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「生徒自らが学び,高まり合う社会科学習」
上田真也 1.研究仮説 地域教材など生徒たちにとって身近に感じること のできる,社会的事象を取り上げることで,より社 会とのつながりを意識させ,自分の意見をもとにし ながら,生徒同士の意見交流を通して,思考力の深 化をはかり,公正な判断をくだす力の育成を重視し た社会科学習を展開すれば,社会的事象を主体的に とらえ,自ら社会と関わり,よりより社会の創造や 実現に向けて行動しようとする生徒を育成できるで あろう。また,自分の考えを意見交流することで再 思考を促し,その活動を通して,自らの学びをより 深めることにつなげていけるであろう。さらに,教 師から生徒へ,生徒から教師へ,といった一方向的 なやりとりだけでなく,双方向的なやりとりや学び の交流を通して,生徒から生徒へ,学校外の人材・ 機関(教材含む)から生徒へ,といった新たな方向 性を加えることでさらに生徒が高まり合う学習が展 開できるであろう。 2.これまでの実践 「生徒自らが学び,高まり合う社会科学習」に関 しては,一昨年度までの個人研究テーマである「主 体的に学ぶ意欲を育む社会科学習」の実践の上に構 築されたものである。一昨年度までの研究テーマ「主 体的に学ぶ意欲を育む社会科学習」では,以下のよ うに社会科学習をとらえて研究を進めてきた。 学習指導要領において,中学校社会科の基本目標 には,「社会認識を深め,公民的資質の基礎を育成す ること」が明記されている。この「公民的資質の基 礎」とは,国際社会に生きる民主的,平和的国家・ 社会の形成者として,将来に向けて社会と主体的に 関わり,よりよい社会を構築していこうとする意 欲・態度を身につけることである。生徒たちがこの ような意欲・態度を身につけるために,社会科教育 は,地理・歴史・公民各分野の学習内容の特性から, 自分たちが生きている社会との関わりを考える場面 を数多く設定することが出来る。このような学習場 面の設定を積み重ねていくことで,社会的事象に興 味・関心を持ち,多面的・多角的に考察する力,物 事を公正に判断する力を育成することが出来,自分 の生き方やよりよい社会の創造につなげていく力に つながると考える。 従って教師主導の学習展開だけでなく,生徒と教 師,生徒と生徒,といった両者が共に学ぶ双方向性 のある学習を展開させていきたい。そのためには生 徒が課題をもって自ら課題解決していく,従来型の 調べ学習(調べて,まとめて,発表する)も工夫す る必要があると考える。また,課題についても生徒 自らが主体的に捉え,課題解決に向かうような課題 提示の方法や意欲的に取り組もうとすることを重視 した学習展開を工夫することとした。 これまでの研究において,特に生徒間の話合いや 意見交換を中心に学習を展開し,それぞれ異なる立 場や様々な視点における思いや願いといった点を重 視するよう心掛けた。さらに一昨年度においては, メディア(新聞)や発展的学習などを意識した実践 を行うことができた。 また,一昨年度までの実践の選択学習においては, 「課題解決に向けた生徒同士,生徒と教師または学 校外の人材や家庭,地域社会の関わりの中で学習す ることを重視」するという点で公的機関(地方裁判 所)やNPO法人の協力が得られ,今年度の研究の 足がかりを作ることができた。 ただ,これら実践で双方向性のある学習の展開を 本論の要旨 本校社会科では,様々な視点から社会的事象をとらえさせ,生徒自らが思考し,正しい価 値観を形成した上で,公正な判断のもとによりよい社会の創造に向けた行動につなげていく ことを目標としている。 それらを踏まえ,本研究では生徒自らが学び,高まり合えるような授業展開を意識して進め ることとした。特に生徒が,自分の経験やものの見方をもとにじっくりと考え,判断し,自分 の意見を大切にしながら,生徒同士で意見を交流し合える場面を設定する。