧 困 削 減 」 の 一 例 と 言 え る 。●
バ
ン
グ
ラ
デ
シ
ュ
と
カ
ン
ボ
ジ
ア
バ ン グ ラ デ シ ュ と カ ン ボ ジ ア は 後 発 開 発 途 上 国 の 中 で も 注 目 す べ き 速 さ で 経 済 成 長 と 貧 困 削 減 を 進 め て い る 。 興 味 深 い こ と は 、 両 国 に お い て 貧 困 削 減 を 牽 引 し て い る 象 徴 的 な 産 業 が 、 共 に 労 働 集 約 的 な 縫 製 業 ( 衣 類 産 業 ) だ と い う こ と で あ る 。 後 述 の よ う に 、 縫 製 業 は バ ン グ ラ デ シ ュ や カ ン ボ ジ ア の 一 般 の 女 性 労 働 力 に 雇 用 機 会 を 与 え る こ と に よ り 、 貧 困 削 減 に 貢 献 し て き た 。 し か し そ の 貢 献 は こ れ ま で 過 小 評 価 さ れ て き た 。 以 下 で は 、 両 国 の 縫 製 業 の 貧 困 削 減 に 対 す る 貢 献 を 分 析 す る 。 最 初 に 確 認 し た い の は 、 両 国 が 世 界 的 に 見 て も 低 所 得 国 だ と い う こ と で あ る 。 二 〇 〇 五 年 の 一 人 当 た り 所 得 は サ ハ ラ 以 南 ア フ リ カ 平 均 が 七 四 五 ド ル で あ る の に 対 し て 、 バ ン グ ラ デ シ ュ が 四 七 〇 ド ル 、 カ ン ボ ジ ア が 三 八 〇 ド ル で あ る 。 そ ん な 中 に あ っ て 両 国 は 、 一 定 程 度 の 貧 困 削 減 を 達 成 し て き た 。 バ ン グ ラ デ シ ュ で は 、 貧 困 層 の 全 人 口 に 対 す る 比 率 で あ る 貧 困 人 口 比 率 が 、 一 九 九 五 / 九 六 年 度 に 四 七 ・ 五 % で あ っ た と こ ろ 、 二 〇 〇 五 年 に は 四 〇 ・ 四 % に 低 下 し た ( 表 1 )。 カ ン ボ ジ ア で は 、 一 九 九 三 / 九 四 年 度 に は 三 九 ・ 〇 % で あ っ た の が 、 二 〇 〇 四 年 に は 二 八 ・ 〇 % へ と 低 下 し て い る 。 こ の 貧 困 削 減 の 一 つ の 背 景 が 両 国 の 経 済 成 長 で あ る 。 バ ン グ ラ デ シ ュ に お い て は 、 一 九 九 三 / 九 四 年 度 か ら 二 〇 〇 五 / 〇 六 年 度 に か け て 、 お お む ね 五 % 程 度 の 安 定 成 長 を 遂 げ た 。 カ ン ボ ジ ア で は 、 二 〇 〇 〇 年 代 初 め の 平 均 成 長 率 が 約 八 % で あ り 、 二 〇 〇 六 年 ま で の 三 年 間 に つ い て は 、 毎 年 二 桁 の 経 済 成 長 率 を 記 録 し て い る 。●
縫
製
業
の
発
展
と
貧
困
削
減
こ の 急 速 な 経 済 成 長 と 貧 困 削 減 の 一 つ の 要 因 と 考 え ら れ る の が 輸 出 向 け 縫 製 業 の 発 展 で あ る 。 ま ず バ ン グ ラ デ シ ュ で は 、 一 九 八 三 / 八 四 年 度 以 来 ほ ぼ 一 貫 し て 、 縫 製 品 輸 出 が 成 長 を 続 け て い る 。 カ ン ボ ジ ア の 衣 類 輸 出 の 成 長 は 、 バ ン グ ラ デ シ ュ よ り 著 し い 。 結 果 と し て 両 国 で は 、 総 輸 出 額 の 四 分 の 三 を 衣 類 が 占 め る に 至 っ て い る 。 こ の 両 国 の 縫 製 業 の 発 展 の 貧 困 削 減 に 関 す る 効 果 を 分 析 し よ う と す る 際 、 ま ず 問 題 に な る の が 、 同 産 業 が ど の よ う な 雇 用 機 会 を 人 々 に 与 え て い る の か 、 と い う こ と で あ る 。 ア ジ ア 経 済 研 究 所 の 研 究 チ ー ム が 、 両 国 の 研 究 機 関 お よ び 業 界 団 体 の 協 力 を 得 て 、 二 〇 〇 三 年 に 企 業 調 査 を 実 施 し た 。 バ ン グ ラ デ シ ュ で 二 二 二 企 業 、 カ ン ボ ジ ア で 一 六 四 企 業 の デ ー タ を 収 集 し た ( 詳 細 は 、 表 2 の 出 所 と し て 挙 げ た 文 献 を 参 照 )。 輸 出 向 け 縫 製 業 が 両 国 の 貧 困 削 減 に 与 え る 効 果 を 分 析 す る に 際 し 、 第 一 に 注 目 し た い の は 賃 金 で あ る 。 そ も そ も 縫 製 業 は 低 賃 表1 バングラデシュとカンボジアの 貧困削減 国 年 貧困人口比率(%) バングラデシュ 1995/96年度 47.5 2000年 44.3 2005年 40.4 カンボジア 1993/94年度 39.0 2004年 28.0 (出所) Ministry of Finance (MOF), Bangladesh, BangladeshEconomic Review 2007, MOF, 2007; Royal Govern-ment of Cambodia, National Strategic DevelopGovern-ment Plan 2006-2010, Phnom Penh, 2005, p. 8.
