Nobuyuki KAWAUCHI
河 内 信 幸はじめに
地上に降り注ぐ太陽光エネルギーの潜在量は膨大であり,僅か1時間分で人類が1 年間に使うエネルギー量にも相当し,実際に利用可能な世界のエネルギー消費量の約 50倍にものぼると見積もられている。たとえば,仮にアフリカのゴビ砂漠に太陽電池 を敷き詰めれば,全人類のエネルギー需要量を賄う発電量が得られると言われるほど である1)。 そのため,自然・再生可能エネルギーの需要の高まりを背景に,これまで太陽光電 池・パネルへの需要は第1図のように順調に拡大してきた。欧州太陽光発電産業協会 (European Photovoltaic Industry Association)によると,2015年には世界の太陽電池の新規導入量が,2010年の実績より4割以上多い 2,393万キロワットまで増える見
通しである2)。
特に,欧州諸国は電力の固定価格買取制度(Feed-in Tariffs:FIT)などを梃子に需 要を喚起したが,その一方で行き過ぎた“太陽光バブル”と揶揄される向きも強まっ た。FITは,家庭などの太陽光発電の電力を固定された高い価格で,一定期間買い取 ることを電力事業者に義務付ける制度であり,そのためには政府が公的助成を行わな ければならない3)。 ところが,ここへきて欧州諸国が財政悪化を背景に相次いで補助金を縮小したり, 廃止したりしており,太陽光発電事業は大きな曲がり角を迎えている。たとえば,ド イツは補助金の負担を軽減するために買い取り価格を順次引き下げることを決め,ス
Prospects and Challenges of American Photovoltaic Industry
ペインは 2012年の新規設備から買い取り自体の停止を決めた。また,チェコはFIT 自体の廃止を決め,フランスは入札制度に切り替え,イタリアも導入制限を実施する など,FITを実施していた欧州各国が舵取りの変更を余儀なくされてきた4)。 その結果,ヨーロッパの太陽光発電事業は苦境に立たされ,2012年4月2日には, ドイツ大手の太陽電池メーカーで,2008年に世界シェアで首位にたったQセルズ (Q-Cells AG)が経営破綻に追い込まれた。Qセルズは,「太陽光発電大国」のドイツ を象徴する企業であり,2005年に株式を上場した後,2007年には日本のシャープを抜 いて世界最大の太陽電池メーカーになった。しかし,その後,主にコスト競争力に勝 る中国メーカーの追い上げに苦しみ,2009年にはトップの座を明け渡した。Qセルズ は財務内容も急激に悪化し,株式時価総額は 2007年の約80億ユーロをピークに過去 1年間で約93%も減少していた5)。 第1図 世界の太陽電池年間生産量(2001 - 2010) このような欧州諸国の太陽光発電事業の苦境は,“太陽光バブル”の崩壊ともいうべ きものであるが,サンテック・パワー(尚德太陽能電力有限公司:Suntech Power) やトリナ・ソーラー(Torina Solar)など,中国企業の急成長と世界展開などが強く影 響している6)。 2005年には,日本が太陽光モジュールの世界シェアでトップに立ち,日米独のシェ [年] [資料] GTM Research, PV NEWS(2009.4,2010.5,2011.5). 20 15 10 5 0 2002 2004 2006 2008 2010 [GWp/年] 合計 中国・台湾 欧州 日本 北米 その他 年 間 生 産 量
アが 75%を超えていたのに,2010年になると,中国企業が第1表のように台頭し,世 界シェアの 58.5%(欧州16.4%,日本10.5%)を占めるようになってきた。特に,サ ンテック・パワーは,中国企業として初めてニューヨーク市場に上場し,世界一の太 陽光パネル・メーカーとなったのであった。ところが,そのサンテック・パワーでさ えも,巨額の赤字と負債を抱えるようになり,2013年3月20日にはついに経営破綻す る事態となった7)。 第1表 世界の太陽光発電セル製造順位(2010 年現在)
Ⅰ.アメリカ太陽光発電事業の現状
ヨーロッパ諸国で太陽光発電事業が苦境に立たされてきたため,その影響は現在の アメリカをも直撃するようになり,太陽光エネルギーの製品メーカーや関連事業が急 失速している。一時は「未来の産業」(オバマ大統領)と脚光を浴びた太陽光発電事業 であったが,供給過剰と激しい価格競争によって業績が悪化し,関連メーカーの工場 閉鎖・従業員削減,さらには経営破綻が相次いでいる。 オバマ大統領は,2009年1月の就任以来,再生可能エネルギーへの支援拡充や温室 効果ガスの排出規制など,幅広い環境・エネルギー対策に力を入れてきたが,景気回 復の遅れや財政赤字の拡大に直面しているため,厳しい批判にも晒されてきた。 2012年の大統領選挙でも,共和党候補のウィラード・M・ ロムニー(Willard M. Romney)は,再生可能エネルギーの技術力が国際競争力に欠け,雇用喪失につながる 危険性があるとしてオバマ政権を激しく攻撃した。オバマ大統領は,2012年1月の一 順位 企業名 国 割合(%) 備考 1 Suntech 中国 6.60 2013年破綻 2 Ja Solar 中国 6.10 3 First Solar アメリカ 5.90 4 英利(Yingli) 中国 4.70 5 Trina Solar 中国 4.70 6 Qセルズ ドイツ 3.90 2012年破綻 7 Gintech 台湾 3.30 8 シャープ 日本 3.10 9 Motech 台湾 3.00 10 京セラ 日本 2.70 計 44.00 [資料]〈http://n-seikei.jp/2012/10/post-11708.html〉般教書演説(State of the Union Address)で再生可能エネルギーの拡大を訴えたが, 政府が企業向けに融資した補助金が焦げ付いているケースもあり,2013年1月から2 期目に入ったオバマ政権は対応策に苦慮している状態である8)。 中国の太陽光発電関連企業は,グローバル市場に輸出攻勢をかけてきたが,供給過 多や補助金削減などで欧州市場の減速が顕在化すると,アメリカ市場へと輸出の矛先 を向けるようになった。その結果,アメリカの太陽光発電事業は激しい価格競争に晒 され,第2表のように,営業収益の悪化に苦しみ経営破綻に追い込まれるケースも増 えてきた。 第 2 表 苦境が続くアメリカの太陽発電メーカー 太陽エネルギー利用形態 会社名・所在地/経営破綻・業務の実情 太 陽 電 池 製 造 *エバーグリーン・ソーラー(Evergreen Solar) マサチューセッツ州マルボロー 2011年8月,経営破綻。 〃 *スペクトラ・ワット(SpectraWatt) ニューヨーク州ホープウェル・ジャンクション 2011年8月,経営破綻。半導体大手のインテルが出資。 〃 *ソリンドラ(Solyndra) カリフォルニア州フリーモント 2011年9月,経営破綻。 〃 *アバウンド・ソーラー(Abound Solar) コロラド州ラヴランド 2012年7月,経営破綻。政府が4億ドルの融資保証。 〃
*エナジー・コンバージョン・デバイシズ(Energy Conversion Devices) ミシガン州ロチェスター・ヒルズ 2012年2月,経営破綻。 〃 *ファースト・ソーラーアリゾナ州テンピ (First Solar) 2012年4月,従業員2,000人の削減とドイツのパネル工場の閉鎖を発表。 〃 *コナルカ(Konarka) マサチューセッツ州ローウェル 2012年6月,経営破綻。 太陽熱発電所開発 *ブライトソース・エナジー(BrightSource Energy) カリフォルニア州オークランド 2012年4月に予定していた新規株式公開(IPO)を中止。 太陽光発電所開発
*ソーラー・トラスト・オブ・アメリカ(Solar Trust of America) カリフォルニア州オークランド