そうすることで, 生徒たちは自分たちの意見を交流し合い,広げ,深めることにつながると考える。さらに,グ ループ内による意見交流会や授業における意見発表を通して,お互いの考え方やものの見方の 違いに気づき,自らの学びをより深め,生徒同士の高まり合いにつながるものと考える。 キーワード 自分の意見 意見交流 文化振興 再思考-33- 謳っているものの,結局教師からの課題提示や疑問 の投げかけの上での意見交換学習に終始し,興味・ 関心を高め,主体的に取り組もうとうする態度は養 えても,生徒同士で,学んだことをより高めていこ うとする態度の育成につなげるところまでには至っ ていなかった。そうした反省から主体的に学ぶ意欲 を育んだ上で,生徒同士の高まり合いに力を入れる べく,本研究テーマを設定することとした。 本年度研究テーマ「生徒自らが学び,高まり合う 社会科学習」では,特に生徒自らの学びを大切にし, 学びに対する成果を生徒同士互いに交流することを 通して,互いに学び合い,高まり合う場面をより多 く設定することを心掛けた。研究開始から現在まで の実践における重点については以下の通りである。 ①生徒の意見や課題に対する成果をできるだけグル ープや全体の場で披露する。(発表) ②学んだ成果を生徒同士交流し合い,互いの良い点 や改善点を指摘し合う。(他己評価) ③交流の振り返りや自己分析(自己評価) 以上のような学習の積み重ねが生徒間における高ま り合いにつながると考えた。 3.授業実践 (本年度県中学校社会科教育研究会・地理的分野会 の研究授業として公開) ①主題(単元,題材) さまざまな面から見た日本 -生活と文化- ②主題によせて(単元設定の理由,題材観) 地理的分野における内容のうち,大項目の最後と なる「世界と比べて見た日本」。そのほとんどが日本 をさまざまな面からとらえるというものである。特 にここでは,「自然環境」「人口」「生活と文化」「資 源と産業」「地域の結びつき」の5つの視点より,世 界的視野にたって,日本の地域的特色を大観させる ことをねらいとしている。また,学習指導要領にも あるように,日本全体の視野からだけでなく,国内 の諸地域の特色についても地域的特色を明らかにす る視点や方法を身に付けさせることも重要であると されている。従って,本単元「生活と文化」では, 『伝統』をキーワードに世界的視野から日本の伝統 をとらえるだけでなく,日本国内,とりわけ自分た ちにとってもっとも身近な地域における伝統につい て,興味・関心をもって追究させたい。さらに,近 代化や国際化の流れの中で,伝統的な生活や文化が 目まぐるしく変容していく現代社会において,伝統 的生活や文化に対する「開発と保存」を意識した上 で,伝統をとらえなおし,社会とのつながりをもた せられるよう授業を展開していきたい。 特に本単元では,身近な地域である滋賀県の伝統 に注目させ,その伝統的価値を見つめ直した上で, 開発と保存について生徒同士の意見交流をはかり, より深く伝統に対する自分なりの考えをまとめてい きたいと考える。そのため,地理的分野の授業にお いて,『12歳から学ぶ滋賀県の歴史』(サンライズ 出版/滋賀県中学校教育研究会社会部会編)を用い, より具体的に滋賀県の伝統的文化に触れさせ,その 上で自分なりの伝統文化に対する思いを新たにさせ たい。また,滋賀県では,2006年10月より文 化活動者や公募委員などをメンバーとする「滋賀ら しい文化芸術振興のあり方検討委員会」が設置され, 2007年9月には「滋賀の文化振興のあり方」と して知事への報告書の提出もなされたところである。 そのような動きをうけて,現在,滋賀県では文化資 産や文化活動を担う人々の力を未来へつなぐべく広 く意見や提案を求めている。そうした滋賀県の現状 も理解した上で,次世代の文化の担い手となる生徒 と共に文化について見つめたいと考える。さらに, 昨年ユネスコの世界遺産に新たに登録され,その知 名度が世界的なものとなった「石見銀山」に続けと, 各候補地における様々な取り組みを通し,世界遺産 に対する注目度も高まってきている。