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ドイツにおける学校の社会的役割の拡大と多職種連携 ―モンハイム・アム・ライン市における事例による検討―

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(1)

携 ―モンハイム・アム・ライン市における事例に

よる検討―

著者

井本 佳宏

雑誌名

東北大学大学院教育学研究科研究年報

69

1

ページ

43-53

発行年

2020-12-22

URL

http://hdl.handle.net/10097/00130136

(2)

 ドイツでは近年,学校の社会的役割の拡大に伴い,学校における多職種連携が課題となっている。 日本でも今日,「チームとしての学校」が提唱されており,学校における多職種連携の要請という状 況は日独で共通している。そこで本論文では,学校を総合的な子ども政策の中に位置づけて多職種 連携のための条件整備を行っているノルトライン‐ヴェストファーレン州モンハイム・アム・ライ ン市の事例を取り上げて考察を行った。そこから,同市では学校に多職種連携のチームを常設し, 生徒指導上の課題に多様な専門家が協働で対応することで,個々の教員の職務領域の無限定な拡大 を防ぎつつ,学校の役割拡大に対応することが可能となっていることを明らかにした。また,多職 種連携による活動はメンバーのスケジュール調整に多くの時間を必要とすることから,日本におい て,「チームとしての学校」の実現を図る上でも課題となることを指摘した。 キーワード:学校における多職種連携,ドイツ,子育て支援,教員の負担軽減

はじめに―学校教育における多職種連携の要請の背景

 本論文の目的は,ドイツにおける学校の社会的役割の拡大とそれに伴う多職種連携のあり方を, 学校と社会の相互浸透の視点から明らかにし,そのことを通じて日本における「チームとしての学 校」政策への示唆を引き出すことである。  ドイツやドイツ語圏であるスイスでは今日,終日学校の拡大やインクルーシブ教育の推進などの 新たな諸課題への対応を背景として,学校における多職種連携が課題となっており,研究も盛んに 行 わ れ て い る( 例 え ば,Huber, S. G., Ahlgrimm, F. (Hrsg.), 2012,Schüpbach, M., Slokar, A., Nieuwenboom, W. (Hrsg.), 2013など)。  半日学校の伝統に典型的に表れているように,元来ドイツの学校の社会的役割は限定的であり, 教員の職務についても,授業を中心とした教育活動に限定されたものであった。生徒指導的な役割 を担う場合においても,基本的には授業時間内での対応にとどまってきた(髙谷 2018, 177)。この ことは,「通常の時間計算によらず,45分を単位とする授業時間によって算定」(アベナリウス 2004, 211)される教員の労働時間についての規定に典型的に表れている⑴

