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(1)

I 緒 1. は じ め に 原子力施設では,その健全性を維持するために定期的 な点検や保守作業が実施される。この際,作業員は放射 性物質による身体の汚染を防止するため,Fig. 1 に示す ような防護服や呼吸保護具(マスク)を着用する。原子 力施設では定常的に防護服を着用した作業が実施されて いるにも関わらず,これまで防護服着用時における生理 的負担等を定量的に評価した報告は極めて少ない1, 2) 。 人体には,作業に伴う筋労作により体温が上昇した場 合,体温を一定に保とうとする恒常性を有しており,体 温が上昇すると汗が分泌される。筋労作に伴う産熱の大 半(80%以上)は,汗が気化する際に気化熱として体表 面から奪われ,上昇した体温は下げられる。このように 汗は体温調節を行う上で極めて重要な役割を果たしてい る3) 。 しかし,一般的に防護服(アスベスト防護服等)は, 通常の作業服(綿服)に比べて通気性,透湿性が悪く, *1(独)日本原子力研究開発機構東海研究開発センター核燃料 サイクル工学研究所再処理技術開発センター処理部転換技術 課;茨城県那珂郡東海村村松 4–33(〒 319–1194)

Conversion Technology Section, Tokai Reprocessing Technology Development Center, Nuclear Fuel Cycle Engineering Laboratories, Japan Atomic Energy Agency; 4–33 Muramatsu Tokai-mura, Naka-gun, Ibaraki 319–1194, Japan.

E-mail: [email protected]

*2 九州大学大学院芸術工学研究院;福岡県福岡市南区塩原

4–9–1(〒 815–8540)

Faculty of Design, Kyushu University; 4–9–1 Shiobaru, Minami-ku, Fukuoka 815–8540, Japan.

原子力施設における防護服着用作業員のための

リアルタイム暑熱負担遠隔モニタリング装置の開発とその運用

高橋 直樹*

1

,李  珠 英*

2

,若 林  斉*

2

,栃 原  裕*

2 (2010 年 10 月 22 日受理) (2011 年 2 月 21 日再受理)

Development and Operational Results of a Real-time Remote Biological Information Monitoring

Device for the Workers Wearing Protective Clothes at a Nuclear Facility

Naoki TAKAHASHI,*1 Joo-Young LEE,*2 Hitoshi WAKABAYASHI*2 and Yutaka TOCHIHARA*2 Workers must wear a respirator and protective clothing to prevent inhalation and contamination by radioactive materials when carrying out certain inspection , maintenance activities at nuclear facilities and other emergency situations. Temperature and humidity increase with time within the protective clothing during such work. This is because the protective clothing is necessarily impermeable so that heat and perspiration caused by physical labor remain. Therefore, the worker’s body temperature and related heatstroke risk gradually increase. To date, workers wearing the protective clothing have been supervised by time management and individual subjective information. This conventional management method may QRW HI¿FLHQWO\ PRQLWRU DQ\ FKDQJH RI KHDW ORDG DQG ZRUNHUV¶ UHODWHG KHDOWK FRQGLWLRQV :H WKHUHIRUH FRPELQH REMHFWLYH physiological information (including measured worker’s infrared tympanic temperature and heart rate) with individual subjective information, in order to reduce the risk of heatstroke. To this end, a remote (heat strain) monitoring device has EHHQ GHYHORSHG ,Q WKLV SDSHU ZH SUHVHQW DQ RYHUYLHZ RI WKH V\VWHP WKH UHVXOW RI IXQFWLRQDO DQG HI¿FLHQF\ HYDOXWLRQ DQG operational results obtained under actual working conditions.

KEY WORDS: remote monitoring, heat strain, heat stroke, protective clothing, infrared tympanic temperature, rectal temperature, nuclear facility.

