■
症例報告
両側副腎摘出後,ステロイド内服下に
妊娠・出産に至った von Hippel-Lindau 病の 1 例
尾 﨑 信 暁
* 1土田真梨子
* 1岡﨑美香子
* 1上 田 一 裕
* 1安 藤 智 子
* 2清 田 篤 志
* 1 【背景】遺伝性疾患が疑われる褐色細胞腫の診断およびその後のサーベイランスには,遺伝学的検査が有用である.今 回われわれは若年発症および再発のため遺伝学的検査を行い von Hippel-Lindau(VHL) 病と診断した後,ステロイド内 服下で妊娠・出産に至った 1 例を経験したので報告する .【症例】症例は 35 歳,女性.13 歳時に両側褐色細胞腫と診断, 両側副腎摘出術および右副腎皮質自家移植が施行された.33 歳時転居に伴い名古屋第一赤十字病院内分泌内科紹介 となった.安静時の採血・採尿にてカテコラミン高値を認めた.腹部 CT 検査にて上腸間膜動脈分岐部から腎下極レベ ルの大動脈左側に複数の腫瘤,131I-MIBG シンチグラフィで同部位への集積を認め,褐色細胞腫の再発と診断し,腫 瘤摘出術を施行した.病理学的には composite paraganglioma-ganglioneuroma であった.遺伝学的検査を施行しVHL 遺伝子に c.191G>C(p.Arg64Pro) 病的バリアントを認め,VHL 病と診断した.診断時期と同じころ妊娠が判明したが, デキサメタゾン 0.25mg,ヒドロコルチゾン 10mg の内服を継続し,出産に至った.キーワード:von Hippel-Lindau 病,褐色細胞腫,再発,composite paraganglioma-ganglioneuroma,妊娠・出産
I. 諸言
褐色細胞腫は 10% 病と呼ばれていたが,原因遺伝子の 報告がなされ,褐色細胞腫・パラガングリオーマの 30 〜 40% が遺伝性であると考えられる.少なくとも 17 種類以上 の原因遺伝子が報告され,RET,VHL,SDHB,SDHD の頻度が高い.若年発症(35 歳未満),パラガングリオーマ, 多発性,両側性,悪性では家族歴などがなくても遺伝性が 示唆される.その病的バリアントの同定により適切な医療 介入が可能となる.von Hippel-Lindau(VHL)病は腫瘍 抑制遺伝子VHL の機能喪失型バリアントによって生じる 常染色体優性遺伝性疾患で,有病率は 4 万人に 1 人程度と 推測されている.複数の臓器に腫瘍性病変 / 囊胞性病変を 多発する疾患だが,そのうち褐色細胞腫を発症するのは約 20% である1).VHL 遺伝子のミスセンスバリアントを有す る症例ではより罹病率は高く,家系によっては 90%以上 の頻度で褐色細胞腫を発症する.また褐色細胞腫患者全 体の中で VHL 病患者は 8 〜 10%,悪性褐色細胞腫では約 5%を占めると報告されている.今回われわれは,若年発症 および再発のため遺伝性疾患を疑い,VHL 病と診断した. また,ステロイド内服下で妊娠・出産に至った一例を経験 しており,文献的考察を踏まえ報告する. * 1 名古屋第一赤十字病院 内分泌内科 * 2 名古屋第一赤十字病院 産婦人科 連絡先:尾﨑信暁 〒 453-8511 愛知県名古屋市中村区道下町 3 丁目 35 番地 名古屋第一赤十字病院 内分泌内科 TEL:052-481-5111 FAX:052-482-7733 E-mail:[email protected] 2020 年 2 月 25 日受付 2020 年 10 月 26 日受理 遺伝性腫瘍 第 21 巻 第 1 号(2021 年)p.26-30II. 症例
患 者:35 歳,女性. 主 訴:褐色細胞腫術後フォロー. 既往歴: 13 歳,両側褐色細胞腫(両側副腎摘出),副腎 皮質機能低下症. 薬剤歴: デ キ サ メ タ ゾ ン 0.25mg, ヒ ド ロ コ ル チ ゾ ン 10mg. 生活歴:喫煙なし.飲酒なし.アレルギーなし. 家族歴: 副腎疾患,甲状腺疾患,神経疾患の家族歴は なし. 現病歴:13 歳時,両側褐色細胞腫と診断され,両側副 腎摘出術および右副腎皮質自家移植が施行された.26 歳 時,131I-MIBG シンチグラフィでは再発所見を認めなかっ た.ステロイド補充は継続されていた.33 歳,時転居に 伴い名古屋第一赤十字病院内分泌内科紹介となった. 【現症】 身長 160.0cm,体重 44.4kg,BMI 17.3kg/m2. 体温 36.3℃,脈拍 64 回 /min,血圧 98/46mmHg,呼吸 数 14 回 /min,身体診察上特記すべき所見なし. 