ドイツにおける学校の社会的役割の拡大と多職種連携

―モンハイム・アム・ライン市における事例による検討―

井 本 佳 宏

教育学研究科 准教授

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―  ―44  しかし今日では,新たな諸課題への対応の要請により,従来限定的であったドイツの学校の社会 的役割の拡大が促進されている。そのため,そうした要請に応えていくために学校には教員以外の 多くの専門スタッフが勤務しており,教員には他の専門スタッフとの連携が要請されるようになっ てきている。例えば布川あゆみは,ブレーメンにおける終日学校の現地調査に基づき,今日,「従来, 学校の役割として位置づいてきた『教授』『伝達』『指導』に加えて,家庭の役割として位置づいてき た『世話』『養育』『援助』『習慣化』『練習』,そして学校外(青少年援助)の役割として位置づいてき た『保護』『育成』『相談』『助言』の役割を学校は広くひきとっている」(布川 2018, 313)と指摘して いる。こうした学校の社会的役割の拡大は,日本における教員の過酷な勤務状況が示すとおり,必 然的に業務量の増大につながるものである。しかしドイツでは,「これまで学校外において独自の 活動領域をもっていた人々が学校の中に配置されるという新たな展開を伴った」(布川 2018, 33)こ とから,「終日制の導入によって教員の労働時間増加が起きず,教員の反対を生じにくくさせた」(布 川 2018, 34)と言われている。つまりドイツでは今日,多様な社会的役割を期待されるようになっ た学校において,教員に過剰な労働負担を強いることなくそれらの期待に応えていくために多職種 連携による協働の実践が蓄積されつつあるのである⑵  日本でも今日,「チームとしての学校」(中央教育審議会 2015)の名の下に,学校における多職種 連携の推進が提唱されている。中央教育審議会答申(2015)によれば,「チームとしての学校」が求 められる背景として,「⑴新しい時代に求められる資質・能力を育む教育課程を実現するための体 制整備」,「⑵複雑化・多様化した課題を解決するための体制整備」,「⑶子供と向き合う時間の確保 等のための体制整備」の3点があげられている。特に3点目に関しては「我が国の学校や教員は,欧 米諸国の学校と比較すると,多くの役割を担うことを求められているが,これには子供に対して総 合的に指導を行うという利点がある反面,役割や業務を際限なく担うことにもつながりかねないと いう側面がある。国際調査においても,我が国の教員は,幅広い業務を担い,労働時間も長いとい う結果が出ている」(中央教育審議会 2015, 3)としており,「チームとしての学校」が,幅広い業務を 教員が担ってきたことによる教員の過剰な労働負担に対する対策であることを示している。そこか ら,「生徒指導や特別支援教育等を充実していくために,学校や教員が心理や福祉等の専門家(専門 スタッフ)や専門機関と連携・分担する体制を整備し,学校の機能を強化していくことが重要である」 (中央教育審議会 2015, 3)との学校における多職種連携の方針が導き出されている。  このように,従来から子どもに関わる多様な課題を幅広く引き受けてきた日本の学校における多 職種連携は,一面において教員が担ってきた過大な役割の一部を他の専門スタッフに移譲するとい う性格を有している。それに対しドイツにおける多職種連携は,元来限定的であった教員の職務の あり方を維持しながら学校の社会的役割を拡大しようとするものであり,両国の学校がここに至る までの経緯は異なっている。しかし両国とも,特定職種への過剰負担を避けつつ子どもをめぐる多 様な社会的ニーズに対応しうる学校の実現を図るという点で課題を共有しており,特に,現時点に おいてすでに教員に過剰な労働負担が課せられている日本にとって,教員の業務負担の増大を抑制 しつつ,学校に対する役割期待の拡大に対処しているドイツの事例は,課題の明確化と可能な対応

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策の検討に際して有益な示唆を与えるものと考えられる。  なお,学校の社会的役割の拡大は,これまで学校外の社会で担われていた諸機能を学校が果たす よう期待されていることを意味している。つまり,学校の社会的役割の拡大に伴う学校における多 職種連携は,比較的明確に引かれていた学校内外の境界線を維持したままで学校が多様な専門ス タッフを取り込んでいくということではなく,境界線そのものの不明瞭化を意味している。学校に おける多職種連携は,学校内外の境界線が曖昧化した領域において,多様な足場を持つ専門スタッ フがどのように互いの活動を結び付けていくかという課題なのである。したがって,学校の活動領 域の拡大という視点だけでなく,元来学校外にあった社会的諸機能およびその担い手の学校への浸 透という視点で見ていくことで,学校における多職種連携のあり方を明確にすることができるもの と考えられる。  そこで本論文では,学校と社会の相互浸透という視点からドイツにおける多職種連携のあり方を 明らかにするため,学校教育を総合的な子ども政策の中に組み入れつつ,新たな課題への対応に向 けた多職種連携のための条件整備を行っているノルトライン‐ヴェストファーレン州モンハイム・ アム・ライン市(Monheim am Rhein)の事例を取り上げて検討する。なお,本事例については,ド イツの教育雑誌『教育(PÄDAGOGIK)』2017年11月号の特集「多職種連携チーム(Multiprofessionelle Teams)」の中で紹介されたもの(Croonenbroeck, V., Dombois, C. 2017)であり,本稿は同記事を参 照しつつ,筆者自身が2018年11月20日に実施したモンハイム・アム・ライン市青少年・家族部門お よびモンハイム・アム・ライン中等学校での聞き取り調査の結果をもとにしたものである。

