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産業競争力の最終防衛ライン、電子材料産業の新展開

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Academic year: 2021

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産業競争力の最終防衛ライン、

電子材料産業の新展開

産 業 構 造 と 法 律 の 改 革

岩間公秀

中島崇文

デジタル家電やハイブリッド自動車などの需要拡大により、電子材料の市場

規模は足元の7.4兆円から、2010年には約10兆円に成長すると見込まれる。

この電子材料市場で、日本の電子材料メーカーは、誰にもまねできない圧倒

的な技術力を強みに市場を席巻している。しかし、ここ数年、後発のアジアの

新興メーカーが多く現れてきており、日系企業は高収益ビジネスを維持するの

が困難になりつつある。

また、日本の電子材料企業を取り巻く事業環境に大きな影響を及ぼす3つの

変化要因がある。①中国の鉱物資源の輸出余力が弱まること、②環境調和材料

への転換を求める規制の強化、③技術トレンドのキャスチングボートの海外シ

フト――である。

このような状況で日系メーカーが競争優位を維持し続けるには、

「川上マー

ケティング」の強化による調達不安の払拭や、異分野の知の連携による次世代

プラットフォームの構築など、従来の電子材料メーカーの枠を超える新たな取

り組みが望まれる。

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日系企業が技術で強みを発揮する

高収益な電子材料ビジネス

電子材料はますます身近な存在に 昨今、テレビコマーシャルで「ナノテク」 や「エコマテリアル」といった言葉が多く紹 介され、また雑誌や新聞紙面でも「デジタル 素材」や「ハイテク素材」などの言葉が見出 しを飾るようになり、一般消費者も電子材料 を身近に感じる時代へと変わった。 電子材料はさまざまなハイテク分野を支え る広大な領域であるため、本稿では近年特に 成長が著しいエレクトロニクス機器を構成す る「ディスプレイ」「半導体」「実装回路」 「記録媒体」「電池」のデバイス、部品、モジ ュールに使われる機能材料を取り扱う。な お、デバイスとは IC(集積回路)、LSI(大 規模集積回路)などの基本素子をいう。また モジュールとは、デバイスや部品を組み合わ せたもので、完成品の機能的構成単位となる ものを指す。具体的には、携帯電話のカメラ ユニットや液晶パネルなどである。 たとえば、液晶テレビを構成するモジュー ルの液晶パネルには、ガラス基板、偏光板、 TAC(トリアセチルセルロース)フィルム、 PVA(ポリビニルアルコール)フィルム、 保護フィルム、反射防止フィルム、カラーレ ジスト、フォトスペーサ−、液晶材料、配線 材料など、あげればきりがないほど多くの電 子材料が使われている(図1)。 エレクトロニクス機器の陰の立役者 として成長を続ける電子材料 家庭の「新三種の神器」と呼ばれるように なった薄型テレビ、デジタルカメラ、DVD (デジタル多用途ディスク)レコーダーをは じめとする情報家電の需要拡大や、いまだグ ローバル市場での成長がとどまることのない 携帯電話等の情報通信機器や、ハイブリッド 化等、電子制御技術の浸透が急速に進む自動 車などに伴い、エレクトロニクス市場は大き く成長している。それらのエレクトロニクス 機器の技術革新を支える陰の立役者が電子材 料であり、今後のイノベーションの多様性と 市場成長のポテンシャルに、多くの市場プレ ーヤーが熱いまなざしを注いでいる。 注目が集まるのは、電子材料ビジネスの成 長性だけでなく、その収益性も非常に高いか らである。大手総合電機メーカーの営業利益 率が5%未満なのに対し、電子材料メーカー は総じて10%前後と高い。液晶や実装回路の 材料で強みを持つ日東電工は、15%を超える 営業利益率となっている(次ページの図2)。 電子材料市場は日系メーカーの独壇場 「失われた10年」を象徴するかのように、日 これまでの業界推移 図1 液晶パネルに使われる電子材料 注)AG:防眩、AR:反射防止、CCFL:冷陰極蛍光管、ITO:酸化インジウムスズ、   LED:発光ダイオード、LR:低反射、PVA:ポリビニルアルコール、TAC:トリア   セチルセルロース、TFT:薄膜トランジスタ ARフィルム、LR フィル ム、AG フィルム 偏光板(TAC フィルム、 PVAフィルム、TAC フィ ルム) 視野角補償フィルム 位相差フィルム ガラス基板 保護膜 ITO透明電極 液晶材料 配向膜 ブラックマトリックス ITO透明電極 TFT 位相差フィルム 輝度向上フィルム プリズムフィルム 偏光板 拡散シート 拡散板 反射シート 封止材 CCFL、LED 液晶パネルの代表的な構造 スペーサー