血液検査所見:白血球 6,500/µL(Eos 4.1%),赤血球 437 万 /µL,Hb 9.7g/dL, 血 小 板 37.6 万 /µL,TP 6.5g/ dL,Alb 3.6g/dL,総ビリルビン 0.8mg/dL,AST 16IU/L, ALT 9IU/L,LDH 147IU/L,Na 139mEq/L,K 3.9mEq/L, Cl 107mEq/L,補正Ca 9.4mg/dL,P 4.2mg/dL,Mg 2.0mg/dL, BUN 9mg/dL,Cr 0.54mg/dL,UA 3.6mg/dL,総コレステ ロール 217mg/dL,随時血糖 98mg/dL,CEA 0.6ng/mL. ホルモン検査所見:ノルアドレナリン 2,472pg/mL (100 〜 450),ドパミン 28pg/mL (≦20)および尿中ノルメタネフ リン-Cre 1.29µg/mgCrと高値を認めた(Table 1).画像検査:腹部造影 CT 検査;上腸間膜動脈分岐部か ら腎下極レベルの大動脈左側に複数の腫瘤を認めた(Fig. 1).甲状腺超音波検査;甲状腺内に結節なし.副甲状腺腫 大;なし.131I-MIBG シンチグラフィ;傍大動脈左側腫瘤 へ高集積を認める.右側腫瘤への集積は認めない(Fig. 2). 【臨床経過】 血圧は正常範囲内にあったが,安静時の採血・採尿にて カテコラミン高値を認めた.腹部 CT 検査にて上腸間膜動 脈分岐部から腎下極レベルの大動脈左側に複数の腫瘤を,
Table 1. Basal endocrinological data
Value units (Reference value) Value units (Reference value) TSH 1.661µIU/mL (0.35-4.94) Catecholamines
FT3 2.78pg/mL (1.68-3.67) Adrenaline 8pg/mL (≦ 100)
FT4 1.13ng/dL (0.70-1.48) Noradrenaline 2,472pg/mL (100-450)
TRAb <0.3IU/L (<2.0) Dopamine 28pg/mL (≦ 20) TgAb <10IU/mL (<28) Urinary catecholamines
TPOAb 9IU/mL (<16) Metanephrine-Cre 0.01µg/mgCr Calcitonin 2.01pg/mL (≦ 6.4) Normetanephrine-Cre 1.29µg/mgCr Intact PTH 52pg/mL (10-65) ACTH 24pg/mL (7.2-63.3) Cortisol 16.9µg/dL (7.07-19.6) DHEA-S 6µg/dL (58-327) 131I-MIBG シンチグラフィにて同部位への集積を認めた. 以上より褐色細胞腫再発,リンパ節転移と診断し,腫瘤 摘出術を施行した.病理学的には composite paraganglioma-ganglioneuroma であった(Fig. 3).GAPP スコアは,5 点 で中分化型を示した.術後ノルアドレナリン 79.7pg/mL, ノルメタネフリン -Cre 0.14µg/mgCre に正常化した.
若年発症および再発症例であったため,遺伝性疾患が 強く疑われたが,家族歴は認めなかった.遺伝学的検査を 筑波大学医学医療系スポーツ医学・検査医学竹越一博先生 Fig. 1.Image of abdominal contrast-enhanced computed tomography (CT)
a)Transverse view: a right tumor at the level of the lower kidney.
b)Transverse view: a left tumor at the level of the superior mesenteric artery bifurcation. c)Coronal view. The arrowheads indicate tumors.
a) b)
c)
Fig.1 Image of abdominal contrast-enhanced computed tomography (CT). a)Transverse view: a right tumor at the level of the lower kidney. b)Transverse view: a left tumor at the level of the superior mesenteric artery bifurcation. c)Coronal view. The arrowheads indicate tumors.
