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2010 年 6 月 30 日発行 国際排出権取引市場の現状と今後の展望 ~ 世銀レポートにみるリーマン ショック後の姿 ~

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2010 年 6 月 30 日発行

国際排出権取引市場の現状と今後の展望

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* 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではあ りません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが、その 正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更さ れることもあります。 本誌に関するお問い合わせは みずほ総合研究所株式会社 調査本部 電話(03)3591-1329 まで。

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本誌に関するお問い合わせは みずほ総合研究所株式会社 調査本部 電話(03)3591-1329 まで。 ¡

リーマン・ショックにより 2008 年後半から排出権価格は急落、現在も低迷中

・ リーマン・ショックに端を発した世界的な金融経済危機の影響を受け、排出権価格は急 落し、多くの金融機関が排出権関連業務の縮小・撤退を余儀なくされた。 ・ 京都議定書が発効した2005 年から一貫して拡大基調を続けてきた国際排出権取引市場 は2009 年、大きな試練を迎えた。 ¡

2009 年の国際排出権取引市場は、取引量の増加で規模はかろうじて増加

・ 2009 年に国際排出権取引市場全体で行われた取引は、数量ベースで約 78 億トン(CO2 換算)であり、市場規模は1,400 億ドルを超え、前年比 6%増であった。2008 年と比べ て排出権価格は4 割程下落したものの、取引量が 1.7 倍程度増えたため、市場規模はか ろうじて増加傾向を維持した。 ・ EU での取引が、依然として取引全体の 7、8 割を占め、残りが京都メカニズム関連の 取引となっている。 ¡

クリーン開発メカニズム(CDM)関連の取引が減り、各国に割り当てられた排

出枠(AAU)の取引が増加

・ 2009 年、途上国での排出削減事業の実施を通じて排出権を取得するクリーン開発メカ ニズム(CDM)関連の取引が減り、京都議定書上の削減義務を負う国同士による、各 国にもともと割り当てられた排出枠(AAU)の取引が増えた。

・ AAU 取引増加の背景は、複数の国での GIS(Green Investment Scheme)の進捗。 ・ CDM プロジェクトは、8 割が中国を始め、アジアで行われている状況は以前と変わら ないものの、アフリカ諸国や中央アジア諸国で実施されるものが増えた。プロジェクト の種類は、水力・風力・バイオマス発電といった再生可能エネルギー関連と、省エネ・ 燃料転換といったCO2削減プロジェクトが市場の3 分の 2 を占めた。 ¡

2012 年までの排出権の需給予測では、需給ともに大幅に下方修正

・ 需要量が減った理由は、経済危機により世界的に排出量が減り、各国政府・企業の排出 権需要が大きく減ったことである。 ・ 供給量が減った理由は、CDM プロジェクトの小規模化、排出権発行までの手続きの長 期化のほか、経済危機によりプロジェクトへの投融資を呼び込みにくくなっているこ と、さらに2013 年以降の国際的な温暖化防止の枠組みが不透明なため、新たなプロジ ェクト開発が減っていることが挙げられる。 ¡

今後の市場動向は、2013 年以降の枠組みでの排出権取引の扱いが焦点に

・ 経済危機により世界的に温室効果ガス排出量が減ったため、2012 年までは、各国がこ れ以上排出権を活発に取得することはないだろう。 ・ 2013 年以降の排出権の需給を左右する最大の要因として、各国にどのような排出削減 義務が課せられることになるかや、CDM プロジェクト等により発生する排出権がどの ように位置づけられるか、さらに新たな国際排出権取引ルールが考案されるかが注目さ れる。 〔政策調査部 山本美紀子〕

