と課題
著者
大家 まゆみ
雑誌名
東北大学大学院教育学研究科研究年報
巻
68
号
1
ページ
111-120
発行年
2019-12-26
URL
http://hdl.handle.net/10097/00126990
本研究の目的は,Piaget & Inhelder(1951/1975)の発声的認識論に基づく順列操作の段階に着目 し,ピアジェ理論を改めて見直すことにより,順列操作の誤りやすさについて理論的に概観するこ とである。Piaget & Inhelder(1951・1975)は,子どもを対象に1対1の臨床法によって実験を行い, 確率量化の段階をモデル化したが,彼らの実験では,順列と組合せでは選び出す数が異なっていた。 本研究では,順列操作の介入研究の可能性について検討する。順列を操作する際に,Piaget & Inhelder(1951/1975)提示した数式に至るには,子どもが操作する様子を観察する方法では限界が ある。小学校で習う数学的知識が,どのように子どもの順列操作の誤りやすさを修正しうるか,今 後どのような研究が必要とされるのかを考察する。 キーワード:順列,論理数学的思考,操作,樹形図
1.問 題
順列(permutation)は複数の要素を順番に並べる操作であり,複数の要素からいくつかを取り出 してグループを作る組合せ(combination)と並んで,確率推論(probability)の基礎となる重要な心 理的概念である。確率推論は不確かな状況下で物事がどの程度の確率で起こりうるのかを推測した り,あるいは物事がどの程度確からしいのかを判断したりする際の認知的メカニズムである。順列 と組合せは,数学的思考を用いて問題解決を行う心的操作(mental operation)であり,心理学分野 では Piajet に端を発する認知発達研究を中心に行われてきた。また,数学教育の分野では,順列は「何 個かのものを,すべて異なる順序で並べる,並べ方を順列という」(遠山,1979,p.74)と定義されて おり,重要な数学的概念の1つである。1951年に Piaget & Inhelder が 'The origin of the idea of chance in children'(原題は La genèse de l'idée de hasard chez l'enfant)を出版して以来,ピアジェらの研究を支持する研究者らは数々の 追試を行い,ピアジェ理論の検証を行う一方,ピアジェ理論を批判する立場から,1950年代後半以 降は様々な論争が巻き起こった。さらに認知心理学が隆盛してきた1970年代以降は,Piaget & Inhelder(1951/1975)が構造主義的立場に対して,学校の授業という社会的な文脈の中で,領域固
順列に関する推論の誤りやすさについての研究動向と課題
大 家 まゆみ
* *教育学研究科 博士課程後期有の知識が問題解決場面では重要な役割を果たすことが強調されるようになり,子どもの科学的思 考を育む授業デザインの開発など,実践的な介入研究がおこなわれるようになった(遠山, 1979/2013,p. 74)。
本研究では,まず順列操作の認知発達に関する心理学研究の草分けである Piaget & Inhelder (1951/1975)についてふれた後,Piaget & Inhelder(1951/1975)の理論に対する批判と1950年代後
半以降からこれまでの研究動向を概観し,今後の課題について考察する。
1-1.順列操作の認知発達に関する心理学研究
順列操作の認知発達に関する心理学研究に最初に着手したのは,Piaget & Inhelder(1951/1975) である。彼らは,4歳6か月から15歳0か月の子ども(30名)を対象に,実験者と子どもが1対1で取
り組む「臨床法」(clinical method)を用い,実際に子どもが人形を並べる実験を行った。その結果,