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図2 電子材料メーカーと総合電機メーカーの収益性分析(2005年度) 注)各社の決算報告書より作成 売上高(億円) 営 業 利 益 率 ︵ % ︶ 日本電気硝子 JSR 住友金属工業 日東電工 日立化成工業 住友ベークライト 信越化学工業 住友金属鉱山 クラレ 日本ゼオン トクヤマ 電気化学工業 富士フイルム 旭硝子 宇部興産 東レ 三井金属 日立金属 住友化学 大日本印刷 凸版印刷 大日本インキ化学工業 三菱電機 日立製作所 東芝 ソニー 25 20 15 10 5 0 −5 0      5,000     10,000     15,000     20,000     25,000     30,000   35,000 昭和電工 図3 電子材料のメーカー別シェア(2005年) 注 1)LG化学、STEMCOは韓国、OPTIMAXは台湾、MEMCOエレクトロニック・マテリアルズ、ワッカー・シルトロニクス、ローム・アンド・ハースはアメリカ   2)ACF:異方導電性フィルム、DUV:遠紫外、DVD:デジタル多用途ディスク、HDD:ハードディスクドライブ、LIB:リチウムイオン電池、NeFeB:ネオ    ジム・鉄・ホウ素、TAB:テープ自動ボンディング 出所)有価証券報告書など各種資料より野村総合研究所推定 0% 20 40 60 80 100 ディスプ レイ 半導体 実装回路 電池 記録媒体 その他 コニカミノルタオプト 日本合成化学工業 大阪有機化学工業 MEMCエレクトロニック・マテリアルズ ワッカー・シルトロニクス ローム・アンド・ハース 信越化学工業 その他 STEMCO その他 セイミケミカル 正同化学工業 信越化学工業 TDK 日東電工 LG化学 OPTIMAX その他 富士フイルム ダイセル化学工業 クラレ JSR その他 信越半導体 SUMCO その他 JSR 信越化学工業 東京応化工業 その他 住友ベークライト 日東電工 日立化成工業 その他 三井金属 新藤電子工業 日立化成工業 ソニーケミカル 旭化成ケミカルズ セルガード 東燃化学 その他 日亜化学 日本化学工業 その他 その他 帝人 オハラ HOYA NEOMAX (中国産磁石) 偏光板 TACフィルム TAC樹脂 PVAフィルム 感光性スペーサー 300mmウェハー 半導体レジスト(DUV) 封止材 TAB ACF LIB用セパレーター LIB用正極材料 DVD基板材料 HDD基板材料 NdFeB磁石

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本のエレクトロニクス機器市場は今や韓国、 台湾、中国をはじめとするアジアのメーカー に追いつかれ、また一部の分野では追い越さ れてしまっている。しかし、そのような環境 の中で、日本が圧倒的な競争力を維持してき たのが電子材料の分野である。お茶の間の生 活で身近になりつつある薄型テレビを例にと ってみても、電子材料に関しては日系メーカ ーがそのほとんどを供給しており、材料によ っては1社でほぼ独占しているケースも少な くない(図3)。 たとえば、日東電工は液晶パネルを構成す る偏光板市場で半分のシェアを持ち、他社を 圧倒している。また、その偏光板を構成する TACフィルム、PVAフィルムは、それぞれ 富士フイルム、クラレがほぼ独占的シェアを 占める。さらに上流にさかのぼると、TAC フィルムの材料となるTAC(樹脂)はダイ セル化学工業の独占となっており、驚くほど 日系メーカーが強い。 誰にもまねできないコア技術に 裏づけられた日系企業の強み 日本の電子材料メーカーがこれまで圧倒的 な競争力を維持してきたのには、いくつかの 要因がある。その最大のものは、他社にまね できないコア技術をベースとした材料とプロ セスの開発力である。特に新材料の設計は、 複数のコア技術を結集し、その組み合わせに より新しい機能や特性を作り込む。これには かなりのノウハウと創造力が必要となる。量 産に当たって製造装置・ラインのレシピ(構 成や手順)を決める際には、高いエンジニア リング技術も求められる。 日系メーカーがこれまで他社の追随を許さ ずに高収益なビジネスを維持しているのは、 それらの多くの技術を自社でブラックボック ス化しているからである。現に、自社で設備 を内製しているケースは多い。 2つ目の要因は評価技術力の高さである。 材料開発の目標をたがえず迅速に進めるため には、顧客と同レベルの評価体系を築き、顧 客と同じ目線で自ら評価できることが必要と なる。また、評価技術を持つことは、顧客に マッチした材料の提案力を高められるだけで なく、自社の保有技術を守るためにも有用で あると考える。たとえば、半導体材料を開発 するメーカーでは、思い切った投資判断によ り、半導体メーカー並みの最先端の半導体製 造パイロット(試作)ラインを有するメーカ ーも少なくない。

アジアメーカーの参入により

ますます競争激化

アジアメーカーによる内製化が加速 これまで電子材料業界は日系メーカーの独 壇場だったが、1990年代後半からアジアメー カーの参入が相次いでいる。 韓国のLG化学は、LG電子やLGフィリッ プスなど、グループ内に勝ち組のビッグユー ザーを抱える強みを活かし、参入して数年も 経たないにもかかわらず、今では世界を代表 する電子材料メーカーへと成長した。参入の タイミングも絶妙だった。日系メーカーに市 場を牛耳られ、まだ値段が高止まりしていた ときに、後発で一気に市場参入を果たした。 現在、偏光板事業は同社の屋台骨を支える 事業であり、前述の日東電工に追随できるポ ジションを築いている(図3)。同社の電子 材料事業の売上高は、1.2兆ウォン(約1440 億円)を超えている(次ページの図4)。 日本の電子材料メーカーとの協業により、 飛躍的に成長するアジアメーカーも出てきて 最近のトピックス