(2)

作業に伴う筋労作により発生した熱や汗は防護服内に留 まるため,体温を下げるために分泌された汗の蒸発は妨 げられる4) 。その結果,汗は体表面を流れ落ち,体温の 低下には寄与しない無効発汗状態となり,体温は下がる ことなく上昇し続ける。更に,体内からは水分と塩(ミ ネラル)が汗として,一方的に失われて行くため,防護 服を着用する作業者に対して大きな生理的負担を与え る5, 6) 。 また,防護服を着用しなければならない作業環境中に は,人体に有害な物質(有害化学物質,アスベスト,放 射性物質等)が存在しており,多くの場合,呼吸保護具(マ スク等)が併用される。通常の作業環境であれば,飲水 等により汗として喪失した水分や塩(ミネラル)を随時 補給することは可能であるが,呼吸保護具を着用した場 合,水分等を補給することは出来ない7) 。 体液調節機能と体温調節機能は密接に関連しており, 体液の状態変化は体温調節反応に大きな影響を及ぼす8) ことは,よく知られている。とりわけ防護服を着用した 作業では,上述したように作業に伴う肉体的な負荷に加 えて,暑熱環境からの負荷も加わるため,作業員の熱中 症の発症リスクは,通常作業に比べて高まる。近年,産 業現場における暑熱作業環境が様々な工学的手法により 改善されつつある中で,防護服を着用する作業環境の改 善を図ることは難しく,それ故に「最後の暑熱環境」と 呼ばれている5) 。 更に,熱中症はその兆候が見られてから短時間で重篤 化し易いと言われているが,原子力施設では作業終了後 に放射性物質を所定のエリア外に持ち出すことがないよ うに入念な汚染確認を行わなければならず,仮に身体的 な不調を感じてから作業エリアからの退域行動を起こし ても,基本的には直ぐに防護服を脱ぐことが出来ない。そ のため,防護服を脱装し,作業エリアから退域した時には, 既に熱中症が重篤化してしまう恐れが多分にあった。 厚生労働省による調査9) によれば,労働現場において 年間約 20 件前後の熱中症による死亡災害が発生してい るという。幸いにして,原子力施設の放射線管理区域内 において熱中症による死亡災害は発生していないもの の,前述した原子力施設ならではの特異性故に,潜在的 な熱中症の発症リスクは高く,実際に原子力施設におい て体調不良を訴え外部医療機関へと搬送され,熱中症や 脱水症と診断された事例(原子力施設情報公開ライブラ リー10) や各電力会社のプレスリリース等にて公開されて いる事例)は,ここ数年は年間 4 件と横ばいであったが, 昨年に至っては夏の記録的な猛暑の影響もあり,例年の 2倍以上の 10 件にも達した。これらは熱中症としての 症状が顕在化・重篤化した事例であり,症状が顕在化す るには至らなかった軽微な事例は更に多かったと考えら れる。とりわけ,作業環境の改善を図ることが難しい場 合,作業員の体調を的確に把握することが非常に重要と なる。 これまで,作業員の体調管理(熱中症管理)は,作業 員の自己申告(主観的な情報)と時間管理を併用するこ とによって行われてきたが,本人の自己申告にのみ頼っ た作業管理では,作業員が暑熱環境から受ける負荷等に 起因する体調の変化を見逃す恐れがあった11) 。 そこで,我々は作業員の体温や心拍数と言った生理的 な情報(客観的な情報)をリアルタイムかつ遠隔で取得 し,従来の主観的な情報と組み合わせることによって, 熱中症の発症の兆候を早期に捉え,適切なタイミングで 休憩や退域指示等を与えることができれば,より安全に 留意した作業管理が行えるのではないかと考え,リアル タイム暑熱負担遠隔モニタリング装置の開発を行った。 本報では,我々が開発したリアルタイム暑熱負担遠隔 モニタリング装置の概要,性能評価結果及び実際の作業 現場で運用した実績等について報告する。 II 方 1. 装置の概要

ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists)12)

では,暑熱に暴露されている作業員の暑熱 負担を評価するに当たっての許容限界のガイドラインが 示されており,過剰な暑熱負担の目安の一例として,直 Fig. 1 Typical protective clothing for nuclear facilities.