順列操作の段階を3つに区分し,順列操作ができるようになるまでには第1段階(システムが欠如し ており,試行錯誤する段階),第2段階(並べる作業を何度か経験し,部分的なシステムを発見する 段階),第3段階(経験を一般化し,乗法を用いて量化してシステムを発見する段階)を経るとした。 Piaget & Inhelder(1951/1975)は子どもが課題に取り組む様子を観察して,子どもが言葉で回答し, 説明したプロトコルを基に,3つの段階を想定した。Piaget & Inhelder(1951/1975)は,子どもが 要素を操作する課題に取り組むプロセスで何度も試行錯誤し,失敗したり,時に成功したりする経 験を積み重ねることによって,経験が科学的思考を生み出す必要条件となること,その結果,子ど もは順列を構築する(construct),つまり科学的に正しく作ることができるようになり,最終的には 論理的な必然性を理解できるようになるとした。特に最終段階である第3段階のⅢ B では,乗法を 用いて量化し,完全なシステムを発見できるようになると仮定する点において,経験と論理的な必 然性の理解を媒介するのが数学的思考であるとし,心理学における論理数学的思考を支える数学的 知識に着目した。このことから,後にピアジェが『発生的認識論序説』(再販)の「序」において,発 声的認識論において論理数学思想と物理学思想がもっとも重要だとしたと考えられる(Piaget, 1950/1975,大浜,2008)。 しかしその後,彼らの実験的手法および順列操作の3つの段階は批判されることになる(伊藤, 2012)。Reyna & Brainerd(1994)は,順列操作ができるようになった後で可能となる確率判断に関 する認知発達研究を3つの時代に区分した。Piaget & Inhelder(1951/1975)は,順列や組合せを含 めた確率概念は3つの段階を経るとした発達段階モデルを提唱したが,彼らの理論はごく少数の子 どもを対象に1対1で実施されたため,より幅広く子どもの確率概念の発達を説明するには,より多 くの子どもを対象に,データを収集する必要性が訴えられ,論争が繰り広げられるようになった。 以下,順列操作に注目した研究を中心に,Piaget & Inhelder(1951/1975)以後に論争が巻き起こっ た,確率に於ける推論研究の学術的な立場の相違を概観する。
1-2.Piaget & Inhelder(1951/1975)に対する批判 a.子どもが言語で説明する実験方法に対する批判
まず,1950年代後半には,Piaget & Inhelder(1951/1975)の研究方法に対する批判が強まった。 彼らは1対1の臨床法を用い,課題に取り組んでいる間の思考を子どもに言語化してもらい,実験者 の質問に対して言葉で説明して答える方法をとった。しかし幼児を対象とする場合には,言語によ る説明を求めるのが難しいケースも考えられるため,むしろ選択肢を選ぶ方が子どもにとってはよ り負担が少なく,かつ子どもが本来もっている確率概念を測定しやすいことを Siegel & Andrews (1962)が示した。彼らは就学前の幼児を対象に,2つの対象のうちどちらか一方を選択してもらう 二肢選択状況(two-choice situation)下において,子どもがどのような行動を選択するか,また,ど の程度子どもの選択行動が強化されるかについての研究を行った。この研究では,正反応に対する 強化が増大すると,子どもは正反応の生起確率を最も大きくなるよう選択することが示された。す なわち,子どもが確率を選択する時には,事象の確率に加え,強化の程度が影響し,十分に言葉で説 明することができない幼児であっても,まだ言語で説明できないだけであり,子どもなりの確率概 念をもっている可能性がある。同様に,Yost, Siegel, & Andrews(1962)は,4 ,5 歳の幼児が確率 についての意思決定を行う際に,言語で説明しなくてよい条件であれば,確率を判断して行動する ことができることを示した。同様に,Davies(1965)や Goldberg(1966)も幼児を対象とした実験 を行い,具体物を操作する能力は Piaget & Inhelder(1951/1975)が主張するよりも幼い年齢の子ど もに備わっていることを示した。その後,ピアジェらが主張したよりも幼い頃から確率概念や問題 解決が出現することを示した研究が増えてきた(たとえば Baillargeon & Graber, 1988)。
かくして,Piaget & Inhelder(1951/1975)が用いた実験方法,すなわち実験者に対して1対1で 言語を用いて説明する臨床法は,幼い子どもには負担が大きいと批判を浴びることになった(Brane, 1959, 1962; Brainerd, 1973, Miller, 1978)。そして,幼児を対象とする認知発達研究を行う場合には, 言語を用いる条件のみではなく,非言語的な反応を測定する実験条件や環境を整えることが重要だ とする立場が出現してきた(Baillargeon & Graber, 1988)。