Fig. 2.Image of 131I-meta-iodobenzylguanidine (MIBG) scintigraphy
131I-MIBG scintigraphy revealed 131I-MIBG accumulation in the left tumor, but no accumulation in the right tumor.
Fig. 3. Pathological findings of the tumors. Tumors were histopathologically confirmed as a composite paraganglioma-ganglioneuroma
a)Right tumor.
b)Left tumor. Two different components were recognized in the tumor(c: paraganglioma component,d: ganglioneuroma component). Immunohistochemical staining of chromogranin A and S-100 in the left tumor
c)Paraganglioma component. The paraganglioma cells were strongly immunoreactive for chromogranin A. The sustentacular cells were immunoreactive for S-100.
d)Ganglioneuroma component. The ganglion cells were immunoreactive for chromogranin A. The nerve fivers were immunoreactive for S-100. Similar histopathological findings were observed in both tumors. H&E, hematoxylin-eosin staining.
a) b)
c)
Fig.2 Image of 131I-meta-iodobenzylguanidine (MIBG) scintigraphy. 131I-MIBG
scintigraphy revealed 131I-MIBG accumulation in the left tumor, but no accumulation
in the right tumor.
a)Right tumor (H&E) b)Left tumor (H&E)
c)Paraganglioma d)Ganglioneuroma
Fig.3 Pathological findings of the tumors. Tumors were histopathologically confirmed as a composite paraganglioma-ganglioneuroma. a) right tumor, b) left tumor. Two different components were recognized in the tumor (c: paraganglioma component,d: ganglioneuroma component). Immunohistochemical staining of chromogranin A and S-100 in the left tumor. c)paraganglioma component. The paraganglioma cells were strongly immunoreactive for chromogranin A. The sustentacular cells were immunoreactive for S-100. d) ganglioneuroma component. The ganglion cells were immunoreactive for chromogranin A. The nerve fivers were immunoreactive for S-100. Similar histopathological findings were observed in both tumors. H&E, hematoxylin-eosin
d
c
c
d
H&E ×200 ×20 ×200 ×200 ×200 H&E S-100 chromogranin A chromogranin A ×20 ×200 ×200 S-100a)Right tumor (H&E) b)Left tumor (H&E)
c)Paraganglioma d)Ganglioneuroma
Fig.3 Pathological findings of the tumors. Tumors were histopathologically confirmed as a composite paraganglioma-ganglioneuroma. a) right tumor, b) left tumor. Two different components were recognized in the tumor (c: paraganglioma component,d: ganglioneuroma component). Immunohistochemical staining of chromogranin A and S-100 in the left tumor. c)paraganglioma component. The paraganglioma cells were strongly immunoreactive for chromogranin A. The sustentacular cells were immunoreactive for S-100. d) ganglioneuroma component. The ganglion cells were immunoreactive for chromogranin A. The nerve fivers were immunoreactive for S-100. Similar histopathological findings were observed in both tumors. H&E, hematoxylin-eosin
d
c
c
d
H&E ×200 ×20 ×200 ×200 ×200 H&E S-100 chromogranin A chromogranin A ×20 ×200 ×200 S-100に依頼した.SDHB 遺伝子 8 エクソン,SDHD 遺伝子 4 エ クソン,VHL 遺伝子 3 エクソンを Sanger 法にて解析し, VHL 遺 伝 子 に 病 的 バ リ ア ン ト NM_000551.4:c.191G>C (NP_000542.1:p.Arg64Pro)を認め,VHL 病と診断した. 遺伝学的検査の結果説明時(35 歳)に妊娠がわかった. 妊娠中もデキサメタゾン 0.25mg,ヒドロコルチゾン 10mg の内服を継続した.妊娠経過は良好であり,陣痛発来後は 内服に加えヒドロコルチゾン 50mg を 8 時間ごとに点滴投 与し,自然分娩で無事出産に至った.児の発育異常も認め なかった.出産後,VHL 病の病変の検索を行ったが,網 膜血管腫,中枢神経系血管芽腫等は確認できなかった. 2020 年 2 月現時点で再発,新規病変を認めない.
