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ドイツ語 - 希望をもってドイツ語を(I.特集:桜美林大学の外国語教育)

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Academic year: 2021

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ドイツ語 ― 希望をもってドイツ語を

基盤教育院 永井 千鶴子

1.はじめに

「ドイツ語は英語と語源が同じなので、単語や文法など似ている部分がかなりある。だ から英語と引き比べながら学習すると分かり易いだろう」という前提が通用しなくなって から久しい。たとえば、trinken=drink, zu=to, Haus=house と挙げてみると、音も意味 も英語から推測できるはずである。授業中に、Tochter, Tochter, Tochter(発音はトホタ ーに近い音)‥と繰り返して、学生が英語の daughter ではないかと気づいてくれるとほ っとする。英語学習の基本路線の変革によるものか、あるいは学習者のめまぐるしい学習 環境の変化によるものか、英語は英語、ドイツ語はドイツ語と別々に言語を学習しようと する傾向が最近とくに見受けられる。言語学習に限らず、応用力や推理力を使って効率よ く学んでいくことを知らないようである。 「外国語を学ぶことは母国語を知ることである」-本当にその意味を実感するまで外国 語を学ぶための時間は限られている。ドイツ語であれ、英語であれ、日本語からアプロー チするとどの外国語もかなり難しい。日本語が難しい言語なのだと思い知ることは、外国 語を易しいと感じる一つの方法である。英語の習得が当たり前になった今、それ以外の外 国語を操れることもすでに当たり前になりつつある。難しい日本語を母国語とする私達は、 コミュニケーションの手段として外国語を習得しなければならない。 そのためにはどのようにドイツ語を学んでいくのか、どのように学習の手助けをするの か。つまりコミュニケーション力と文法力をいかにバランスよく学習するか、効率のよい 授業展開(テキストや教授法)とはどのような形なのか。さらに学習背景として問題とな る以下の二点、現代の学生に不足している応用力、推理力をどのように喚起するのか、自 律的に学習を進めるためにはどのように支援するのか、を念頭におき、現在本校で実施し ているドイツ語授業、ここでは主に 2010 年度の授業を紹介していきたい。

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2.授業紹介および学習者の意欲と問題点

①会話篇 外国語を学ぶ理想の形は、とにかく浴びるように聞いて、音や流れ、リズム感をつかみ、 日本語に訳さずに意味を感じ、頭と身体にしみこませることであり、文法の説明を聞いて 文を作り発音するという学習法では、リズムのある外国語の学習が身につかないと言われ る。しかし、現在の学習環境はかなり厳しい。学生自身、記憶力を磨くことがなくなって いる状況なので、覚えてから反復する機能がなかなか起動しない。 昨年度まで使用していたテキスト Schritte 1(シュリッテ)の 2 課(文末イラスト参照) を見ていただきたい。これは 2 課の A 部分の抜粋でこの課で一番重要な学習項目である。 A1 では、「どう元気?」―「まあまあかな。」というような質疑応答、A2 では、相手が目 上や初対面なら左側、友達や気の置けない相手なら右側のやり取りというように挨拶と体 調の聞き方や答え方のヴァリエーションを練習する。A3 では、体調と出身地を組み合わ せる。A1 はどの顔マークがどの答えになるかを書き込み、A2 は、学生をペアにして両 方の会話を練習させる。その場合、左側の会話なら相手の名前に Herr(Mr.)または Frau(Mrs.)をつけて苗字で話しかける。右側なら敬称を付けずに名前で呼びかる。会 話のヴァリエーションは下に列挙されている。A3 では A2 同様「どちらのご出身ですか?」 と「どこから来たの?」という使い分けを当然考えなければならない。様々な国旗とテキ ストに付属している顔マークのカードを人数分用意して授業中に利用する。 これら一連の練習の中に、日本にはない習慣、たとえば、相手に挨拶をしたり話しかけ たりするときに必ず相手の名前をつけること、相手の名前を知っていますという礼儀が隠 れている。イラストを見ると挨拶をしながら握手をしている。挨拶の後にはお互いに体調 を聞いて、「ありがとう、元気だよ。君は?」という流れがある。日本では、まず挨拶を しながらわざわざ名前を言わない。握手ではなくお辞儀。体調はよほど久しぶりでなけれ ば尋ねない。聞かないことが礼儀という場合もある。この違いを認識することが外国語学 習のハードルでもある。 学生達は上記のような会話の練習に積極的に参加する。ペアで簡単な会話を練習する場 合、事前に CD を聞いて発音を全体でなぞり、そのあと個別にペアを組んで、お互いの名 前に変え、答えのヴァリエーションも変えながら練習する。ただやらせるだけでは発音の チェックが出来ないので、教員が教室を回りながら、時にはペアの片方とやり取りを試み たり、質問を受けたり、模擬会話を披露させたりするので確実に全員が参加する。 ②文法篇 会話に関しては、教員の説明を聞くというよりも実際に発音をしたり会話をしたりする