太陽光発電の調査を専門に行うNPDソーラーバズ(NPD Solarbuzz)は,2011年 6月に『地域別太陽電池市場』(Regional Downstream PV Market)を発表した。それ によると,2011年8月の太陽電池モジュール1ワット当たりの価格は,すでに前年同
月より 23%低い 2.84 ドルまで下がっており,太陽光発電関連各社の収益を圧迫させ
ていた9)。
また,アメリカの調査会社であるGTMリサーチ(GTM Research)社は,2011年 1月に『集積する太陽光発電2011』(Concentrating Solar Power 2011)を発表し,太陽 光関連製品の需給バランスが崩れているため,太陽光発電事業の回復は 2014年くら いまでかかるという展望を示した。太陽光発電事業は,21世紀の有力なビジネス戦略 として脚光を浴びる一方で,行き過ぎたバブル状態の警鐘も鳴らされてきており,現 在は大きな岐路に立たされていると言わざるを得ない10)。
Ⅱ.2011年の経営破綻
(1)エバーグリーン・ソーラー
(Evergreen Solar) エバーグリーン・ソーラー社は,マサチューセッツ州マルボローに本拠を置く太陽 電池メーカーである。同社は,2011年8月15日に連邦倒産法第11章(Title 11 of the U.S. Code - Bankruptcy:Chapter 11; Reorganization,日本の民事再生法),いわ ゆる「チャプター・ イレブン」の適用を申請した。同社は 1994年に設立され,ソー ラー・パネルの製造を主力に事業を展開し,2000年にはナスダック市場に上場を果た すなど,クリーン・エネルギーの需要増に伴い事業を拡大してきていた11)。 エバーグリーン・ソーラー社は,太陽電池の原料となるシリコンの量を少なくでき る,ストリング・リボン(String Ribbon)製法という独自の技術でウエハーを製作し てきた。従来のウエハー製法はキャスティング・アンド・ソーウィング(Casting & Sawing)と呼ばれ,1ワット当たり 6.0 グラムのシリコンを消費するのに対して,ス トリング・リボン製法では,1ワット当たり 3.3 グラムのシリコンで済ますことがで きるというメリットがあった。当初はシリコンの原料価格が高かったので,シリコン を無駄にしないストリング・リボン製法は大きなコスト・アドバンテージをもたらし た12)。 ところが,中国などで続々とソーラー・パネルのスタートアップが起業し,安値輸 出と価格競争が激化すると,原料ならびに最終製品の価格は下落の一途をたどった。 実際のところ,2008年から 2012年にかけて,ポリシリコン(高純度の多結晶シリコン) の価格は 80%近く下がってきた。その結果,新興国メーカーの台頭などで価格競争 が激化すると,エバーグリーン・ソーラー社は,利益率の低下から資金繰りが悪化し,負債総額4億8,500万ドルを抱えて経営破綻に追い込まれてしまった13)。
(2)スペクトラ・ワット
(Spectra Watt) ニューヨークに本拠を置くスペクトラ・ ワット社は,半導体大手インテル(Intel Corporation)のスピンオフ企業として,2008年に設立された太陽電池メーカーであ る。しかし同社は,2011年8月に連邦倒産法における「チャプター・イレブン」の適 用を申請し,裁判所に対して数千万ドル相当の資産を売却する許可を求めた。すでに スペクトラ・ワット社は,2010年5月に開設したばかりの工場を同年12月には閉鎖 しており,高い補助金や労働コストの低い国のメーカーと競合を繰り返し,激しい競 争圧力に耐えきれなくなったのであった。同社は,2010年5月の工場開設に伴ってフ ルタイムの従業員117人を雇用したが,2011年3月までに従業員も全員解雇されるこ とになった14)。 インテルは,太陽電池事業を立ち上げるための主要な資産をスピンオフし,独立し た企業として 2008年にスペクトラ・ワット社を設立した。この時,インテルの投資 事業部門であるインテル・キャピタル(Intel Capital)が,スペクトラ・ワットに対 して 5,000万ドルの投資をおこなった。しかも,この投資は,ゴールドマン・サックス・グループ(Goldman Sachs Group)の完全子会社であるコージェントリックス・ エナジー(Cogentrix Energy)をはじめ,PCG・ クリーン・ エナジー(PCG Clean Energy),テクノロジー・ファンド(Technology Fund),ソロン(Solon)などと共同 出資したものであった15)。 このように,半導体大手のインテルや大手金融グループが関わっていたにもかかわ らず,スペクトラ・ワット社が経営破綻に追い込まれたことは,太陽電池の厳しい市 場競争のなかで,モジュール価格の厳しい下落などに直面し,生き残るのが簡単では ないということを証明していると言えるであろう。
(3)ソリンドラ
(Solyndra) ソリンドラ社は,カリフォルニア州のフリーモントに本拠を置く太陽光パネル・ メーカーであるが,2011年8月31日付で事業を停止し,9月6日に連邦倒産法の 「チャプター・イレブン」の適用を申請すると発表した。 2005年に創業したソリンドラは,シリンダータイプ(筒型)の太陽光パネル・メー カーとして知られ,結晶シリコンを使わない化合物半導体系のGIGS型太陽電池16)を 中心に,効率性の高い独自パネルを開発してきた。同社は,オバマ政権の「グリーン・ ニューディール」政策に乗り,政府のバックアップ体制のもとに,新エネルギー産業 に挑戦するベンチャー・ビジネスとして注目されてきた。そのため,ベンチャー・キャピタルなどから多額の資金を調達したほか,政府からの融資保証を受けるなど,抜群 の資金力を活かして積極的な事業展開を見せていた。 オバマ大統領が 2010年5月にソリンドラ社を訪問し,太陽光発電事業が経済成長 のエンジンになると演説したことも記憶に新しい。しかし,太陽光電池・パネルが世 界的な普及期に入ると,中国などの新興国メーカーとの価格競争で厳しい経営を余儀 なくされるとともに,積極的な設備投資が裏目となり資金繰りが急激に悪化したので あった。経営破綻による負債額は7億8,380万ドルにのぼり,工場は閉鎖され 1,100 人の従業員は解雇された17)。 ソリンドラ社は,2009年に政府から5億3,500万ドルにものぼる融資保証を受けて おり,政府保証分のほとんどは焦げ付き,税金の投入が避けられない事態となった。 その結果,連邦議会でも融資保証と税金投入が注目の的となり,下院エネルギー・ 商業委員会(House Committee on Energy and Commerce)は,2011年9月に「ソ
リンドラ社融資に関する公聴会」を開き,オバマ政権が行政管理予算局(Office of
Management and Budget:OMB)に圧力をかけたのではないかと論議を呼んだ。そ
して,連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation:FBI)も,融資保証が公正なも のであったかどうかチェックするため,同年9月8日にエネルギー省の捜査官と共同 して工場を捜索したほどであった18)。 ソリンドラ製品は,日本でも広がりを見せ始めていた。神戸市のエコホールディン グスは,2011年7月23日,サン・エディソン(Sun Edison)社よりソリンドラ製品の日 本国内においての正規販売権を取得したと発表した。またエコホールディングスは, 大阪大学の先端科学イノベーションセンターと産学連携の共同プロジェクトとして, ソリンドラ製品の普及を推進するとともに,全国で特約店の募集を行なっていた19)。 こうして 2011年は,ソリンドラ,エバーグリーン・ソーラー,スペクトラ・ワット という有力な太陽光発電関連メーカー3社が,僅か1カ月のうちに次々と倒産する 事態となった。これは,太陽電池モジュールの供給過剰が顕在化した現れであり,太 陽光発電業界の合併・ 買収(Mergers and Acquisitions:M&A)が始まり,大規模 な業界再編の動きも見られるようになった。総合情報サービス会社のブルームバー グ(Bloomberg L.P.)によると,2011年のM&A総額は 33億ドルとなり,前年の 24億 7,000万ドルから 33%も増加している20)。