III. 考察
褐色細胞腫はカテコラミンを産生する腫瘍で副腎髄質 や傍神経節などのクロム親和性細胞が腫瘍化したものであ る.正確な有病率は不明だが,高血圧,動悸,頻脈といっ た症状を有するものや,無症候性,正常血圧,副腎偶発 腫瘍として発見される例もある.近年褐色細胞腫・パラガ ングリオーマの 30 〜 40% が遺伝性であることが明らかと なった2).原因遺伝子としてRET,VHL,SDHB,SDHD の頻度が高く,若年発症,パラガングリオーマ,多発性, 両側性,悪性では家族歴などがなくても遺伝性を考えるべ きである.その病的バリアントの同定により適切な医療介 入が可能となる. VHL 病は腫瘍抑制遺伝子VHL の機能喪失型バリアント によって生じる常染色体優性遺伝性疾患である.臨床的に 褐色細胞腫を伴わない家系(Type 1)と伴う家系(Type 2) に分けられ,Type 2 は腎細胞癌を発症しない 2A,発症す る 2B,血管芽腫を発症せずに褐色細胞腫のみを伴う 2C に 分類され,本症例は,Type 2C と考える. VHL 病患者のうち褐色細胞腫を発症するのは約 20% で, 発症年齢は学童期〜 50 代に及ぶが,10 〜 20 代に多いの が特徴である.また,ナンセンスバリアントはほとんどが Type 1,ミスセンスバリアントの多くは,Type 2 であり, コドン 161 とコドン 167 のミスセンスバリアントの頻度が 高い1,3).本症例のコドン 64 ミスセンスバリアントの報告 は,調べたかぎりでは 1 例であった4). VHL 病による褐色細胞腫では異所性褐色細胞腫(パラ ガングリオーマ)や遠隔転移例は少ない.わが国では両側 発症例 41.9%,副腎外発症例 12.9%,悪性例 6.5% という報 告がある5).遺伝リスクは 50%,浸透率 100% であり,多数 の臓器に腫瘍が若年(3 〜 5 歳)から多発,再発性に発症 するため,結婚・妊娠についても遺伝カウンセリングを行 う必要がある6). 本 症 例 は 病 理 学 的 に は composite paraganglioma-ganglioneuroma と比較的まれな腫瘍像を呈した.これは 褐色細胞腫と交感神経組織に発生する胎児性腫瘍の神経芽 腫群腫瘍 (神経芽細胞腫,神経節芽細胞腫,神経節細胞腫) の混成した腫瘍である.全褐色細胞腫の 4 〜 8.7% と報告さ れ,そのうち 80% が褐色細胞腫と神経節細胞腫の混成型, 20%が褐色細胞腫と神経節芽細胞腫との混成型とされる7). 神 経 線 維 腫 症 1 型, 多 発 性 内 分 泌 腫 瘍 症(MEN)2 型, VHL 病,家族性 paraganglioma-pheochromocytoma 症候群 といった系統疾患に生じることがある8).褐色細胞腫の典 型的症状を認めない症例もあり,神経節細胞腫の存在が褐 色細胞腫の病状欠如の原因(①ドパミンの過剰分泌がアド レナリン・ノルアドレナリンの作用を阻害,②神経節細胞 腫が褐色細胞腫の機能を制限,③神経節細胞腫が褐色細胞 腫より分泌されるアドレナリン ・ ノルアドレナリンを代謝 する)である可能性を示唆している9). 本症例は 13 歳と若年発症・両側発症例で 20 年後に再発 を認めたため,家族歴はないものの遺伝性疾患が強く疑 われた.遺伝学的検査では既知の報告にあるVHL 遺伝子病 的バリアント c.191G>C(p.Arg64Pro)を認め,VHL 病 の診断に至った.結婚後であり,今後の妊娠についても遺 伝カウンセリングをする予定であったが,その直前に妊 娠に至った.本症例のように両側副腎摘出後の場合は妊娠 後も副腎皮質ステロイドは必須となるが,ステロイドの胎 児移行が問題となる.胎盤に存在する 11 β -hydroxysteroid dehydrogenase type2(11 β -HSD2)はコルチゾールやプ レドニゾロンを不活性型に代謝するため胎児にはほとんど 作用しない.一方,デキサメタゾンやベタメタゾンなどは 11 β -HSD2 によって代謝される比率が低いため,胎児移 行し作用をきたすと考えられている10).そのため,母体治 療が目的で胎児作用を回避したい場合はコルチゾールやプ レドニゾロンを,成熟促進などの胎児効果を期待する場合 はデキサメタゾンやベタメタゾンが使用される.