海外子会社マネジメントの実態:
地域別子会社管理の比較
中
川
優
Ⅰ はじめに Ⅱ 本社=子会社間の関係について Ⅲ 過去の研究に関する総括と本稿の視点 Ⅳ データ分析の方法と結果 Ⅴ まとめと今後の課題Ⅰ はじめに
本稿の目的は,海外子会社のマネジメントの実態が海外子会社が所在する地域によ り,差異が生じているかどうかについて明らかにすることである。従来,本社による海 外子会社のマネジメントについては,様々な観点から検証が行われてきた。本稿では, 過去の研究成果を踏まえた上で,考慮しなければならない要因が多岐にわたるこの種の 研究おける,一つの可能性を示すことを意図している。具体的には,日本本社が海外子 会社をどのように管理しているについて,「仮説発見」的な視点から検証を試みるもの である。なお,分析に使用したデータは,筆者を含む研究グルー 1 プが行ったアンケート 調査により収集したものである。アンケート調査については,すでにその概要を明らか にしている 2 が,本稿の分析において使用しているデータは,それと同一のものである。Ⅱ 本社=子会社間の関係について
管理会計の分野においては,海外子会社のマネジメントやマネジメントコントロール に関する研究は,伝統的には国際振替価格の設定問題や,海外子会社の業績評価に関す る領域に限定されていた。しかし,海外子会社のマネジメントは,これらの問題に限定 されるものではなく,本社=子会社の関係,および現地子会社の環境適応等の問題も含 めて考慮する必要がある。したがって,本稿の研究課題について取り組むためには,こ ──────────── 1 研究グループのメンバーは,安酸建二(近畿大学),松木智子(帝塚山大学),島吉伸(近畿大学),窪 田祐一(大阪府立大学),西居豪(専修大学)である。なお,本稿および分析については,筆者が単独 で行ったものであり,研究グループの統一的な見解ではない。 2 中川[2013]において,アンケート調査の概要について,記述統計を中心として明らかにしている。 ( 917 )117のような課題に取り組んできた国際経営の分野における研究成果を援用する意義は少な くないと考えられる。そこで,以下では国際経営における代表的なモデルを取り上げ て,検討を行う。 ①バートレット=ゴーシャルのモデルの検討 バートレット=ゴーシャルは,親会社が子会社を管理する戦略に応じて企業を類型化 して,「グローバル企業」,「インターナショナル企業」,「マルチナショナル企業」,「ト ランスナショナル企業」というパターンを指摘した。この類型化は,世界で成功してい る多国籍企業のマネジメントを分類したものである。したがって,純粋な理論モデルと いうよりも実務を類型化したものであるが,それだけにグローバル化の実態を反映した ものであり,強い説明力を有すると思われる。このモデルを援用した実証研究も行われ ている。以下では,バートレット=ゴーシャルの提示したモデルの概要を説明すること とする。 (1)マルチナショナル企業 このタイプの企業は,海外子会社の自律性が高く,本社は海外子会社の経営にはあま り関与しない。したがって,海外子会社の役割は,現地における市場ニーズや機会を捉 えてそれに対応する役割をもたされている。したがって,現地において得られた知識や ノウハウは,それらにおいて自己完結的に利用されるだけであり,本社や他の海外子会 社に移転されることはない。 (2)グローバル企業 このタイプの企業は,マルチナショナル企業と対極をなすものであり,本社を中心と した中央集権的な意思決定が行われる。したがって,海外子会社は本社が決定した戦略 の忠実な実行者であることが求められ,海外子会社の自律性は低い。また新たな知識, ノウハウは,本社で集中して行われる。またこれらの知識やノウハウが海外子会社に移 転されることはない。 (3)インターナショナル企業 このタイプの企業は,マルチナショナル企業とグローバル企業の折衷的なタイプであ り,両者のメリットを生かそうというものである。すなわち,企業の能力の中核となる 部分(コア・コンピタンス)は,本社に集中させる一方で,他の機能は子会社に委譲す る。たとえば,製品開発力がその企業のコア・コンピタンス(競争力の源泉)であるな らば,製品開発を本社で集中して行い,他の機能については意思決定権限を子会社に委 譲するというものである。また,本社で開発された知識,ノウハウ等は必要に応じて子 会社に移転される。 これらの 3 つの企業タイプについて要約すると図表 1 のようになる。 同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月) 118( 918 )