Ⅲ.2012年の経営破綻・業績不振
(1)エナジー・コンバージョン・デバイシズ
(Energy Conversion Devices:ECD)エナジー・コンバージョン・デバイシズ(ECD)社は,ミシガン州ロチェスター・
ヒルズに拠点を置く太陽電池メーカーであり,材料科学および再生可能エネルギー技 術をリードする存在であった。ところが同社は,その完全子会社のユナイテッド・ソー ラー・オボニック(United Solar Ovonic:USO)とともに,2012年2月14日,ミシガ ン州東部地区の破産裁判所に対して,連邦倒産法の「チャプター・イレブン」に基づ
く救済を申請した。そして,ECDとUSOは破産処理に入り,太陽光事業に関連する
実質上すべての資産を競売によって売却することになった21)。
ECDとUSOの競売は 2012年7月に行われ,ヒルコ・ インダストリアル(Hilco Industrial),ヘリテージ・グローバル・パートナーズ(Heritage Global Partners), メイナーズ(Maynards),ヴァン・アッカー・アソシエーツ(Van Acker Associates) が協力して実施した。売却資産には,機械や装置はもちろんのこと,知的財産などの ソフトも含まれ,USO独自技術のユニソーラー(Uni-Solar)ブランドによる薄膜太 陽電池の製造に関連する資産も,一括して売却されることになった。 ユニソーラー・ブランドの優れた完成品としては,薄膜太陽電池ラミネート,太陽 電池ラミネート,さらに太陽電池セルなどがあげられる。なかでも太陽電池ラミネー トは,ユニソーラーの業界最先端に位置しており,軽量なうえに柔軟性や耐久性に優 れた設計により,総力的なエネルギー生産が可能になると期待され,一時は世界中で 需要の高まりが予想された22)。 しかし,2010年3月には,JPモルガン(J.P. Morgan)がECDの投資判断を引き下 げていた。JPモルガンは,太陽電池メーカー市場が間もなく供給過剰になるとわかっ ているにもかかわらず,ECDは生産能力を一方的に拡張させてきたと,否定的に評価 するようになっていた23)。
(2)ファースト・ソーラー
(First Solar) ファースト・ソーラー社は,低コストの薄膜太陽電池を製造・販売する最先端企業 であり,アリゾナ州テンピに本社を置いている。そのソーラー・パネルは,一般的な 結晶シリコンではなくテルル化カドミウム(CdTe)を使い,より低コストで,変化の 激しい温度・太陽光の条件下でも発電能力の高いモジュールを開発してきた24)。 ファースト・ソーラーは,世界で初めて発電能力1ワット当たりの製造コストを 1 ドル未満にした企業であり,太陽光発電コストを従来の発電方法のレベルにまで下げ ることに成功した。その結果,同社が初めてグリッド・パリティ(grid parity),つまり補助金がなくても火力や原子力と同程度のコストで発電できる状態を実現した。し たがって,ファースト・ソーラーの技術が太陽光発電産業の転換点になったと言われ るほどである25)。 ファースト・ ソーラーは 2002年に製品の生産を開始し,第3表に示したように, 2005年には年間生産量が発電量に換算して 25 メガワットに到達した。そして,2009 年末には年間生産量が1ギガワットを超え,世界一の太陽電池モジュール製造企業と なった。さらに 2010年7月,同社はユーティリティ・ビジネス部門を創設し,大規模 太陽光発電ソリューション市場に進出した。様々な顧客へのソーラー・パネル製造販 売,エンジニアリング,調達,建設,操作,保守といったサービスを続けながら,新部 門では太陽光発電所で発電した電力を顧客に売るユーティリティ事業を展開するよう になった26)。 第 3 表 ファースト・ソーラー社の発電能力 ところが,ファースト・ソーラーは,2010年第4四半期(10 ~ 12月)以降になると, 次第に売上高が減少し始めた。2011年第2四半期の販売量は,前年同期比40%増の約 483 メガワットと過去最高に達したものの,売上高は 2010年第3四半期のピークに 比べて 33%も減少し,営業利益率も 27%から 12%へと急激に悪化した27)。 その結果,同社は 2012年4月17日,全従業員の約30%にあたる約2,000人の人員削 減に踏み切ると発表し,同年5月1日には,コスト削減のためにドイツの設備閉鎖や マレーシアの工場ライン停止も決めた。欧州債務危機のあおりを受けて,クリーン・ エネルギーや再生可能エネルギーの導入に積極的であったヨーロッパ市場で需要が大 きく低迷するとともに,中国メーカーなどとの価格競争も激しく,財務状況の悪化に よって経営戦略の転換を余儀なくさせられたためであった28)。 (年度) 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 生産ライン毎の能力 25 33 44 48 53.4 59.6 59.6 59.6 USA(オハイオ州) 25 99 132 143 160 238 238 238 ドイツ - - 176 191 214 238 477 477 マレーシア - - - 382 854 954 1,430 1,430 フランス - - - - - - - 119 ベトナム - - - - - - - 238 総生産能力 25 100 308 716 1,228 1,430 2,146 2,742 (単位:MW)
(3)コナルカ
(Konarka)コナルカ社は,2001年にマサチューセッツ大学ローウェル校の科学者らが設立した 太陽電池メーカーである。同社は,伝統的な分厚い太陽光パネルと対抗して有機薄膜 太陽電池の研究・開発に取り組み,投資家から多額の資金援助を受けるとともに,国 立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology:NIST)などの 政府助成金を活用して成長してきた。
同社のコナルカ・パワープラスティック(Konarka Power Plastic)は,軽量でしか も柔軟で透過性のある有機薄膜太陽電池であり,同分野の先端イメージを印象付ける ものがあった。ローウェルに本社を置くコナルカは,太陽光を吸収する有機薄膜をブ リーフ・ケースに付けてノートパソコンや携帯電話機を充電する方法を開発し,エネ ルギーは吸収しても,光は通すことができるオフィスビルの窓用薄膜などを販売して きた29)。 そしてコナルカは,高分子材料の高い技術力を活かし,有機薄膜型において世界最 高レベルを達成するとともに,マサチューセッツ州ニューベッドフォードに量産体制 の工場を保有するなど,世界に先駆けてこの有機薄膜太陽電池の事業化をリードして きた。しかしコナルカは,競争の激化と需要の落ち込みから資金繰りに行き詰まり, 2012年6月4日にマサチューセッツ州ウスターの破産裁判所に対して,連邦倒産法第 7章(清算)の手続きを申請した。累積債務は 1,000万ドルを超えると見られ,残って いた従業員約80人も解雇されることになった30)。 コナルカは,2010年3月2日に日本のコニカ・ミノルタと有機薄膜太陽電池の開発・ 生産・販売に関する包括的な資本・業務提携を結び,本格的な協力態勢に入ることを 決め,コニカ・ミノルタ側も 2,000万ドルを出資することになった。ところが,中国 メーカーの安値攻勢に押されてコナルカの業績が悪化し,ついに連邦倒産法の清算手 続きに入ったため,コニカ・ミノルタ側も 2013年1月5日には太陽電池事業への参 入を断念せざるをえなかった31)。
(4)ブライトソース・エナジー