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ので、学生にとっては能動的な学習であり、相手が必要な練習であるから相互に助け合う ことが緊張感をほぐし、リラックスして学習することができる。教員もその間あちこち回 って聞き耳をたてているので、間違いを直してもらえるという安心感や、不安なところを 聞いてみようという意欲も芽生える。しかし、文法についてはどうか。 まず、B1 で写真を見ながら CD を聞いて、写真上の家族を表わす単語を写真下の文に 書き込む作業から始まる。ポイントを絞って単語と文を確認する。B2 では家族を表わす 単語に、「私の」に当たる所有冠詞を付けて学習していく。この所有冠詞はこの課では、「私 の」という形しか登場しない。「あなたの、彼の‥」という形が完成するのは Schritte 2 以降になる。B3 はその所有冠詞を文に組み入れて練習する。B4 は自分の家族の写真を持 ってきて説明してみよう、という拡大練習である。 日本の従来の文法書では、所有冠詞を学習する前に名詞の性別を表わすための定冠詞、 不定冠詞を学習するのが常套である。所有冠詞は不定冠詞の仲間として位置づけられてい るので、定冠詞、不定冠詞から学習していく方が理解しやすいというわけである。しかし 「私の」を教えるのなら、セットで「君の、私達の‥」という仲間を全部覚えさせようと いう配慮が逆にオーバーワークとなることは否めない。ドイツではまず「私の」という音 と語尾の関連を無意識に使い分けるようになることを目指している。ドイツ語には生物学 上の性別以外に無生物にも性別があるため、名詞に付ける所有冠詞の形も変化する。所有 冠詞の語尾に- e を付けるか付けないかの区別を、「私の」という代表冠詞でとにかく覚 えさせる。無生物に性別がある!と聞くと学生は驚愕して興味を持ち、スカートは男性で ズボンは女性、シャツは中性と聞いて喜び、「あれは?これは?」と聞いて、それら名詞 の性別は見分けがつかないから覚えるか調べると聞いて、がっくりする。 名詞の性別の問題は、英語から外国語を学習し始めた受講生には大きな障害となる。ヨ ーロッパ地域言語の多くは性別がある。言語によっても性別のきまりが異なる。太陽や月 はドイツ語ではそれぞれ女性、男性として使うが、フランス語では男性、女性となる。無 生物では男女の区別もつかない上に、手がかりとなる基準といえるものがあまりない。音 や語尾では、よほど学習して語彙を増やさないと見分けがつかない。調べる→覚える以外 に近道はない。このテキストでは、2 課で生物学的な区別に慣れてから 3 課の食料品で無 生物の性別を取り上げてショックを和らげている。バナナは女性、りんごは男性‥のよう にごく身近な物から性別を教える。2 課の B3 では、この性別ごとの所有冠詞の使い分けを、 テキスト後ろの練習問題で確認するほかに、教材として家系図を使ってグループワークも 出来る。たとえばドイツ語で「アンナの父の母はグレーテである、グレーテの子供たちは レアとクラウスである、‥」のように、ある一家の家系図となる 10 枚ほどのカードをグ ループ 4 〜 5 人で読みながら並べていく。