b.実験室場面に対する批判:生態学的妥当性の視点から
その後,Piaget & Inhelder(1951/1975)の一連の実験は,実験室で臨床法に基づいて行われてい ることから,その研究方法の生態学的妥当性に対して懐疑的な立場が現れた。たとえば Brainerd (1973)は生態学的妥当性の視点から,Piaget らが実験室という非日常的な空間で,大人の実験者が 子どもに1対1で向かい合い,臨床法を用いて質問し,子どもが質問に対して答えていく様は,子ど もの日常的な生活環境とはかけはなれているため,得られた実験結果はあくまで実験室の中で子ど もが学習した成果であると批判した。
実験室はある条件を設定して実験を行う場であり,Piaget & Inhelder が活躍した1950年代はま だ,生態学的妥当性を考慮する視点は,多くの心理学的研究においてあまり見られなかった。しかし, 子どもが科学的概念を学ぶ際には,実験室のように閉ざされた空間で,決められた条件下で行うこ
とはまずない。むしろ学校の授業で,教師が子どもに知識を教える場面,教師―子どものやり取り, 子どもー子ども同士の発話や黒板,ノートに解答を書き込む場面に着目することが重要になってく る。子どもの確率概念に関するこれまでの研究では,子どもは教室で教師が教えた内容あら,そし て教師のまなざしや説明,あいづち,教師が発する非言語的な情報から,確率について推論できる よ う に な る こ と が 示 さ れ て き た(Bonawitz, Shafto, Gweon, Goodman, Spelke, & Schulz, 2011; Buschbaum, Bridgers, Weisberg, & Gopnik, 2012; Shafto, Goodman, & Frank, 2012)。
c.確率に関する学習者の既有知識の影響
さらに,確率に関して子どもがもっている既有知識が確率推論に影響している可能性について, Piaget & Inhelder(1951/1975)が考慮していない点について批判したのが Huber(1993)である。 Huber は,子どもが不確実な情報を得た際に,情報処理を行うために潜在的に認知的な操作を行う 力が生得的に備わっているが,一方では,確率に関する知識については,学習によって習得しなけ れば自然に出来るようになるものではないとした。
Huber 以後,2000年代以降は,乳幼児には数や確率概念,確率的問題解決を行う能力が備わって いることが示されるようになった(Denison, Reed, & Xu, 2013; Feigenson, Dehaene, & Spelke, 2004; Gweon, Tenenbaum, & Schulz, 2010)。
つまり,子どもが持っている生得的な確率概念がある一方で,確率に関する知識を教わらなけれ ば,自然発生的には数式を立式したり,複雑な問題に解答し,正答したりすることは難しい。Piaget & Inhelder(1951/1975)はあくまで実験室で行われる1対1の臨床法を研究方法とし,観察に基づ く立場であり,子どもが授業で教師から知識を教わり,数学的思考に基づいて学習する「教える― 学ぶ」という教授学習の視点が欠けていた。
ここまで,Piaget & Inhelder(1951/1975)の理論と,同理論に対する批判を概観してきた。以下 の節では,順列操作における誤りやすさについて,数学的思考の重要性の視点から考察する。
2.順列操作を支える数学的思考の重要性:確率量化の前提となる順列操作
ここまで概観してきたように,1970年代以降,ピアジェの発達理論が批判されるようになり,子 どもの年齢により発達段階を区分することに異論を唱える立場が複数の分野において出現した。 まず,1970年代以降に隆盛した認知心理学分野では,子どもは生まれてから様々な経験を通して 領域固有の事例や自称に関する自分なりの概念を持っており,新しい事実や理論に出会うと,子ど もの知識が再構造化され,概念変化(conceptual change)するという見解が主流となった(Hatano & Inagaki, 2000)。しかし順列操作に関しては,Piaget & Inhelder(1951/1975)は数学の知識について着目し,最終 的な正答を導き出すためには数式が必要であり,子どもが数式に則った数学的思考をできるように なるのが最終的な段階であると考えていた(Table1)。順列操作における数学的思考として Piaget & Inhelder(1951/1975)が提示したのが,確率量化(quantification of probabilities)である。確率量