人類共通の宝 としての世界遺産を身近な地域や「開発と保存」と いった視点も踏まえつつ,新たに見つめ直し,世界 遺産に対する興味・関心を掻き立てていきたい。 ③学習目標 (1)世界遺産や身近な地域の伝統文化に興味・関 心をもつことができる。 【関心・意欲・態度】 (2)伝統文化における開発と保存を多面的・多角 的に捉え,現代社会を意識した上で,伝統文化 の今後のあり方について自分なりの意見をまと めることができる。 【思考・判断】 (3)資料を活用し,考察した過程や結果を自分な りに効果的にまとめることができる。【技能・表現】 (4)身近な地域の伝統文化について理解し,伝統 のあり方や世界遺産に関わる基礎的知識を身に 付けることができる。 【知識・理解】 ④学習計画(全5時間) 第1次 世界と日本の伝統的生活と文化 /1時間 第2次 滋賀県の伝統的おすすめスポットを探そう /1時間 第3次 滋賀県の伝統的おすすめスポットの文化振 興策 /1時間 第4次 滋賀県の伝統的おすすめスポットの文化振 興策・意見交流 /1時間(本時) 第5次 世界遺産について(滋賀県から世界遺産を) /1時間
-34- ⑤本時の目標 (1)意見交流を通して,滋賀県の伝統的文化資産 における文化振興に対する興味・関心を高めること ができる。 【関心・意欲・態度】 (2)滋賀県の伝統的文化資産における文化振興に ついてより多面的・多角的に捉え,伝統を守りなが ら,生かすということについて自分なりに考えを深 めることができる。 【思考・判断】 ⑥学習過程 過 程 学習内容・活動 【評価】・配慮事項 導 入 文化振興策 ・文化振興策について確認する。 ・自分の考えた文化振興策について確認する。 ・前時で学習した内容なので,復習をかねて確認させ る。 ・前時に完成した生徒の意見交流用カードは提出して いるので,返却し,再確認させる。 展 開 文化振興策の意見交流 <意見交流をする> ・グループごとに分かれて,自分以外の文化振興策 について意見交流をする。 ・グループごとにもっとも良いと思われる文化振興 策を選び,そのカードにシールを貼る。 ・別のグループの文化振興策について,意見交流を する。 <文化振興について自分の考えをまとめる> ・文化振興にとって,何が大切かを考え,カードに 記入する。 ・意見を発表する。 ・生活班の6~7名ごとに机を合わせ,意見交流用の グループを作らせる。 ・自分以外の生徒が考えた文化振興策について,しっ かりと読ませ,1グループの中で,もっとも良いと 思われる文化振興策の書かれたカードに1人1枚 シールを貼らせる。 ・時間の都合上,グループ別交流は最大3グループま でとする。そのため,各生徒に配るシールは3枚1 組にして配っておく。 【関心・意欲・態度】様々な文化振興策について 興味・関心を持って読んでいるか。 ・前時に紹介した資料「滋賀県の文化振興のあり方」 や本時の学習で様々な意見に触れたことをふまえ, 文化振興について再度とらえさせ,これからの文化 振興にとって何が大切かを考えさせる。 ・考えた意見はカードに記入させ,数人の意見を発表 させる。 【思考・判断】伝統を守りながら,生かすことについ て自分なりに考えを深められているか。 ま と め 次時の予告 ・次時の学習が,世界遺産についてであることを知 る。 ・関心を持たせるために,滋賀県にも世界遺産がある ことを伝え,滋賀県から第2の世界遺産を出すとし たらどこが良いか,考えるよう促す。 ⑦資料・教具・準備 ・「12 歳から学ぶ滋賀県の歴史」(サンライズ出版) ・「滋賀プラス 1(2007 年 12 月号)」 ・意見交流用カード ・シール(1人3枚)