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腸温が暑熱順応者で 38.5℃以上,暑熱非順応者で 38℃ 以上,最も強い運動をした後,回復 1 分後の心拍数が 110拍以上ある時と示されている。しかし,実際の作業 現場において直腸温を定常的に測定することは,セン サーの装着に対する受容性や羞恥性等の観点から非現実 的である。そこで,我々は直腸温と同様に核心温の一つ に挙げられ,体温の調節中枢である視床下部の温度を良 く反映すると言われる鼓膜温に着目することとした。し かし,従来の鼓膜温の測定といえば,鼓膜へと直接サー ミスターを接触させることにより測定されており,耳内 へサーミスターを設置する際に痛みや測定中に設置され たサーミスターによって鼓膜を傷つける恐れがあり,そ の測定には専門的な知識が必要であった。そのため,実 験等において使用されることはあっても,実際の作業現 場において定常的に測定を行うには,直腸温の測定と同 様に現実的な測定方法であるとは言い難かった。 そこで,我々は近年,医療機関や一般家庭において広 く普及し,利用されている赤外線温度センサーを用いた 非接触かつ非侵襲による鼓膜温測定に着目し,作業中に おける連続的な測定を行うこととした。ただし,赤外線 温度センサーによって鼓膜温を正確に測定するために は,①個人によって異なる形状を有する外耳道において 赤外線温度センサーが確実に鼓膜面を捉え,②外耳道内 が外気温の影響を受けないようにする必要があった。 近年のエレクトロニクス及びセンサー技術の進歩は目 覚ましく,小型かつ高感度・高精度の赤外線温度センサー が開発され,外耳道内への外気の流入を遮断するととも に,センサー面を可能な限り鼓膜に向けることが可能な 形状を有するシリコン製の耳栓内へと測定デイバイスを 完全に埋め込むことが可能となり,上記①及び②に示し た課題をともに解決することができた。 これにより,他の核心温測定のためのセンサー装着に 比較して安全かつ容易であり,作業員自身がその装着を 容易に受容することができるようになり,熱中症のリス ク管理に必要な核心温の連続測定を行うことが可能と なった。Fig. 2 に耳栓型鼓膜温測定センサーを示す。 なお,核心温として鼓膜温を用いることについては賛 否13, 14) あるが,本装置の開発に当たっては作業現場で作 業員が定常的に使用できることを最優先とした。 更に,作業員ひとり一人の生体モニタリングを確実に 行うには,測定された生理情報をリアルタイムかつ遠隔 で取得するとともに,複数台の測定装置から遠隔転送さ れてきた個々人の情報をそれぞれ識別しつつ,個々に管 理しなければならない。 そこで,我々はアパレル業界や流通・物流業界におい て急速に普及しつつある自動認識技術の一つである無線 タグ(RFID:Radio Frequency Identi¿cation)にセンサー

Fig. 2 Ear plug type temperature measurement sensor (above) and wearing conditions (below).

Fig. 3 The developed device (above) and wearing conditions (below).