要 旨

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1. はじめに 2008 年後半、リーマン・ショックに端を発した世界的な金融経済危機の影響を受け、排出 権価格は急落した。さらに、金融危機により、それまで排出権取引に積極的に参加してきた リーマン・ブラザーズやベア・スターンズなど海外の大手金融機関が破綻し、その他の金融 機関でも排出権関連業務の縮小・撤退を余儀なくされた。排出権価格は2009 年 2 月に底を打 ち、景気回復とともに徐々に持ち直しつつあるが、いまだ低迷中である。また、2009 年は、 年末に京都議定書以降の次期枠組みについて議論する国連気候変動枠組み条約第15 回締約国 会合(COP15)が開催されたものの、明確な合意に至らなかったことも、将来の排出権取引 市場への不透明さが増し、排出権価格が低迷する要因となっている。 京都議定書1が発効した2005 年に本格的に始動した国際排出権取引市場は、2008 年まで一 貫して拡大基調を続けてきたが、このように2009 年、大きな試練を迎えた。こうした状況の 下、実際、2009 年の排出権取引市場では、どのようなプレーヤーがどのような取引を行った のか。また、その傾向は、それ以前と比べてどのように変化したのか。以下では、世界銀行 が2010 年 5 月末に公表した“State and Trends of the Carbon Market 2010” を参考に、リー マン・ショック以降の国際排出権取引市場の動向を概観したうえで今後を展望する。 2. 国際排出権取引市場の構造と取引される排出権の種類 現在の国際排出権取引市場は、図表1にあるように、主に、京都議定書(以下、議定書) の京都メカニズム2に基づく排出権を取引する市場と、EU 域内の排出権取引制度(EU-ETS) の市場から成っている。また、国としては京都議定書から離脱している米国の、州レベルや 民間企業主導の排出権取引制度が始動しているほか、豪州でも現在、排出権取引制度の導入 が検討されている。 ここで、取引対象である排出権の種類を確認すると、図表 1 の点線枠内に示したように、 京都議定書により取引が認められている京都メカニズムに基づく排出権と、EU-ETS のもと 参加国が国内企業に割り当てる排出枠(EUA)がある。前者の京都メカニズムに基づく排出 権には、クリーン開発メカニズム(CDM)、および共同実施(JI)事業の実施により得られ る排出権であるCER/ERU と、排出削減義務を課せられた先進国に割り当てられる排出枠で あるAAU がある。CER については、2008 年以前でも一定の手続き3を経れば、排出削減事 業を実施して取得・取引が可能であるのに対し、ERU と AAU は 2008 年以降に取引が可能 1 京都議定書とは、2008~2012 年までの先進国の温室効果ガス排出量の削減義務を定めた国際取り決め。 2 京都メカニズムとは、京都議定書で温室効果ガスの排出削減義務を課せられた国(主に先進国)が、国内の 対策だけで目標を達成できない場合に。他国で行う排出削減事業や植林事業、他国との排出権取引を活用し て達成することを認める制度で以下の3 種類がある。クリーン開発メカニズム(CDM)は、先進国(企業) が、排出削減義務のない途上国で排出削減事業を行い、実現した削減量を排出権として取得するもの。共同 実施(JI)は、先進国(企業)が、別の先進国で排出削減事業を行い、実現した削減量を排出権として取得 するもの。排出取引(ET)とは、先進国同士が約束期間に割り当てられた排出枠の取引を行うもの。 3 CDM/JI 事業の実施にあたっては、投資国および投資受入国(ホスト国)の政府承認が必要なほか、事業に よる排出削減量を算定・証明したうえで国連に届出・登録する手続きが必要となっている。

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2 となった。後者の EU-ETS は、京都議定書の約束期間(2008~12 年)以前より、第一フェ ーズ(2005~07 年)が試行的に始まり、現在は第 2 フェーズ(2008~12 年)にある。 各市場の関係をもう少し詳しくみると、EU-ETS のリンキング指令4により、EU-ETS の対 象企業は、京都メカニズムを活用して得た排出権を一定の制限の下、EUA に転換して排出枠 に充当できることから、京都議定書上の市場とEU-ETS 市場は重なり合う構図となっている (転換できるのは、CER と ERU のみ)。また EU-ETS には、08 年以降ノルウェー、アイ スランド、リヒテンシュタインがEU 域外から取引に参加している。 現在、日本でも、EU-ETS と同じキャップ&トレード型5の国内排出権取引制度の導入に向 けた検討が開始されているものの、制度設計はこれからという段階である。他方、日本政府 および企業は、京都議定書の目標達成のために京都メカニズムを活用して排出権の取得を進 めており、国際排出権取引市場における重要なプレーヤーとなっている。 (図表 1)現在の国際排出権取引市場の構造(イメージ) 上記市場で取引される排出権の種類 <京都メカニズムに基づく排出権>