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これらゲームや練習問題の繰り返しにより、文法の重要部分である所有冠詞の変化に慣 れ、他の所有冠詞が出てきたときにも思い出せる仕組みである。文法項目としてこの課の 最後に、所有冠詞の変化(私の)、紹介の文型(この人は〜です)、複数形(両親と子供た ちの 2 種類)、動詞(住む、持つ、生活するなど数個)と代名詞(彼、彼女、私達、君達、 彼ら)がまとめてあり、これらの文法項目だけで、「この人は私の妻です。彼女は 4 人の 子供がいます。」という作文を展開できるようになる。 ③テスト篇 一冊のテキストで会話と文法の両方を組み合わせながら、週二回の授業を進めていく。 ペアクラスのどちらの担当者がどの部分を教えるかは、それぞれの持ち時間の内容によ ってかなり変化する。一学期間でテキスト 3 課分を過不足なく終わらせるようにシラバス を作成し、テストもその範囲内で終わらせるように配置する。基本的には1課ごとに会話 テスト、筆記テストをする。会話テストは担当者により読むテストや小会話劇になる場合 もあり、テストの回数は学期によって調整する。筆記テストはテキストに付属しているテ ストを各担当者が差し替えたり問題を改めたり、レベルに差の出ない程度にオリジナルの テストに変更する。 一クラス 30 名前後の学生たちに会話テストを課すことについては、方法や時間配分に 様々な問題がある。理想としては 2、3 人ごとに、あるいは個別に担当者がテストするの が良い。その間他の学生達はどうするのか?筆者が何度か試みているのは、2 人ずつ前に 座らせて、まず教員と学生一対一で、次に学生同士でそれぞれ 5 文程度の質疑応答をする。 その際に発音やイントネーション、間の取り方、内容をチェックする。どんな質問をされ るか、どのような答え方をするか、聞き取れなかったらどう聞き直すか、わからなかった 場合には?などそれまでに練習を重ねる。順番を待っている間に、他の学生達には読解問 題を解かせる。辞書無しで推理しながら出来るだけたくさん解いてみる。テキストを調べ ながらでもよい。出来上がった問題はすべて提出させる。 ④学生の問題点と授業の改善点は? すでに述べたように、現在の学生の学習環境を考えるとき、それらをハンディとするの ではなくメリットとして今後の学習成果を求めていかなければならない、というのが事実 である。学習環境の変化がもたらす大きな問題点は三つある。様々な媒体により、記憶力、 集中力、思考力、応用力を駆使する機会が減っていることに加え、紙媒体による調査や検 索をすることも少なくなっていること。さらに全体授業が個別化してきていること。つま りクラス全体への発信力が落ちて個別に対処していく例が増えてきていること。そしても う一つ、日本語力の低下(あるいは進化というべきだろうか)である。 ドイツ語の授業ではやはり覚えることが最優先である。筆者はかなり頻繁に小テストを

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行う。細切れでもいいからとにかく記憶すること、たとえば、動詞の語尾変化、身の回り の単語を 10 個、形容詞とその反対語を 6 組、助動詞の語尾変化を 6 種類 7 主語分‥。学 生達は「単語 7 個にしてください!助動詞 6 種類は多すぎるので 3 種類にしてください!」 などと、フリーマーケットさながらにねぎってくるが、授業前 10 分で集中して覚えられ る分量、何度も書いてスペルを確認する作業ができる分量を小テストにしてとにかく積み 上げてもらう。コツコツ要領よく取り組む姿勢が何より重要である。 集中力も同じことが言える。授業中に説明したり指示したりしたことが、とにかく耳か らすり抜けていることが多いので、極端に言えば、一人一人のテキストとノートを覗き込 んで指示して歩く。大切な規則だから線を引いて目立つように、覚えてきてほしいから蛍 光ペンで囲んでおくように、余分な説明でもテキスト余白に書いておくようにと細かく念 を押す。小学生ではあるまいしと思われるかも知れないが、学生の安心感は自信を引き寄 せ、やってみようという気力の些細なきっかけになる。 応用力、推理力についてもこの 10 年くらいで、おや?と思うことが増えてきた。テス トを受ける場合、覚えていないことは出来ないものと頭から決め付けるのである。テスト 紙面には意外にもヒントが隠されていることがある。この動詞は一つ前の問題に似たよう な使い方をしているから今回も同じではないか、この単語には反対語があったような‥と いう思考の柔軟さがなくなっている。なんとかして正解を見つけようという粘りがなくな り、その代わりに余計なことを頭に入れることを無駄だと思う。学習とは無駄なことの積 み重ねであることが学生時代にはなかなか実感できない。いつか役に立つ知識を今覚えな くてもよいと判断する方が多い。ドイツ語の学習でも同じように、必要最低限の、試験に 出るといわれた問題や構文しか覚えたくない。それなら、最低限の知識を有効に最大限に 生かせるように推理して、応用して切り抜けてほしいものである。 次に授業全体の個別化という点である。クラス全体に指示を出して全員で取り掛かる課 題など、一斉に始まらないことがある。語学の授業では説明の時間はなるべく少なく、実 習の時間をなるべく多くと考える。ペア作業、グループ作業、個人ワークなどを組み合わ せて、授業時間ギリギリまで活気をもって展開しなければならない。ペア作業では二人で 会話の練習や答えのチェック、グループ作業では 4,5 人のグループに分けてカードでゲ ームをしながらテンポよく会話を交換、個人ワークは練習問題を一人で仕上げて教員にチ ェックしてもらう。しかし、一人で学習したい、あるいは人との作業ではペースが違って ストレスになる、というような様々な理由からペア、グループに入りたくないという学生 も増えてきたように思える。それでは授業にならないということではなく、そのようなタ イプの場合は教員が相手になる、一人でやらせてみるなど様々な配慮をしなければならな い。宿題一つをとっても、全員がそろってやってきたから答え合わせという理想形はでき