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機能を付加した特殊な無線タグを開発した。 今回開発した装置を Fig. 3 に示す。本装置は,①生体 情報測定部(85 × 55 × 25 mm),② RFID 及びデータロガー 部(128 × 54 × 20 mm),③電源部(単三電池 2 本で連続 12時間駆動)の大きく 3 つの要素から構成されている。 ①の生体情報測定部では,防護服着用時の暑熱負担評 価を行う上で必要な生理情報として,主として核心温と 心拍数の測定を行う。核心温については,前述した通り 鼓膜温(正確には赤外線方式による鼓膜温)を測定する こととした。心拍数については,作業中の使用する電動 工具からの電気的なノイズ等を考慮し,光電脈波式セン サー採用した。②の無線タグ部には,同時に複数の装置 を使用しても個々の測定装置を識別できるよう,それぞ れ異なる ID が割り当てられている。測定データについ ては,基本的には無線により遠隔取得を行うが,全測定 データについては付属の SD メモリーカードに逐次記録 され,作業終了後にデータを再評価できる機能を持たせ た。③の電源部は,充電式の単三電池を使用し,連続 8 時間以上(就業時間)駆動できるよう設計した。この他, 防護服内の温湿度測定用のセンサー(1 本)及び温度セ ンサー(1 本)を搭載している。 なお,本装置はプロトタイプ機のため,比較的大きな 装置となっているが,今後は装置の合理化設計等を行い, 小型・軽量化を図って行く予定である。 2.本装置を用いた作業管理の概念 本装置を用いた基本的な作業管理の概念は,従来の自 己申告(主観的な情報)に頼っていた作業管理に客観的 な情報(体温及び心拍数)を組み合わせることによって, ①作業者自身が気付かない体調の変化を第三者がモニタ リングし,②作業管理を行う現場責任者の知識や経験・ ノウハウに頼ることなく,誰でも安全かつ適切な作業管 理を行うことにある。 そこで,本装置において測定されたデータを無線によ り監視用 PC 端末へと遠隔転送し,時々刻々変化する作 業員の状況を一目で把握できるように可視化(計測デー タのトレンド表示)することとした。 更に,作業の安全性を向上させつつ,作業効率を両立 させるために,暑熱負担の高まりを示す「警告レベル (37.5℃)」と熱中症リスク回避のための「警報レベル (38℃)」の 2 段階の管理値を設けるとともに体温の個人 差を考慮し,所定の警報値(38℃)に達しなくとも作業 開始時の体温から 1℃上昇した場合15) にも警報相当とし て警報表示を行う機能を付加した。例えば,作業中にあ らかじめ設定しておいた警告レベル超えかつ一定時間(3 分間)継続するような鼓膜温及び心拍数の上昇があった 場合には,画面上に「警告表示」がなされる。作業管理 を行う現場責任者は,警告表示がなされた作業員に対し て個別に詳細な体調等の状況確認を行い,必要に応じて 作業を中断して休息等をするように指示を行う。ここで, 本人が体調不良等を申告した場合には直ちに作業を終了 させ,作業エリアからの退域を指示する。作業員の体調 申告に問題がなく作業継続が可能な場合には,作業を継 続させるが,その後は,より慎重にモニタリングを行う。 警告レベルを超えて作業を継続した結果,予め設定さ れた警報設定値を超えかつ一定時間(3 分間)継続する ような鼓膜温及び心拍数の上昇があった場合には,画面 上に「警報表示」がなされる。作業管理を行う現場責任 者は,警報表示がなされた作業員に対して作業の中止及 び退域指示等を行う。これにより,十分余裕を持った状 態で作業員を安全に退域行動へと導くことができ,防護 服着用作業時における熱中症発症リスクを低減すること が可能となる。 このように,取得した情報を可視化し,常時,個々人 から取得されたデータをそれぞれ基準と比較し所定の基 準を超える継続的な変化があった場合に,個人単位で警 告・警報表示を行うことにより,作業管理の経験が少な い現場責任者であろうが経験豊富な現場責任者であろう が作業管理のレベルを統一化することができ,作業をよ り安全に進めることが可能となる。一方,作業員の立場 からすれば防護服という閉ざされた密閉空間内に居なが らも,第三者が自分自身をしっかりと見守っていてくれ ると言う安心感が生まれ,現場責任者と作業員との間の 円滑な相互コミュニケーションを構築することが可能と なる。Fig. 4 に本システムを用いた作業管理のイメージ 及び Fig. 5 に測定情報の可視化状況をそれぞれ示す。 III 実 1.性能評価試験 防護服を着用して作業に従事する作業員の熱中症のリ スク管理に対して,鼓膜温を適用することの妥当性を評 価するため,被験者に本装置において採用した耳栓型鼓 膜温測定センサー及び直腸温測定プローブをそれぞれ装 着させ,運動を行った際の鼓膜温と直腸温を同時に測定 し,比較を行った。 被験者は,健康な成年男子とした。試験に当たって, 被験者に耳栓型鼓膜温測定センサー(耳栓の装着後,耳 栓の付け根にある掴みを持ち,耳栓を上下左右に動かし, 最も高い指示値が得られた位置で耳栓が運動中にずれた