・ クリーン開発メカニズム(CDM)プロジェクトから得られる排出権 CER(Certified Emission Reduction) ・ 共同実施(JI)プロジェクトから得られる排出権 ERU(Emission Reduction Unit)

・ 京都議定書で排出削減義務を課せられた先進国に割り当てられる排出枠AAU(Assigned Amount Unit) <EU-ETS に基づく排出権>

・ EU-ETS に参加している各国が、国内企業に割り当てる排出枠 EUA(EU-Allowance)

(注)図形の大きさと市場の規模とは関係ない。 (出所)各種資料を基にみずほ総合研究所作成

4 Directive 2004/101/EC of the European Parliament and of the Council of 27 October 2004 amending

Directive 2003/87/EC establishing a scheme for greenhouse gas emission allowance trading within the Community, in respect of the Kyoto Protocol’s project mechanisms(Official Journal L 338, 2004. 11.13)

5 個々の企業等を対象に一定期間内の排出量の上限を設定した上で、企業間の排出権取引を認めるもの。 京都議定書上の市場

CDM

JI

CER ERU

EUA

EU-ETS市場

米国のシカゴ 気候変動取引所 (2006年開始) 米/北東部10州の 排出権取引制度 (2009年開始) 転換可能 豪州の 排出権取引制度 (2013年開始予定)

EUA

日本企業 日本政府 ノルウェー、アイスランド リヒテンシュタイン(08年以降) AAU

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3. 取引市場全体の概観~取引量の増加で市場規模はかろうじて増加~ 2009 年に国際排出権取引市場全体で行われた取引は、数量ベースで約 78 億トン(CO2換 算、以下省略)であり、これに価格をかけて算出される市場規模は 1,400 億ドルを超え、前 年比 6%増であった(図表 2)。2008 年と比べて排出権価格は大きく下落したものの、取引 量が1.7 倍程度に増えたため、市場規模はかろうじて増加傾向を維持した格好だ。 取引のうち EU-ETS での取引が、依然として取引全体の 7、8 割を占め、残りが京都メカ ニズム関連の取引となっている。2009 年にみられた特徴的な動きとしては、CDM プロジェ クトの実施によって一次的に取得される排出権(CER)の取得(プライマリーCDM)や、他 の企業が一次取得したCER を二次的に取得するセカンダリーCDM の取引が減る一方、京都 議定書の削減義務を負っている国同士の取引で、2008 年以降に可能となった AAU の取引が 増えたことである。 以下では、「EU-ETS 市場」と「京都議定書上の市場」の動向について詳細にみていく。 (図表 2)国際排出権取引市場の推移 11.0 21.0 31.0 63.0 0.3 2.4 11.0 11.0 5.4 5.5 4.0 2.1 0.3 0.3 0.2 0.4 1.6 0.2 283.0 579.0 1005.3 1184.7 64.3 262.8 175.4 67.3 87.7 65.1 5.2 26.8 3.5 3.7 1.6 5.9 20.0 2.8 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 2006 2007 2008 2009 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 【2006年】 17億ト ン 362億ドル 【2008年】 46億ト ン 1340億ドル 【2009年】 78億ト ン 1411億ドル 取引量 (億トン) 市場規模 (億米ドル) 取引量 市場規模