ただし,このモデルの問題点は,親会社の戦略,子会社管理の方針が親会社・子会社 間の権限・責任構造を規定するという考え方である。したがって,現地子会社は,それ らが置かれている環境要因に対して,自発的,能動的に適応あるいは行動するという視 点が欠けていることになる。 ただし,彼らが理想として示している「トランスナショナル型」の企業は,各国の置 かれている状況(経済発展の程度,政府の規制等)により,海外子会社の果たすべき役 割が異なり,それらがお互いに協調,調整しながら全体としての統合性を維持するとい うモデルであり,この点に関しては,現地子会社の役割の違いとして,現地の環境要因 を取り入れているとも言える。 ②Gupta=Govindarajan[1991]のモデル Gupta=Govindarajan[1991]は,バートレット=ゴーシャル[1989]および[1998] において提示されている本社=子会社間の関係と類似性が高いが,特に本社子会社間に おける知識フローに注目したフレームワークを提示している。 図表 1 マルチナショナル企業,グローバル企業,インターナショナル企業の組織の特徴 組織の特徴 マルチナショナル企業 グローバル企業 インターナショナル企業 能力と組織力の構成 分散型 海外子会社は自己充足 中央集中型 グローバル規模 能力の中核部は中央に集 中させ,他は分散 海外事業が果たす役割 現地の好機を感じ取って 利用する 親会社の戦略を実行する 親 会 社 の 能 力 を 適 応 さ せ,活用する。 知識の開発と普及 各組織単位内で知識を開 発して保有 本社で知識を開発して保 有 本社で知識を開発して海 外の組織単位に移転 出所:Bartlett=Ghoshal[1989](吉原訳[1990])p.79 図表 2 知識移転に着目した戦略 出所:Gupta=Govindarajan[1991]p 774. 海外子会社マネジメントの実態:地域別子会社管理の比較(中川) ( 919 )119
このモデルにおいては,子会社とその他の子会社および親会社との間の知識の流入 (インフロー)と流出(アウトフロー)に着目している。図表 2 において示されている ように,グローバル・イノベーターとは,自社から親会社およびその他の子会社への知 識移転の量が多く,逆に親会社およびその他の子会社からの知識移転の量は少ないとい うタイプである。このタイプは,「グローバル・イノベーター」という名のとおりグロ ーバルな市場において,先駆的な役割を果たす子会社であり,先端的な知識の習得,創 造を行い本社およびその他の子会社に対して,これらの知識を発信する拠点として役割 期待がある。 「ローカル・イノベーター」とは,現地市場において自己完結型のマネジメントを行 う子会社であり,本社やその他の子会社への知識移転や,その逆の親会社やその他の子 会社からの知識移転の量もともに,少ない。したがって,現地の環境に特化した自律的 なマネジメントを行っていると言えよう。 「インプレメンター(実行者)」とは,親会社の意図した戦略およびマネジメントを忠 実に実行することが役割である。したがって,現地において知識を習得,創造して本社 やその他の子会社に発信するのではなく,本社およびその他の子会社で得られた知識, ノウハウを現地において実行に移すことが,主要な役割である。そこで,インプレメン ター(実行者)という名前が付けられている。 「統合プレーヤー」は,自社から親会社およびその他の子会社への知識移転の量とそ の逆の知識移転の量もともに多いというタイプである。これは,上述の「グローバル・ イノベーター」と「インプレメンター」の両方の役割を同時に担っているとも言える。 したがって,この両者の役割を統合したものであるという意味から,「統合プレーヤー」 というネーミングが行われていると考えられる。このような,フレームワークは,前述 のバートレット=ゴーシャルの提示した海外子会社の戦略的な位置付けのフレームワー クと類似性が存在する。バートレット=ゴーシャルによる類型化と Gupta=Govindarajan [1991]のフレームワークを相対させれば,ローカル・イノベーターが「マルチナショ ナル企業」,インプレメンターが「グローバル企業」,ツーウェイ・プレーヤーが「トラ ンスナショナル企業」に相当する。
Ⅲ 過去の研究に関する総括と本稿の視点
①本社=子会社関係の視点と子会社の環境適応の視点 これまでの先行研究は,前節において検討した,本社=子会社間の関係を中心に据え た研究(子会社管理に関する戦略を含む)と在外子会社の環境適応を中心とした研究に 分類することが可能である。両者の立場は時として相反する見解として捉えられてき 同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月) 120( 920 )た。 しかし,これは,それぞれの研究が対象としている地域の特性から,より説明力の強 い分析フレームワークを用いていると思われる。 これまでに検討したように,本社の視点から在外子会社の役割を考える場合には,在 外法人が設置された目的が,進出国における製品の供給を目的としているのか,あるい は日本または進出国以外に製品を輸出する目的で設立されたのか,という相違により, 在外子会社のマネジメントの方針やあり方に大きな相違があることが考えられる。特 に,アジアに所在する日系企業においては,このような進出目的の相違が海外子会社の マネジメントのあり方に大きな影響を与えていることが,植木[2002],岡本[2000] において実証されている。 しかし,在米あるいは,在欧の日系企業においては,製品の出荷先がほとんど進出先 の国内あるいは隣接地域であるために,進出目的の相違はほとんど見られない。