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ハンガリーの企業内管理組織の改革
門 脇 延 行
1 は じ め に 1977年12月に制定されたハンガリー「国営企業法」ぱ1981年10月に改正され た。その改正は条文としては小規模なものであるが,内容的には極めて注目す べき重要なものを含んでいる。それに基づいて企業内管理組織の改革がなされ た。それは,80年代の厳しい国際経済環境の下で「第二段階」に入ったハンガ リー経済改革を推進していくための企業レベルの対応とみることができる。 そこで,本稿ではまず,経済改革の第二段階の基本的特徴を概観し,その後 に企業内管理組織の再編成についてとりあげ,その背景や意味などについて考 えてみたい。 五 経済改革の「第二段階」の基本的特徴 衆知のように,ハンガリーでは68年の経済改革によって中央から企業へ下達 される義務的計画指令が廃止され,いわゆる「経済規制用具」(economic re− gulatOrs)による「間接的な経済管理システム」が確立された。この新しいシ ステムの下で,ハンガリー経済は少くとも70年代前半までは「ハンガリー経済 史上の黄金時代」と呼ばれるほどの発展をとげた。 しかしながら,第一次石油ショックに起因する原材料価格の高騰により,ボ 1)ハンガリー「国営企業法」は正確には「国営企業に関する1977年度法律第6号」と 呼ばれる。これについては拙訳(『彦根論叢』第192号(1978年10月)所収)を参照さ れたい。なお,改正部分は「付録」として末尾に訳出した。あわせて参照されたい。 2)B.チコーシュ;ナジ「・・ンガリー経済改革の10年」(門脇,深谷共訳)『経済評論』 1978年8月号。24 彦根論叢 第220号 一キサイト以外に目ぼしい天然資源に恵まれず,外国貿易が国民所得の約半分 を占める貿易立国でありながら,付加価値の高い工業製品の西側への輸出能力 がまだ弱い中進国ハンガリーは,大きな痛手をこうむった。コメコン諸国内取 引においても,75年からは従来の5年契約にかわって1年契約となったばかり でなく,その契約価格も資本主義諸国の前5年の平均価格にもとつくことにな った。かくして,73−80年の間に交易条件は20%悪化し,それは国民所得の10 の フオロノト %の消失に相当するという。そして76−80年の貿易収支の赤字は2,000億Ft (1Ftは約7円一1980年)にも達した。 このような国外市場要因の影響をうけて,70年代後半のハンガリー経済もそ の発展の停滞をよぎなくされた。70年代前半の第4次5力丸計画期(71−75 年)の年平均成長率が6.3%であったのに対して,後半の第5次5力年計画期 (7680年)のそれは3.2%に低下し,計画(6−6.4%)を達成できなかっ た。なかでも,78年4.2%(計画5,0%),79年1.4%(同3−4%)と下がり, の 70年にはついにマイナス成長(一〇.8%)を記録してしまった。 先進資本主義国をも長期的な経済停滞にまきこんでいる今日の世界経済を前 にして,しかも近い将来急速に改善される見通しのない中で,ハンガリーが崩 れた対外経済バランスを回復し,国民生活水準を長期にわたり安定的に維持し ていくにはどのようにすればよいか。この問題をめぐって議論がたたかわされ たが,結論的にいえば,「今日の生産構造とこれまでに達成された程度の効率 では今後はうまくやっていけない。従って,本質的な変化なしには一層の経済 ら 発展はありえないだろう」という考えが勝利した。 これまで,国内市場を国外市場から切り離し,国が防波堤となってshock− absorber機能を果し,企業を保護してきた。たとえぽ第一次石油ショックの時 3) Csik6s−Nagy B61a:Amagyar gazdas2g n6veked6si prob16mal, Kbxgaxdasti8i Szemle,1982.7−8. sz 808. old 4)Arnagyar statisztikai zsebkdnyv 1982. KSH,!982. 5) Nyers Rezs6−Tardos Marton:Milyen gazdas盗gfejleszt6si strat6琴iat vallasszunk Gα酵δα34g, !979. !. sz. 7 01d
ハンガリーの企業内管理組織の改革 25 に,73年には国外インフレ率の30%,74年には70%を国庫補助で吸収してき の た。だからこそ,ハンガリー企業はあの嵐を倒産なしに生き延びえたのであ る。68年改革後も,企業は依然としてコルナイのいう「ソフトな予算制約」の 下にあったのである。いいかえれば,国庫補助や,租税・信用・価格・賃金な どにおいて各種の優遇措置をえていたのである。そうである限り企業は本気に なって効率向上に努めない。努めなくとも企業は潰れることなく存続したばか りでなく,成長さえしたのである。 そうした経済政策をとり続ける限り,ハンガリー企業の国際競争力はいつま でたってもっかない。企業の国際競争力を,とくに西側諸国に対して,つけな ければ悪化した対外経済バランスを抜本的に改善することはできないことは明 らかである。必要なのは,輸入削減や国内投資と消費の抑制ではなく,「拡張 つ 的輸出志向型」のダイナミックな質的変化をとげうる発展戦略をとることであ る。つまり企業予算制約を「ハード化」させ,企業自身の経営改善努力によっ てマネジメントの効率を高め,輸出能力をつけるように企業を刺激,強制する ことである。そのための具体的な措置が79∼80年にかけてとられた。それが80 年経済規制と一連の組織・制度システムの改革となってあらわれた。 80年経済規制は,企業に厳しい条件を課した。コルナイのいう「効率の要 請」の強化である。それがもっとも特徴的に表現されているが,競争的工業分 野でのいわゆる「競争価格」の導入である。つまり,燃料や原材料の国内価格 は非ルーヴル地域の輸入価格を,完成品の国内価格は非ルーヴル地域の輸出価 格を,それぞれ基準とすることになった。これによって,国内市場価格が国外 市場価格に直接的に連結されたことになる。従って,完成品国内価格は,国際 市場で実現された価格に規定されるので,原材料価格が上昇しても,それをそ のまま製品に転嫁することはできないことになる。そして,効率が悪く,長期 にわたって赤字が続くと,その企業は廃止され,当該商品は輸入に切りかえら れることもおこりうるのである。 6)B.チコーシュこナジ,前掲訳,126頁。 7) Nyers Rezs6−Tardos Marton: !0. Qld,