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いる。台湾のOPTIMAX(力特光電科技) は、日系の偏光板大手のサンリッツの技術供 与により同市場に参入した。参入当初はサン リッツが台湾の液晶パネルメーカーに供給す る偏光板の後工程を手掛けていたが、現在は OPTIMAXが前工程から一貫して生産し、自 社ブランドでの製品供給を行っている。 中国でも近年、電子材料に参入する企業 が相次いでいる。リチウムイオン電池メーカ ーとして急成長しているBYD(比亜迪)が、 電池材料の内製化を加速している。また、 BYDや2番手のLISHEN(天津力神電池)に 電池材料を供給する上海杉杉科学技術などの 中国ローカルの電子材料メーカーも出現して いる。 このように、アジアの電子材料メーカーは 急激な成長路線に入った。先行するメーカー から技術を導入して、短期間で事業化してい るケースも多い。そのため廉価品が市場に出 回り、価格破壊が起こるのは時間の問題なの かもしれない。つまり、日本の電子材料メー カーが継続的に高収益ビジネスを維持できな くなるリスクも多く潜んでいるといえよう。 国をあげての政策がアジアの 電子材料産業を強力に後押し 台湾、韓国をはじめアジアの国々では、政 府が電子材料産業の育成に熱心に取り組んで いる。特にここ数年の熱の入れようは凄まじ く、日系をはじめ高い技術力を持つ企業の誘 致、アライアンス(戦略的提携)の支援や、 自国内での産業育成を積極化している。 台湾では2002年から政府が全力をあげて、 経済部工業局を中心に2006年までの「両兆双 星」計画を推進している。「両兆」とは半導 体産業とFPD(フラットパネルディスプレ イ)産業のそれぞれの生産高を1兆新台湾 ドル(約3.6兆円)以上に引き上げること、 「双星」とはデジタルコンテンツ産業とバイ オ産業を明星産業(花形産業)にすることを 指す。 経済部工業局には半導体産業推進事務局 ( S I P O ) と イ メ ー ジ ン グ 産 業 推 進 事 務 所 (CIPO)が組織され、特に近年は半導体や液 図4 LG化学の業績推移(2001∼2004年) 注)1ウォン=約0.12円 出所)LG化学の年次報告書より作成 8,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 600 400 300 200 100 0 −100 情報・電子材料 産業用材料 石油化学品・ 機能性ポリマー 売上高 営業利益 2001年    02     03     04 2001年    02     03     04 十 億 ウ ォ ン 十 億 ウ ォ ン

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晶パネルなどのデバイスやモジュールにとど まらず、半導体とディスプレイにかかわる電 子材料産業の育成のために、技術移転や企業 誘致などの活動を積極的に行っている。ディ スプレイ分野では、台湾 FPD材料・デバイ ス産業協会(TDMDA)も同分野の産業振興 を積極的に推し進めている。 韓国では2001年4月に、「部品素材専門企 業等の育成に関する特別法」が制定された。 産業資源部は同法に則って韓国部品素材投資 機関協議会を設立し、政府が指定する研究開 発テーマに対して公募をかけ、選び抜かれた 中小の部品・素材メーカーに対して、研究開 発の支援にとどまらず、事業化段階における マーケティングなどのコンサルテーションや IPO(新規株式公開)の実行支援などを行っ ている。実際に政府が研究開発テーマに指定 する電子材料の例を以下に示す。 >PMMA(ポリメタクリル酸メチル) >CNT(カーボンナノチューブ)複合材料 >異方性導電膜および導電ペースト >FPC(フレキシブルプリント基板)実装 材料 >半導体用の研磨剤、スラリー(分散懸濁 液) 特徴的な点は、同協議会には韓国政府の資 金だけでなく、民間の大手財閥系を含む複数 のベンチャーキャピタルや商社、金融機関も 出資していることであり、このため、より実 効性の高い成果も目標としている。現在に 至るまで、約360社に対して約4000億ウォン (約480億円)の支援を実施している。

日系電子材料メーカーにとっての

思わぬ落とし穴が出現

このように新興のアジアメーカーの参入が 相次ぐなか、日本の電子材料メーカーは従来 のように圧倒的な競争力を維持し続けられる だろうか。筆者らは、アジアメーカーの参入 に加え、さらに事業環境に大きな影響を及ぼ す3つの変化要因があると注目している。そ の変化要因とは、①中国の鉱物資源の輸出余 力が弱まること、②環境調和材料への転換を 求める規制の強化、③技術トレンドのキャス チングボートの海外シフト――である。 原材料の争奪戦が始まっている 国土の広い中国は豊富な鉱物資源を埋蔵す る資源大国であり、鉱物資源は中国にとって 外貨を稼ぐ重要な輸出品目となっている。し かし、中国では近年、バリューチェーン(価 値連鎖)でちょうど空白になっていた電子材 料や電子部品の領域に参入し、原料ビジネス から脱却してより付加価値の高いビジネスを 強力に推進する動きが活発になってきた。 中国が原料から完成品までの垂直統合を図 ることは、先行するその他の国の電子材料メ ーカーにとって大きな脅威になる(次ページ の図5)。多くの電子材料メーカーは、原料 を中国から輸入しているケースが多いからで ある。中国という資源大国が電子材料分野へ の進出を積極的に進めているということは、 裏を返せば中国国内の原材料の需要拡大によ り、日本への輸出余力が弱まることを意味す る。つまり、日本では原材料の調達不足か ら、モノが作れないという事態が将来的に生 じる可能性が大いにある。 現在、日本は磁石や蛍光体などの原料とな るレアアース(希土類)の90%以上を中国に 依存している(次ページの図6)。特に磁石 に関しては、中国での生産量が年々増えてお り、このままのペースでいくと、日本は中国 からレアアースの一部の材料を調達できなく 業界構造の変化