(BrightSource Energy) ブライトソース・エナジー社は,2004年に設立された,カリフォルニア州オークラ ンドを本拠とする太陽熱発電施設の建設会社である。同社は,電力会社や事業会社向 けに信頼性の高いクリーン・エネルギーを提供する太陽熱発電システムの設計・開発・ 販売を行ってきた32)。 ブライトソース・エナジーは,ベンチャー投資大手から多額の資金を集め,グーグ ル(Google),シーメンス(Siemens),NRGエナジー(NRG Energy Inc.)といった 大手企業とも提携し,集光型太陽熱技術の設計・開発・導入のリーダー企業となった。特に,グーグルからは 2011年4月に1億6,800万ドルの出資を受け,ブライトソース の技術は世界で最も高温・高圧の太陽熱蒸気を生成できるという高い評価が得られる
ようになった。そして,2011年10月5日には,世界最大の石油増進回収(Enhanced
Oil Recovery:EOR)プロジェクトに独自の太陽熱技術を提供し,石油増進回収の取
り組みをクリーンでコスト効率の高い方法で支援した。たとえば,シェブロン・テク ノロジー・ベンチャーズ(Chevron Technology Ventures)向けに技術提供され,ブ ライトソースの技術を取り入れた太陽光施設がカリフォルニア州コーリンガで操業を 開始した33)。 また,2012年2月6日には,南アフリカ共和国のエネルギー・化学企業のサソール (Sasol)が,ブライトソースのパワータワー太陽光技術を自国の太陽光発電所に取り 入れると発表した。そして,サソールとブライトソースの合意に基づき,ブライトソー スとパートナーの発電機器世界的大手のアルストム(Alstom)は,南アフリカ市場を
対象に包括的な基本設計(Front End Engineering Design:FEED)調査を行うこと になった34)。 ブライトソース・エナジーを一躍有名にしたのは,カリフォルニア州南部のモハベ 砂漠を中心とする「イバンパ・プロジェクト」(Ivanpah Project)である。これは,サ ボテンのような低木しかない土地に,巨大な鏡を敷き詰めて太陽光を中央の 1 カ所 に集め,その熱で蒸気タービンを回して発電する,世界最大の太陽熱発電所建設プロ ジェクトである35)。 エネルギー省(DOE)は,2010年2月24日,この「イバンパ・プロジェクト」に 13億 7,000万ドルの融資保証を与えると発表した。カリフォルニア州知事のアーノルド・ A・シュワルツネッガー(Arnold A. Schwarzenegger)も,エネルギー省の公的支援 を高く評価し,「イバンパ・プロジェクト」がグリーン・ジョブを増加させるとともに, エネルギーと気候変動の長期目標を達成する方向に向かい,よりクリーンで“持続可 能な”未来に向かって前進することになると述べた36)。 ところが,ブライトソース・エナジーは,2012年4月12日に予定していた新規株式
公開(Initial Public Offering:IPO)を,土壇場になって中止せざるを得ない事態に
追い込まれた。天然ガス,太陽光電池・パネル,風力発電などの競合するエネルギー 源による電力価格が低下したため,政府支援も次第に途絶えるようになり,クリーン・ エネルギー業界への投資全体が落ち込み始めたからであった。ブライトソースのジョン・ ウィーラード(John Willard)最高経営責任者(CEO)は,株式上場中止の理由として,
市場や経済の動きが不安定でIPOに最適な環境ではないと説明した。このような株
(5)アバウンド・ソーラー
(Abound Solar)アバウンド・ソーラー社は,2007年にAVAソーラー(AVA Solar)としてスタート し,2009年3月に社名をアバウンド・ソーラーに切り替えた太陽電池メーカーである。 本社はコロラド州ラヴランドにあり,「グリーン・ニューディール」政策の一環とし て,同社は,エネルギー省(DOE)から受けた4億ドルの融資保証枠のうち 7,000万ド ルを利用していた。しかし,中国メーカーの安値攻勢や需要全体の落ち込みに対応で きず,アバウンド・ソーラーは,2012年7月2日に連邦倒産法の「チャプター・イレ ブン」に基づく救済を申請し,125人の従業員は全員解雇された。DOEは使われた資 金が回収できるとしたが,大統領選挙とも絡んで政治論議を呼ぶこととなった38)。 アバウンド・ソーラーは,テルル化カドミウム(CdTe)でコーティングした薄膜太 陽光パネルを製造し,この技術は,薄膜ソーラー・メーカー大手のゼネラル・エレク トリック(General Electric Co.:GE)やファースト・ソーラーでも採用された。こ の技術を利用すれば,サンテック・パワーやLDKソーラー(LDK Solar Co.)などの 中国大手が採用している,シリコンを主原料とする従来のパネルより製造コストを削 減することができた。 ところが,アバウンド・ソーラーは 2011年の夏頃になると,激しい価格競争とコス ト削減によって,太陽電池モジュールの価格が1ワット当たり1ドルを割り込むとの 見通しを示した。エバーグリーン・ソーラー,スペクトラ・ワット,ソリンドラなど が立て続けに経営破綻に追い込まれたのも,ちょうどその頃であった。アバウンドは, 太陽電池モジュールの価格を何とか1ワット当たり2ドル以上を維持したかったが, 中国メーカーなどの安値攻勢によって,急激に営業収益が落ち込み始めたのであっ た。しかも,多くの太陽電池メーカーが,世界的な需要鈍化も重なり苦境に立たされ るようになった39)。
(6)ソーラー・トラスト・オブ・アメリカ
(Solar Trust of America) ソーラー・トラスト・オブ・アメリカは,2009年に設立された,カリフォルニア州 オークランドに本拠を置く太陽光発電の大手企業である。同社が開発権を所有する 「ブライス・ソーラー・プロジェクト」(Bryce Solar Project)は,1,000 メガワット規模の世界最大スケールの太陽光発電プロジェクトとして広く知られている。
エネルギー省(DOE)は,2011年4月に「ブライス・ソーラー・プロジェクト」に対
して 21億ドルの融資保証を提供し,まず2つのユニットで生まれた 484 メガワット の発電を,ブライス近郊の8マイルにわたる送電網に送る計画が立てられた。この2
つのユニットは 1,000 メガワット規模のメガソーラー・プロジェクトの一部となるも
陽光プロジェクトに対する融資保証として最大のものであると強調した。2011年6月 には「ブライス・ソーラー・プロジェクト」の起工式が行われ,内務長官のケン・サラ
ザール(Ken Salazar)やカリフォルニア州知事のジェリー・ブラウン(Jerry Brown)
も出席した40)。 ところが,ソーラー・トラスト社は,2012年に入って急激な資金不足に陥り,2012 年4月2日,デラウェア州ウィルミントンの破産裁判所に「チャプター・イレブン」 の救済適用を申請した。これは,同社株式の約70%を所有するドイツのソーラー・ミ レニアム(Solar Millennium)社が 2011年12月に支払不能訴訟手続きを開始し,流動 資産不足から事実上の会社更生手続きに入ったためであった。 ソーラー・トラスト社の経営破綻は直接的には親会社のソーラー・ミレニアムの 倒産が引き金となっているが,ソーラー・トラストがトラフ式太陽熱発電から太陽光 発電へ変更したり,ソーラー・ミレニアムがブライス・プロジェクトをドイツのソー ラー・ハイブリッド(Solar Hybrid)社へ売却するという仮取引が発表されたりする など,「ブライス・ソーラー・プロジェクト」には起工式直後からほころびが出ていた。 しかし,そのような事態の背景には,供給過剰による太陽電池価格の暴落と,中国企 業との競争による収益力の大幅な低下があることは確かである41)。
Ⅳ.太陽光発電事業の破綻要因