26 彦根論叢第220号 ・ 企業所得と賃金規制でも収益性の高い企業ほど,そうでない企業よりもより 多くの利潤分配をうけ,賃上げの可能性も高められた。ここでも,利潤インセ ンチィヴを強め,その差別化政策によって効率向上を刺激するものとなってい る。 改革の新しい段階では,このような経済規制のノーマティヴな性格が強まっ ている。従来の企業毎の個別例外規制を廃止ないし縮小して,全ての企業に統 一的に適用されるのである。これによって,企業は上級機関(部門省や機能 省,あるいは銀行や地方評議会)に窮状を訴えて,例外的な優遇措置を願う 「泣きおとし」戦術が使いにくくなる。 今回の改革のもうひとつの特微は,その組織・制度システムの改変にも手を つけたことである。企業法の改正との関連でいえぽ,とくにこの点が重要であ る。 勿論,68年改革の時にも旧来の組織・制度システムの改革は話題に上った。 しかし,新しい経済メカニズムの導入の方をスムースにおこなうために,急激 な変更に伴う社会的,政治的危険を最少限に抑さえる必要があった一上に,ボグ ナール流にいえば,当時は今日よりも選択の「自由度」がまだ大きかったがゆ えに,それがなくともうまくいくのではないかと考えられて組織システムの改 革には実質的には何も着手されなかったのである。 80年代は68年当時に比べて,その選択の「自由度」ははるかに小さい。引き 続く貿易収支の赤字の結果,対外債務は81年には79億ドルに達し,1人当り計 算ではポーランドを抜いて東欧一の高い額である。外国経済への依存度,なか でも西側への依存度は当時より高まっている。そしてなによりも,世界経済環 境は比べものにならないほど悪い。 それゆえ,厳しい世界情勢に対処していくための組織制度上の改革が必要と 8) ボグナールによると,68年当時は経済が比較的バランスがとれていたし,大きな対 外債務もまだなかった。国際経済依存度も小さかった上に,エネルギー源や原材料供 給も確保されていたし,世界経済がまだ『黄金時代』をおくっていたという。Bognar J6zsef :Strukturalis v批asunk tarsadalmi−gazdasagi 6sszetev6i 6s elentmondゑsai, In: Az 1970−es 6vtized a magyar t6rt6nelemben. 1980. MTA, 19. old・
ハンガリーの企業内管理組織の改革 27 な:ってきた。まず,中央レベルでは,政府の中に「経済委員会」がoperative な管理課題の調整と国際経済関係管理のために設立され(1980年),統一的な 工業管理のためには従来の三つの部門省(重工業省,軽工業,冶金機械工業省) の一つの「工業省」への統合がおこなわれた(1981年)。単一「工業省」の誕 生により,企業に対する従来のような介入は少なくなる。 今回の企業法改正に伴う企業管理組織の改革にかかわるのは,部門省と企業 の権限関係を明確にする作業がおこなわれ,本稿でとりあげる「監督委員会」 と「経営会議」の設立として具体化されたことである。 さらに,企業レベルでは,80年頃から集権化されすぎて効率のよくない,収 益性の低いいくつかのトラストや大企業が解体され,自立した企業に再編され た。それは,大企業とは名ばかりで,実質的には60年代のはじめ頃に中央経済 管理機関の指導の下に小工場の垂直的統合によって形成された「工場集積体」 (conglomerate)でしかないような企業においておこった。 82年1月からは,新しい小規模経営形態が導入された。その中には,国営企 業法の改正によって,新たに生まれた経営形態もある。「子会社」や「小企業」 がそれである。とくに子会社の場合,通常の国営企業が自らの判断で,上級機 関の同意なしに設立できるという点において注目すべきことである。 小規模経営は,協同組合でも形成される。 「小協同組台」や「協同組合専門 グループ」がそれで,いずれも私人の発意によって設立される。小規模経営ぱ 社会主義セクター内だけではなく,私的セクターにおいても「経済労働共同 体」のように,国営セクターに本職をもつものが副業として小人数(3∼10人) の規模で設立されるものもある。 さらに興味深いのは,一種の混合所有形態ともいうべぎ経営形態として「賃 貸システム」の導入である。つまり、私人が社会的所有下の資産(工場,事業 所,サービス単位,機械,設備,輸送手段など)を社会的セクターの企業や施 設から「せり」(auction)によって貸り受けるシステムである。 これらの小規模経営は,いずれも大企業が効率的かつ経済的におこないえな いか,又は適さない領域にその活動領域を見い出しており,不足気味の部品・
28 彦根論叢第220号 半製品・付属品の生産,修理などのサービスや,住民の要求への柔軟な対応に 努めている。その意味では,部分的には競合する面もあるが,基本的には大企 業を補完する活動をおこなっているといえる。 80年代の激しい国際市場競争に立ち向うために,企業の自立的な効率改善活 動が不可欠である。それをこれまで妨げてきたと考えられる二つの側面,つま り,ソフトな企業予算制約と部門による企業活動の中央管理指導システムとを 変更せんとする試みとして79−80年目はじまる経済改革の第二段階を特徴づけ ることができる。このような全体の動きの中で,企業法改正に伴う企業内管理 組織の再編成をとらえなければならない。 皿 国営企業内管理組織の再編成 企業法の「改正」にあわせて閣僚会議は企業の管理と組織システムの発展課 題を分析し,それを時代にあったものとするための重要なモメントとして,(1> 「監督委員会」,(2)「経営会議」の二つの組織の権限拡大,そして.(3)トップ・ のマネジメントの選考方法を改善した。ここではその概要を紹介しておこう。 ユの (1) 「監督委員会」(feiugyelδbizottsag, FB l supervisory committee) 国営企業法(!977年)によれば,企業の監督は設立機関(大臣,全国的機関 エ の長,地方評議会)がおこなうことになっている〔第31条(1)〕。その主要な任務 は,企業活動を統括的に評価し,統制すること,企業長や副企業長の人事を司 り,かれらの待遇を決定することである〔同条(2)〕。そして,監督機関は企業 活動の監督統制のために特別に「監督委員会」 (以下FBと略称)を設立する ことができる〔第36条〕。一部の大企業やトラストでは,国営企業法のもとに 9) この節はN⑳5彫加45691982.november 26.の記事と, BGkor JAnos. A v設11alati iranyftas 6s vezet6s korszertisitlse. Fゴg:ソ6♂δ,1982. december 2.(48 sz.)にもとつい ている。 10)FelUgye16 hzot之sゑgは「監査役会」と訳せなくもないが,国家機関として企業活動 を社会的利害に沿うよう外部から統制する業務を主として遂行するので,いわゆる 「監査」機能と同時に行政指導的機能をも果すと考え,日本語の「監督官庁」になぞ らえて,「監督委員会」と訳しておく。 11) 拙訳「ハンガリーの『国営企業法』」(「彦根論叢』第!92号(昭和53年10月)参照p