Table1 確率量化操作の段階の理論的仮定
(Piaget & Inhelder, 1951/1975,
中垣 , 1979, 伊藤, 2009 に基づいて作成) 研究 者 課 題の 種 類 対象 者 課 題 せ 合 組 な 的 験 経 如 欠 の ム テ ス シ 段階Ⅰ A 順列 の ルール の 理解が 困 難 段 階Ⅰ B 経験 か ら部分 的 なルー ル を発 見 部 分的 な システ ム を経 験 的に発 見 可 能 シ ステ ム の探 究 段 階Ⅱ A 経験 的 に順列 を 作るこ と が可 能 段 階Ⅱ B 見 発 の ム テ ス シ 見 発 の ム テ ス シ 段階Ⅲ A 部分 的 なシス テ ムの一 般 化が 可 能 段 階Ⅲ B 乗法 を 伴う量 化 が可 能 段 階 Ⅳ(1次的 量 化 ) 段 階Ⅰ A 基本的 な 1次 的量化 が 可 能 段 階Ⅰ B 加法的 合 成を伴 う 1次 的量 化 が可 能 段 階 Ⅴ(2次的 量 化 ) 段 階Ⅱ A 基本的 な 2次 的量化 が 可 能 段 階Ⅱ B 加法的 合 成を伴 う 2次 的量 化 が可 能 段 階 Ⅵ(3次的 量 化 ) 段 階Ⅲ A 基本的 な 条件付 確 率の 量 化が可 能 段 階Ⅲ B ベイズ 型 条件付 確 率の 量 化が可 能 獲 得す べ き ル ー ル( 数 式 ) 注)段階Ⅳ、Ⅴ、Ⅵは各々、伊藤(2008)の段階Ⅰ、Ⅱ、Ⅲのラベルを変更 P(H )P (D |H )/ (P /H )P ?D |H )+ P( -H )P (D |¬ H )) 組合 せ あ め玉 5 つから 2 つか 3 つのあ め 玉 を 取 りだ す 。 2つ 、 3つ 、 4つの 人 形を並 べ る。最 初 は 2人、 次 に 3 人 、 4人と1人ず つ増やす 伊藤(20 08 ) Pi ag et & In he ld er (1 951 /19 75 ) 順 列 ベ イ ズ型 推 論課 題 Pia ge t & In he ld er (1 951 /197 5)・中垣 (1 979) 段階 Ⅲ 立式 に 至る 確 率量 化 の段 階 試 行 錯誤→ 部 分的 な ルール ・ システ ム の発 見 →乗 法 を伴 う 量化に よ る一般 化 試 行錯誤 → 様々な 方 略→ 完 全な方 略 C N (n , r )=n !/ (n -r )! r! 完 全な ( CS型 ) 方略 を 実 行 n!= n (n - 1)( n -2 ) ... 3 ・2・ 1 段 階Ⅰ ( 1次 的量化 ) から段 階 Ⅲ(3次 的 量化) の 各段階 の 立 式 課 題の パ フォー マ ンス= 理 解 概 念的 理 解≠実 行 的理 解 組合せ 総 数の 保 存:組 合 せ総数 の 記 憶 課題 に 対す る 理 解の 指 標 対 称性の 理 解:要 素 の同 数 性の予 測 各段 階 の立式 が でき る こと= 理 解 4歳4か月~1 5歳 0か月の子ども(30名 ) 幼稚園 年 中・ 年 長児・ 小 6・中 3 の 各 年 齢 層 10 名 (男女 各 5名 ) ルー ル を認識 、 部分的 な シス テ ムの発 見 が 可 能 中 3(33名)と大 学生(48名) 確 率量化 の 段 階 段階 Ⅰ 段階 Ⅱ 段 階 0(確 率 量化 以 前 ) (伊藤 、 2008 ) 2段階く じ びき 課 題 組 合せ の 実行手 続 きに 様 々な方 略 が 見 ら れる が 、完全 な 方略 は 知らな い 試 行錯 誤 的に組 合 せを 実 行
化とは,ある事象が起こりうる確率や,並べ方,組合せ方の総数を数で表現したり,思考したりする ことである。Piaget & Inhelder(1951/1975)は,確率を推論できるようになるためには,まず順列 と組合せを操作できることが前提になると考えていた。なお,Piaget & Inhelder(1951/1975)の確 率量化課題は,複数のコイン n 枚からいくつかのコインを取り出す際,十字が刻印されているコイ ンが r 枚ある場合を想定し,たとえば2枚取り出して2枚とも十字が刻印されている場合には2/2, 1枚も十字が刻印されているコインがない場合は0/2という分数で表記する。実験者は子どもに, どちらが十字を刻印したコインを取り出しやすいかを質問し,「2つのコインから十字が刻印して あるコインを2つ取り出す(2/2)のは,0/2よりも取り出しやすい」等,言葉で答えてもらう。子ど もが答えたら,なぜそう思うのか,理由も説明してもらう。Piaget & Inhelder(1951/1975)の確率 量化操作の前提となるのは,割合の理解である。つまり,コイン全体から該当するコインを取り出 すためには,該当するコインを分子,全体のコインの数を分母とする分数で考えられることが前提 となる。