2009年1月に新政権が発足した時,オバマ大統領は「グリーン・ニューディール」を 提唱し,10年間でクリーン・エネルギーに 1,500億ドルを投資し,500万人の雇用を創 出する計画を打ち出した。そして,自然・再生可能エネルギーの推進やエネルギー効 率の向上によって,温室効果ガスの排出を 2050年までに 1990年に比べて 80%削減す ることを呼びかけていた。また民間からも,有名な環境運動家のレスター・R・ブラウン(Lester R. Brown)は,21世紀に入って『プランB』(Plan B)を次々と刊行し,エコ・ エコノミーと人類文明に向けた警鐘のメッセージを発し,政府に強いインパクトを与 えた42)。 アメリカは,2001年3月に「京都議定書」から離脱したために,環境・エネルギー 対策に前向きでないという印象が強いものの,2012年の段階で,風力発電の設置量は 中国についで世界第2位,太陽光発電の導入量もスペインについで世界第2位にまで なってきた。それは,クリーン・エネルギー産業が,景気浮揚と雇用創出の梃子と位 置付けられてきたためである43)。 ところが,2011年頃から太陽光発電事業の経営破綻や業績不振が目立ち始め,現在 のアメリカでは,二酸化炭素(CO2)の排出削減やクリーン・エネルギーへの関心が低 くなっていると言わざるを得ない。しかも,アメリカが膨大な財政赤字に苦悩してい
るため,連邦議会では再生可能エネルギーに対する政府支援を見直す政治的動きも強 まり,2012年9月には,ソリンドラ社の経営破綻を教訓にした「ノーモア・ソリンド
ラ法案」(No More Solyndras Act)も上程された44)。こうした事態の背景には,どの
ような要因が働いているのだろうか。
(1)景気低迷と財政悪化
オバマは,就任直前の 2009年1月に自然・再生可能エネルギーを軸とする「グリー ン・エコノミー」刺激策を発表し,就任直後の同年2月には「アメリカ再生・再投資 法」(American Recovery and Reinvestment Act:ARRA)を成立させ,今後2年間 で 350万人の雇用を創出する,総額7,872億ドルの景気対策を打ち出した。ARRAは, 多岐にわたる景気刺激策であることから“スティミュラス・パッケージ”(Stimulus Package)と呼ばれるが,そのうち約580億ドルが環境・エネルギー分野に割り当てら れ,エネルギー省などが補助金として配分することになった45)。 ところが,2008年9月の“リーマン・ショック”が引き金となった金融危機後の景 気刺激策などによって,2009年会計年度(2008年10月~ 2009年9月)の財政赤字が 1兆ドルを超える事態となり,その後も財政赤字は1兆ドル超で高止まりしてしまっ た。そして,2012年の大統領選挙を目前に控えて財務省が発表した,2012年会計年度 (2011年10月~ 2012年9月)の財政赤字も約1兆8,993億ドル(約85兆円)となり,4 年連続で1兆ドルを超える結果となった。この赤字額は国内総生産(GDP)の 7.0% にあたり,前年度のGDP比8.7%より 16%減少したものの,依然として深刻な事態で あることに変わりはなかった46)。
2011年8月5日,格付け会社のスタンダード&プアーズ(Standard & Poor’s)は,
米国債の信用格付けを最上級のAAAから1ランク下のAA+に格下げすると,同年 8月8日には世界の株式・通貨・債権市場で米国債ショックが広がり,世界的な株安 が進むとともに金融不安が世界を駆け巡った。こうした状況を見ても,世界経済がよ り深刻な“二番底”(ダブル・ディップ)に陥る危険性も多分にあり,財政と金融の先 行き不安がアメリカの環境・エネルギー産業にも暗い影を落とすことになった47)。 ところが,このような財政状況のなかでも,2012年11月にオバマ政権の再選が決 まった頃から株高が進んだ。そして,2013年2月になると,株価は 2007年10月以来 の史上最高値に近づいた。2月1日のニューヨーク株式市場は,大企業で構成される ダウ工業株平均が,前日よりも 149.21 ドル高い1万4,009.79 ドルで取引を終えた。 この終値は,ほぼ5年4カ月ぶりに1万4,000 ドルの大台に乗せた結果であった48)。 しかし,このような株高と企業業績の改善にもかかわらず,必ずしも雇用増には結 びついてはいない。2013年1月の失業率は 7.9%であり,2007年当時に比べて3ポイ ント以上も高い。企業側は業績が好転しても,大幅な雇用増には踏み切れないままで
あり,企業にとって財政赤字の行方が最大の不安材料となってきた。しかも,政府債 務が過去最大に膨らんで法定の上限に達する危険性があり,デフォルト(債務不履行) の不安が常に付きまとってきた。 オバマ政権は,財政の強制削減になることを見越して政府部門の支出を大幅にカッ トしたため,2012年10 ~ 12月期のGDPは約3年半ぶりにマイナス成長となった。 このような事態は,クリーン・エネルギーに対する財政支援を減少させ,再生可能エ ネルギー・ビジネスや太陽光発電事業にも大きなダメージとなってきた。 減税措置の期限切れと政府支出の強制削減が同時に起こる「財政の崖」(Fiscal Cliff)は,2012年12月末に歳出の強制削減を翌年2月28日まで2ヶ月間凍結する法 案が 2012年12月末に可決され,大幅な実質増税と強制歳出削減によるダブルパンチ のダメージは何とか回避された。ところが,民主・共和両党は,強制歳出削減凍結の 期限日となる 2013年2月28日になっても,具体的な歳出削減案の合意に至ることが できなかったため,同年3月1日にオバマ大統領は強制歳出削減措置に署名せざるを 得なかった49)。 オバマ政権が太陽光発電や風力発電の導入を進めてきたことは確かであるが,全体 としてグリッド・パリティ(grid parity)をまだ実現していない50)。したがって,クリー ン・エネルギーや再生可能エネルギー推進のためには,連邦政府が継続的に補助金や 減税などの公的支援を行わなければならない。ところが,2008年9月の“リーマン・ ショック”以降,景気回復のために多額の財政支出を行い,財政赤字を悪化させてし まった政府にとって,長期的に多額の公的支援や減税などを継続するような余裕はな いと言わざるを得ない51)。
(2)モジュール化とコモディティー化
太陽電池・太陽光パネル事業は,成長するにつれてグローバル市場が急速にコモ ディティー化(成熟)し,販売価格が急激に下落するようになり,効率の良い製品を開 発しても大きな利益につながらなくなった。そのため,イギリスの石油メジャーBP (British Petroleum)なども,40年間にわたって手がけてきた太陽光発電部門を閉鎖 することを決め,2012年1月に採算が合わない太陽光発電事業から完全に撤退するこ とを発表した52)。 もともと太陽電池はシリコンを主原料とするので,半導体の製造ラインを転用す れば比較的容易に製造することができるのであり,しかも半導体や液晶パネルより も高純度のシリコン精製は不要であるため,メーカーごとの品質に大きな差がつきに くい53)。このようなコモディティー化はモジュール化が前提条件となっている。モ ジュール化とは,構成要素(部品)の規格化・標準化を進め,その相互依存性を小さく することを意味しており,モジュールは一定の規格や標準に沿って作られた部品やサブシステムを指している。モジュール化が進めば,組み合わせや交換の自由度(互換 性)が高くなり,部品調達先のモジュール化にもつながっていく。 そして,部品調達先のモジュール化は,市場に参加する企業に競争とイノベーショ ンを促進させる。製品がモジュール化されていないと,製品全体の内部構造を知らな ければ部品を作ることができないが,モジュール化されている場合は,その部品が関 係するインターフェイス(接続)さえ分かればモジュール作りは可能となる。これは 市場参入への障壁を低くするばかりか,そのモジュールだけで機能や性能を高めるこ とができるため,技術的な競争が過熱しやすくなる54)。 こうして,太陽電池・太陽光パネルも,パーソナル・コンピュータ市場のようにコ モディティー化するようになる。しかし,現在のところ,太陽電池の発電効率は 55% を超える火力などに比べて半分以下であり55),技術力の優劣よりも過度な市場競争が 先行して製品価格を押し下げ,結果的に企業収益を圧迫する傾向が強まった。一般的 に,太陽電池はコモディティー化したローテク技術になりやすく,さしたる技術力や ノウハウがなくても,太陽電池製造メーカーから開発装置を買う資金力さえあれば, 簡単に太陽電池製造事業へ新規参入することができる。中国のサンテック・パワーや トリナ・ソーラーの急成長は,そのことを象徴的に示している56)。 第2図 多結晶シリコン・スポット価格の変動 (米ドル) 400 350 300 250 200 150 100 50 0 2008 年 第3四半期 2008 年 第4四半期 2009 年 第1四半期 2009 年 第2四半期 2009 年 第3四半期 2009 年 第4四半期 2010 年 第1四半期 2010 年 第2四半期 [資料] 日経BP クリーンテック研究所 〈http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK1501K_V10C10A7000000/〉 (単位:ドル/ kg)