胎児移行 の影響として催奇形性(口唇口蓋裂)や胎児毒性(胎児発 育不全,副腎機能不全)が懸念される.口唇口蓋裂の発生 頻度を 3.4 倍に増加させることを示したメタアナリシス研 究があるが11),その一方でそれを否定する前向きコホート 研究もあり,村島らは「自然発生自体で 1/500 〜 1/700 程 度,ステロイド剤投与にて 3/500 〜 3/700 程度になるとい うこと」と臨床現場では説明している12).中村らも妊娠中 に母体疾患の治療目的で副腎皮質ステロイド投与を受けた 妊婦 35 例による検討から,プレドニゾロン 30mg/day 以下, ベタメタゾンで 0.7mg/day 以下の投与量であれば,口唇口 蓋裂などの奇形,体重や頭囲の減少,副腎機能や腎機能障 害は認められなかったと述べており,この量であれば問題 としなくてよいのではと報告している10). 内服補充量と して妊娠初期は変更する必要がなく,妊娠後期は補充量を 20 〜 40% 増加するとよいとする報告もあるが,過剰な補 充は体重の異常増加となることもあるため注意を要する. 分娩時はストレス下や手術時に準じヒドロコルチゾンを増 量(自然分娩の場合はヒドロコルチゾン 50mg を 6 〜 8 時 間ごとに静注13),帝王切開の場合はヒドロコルチゾンを6 〜 8 時間ごとに静注)する.出産後は数日で本来の補充量に 戻す.授乳期は,児の内因性副腎皮質ホルモンを抑制する プレドニゾロンの量は 0.3mg/kg といわれている.母親がプ レドニゾロン 80mg/day 内服した症例では母乳を介して児 が吸収できる量は母体摂取量の 0.1% 以下であり,その量 は内因性副腎皮質ホルモンの 10% 以下であったという報告があるため14),パルス療法中以外は授乳の問題はない. 本症例もこれを参考に,妊娠中はデキサメタゾンを変 更せずに内服継続をした.分娩までステロイド補充の増量 はなく,分娩時にステロイドカバーを行い無事出産に至っ た.母体の極度な体重増加や児の発育異常は認めなかった. 産後もデキサメタゾン 0.25mg,ヒドロコルチゾン 10mg の まま授乳継続をしている.母体については今後も再発,新 規病変出現の可能性があり,定期的なフォローが必要であ る.また,児の遺伝リスクについては適切な時期にサーベ イランスや遺伝学的検査が必要である.
IV. 結語
両側副腎摘出後,再発を認めた VHL 病患者でステロイ ド内服下に妊娠・出産に至った 1 例を経験した.今後も再 発,新規病変出現の可能性があり,定期的なフォローが必 要である.V. 謝辞
遺伝学的検査を行っていただきました筑波大学医学医療系 スポーツ医学・検査医学竹越一博先生に深く感謝いたします. 文 献 1)櫻井晃洋:遺伝性褐色細胞腫,別冊内分泌症候群Ⅱ 2018.東京:日本臨牀社,2018: 226-232. 2)日本内分泌学会(監),日本内分泌学会「悪性褐色 細胞腫の実態調査と診療指針の作成」委員会(編): 褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン 2018.東京:診断と治療社,2018. 3)高橋健太郎,飯田啓二:von Hippel-Lindau 病患者の 遺伝子異常と表現型.神戸大学医学部紀要 2005; 65: 35-42.4)van der Harst E, de Krijger RR, Dinjens WN, et al.: Germline mutations in the vhl gene in patients presenting with phaeochromocytomas. Int J Cancer 1998; 77: 337-340. 5)執印太郎,矢尾正祐,篠原信雄,他:本邦 von Hippel- Lindau 病に伴う褐色細胞腫の特徴:全国疫学調査と その解析結果:日泌尿会誌 2012; 103: 557-561. 6)「多彩な内分泌異常を生じる遺伝性疾患(多発性内分 泌腫瘍症およびフォンヒッペル・リンドウ病)の実 態把握と診療標準化の研究」班(編):フォン・ヒッ ペル・リンドウ(VHL)病診療ガイドライン 2017 年版. http://koch:-u.ac.jp/kms/hs_urol/pdf/vhl_2017ver.pdf 7)日本泌尿器科学会,日本病理学会,日本医学放射線 学会(編),他:副腎腫瘍取扱い規約.第 3 版,東京: 金原出版,2015.