したが って,安保[1995]および[1996]において,「ハイブリッド・モデル」を援用した一 連の研究においては,現地環境への適応と日本的マネジメントの適用の問題を切り口と して分析が行われているが,アメリカを対象として経年的な分析をすることにより,上 記の進出目的による相違という問題ではなく,別の視角である現地環境への適応と日本 的マネジメントの適用の問題に焦点を当てて分析を行っている。 このように,過去の研究を検討すると,グローバル化に関するすべての問題を取り込 んだ分析フレームワークを構築することの困難さが浮き彫りとなってくる。 Gupta=Govindarajan[1991]においては,本社=子会社間の知識移転に関するフレー ムワークを用いることにより,進出国の相違による在外子会社の役割の違いを回避する ことができるが,特定の地域にグローバル・イノベーターやインプレメンターが偏在す る可能性がある。また,知識移転モデルもある種の子会社の役割に関する相違を示すモ デルであり,子会社自体の環境適応の問題は,直接的には考慮することはできない。 ま た,Gupta=Govindarajan[2000]に お い て は,基 本 的 に Gupta=Govindarajan [1991]で示された本社=子会社間の知識移転のフレームワークに基づいた実証分析が 行われている。しかし,知識移転の方向を子会社の役割期待(インプレメンター,ロー カル・イノベーターなど)に求めるのではなく,知識移転に直接的に影響を与える要因 との関係に絞った分析を行っていることが特徴的である。さらに,具体的なマネジメン トの方式と知識移転の促進要因,知識獲得のモチベーションなどとを関連付けている。 Gupta=Govindarajan[1991]と Gupta=Govindarajan[2000]の関係を図 に 示 せ ば 図 表 3 のようになる。 このように,知識移転をキーとして,親会社による子会社管理の戦略と現地子会社の マネジメントの関係を示した分析フレームワークとして重要な意味を持つと考えられ 海外子会社マネジメントの実態:地域別子会社管理の比較(中川) ( 921 )121
る。 また,Bartlett=Ghoshal のフレームワークにおいては,本社が海外子会社を管理する 方針あるいは戦略として,「グローバル」「マルチナショナル」「トランスナショナル」 という分類を行っているが,それぞれの海外子会社が置かれている経営環境が,それら の戦略を採らざるを得ない状況を作っているのかもしれない。また,進出地域によって 本社の子会社管理の方針が異なる可能性がある。 また,「トランスナショナル企業」というのは,進出先の状況応じて在外子会社の管 理のあり方を変えるという意味を持つとも言える。さらに,子会社の置かれている状況 は,進出地域により異なっており,子会社の自律的な現地環境への適応が好むと好まざ るに関わらず生じている可能性がある。本社=子会社間の関係を中心に据えた研究にお いては,これらの視点が捨象あるいは軽視されている傾向が見られる。 したがって,本社=子会社関係の視点に,それぞれの在外子会社が置かれている経営 環境の視点を取り入れることには,重要な意味があると考える。 これらの両方の視点を考察する意味からも地域間の比較を行う意義は少なくないと考 えられる。特に進出地域の経済環境や進出目的の相違が本社の子会社マネジメントおよ び,現地子会社のマネジメントに影響を与える可能性は高いと考えられる。そこで,東 南アジアに所在する子会社に対するマネジメントと北米に進出している子会社に対する マネジメントの比較を行うことにする。言うまでもなく,東南アジアと北米では,経済 発展の程度,市場の成熟度などの全般的な経済環境は異なると考えられる。また,進出 目的も現地市場への製品供給と第三国への輸出目的が混在する東南アジアと,現地市場 への製品供給が主たる目的である北米とでは,相違が存在すると思われる。そこで,以 下では,海外子会社の進出地域による相違を確認するための,簡便な統計分析を行うこ ととする。 図表 3 Gupta=Govindarajan[1991]と Gupta=Govindarajan[2000]の関係 同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月) 122( 922 )
Ⅳ データ分析の方法と結果