このように,コモディティー化が太陽電池の分野で進むと,市場の価格競争が激化 してコスト競争力に勝る中国企業などが世界市場を席巻し,欧米の太陽光電池メー カーの業績悪化が避けられなくなった57)。その結果,アメリカの太陽電池メーカーは, 2009年には早くも発電モジュールの価格が約半値に,多結晶シリコン価格も,第2図 のように,スポット市場で1キロあたり 400 ドルから 45 ドルに下落する事態となっ た58)。その結果,太陽光発電ビジネスへの期待感が次第に薄れ始め,2010年頃から過 度な競争と収益悪化による淘汰圧力も強まり,太陽光発電事業の経営破綻や業績不振 が顕在化したのである。
(3)
「シェールガス革命」の影響
そして,近年急に脚光を浴びてきた「シェールガス革命」が,再生可能エネルギーの 将来に影響し,太陽光発電事業にも暗い影を落としていることを忘れてはならない。 天然ガスの一種であるシェールガスは,従来から生産されている在来型天然ガスと異 なり,シェール(頁岩)と呼ばれる,比較的深い岩盤に閉じ込められている非在来型の 天然ガスである。 第3図 アメリカのシェールガス産地 [資料] アメリカ・エネルギー省エネルギー情報局(DOE/EIA)のホームページ 〈http://www.eia.gov/energy_in_brief/article/about_shale_gas.cfm〉 〈http://www.eia.gov/oil_gas/rpd/shale_gas.pdf〉第3図のように,アメリカではシェール層が国土のほぼ全域に広がり,埋蔵され ている石油(シェールオイル)や天然ガスは,およそ 100年分を超えると言われるほ どである59)。そのため,国際エネルギー機関(International Energy Agency:IEA)
は,2012年版の『世界エネルギー展望』(World Energy Outlook)のなかで,アメリカが 2017年までにロシアやサウジアラビアを抜き,シェールガスやシェールオイルの生産 量で世界一なるとの予想を発表した60)。 その結果IEAは,アメリカが世界最大の産油国になり,2030年頃までには純石油輸 出国になるとの見方を示した。こうしてIEAは,アメリカはエネルギー資源の自給へ と向かい,10年後には中東への石油依存をゼロにすることができると展望した。その ため,長期的に見ると経常赤字が縮小し,為替市場でドル高の流れが進むのではない かという予想も生まれているほどである61)。 アメリカのシェールガスは,1970年代末,主として東部のアパラチア山脈などに分 布する古生代デボン紀の頁岩,デボニアン・シェールから採掘が始まったとされる。 シェールガスは,かなり以前からその埋蔵は知られていたが,採掘コストが高いため に実用化は困難であった62)。ところが,近年になって水平坑井・水圧破砕(フラッキ ング)などの技術革新が進み,低コストで生産することが可能になったのである。そ のため,シェールガスやシェールオイルの生産が急ピッチで進められており,今後は 世界の原油,天然ガス,石炭などの資源地図やエネルギー市場を劇的に変えることが 予想される。オバマ大統領は,2012年4月13日に大統領令を発令し,非在来型国産天 然ガス開発が雇用創出と石油依存度低下につながるとして,省庁をまたぐ作業部会を 設置して開発を後押しする方針を表明した63)。 第4図 アメリカにおける天然ガス生産量の推移 [備考]生産量としては,Marketed Production(市場に出荷可能な生産量)を使用。
[資料] EIA(2012)U.S. Natural Gas Marketed Production〈http://www.eia.gov/dnav/ng/hist/ n9050us2a.htm〉 0 5 10 15 20 25 30 (兆立方フィート) 1900 1920 1940 1960 1980 2000 2013 (年)
第5図 アメリカにおける非在来型天然ガス生産量の推移 アメリカの天然ガスは,2010年にエネルギー供給の 29%を占めるようになり,この うち非在来型天然ガスが 58%となり,なかでもシェールガスの割合は 23%にも達し た。もともと天然ガスの生産量は,第4図のように 1973年をピークに減少傾向にあっ たが,第5図のように,シェールガスなど非在来型天然ガスの生産拡大によって 2006 年から増加に転じ,2009年にはアメリカが天然ガスの生産で世界のトップに立った。 エネルギー情報局(Energy Information Administration:EIA)は,天然ガスに占め るシェールガスの割合が今後も増加し,早くも 2035年には 49%に達すると予測して いる64)。 アメリカでは,シェールガスも他の非在来型天然ガスと同様,1980年代から税制優 遇(1ドル/mcf)を受けることになり,急速に生産量が増加した。そして,1992年に 税制優遇策が撤廃された後も,引き続いてシェールガスの生産は拡大し,1985年の 0.13tcf(兆立方フィート)から 1995年の 0.28tcf,2005年の 0.83tcfへと増加の一途を 辿ってきた。主な生産地域も,ペンシルヴェニア州などの東部地域から,中部イリノ イ・オハイオ,南部テキサス,西部ニューメキシコ地域へと広がってきた65)。 これらのなかで,中西部地域と大西洋岸中部地域は,かつて栄光を極めた製造業が 衰退した「ラスト・ベルト」(赤さび地帯)地域と重なっており,シェールガスの採掘 が 19世紀の“ゴールド・ラッシュ”のように移住者をひきつけ,人口が急増して脚光 を浴びているところもある66)。ところが,シェールガスの採掘が環境悪化や群発地震 [備考] シェールガス:頁岩層に含まれる天然ガス,CBM(コールヘッドメタン):石炭層に含 まれる天然ガス,タイトサンドガス:砂岩層に含まれる天然ガス
[資料] Energy Information Administration, Annual Energy Outlook 2012 Early Release
Overview〈http://www.eia.gov/todayinenergy/detail.cfm?id=4671〉 (10 億 m3) 300 60 250 50 200 40 150 30 100 20 50 10 0 0 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 (年) (%) シェールガス CBM タイトサンドガス 天然ガス生産量における非在来型天然ガスの割合
を起こしている地域もあり,オバマ大統領は,2012年1月の一般教書演説で,人体や 環境への悪影響を配慮した安全な手法(グリーン・コンプリーション)でシェールガ スやシェールオイルを採掘すると表明した67)。 しかし,このような「シェールガス革命」が石油・石炭などのエネルギー市場に大 きなインパクトを与えており,アメリカの太陽光発電事業にも影響を与えないではお かない。現在のところ,シェールガス価格は 100万BTU当たり3ドル前後と安値で安 定しており,第6図のような天然ガスの価格低下は,費用対効果の面からして,クリー ン・エネルギーや再生可能エネルギーの導入にブレーキをかける可能性がある68)。 第6図 アメリカの天然ガス価格 エネルギー情報局(EIA)は,2012年1月に発表した『エネルギー見通し速報』