(資料)World Bank “State and Trends of the Carbon Market 2010” より作成

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4 (1) EU-ETS での取引動向~経済危機の影響で EUA 価格は大きく下落~ 2009 年に取引された EUA は約 60 億トンで、市場規模は 1,180 億ドルとなり、前年比 18% 増であった(図表2)。しかし、EUA の価格は、前年比 42%も下落し、年平均 18.7 ドルで 推移した。図表3 にある通り、EUA の排出権価格は、2008 年の夏、つまりリーマン・ショ ック前に30 ユーロ前後まで上昇していたが、経済危機の影響を受けて 2009 年 2 月に 9 ユー ロまで下がり、その後も低迷を続けている。経済危機で需要が大きく落ち込み、企業の生産 水準が大きく下がったため、EU-ETS 対象企業が排出権を購入する必要がなくなり、EUA の 価格が下がり、それに連動してCER の価格も下がったのである。さらに、2008 年から 2009 年にかけて、EU-ETS 対象企業の中には、2009 年に割り当てられる排出枠が余剰となること を見越して、排出枠を売って現金化し当面の資金繰りに充てる動きもみられ、この動きが排 出権価格の下落に拍車をかけた。2009 年 4 月以降、EUA 価格は 13~16 ユーロの間で推移し ている。 (2) 京都メカニズム関連の取引状況~CDM/JI 関連の取引は減り、AAU 取引は増加~ a. CDM 関連の取引 京都メカニズム関連の取引に関しては、CDM プロジェクトの実施による排出権の取得(プ ライマリーCDM)が、09 年には 2 億 1,100 万トン分行われた(図表 2)。これは、2008 年 と比べて48%減、2007 年と比べると 62%もの減少であった。CER 価格も、1 トンあたり約 12.7 ドルと、2008 年価格(16.1 ドル)と比べ 21%減となったため、2009 年のプライマリー CDM の市場規模は、約 27 億ドル(前年比 59%減)となった。 2008 年にブームを迎えたセカンダリーCDM の取引は、2009 年には失速し、取引量がかろ うじて10 億トンを超えた状況だ。図表 3 にみられるように、セカンダリーCER および CER のスポット価格は、EUA 価格と同様、2008 年と比べて 3 割程下落した。そのため、セカン (図表 3)2008 年 4 月~2010 年 4 月にかけての排出権(EUA, CER)の価格推移

(資料)World Bank “State and Trends of the Carbon Market 2010” P.5 Figure 1 EUA 価格

セカンダリーCER 価格

CER 価格(スポット)

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ダリーCER の市場規模は、175 億ドルに縮小した。 このように、2009 年は、金融危機を背景に、排出権取引市場で積極的に取引を行う金融機 関の減少や、リスクの高い排出権への投資の削減により、CER を生み出す CDM プロジェク トへの投資自体が減った。また、以前のように、プライマリーCER とセカンダリーCER との 価格差が縮小したことも、その価格差を利用して利益を得る金融取引が減る要因となった。 さらに、金融危機の影響をあまり大きく受けずに済んだ金融機関のうち、CER 不足に直面し、 CER を購入する必要に迫られた金融機関が、CER の取得業務で実績のある仲介業者から高価 な排出権を調達する代わりに、経営不振にある仲介業者から、排出権を安く買い取る動きが みられ、新たなCER に対する需要が低下した面もある。 b. JI 関連の取引 排出権の取得が2008 年から可能となった JI プロジェクトに関しては、ERU の取得量 が2,600 万トンと 2008 年をわずかに上回る レベルで推移した。しかし、ERU 価格は、 前年より8%下がったため、市場規模は 2008 年の3.6 億ドルから 3.5 億ドルに縮小した。 ERU は、CER に比べて市場での流通量が少 なく、手続き面での不確実性も残ることから、 CER の価格に対して 1~1.5 ユーロ割り引か れた価格で取引された。 以上をまとめると、京都議定書の第一約束 期間の2 年目である 2009 年は、2008 年後 半の経済危機の影響を受け、EU-ETS の対 象企業と、京都議定書で削減義務を課せられている先進国の企業の双方で、CDM/JI プロジ ェクトの実施により生み出される排出権に対する需要が減少したため、取引量、価格共に大 きく下落したのである(図表4)。 c. AAU 関連の取引 他方、京都議定書で削減義務が定められている先進国に割り当てられる排出枠であるAAU の取引は、前年比7 倍の 20 億ドル規模に増大した。多くの先進国では、AAU の取引は、取 得予定のCER および ERU の発行が遅れた場合にのみ、必要な排出枠と手持ちの排出枠との ギャップを埋めるために取引されるものとの位置づけがなされていたが、近年、複数の国で、 GIS(Green Investment Scheme)の開発が進捗したことから、取引の活発化につながった。 GIS とは、AAU の移転に伴う資金を、温室効果ガスの排出削減その他環境対策を目的に使用 するという条件の下で取引するスキームである。このGIS の下で行われる AAU 取引であれ ば、余剰のAAU をその保有国から購入しても実質的な排出削減につながらないという従来の 批判を免れることができる。そのうえ、AAU を取引する際は、取引相手国政府と特定量の排 (図表 4)CDM/JI プロジェクト実施による排出権取 引規模と平均価格推移(2002~2009 年)