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なるリスクも高まっている。 1992年に が南巡講話( 、珠海 など南部を視察したときの講話)で、中国の レアアースを中東の石油になぞらえ、国家戦 略物質に位置づけたのは有名な話である。 HDD(ハードディスクドライブ)の内蔵 化が急速に進むエレクトロニクス機器、エア コン等の白物家電や電動アシスト自転車など の需要拡大、自動車のハイブリッド化などの 進展に伴い、高性能磁石の需要は今後も大幅 に伸びると想定される。しかも、高性能磁石 はどれもこれも日本のお家芸である機器や部 品に搭載されるキーコンポーネントである。 日系メーカーは、レアアースの材料争奪戦と いう深刻な問題にぶつかるかもしれない。 レアアースだけではない。たとえば、液晶 パネルを構成する偏光板に使われるPVAフ ィルムの偏光子の原料や、位相差フィルムの 製造プロセスで触媒として使われるヨウ素、 透明電極に使われる ITO(酸化インジウムス ズ)の原料であるインジウムは、今後も継続 して原料需給が逼迫する可能性もある。 ヨウ素は地下かん水に多く含まれ、地下か ん水の豊富な千葉県は世界有数のヨウ素の産 地となっている。現在、日本は世界で利用さ れるヨウ素の約35%を生産し、チリに次ぐ生 産量を誇る。これだけ資源に乏しい日本で唯 一といっていいほど、自給自足できる可能性 のある原料である。しかし、地盤沈下の懸念 から地下かん水の汲み上げ量に制限があるた め、生産量は自由が利かない。ヨウ素の応用 分野は液晶用フィルムだけでない。レントゲ ンの造影剤、薬品、食品に加えて、次世代技 術として有望視されている色素増感型太陽電 池での需要も見込まれ、今後、応用分野をま 図5 電子材料産業に参入するアジアメーカー 原料 電子材料 デバイス、 モジュール セット 日本企業の独占 中国の資源政策 アジア勢の参入!? 競争激化の恐れあり 韓国・台湾企業の躍進 日本 韓国・台湾 中国 図6 日本のレアアース輸入先の推移 出所)『金属資源レポート』2004年11月号 0% 20 40 60 80 100 1990年 1995年 2003年 2002年 2001年 2000年 中国 フランス アメリカ インド エストニア 台湾 マレーシア 旧ソ連

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たいだ材料の争奪戦は必至だろう。 インジウムの需給逼迫による価格高騰の問 題は、すでに顕在化している。主産地である 中国では環境汚染を背景に鉱山が閉鎖され、 日本では北海道の豊羽鉱山が亜鉛の資源枯渇 により2006年3月に閉山するなど、供給不安 が今後も続く。現に、近年インジウムの価格 は上昇している(図7)。 調達不安のある原材料を使用しない技術の 開発も積極的に展開されているが、現実的な 解が見つかっていないケースが多い。たとえ ば液晶パネルの透明電極では、上記の ITOか ら、インジウムを使わない代替技術に移行す るための開発も積極的に進められている。し かし、現状では ITOに代わる使い勝手の良い 材料は見つかっていない。 日本は鉛フリー化で真のデファクト スタンダードを握れるか 2006年7月1日にEU(ヨーロッパ連合) でWEEE/RoHS(廃電気・電子機器のリサイ クル規制、電気・電子機器の特定有害物質使 用規制)指令が施行される。このEU指令で は、EU圏内で販売される電気・電子機器に 対して6品目、すなわち鉛、水銀、カドミウ ム、六価クロム、PBB(ポリ臭化ビフェニ ール)、PBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテ ル)の使用を禁止している。 その結果、たとえばこれまで電気・電子機 器に使われていたはんだ(スズと鉛の合金) は、鉛フリーはんだへと世代交代する。この 鉛フリーはんだをめぐり、日本と欧米の技術 開発競争の第2幕が始まろうとしている。 そもそも、日本は鉛フリーはんだの技術開 発で先行し、2006年3月時点で80%以上の鉛 フリー化が完了している。一方海外では、ヨ ーロッパやアジアのセットメーカーの対応は 非常に遅れており、鉛フリー化率は約30%以 下といわれる。 民生品で最も多く採用されているスズ、 銀、銅組成の材料特許も、特許係争の末、松 下電器産業・千住金属工業と、アイオワ大 学・日本スペリア連合とのクロスライセンス (相互技術供与)となり、日本は材料組成で 優位に立っている。一見、日本はデファクト スタンダード(事実上の標準)を握ったかの ように見えるが、それは本当だろうか。 実は、真のデファクトスタンダードはまだ 決まっておらず、すでに技術開発競争の第2 幕が始まっていると考えるべきである。 1つ目の理由は、日本が推奨するスズ、 銀、銅組成には、まだいくつかの技術課題が 残されているからだ。外部ストレスを加える ことではんだの結晶が成長し、それが原因で ウィスカー(ひげ結晶)が生じる問題など、 あげれば課題は山のように出てくる。いまだ ウィスカー発生の決定的な解決策が見えない ため、鉛入りはんだをFPCの狭ピッチコネク ター接触部に使用することを、EU指令の規 制から除外するようにとの申請もなされてい るが、本当に規制項目から除外されるかの見 通しは立っていない。 図7 インジウムの国内建値(中心値)の推移 出所)『日経産業新聞』など公開資料より作成 建 値 ︵ 千 円 / キ ロ グ ラ ム ︶ 2004年 05 06 0 20 40 140 120 100 80 60