5―アジ研ワールド・トレンド No.52(2008. 5) 金 で 知 ら れ る 業 種 で あ る か ら 、 貧 困 層 が 低 賃 金 で 働 か さ れ た と こ ろ で そ れ が 貧 困 削 減 に 役 に 立 つ の か と い う 疑 問 を し ば し ば 投 げ か け ら れ る 。 こ の 問 い に 答 え る た め に 調 べ た の が 、 労 働 者 の 職 種 別 、 経 験 年 数 別 、 性 別 の 賃 金 で あ る ( 表 2 )。 こ こ で は 縫 製 工 と 補 助 工 員 と い う 、 縫 製 工 場 の 中 で 最 も 多 く 雇 用 さ れ て い る 職 種 の 労 働 者 の 賃 金 を 、 経 営 者 に 対 す る 聞 き 取 り の 平 均 と し て 示 し て い る 。 縫 製 工 は ミ シ ン を 操 作 す る 労 働 者 で あ り 、 補 助 工 員 は ミ シ ン の 操 作 を 任 さ れ る ほ ど の 経 験 が 無 く 、 材 料 や 半 製 品 の 運 搬 等 に 従 事 す る 。 縫 製 に 未 経 験 の 労 働 者 が 最 初 に 就 く 職 種 で あ る 。 さ て 本 調 査 に よ れ ば 、 経 験 が 一 年 未 満 の 補 助 工 員 に 対 し て 、 バ ン グ ラ デ シ ュ の 縫 製 工 場 は 男 女 問 わ ず 月 額 二 一 ド ル を 支 払 っ て い る 。 こ の 額 は 、 縫 製 工 場 が 集 中 す る バ ン グ ラ デ シ ュ の 首 都 ダ カ に お い て 、 貧 困 層 と 非 貧 困 層 を 分 け る 貧 困 線 よ り 高 い 。 具 体 的 に は 、 食 糧 だ け を 計 算 に 入 れ た 食 糧 貧 困 線 が 一 三 ド ル で 、 食 糧 以 外 の 必 需 品 も 算 入 し た 総 合 貧 困 線 が 一 八 ド ル で あ る 。 カ ン ボ ジ ア で は 最 低 賃 金 が 高 く 設 定 さ れ て い る こ と か ら 、 補 助 工 員 で さ え 四 五 ~ 四 六 ド ル の 賃 金 を 得 て い る 。 カ ン ボ ジ ア の 貧 困 線 は バ ン グ ラ デ シ ュ の そ れ と ほ ぼ 同 じ で あ る 。 ま た こ れ ら の 賃 金 水 準 は 、 補 助 工 員 に と っ て の 代 替 的 な 雇 用 機 会 か ら 得 ら れ る 賃 金 を 上 回 っ て い る こ と が 、 政 府 に よ る 家 計 所 得 支 出 調 査 結 果 等 と の 比 較 か ら 見 て 取 れ る 。 さ ら に 本 研 究 を 含 む い く つ か の 研 究 結 果 か ら 、 縫 製 工 や 補 助 工 員 に 、 教 育 水 準 の 低 い 労 働 者 が 少 な か ら ず 含 ま れ て い る こ と が 知 ら れ て い る 。 し た が っ て 両 国 に お い て 縫 製 業 は 、 一 般 の 労 働 者 ( 貧 困 層 に 属 す る ) に 対 し 、 貧 困 線 を 上 回 り 、 か つ い く つ か の 代 替 的 雇 用 機 会 の 賃 金 を 上 回 る 収 入 を 与 え る と い う 形 で 、 貧 困 削 減 に 貢 献 し て い る の で あ る 。