ハンガリーの企業内管理組織の改革 29 なった「国営企業に関する政府命令」 (!967年)にもとづいて1968年以来すで ゴ う にFBは機能していた。その任務は,監督機関にかわって企業活動の評価とそ の機関への提案であった。しかし,実際のFBの仕事は事後的なチェックに限 られていた。 81年の国営企業法の改正によって,第36条第1項は, 「設立機関は企業活動 の統制のために監督委員会を設置することができる。閣僚会議はその監督委員 会些他の任務をも委譲することができる。」(下線は改正された部分,引用者) と変更された。この法改正に沿ってその具体化が始まったのである。 新しいタイプのFBの権限は次の二つの:方向において拡大される。ひとつ は,これまで監督機関が果してきた企業活動の総括的な監督統制課題をFBが 肩代りすることであり,もうひとつは,そのことに依拠しつつ,企業の将来の マネジメントに大きな影響を及ぼす問題に意見を表明し,提案をおこなうこと である。たとえば,企業の中期計画構想,活動領域と組織の変更,企業内管 理・決定・インセンチィヴ・システムの基本原剛の作成などの問題に意見を表 明する。 新しいFBはまた企業長の活動を評価し,意見を表明することによって企業 長の選任において設立機関を補助する。FBに企業長の任命権はない。法律上 の企業長任命権者は設立機関である。しかし,FBの提案を受け入れて設立機 関がそのまま任命すれば,FBが企業長を事実上任命するにも等しくなる。こ の権限関係は日本の国立大学の学長任命における関係に似ている。学長の任命 権者は文部大臣である。従って拒否することもあるが,特別の事情がない限 り,大学で選出された候補者が文部大臣によって学長に任命されるのが普通で ある。それと同様に,FBの提案が事実上の企業長の指名となりうるのである。 このように,新しいFBの権限は単に監督機関の任務の肩代りにとどまらな いで,企業マネジメントの基本問題についての意見表明や提案,企業長候補の 提案などにも拡大される。しかしながら,重要問題に意見を表明し提案できて !2)FBは,共同企業や企業連合などの合同企業形態にも存在する。農業協同組合にも 存在するが,工業企業のFBとは異なる。
30 彦根論叢 第220号 も,FBには決定権はない。この点では従来と本質的に変るところはない。 FBは,本来的に外からの統制(ellenδrz6s;control)をおこなう機関であり, あくまでも影響力(befolyas;influence)を及ぼすにすぎない。 次に,FBの構成であるが,その委員の数は,1978年の「企業の監督と企業 ユヨ 内統制に関する閣僚会議命令」によると,従来は監督機関によって企業の規模 や重要性に応じて5∼9人目決められ,FBの長と委員もその機関によって委 嘱された。そのFB委員の著は企業と無関係の人間からなり,企業長と副企業 長は委員になれない〔同命令第12条(1)〕。監督機関に雇用されているものは委 員のtをこえることはできない。又,FB委員の1∼3名は企業勤労者の代表 ユの として,企業労働組合評議会と労働組合職場委員との合同会議によって選出さ れ,FBに送りこまれる。 FB委員の任期は最高5年で,毎年監督機関の予算 から礼金をうけることができる,となっていた。 新しいFBでは,設立機関がその長を任命し,委員には所管大臣,主だった 官庁 例,大蔵省,銀行,全国計画庁など一の代表などがなる。勤労者代 表は,企業レベルの組合からではなく,産業別労働組合から2名派遣される。 しかしながら,FBはあくまでも監督機関の組織体であり,その一定の機能 を遂行するものであるという立場から,今後は当該企業の勤労者や管理者は委 員にばなれない。この点では従来のFBとは異なる。つまり, FBが企業の 外部に組織された専門監督機関であるという性格をはっきりさせたわけであ る。 最後に,FB委員は,委嘱者と契約を結び,礼金を受けとって仕事をするか ,又は副業(m益sodallas;secondary employment)として仕事をするかを決め !3) V6, 39/1978. (lal. 18) MT szamit rendelet a vallalati felingyeleti 6s bels6 ellen− 6rzesrdl. 14)企業労働組合評議会と労働組合職場委員との合同会議は,工場民主主義の間接的な フォーラムとして1977年にすべての国営企業に導入されたが,1980年末に企業労働組 合評議会の廃止とともに,その機能は「職場委員会議」にひきつがれた。その経緯に ついては,拙稿「工場民主主義一ハンガリーの現状と新たな対応一」(『経営労働 論の展開』(海道進教授還歴記念論文集)干倉書房,1983年)を参照されたい。