(Annual Energy Outlook 2012 Early Release Overview)で,2012年から 2022年まで のシェールガスの年間生産量を前年の予測から5~ 11%程度上方修正したが,再生 可能エネルギー(水力除く)については,反対に7~ 10%程度下方修正している69)。 2009年1月にオバマ政権が発足した当初は,「グリーン・ニューディール」の提唱と ともに再生可能エネルギーへの期待感が高まったが,ここにきて「シェールガス革命」 のインパクトが強まり,シェールガスやシェールオイルの方が主役になりつつある観 がある。 それでも,今のところアメリカ政府のクリーン・エネルギーや再生可能エネルギー への期待感には変わりがなく,オバマ大統領は,2012年1月24日の一般教書演説で, 再生可能エネルギーへの公共投資についても,シェールガス同様の効果を期待し,引 き続き今後も政府支援を継続する方針を示した70)。しかし,アメリカは雇用拡大の遅
[資料] IMF, Primary Commodity Prices〈http://www.imf.org/external/up/res/commod/ index.aspx〉 0 50 100 150 200 250 300 350 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 ( 年) 価格 US ドル /1000m3
れや深刻な財政不安に直面し,ヨーロッパ諸国の財政危機なども重なっているため, 果たしてエネルギー市場が再生可能エネルギーへの投資を促進させるモメントを維持 できるかどうか,太陽光発電事業の破綻や整理が相次いでいる今,その先行に対する 不安はいっそう大きくなっていると言えるであろう。
Ⅴ.太陽光発電と貿易摩擦
(1)米中関係
現在のところ,すでに太陽光バブルが崩壊したといわれる欧州連合(EU)は財政危 機に苦しみ,太陽光発電事業の破綻が相次いでいるアメリカでも,「シェールガス革 命」も重なり,再生可能エネルギーの導入に暗雲が垂れ込めている。これは,中国製 の安い製品とパネルの供給過剰が太陽光のベンチャー企業を直撃しているからであ り,太陽光発電事業を巡って欧州,アメリカ,中国の間に貿易摩擦も強まってきた71)。ソーラー・ワールド・アメリカ(Solar World Industries America)は,ドイツの太
陽電池メーカーのソーラー・ワールド(Solar World)の子会社であるが,他の太陽電
池メーカー7社とともに,2011年10月19日に中国の太陽電池メーカーによる不当廉 売を,アメリカの商務省(Department of Commerce)と国際貿易委員会(International Trade Commission:ITC)に提訴した。
この太陽電池メーカー7社は,「アメリカ太陽電池製造業のための連合」(Coalition
for American Solar Manufacturing:CASM)という業界団体(2011年現在152社が
加盟)を組織している。CASMは,中国政府からの補助金により,太陽電池セルとモ ジュールが公正価格よりも廉価に販売されており,アメリカの太陽電池業界が大きな ダメージを受けていると主張し,中国製品に対して関税をかけるように要求した72)。 CASMの提訴を受けて,商務省が 2011年11月9日に反ダンピング調査の開始を発 表すると,国際貿易委員会(ITC)も,同年12月2日には中国側にダンピング(不当廉 売)の疑いがあるとの見方を示し,不当廉売の調査を継続すると発表した。そして, 商務省は 2012年5月,中国製太陽光発電パネル及び電池に対して,ダンピングや補助 金行為が存在するとの仮決定を下した73)。 こうしてITCは,2012年11月7日,米国内での中国太陽光パネル・メーカーによ るダンピング問題で,アメリカ企業の損害を認める最終決定を行った。商務省は,こ のようなITCの決定を受けて中国に対する報復措置を実施する方針を固め,第4表の ように,中国製の太陽電池に反ダンピング関税(18.32 ~ 249.96%)と相殺関税(14.78 ~ 15.97%)を決定した74)。しかも,国際貿易委員会(ITC)は,2013年1月18日,中 国とベトナムから輸入された風力発電タワーがアメリカの関連産業に損害をもたらす
として,反ダンピング関税と反補助金関税をかけることを決定した75)。
中国側はこのようなアメリカの動きに反発し,アメリカの再生可能エネルギーに対 する保護政策が公正な貿易ルールに違反していると指摘し,政府として調査を始める ことを発表した。そして中国は,2012年2月15日に米国車に対して反ダンピング関 税と反補助金関税をかける報復措置に出た。これに対して,アメリカ政府も,2012年 7月5日に世界貿易機関(World Trade Organization:WTO)に中国を提訴した76)。
ところが,アメリカの太陽光発電業界は必ずしも一枚岩ではなく,中国との貿易摩 擦についても姿勢が異なった。たとえば,「手頃な価格の太陽光エネルギーのための 連合」(Coalition for Affordable Solar Energy:CASE)(2011年現在145社が加盟)は, 中国などが引き起こしたグローバル競争が太陽光発電のコストを下げるために大き な役割を果たしており,中国製品への報復関税が国際競争を減退させてしまうと主張 し,アメリカ政府に貿易摩擦を早急に解消することを要求した77)。 第4表 反ダンピング関税率と輸出奨励金(中国) CASEは,太陽光発電関連の雇用のうち,WTOへの提訴によって恩恵を得られる のは約3%の大規模製造業者でしかないと見ていた。実際には,太陽光発電関連の雇 用は据付や販売などに関するものが大半であるため,この提訴によって米中貿易が悪 化し,アメリカの太陽光発電業界のおよそ 97%の人々が不利益を被ると捉えた78)。 しかし,世界一の太陽光パネル・メーカーとなったサンテック・パワーでさえも, 2012年3月には 35億7,500万ドルの負債を抱えて経営破綻の瀬戸際に立たされたこ ともあって,アメリカの反ダンピング関税や相殺関税に対する中国側の反発は収ま ることはなかった79)。中国が環境保護やエネルギー対策を強めるようになったのは, 2006 ~ 2010年の経済成長計画を定めた「第11次5カ年計画」からであり,民間企業 の参入によって太陽光発電事業が急ピッチで拡大した。そして,政府からの補助金も 企 業 反ダンピング関税(AD)率 (仮決定時) 反ダンピング 関税(AD)率 (最終決定)① 相殺関税 (CVD)率 (仮決定時) 相殺関税 (CVD)率 (最終決定)② 輸出奨励金 ③ 合 計 (①-③)+② トリナ・ソーラー 31.14 18.32 4.73 15.97 10.54 23.75 サンテック・パワー 31.22 31.73 2.9 14.78 10.54 35.97 その他59社 31.18 25.96 3.61 15.24 10.54 30.66 その他の中国企業 249.96 249.96 3.61 15.24 10.54 254.66
[備考] AD:Antidumping Duty CVD:Countervailing Duty