(資料)World Bank “State and Trends of the Carbon Market 2010” p.37 Figure 10

(年)

年間平均価格(米ドル/t)

年間取引

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6 出枠の売買契約を締結することになるため、CDM や JI のようなプロジェクト実施に伴うリ スクや、購入できる排出権の量がプロジェクトの進捗に左右される事態が避けられるという メリットもある。 2009 年に取引された 1.5 億トンの AAU の半分程度は、日本がチェコ共和国とウクライナ 国から購入したものである。日本政府は2009 年 3 月、チェコ共和国政府と図表 5 に示した内 容で、AAU を 4,000 万トン分購入する契約を締結した。これをみると、チェコでは、今後 AAU の売却収入を活用して、住宅部門における温暖化対策が進められること、また日本から の環境技術移転を促進する取り組みが進められることが想定される。 AAU の価格は、需要増を反映して一定のレベルを保持し、2009 年、1 トンあたり約 10 ユ ーロで取引された。 (図表 5)チェコ共和国との割当量(AAU)購入契約の概要 (出所)独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構プレスリリース「チェコ共和国とGISに基づく 割当量購入契約を締結―チェコ共和国の環境対策を進めるとともに日本の環境技術の移転を促進 ―」2009年3月31日より作成 4. 排出削減プロジェクトの実施状況 (1) CDM プロジェクトの実施状況 前述の通り、2009 年のプライマリーCDM の取引規模は、2008 年と比べて 46%も縮小した。 では、どのような国でどのようなプロジェクトが行われ、排出権は誰が取得したのか。 まず、ホスト国(プロジェクトが実施された国)別シェアと、プロジェクトの種類別シェ アについてみる。過去の市場との変化を把握するため、市場規模の前年比伸び率が最も高か った2006 年に実施された CDM プロジェクトの状況と比べてみた。 図表6 に示した 2006 年のデータをみると、CDM プロジェクトの 6 割が中国で行われてお り、次いでインド、その他アジア諸国と続いており、アジア地域のプロジェクトが全体の 8 割を占めた。また、プロジェクトの種類は、フロンガス破壊、N2O(一酸化二窒素)削減、 メタンガス回収など、CO2以外の温室効果ガスを削減する事業のシェアが高かった6。 6 その背景には、プロジェクトの実施により削減される温室効果ガスの種類によって、事業一件あたりの削減 規模が異なることがある。フロンガス、N2O、メタンガスの温室効果は、それぞれ CO2の150~11,700 倍、 310 倍、21 倍であるため、CO2の削減事業よりも費用対効果の高い事業となり、選好された。

(1) 契約相手先 チェコ共和国環境省(Ministry of the Environment of the Czech Republic) (2) 購入AAU 量 4,000 万トン (3) チェコ共和国における環境対策活動 主に以下の種類に該当するプロジェクトをチェコ共和国環境省が新エネルギー・産業技 術総合開発機構の了解を得て選定し、環境・地域住民に配慮して実施。 a) 住宅部門での省エネ促進 b) 住宅部門での再生可能エネルギー利用促進 c) 住宅部門でのパッシブエネルギー基準での建築促進 (4) 日本からの環境技術移転を促進するための取組 (5) チェコ共和国における環境対策活動のモニタリング・監査の手続

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他方、2009 年のデータ(図表 7)をみると、CDM プロジェクトの 8 割が、中国を始め、 アジア地域で行われている状況は依然として変わらないものの、新たに、アフリカ諸国や中 央アジア諸国で実施されるプロジェクトが増えたことが特徴として挙げられる。この背景に は、中国、インド、ブラジルといったこれまで CDM が多く実施されてきた国々では、容易 にプロジェクト化できる案件が減ってきたことと、その他のホスト国で、景気低迷に伴い投 資環境が全般的に悪化したことがある。 (図表 6)CDM プロジェクトのホスト国とプロジェクトの種類別シェア(2006 年) (図表 7)CDM プロジェクトのホスト国とプロジェクトの種類別シェア(2009 年) 中国 72% その他 アジア 5% ブラジル 3% その他 ラ米諸国 4% その他 2% インド 2% アフリカ 7% 中央アジア 5%