1.ローザ・パークス校(旧モンハイム・アム・ライン中等学校)の概要

 モンハイム・アム・ライン市⑶は,ライン川右岸に面したノルトライン‐ ヴェストファーレン州 の都市である。2019年12月31日現在の人口は,43,970人であり,州都デュセルドルフ市とケルン市 のちょうど中間に位置している。両都市まで公共交通機関の利用でも1時間弱の距離ということか ら両都市の衛星都市としての性格を有しており,人口の増加が続いている。  同市では現在,市内すべての学校を終日制とするとともに,インクルーシブ教育を推進している。 本論文では,インクルーシブ教育に焦点を当て,その実施を支える基盤として構築された多職種連 携の仕組み「多職種支援チーム(Multiprofessionelle Unterstützer-Teams:以下,MUT)」について, ローザ・パークス校(Rosa Parks Schule,旧モンハイム・アム・ライン中等学校:Sekundarschule Monheim am Rhein)における事例をもとに報告する。同校は,2019/20年度よりモンハイム・アム・ ライン中等学校からローザ・パークス校へと改称している。この改称は,2019/20年度からの同校 の生徒募集停止による段階的廃止プロセスの開始および同校地を利用した総合制学校(ベルリナー・ リンク総合制学校:Gesamtschule am Berliner Ring)の創設を契機として,閉校後も語り継がれる

べき中等学校のアイデンティティを示すものとして行われた⑷。本論文においては基本的に現校名

によって記述し,必要に応じて旧校名も使用する。

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―  ―46

ギムナジウム(Otto Hahn Gymnasium),ローザ・パークス校(中等学校),ベルリナー・リンク総合 制学校,ペーター・ユスティノフ総合制学校(Peter Ustinov Gesamtschule)がある。将来的にはロー ザ・パークス校の閉校により,同市内から中等学校はなくなり,前期中等段階の学校はギムナジウ ム1校と総合制学校2校となることが決まっている。  現時点においてローザ・パークス校は市内で唯一の中等学校となっている。ノルトライン‐ヴェ ストファーレン州における中等学校は,三分岐型中等学校制度における実科学校(Realschule)と基 幹学校(Hauptschule)が統合された第5学年から第10学年までの非ギムナジウム校である。自前の ギムナジウム上級段階は持たず,近隣のギムナジウムや総合制学校との連携によってアビトゥアま での到達可能性も有するものの,ギムナジウムや総合制学校とは異なり,ギムナジウム上級段階へ の進学はメインの進路として想定されているわけではない。  こうした同市における中等段階の学校配置状況により,同校には困難を抱えた生徒が集まりやす い状況にある。2017/18年度の生徒数665名のうち,60% に移民背景があり,10.1% が,学習,情緒 および社会性の発達,言語,精神的発達,身体的発達,自閉症スペクトラム障害などに関する特別支 援のニーズを持っていた(表1)。モンハイム・アム・ライン市では今日,「共通の学習と個別的な指