ハンガリーの企業内管理組織の改革 31 ることができる。勿論,かれらは企業の成果分配には与かれない。 ユう (2) 「経営会議」(igazgat6 tanacs;board of directors) 経営会議(以下ITと略称)も, FBと同様に,国営企業法〔第48条(4>〕に 従ってトラストには以前から組織されていた。それは,トラストの長としての 企業総長(vez6rigazgat6;general director)の指導の下にトラスト傘下の企業 長からなる会議であった。他方,通常の国営企業には企業長の他に組織単位:の 長と勤労者代表からなる「集団助言勧告機関」が組織されていた。 今回の国営企業法第13条(3>の改正によって,1・ラストのみならず,通常の国 営企業にも,組織単位の管理者と企業のその他の勤労者とからなり,企業長と ともに活動する「経営会議」が設立できるようになった。このITは,意見表 明権を,さらにその設立が設立機関の決定によって指令された場合には決定権 エの をも有する,と規定されている。 このようなIT設立の目的は,なによりも七度的に集団的決定(kollektiv d6nt6s;collective decision−making)の促進,より民主主義的企業管理の強化に ある。これまでの集団的助言勧告機関は,経験によれば企業内の情報伝達の機 関でしがなかったといわれている。そこで,新しい法令では,企業のstrateg三。 な意思決定権限をも委ねる方向で,ITの権限が拡大されることが予定されて 15)igazgat6 tanacsは,文字通りに訳せば「企業長評議会」となる。以前には複数の 自立企業からなる一盛って複数の企業長がいる一トラストで組織されていたの で,その訳でもよかった。私も「国営企業法」(1977年)の翻訳ではそのように訳し た。しかし,今回は,一人目企業長が議長となり,企業内勤労者からなる会議であっ て,strategicな経営問題を決定する会議なので,「経営会議」とした。なお,資本主 義企業の取締役会(board of directors)のハンガリー語訳は, igazgat6s設9である が,igazgat6 tanacsと訳されることもある。 16) 国営企業法の改正により,第13条第3項は次のようになった。「設立機関の決定, あるいは組織と活動の規則は,第1項でいう企業においては組織単位の管理者とその 企業の他の勤労者からなり,企業長と並んで活動する経営会議の設立を指令すること がでぎる。経営会議は意見表明権を,更に一その設立が設立機関の決定によって指 令された場創こは 決定権を有する。その権限は,設立機関の決定,あるいは組織 と活動の規則の中に定めなければならない。」
32 彦根論叢 第220号 いる。将来,ITの決定権限に入ると考えられる問題としては,たとえば,企 業の長期と中期の計画,発展方向の選択,大規模投資,企業内管理とインセン チィヴ・システムの確立,新しい組織の設立などである。企業の死命を制する 戦略的な意思決定権限を有するITを,どの企業や}ラストー工業,建設 業,食品工業,商業にも及ぶ につくるか,それは監督機関によって指名さ れる。 しかしながら,ITにぱoperativeな経営問題についてその決定権はない。 日常のマネジメントは,今後も企業長の責任において遂行される。つまり,長 期的な視点からのstrategicなマネジメントの意思決定にはITが責任をもち, 短期的なoperativeな意思決定には企業長がその責に当るという分業体制が出 来上ることになる。従って,両機関が相互補完的協業関係の下で活動するわけ である。 このようにみてくると,ITは組織機構上資本主義の取締役会に似ていなく もない。ITも企業の基本的な経営方針を決定し,日常の業務執行を企業長に 委ねるからである。この点に関する限り,ITと企業長の関係は,取締役会と 社長の関係に近似している。しかしながら,ITには企業長の選任権もコント ロール権もないので,両老の支配一従属関係は成立しない。機能上の分業があ るだけである。 次に,ITの構成メンバーであるが,企業総長,副企業総長,生産高単位の 長,発展組織の代表者などと並んで,企業の将来に影響を及ぼす領域で働いて いる二人の専門家と労働者代表にも席が保障される。そして,社会的組織の代 表も,協議権をもってITの会議に参加することができる。この構成から明ら かなことは,第一にITはFBとは違って,企業内部の集団的マネジメント機 関として位置づけられていることである。第二に,ITのメンバーが主として 企業内の各部局の長からなることからみて,ユーゴの「経営(管理)委員会」 に比べると,平の勤労者の参加の機会は極めて狭い。その点では,ITは実務 的なテクノクラティヅクな性格の強い委員会といえよう。 〈3) トップ・マネジメントの選考
ハンガリー一一の企業内管理組織の改革 33 この問題についての新しい措置は,国営企業法の改正によって追加されたそ の最終条項(付則)第53条第3項にもとづいている。それによると,「閣僚会 議は企業長(副企業長)の任命と解任を,この法令に定められたこととは異な った形で規制するべく全権を委任されている。」この権限に依拠して,閣僚会 議は次のような変更を用意している。 企業長の選出に際して,新しい監督委員会が提案できる点については先に述 べた。それ以外の変更として,その第一は,従来企業長と並んでトヅプ・マネ ジメント層を形成してきた「副企業長」の人事に関する変更である。国営企業 法第15条第1項は,副企業長は,企業長と同様に,設立機関によって,労働組 合の意見聴取後に任命(解任)されると定めている。ただし,副企業長の任命 と解任に先立って企業長も提案をおこなうことができた。そして,副企業長の 労働関係にかかわる雇用主の権利も,企業長によって行使されてきたが,副企 業長の任命・解任の人事権だけは設立機関の専決事項であった。 しかし,今後,副企業長に関するいっさいの雇用主の権限は,設立機関によ ってではなく企業長によって行使されることになる。従って,副企業長の任命 (解任),かれの賃金,プレミア,付加給付などは,企業長がこれを決定する のである。これまでも,企業長の提案が実際上設立機関によって受容されると いうのが一般的慣行であった。しかし,今回の措置によって企業長が副企業長 を任命(解任)することになったので,仕事仲間の選任と待遇における企業長 の役割と責任は一層強化されることになる。 第二の大きな変化は,企業(総)長の「公募制」(paiyazati n16dszer;com. petitiOn)の採用である。これは上級管理職の選考において主観主義を排してよ り客観的なものとし,かつ後継者の枠を広げるために導入されるのである。企 業長の選考における一種の競争原理の採用は,従来ともすればみられた監督機 関と企業誌とのゆ着,なれあい,あるいは取り入りなどの不明朗さをなくし, 公開によるより客観的な評価を可能にするであろうという点において,ITの 集団マネジメントとともに,企業内民主主義の拡大に向けてのワソ・ステップ