-35- 4.成果と課題 文化振興に関して は,現在滋賀県で委 員会を立ち上げ,推 進している現状から も今の時代を担う次 の世代が,今回のよ うな伝統文化に対して意欲的に取り組むことは重要で あったと考える。また,滋賀県の歴史的文化資産を「12 歳から学ぶ滋賀県の歴史」を通して,資料から直接的 に学んだり,文化資産に対して新たな思いをいだくと ことができたことも成果であったと考える。 授業ではこうした地域教材をもとにした上で,生徒 なりに文化に対して興味・関心をもつこととなったと 考えられる。また,新聞や県広報誌なども活用するこ とで教科書にはない,文化に対する実際の声や思いに 触れることができたことも成果であったと考える。さ らにおすすめスポットを探すという課題では,自分の 中で,文化的価値を見いだし,おすすめスポットとし て選んだ理由も考えることで,その文化的資産に対す る思いを新たにするこができた。また,ワークシート を用いて,自分が選んだおすすめスポットを,その選 んだ理由とともに,おすすめスポットの文化振興策に ついて考えさせた。今回の授業では特に「文化振興」 を「伝統を守りながら,生かすこと」と位置づけ,具 体的にどのような振興策がとれるのかについても考え させた。 以下に生徒のワークシートより抜粋したものを掲載す る。 <ワークシートより①> 【おすすめスポット】 「竹生島宝厳寺観音堂」 【おすすめスポットに選んだ理由】 ・滋賀県にある島だというのにもかかわらず,多くの 人は訪れたことのないところだと思う。私は小学校5 年生のときのフローティングスクールで訪れ,宝厳寺 観音堂の雄大さに感激した。美しく,歴史を感じさせ る竹生島をより多くの人に見てほしいと思ったから。 【おすすめスポットの文化振興策】 ・低料金で琵琶湖を旅できる船を定期的に出すべきだ と思う。船に乗っての珍しい小旅行ということで若い 人たちも興味を示すと思う。その時に竹生島にも訪れ, 滋賀の自然の豊かさや歴史の長さを感じることができ るだろう。 <ワークシートより②> 【おすすめスポット】 「石山寺」 【おすすめスポットに選んだ理由】 ・紫式部が『源氏物語』を執筆したと伝えられている 「源氏の間」があり,有名な人物である紫式部と縁の あるお寺だから。また,国宝に指定されている「多宝 塔」は人々にもよく知られている。春は満開の桜を見 ることができ,秋には紅葉も楽しめ,石山寺の四季の 草花を見に訪れる人も大勢いる。石山寺は建築物だけ ではなく,自然も見応えがあるのでおすすめである。 【おすすめスポットの文化振興策】 ・石山寺の広さを生かしてスタンプラリーなどのイベ ントを開催すると,大人や高齢者は石山寺参拝のため に訪れ,子どもはイベントを楽しむことができる。石 山寺は今までなかなか若者は来なかったが,若者向け のイベントを企画すればきっと訪問者も増えると思う。 こうしたワークシートをもとに自分の考えをまとめ させ,グループ単位で意見交流ができたことも成果と なった。 最後に学習のまとめとして,生徒たちには「文化振 興」を考えていく上で大切なこととは何なのかを考え させ,自分の意見としてワークシートに述べさせた。 以下は生徒の意見の一部抜粋したものである。 ・どの年齢・性別の人達に注目してほしいのかを考え, 目的に合った方法にする。例えば,子ども向けならス タンプラリーや遊びながら学べる施設,大人向けなら 詳しい資料の展示等。 ・その地域の人々が一丸となって,目標を立て,それ を進めていくこと。地域の特徴を生かす。 ・「伝統を守りながら,生かす」とはとても難しいこと だと思う。しかし,とても大切なことであるというこ とを実感した。市役所などが市民にアイディア募集し て実際の事業に取り入れていくと良いと思う。 課題としては,次時に世界遺産の学習が予定されて いたため,地域の文化資産と世界遺産へのつながりを 意識しすぎたため,なかば強引に世界遺産を意識させ てしまった点である。世界遺産でなくても,国宝や地 域独自に伝統として守ってきたものが,すでに価値あ ることであるはずなのに,世界遺産に登録されること に重きをおくようなまとめ方をしたのは誤解を招いた 可能性がある。また, 時間の関係で最終の段 階の生徒のまとめ意見 が交流できなかったこ とがあげられる。