さらに,確率量化ができるようになる前の段階として,Piaget & Inhelder(1951/1975)は順列お よび組合せ操作を挙げ,各々を3つの段階に区分している(Table1)。したがって,順列操作には数
式を用いた数学的思考ができるようになることが必要であり,数式 n!=n(n-1)(n-2)・・・3・2・1を
発見し,この数式に基づいて思考できることをモデルの最終段階に示した。
つまり,Piaget & Inhelder(1951/1975)が前提としている確率量化の必要条件は,割合および分 数の理解なのである。したがって,ピアジェの数学的知識を前提とした確率量化モデルは,数学的 思考ができることが暗黙の条件だったが,生態学的妥当性の観点からは,「教えるー学ぶ」という視 点が含まれていないため,どのように教えれば子どもが数学的知識を習得し,数学的思考ができる ようになるかという教授学習的な視点に欠けている。 さらに1970年代以降は,ピアジェの構造主義理論をさらに発展させ,割合や分数の理解を前提と したベイズ型確率推論研究が認知心理悪分野で盛んに行われるようになり,確率推論に基づく意思 決定を行うメカニズムについて社会心理学,経済学など,隣接する研究領域で様々に研究が行われ るようになった(伊藤,2008,2012)。そのため,研究対象も子どもから大人まで幅広い年齢層となっ た。 だが,確率推論の前提となる順列と組合せに関する心理学的研究は,あまり注目されてこなかっ た。理由としては,1970年代以降は心理学の分野で,教授学習的な視点から,教室場面での教師と 子どもの学びが注目されるようになってきたものの,順列と組合せを授業で扱う国が,当時心理学 の研究の中心であった欧米諸国にはまだ少なかったこともあると思われる。わが国の学習指導要領 は,1940年代から「場合の数」を小学6年生の算数の単元として,順列と組み合わせを授業で扱って きたが,確率推論の心理的メカニズムに注目した研究は,幼児から中学生を研究対象とし,Piaget & Inhelder(1951/1975)の1対1の臨床法に基づいて,ピアジェの発達段階を前提とし,実験室場面 で実験を行った中垣(1979)と阪脇・中垣(2009),そして中学生と大学生を研究対象に,質問紙調査 によってベイズ型推論課題を実施し,確率量化の段階を区分した伊藤(2008,2012)以外には見られ
ない。
そのため,算数の授業場面で,教師が順列に関する知識をどのように教え,子どもが学んでいく のか,実証的な研究を今後積み重ねることが課題である。
3.課題構造の違いが順列操作に及ぼす影響
Table1に記したように,わが国では,中垣(1979)や阪脇・中垣(2009),伊藤(2008,2012)が Piaget & Inhelder(1951/1975)の理論に基づいて,実験的研究を行っている。中垣(1979)と阪脇・ 中垣(2009)が Piaget & Inhelder(1951/1975)を批判しているのは,n 個から r 個をとる組合せに おいて,Piaget & Inhelder(1951/1975)が r=2の場合しか扱っていない点である。n 個から2つを
取り出して並べる,あるいは組み合わせる場合(nP2,nC2)と,n 個から3つを取り出して並べる,
あるいは組み合わせる場合(nP3,nC3)とは,課題の構造が異なるのではないだろうか。
中垣(1979)は,n 個から r 個を取り出す組合せ課題は,r=2の場合は小学校高学年以上になると 正答率がかなり高いが,r=3の場合には,中3でも正答率が半数以下になると報告している。したがっ て,Piaget & Inhelder(1951/1975)が「順列は組合せよりも難しい」とした点は,r の数の違い,す なわち課題構造の違いも原因だろう。Piaget & Inhelder(1951/1975)の組合せ課題は r=2にとどまっ ていたが,順列課題は r=2,3,4とバラエティに富んでおり,単純に順列と組合せの難易度を比較す ることはできないと考えられる。