①調査対象とデータの収集 調査対象は,海外に子会社を有する日本企業とした。この場合,海外子会社をどのよ うに定義するかであるが,海外子会社には様々な形態がある。しかし,マネジメントの 上で問題となるのは,少なくとも販売機能を有した子会社であり,出資だけを行ってい る場合には,本稿が課題としているような大きなマネジメント上の問題は生じないもの と思われる。したがって,本稿において対象となる企業は,少なくとも販売機能を有し た海外子会社を有している日本企業である。 アンケートの送付先は,ダイヤモンド社が提供するデータベースから,海外事業を担 当すると思われる部門長(上場企業および非上場企業)と東洋経済社発行の『海外進出 企業総覧』により選定した。アンケートの発送数は,5410 通,有効回答数は 637 通で あり,回収率は,12.14% であった。近年,郵送質問票調査の回収率は,かなり低くな っているが,本調査は送付先を上場企業に限定しなかったことから,発送数が 5410 と いう多数であったため,回収率も比較的よい方であると思われる。 回答企業の業種別の内訳については,図表 4 のとおりであ 3 る。 大分類の業種では製造業が最も多くなっており,製造業の中では機械,電機,輸送用 ──────────── 3 アンケート調査における質問項目の詳細については,中川[2013]を参照されたい。 図表 4 回答企業の業種別内訳 度数 割合 ガラス・土石製品 12 2.88% 鉱業 4 0.63% ゴム製品 9 2.16% 建設業 35 5.50% パルプ・紙 9 2.16% 製造業 416 65.41% 内訳 医薬品 13 3.13% 商業 86 13.52% 化学 46 11.06% サービス業 28 4.40% 機械 73 17.55% 運輸・情報通信業 43 6.76% 金属製品 28 6.73% 不動産業 3 0.47% 非鉄金属 14 3.37% 金融・保険業 21 3.30% 精密機器 14 3.37% 電気機器 66 15.87% 輸送用機器 54 12.98% 繊維製品 17 4.09% 鉄鋼 9 2.16% 石油・石炭製品 1 0.24% 食料品 26 6.25% その他製品 25 6.01% 海外子会社マネジメントの実態:地域別子会社管理の比較(中川) ( 923 )123アフリカ,1,0% オセアニア,7,1% ヨーロッパ,51,8% 西アジア,3,1% 東アジア,240, 38% 東南アジア,181, 29% 南アジア,11,2% 南アメリカ,5,1% 北アメリカ,127, 20% アメリカ,125, 21.89% イギリス,11,1.93% ドイツ,15,2.63% マレーシア,14,2.45% シンガポール,31, 5.43% インドネシア,27, 4.73% タイ,84, 14.71% ベトナム,23, 4.03% 中国,190, 33.27% 香港,22,3.85% 台湾,18,3.15% 韓国,11,1.93% 機器という加工組立型産業の比率が高くなっている。 以下の質問は,海外子会社が複数ある場合には,回答企業にとって主要な事業である 海外子会社の 1 社を対象として,回答するように要求しているので,以下の回答は,回 答企業が想定している海外子会社に関する回答ということになる。 ②比較対象の選定および分析の方法 進出国の地域別と国別の回答は,図表 5 および 6 のとおりである。 ここで,比較の対象とするのは,北米(アメリカ,カナダ,メキシコ)127 社と東南 図表 5 進出地域別内訳 図表 6 国別内訳(10 以上の回答が得られた国/特別行政区)(国名,度数,全体に占める割合) 同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月) 124( 924 )
アジア(タイ,シンガポール,インドネシア等)181 社である。 これらの 2 つのグループ間において,平均値の差の検定を行った。統計学的な正確性 を期すためには,アンケートの回答が 1∼7 ポイントのスケールで行われているため, Mann=Whitney の U 検定などのノンパラメトリック検定を行う方が妥当であると思わ れるが,ここでは等分散を仮定しない場合の T 検定で結果を示すこととす 4 る。なお,U 検定の結果も注で付記することとする。 ③海外子会社の経営環境の比較 海外子会社が直面している経営環境については,9 つの質問を行っている。そのう ち,有意差が確認できたのは,図表 7 のとおり 4 つの項目であった。これらの項目は, いずれも東南アジアが北米に比べて平均値が高くなっている。 図表 7 の結果からは,東南アジアに所在する子会社は,北米に比べて不確実性が高い ことが窺える。「現地の政治・社会情勢」は,最近のタイに見られるような政治の不安 定性が影響していると思われる。また,「現地の金融環境の動向」も新興国ならではの 事情があるものと思われる。また,「競合企業の戦略」や「製品・サービスの価格動向」 についても,新興国における現地企業や多国籍企業間の競争が,不確実であることを示 しているのかもしれない。 ④製品・サービスの面での海外子会社と本国との違い 前項の経営環境と関連するが,海外子会社と本国との相違が大きければ大きいほど, 製品やサービスを現地に向けて供給する場合に,様々な工夫や努力さらに,コストの面 においても影響が及ぶことが考えられる。質問は海外子会社が扱う製品・サービスは本 ──────────── 4 なお,グループ変数は,東南アジアを 1,北米を 0 としている。 5 Mann=Whitney の U 検定の結果からは,「製品・サービスの価格動向」および「現地の金融環境の動 向」は,5% 水準で,「競合企業の戦略」と「現地の政治・社会情勢」は,1% 以下水準で有意な差が確 認された。 図表 7 経営環境に関する分 5 析 質問項目 t値 自由度 有意確率(両側) 競合企業の戦略 2.606 294.845 .010 製品・サービスの価格動向 2.692 313.947 .007 現地の政治・社会情勢 2.899 302.496 .004 現地の金融環境の動向 2.469 303.049 .014 正確に予測できる どちらとも言えない 全く予測できない 1 2 3 4 5 6 7 海外子会社マネジメントの実態:地域別子会社管理の比較(中川) ( 925 )125