導」(Lernen gemeinsam und individuell)の理念を掲げ,インクルーシブ教育が推進されているが,

生徒構成においてこうした特徴を持つ同校においては,この理想はそのままでは「すぐに限界に行 き当たる」(Croonenbroeck, V., Dombois, C. 2017, 9)。そこから,理想を現実のものとするために「何 よりも強力なチームが必要」(Croonenbroeck, V., Dombois, C. 2017, 9)とされる。本論文が特に同 校に注目するのは,同校における MUT が,多職種による連携が強く必要とされている学校におけ る取り組みだからである。 2.ローザ・パークス校における MUT の活動  モンハイム・アム・ライン市では,インクルーシブ教育の推進に向けて,市費によって各学校にお けるスクールソーシャルワークおよび心理カウンセリングを実施するとともに,スクールソーシャ ルワーカーや学校心理士をメンバーに加えた MUT の設置を推奨している。同校ではこの仕組みを 活用することで,インクルーシブ教育に伴う新たな課題に対応している。 表1:2017 / 18年度のモンハイム・アム・ライン中等学校の概要 25学級の665名のうち、 ・60%が移民背景のある者  ・約9%が新規転入者 ・10.1%が特別支援のニーズを持つ者  ・学習  ・情緒および社会性の発達  ・言語  ・精神的発達  ・身体的な発達  ・自閉症スペクトラム障害 本校の専門職員 ・教師 ・特別支援教育員 ・スクールソーシャルワーカー ・学校心理士 ・その他の支援員  ・FSJ 参加者  ・学生  ・個々の生徒のための統合援助者 出所:Croonenbroeck, V./Dombois, C. (2017), S. 9の図1をもとに筆者作成。

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 同校では2013/14年度に教職員団にスクールソーシャルワークと学校心理カウンセリングのため の専門家が加えられ,市の青少年・家族部門と共同で「モンハイム中等学校における子どもたちの 気 に な る 振 る 舞 い へ の 対 応 の た め の 行 動 マ ニ ュ ア ル(Handlungsleitfaden zum Umgang mit Auffälligkeiten bei Kindern in der Sekundarschule Monheim,以下,行動マニュアル)」(図1)が作 成された(Croonenbroeck, V., Dombois, C. 2017, 9)。このマニュアルによると,同校の MUT はク ラス担任,特別支援教員(Förderlehrer/-in),スクールソーシャルワーカー,学校心理士,部門主任 (Abteilungsleiter),外部専門機関職員からなり,注意を要する生徒がいる場合,クラス担任からの 相談を受けて,チームとして保護者対応も含む当該生徒への指導に当たる。外部専門機関としては, 青少年援助(Jugendhilfe)や保健・医療機関がケースに応じて参加する。こうした体制を組むことで, 生徒指導上の困難をクラス担任一人が背負うことを回避し,初期段階から多様な専門家の協働に よって対応することを可能にしている。  ここでは,行動マニュアルに沿いながら,MUT の活動の具体的手順を確認しておきたい。まず, 学校における日常生活の中で気になる生徒がいる場合,担任は当該生徒の振る舞いを注意深く観察 する。その中で気になる振る舞いが見られ,生徒との面談や保護者との面談だけでは解決が難しい と判断される場合,担任は MUT の会合において本件を報告し,チームでは担任への助言や,解決 策についての予備協議を行う。同校の場合,MUT の会合は週に2回,お昼休み(60分)に行われて いる(Croonenbroeck, V., Dombois, C. 2017, 11)。  予備協議においてさらに踏み込んだ対応が必要であると判断された場合,拡大版の保護者面談が 行われる。この局面は,学校内部での対応にとどまらず,外部機関との連携した対応が必要と考え られる局面であり,保護者の理解と協力を得ながら進めていくことになる。拡大版の保護者面談の 参加者は,教育権者(保護者),MUT のメンバーのほか,ケースに応じて外部の専門機関や青少年 援助(Jugendhilfe)の代表者が加わる。  保護者を交えた協議は,次の4つの段階を踏んで進められる。第一段階:問題を記述する,第二段 階:仮説を構築する,第三段階:対策を開発する,第四段階:取り決めを結ぶ。第一段階では,各メ ンバーの視点から見た問題状況を提示しあう。第二段階では,第一段階で共有した問題となる生徒 の振る舞いについて,各メンバーの視点から仮説を出し合う。例えば PÄDAGOGIK 誌での事例紹 介では,ある生徒の振る舞いについて,第一段階において,「授業中の殴り合いや共同作業の拒否」 (担任),「叱られたり結果が芳しくないと許可なくクラスを離れる」(担任),「授業中の多大な妨害 行為」(スクールソーシャルワーカー),「非常に活発な子ども」(親),「強い正義感」(親)などが報 告された(Croonenbroeck, V., Dombois, C. 2017, 12)。第二段階では,こうした振る舞いに関して, 次のような仮説が提示された(Croonenbroeck, V., Dombois, C. 2017, 12)。「彼はそのような振る舞 いを通して,同級生と接触を取ろうと試みている」,「彼は,彼がクラスの中で多くの葛藤と妨害に よって得ている注目を楽しんでいる」(担任)。「彼は衝動抑制のための能力が不足している」,「彼 は暴力の使用における阻止閾が乏しい」(特別支援教員)。「彼は,自分がそうした問題状況を引き起 こした唯一の原因だとは考えていない」,「彼は彼だけでなく同級生たちも彼と同じ報いを受けるこ