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2つ目の理由は、今回のWEEE/RoHS指 令の対象製品があくまで「弱電」機器中心と なっていることである。「重電」機器やFA (ファクトリーオートメーション)ロボット、 自動車をはじめとする輸送機器は含まれてい ない(表1)。弱電系よりも過酷な条件で使 う機器に対しては、現在のところ鉛入りの高 融点はんだに代わる材料が見つかっていない ため、鉛フリー化の規制はない。しかし今後、 技術革新が起こり、必ずや鉛フリー化がうた われる日が来る。 また、今後の環境意識の高まりによって、 WEEE/RoHS指令による鉛フリーや水銀フ リー以外にも、ハロゲンフリー、脱フロンな ど環境に配慮した電子材料の開発や無害化技 術、リサイクル技術のデファクトスタンダー ドをめぐり、技術開発の国際競争はますます 熾烈化するだろう。 ポスト日の丸リーダーシップの時代 エレクトロニクス産業や自動車産業を例に 見ても、日本は材料からデバイス・部品、モ ジュール、完成品に至るスマイルカーブ(上 流と下流部門の収益が高く、中流部門の収益 が低い曲線)の川上から川中のバリューチェ ーンと、それらを支える装置産業などサポー ティングインダストリーの分野で、世界に誇 る技術力を有している。これだけ垂直統合的 に技術集積している国は、日本のほかにあま り類を見ない。 しかし、市場の観点から見ると、トヨタ自 動車のような一部の勝ち組企業を除けば、川 下のモジュール、完成品に近づくほど海外メ ーカーの存在感が増している。 現在、世界の携帯電話メーカーのシェアを 見ると、トップのノキアからモトローラ、サ ムスン電子、LG電子までの海外勢が続き、 日系企業は全体でも10%のシェアにも満たな い(図8)。また液晶パネルの分野では、ト ップ2社は韓国勢で、その後を台湾勢が追随 している(図9)。同様に半導体分野では、 インテルとサムスン電子の2社が上位を占め ている(図10)。 日系メーカーの復活も大いに期待したい が、今後、海外メーカーの存在感はさらに高 製品 大型冷凍機、冷蔵庫、食品保存庫、洗濯機、乾燥機、食器 洗い機、調理器、電気ストーブ、ホットプレート、電子レ ンジ、その他の大型食品調理器、電熱器、電気暖房機、電 動ファン、エアコン、その他の空調機 掃除機、カーペットクリーナー、その他の掃除機、ミシン などの裁縫機器、アイロンなどの衣類機器、トースター、 フライヤー、コーヒーマシンやミル、電気ナイフ、ヘアド ライヤーなど整髪機器、電動ひげそり、ボディーケア機器、 時計、スケール 大型計算機、ミニコン、プリンター、PC(CPU、マウス、 モニター、キーボード)、ラップトップPC、ノートPC、 ノートパッドPC、コピー機、タイプライター、電卓、他 の個人情報機器、ファクシミリ、各種電話、携帯電話、応 答機器、その他の情報通信機器 ラジオ、テレビ、ビデオ、ビデオカメラ、ハイファイ録音 機、アンプ、電気楽器、他の録音・映像機器(通信機器を 除く) 各種蛍光灯(家庭照明を除く)、直管蛍光灯、小型蛍光灯、 高輝度照明(ナトリウムランプやハロゲンランプ)、低圧 ナトリウムランプ、その他のランプ類(フィラメント管球 を除く) ドリル、のこぎり、リベット機器、溶接機、はんだゴテ、 塗装工具、その他の電動工具、芝刈り機などのガーデン機 器 電気機関車や自動車の電動おもちゃ、携帯ゲーム機、ゲー ム機、各種スポーツ用の計算機、スポーツ用の電動器具、 スロットマシン インプラントを除く医療機器 煙探知機、加熱制御器、サーモスタット、家庭や実験室で 使用する長さ・重さなどの機器 飲料自動販売機、飲料缶や瓶の自動販売機、固形物自動販 売機、その他の自動販売機 カテゴリー 大型家電 小型家電機 IT・通信機器 一般民生機器 照明 電動工具 玩具・レジャー 機器 医療機器 モニター機器 自動販売 表1 WEEE/RoHS指令の規制対象製品 注)CPU:中央演算処理装置、IT:情報技術、PC:パソコン、WEEE/RoHS:廃電気・ 電子機器のリサイクル規制、電気・電子機器の特定有害物質使用規制 出所)菅沼克昭教授(大阪大学産業科学研究所)の講演資料