国(日本)とどの程度異なるのか,というものである。図表 8 は東南アジアと北米の平 均値の差を検定した結果である。スコアはいずれも東南アジアが高くなっている。 結果からは,「宗教」と「気候・風土」については,1% 以下水準,「国民性・価値 観」については,10% 水準で東南アジアと北米との間に有意な差が確認され 6 た。いず れも東南アジアの方が,製品・サービスについて日本と比べると修正項目が多いという ことになる。「宗教」については,インドネシア,マレーシアなどのイスラム諸国が含 まれていることも関係していると思われる。特に食品産業においては重要な要素の一つ であり,日本と大きな相違があることが関係しているように思われる。「気候・風土」 も,消費財関連の産業については,大きな影響を受けることが予想されるが,北米より も東南アジアの方が相違は大きいということになる。 ⑤販売市場の特性 本項は,海外子会社が直面している販売市場の特性についての質問項目に関する分析 である。特に競争の状況や市場の特性,市場としての将来性等を聞いている。東南アジ アと北米との間に有意な差異が確認できたのは,図表 9 の 6 つの項目である。 ただし,問 4−1 は,T 検定では有意差は確認されなかったが,U 検定では,10% 水 準で有意となり,問 4−7 は,T 検定は,10% 水準で有意であったが,U 検定では,有 意な差は確認できなかった。それ以外は,いずれも 1% 以下水準で有意な差が確認でき 7 た。 問 4−1 と 4−7 を除外したとしても,5 つの項目で有意な差が生じている。これは東南 アジアの市場に比較して,北米の市場の方が成熟しており競争も激しく,さらに最先端 の市場であると認識していることになる。これは,一般的な理解と一致するところであ るが,本社が認識する見解も同様であることが確認できた。 ──────────── 6 Mann=Whitney の U 検定の結果も同様であった。 7 Mann=Whitney の U 検定の結果は,問 4−5 は 5% 水準で有意,4−2, 4−3, 4−4, 4−6 は,いずれも 1% 以 下水準で有意であった。 図表 8 製品・サービスの面での海外子会社と本国との違い(基本統計量) 質問項目 t値 自由度 有意確率(両側) 宗教 3.151 295.556 .002 国民性・価値観 1.714 277.379 .088 気候風土 5.719 280.189 .000 修正項目 はない 修正項目は 極めて少ない 中程度 修正項目は 極めて多い 0 1 2 3 4 5 6 7 同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月) 126( 926 )
⑥海外子会社における経営理念の浸透 近年は,経営理念の浸透が企業経営にとって大きな役割を果たしているといわれてお り,国内外の優良企業の分析においても指摘されてい 8 る。これらに関連する質問につい て,東南アジアと北米に差異が存在するのかを確認した。これは経営理念の浸透に関し て,地域差が存在するのかどうかを明らかにする意義がある。 結果は,図表 10 のとおりである。結果からは,「海外子会社の母国語を通じて,貴社 の経営理念とその詳細が示されている」という項目について,北米の方が 1% 以下水準 で有意に高いと確認された。問 5−3 に関しては,T 検定は 10% 水準で有意であるが, Mann=Whitney の U 検定では,有意な差が確認されなかった。 これは,質問項目に「母国語」でとあるので,東南アジアにおいては,タイ語,イン ドネシア語などの各国語に対応できていない可能性が考えられる。これに対して,北米 ──────────── 8 Simons(1995)では,信条のシステム(brief system)が 4 つのコントロールの手段のうちの,1 つとし てあげられている。 図表 9 販売市場の特性に関する結果 質問項目 t値 自由度 有意確率(両側) 問 4−1 日本国内やその他の地域でもライバル関係とな る企業との競争はどの程度ですか. −.862 267.610 .389 問 4−2 現地企業との競争はどの程度ですか. −6.856 304.251 .000 問 4−3 潜在的な顧客ニーズの発掘のための場として当 該市場はどの程度重要ですか. −4.819 312.723 .000 問 4−4 最先端の製品・サービスの実験の場として当該 市場はどの程度重要ですか. −7.582 307.447 .000 問 4−5 当該市場での新製品・サービスの市場への投入 頻度は日本国内市場と比べてどの程度ですか. −3.653 282.653 .000 問 4−6 当該市場の規模は,他の販売市場と比較して, どの程度ですか. −8.293 299.415 .000 問 4−7 当該市場の今後の成長性について,どの程度有 望視できますか. 