34 彦根論叢i第220号 とみなされよう。ただしかし,ユーゴの労働者評議会を中心とする選考委員会 による企業長公募制ほどには民主的ではない。 第三の変化は,企業長の任期が定められることである。一般的には5年とさ れる。(再選も可能)この措置は,ひとつは変りゆく時代の要請に応えるべく その時宣に適した人物の選任と,もうひとつはマンネリ化をさけ,人事交流を 17) 促進し,とくに若い人材の登用に道を開くことを狙っていると思われる。これ によって,最高5年毎に企業長の業績チェックがおこなわれることになる。従 って,企業長は任期中にしかるべき実績を残さなければ続けてそのポストに留 まることはできない。この点でも一種の業績主義が採用されたことになり,企 業長もヌクヌクと安住してはおれなくなる。 しかし,企業長の5年任期制の導入の意義は大きい。というのも,従来,企 業長の活動評価は単年度の成果にもとづいてなされてきた。その結果,企業長 が研究開発や技術革新のような長期的な視点の必要な問題を軽視する傾向があ ったからである。今後企業長は,短期的な成果にとらわれないで,中期的なパ ースペクティヴのもとに,思い切ったマネジメントができるわけで,その点で は企業長の行動の自由は大きくなる。従って,長期的な発展戦略の構想力が, 企業長の資質のひとつとして問われることになる。 企業長にかかわる今ひとつ重要な変化は,その任命時に監督機関がかれらに 長期的な経済的要請を具体的に課すことである。たとえば,赤字をなくすと か,生産物構成の再編成や技術発展目的の達成というような課題を指定するの である。一般的な経済政策の目的設定がおこなわれるのではない。この点では 企業長の任命は,特定の課題解決のための一種の契約という性格をももっこと を意味している。 17)最近の=ユースによると,過去2年間に省によって任命される管理者のtが変っ た。その多くは年金生活に入ったが,数人の能力のないものは更迭された。新たに任 命された管理者の一9 eXSO才未満の若さであり,その一部に40才にも達しないものがい る。若返りが今後においても重要な課題であると,工業大臣,メーヘシュが「工業企 業管理者全国評議会」で述べたという。(NgPsxabadsa’g,1983. januar 6.)
ハンガリーの企業内管理組織の改革 35 最後に,企業長の格付け(minδsit6s;rating)は,監督機関がFBの意見を参 考にして行う。 IV 企業内管理組織の再編成の狙いと問題点 以上の「監督委員会」と「経営会議」の権限拡大と「トップ・マネジメント の選考」の改善は,企業の管理と組織システムを時宣にかなったものにする措 置としてポジティヴに評価できる。ここではその背景や意味,問題点について 考えてみたい。 (1)監督委員会(FB)について これまでトラストを除く通常の国営企業に対する監督は設立機関によってお こなわれてきた。つまり,設立機関が同時に所有者機能とその一部である監督 統制機能とを遂行してきたのである。そこで,今回の措置によって企業の設 立,分割・解散,企業長の任命・解任などの所有者機能は設立機関がこれを担 い,企業の監督統制機能は監督委員会がこれを担うようになる。この二つの組 織に二よる機能の分割は,国家による企業管理組織の合理化という視点から一定 の前進と評価されてよい。 しかも,監督委員会は先にも触れたように企業外の組織として存在する。そ れゆえ,監督される企業の利害関係にとらわれないで,客観的に評価できる: とも,以前の場合に比べて合理的になったといえる。 今回,監督委員会がなぜ導入されるようになったのであろうか。次にこれを 考えてみたい。結論的にいえば,企業を監督する機関(部門省)があまりにも しばしば企業活動に介入しすぎて,企業の自立性の展開を妨げてきたがゆえ に,それを防止するためである。 部門省による企業マネジメントへの介入は衆知の事実である。68年改革のト レード・マー一一クともいうべき計画指令の廃止により,フォーマルには部門省と 企業との間の直接指令関係はなくなった。しかしながら,現実には旧管理シス テム下の実践が実質的には生き続けた。部門省は数多くの命令や指針を企業に 出す。省の多くは旧管理システムにおいてと同様の指標を,電話も手紙,テレ
36 彦根論叢 第220号 ユヨ ックスなどによって求める。たとえぽ,部門省は企業の計画作成に際して,輸 出高,在庫量,利潤郎等について「期待」を伝える。この期待は,指令ほどで はないが,実質的には控え目な願望以上のものを意味する。あるいは又,大き な投資決定の場合,企業は自己資金だけではまかないえないがゆえに,事実上 部門省との共同決定となる。企業にまわされる財源の配分の大部分について大 臣は口をはさみ,その意見は決定的である。こうしたことが,望ましい企業の 自主性の発展を妨げるほどの従属的な位置に企業をおとしめることになるので ある。 フォーマルにはなくなったはずの部門省と企業との問の上下関係,支配一従 属関係が実際の(インフォーマルな)意思決定メカニズムに生き残ったのは, 68年改革においても組織・制度システムに本質的な変化をもたらさなかったか らである。つまり,「計画経済の以前の組織構造が本質的に変ることなく維持 された」のであり,従って,企業はr階層的に組織された統一的な経済管理シ の ステムの部分であり,その最下位レベルに位置づけられている」からである。 企業の予算響町をハード化にいくらかシフトさせ,利潤インセンチィヴの強 化によって企業をして真に効率的なマネジメントに向かわせるためには,企業 を国家行政管理機関から独立させねばならない。その意味では,監督委員会の 設立はその方向に思った措置とみなすことはできる。 しかしながら,監督委員会は設立機関から完全に独立しているのではない。 監督委員会には所有者機能に関する決定権はない。設立機関(部門省)に提案 するだけである。つまりその機能の特徴は,既述のように,影響力を及ぼすこ とにある。確かに,監督委員会の導入とともに,部門省の企業監督局は廃止さ れた。指摘したように,三つの部門省(重工業省,軽工業省,冶金・機械工業 18) Laky Terez: A recentralizSlas rejtett mechanizmusai. Va16s6g, 1980. 2. sz. 38. old. !9) Bauer Tamas: A vallalatok ellentmondasos helyzete a magyar gazdasagi me− chanizmusban, Kozgaxdasdigi Sxemle, 1975. 6. sz. 729. old. 20) Tardos Marten: A gazdasagi verseny problemai hazankban. Ko2gagdasdgi Sxemle, 1972. 7−8 sz. 917. old.