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まり、半導体業界がインテルの描いたロード マップにならうように、海外メーカーが市場 や技術のトレンドのキャスチングボートをま すます握ることも考えられる。 そのような状況では、日系の電子材料メー カーにとって、キャスチングボートを握る海 外メーカーとの密接な関係の構築が不可欠と なる。特に電子材料は、セット製品の高付加 価値化の成否を握るキーマテリアルであり、 顧客の期待以上の機能を引き出すために、最 終的に何度も技術のすり合わせがなされる。 したがって、日本の電子材料メーカーがこ れまで国内ユーザーとの間で築いてきたのと 同様な信頼関係を海外ユーザーと築く必要性 が高まり、開発マーケティングや共同開発の あり方、それに伴う技術流出への対策など、 グローバルビジネスを本格的に拡大する体制 づくりが求められる。

電子材料市場は2010年に

約10兆円の規模に成長

電子材料市場は、薄型テレビやデジタルカ メラに代表されるデジタル家電市場の急拡大 とともに、大きな成長を遂げてきた。今後も 継続的な成長が期待されるが、筆者らは今 回、その経済効果を定量的に把握するため に、電子材料の2010年までの市場がどう推移 するかを試算した(次ページの図11)。 試算の対象としては、エレクトロニクス製 品を構成する電子材料の5大用途を中心に、 約110種類の代表的な材料をピックアップし た(5大用途とは、ディスプレイ、半導体、 実装回路、記録媒体、電池)。そして、それ ぞれの電子材料と関係の深い最終セット製品 の市場規模と、最終セット製品に使われる電 子材料の量的推移、単価動向から市場規模を 図8 携帯電話メーカーの世界シェア 注)2005年第4四半期の携帯電話端末のエンドユーザーへの販売台数 出所)ガートナー・データクエスト ノキア 35% モトローラ 18% サムスン電子 12% LG電子 7% ソニー・エリクソン ・モバイルコミュニ ケーションズ 7% 明基電通 5% その他 16% 図9 テレビ用液晶パネルメーカーの世界シェア 注) 2005年第3四半期の出荷数量 出所)ディスプレイサーチ サムスン電子 21% その他 1% LGフィリップス 22% 奇美電子 19% シャープ 17% 友達光電 15% 中華映管 3% 広達電脳 2% 図10 半導体メーカーの売上高世界シェア(2005年) 注)AMD:アドバンスト・マイクロ・デバイス 出所)ガートナー・データクエスト インテル 15% テキサス・イン スツルメンツ 4% サムスン電子 8% STマイクロエレク トロニクス 4% 東芝 4% ルネサステクノロジ 4% インフィニオン テクノロジーズ 4% NECエレクトロニクス 2% ハイニックス半導体 2% AMD 2% その他 51% 市場の見通し

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算出した。 筆者らの試算によれば、世界の電子材料 市場の規模は現在約7.4兆円であり、今後も 8.5%の高い成長率を持続して、2010年には 約10兆円に達する見通しである。日本の名目 GDP(国内総生産)の成長率を大きく上回 る水準となる。 分野別に見ると、ディスプレイ関連材料、 実装回路関連材料、半導体関連材料の割合が 大きい。特にディスプレイ関連材料は、薄型 テレビの爆発的な普及の影響で、高い成長率 で市場が拡大すると予想される。またハイブ リッド自動車は、電子材料の新たな応用の柱 としても期待される(図12)。 図11 2010年までの電子材料の世界市場予測 注)CMP:化学機械研磨、DRAM:記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー、I C:集積回路、LCD:液晶ディスプレイ、PDP:プラズマディスプレ   イパネル 試算に勘案した電子材料 分類 ディスプレイ分野 半導体分野 実装回路分野 記録媒体分野 電池分野 その他の分野 試 算 対 象 の 電 子 材 料 ︵ 一 部 ︶ 電子材料の 主要用途 (デバイス、 モジュール) 成型品 非成型品 カラーフィルター、 フォトマスク、各 種光学フィルムな ど フ ォ ト レ ジ ス ト 、 カ ラ ー レ ジ ス ト 、 液晶材料、蛍光体、 特殊ガス・薬液な ど シリコンウエハー、 フォトマスク、ペ リクル、CMPパッ ドなど フ ォ ト レ ジ ス ト 、 多 結 晶 シ リ コ ン 、 CMPスラリー、特 殊ガス・薬液など 銅張り積層板、メ タル・セラミック 基板、電解・圧延 銅箔など はんだ・導電性接 着剤、封止材、ダ イボンド材、ビル ドアップ基板材料、 レジストなど 光 デ ィ ス ク 基 板 、 HDD基板、ベース フィルムなど 有色色素、コーテ ィング材、磁性材 など セパレーター 正極材料、負極材 料、電解液 ソフトフェライト、 永久磁石、圧電セ ラミックスなど 金属材料、スパッ タリングターゲッ トなど LCDパネル、PDP など DRAM、フラッシ ュメモリー、ロジ ック IC、ディスク リートなど リジッドプリント 配線板、フレキシ ブル配線板、ビル ドアップ基板、そ の他実装部品 光ディスク、磁気 ディスク、磁気テ ープなど リチウムイオン電 池、ニッケル水素 電池など モーター、センサ ーなど 2003年    04     05     06     07     08     09     10 その他の電子材料 電池関連材料 記録媒体関連材料 実装回路関連材料 半導体関連材料 ディスプレイ関連材料 市 場 規 模 ︵ 十 億 円 ︶ 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 1,309 1,797 2,034 2,294 2,572 2,852 3,155 3,378 1,467 1,695 1,701 1,782 1,826 1,862 1,878 1,869 2,177 2,513 2,719 2,906 3,049 3,180 3,291 3,343 367 401 422 439 456 470 480 487 128 144 147 149 149 145 142 148 346 392 419 441 452 462 465 462 5,794 6,942 7,442 8,011 8,504 8,974 9,681 9,414