1.939 256.312 .054 問 4−1 問 4−2 全く競争がない 中程度 きわめて競争的で破壊的 1 2 3 4 5 6 7 問 4−3 問 4−4 全く重要ではない 中程度 最も重要である 1 2 3 4 5 6 7 問 4−5 国内よりも相当頻度が低い 中程度 国内よりも相当頻度が高い 1 2 3 4 5 6 7 問 4−6 非常に小さい 中程度 非常に大きい 1 2 3 4 5 6 7 問 4−7 全く期待できない どちらとも言えない 非常に期待できる 1 2 3 4 5 6 7 海外子会社マネジメントの実態:地域別子会社管理の比較(中川) ( 927 )127
では英語で十分に対応できるため,経営理念の現地語(英語)への翻訳と浸透が行われ ていると考えられる。 ⑦経営管理上の本社・海外子会社間の取り決め 日本本社が海外子会社を管理するに当たり,本社・海外子会社間で明確な取り決めが 定められているかどうかという質問である。これらに関して,東南アジアと北米では差 が存在するのかを確認した。結果は,図表 11 のとおりである。 図表 11 の結果からは,東南アジアと北米との間には有意な差は確認できなかった。 これは,子会社がいずれ地域に存在しようとも経営管理に関しての管理項目について 図表 10 経営理念の浸透 t値 自由度 有意確率(両側) 問 5−1 海外子会社に対しても貴社の経営理念を浸透さ せることを重要視している. −1.012 299.937 .313 問 5−2 海外子会社の母国語を通じて,貴社の経営理念 とその詳細が示されている. −3.563 307.976 .000 問 5−3 貴社の経営理念を深く理解している人物を海外 子会社に出向させている. 1.721 234.728 .087 問 5−4 海外子会社内のあらゆる場において,経営理念 を象徴する『マーク』や『ロゴ』が使用されて いる. −.058 276.624 .954 問 5−5 現地国の価値観や文化を踏まえた経営理念の解 釈を海外子会社に示している. −1.511 288.924 .132 問 5−6 海外子会社内にて,貴社の経営理念に関する研 修・教育が頻繁に行われている. −.878 285.310 .380 問 5−7 グループの一員として相応しい,あるいは社名 に恥じない行動をとることを,海外子会社に求 めている. −.618 275.639 .537 全くそのようなことはない どちらとも言えない 全くそのとおり 1 2 3 4 5 6 7 図表 11 経営管理上の本社・海外子会社間の取り決め t値 自由度 有意確率(両側) 問 6−1 海外子会社を対象としたモニタリング項目 −.998 274.245 .319 問 6−2 海外子会社経営にあたって協議すべき事項 −1.137 282.076 .256 問 6−3 海外子会社からの報告項目 −1.251 281.060 .212 問 6−4 海外子会社への指導・助言内容 .419 285.341 .675 全く取り 決めていない 最低限の 事項のみ 中程度 詳細事項まで 取り決めている 0 1 2 3 4 5 6 7 同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月) 128( 928 )
は,大きな相違はないものと思われる。 ⑧親会社による海外子会社の管理 問 9 においては,親会社が海外子会社を具体的にどのような手段を用いて管理を実施 しているのかを聞いている。これらに関しても,東南アジアと北米に相違があるかどう かを確認した。結果は,図表 12 のとおりである。 問 9−4「業績評価指標を用いて,海外子会社の役割期待の達成度を把握している」と いう項目については,5% 水準で北米の方が有意に高いという結果となっ 9 た。このこと ──────────── 9 Mann=Whitney の U 検定の結果は,10% 水準で同様であった。 図表 12 親会社による海外子会社の管理手法 t値 自由度 有意確率(両側) 問 9−1 海外子会社に関連する詳細な業務データを収集 している. −.557 298.468 .578 問 9−2 海外子会社に業績結果の原因や次の施策方針な どについて詳細な説明を求めている. −1.128 300.684 .260 問 9−3 海外子会社で生じた異常や不測の事態に対し て,親会社は適宜指示・支援を与えている. .799 278.257 .425 問 9−4 業績評価指標を用いて,海外子会社の役割期待 の達成度を把握している. −1.996 306.547 .047 問 9−5 海外子会社が担うミッションの成否をどのよう に判断するのかが事前に明確になっている. −1.248 288.992 .213 問 9−6 予算実績比較は重要な海外子会社管理手段であ る. −.891 295.758 .374 問 9−7 海外子会社には非常に厳しい予算目標を課して いる. −2.065 288.346 .040 問 9−8 海外子会社には予算目標の必達を求めている. −1.250 281.784 .212 問 9−9 事前に定められた目標との比較を中心に海外子 会社の評価を行う. −1.552 293.826 .122 問 9−10 海外子会社の経営陣の報酬は業績連動型であ る. −4.567 280.997 .000 問 9−11 海外子会社の資金計画の策定に貴社が深く関与 している. .091 285.981 .927 問 9−12 海外子会社の短期利益計画の策定に貴社が深く 関与している. −.375 274.072 .708 問 9−13 海外子会社の中長期経営計画の策定に貴社が深 く関与している. .650 275.709 .516 問 9−14 海外子会社の役員人事は,貴社が深く関与して いる. 1.678 258.274 .095 全くそのようなことはない どちらとも言えない 全くそのとおり 1 2 3 4 5 6 7 海外子会社マネジメントの実態:地域別子会社管理の比較(中川) ( 929 )129
は,北米に所在する海外子会社の方がある程度の自律性を与えている代わりに,その成 果(業績)については,あらかじめ設定した目標についての達成度をチェックするとい うロジックが成立していると思われる。これは,問 9−10「海外子会社の経営陣の報酬 は業績連動型である」という質問に対しても,北米の方が有意に高くなっていることか らも推察できる。また,問 9−7「海外子会社には厳しい予算目標を課している」という 質問においても北米が有意に高くなっており,北米の方が結果によるコントロールが強 調されていると思われる。また,10% 水準ではあるが「海外子会社の役員人事には, 貴社(日本本社)が深く関与している」という項目において,東南アジアの方が北米よ りも有意に高くなっており,北米の海外子会社の方が役員の人事に関して自律性が高い ことが示唆されている。 ⑨海外子会社自身による経営管理 前項においては,日本本社による海外子会社の経営管理についてであったが,問 10 は,海外子会社自身による経営管理の実態に関する質問である。東南アジアと北米とを 比較した結果は図表 13 のとおりである。 図表 13 からは,問 10−1, 10−2 において有意な差が確認されていることから,北米の 方が海外子会社は,日本本社のサポートがなくてもある程度,自己完結的にマネジメン トを行っているという可能性がある。これに対して,問 10−3「現地での業務上の問題 解決を支援することが日本人出向者の重要な責務である」という質問は,東南アジアの 方が有意に高くなっており,東南アジアの方が業務に関する自律性が低いということを 示してい 10 る。 これらの結果は,前項で検討した日本本社による海外子会社の管理とほぼ一致してお り,北米の子会社の方が現地の環境への適応や業務に関して,自力で解決する能力が高 いことを示していると言えよう。 また,10% 水準ではあるが,問 10−9「グループ全体の戦略に対する海外子会社の貢 献が明確に示されている」に関して,北米の方が東南アジアに比べて有意に高くなって い 11 る。 ⑨海外子会社の成果・行動に対する満足度 最後に,海外子会社の成果・行動に対する満足度に関するものである。北米と東南ア ジアを比較した結果は,図表 14 のとおりである。 ──────────── 10 問 10−1, 10−2, 10−3 のいずれも Mann=Whitney の U 検定による結果も,有意水準は,ほぼ同様であっ た。 11 Mann=Whitney の U 検定による結果では,問 10−10 に関して,東南アジアの方が有意水準 10% では あるが,高くなっている(p=0.098)。 同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月) 130( 930 )
業績目標の達成度については,10% 水準ではあるが,東南アジアに方が有意に高く なっている一方,課題発見能力については北米の方が有意に高くなってい 12 る。 業績については,全般的な経済状況の影響も考えられるため,経済成長率が北米より ──────────── 12 Mann=Whitney の U 検定による結果では,問 10−1 に関して p=0.103,問 10−5 に関しては p=0.075 となった。 図表 13 海外子会社による経営管理 t値 自由度 有意確率(両側) 問 10−1 海外子会社は,顧客別の収益情報を使って,タ ーゲットとすべき顧客を海外子会社自身が把握 できる. −2.242 304.543 .026 問 10−2 業務マニュアルは海外子会社自身の手によって 改訂され続けている. −1.855 291.763 .065 問 10−3 現地での業務上の問題解決を支援することが日 本人出向者の重要な責務である. 