(資料)World Bank “State and Trends of the Carbon Market 2010” より作成

バイオマス発 電 6% 水力発電 20% 風力発電 16% その他再生 可能エネル ギー 0% 省エネ・ 燃料転換 23% 埋立場メタ ンガス回 収、 廃棄物処 理 11% 植林・ 農林業 1% その他 4% N2O削減 3% 炭鉱メタン ガス回収等 16% 〔排出権の数量ベース〕 中国 61% ブラジル 4% その他 アジア 7% インド 12% その他 ラ米諸国 6% その他 7% アフリカ 3%

(資料)World Bank “State and Trends of the Carbon Market 2007” より作成

バイオマス 発電 3% 水力発電 6% 風力発電 3% その他再生 可能エネル ギー 2% 省エネ・ 燃料転換 9% 埋立場メタン ガス回収 5% 植林・ 農林業 1% その他 13% フロンガス 破壊 36% N2O削減 13% 動物糞尿の メタンガス回 収 2% 炭鉱メタン ガス回収 7% 〔排出権の数量ベース〕

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8 また、プロジェクトの種類は、2006 年には、CO2以外の温室効果ガスを削減する事業のシ ェアが高くなっていたが、2009 年になると、逆に、水力・風力・バイオマス発電といった再 生可能エネルギー関連プロジェクトと、省エネ・燃料転換プロジェクトとCO2を削減する事 業が、市場の3 分の 2 を占めるようになった。これは、脚注 4 にもある通り、フロンガス、 N2O、メタンガスの温室効果が CO2より高く、CO2の削減事業よりも費用対効果の高い事業 となるため、プロジェクト開発者側からの選好度が高かったが、それらの案件が各地で先行 して実施されてきたことにより、実施しやすい大規模案件のポテンシャルが減ってきたこと がある。 (2) CDM/JI プロジェクト実施から得られる排出権の買い手 次に、CDM/JI プロジェクトの実施から得られる排出権の購入割合について、2006 年のデ ータと比べてみる(図表8)。イギリスのシェアが 2006 年から 2009 年にかけて減っている ものの、いずれもEU-ETS が導入されている EU 諸国による購入割合が 8 割以上となってい る。なお、排出権を取り扱う金融機関が、イギリスに本拠地を置いているために同国のシェ アが必然的に高くなっているが、実際、それらの金融機関が購入した排出権は、最終的にEU 各国の企業に渡っている。 また、日本のシェアが 2009 年に 13%にまで増えている背景は、前述の通り、経済危機に よりEU-ETS 対象企業が排出権を購入する必要性が低下したため、相対的にシェアが高まっ たことによる。 (図表 8)CDM/JI プロジェクトの実施から得られる排出権の購入主体別シェア (注)2006 年データの「バルト海沿岸国」には、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、ドイツ、デン マーク、アイスランドが含まれる。

(資料) World Bank “State and Trends of the Carbon Market 2007 および 2010” より作成

〔2006 年〕 〔2009 年〕 イギリス 37% 日本 13% その他 1% スペイン・ポルトガ ル・イタリア 7% ドイツ・スウェーデ ン・その他バルト 海沿岸国 20% オランダ その他EU 22% イギリス 50% その他 7% 日本 7% バルト海沿 岸国 3% スペイン・ イタリア 16% オランダ その他EU 17%