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―  ―485

図1:行動マニュアル

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とになると思っている」(親)。「彼はまだ,他の子どもの立場になって考えたり,遊びやけんかの際 に限度を弁えたりできる状態ではない」(スクールソーシャルワーカー)。  第三段階では,仮説を踏まえて具体的な対策を立て,合意することが目指される。同じ例によれば, 次のような対策が合意された(Croonenbroeck, V., Dombois, C. 2017, 12)。「クラスにおける彼の状 況を改善するため,クラスの状況について議論することやクラストレーニングのような社会教育的 対策を導入すること」(担任),「授業中の彼の様子を観察して後で担任とリフレクションするため に授業を見学すること」(特別支援教員),「彼に心理療法を受けさせること」(親)。第四段階では, 次 の 面 談 の 期 日 が 決 め ら れ る。 次 の 面 談 で は 対 策 を 行 っ た 結 果 を 評 価 す る こ と に な る (Croonenbroeck, V., Dombois, C. 2017, 12)。つまり次の面談の期日を決めるということは,それま でに合意した対策を各関係者はそれぞれの責任において実施するということでもある。  次の面談でも,それまでに実施した対策の結果を踏まえて,再び第一段階から第四段階までの手 順が繰り返される。同校における MUT では,ケースごとにこうしたサイクルを何度か繰り返しな がら,状況の改善を目指していくというのが基本的な活動の枠組みとなっている。ここで注目すべ きは,このサイクルを通じた対応が,保健・医療制度や青少年援助などの外部機関によって随伴さ れた取り組みであることである。MUT における予備協議や拡大版保護者面談への外部専門機関職 員の参加を通じて,学校と外部諸機関は気になる生徒への対応において恒常的に協働する関係にあ る。つまり,MUT における活動は,外部諸機関にとってもそれぞれに固有の活動の一環であり, 学校と外部社会の相互浸透する領域に MUT は位置しているのである。

3.「子どものための首都」構想の一部としての MUT

 ここまで見てきたように,ローザ・パークス校では気になる生徒への対応業務を,担任が一人で 抱え込むことなく多様な専門職と協働して進めることができる体制が整っている。このようなこと が可能になるためには多様な専門職が学校に配置されることが前提となるが,モンハイム・アム・ ライン市では市費によってスクールソーシャルワーカーおよび学校心理士が配置されることで, MUT の活動基盤が整えられている。こうした市の対応は,同市が総合的な子ども政策に関する戦 略的目標として推進している「子どものための首都(Hauptstadt für Kinder)」構想の一環として行 われたものである。ここでは,同構想の概要を確認した上で,MUT がそうした総合的な子ども政 策の中に組み込まれていることの意義について検討する。  「子どものための首都」構想は,2014年に市議会において議決された市の戦略目標のタイトルであ る(Stadt Monheim am Rhein 2018, 8)。この構想の下,同市では「すべての子どもや若者に,最適 な支援,教育を受け,魅力的な未来を築く機会を与えること」を目的として,「子ども,若者,家族に 優しいインフラを継続的に拡充して」きている(Stadt Monheim am Rhein 2018, 8)。この構想の下 でさまざまな事業が展開しているが,その多くは2002年以来,貧困からのネガティブな影響を防ぐ ことを目的に関連する民間団体と同市が連携して構築してきた Mo.Ki