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り,外れたりすることがないようにサージカルテープに てしっかりと固定した)及び直腸温測定プローブ(肛門 括約筋より約 13 cm の位置にセンサーを配置)をそれぞ れ装着した後,原子力施設の保守作業時における標準的 な装備である作業服(木綿製つなぎ服),防護服(タイベッ クスーツ・不織布製)2 重,ゴム手袋 2 重,靴カバー及 び全面マスク等(全装備重量:約 3.5 kg)をそれぞれ着 用させ,環境温度 28℃,環境湿度 50%に設定された人 工気象室内へと入室した。その後,被験者は 10 分間座 位にて安静(実作業における防護服の着用完了から,作 業エリアへの入域,作業開始までの状況を模擬)とした 後,自転車エルゴメーターにて運動負荷 80W での運動 を 50 分行った。運動終了後,20 分間(実作業における 汚染検査から防護服脱装までの状況を模擬)座位にて回 復を行った後,装着した防護服等の脱装を行った。 2. 実作業現場における測定 「1. 性能評価試験」の後,実際に防護服を着用して作 業を行っている複数の現場へと本装置を持ち込み,様々 な作業に従事する作業員の鼓膜温及び心拍数の経時変化 についてモニタリングを行った。本報では,代表的な作 業における測定結果について報告する。 測定は,年齢 36 歳(身長:176 cm,体重:69 kg)の Fig. 4 The image of working management using the management device.

(6)

健康な成年男性を被験者として実施した。なお,測定当 日における作業エリアにおける気温及び湿度は,それぞ れ 26.6℃,77.1%であった。 作業は,装置に組み込まれたフィルターをケーシング から 1 本ずつ抜き取った後,新しいフィルターをケーシ ングへと設置するものであった。フィルターが設置され るケーシングは床面に存在しているため,ケーシングか らフィルターを引き抜くためには,作業員はその都度, 屈伸を繰り返さねばならず,作業に伴う身体負荷(筋負 荷)が大きい作業であった。 一方,新品フィルターのケーシング内への設置作業は フィルターを自由落下によりケーシング内へと挿入させ るものであり,フィルターの引き抜き作業のように何度 も体を屈伸させる必要がないため,作業に伴う身体負荷 は中程度の作業であった。Fig. 6 に本作業中における作 業風景(フィルター引き抜き作業)を示す。 IV 結 果 と 考 察 1. 性能評価試験結果 性能評価試験における典型的な鼓膜温及び直腸温の経 時変化を Fig. 7 に示す。本試験結果より,耳栓型鼓膜温 測定センサーによって測定された鼓膜温は,同時に測定 された直腸温と比較して以下の特性を有することが分 かった。 ①耳栓型鼓膜温測定センサーにより測定される鼓膜 温(Fig. 7 破線)は,安静時∼運動初期においては直腸 温(Fig. 7 実線)よりも若干低い値を示し,②直腸温は, 運動開始後,約 10 分経過した頃から穏やかに上昇する のに対して,鼓膜温は運動開始とほぼ同時に上昇し始め, 直腸温を上回る,③直腸温は運動終了後(回復期)も引 き続いて上昇しつつけるのに対して,鼓膜温は運動終了 とほぼ同時に下がり始めており,直腸温に比べて運動状 態の変化をレスポンス良く捉えていた。 一般的に鼓膜温は,頚動脈の血流と体表を流れる血流 の影響を受けることから,核心温と皮膚温の両方の性質 を併せ持ち,気温が低い場所では鼓膜温は直腸温よりも 低くなり,逆に高い場所では鼓膜温は直腸温よりも高く なると言われている16) 。本結果も同様の傾向を示してい た。 以上のことから,鼓膜温は防護服を着用して作業を行 う作業員の核心温を直腸温よりも高く,かつ,運動(筋 労作)に対するレスポンスが良く捉えることができるた め,先に記した ACGIH にて規定される直腸温に基づく ガイドラインに照らし合わせて作業管理を行うことに よって,安全尤度を十分に持った作業管理が行えること が示された。 2. 実作業現場における測定結果 Fig. 8に実際の作業現場において作業に従事する作業 員の鼓膜温及び心拍数の経時変化を示す。 被験者である作業員は防護服を着用し,作業エリアへ と入域した後,床面のフィルターケーシングからフィル ターの引き抜き作業を約 18 分間に渡って行った。ケー シングから全てのフィルターを引き抜きが終了した後, 現場責任者からの指示により防護服を着用した状態のま ま同作業エリア内にて約 7 分間の休憩を取った。先に述 べたようにフィルターの引き抜き作業は,その都度,体 を繰り返し屈伸させなければならない比較的負荷の大き い作業であるため,鼓膜温及び心拍数は作業の開始とほ ぼ同時に右肩上がりに上昇した。なお,休憩直前におけ Fig. 6 $SKRWRVKRZLQJZRUNLQJFRQGLWLRQV UHPRYLQJ¿OWHU from casing).