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あがらないので、筆者の場合は<お帰り問題>と称して、授業最後の 15 分前から練習問題 を解かせる。この問題をやり終えた者は手を挙げて、答えを全部チェックしてもらってか ら教室を出るというシステムで、出来なければいつまでも帰れない。そのクラスに座って いれば出席ではなく、その教室を去る前にその日の授業を自分でまとめることができなけ れば自律学習とはいえない。 最後に母国語である日本語の問題である。日本語は省略の言語といわれる。たとえば日 本語で「私はこの服が気に入った。」「あの自転車は私のです。」「お腹がすいた。」のよう な文をドイツ語に直すためには「この服は私に気に入った。」「あの自転車は私に属する。」 「私は空腹をもっている。」と考えなければならない。主語は?動詞は?という基本の文成 分と合わせて、人は常に主語になるとは限らないし、日本語で< 持つ> という動詞は、ド イツ語では物を<持つ>だけでなく空腹、熱、頭痛、人数、天気を<持つ>ということがで きる。お腹がすいた、熱がある、頭が痛い、10 人居る、いい天気だ、はすべて< 持つ> で 表わせる。外国語を学ぶための日本語の翻訳力は、外国語を学んで初めて磨かれるのか、 日本語力を極めてから磨かれるのか、いずれにせよ、いつも日本語を中心に考える頭を離 れて外国語と日本語の関係を自分で見つけなければならない。

3.まとめ

この 10 年間の大学生の学習環境、学習形態の変化を考えた場合、テキストや学習法、 教授法の変化も果たして同じ速度で追いついているのだろうかと不安になる。学生達の教 育環境そのものが変化して、生活も変わり、経済的な事情をも顧みなければならない実情 があるとすれば、教員もまた学生の状況に歩み寄って教育していかなければならない。外 国語を学ぶ以上辞書を揃えるのは当たり前と言えない現実もある。最近はテキストに語彙 集がついているものが多いのでその語彙集を利用するもよし、あるいは学生に携帯電話の ドイツ語辞書サイトを案内して、携帯を辞書として活用してもよし、メールによる質問の やり取りでも、深夜・早朝はお断り!というマナーもついでに教えながら使わせる。人間 関係の苦手な若者が多いといわれている中で、分からなければ調べる、聞くという態度が 学習の一助となることをメールから学習してくれれば良い。 本校ではドイツ語検定試験、オーストリア政府公認ドイツ語能力検定試験の受験率も 年々上がり合格率も高い。受験+準備にはどの担当者も惜しみなく支援する体制にある。 最近ではミュンヘン大学で勉強するためにドイツ語をマスターしたい、というような質問 も少なくない。海外で研究するために英語とともにドイツ語を修めたいという希望が出る

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のは、本校が理系、文系の枠をはらって研究目標を自由に選択できる学群体系をおいてい ることにもよるであろう。何人もの学生達がドイツ語学習をステップにドイツでさらに勉 強したい、ドイツで働きたい、という希望をもってドイツへ目をむけてくれることがあれ ば何よりである。

参照

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