3.464 221.183 .001 問 10−4 海外子会社内で生じた業務上の不測の事態は, すべて親会社が対応し問題解決を図っている. .344 256.314 .731 問 10−5 海外子会社内では,経営に関する情報が徹底的 に公開されている. −.562 286.422 .575 問 10−6 海外子会社内では,会計数字などの経営情報を 従業員が理解できるように,十分な教育・研修 を実施している. −1.196 284.382 .233 問 10−7 海外子会社は自ら発見・生み出したノウハウや 知識をグループ各社に対して提供している. −.433 270.243 .666 問 10−8 子会社間で直接的な調整もしくは情報を共有で きるような仕組みが構築されている. −.829 287.136 .408 問 10−9 グループ全体の戦略に対する海外子会社の貢献 が明確に示されている. −1.788 284.816 .075 問 10−10 グループ内で利用されている有効な管理手法に 関する導入・運用ノウハウを海外子会社は利用 することができる. 1.576 270.919 .116 問 10−11 必要であれば,海外子会社はいつでも業務計画 の見直しや修正を実行できる. .434 264.787 .665 問 10−12 海外子会社では,変化に迅速に対応するために 十分な予備費が計上されている. .477 290.265 .634 問 10−13 海外子会社は,迅速な対応のために,通常必要 とされる公式的な業務手続きを省略することが ある. −.243 288.817 .808 問 10−14 海外子会社が迅速に問題解決に取り組んだ結果 を,事後的に承認することがある. .630 291.271 .529 問 10−15 海外子会社内部での管理指標の選択・利用は, 子会社に一任している. −.509 271.888 .611 全くそのようなことはない どちらとも言えない 全くそのとおり 1 2 3 4 5 6 7 海外子会社マネジメントの実態:地域別子会社管理の比較(中川) ( 931 )131
も高い東南アジアにおいて,満足度が高くなっている可能性がある。また,北米におい て現地経営の成熟度が高い可能性を示してきたこれまでの結果から見ても,課題発見能 力について北米が有意に高いということは,ある程度の一貫性を示していると言えよ う。
Ⅴ まとめと今後の課題
本稿は,海外子会社の所在する地域の相違が,日本本社による海外子会社の管理およ び,海外子会社自体のマネジメントに影響を与えているのかどうかについて,検証を行 った。結果としては,部分的にではあるがいくつかの相違が確認された。経営環境全般 の相違は,ある程度予想されるものと一致しているが,日本本社による海外子会社の管 理スタイルや,海外子会社自体のマネジメントに地域差が確認できたことは,示唆に富 んでいる。 このことは,地域によって日本本社が管理スタイルを変えているか,また,そもそも 地域ごとに海外子会社に対する役割期待が異なることも考えられる。 本稿においてはアンケート調査によるデータのため,企業個別の海外子会社に対する 戦略,例えば,本稿の最初で検討したように,バートレット=ゴーシャルのモデルが指 摘するような海外子会社をどのように位置づけているのか,ということは十分には考慮 できていない。 しかし,バートレット=ゴーシャルのいう,「マルチナショナル型」や「インターナ ショナル型」が特定の地域に偏在していることも考えられる。この点からも地域間比較 には,ある程度の意義を認めることができると思われる。 今回は,仮説検証型の研究というよりも仮説発見型の研究を志向して,地域間を比較 図表 14 海外子会社の成果・行動に対する満足度 t値 自由度 有意確率(両側) 問 11−1 業績目標の達成度 1.738 274.016 .083 問 11−2 変化への対応 .720 295.404 .472 問 11−3 競合他社と比較した業績 1.325 285.618 .186 問 11−4 グループ内の子会社と比較した業績 1.089 277.833 .277 問 11−5 課題発見能力 −1.811 272.305 .071 問 11−6 自発的な学習 −1.010 274.084 .313 問 11−7 計画の実行力 −.381 280.967 .704 全く満足していない 中程度 非常に満足している 1 2 3 4 5 6 7 同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月) 132( 932 )を行った。今後はこれに基づいてさらに他の要因,例えば子会社を取り巻く環境が,子 会社自身や親会社による子会社のマネジメントにどのような影響を与えているかなどの 研究課題に取り組んでいきたい。 (本稿は,平成 26 年度科学研究費(研究課題番号 23330150)による成果の一部である。) 参考文献 安保哲夫編(1995)『日本的経営・生産システムとアメリカ:システムの国際移転とハイブリッド化』, ミネルヴァ書房。 安保哲夫(1996)「アメリカにおける日本的生産システムの移転,1989−93 年:変化の方向とアジア,ヨ ーロッパとの比較」『国民経済雑誌』第 174 巻第 1 号。 浅川和宏(2003)『グローバル経営入門』,日本経済新聞社。
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