4.子どもの論理数学的思考の手段としての樹形図の活用
また,Table1で伊藤((2008)がベイズ型推論の「段階0 確率量化以前」と位置づけた段階は, Piaget & Inhelder(1951/1975)の順列および組合せ操作の段階に該当する。伊藤(2008)のベイズ 推論の発達段階モデルは,どの段階も立式できることが条件となっている。
本研究では,伊藤のモデルにおける4つの段階と,Piaget & Inhelder(1951/1975)の3つの段階 をつなぐ手段としての「樹形図」の活用について,改めて考察したい。Piaget & Inhelder(1951/1975) は,順列操作の最終的な段階は数式であると主張しながらも,どのようにすれば数式を立てること ができるのか,教授学習的な視点については一切触れていない。あくまで発生的認識論に基づき, 子どもは生まれながらに順列を操作する力を持っており,年齢とともに発達するという立場をとる。 しかしここで見てきたように,Piaget & Inhelder(1951/1975)に対する批判を概観すると,彼ら の視点には言語のみによる説明,生態学的妥当性の欠如,学習して獲得する知識の視点が欠けてい る。ある年齢に達したからといって,子どもが Table1にあるような数式を,何の知識もないままに 立式できるようになるとは考え難い。順列が算数教育で重要な概念の1つであるとされる(遠山, 1979/2013)ことからもわかるように,小学校の教室では,順列について子どもたちが操作できるよ うに,教師が子どもたちに教えている。その際に子どもたちが用いるのは,教科書にも図示されて いる「樹形図」(Figure1)である。
法による量化」までのプロセスを,より可視化しやすく なり,したがって誤りやすい部分も顕示的になるだろう。 子どもの論理数学的な認知発達のプロセス(Piaget & Garcia, 1987)について,今後は算数の教室場面に焦点を 当て,子どもがどの場面で順列操作を誤りやすいのか, 実証的な研究をより進める必要があるだろう。その際, 単に樹形図を操作の手段として教えるのではなく,最終 的に数式に至るよう立式できるようになるためのルール を教える授業とは何かを考えることが(麻柄,1998),今 後の課題となるだろう。 【引用文献】
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Figure 1 順列の樹形図
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Yost, P. A., Siegel, A. E., & Andrews, J. M.(1962). Nonverbal probability judgments by young children. Child Development, 33, 769-780
The purpose of the present study was to overview why children mistake easily in operation of permutation, referring to Piaget & Inhelder's (1951/1975) stages of operation of permutation. Piaget & Inhelder (1951/1975) observed children's cases based on the experiments that have been held by the clinical method. This study has focused on instructive intervention. The possibilities that knowledge which children learn in mathematics classrooms improve their mistakes and the necessity of empirical research in future were discussed.
Keywords:permutation, theological and mathematical thought, operation, tree-gram