ハンガリーの企業内管理組織の改革 37 省)の一つの「工業省」への統合によって企業活動への介入の余地は小さくな った。それだけではなく,部門省がかって果していた価格形成や資材供給課題 は,全国資材価格庁といういわゆる機能省に移されることになった。その点で は,部門省自身が企業に介入する機会が少くなったことは事実である。 しかしながら,監督委員会が旧い部門監督システムを再生させないという保 障はない。なぜなら,監督委員会が部門省から完全に独立して所有者機能を果 すことができないからである。この点に関する限り不徹底であるといわなけれ ばならない。 国家による企業管理の点に関する今日のもっともホットなテーマのひとつ は,部門省が果している国家行政管理機能と所有者機能とをどのように分離す るかをめぐるものである。ここで詳論する余裕はないが,代表的な:見解をあげ ておこう。 企業聞競争と企業家的行動を妨げているのは,企業が国家行政管理機関に従 り 属しているからである。それゆえ,少くとも広義の「競争分野」においては, 部門省から独立した「資産所有者持株会社」(az eszk6ztulajdonosi holding)を う つくるべきである。企業はその持株会社(又ぱ銀行)に属し,企業の株はその 持株会社間の取引で交換される。所有機能を遂行する持株会社はいわゆる戦略 的問題(資本フP一,大投資etc.)を決定し,企業は今日よりもはるかに大きな 自由度をもってマネジメントに従事できるという。つまり,社会主義タイプの 「所有と経営の分離」がおこなわれることになる。極めて興味深い主張である。 21) ここにいう広義の「競争分野」には,教育,保健などの公共施設と,ガス・水道・ 電気・電話・郵便・鉄道などの公共事業分野を除く全ての分野が入る。 22) Tardos Marton: Program a gazdasagiranyitas 6s a szervezeti rendszer feJlesz− t6s6re. 」〈02gaxdasdgi Sxemle, 1982. 6, sz Tardosと同様の見解は, Kopatsy S2ndor;Ar6szv6ny壊rsasagok szerepe. Fz, g=yelo,1981. november 4.やVarga Gyorgy:Vゑllalati m6retstruktura a magyar iparban, G儒4α頭g,/979.1sz.によって展開されている。 Kop益tsyは「年金基金」 を,Vargaは「銀行」を所有者組織とせよという。 勿論,国家行政管理機能と所有者機能との組織的分離をあまり重視しない論者もい る。たとえば,Baμer Tamゑs:Agazdas盃gi reform 6s tulaldon viszonyok. K6zira†.
38 彦根論叢第220号 このような考え方に従えば,企業は国家行政管理機関からの介入を心配する ことなく企業家的(entrepreneual)マネジメントに専心できる。企業と企業長 の評価も文字通り収益性一それは株価に反映される一に応じておこなわれ るのであり,これまでのように監督機関の期待にどれだけ従1頂に応えたか,い り り お かにわずかしかタテつかなかったかに依存するのではない。もうひとつのメリ ットは,所有者機関間の株の売買を通して,収益性に応じた資産再配分メカニ ズムが形成される可能性があることである。 このような主張に比べれば,監督委員会の導入は確かに一歩前進ではある が,企業の行政管理機関からの独立,監督委員会の所有者機能の発揮の観点か らみてその不徹底さは否定できない。 (2)経営会議について トラスト以外に通常の企業にも長期的,戦略的な経営閥題について意思決定 権を有する経営会議が設立されることは,企業内民主々義の発展という視点か らみてポジティヴに評価されよう。ただ,なぜ今になって経営会議が導入され るのであろうか。それは,7980年にかけての今回の「改革」によってこれま で以上に厳しい「効率の要請」を企業に課していることと無縁ではない。企業 の の予算制約は,十分とはいえないまでもいくらかハードになった。企業は従来 のように国の財政的援助をあまり当てに出来ない。80年に導入されたいわゆる 「競争価格」によって工業部門では,国際市場価格が国内価格の基準となって いる。長期にわたって赤字を出し,自身の経営改善努力によりそれを解消でき なければ今度は企業も「倒産」を覚悟しなければならない。企業所得と賃金規 制においても,利潤インセンチィヴが一層強化され,その差別化をはかり,能 23) Megk6rdeztik a vezet6ket ,,Mi6rt csinalja’k?” Figye16, 1982. okt6ber 21. 24) コルナイによると,ユ980年経済規制システムの導入のひとつの根本思想が財務・信 用システムの「ハード化」であり,企業にとって厳しい経済的強制を強めることであ つたことは周知の通りであるが(『反均衡と不足の経済学」(盛田,門脇編訳)日本評 論社,1982,142頁),実際には殆んど「ハード」になっていないという。(J.Kornai, Comments on the Present State and the Prospects of the Hungarian Economic .Reform. Mimeo,)
ハンガリー一の企業内管理組織の改革 39 率刺激のバネとしている。つまり,収益性が高ければ高いほど,そうでない企 業よりも賃上げと年度末利潤分配においてより有利になっているのである。 このように,企業セこ能率向上を厳しく課す以上,それを実現出来るような条 件をも用意しなければならない。企業の自立性の拡大と一定の企業内民主主義 の発展が必要となる所以である。能率向上は結局は勤労者の創意性「やる気」 に依存するからである。従って,今回の経営会議は,社会主i義的企業マネジメ ントの本来のあり方からというよりも,むしろ効率的マネジメントをおこなわ せる経済的必要上,導入されたというべきであろう。そのことは経営会議の構i 成メンバー(とその選出方法)をみても明らかである。それでもなお,それが ないよりはある方がより民主主義的なあり方として受容されるべきであると考 える。 戦略的な問題についての集団的決定と集団的責任分担機関としての経営会議 が効率的マネジメントの実現に向ってしかるべき役割を果しうるかどうかは, 監督委員会の場合と同様に,今後の実践にまたなければならないが,次の二 点を指摘しておぎたい。第一は,経営会議のメンバーに対する雇用主権を企業 長が行使するがゆえに,会議では企業長の意見に反対しにくいのではないか, ということである。