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いずれも当該市場で競うプレーヤーには、 ユーザーの期待に応える技術ソリューション の提供に加え、市場の急拡大に追随できる迅 速かつ大胆な投資判断が強く求められること になる。また、市場におけるアジアのユーザ ーの存在感の向上と、電子材料の内製化が進 むなか、一層のコストダウンへの取り組みも 必要となる。

原料調達の見極めと知の連携による

次世代プラットフォーム構築へ

「川上マーケティング」の強化による 調達ボトルネックの回避 今後、日本の電子材料メーカーにとっての 事業の競争軸は、単に品質面での技術の差別 化だけでなく、材料の安定調達力や、環境に やさしい材料をいかにうまく使いこなせるか の環境調和力へとシフトする。 材料争奪戦の問題は、電子材料メーカーに とどまらず、電子機器や自動車などの完成品 メーカーにとっても、事業を拡大するうえで 思わぬボトルネック要因となる。そのため、 電子材料から完成品に至るサプライチェーン (供給連鎖)上のプレーヤーは今後、原材料 の調達戦略、いわば「川上マーケティング」 を強化し、供給不安のある材料の選定、アラ イアンスによる原料調達の一元化、共同購入 によるコストダウンといった調達方策を早急 に検討する必要がある。 レアメタル(希少金属)など国家で備蓄し ている材料以外にも、需給逼迫により価格が 高騰する材料や、調達自体が難しくなる可能 性のある材料は意外と多くある。調達不安が 顕在化してしまった後では手遅れとなり、企 業経営を脅かすことにもなりかねない。 この問題については、産業界だけでなく、 国家として調達リスクの高い原材料の戦略的 図12 ハイブリッド自動車を構成する部品 注)DC:直流、E-Four:電気式4輪駆動システム、HV ECU:ハイブリッド制御コンピュータ 出所)EVS21(第21回電気自動車シンポジウム)でトヨタ自動車が配布した CD-ROM「RX400h」 パワーコントロールユニット  >HV ECU  >インバーター  >昇圧回路  >DC/DCコンバーター ハイブリッド用トランスミッション  >ジェネレーター  >フロントモーター  >動力分割機構  >減速機 ガソリンエンジン その他(電動アイテム)  >リアモーター(E-Four)  >電動コンプレッサー  >電動パワーステアリング ワイヤハーネス リレー 高電圧電池ユニット  >電池  >冷却装置  >電池センサー  >ケース 業界への提言

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調達にどう取り組むべきかの検討を迫ってい るともいえる。 異分野の技術の融合と 研究開発スピードの一層の加速 日本の電子材料メーカーはこれまで他社に まねできない圧倒的な技術力を強みにして、 世界を凌駕してきた。アジアメーカーなどの 後発参入が相次ぐなか、今後も日本が世界で 勝ち続けていくには、電子材料の技術におけ る先進性を保持し続けなければならない。 研究開発の観点から日本とアジアの電子材 料メーカーを比較すると、その取り組み方に 大きな違いがある。日本の多くの電子材料メ ーカーは、中長期的な成長を目指した基礎研 究機能を持ち、ボトムアップによる技術シー ズの探索という研究の初期段階から、事業化 に至るまで、一気通貫で行っている。一方、 アジアの電子材料メーカーは、そのような基 礎研究機能を持たずに基礎技術を外から導入 し、トップダウンにより開発以降の機能を強 化していることが多い(図13)。 実際に初期の研究開発成果が事業化して物 になる確率は、1000に3つといわれるほど非 常に低い。それだけでなく、材料の研究開発 には少なくとも5年、10年はかかる。そのよ うな意味では、日本の研究開発スタイルは非 常に非効率とも見える。しかし、日本の電子 材料メーカーが他社にまねできない圧倒的な 技術力を有するのは、このような基礎研究機 能を自社で持ち、そこで磨き上げられたコア 技術を多く蓄積しているからである。 今後も日本がさらに競争力を維持し続ける には、この基礎研究機能を一段とレベルアッ プさせる必要があり、それには2つの方策が 考えられる。 一つは、自社の持っている全技術リソース を棚卸しし、異分野のコア技術を融合させる ことである。新機能の実現、複数の機能の統 合によるソリューション提案など、さらに他 社との差別化を図っていく。そのためには日 本の電子材料メーカーに多い縦割り的な壁を 打ち破り、各事業に横串を刺す(事業間横断 の)機能の強化と、企業全体をコントロール する本社機能の強化がますます重要となる。 もう一つは、研究開発をより効率的かつス ピーディに進めることで、技術アドバンテー ジのギャップを拡大することである。遅かれ 早かれ後発参入者は必ず現れる。そのときに 日本の電子材料メーカーは、先回りして次の 技術を持っておけば、値崩れを避けながらも ビジネスを優位に進められる。また、2番手 メーカーが参入するまでの先行者利益の獲得 期間が長くなるという意味でも、さらなる研 究開発のスピードアップは必要となろう。 そのためには、研究開発部門を顧客ニーズ がより反映されやすい組織へと変革すること が重要であり、顧客の情報と自社のコアコン ピタンス(競争力の核)を鑑みたうえで、自 社で開発すべきテーマを選定することが鍵と なるだろう。 図13 日本とアジアの電子材料メーカーの比較 基礎研究 開発 事業化 量産 開発 事業化 量産 応用研究 日系 メーカー アジア メーカー あまり機能していない トップダウンによる開発以降に強み ボトムアップによる基礎研究機能 を有し、コア技術を多く蓄積 研究所であっても 短期の開発を行っ ていることが多い

