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後藤政子・山崎圭一編著『ラテンアメリカはどこへ行く』(書評)

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Academic year: 2021

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後藤政子・山崎圭一編著『ラテンアメリカはどこへ

行く』(書評)

著者

宇佐見 耕一

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジア経済

59

3

ページ

89-90

発行年

2018-09

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00050586

(2)

089_紹介-宇佐美耕一.mcd Page 1 18/08/27 13:05 v5.51

後藤政子・山崎圭一編著

『ラテンアメリカはどこへ行く』

ミネルヴァ書房 2017 年 xii + 339 ページ 宇 佐 見 耕 一 本書は 21 世紀のラテンアメリカの政治・経済・社 会を,新自由主義が同地域に及ぼした様々な影響を 分析の軸に据えて批判的に分析した論文集である。 また,南の諸国におけるグローバリゼーションを分 析した「グローバル・サウスはいま」シリーズ 5 巻 本の 1 冊であり,現代ラテンアメリカに関心を持つ 社会人から学生や研究者まで幅広い読者層が読むこ とができる。21 世紀のラテンアメリカを総合的に 分析しようとした本のなかでも,本書は新自由主義 に対する批判色が強く,そのオータナティヴを探求 しようとしている点が最大の特色である。 本書は大きく,21 世紀ラテンアメリカ諸国が抱え ている課題を提示した序章,それらを分析する上で の視点を示した第Ⅰ部と,キューバ・ベネズエラ・ ブラジル・メキシコ等の国別事例を扱った第Ⅱ部か らなる三部構成となっている。序章では 21 世紀の ラテンアメリカを,米国離れと,従来の資本主義と も社会主義とも異なる新たな社会概念が提示され, 新自由主義に代わるオータナティヴが模索されてい る時代であると規定している。第Ⅰ部の分析の視点 を提示した章のうち,第 1 章においては,21 世紀に 登場した南米左派政権を,新たな社会運動が国家と 市民社会関係の再規定を模索しているとする。第 2 章では,同じくピンクタイドと呼ばれる南米左派政 権とその改革への志向を社会運動の観点から見直し, その運動の志向性が必ずしも実現していないと批判 している。第 3 章では,地域統合を扱い,経済面か ら 安 全 保 障 領 域 に 拡 大 す る 北 米 自 由 貿 易 協 定 (NAFTA)と開発主義に社会政策重視を加味した メルコスール,加盟国の連帯や福祉を重視した米州 ボリバル同盟(ALBA)を対比して検討している。第 4 章では,先住民運動を分析して,それがグローバ リゼーションと密接に関連していることを明らかに している。第 5 章では,ラテンアメリカにおけるグ ローバル・バリューチェーンには,先進国との格差 があり,労働条件などに関してその社会的統治の必 要性を説いている。第 6 章では,ラテンアメリカ社 会をミクロ,メゾ,マクロと市場,政府,家族・市 民社会領域を交差させて分析し,最後にブラジルの 住宅政策を考察して,「中所得国の罠」にはまってい ると結論づけている。第 7 章では,米国におけるラ ティーノの増大と,その経済的重要性を説き,米国 の移民規制に関する人道的な扱いを求めている。 第Ⅰ部で提示された視点の中心は,21 世紀のラテ ンアメリカで成立した左派政権での試みを新自由主 義へのオータナティヴの模索と捉えて,またその限 界を今後の課題としている点である。こうした見方 は,21 世紀のラテンアメリカ研究のいくつかある分 析の視点のうちのひとつであり,新自由主義を批判 する研究者の見方を代表しており,読者は現代ラテ ンアメリカ研究の批判的分析の潮流を知ることがで きる。とはいえ,第Ⅰ部は,必ずしも有機的な構成 になっておらず,各章がなぜ取り上げられ,全体の なかでどのような位置づけにあるのかを序章で提示 すべきであったであろう。 第Ⅱ部は各国編であり,第 8 章では平等主義の キューバ社会主義体制の変遷をたどり,ソ連崩壊後 いかに公正な社会が実現できるかという課題に直面 しているとする。第 9 章では,ベネズエラのチャベ ス政権内部での穏健派とラディカル派の政策路線を めぐる駆け引きが描かれており,チャベス派の政治 活動であるチャビスタ運動の複合的性格を明らかに している。第 10 章では,ブラジルにおいて新自由 主義の政策メニューを示したワシントン・コンセン サスによってもイノベーションを促す体制が整わず, 比較劣位部門から優位部門への労働力移動の活性化 が見られなかったと分析している。第 11 章では, メキシコ経済は 21 世紀になってから低成長が続き, それに対する処方箋も新自由主義であり,この間に 社会的暴力が拡大している点を指摘している。第 12 章では,コスタリカにおける新自由主義の下でエ コツーリズムの理念に反する自然破壊,観光地での 麻薬と性の問題を扱っている。第 13 章では,アル ゼンチンにおける資本と労働の紛争を避けようとす るペロニズムが労働運動を取り込み,それが同国に おける労働運動内の左派勢力の発展を阻害している と分析している。第 14 章では,民主化後のチリで 『アジア経済』LⅨ-3(2018.9) 89 紹 介

(3)

089_紹介-宇佐美耕一.mcd Page 2 18/08/27 13:05 v5.51 長期間政権を担っていたコンセルタシオン政権の新 自由主義度を検討し,同政権は新自由主義と社会民 主主義のハイブリッドであると判定している。 第Ⅱ部の諸論文では,21 世紀のラテンアメリカ各 国における諸問題の一面をよく捉えていると判断さ れる。例えば,ブラジルにおける経済の減速を単に 資源価格の下落と捉えるのではなく,イノベーショ ンを阻害する諸要因が働き,構造転換が遅延された ことを明らかにしている。ベネズエラに関する論文 では,チャベス政権自体に関しては多くの論説が存 在するが,本論文のようにチャベス政権内部の葛藤 を分析した論文は,日本語では見当たらない。アル ゼンチンに関する論文も,キルチネルおよびクリス ティーナ政権は一般に左派政権と認識されているが, ペロニズムの存在自体が労働運動内部の左派の伸長 を阻害していることを指摘している点は,アルゼン チンの現状分析の論考として興味深い。ただし,第 Ⅱ部を通して統一した視点に乏しく,どちらかとい うと論文集的印象は否めない。また,メキシコやア ルゼンチンの論考は,論文の形式を持たず,著者の 考えを提示したエッセーに近いものとなっている。 本書を通読すると,現代ラテンアメリカを新自由主 義批判から分析する研究上の流れに位置づけられ, その点で日本におけるラテンアメリカ研究に寄与し ているものであるといえる。その反面,全体を貫く 視点が各論考に共有されておらず,また研究論文的 なものとエッセー的なものが混在しており,本とし ての統一性が乏しいという印象が持たれる。 (同志社大学グローバル地域文化学部教授) 90 紹 介

参照

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