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5. 今後の市場展望 (1) 2012 年までの排出権の需給予測~以前の予測より大幅減となった需給量~ 京都議定書が定める排出削減の約束期間は、2008 年~2012 年までである。この 5 年間に、 京都議定書の目標達成のために排出削減が義務付けられている国(企業)が必要とする排出 権の需要量と、それらの国(企業)が京都メカニズムを活用して取得することのできる排出 権の供給量とを比較したものが図表 9 で ある。 政府の需要量は、EU 諸国が 3.5 億トン、 日本が 1.0 億トンと推計されている。EU および日本の民間企業の需要量は、それぞ れ5.4 億トン、2.0 億トンとなっている。 両者を合わせると、2012 年までの排出権 の需要は、合計約12 億トンである。 他方、国連に申請されている CDM/JI プロジェクトから2012 年までに発生する 排出権も約12 億トン程度と見込まれてお り、これに加えてポテンシャルが18 億ト ンもあるAAU がどれだけ取引されるかに よって、排出権が供給過多になる可能性が あるという状況である。 世界銀行が2007 年時点に行った、2008~2012 年までの排出権の需要予測では、排出権に 対する需要は、EU と日本の政府および企業の需要を合わせて 20~25 億トン程度となってい た。したがって、需要量の見込みが、その段階に比べて、ほぼ半減されたことになる。また、 需要量のみならず、CDM/JI プロジェクトから 2012 年までに生み出される排出権の供給量も、 2007 年時点の予測値である 25 億トンから 12 億トンにほぼ半減されている。 (2) 需給減の背景~経済危機と将来枠組みの不透明さ~ 需要量が大幅に減った第一の背景は、2008 年に起こった金融経済危機により、世界的に経 済活動の停滞に伴い排出量が減ったことから、各国政府・企業の排出権に対する需要も大き く減ったことである。 実際、2009 年の EU-ETS 対象企業の温室効果ガス排出量は、2008 年実績に比べ 11%以上 も減少した。EU 経済は回復しつつあるものの、EU-ETS の第 2 フェーズ、つまり 2012 年ま では、排出量が、割り当てられた排出枠を超えることはないと見込まれている。 さらに、EU27 か国全体では、現在計画されている温暖化対策が追加的に実施されれば、 EU の 2020 年までの目標である 90 年比 20%削減も達成できると予測されている。具体的に は、追加対策によって90 年比 14%を EU 域内で達成し、残りを京都メカニズムの活用による (図表 9)2008~2012 年までの排出権需給

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日本民間企業 日本政府 EU民間企業 EU政府 EU 日本 CDM 需要 供給 JI (億トン) AAU

(資料)World Bank “State and Trends of the Carbon Market 2010” より作成

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10 排出権の購入等で賄う予定である。しかし、現時点では、2013~2020 年までに購入が必要と される毎年約 1 億トン分の排出権については、将来の温暖化防止の国際枠組みがどのような ものになるか明確になっていないことから、購入契約が締結されているものはほとんどない 状況だ。 このように、需要量が大幅に減った第二の要因は、2013 年以降の京都議定書に続く国際的 な枠組みが決まっておらず、今後、長期的に排出削減を進める規制、政策が導入されるのか が不透明なため、2013 年以降に必要となる排出権に対して、買い手が購入を控えていること がある。 日本に関しても、京都議定書の目標達成に向け、現在までに民間企業が契約済みの排出権 (CER、ERU、AAU)は、既に 3 億トンを超えているが、今後、これ以上の追加的な排出権 購入契約を民間企業が締結する可能性は低いとして、2012 年までの需要量が 2 億トンに下方 修正されている。日本政府の需要に関しても、2012 年までに調達予定である年間 1 億トンの 排出権が、2009 年 3 月時点でほぼ調達済みであることが公表され、その後の調達計画は未定 となっている。 他方、供給量の予測値が下がった理由は、最近の CDM プロジェクト一件あたりのサイズ (生み出される排出削減量)が以前に比べて小規模になっていることや、プロジェクトの申 請から登録、排出権の発行までの期間が長期化・遅延化していること、経済危機によりプロ ジェクトへの投融資を呼び込みにくくなっていること、さらに2013 年以降の枠組みが不透明 なため、新たなプロジェクト開発の動きが鈍っていることが挙げられる。 (3) 市場を展望する上での注目点 世界銀行の需要予測には、京都議定書の排出削減義務を事実上、放棄したカナダの需要は 含まれていない。カナダが京都議定書の削減目標を達成するためには、約 9 億トンの排出権 が不足すると試算されている。また、日本および EU の景気回復の動向によっては、排出権 の需要量が現在の予測値よりも増える可能性もあるだろう。そのほか、EU-ETS の第 3 フェ ーズ(2013~2020 年)で対象企業に課せられる排出削減義務の厳しさや、排出枠の割り当て 方法、使用できるCER/ERU の量なども、排出権需要を左右する要素となる。 他方、供給面の変動要因もある。図表9 に示した AAU の供給量は、GIS の枠組みを通じた 供給量である。しかし、そもそも京都議定書で削減義務が課せられた国々が保有する余剰の AAU 全体は、GIS の枠組みを通じた供給量の 6 倍近くもあり、可能性は高くないとみられる が、GIS の枠組み以外で AAU が大量に市場に出回るようになれば、圧倒的な供給過剰により 排出権の価格が暴落する事態も起こり得よう。 したがって、今後、2012 年までの排出権取引市場を見通すにあたっては、大量排出国の経 済情勢や政策面の変化、また大量の余剰排出枠を持つ国々の動向を注視する必要があるだろ う。2013 年以降の市場動向については、現時点では、国際的な枠組みの先行きが不透明であ るにもかかわらず、欧州の金融機関による排出権価格予想は、図表10 の通り、2020 年に向