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―  ―50

チェーンでは,出生から入職するまでの子どもの年齢段階を,Mo.Ki unter drei(0歳~ 3歳), Mo.Ki I(3歳~ 6歳),Mo.Ki II(6歳~ 10歳),Mo.Ki III(10歳~ 14歳),Mo.Ki IV(14歳以上) に区分し,それぞれに合わせた事業を展開している(Stadt Monheim am Rhein 2017, 2)。この年齢 段階区分に合わせて「子どものための首都」構想も構成されている。

 「子どものための首都」構想における諸事業は各年齢段階に応じて多種多様に展開されているが,

ここではローザ・パークス校の生徒たちの年齢段階にあたる「青年期/思春期」(Mo.Ki III および

IV に対応)を対象とした事業に絞って確認しておきたい。以下に挙げるのは,2019年‐2020年の 開発計画に記載されているものである(Stadt Monheim am Rhein 2018, 25を参照)。

 「親と若者のための相談所」は,心理カウンセリング,親と若者のための講座,家族相談を提供す るものである。「モンハイム・家族援助」は,親と子どものための講座(予防の時間)を提供するもの であり,家族援助実施団体連盟により実施されている。「青少年相談」では,一般的な相談のほか, 個別事案についての援助,若者就業支援,学校関連サービス,職業オリエンテーション等を提供し ている。「若者職業紹介所」は,法的な縦割りを超えた助言を行うものであり,職業安定所,ジョブ センター,青少年援助へとつなぐことによってサービスを提供している。「教育3」は,職業準備対策 を提供するものであり,自治体を横断した教育団体によって実施されている。「青少年活動」は,人 格の開発,青少年の参画,社会的情緒的な見守り,メディア・コンピテンシーに関する活動を提供す るものであり,青少年ハウス,バウムベルク青少年クラブ,ライン・カフェなどで実施されている。 そのほか,「読み書き障害および計算障害に対する支援」,「国際学級」,「インクルージョン支援員 派遣」,市民大学が提供している「第二の教育の道」などが展開されている。もちろん,MUT と関 わる「スクールソーシャルワークおよび学校心理カウンセリング」事業もここに加えられる。  このように,「青年期/思春期」段階における代表的な事業をピックアップしただけでも,数多く の事業が展開されているが,「子どものための首都」構想の下ではさらに多くの事業が行われている。

特に特徴的なものとして,「早期支援」段階(Mo.Ki unter drei に相当)のサービスである「Mo.Ki カ フェ」についてだけ,紹介しておきたい。Mo.Ki カフェは市内のバウムベルク地区とモンハイム地 区にそれぞれ1か所ずつ設置されており,3歳までの子どもを持つすべての親のための交流の場で あり,かつ各種相談のためのワンストップ窓口の役割を果たしている。ここには,家庭教育担当職員, 新生児訪問担当職員,助産師,カフェ担当職員が配置され⑹,乳幼児を育てている親が気軽に訪れ, 朝食をとったりコーヒーを楽しんだりするついでにさまざまな相談ができる体制が整えられてい る。さらには出産準備やベビーマッサージ,ヨガなどの講座のほか,父親座談会なども開催されて おり,孤立しがちな若い親同士の交流の機会も提供している(Stadt Monheim am Rhein 2018, 12)。 また,Mo.Ki チームのスタッフを交えて保健・医療システム,青少年援助あるいは労働行政の担当