Fig. 7 Change of rectal temperature and infrared tympanic temperature.

(7)

る体温及び心拍数は,それぞれ 37.7℃,150 拍/分であり, フィルター引き抜き作業中における体温の上昇率(傾き) は 0.066℃/分であった。休憩に伴い,心拍数は 150 拍 /分から 120 拍/分まで下がったものの,鼓膜温は下が ることはなく緩やかに上昇し続けた。 その後,新しいフィルターをケーシングに挿入する作 業(中程度の負荷)を行ったところ,心拍数は再度上昇 へと転じ,体温は上昇し続けた。この時の,心拍数及び 鼓膜温の上昇の程度は,休憩前のフィルター引き抜き作 業時に比べて緩やかとなった。(フィルター挿入作業時 における体温の上昇率は,0.03℃/分であり,フィルター 引き抜き作業時の約半分の体温上昇率であった。) 本作業では,途中から作業負荷が軽くなり,体温及び 心拍数の上昇が緩やかになったとは言えども,作業終了 直前の鼓膜温及び心拍数は,38.8℃,170 拍/分にも達 した。また,作業中の防護服内の温度及び湿度は,防護 服着用直後から上昇し続け,作業終了直前には作業環境 の温度よりも 5℃以上,湿度に関しては 10%以上も高い 31∼ 32℃及び約 90%にも達した。 本結果より,①今回開発した装置は,作業負荷による 体温上昇の変化等をレスポンス良く捉えることが可能で あり,②防護服着用時は休憩しても体温は下がることな く緩やかに上昇し続け,③防護服を着用して作業を行う 作業員は,熱中症の発症リスクが極めて高い高温・多湿 な環境にさらされていることが分かった。 V 結 我々は,防護服の着用に起因する暑熱負担をリアルタ イムかつ遠隔でモニタリング可能な装置を新たに開発 し,その性能について評価・検証を行った。 今回開発したリアルタイム暑熱負担遠隔モニタリング 装置にて採用した赤外線による耳栓型鼓膜温測定セン サーは,全身を完全に覆う防護服を着用する作業員の作 業負荷の変化に伴う体温の変化を直腸温よりもレスポン ス良く,かつ,高い値として捉える事が可能であること から,米国 ACGIH にて規定される直腸温に基づくガイ ドラインを準用することによって,より保守的かつ適切 な作業管理を行うことが可能であることが示唆された。 また,実際の作業環境における測定結果より,作業終 了直前における鼓膜温及び心拍数は,38.8℃,170 拍/ 分にも達し,作業に伴う身体的な負担(暑熱負担を含む) が大きく,熱中症の発症リスクが非常に高い環境である こと及び作業員の自己申告(主観的な情報)だけではな く,体温や心拍数等(客観的な情報)を組み合わせた適 切な作業管理を行うことによって,より安全かつ適切な 作業管理が可能であることが分かった。 今後は,安全性を確保しつつも,作業性(作業時間) を両立させた作業管理方法(防護服の脱装に要する時間 における体温上昇等を考慮した適切な警報設定値の決定 等)の確立及び,鼓膜温から直腸温を予測するための予 測式の作成等,研究を進めてゆく予定である。併せて, 装置の高度化(小型・軽量化・合理化等)を図って行く。 参 考 文 献 1) 木内伸幸;セル内除染作業における作業負担調査− 腎外水分喪失量(発汗量)の測定−,保健物理,25, 82–84 (1990). 2) 木内伸幸,池沢芳夫;セル内除染作業における作業 負担調査(II)−防護服の違いによる発汗量の違い−, 保健物理,26, 123–126 (1991).