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次代を牽引する 「水平マーケティング」の担い手へ 川中、川下のユーザーを中心に海外メーカ ーの存在感が高まり、市場と技術のトレンド セッター(潮流の決定者)は海外にシフトす る傾向にある。必然的に日系メーカーと海外 メーカーとの取引が増加するなかで、日本の 電子材料メーカーは抜群の技術優位を維持 し、ブラックボックス化したうえで、次代の デファクトスタンダードを握ることができる だろうか。 筆者らは、そのための方策の一つとして、 複数の日系メーカーの知を結集させた次世代 プラットフォーム戦略を提案したい。ここで 次世代プラットフォームとは、標準的に用い られる技術概念とそれを実現する個別技術群 を意味している。 日本の電子材料メーカーは今後、単品の製 品技術で戦うのではなく、複数の製品技術を 束ねたときの複合技で世界のビッグユーザー に挑むべきだろう。複数の製品技術を束ねる ことで技術もブラックボックス化できる。そ して、トータルでの新たな提供価値を引き出 すことで、次世代のプラットフォームが構築 されていくだろう。 前述したとおり、日本は材料から部品・デ バイス、セットに至る一連のバリューチェー ンと、装置を含むサポーティングインダスト リーの分野で、高い技術集積を実現してい る。特に材料については、複数の分野で群を 抜いた強みを発揮している。その広い分野で の技術集積こそが日本の大いなる強みであ り、電子材料メーカーはそれを徹底的に有効 活用していくべきである。 その具体的な実行方法としては、たとえば 複数の電子材料メーカーでJV(ジョイント ベンチャー)を立ち上げることを提案する。 コンソーシアムなどによる共同開発なども考 えられるが、既存事業の縄張り争いなどによ り、思い切った知の連携が実現しない可能性 もある。複数の日系電子材料メーカーが出資 し、次世代のプラットフォーム開発で一致団 結するJV型が望ましいと考えられる。また、 継続的な日本の電子材料産業の発展に、国が 開発費用を負担する支援策も必要となる。 以上のスキームを推進するうえで日本の電 子材料メーカーに不足しているのは、有効な 技術を見出す機能、さらにはその技術の保有 先を探索する機能である。ここではこの機能 を「水平マーケティング」と呼ぶ。水平マー ケティングが対象とするのは同業だけでな く、川上側や川下側を含み、さらには異分 野、異業種における技術の開発と保有にまで 視野を広げることが必要である。ここまで視 野を拡大することで、知の連携を最大限に引 き出し、活かすことができる。 リーダーシップを発揮する電子材料メーカ ーには、顧客を先回りする洞察力と複数の技 術を束ねるエンジニアリング機能が求められ る。また、束ねられた技術を顧客の視点から 評価できる機能も必要となるだろう。これら の水平マーケティング機能とその舵取り役を 日本の電子材料メーカーが担うことができれ ば、今後もグローバルでの競争優位を維持し 続けることができるのではないだろうか。

者―――――――――――――――――――――― 岩間公秀(いわまたかひで) 技術・産業コンサルティング一部副主任コンサルタ ント 専門は製造業のマーケティング戦略、新規事業支援 中島崇文(なかしまたかふみ) 技術・産業コンサルティング一部コンサルタント 専門は材料分野における事業戦略策定・実行支援

図 2  電子材料メーカーと総合電機メーカーの収益性分析( 2005 年度) 注)各社の決算報告書より作成 売上高(億円)営業利益率︵%︶日本電気硝子JSR住友金属工業日東電工日立化成工業住友ベークライト信越化学工業住友金属鉱山クラレ日本ゼオントクヤマ電気化学工業富士フイルム旭硝子宇部興産東レ三井金属日立金属住友化学大日本印刷大日本インキ化学工業凸版印刷 三菱電機 日立製作所 東芝ソニー2520151050−5 0       5,000      10,000     15,000     20,000 

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