者との相談ができるスペースも用意されている⑺。数多くの子ども支援のためのサービスが「子ど

ものための首都」構想の下で提供されている中で,Mo.Ki カフェはこのように,子育ての始まりか らあらゆるサービスへとつながりうるワンストップ窓口をカフェというカジュアルな形態によって 提供しているという点で,同構想の中心的な役割を持つ事業となっている。

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 さて,ここまで見てきたように,モンハイム・アム・ライン市では,「子どものための首都」構想 の下で,数多くの事業を展開してきている。そのような包括的かつきめ細かいサービス網の一部に 組み込まれる形で,MUT における多職種連携の基盤は構築されているのである。ここから, MUT に見られる多職種連携は,学校内外の境界線が曖昧化し,多様な専門職による活動領域のオー バーラップが生じてきていることを示していると考えられる。

おわりに―学校内における多職種携基盤と残される課題としての「時間」

 ここまで見てきたとおり,MUT における多職種連携は,子どもを巡る諸課題の総合性に由来す る学校と社会の相互浸透を背景としている。そのような領域において,多様な専門性や組織に足場 を持つ専門職がチームとして協働することで,教員の職務領域の無限定な拡大を防ぎつつ,学校の 役割拡大に対応することが可能となっている。つまり,学校の内外の境界を曖昧化させることで, 教員の職務の限定性の維持と多職種連携による学校の機能の拡充を両立させる可能性が開かれてい ると言える。  ローザ・パークス校の MUT の事例から得られたこの知見は,日本における「チーム学校」の取り 組みや教員の負担軽減の取り組みに対しても有用な示唆を与えるものである。教員の職務の無限定 性からくる際限のない負担の拡大などの問題は,学校の社会的役割の拡大が学校内部で処理しなけ ればならない課題の増大として処理されていることを示している。それでは学校の機能の拡充は教 員の業務負担の増大につながってしまう。教員の負担増大を防ぎつつ「チーム学校」を機能させる ためには,学校内外の境界線の曖昧化,すなわち多職種連携の場となるべき学校と社会の相互浸透 領域をいかに形成できるかが重要であると言える。  なお,PÄDAGOGIK 誌における MUT の事例報告は,華々しい成果のみを記しているわけでは ない。多職種連携による活動は教員個人による活動と比べて,会議一つをとっても調整のために多 くの時間を必要とし,短期的には負担は増すことが指摘されている(Croonenbroeck, V., Dombois, C. 2017, 13)。時間という「躓きの石」(Croonenbroeck, V., Dombois, C. 2017, 13)とどう向き合うか。 これもまた,学校の機能拡充と教員の負担軽減の両立を目指す上で避けることのできない課題であ る。 【付記】  本研究は JSPS 科学研究費補助金基盤研究(B)「教育領域における専門業務のアウトソーシング と教育専門職の変容に関する実証的研究(課題番号17H02661)」(研究代表者:橋本鉱市)による研究 成果の一部である。 【注】 ⑴なお,1週間当たりの教員の責任授業時数の規定は州によって異なっているが,その分布は,基礎学校27-28時間, 基幹学校26-28時間,実科学校25-27時間,ギムナジウム23-25時間,職業学校23-25時間,特別学校(促進学校)25-27

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―  ―52 時間となっている(アベナリウス2004, 213を参照)。 ⑵ただし,学校における教員の連携相手となる諸職種(教育士(Erzieher/-innen)やソーシャルワーカー,社会教育士 (Sozialpädagoge)など)のうち,教育士については,終日学校の運営において大きな役割を担っている一方で,他の 職種と異なり,大学における養成によらない「安価で」「大量に」配置可能な人材として活用されている実態が指摘 されている(布川 2018, 33など)。 ⑶モンハイム・アム・ライン市に関する情報は,特記しない限り,同市 HP 上に公開されているものに拠る。(https:// www.monheim.de/:2020年8月23日最終アクセス) ⑷モンハイム・アム・ライン中等学校およびローザ・パークス校に関する情報は,特記しない限り,同校 HP 上に公開 されているものに拠る。なお,校名改称の経緯に関しては,同 HP 内の2019年4月6日のニュース欄を参照した。 (https://sekundarschule.monheim.de/:2020年8月23日最終アクセス)

