Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
日本の歯科医療制度の礎とこれからの展望
Author(s)
上條, 英之
Journal
歯科学報, 114(6): 6i-6i
URL
http://hdl.handle.net/10130/3511
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いしずえ
日本の歯科医療制度の礎と
これからの展望
上 條 英 之
最近のわが国における社会保障に対する施策の動きとその中の歯科医療制度の位置づけをみている
と,過去の先人の努力と広い視野に立った先見性により今の制度の基礎が確立された点は今後の展望
を考える上で,必要な知識だと強く感じます。
現在の日本の歯科医療制度の礎(いしずえ)となり,決定的に位置づけたのは,今から約1世紀以上
前の明治39(1906)年に,旧歯科医師法が旧医師法と同じ時期に制定がされたことと,その16年後に健
康保険法が制定され,診療報酬制度において歯科医療が医療と同様に保険給付され,補綴を含める内
容として,現在に至っていることであり,この2つの出来事は,その時の周辺事情や,給付に対する
議論があったとはいえ,現状を見る限り,日本の歯科医療の歴史に後世まで残る快挙ではなかったか
と私は考えています。ちなみに,この2つの出来事に関係したのは,当時の歯科関係団体の幹部で
あった高山紀斎先生,血脇守之助先生,廣瀬武郎先生(血脇守之助先生のそで夫人の兄)をはじめとし
た多くの本学出身者が活躍されていました。
旧歯科医師法についてですが,明治29(1896)年ごろから旧医師法を制定する動きがあり,明治32
(1899)年に明治医会(東京帝国大学医学部系)が発表した医師法案では,「歯科医師について,本法は
適用しない」との内容で,その後,医師法案に歯科医師を入れる方策がないか,歯科関係者の間で医
科関係団体との交渉を含め対応がされ,結果的に,当事の大日本歯科医師会(高山紀斎会長)は,医師
法とは別に独自の歯科医師法を1904年10月に起草されました。なお,歯科医師法の原案は廣瀬武郎先
生が岡田朝太郎法学博士と相談して作成されました。
一般的に新たな法律を制定することに相当のプロセスを要することから,おそらく当時のこの動き
がなければ,医師法のみ制定がされ,早くても歯科医師法の制定まで数年又は数十年単位の時間を要
した可能性が高いと考えられます。
また,医師法と同時に歯科医師法制定がされたことで,その後の健康保険法の制定による診療報酬
制度に対しても,影響が出た可能性は否定できません。
健康保険法(1922年制定)についてですが,当初,歯科の給付で「保険経済上の観点から当分の間,
歯科技工を含まない」との政府の方針であったとされます。健康保険制度が始まった頃にモデルと
なったヨーロッパの国々では,15から16の国のうち歯科の給付がされていたのはその半分で,補綴ま
で給付されていたのは,イギリス,ソビエト,ハンガリーなどわずかで,その大部分は,付加給付で
あったとされます。
歯科補綴の健康保険での給付に対して,当事の日本聨合歯科医会(会長 血脇守之助)は,会長名で
内務大臣に対して,「歯科治療は補綴を含めてはじめて意味のあるものであって,それを除外するの
はおかしい」旨の趣旨の意見書を提出しています。結果的にわが国の医療保険では,制度開始時から
歯科補綴を含め,標準的な歯科治療の多くが保険給付されています。
また,最近では,急速な人口の高齢化により,医療介護の連携が重視され,要介護者に対する在宅
歯科医療サービスを提供していく機会が歯科診療所で増えていますが,提供しているサービスの多く
が義歯の修理や調整で,義歯の保険給付がされてなければ,歯科のサービスを提供する根拠づけがな
くなる可能性が危惧されます。少子高齢化により,歯科診療所の患者さんも残っている歯の数が高齢
者で増えていることもあり,受療行動が変化し,今後も,基礎疾患を持つ高齢者の歯科治療が増えて
くるトレンドから,適切な歯科保健医療サービスの充実と歯科医師臨床研修制度の年限や教育内容等
を含め歯科医師の養成が今後の政策として必要になるのではないかと考えます。
しかしながら,先人が築いた歯科医師法と健康保険制度での歯科補綴を含めた歯科医療給付の礎
(いしずえ)があるからこそ,対応できるのであり,今の従事者が継承と発展をさせる必要があると思
います。本年も皆様どうかよろしくお願いいたします。 (東京歯科大学歯科社会保障学 教授)
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