これまでの経験も,「上司」の意見への追随,nodding,批 う 判的意見の欠如がみられるという。日本の大企業において,取締役が職務.ヒ社 長の支配下にあるので,法律上社長の行動を監督するはずの取締役会が本来の 機能を果せていない,というのと同じような状況が生じるのではないか。その ような事態を防ぐための制度的保障は十分置用意されているであろうか。確か に,論争の公開,決定の文書化,そして社会的組織も協議権をもって参加する ことなどによちていくらかは防げるかもしれない。 しかし,現状においては経営会議が反対意見の開陳を含めて真に実のある討 論のフォーラムとなるかどうかは,運営の仕方にかかってくるのではないか。 とりわけ対立の危険をも敢えて冒してまで議論のできる専門家として有能なメ 25) Oroszi Istvan:D6ntξs, kock6zat, fele16ss69. NgPs2abadsdig,1982. december 31,
40 彦根論叢第220号 ンバーや,民主的なリーダーシップの発揮できる企業長などの個人的資質にそ の多くを依存することになろう。 むしろ制度的保障として考えられるべきことは,経営会議が勤労者集団によ ってそのlegitimacyをえているかどうかにあるのではないか。各単位や部局 の長でも真に「下から」の信認をえた勤労者集団の代表であるならば,会議で のかれらの立場も自ずと違ってくるはずだからである。この問題は次の第二北 目にもかかわってくる。 第二に,この経営会議の導入によって現場の勤労者にとって何が変るかであ る。ハンガリーのある労働社会学者の言によれば,「労働者は工場内の利害関 係や権力関係に本質的な変化がおこらない限り,より大きな責任と危険を伴う 新しい役割を自分自身のために『担うに値する』とはみなさない」という。又, 労働者の経営会議への参加についてのガソツ電気工場での経験をみると,20 人のメンバー中,2人目労働者代表のうち1人目4年間に1度しか発言せず, 27) もう1人目1度も質問しなかったという。この事実は労働者のこれまでおかれ てきた状況を考えれば何の不思議もない。問題はそこにあるのではなくて,か れらが「自分たちの参加はシンボル的なものである」と述べているところにあ る。つまり,労働者権力国家のシンボルとして, 「飾り」としてしか受け取ら れていない現実がある,ということである。新しい経営会議もこの点において 従来のものと本質的に変らないとすれぽ一その可能性が大きい一,経営会 議が企業労働者集団全体としての創意性の発揮につながるかどうか,疑問なし としない。 最後に,もうひとつ問題点を指摘すれば,経営会議が企業長の権限を制限し オペレイテイヴ ないかどうかである。この問題は,戦略的な意思決定と経常的な意思決とをど こで区別するか,という問題におぎかえられる。恐らく経営会議の実施細則の 中で基本的な点について定められるであろうが,業種や企業の発展段階(端緒 26) Mak6 Csaba. R6szv6te1;afeladat atalakitas vagy a hatalmi viszonyok atala’ k重tasa. Va16stig,1979.4. sz 16,01d 27) P母ter Ilona:Munk葎sok az i$az琴at6 tan盃csban・Mα9ンαr猛κα2・1980・aprilis↓3・
ハンガリーの企業内管理組織の改革 4! 期か成長期か),規模,あるいは景気動向などによっても異なるので,一律に は論じられず,紛争のタネとなりかねない。 (3) 「トヅプ・マネジメントの選考」について 企業長の公募制は,監督委員会や経営会議とは異なり,全く新しい試みであ る。しかも,任期制(5年)も採用された。 この狙いは,行論においても触れたように,ひとつは選考の客観1生を高める ことにあるが,もうひとつは,以前よりはいくらかハードになった予算制約の 下では,マネジメントの効率向上が要請されるがゆえに,それに応えうる有為 な人材を広く求めなければならないことにある。これまでの企業長の資格条件 は,①政治的経歴(党員,労働組合やその他の社会組織のリーダー,高級官僚 など),②その企業にかかわる専門知識(化学工業企業なら化学知識),そし ちヨう て,③経営者としての能力とされたが,その重要度は番号順であった。 しかし,今やもっとも必要とされるのは③のマネジメントのスペシャリスト としての能力である。上級機関に「顔がきき」,そこから企業に有利な条件を ひき出してくる能力ではなくなる。文字通りの経営人としての能力が問われ る。少くとも5年問に具体的な成果をあげなければ,企業長は自らの地位を保 つことはできなくなる。中期的視点に立ってマネジメントがおこなえなければ ならない。加えて,経営会議をリードしていかなければならない。そのような 人材を求めて公募制が採用された意義は大きいと考える。 今回の措置による企業長にとってのメリットは,その活動評価にかかわる。 従来,企業長の刺激は,企業の経済的成果よりもむしろ監督機関の判断に結び つけられていたという。しかし,これからはマネジメントの実績がものをいう であろう。契約更改時にはその課題遂行度で評価されよう。 企業長にとっての心配は,権限が小さくなるのではないか,というものであ 28) L.H6thy, Selec亡ions of Enterprise Executives in Hungary;ACase Study, Aeta Oeconomzca, Vol.22(3−4)(!979). 29) Forgacs T・Katalin二Tisztvise16k va$y menedzserek?Va・16stig,1981・7・sz・58・ 04d,
42 彦根論叢 第220号 ろう。これまでも,企業長の不満のひとつは責任の大きさに比べて権限が小さ いというものであった。今回,長期的,戦略的な意思決定権限は経営会議に帰 属する。その分小さくなるが,しかし,その会議をリードできるし,戦略的問 の ゆ 題の決定については集団で責任を負う。会議では単純過半数でもって決せられ るが,同数の場合には企業長の意見で決められる。 企業長の選考についての問題点は,どのように選考するか(公募制)という こともさることながら,誰が選考するか,誰が首を切れるかである。任命に際 して労働組合の意見は求められるし,企業長が労働協約に違反したり,社会主 義的モラルに反する行動をとった時には,労働法に基づいて労働組合を通して 「異議申し立て」は出来る。しかし,企業長の任命に際しては,決定権はおろ か拒否権さえもない。企業長の任命に当って,勤労者集団に拒否権を与える議 論がなされたと聞く。しかし,今のところ実現されていない。