⑸ Mo.Ki とは Monheim für Kinder(子どものためのモンハイム)が略されたものである。

⑹ Mo.Ki カフェへの職員配置や開講講座等については,市 HP において公開されている市民向けのパンフレットを参 照。  (https://www.monheim.de/fileadmin/user_upload/Media/Dokumente_NEU/51_Kinder_Jugend_Familie/05_ MoKi/2018_Mo.Ki_Cafe_Angebote.pdf:2020年9月25日最終アクセス) ⑺各部門の担当者との相談スペースについての情報は,市 HP を参照。  (https://www.monheim.de/kinder-jugend/unterstuetzung-fuer-familien-von-anfang-an/moki-cafes:2020年9月25 日最終アクセス) 【引用・参考文献】

Croonenbroeck, V., Dombois, C. (2017). Multiprofessionelle Unterstützer-Teams – MUT: Entwicklungsverläufe im Team begleiten. In: PÄDAGOGIK (11/2017), S. 9-13.

Huber, S. G., Ahlgrimm, F. (Hrsg.) (2012). Kooperation: Aktuelle Forschung zur Kooperation in und zwischen Schulen sowie mit anderen Partnern. Münster: Waxmann.

Schüpbach, M., Slokar, A., Nieuwenboom, W. (Hrsg.) (2013). Kooperation als Herausforderung in Schule und Tagesschule. Bern: Haupt.

Stadt Monheim am Rhein (2017). Präventionsleitbild: Mo.Ki -Monheim für Kinder®.

Stadt Monheim am Rhein (2018). Hauptstadt für Kinder: Entwicklungsplanung für die Jahre 2019-2020. アベナリウス,ヘルマン(結城忠監訳)(2004)『ドイツの学校と教育法制』教育開発研究所。 髙谷亜由子(2018)「ドイツの生徒指導体制」藤原文雄編著『世界の学校と教職員の働き方―米・英・仏・独・中・韓との 比較から考える日本の教職員の働き方改革―』学事出版,176-183頁。 中央教育審議会(2015)「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」(平成27年12月27日答申) 布川あゆみ(2018)『現代ドイツにおける学校制度改革と学力問題―進む学校の終日化と問い直される役割分担のあり 方―』晃洋書房

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Abstract

Multi-professional collaboration in schools has become a challenge in Germany in recent years due to the expanding social role of schools. In Japan as well, the "school as a team" is nowadays being proposed, and the demand for multi-professional collaboration in schools is a common situation in Japan and Germany. The paper therefore considers the case of the city of Monheim am Rhein in North Rhine-Westphalia, which places schools in a comprehensive child policy and develops conditions for multi-professional collaboration.

Through the analysis, the following findings were obtained. The city has established multidisciplinary teams in each school as part of its "Capital for Children" initiative as a comprehensive child care support policy. Multi-professional collaboration to support students with difficulties enables the school to respond to the expanding role of school while preventing the unrestricted expansion of individual teachers' workloads. Multi-professional collaboration teams are based in the interpenetration area of school and society.

As mentioned above, multi-professional collaboration has the potential to expand the function of school while avoiding excessive increases in teachers' workloads. However, multi-professional collaboration requires a lot of time to coordinate members' schedules. This is also a challenge for the realization of the "School as a Team" in Japan.

Keywords: Multi-Professional Collaboration in Schools, Germany, Childcare Support, Reducing the workload of teachers

The Expanding Social Role of Schools and Multi-Professional

Collaboration in Germany:

A Case Study of the City of Monheim am Rhein

Yoshihiro IMOTO

参照

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