8)Kimura N, Watanabe T, Fukase M, et al.: Neurofibromin and NF1 gene analysis in composite pheochromocytoma and tumors associated with von Recklinghausen's disease. Mod Pathol 2002; 15: 183-188.
9)Aiba M, Hirayama A, Ito Y, et al.: A compound adrenal medullary tumor (pheochromocytoma and ganglioneuroma) and a cortical adenoma in the ipsilateral adrenal gland. A case report with enzyme
histochemical and immunohistochemical studies. Am J Surg Pathol 1988; 12: 559-566.
10)中村靖:母体疾患へのステロイド投与の適用と胎児へ の影響.日本周産期・新生児会誌 2004; 40: 682-686. 11)Park-Wyllie L, Mazzotta P, Pastuszak A, et
al.: Birth defects after maternal exposure to corticosteroids: prospective cohort study and meta-analysis of epidemiological studies. Teratology 2000; 62: 385-392.
12)村島温子:妊婦におけるステロイド治療における実際. 内分泌・糖尿病・代謝内科 2015; 40: 421-424. 13)Kamoun M, Mnif MF, Charfi N, et al.: Adrenal
Diseases During Pregnancy: pathophysiology, diagnosis and management strategies. Am J Med Sci 2014; 347: 64-73.
14)Ost L, Wettrell G, Björkhem I, et al.: Prednisolone excretion in human milk. J Pediatr 1985; 106: 1008-1011. Diagnosis of von Hippel-Lindau disease after bilateral adrenalectomy, followed by successful pregnancy and delivery: A case report
Nobuaki Ozaki*1,Mariko Tsuchida*1,Mikako Okazaki*1, Kazuhiro Ueda*1,Tomoko Ando*2, Atsushi Kiyota*1
* 1 Division of Endocrinology, Japanese Red Cross Nagoya Daiichi Hospital
* 2 Division of Obstetrics and Gynecology, Japanese Red Cross Nagoya Daiichi Hospital
Genetic testing is useful for the diagnosis and surveillance of pheochromocytoma in patients with suspected hereditary disease. We report a case of von Hippel-Lindau (VHL) disease in a woman who was treated with bilateral adrenalectomy and steroid administration and underwent successful pregnancy and delivery.
A 35-year-old Japanese woman was diagnosed with bilateral pheochromocytoma at 13 years of age and underwent bilateral adrenalectomy and autotransplantation of the right adrenal cortex. She received steroid hormone replacement therapy and was referred to our hospital at 33 years of age. Blood tests and urinalysis revealed high catecholamine levels. Abdominal computed tomography revealed multiple tumors between the junction of the superior mesenteric artery and the left side of the aorta at the level of the lower kidney, and 131I-metaiodobenzylguanidine scintigraphy revealed uptake at the same sites. Therefore, we diagnosed the patient with recurrent pheochromocytoma and performed successful resection of the tumor, which was histopathologically confirmed as a composite paraganglioma-ganglioneuroma.
Early tumor onset and recurrence led to the suspicion of hereditary disease, and genetic testing was performed. She was diagnosed with VHL disease with a c.191G>C (p.Arg64Pro) mutation in the VHL gene. Her pregnancy was detected at the time of this diagnosis, and she received dexamethasone (0.25mg) and hydrocortisone (10mg) throughout the pregnancy and delivery.
Key words : von Hippel-Lindau disease,pheochromocytoma, recurrence,composite paraganglioma-ganglioneuroma, pregnancy/delivery