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けて上昇基調にある。それは、市場の大半を占めているEU-ETS 市場が 2013~2020 年に第 3 フェーズを迎え、対象企業に対する排出削減のプレッシャーがこれまで以上に強くかかって くることが確実だからであろう。さらに、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)等の 場で行われる京都議定書に続く国際枠組みの行方によって、価格予想は大幅に変動する可能 性があり、枠組みの決定過程で展開される議論から、その方向性を見定めていくことが必要 だ。 (図表 10)欧州金融機関による排出権価格予想(ユーロ/トン) 2008~2012 年 2013~2020 年 金融機関名等 セ カ ン ダ リ ー CER 価格 EUA 価格 セ カ ン ダ リ ー CER 価格 EUA 価格 バークレーズ 12-18 13.5-24 20 35 ドイツ銀行 n.a. 25 n.a 48 オルベオ(注) 15.9 18.8 n.a 30.1 (注)フランスのソシエテ・ジェネラル銀行と化学品メーカーであるローディアが設立した排出権取引共同 事業会社。

(資料)World Bank “State and Trends of the Carbon Market 2010” より作成

6. おわりに 以上みてきたように、京都議定書の約束期間が開始した2008 年、世界的な経済危機に見舞 われ、これまで拡大基調であった排出権取引市場は水を差された状況だ。とはいえ、排出権 価格の低下に伴い、市場規模こそあまり伸びなかったものの、取引量自体は前年比 70%近く 伸び78 億トンの取引が行われた。排出権価格の低下を機に、京都議定書の削減目標を満たす ために必要な排出枠として、AAU を一気に調達する動きもみられた。 経済危機によって世界的に排出量が減ったため、2012 年までは、各国がこれ以上排出権を 活発に取得することはないだろう。今後の市場動向は、やはり2013 年以降の国際的な温暖化 防止の枠組みで、排出権取引の扱いがどうなるかにかかってくる。京都議定書に続く枠組み に関する交渉は、2010 年末の COP16 では決着せず、具体的な決定は 2011 年末の COP17 に 持ち越されるとの見通しが大勢を占めている。ただ、いずれにしても、世界の排出削減を経 済効率的に達成するためにも、他国で実現した排出削減量を排出権として取得・取引できる 仕組み自体はなくなることはないだろう。2013 年以降の排出権の需給を左右する最大の要因 として、各国にどのような排出削減義務が課せられることになるかや、CDM/JI プロジェク トにより発生する排出権がどのように位置づけられるか、さらに新たな国際排出権取引ルー ルが考案されるかが注目される。 また、EU のほかに現在、米国や豪州、韓国等でも国内排出権取引市場の創設へ向けた動き が活発化していることも国際排出権取引市場の動向に大きな影響力を持っている。仮に、国 連の枠組み外で、広範囲の国際的な連携が実現し、同様のルールに基づく国内排出権取引制

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12 度を有しない国が取引に参加できないこととなれば、日本政府および企業が排出権を費用効 率的に取得したり、量的にも十分確保できない状況にもなりかねない。日本が国際的潮流に 立ち遅れないためにも、政府の排出権取引に関する戦略作りは重大な局面を迎えていると言 えよう。 [参考文献]

・ World Bank “State and Trends of the Carbon Market 2010”、2010 年 5 月 ・ World Bank “State and Trends of the Carbon Market 2007”、2007 年 5 月

・ 独立行政法人 新エネルギー産業技術総合開発機構プレスリリース「チェコ共和国と GIS に基づく割当量購入契約を締結―チェコ共和国の環境対策を進めるとともに日 本の環境技術の移転を促進―」2009 年 3 月 31 日

・ 山本美紀子『国際排出権取引の現状と今後の展望』みずほ総合研究所「みずほ政策イ

参照

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