追い風となって瞬く間に生産拠点が広がり,太陽光電池・パネルの生産工場は中国全 土の 100 カ所以上の都市に増加した80)。 しかし,中国の太陽光発電事業はバブル状態となり,需要を無視した生産ブームが 続いた。その結果,中国メーカーは,9割以上を欧米諸国や日本・韓国などへの輸出 に回し,再生可能エネルギー・ブームも手伝って,世界市場が消化しきれないほどの 過剰な生産をおこなってきた。こうした過度な輸出依存体質は,“リーマン・ショック” 以後の金融危機や財政危機,そして長引く世界同時不況などの煽りを受け,中国の太 陽光発電事業のバブルを崩壊させてしまった。しかしながら,このようなバブル崩壊 の責任は,企業誘致や設備投資を許した中国の地方政府にもあると言わなければなら ない81)。 中国の太陽光発電事業がこのような苦境に立たされているため,中国政府はアメリ カの報復関税を受け入れるわけにはいかず,商務部は,2012年夏からアメリカや韓国 のポリシリコン(高純度の多結晶シリコン)に対して,不当廉売に関わる反ダンピン グ調査を開始した。 中国は,2012年1~9月までの間に,前年に比べて 33%増となる6万4,496 トンの ポリシリコンを輸入し,すでに昨年の輸入総量を超えた。このように大量のポリシリ コンが中国市場に入り込んだのは,世界市場で行き場を失ったアメリカや韓国の製品 が,中国市場に安価で売りさばかれたためだと言われている82)。 ポリシリコンの国際価格は,2012年1月時点で1キロ当たり 35 ドル前後だったが, 同年11月7日には最高値が 16 ドル,最低値が 14.2 ドルとなり,約60%も暴落してし まった。そのため,中国の太陽光発電事業は赤字決算が続くようになり,中国有色金 属協会も,中国のポリシリコン・メーカー 43社のうち,すでに8~9割が生産停止状 態に追い込まれたと発表した83)。
(2)中国・欧州関係
しかも,急速に太陽光発電事業がグローバル化したため,太陽光発電関連製品をめ ぐる貿易摩擦は中国と欧州連合(EU)との関係にまで波及し,それがアメリカの太陽 光発電事業にも強く影響してきている。 中国では,2012年の段階で約50%の多結晶シリコンが海外から輸入されており,こ れを国内で加工し,そのうち約90%の太陽電池が欧米諸国に再輸出されている。しか も,中国産の太陽電池は,欧米諸国向けにかなり低価格で販売されており,不公正な 競争と不当廉売の疑いがかけられ,反ダンピング・反補助金調査の対象となってきた。 ちなみに,中国にとってEU市場は,太陽光発電パネルと周辺機器の重要な輸出先で あり,その金額は 2012年の段階で 210億ユーロにも上っている。その結果EUは,中 国の太陽光発電関連製品について,2012年9月から不当廉売の反ダンピング・反補助金調査を開始した84)。 すると,中国側も 2012年11月1日に対抗措置を発表し,商務部が,EUのソーラー グレード・シリコン(高純度の精製シリコン)に関する反ダンピング・反補助金調査 を開始した。これは,EUのソーラーグレード・シリコンが中国市場でどれくらい不 当に安く売られ,中国企業がどのような被害に遭ってきたかを調査するというもので ある。中国政府によれば,そうした調査を 2013年11月1日までに完了する予定とし ているが,状況によっては 2014年5月1日まで調査期間を延長できるとしている85)。 そして 2012年11月5日,中国政府は,EUの加盟各国が太陽光発電関連製品を対象 に補助金を支給し,他国からの輸入品に対する競争力を不当に高めていると主張し, EUをWTOに提訴したと発表した。すると,EUの政策執行機関である欧州委員会 (European Commission)も,太陽光発電設備などの部品として使われる中国製の ソーラーガラスについて,2013年2月28日に反ダンピング調査を開始した86)。 EU全体のソーラーガラス市場規模はすでに約2億ユーロに達しており,今回の提
訴はEU太陽光発電用ガラスメーカー協会(EU ProSun Glass Association)によるも
のであり,欧州委員会はEUの関連法規に基づいて9カ月後に暫定的反ダンピング税 の徴収について裁決を下すことになっている87)。こうして中国政府は,アメリカとと もにEUとも太陽光発電事業をめぐって摩擦を深めることになり,中国の大衆紙『東 方早報道』は,「全世界で太陽光発電の貿易戦争が勃発」という見出しを掲げた88)。
むすびにかえて
21世紀に入って地球温暖化・気候変動対策の緊急性が高まり,クリーン・エネルギー や再生可能エネルギーへの期待感から,風力発電や太陽光発電に関連する事業は飛躍 的に成長し,「第三次産業革命」と呼ばれるほどの新たなイノヴェーション(技術革新) をもたらした。その結果,石油や石炭に代表される化石燃料から脱却し,自然・再生 可能エネルギーに基づく「低炭素社会」(Low Carbon Society)への展望も語られるよ うになった。そして,世界のマネーが「環境」へと向かうようになり,クリーンテック 投資が“環境バブル”を引き起こすという警鐘も鳴らされるようになった89)。 ところが,2008年9月の“リーマン・ショック”によって世界同時不況が広がり,先 進諸国の間で財政赤字が深刻化すると,「グリーン・ニューディール」の先行きに陰り が見え始め,太陽光発電事業などの環境ビジネスは大きな曲がり角に立たされるよう になった。 まず 2009年が,太陽光発電業界にとって悪夢の年となった。市場規模で世界第2 位のスペインで,太陽光発電機器の補助金に上限を課したために,需要が瞬く間に崩 壊した。それでも,太陽光発電機器企業はクリーンテック投資に期待し,引き続き太陽光発電関連機器の生産を拡大していった。その結果,発電モジュールの価格は約半 値に,多結晶シリコン価格はスポット市場で1キロあたり 400 ドルから 45 ドルに下 落した90)。 こうして,多結晶シリコン,シリコン・ウエハー,太陽電池,発電モジュールなど は,すべて供給過剰が続く状態が顕在化した。そのため,アメリカにおける太陽光 モジュールの価格は,中国企業の安値攻勢にも晒され,2011年から 2012年にかけて 65%も値下がりしたと言われる91)。その結果,アメリカの太陽光発電事業は業績が急 速に悪化し,経営破綻に追い込まれる関連メーカーが増えるとともに,大規模な合併・ 買収(M&A)によって業界再編の動きも見られるようになった92)。さらに,アメリカ と中国,中国と欧州諸国との間で,太陽光発電関連製品をめぐって貿易摩擦が深刻化 してきたことも看過できない。 アメリカの太陽光発電事業は,供給過剰と競争圧力に晒されて太陽光電池・パネル が急激な値崩れに直面するとともに,世界的な景気低迷によってクリーン・エネル ギーに対する公的助成が減少していることから,現在は苦境に立たされている。しか も,「シェールガス革命」によって天然ガスの価格が低落傾向にあり,クリーン・エネ ルギーへの期待感が弱まり,太陽光発電事業は大きな壁にぶつかっているのである。 もともと,大規模なソーラー事業は環境問題を引き起こしやすく,新しい基盤設備 や広い土地を必要とし,利益が上がる前に多額の投資を必要としている。さらに,太 陽光電池は本来発電効率が低く,太陽光パネルの寿命は 10年といわれており,廃棄に 関わる毒性も指摘されている。しかも太陽光発電事業は,15 ~ 20年ほど使える商業 施設・住宅の屋上設置型太陽光発電機器と,20 ~ 30年も稼動する天然ガス火力発電 所の代替が主な対象であり,その普及には想像をはるかに超える期間がかかると言わ なければならない93)。
注
1)“V FAQs:Will we have enough materials for energy-significant PV production?”〈http:// www.nrel.gov/docs/fy04osti/35098.pdf〉フランスのダニエル・リンコ(Daniel Lincot)氏 は,「太陽電池パネル 10平方メートルは毎年,石油1バレル分のエネルギーを生む」と述べて いる。「太陽光発電に対する奨励金をカリフォルニア州が承認(米国)」『NEDO海外レポート』 No.987(2006年10月18日)。 2)〈http://www.epia.org/home/〉〈http://home.hiroshima-u.ac.jp/er/Rene_TH(3).html〉 なお,太陽電池の原理,構造,材料,製造プロセスから,太陽光発電システムのライフサイク ル評価までを詳説したものとして,山田興一・小宮山宏『太陽光発電工学―太陽電池の基礎 からシステム評価まで―』(日経BP社,2002年)が参考になる。