3) C. L. LIM, C. BYRNE and J. KW. LEE; Human

thermoregulation and measurement of boby temperature in exercise and clinical settings,Ann. Acad. Med., 37, (4),

347–353 (2008). Fig. 8 Actual measurement results in the workplace. (above:

infrared tympanic temperature and heart rate change, below: temperature and humidity change inside the protective clothing).

(8)

4) M. A. KOLAKA, L. LEVINE and L. A. STEPHENSON; Use of an ingestible telemetry sensor to measure core temperature under chemical protective clothing, J. Therm. Biol., 22

(4/5) 343–349 (1997). 5) 栃原裕;密閉型防護服着用時の生理負担,繊消誌, 41 (10), 801–804 (2000). 6) 上野哲,澤田晋一:防護服着用時の暑熱ストレス評 価をめぐる最近の知見,セイフティダイジェスト, 52 (12), 2–10 (2006). 7) 栃原裕,大中忠勝,永井由美子,村松常司;夏季に おけるアスベスト防護服着用作業の労働負担に関す る調査研究,The Annals of physiological anthropology, 12 (1), 31–38 (1993). 8) 鷹股亮;水分摂取による熱中症予防 その生理学的 メカニズム,日生気誌,41 (1), 55–59(2004). 9) 職場における熱中症による死亡災害の発生状況につ いて(平成 21 年),厚生労働省,Available at: http:// www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000006xcz.html, 閲 覧 2011 年 2 月 7 日. 10)原 子 力 施 設 情 報 公 開 ラ イ ブ ラ リ ー,Available at: http://www.nucia.jp/,閲覧 2010 年 10 月 4 日. 11)澤田晋一:暑熱ストレスの影響評価と予防対策,セ イフティダイジェスト,51 (8), 9–16 (2005).

12) American Conference of Governmental Industrial Hygienists (ACGIH) 2007; Threshold Limit Values for

chemical Substance and Physical Agents and Biological Exposure Indices. USA.

13) Heiner Brinnel and Michel Cabanac; Tympanic temperature is a core temperature in humans,J. Therm. Biol., 14 (1), 47–53 (1989).

14) 筒井隆夫;熱中症予防のための鼓膜温によるバイオ

ロジカルモニタリング手法の開発,文部科学省科学 研究費助成研究報告書(2005).

15) D. J. BRAKE and G. P. BATES; Deep body core temperatures in industrial workers under thermal stress, J. Occup. Environ. Med., 44 (2), 125–135 (2002).

16) E. R. NADEL, S. M. HORVATH; Comparison of tympanic memberane and deep body temperatures in man,Life Sci.,

9, 869–875 (1970). 高橋 直樹(たかはし なおき) 1995年に動力炉・核燃料開発事業団(現: (独)日本原子力研究開発機構)へ入団。 以降,マイクロ波加熱直接脱硝法による MOX粉末の製造技術及び大型設備機器 の撤去・更新に関わる技術開発に従事。 現在,九州大学大学院博士後期課程在学中。 E-mail: [email protected]

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