結びにかえて
今回の「企業法」改正は全体として企業の自立性の拡大を志向しており,そ れにもとつく企業内管理組織の改革は企業内民主主義の一歩前進と評価でき る。そして,それらの動きは,70年代後半以後顕著になってきた新しい一ハ ンガリーにとっては厳しい一国際経済環境に対応するための,68年改革路線 の一層の徹底化・深化の過程との関連において,とくに80年から始まったとさ れる組織・制度システムの再編成の一環として把えることができる。 国家による企業管理と企業内管理の再編成は企業法改正で終るものではな い。今日でもなお,工業企業システムを将来どのように発展させるべきかをめ ぐって議論されている。その一端を前節で紹介した。Tardosは国家行政管理機 関から独立した「資産所有者持株会社」を,Kopatsyは「社会主義的株式会社」 を,Liskaはもっと先鋭的に伝統的な社会的所有にかえる「個人的社会的所有」 30)資産(property)が誰によっても没収されないという限りにおいて「社会的」であ り,社会のためにもつとも有効に用いるものによって所有され,使用されるという限 りにおいて「個人的」である,ハンガリーの企業内管理組織の改革 43 (persona1 socia1 pエoperty) tlこもとつく「企業家的社会主義」(Entrepreneurial 31) Socialism)を主張する。つまり,社会にもっとも大きな利益をもたらすものに 社会的資産(企業)の所有と使用を認めよ,というものである。あるいは又, Sinkovicsは加工産業の競争分野の企業に, Antalは協同組合企業にそれぞれ Z3) 「自主管理」を採用せよというように,様々な見解が展開されている。企業の あり方の将来はまだ流動的であるといわなければならない。今後の検討課題と して残されている。 〔付 録〕 国営企業に関する1977年度法律第六号改正に関する,・・ンガリー人民共和国幹.部会議令 1981年第20号。 !.〔!〕国営企業に関する1977年度法律第六号(以.ト同法)第7条第1項に次の条項 が追加される。 『閣僚会議は企業設立権を他の国家機関にも付与することができる。』 〔2〕 同法第7条第2項には次の条項が入り,同時に現行第2項は第3項となる。 『(第7条) ② 企業は子会社を設立することができる。子会社にかかわる規則 は,閣僚会議がこれを定める。』 2.同法第13条第3項は次のように変更される。 『(第13条)(3)設立機関の決定,あるいは組織と活動の規則は,第2項でいう企 業においては組織単位の管理者とその企業の他の勤労者からなり,企業長と並んで活動す る経営会議の設立を指令することができる。経営会議は意見表明権を,更に一その設立 が設立機関の決定によって指令された場叡こは一決定権を有する。その権限は,設立機 31)Liska Tiborの考えを知る上で最適なのは, Barsony Fenb:Liska Tibor koncep− ci6Ja, a szocialista vallalkozas. Valtisdig, 1981. /2, sz 32) S三nkovics Aユfred二Szocialista vAllalattipo16gia, gazdas会giranyitas. Ko2ga2dasdigi S2emle, !981. 12. sz. Antal L2sz16: Gondolatok a gazdasagi mechanizmus tovabbiejlesztes6r61. Gaz− dasa”g, 1982. 3一 sz. *この訳語については本文31頁の注㈲を参照のことp
44 彦根論叢 第220三 関の決定,あるいは組織と活動の規則の中に定めなたればならない。』 3.〔1〕 同法第26条第2項は次のように変更される。 『(第26条) ② 企業は設立機関の決定の中に定められた活動領域内に属さない が,しかし企業の収益獲得活動を促進する補完活動をもおこなう権限を有する。』 〔2〕同法には次の第26/A条の条項が追加される。 『第26/A条,法規をもって,一部の活動に対して特権ないし官庁の許可の付与を 必要とするようにできる。特別の許可を求められた活動,また許可する権限のある官庁は 法規がこれを定める。』 4.同法第33条にに次の条項が追加される。 『(第33条) (2)監督の管轄内に属する一部門任務の遂行を,閣僚会議は企業設立 の権限をもたない機関にも委譲することができる。企業設立権と廃止権,更に特定の活動 に対する命令権は,これを委譲することはできない。』 5.同法第36条は次のように変更される。 『(第36条)(1)設立機関は企業活動の統制のために監督委員会を設置することが ネみできる。閣僚会議はその監督委員会に他の任務をも委譲することができる。 ② 監督委員会の組織と活動の規則や,その監督統制の詳細な規則は 別に法規でこれを定める。』 6.同法に次の第46/A条の条項が追加される。 『第46/A条 文化的サービスを提供する企業の管理,組織および活動のために, 閣僚会議は第46条に定めたことの他に自ら規則をも捌回することができる。』 7.同法の最終条項に次の第52/A条が追加される。 『第52/A条 (1)設立機関は小企業をも設立することができる。設立機関は小企 業の諸手段を引きあげることができないし,小企業に対して更生手続きをとることができ ない。企業か赤字経営である場合,あるいは経営上の理由により企業フォソドに不足が生 終この訳語については本文28:頁の注⑩を参照のこと?
ハンガリーの企業内管理組織の改革 45 じる場合,そしてそれを自力で停止させることができない場合には,設立機関はその企業 を廃止させる。 (2)小企業は経済規制,決算,会計および統計上の資料サービスにお いて簡略化されたシステムの下で活動する。』 8.同法第53条に次の第3項が追加される。 『(第53条) (3)閣僚会議は企業長(副企業長)の任命と解任を,この法律に定め られたこととは異なった形で規制するべく全権を委任されている。』 9.法律に準ずるこの命令は1982fF!月1Hlこその効力を発揮する。それと同時に,同 法第52条第4項はその効力を失う。 ハンガリー人民共和国 ハンガリー人民共和国 幹部会議議長 幹部会議書記 ロションツィ・パール カトナ・イムレ 〔追記〕 なおこの翻訳に際して深谷志寿氏から有益な助言を得た。謝して表記する次第であ る。