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保健科教育における現代的課題とアクティブラーニング-香川大学学術情報リポジトリ

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保健科教育における現代的課題とアクティブラーニング

宮 本 賢 作

 ・ 増 田 一 仁

 ・ 倉 山 佳 子

山 神 眞 一

 ・ 石 川 雄 一

 ・ 野 﨑 武 司

上 野 耕 平

 ・ 米 村 耕 平

1 要 旨  健康に関する現代的課題としての生活習慣について中学3年生を対象に課題解決学習を実施し た。課題解決学習では生活習慣改善プログラムを作成するパフォーマンス課題のもと、「食事」「運 動」「休養」「環境」それぞれの担当者で1グループを構成し、被験者である大人の生活実態から改 善プログラムを構築する学習活動を行った。そして単元の前後で保健に関する意識調査を、単元の 最後にアクティブラーニングの3つの視点に基づく学びの成果について質問紙調査を実施した。授 業実施前後での保健に対する意識の変化では、概ね改善傾向を示したが、「保健の学習をすれば、 健康な生活ができるようになる」については否定的見解を示すものの増加がみられた。またアク ティブラーニングについては「主体的な学び」の「健康に関心をもち、健康課題の解決に向けて意欲 的に取り組むことができた」について、「食事」担当と「環境」担当との間に有意な差がみられた。 キーワード:保健科教育、現代的課題、生活習慣、アクティブラーニング、課題解決学習 研究の背景と目的  現行学習指導要領の成果と課題(教育課程部 会、2016)において、「保健については、健康 に対する基礎的な知識の習得を目指した学習が 定着しており、子供たちの健康の大切さへの認 識や健康・安全に関する基礎的な理解に一定の 成果が見られる。一方で健康課題を発見し、習 得した知識を活用して課題解決する学習は不十 分で、子供の論理的な思考力(特に健康課題の 解決方法を根拠に基づいて評価し、目的に応じ て活用する力)の育成に課題があるのではない かという指摘がある。」とされている。また保 健教育における現代的課題については、平成9 年の保健体育審議会答申において、第1章「生 涯にわたる心身の健康に関する教育・学習の充 実」の第3節「健康に関する現代的課題への対 応」で触れられ、社会の変化に対応して、新た に健康の保持増進の観点から早急に取り組むべ き課題として、薬物乱用、性の逸脱行動及び生 活習慣が具体的な課題として取り上げられた。 そして、生活習慣に関する施策として「知識は もとより、知識から適切な生活習慣の形成に結 び付くような態度を育成するよう努めるべきで ある」としている。また、第3章「学校におけ る体育・スポーツ及び健康に関する教育・管理 の充実」の第3節「学校健康教育(学校保健・学 1 香川大学教育学部 2 香川大学教育学部附属高松中学校

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-74- 校安全・学校給食)」において「生活習慣病等の 健康に関する現代的課題に適切に対応するため には、健康的な生活行動を実践するという一次 予防を重視する必要があり、一次予防を促す教 育指導面の充実を一層図っていく必要がある。 (一部改変)」と述べられており、保健科教育に おける現代的課題については、生徒一人一人が よりよく解決していく能力や資質を身に付け、 生涯を通して健康で安全な生活を送ることがで きるようにすることが求められてきた。  そこで本研究では、附属中学校3年生の生徒 を対象として、単元「健康な生活と疾病の予防」 での課題解決学習を中心とした授業実践を通し て、保健に対する意識の変化と、アクティブ ラーニング(以下、AL)の3つの視点に基づく 学びの成果を評価することを目的とした。 方法 対象  香川大学教育学部附属高松中学校3年生3ク ラス119名(男子70名、女子49名)を対象とした。 授業実践  「20代~50代の男女の生活習慣を分析し、個 人に応じた生活習慣改善プログラムを作成して ください。」という単元のパフォーマンス課題 を設定し、これまでの知識や技能を総動員して 課題を追求していく課題解決学習「生活習慣改 善プログラムをつくろう!・生活習慣改善プロ グラムを見直そう!」(計5時間)を実施した。 具体的には、4人1チームで課題に取り組み、 一人の被験者に対して「食事」「運動」「休養」「環 境」の4つの担当をそれぞれが担うようにした。 担当は、それぞれの視点から課題を分析し、改 善プログラムを作成するようにした。被験者 (20代~50代の男女教員)の一週間の生活実態 調査をもとに、作成した改善プログラムを実施 してもらうためのプレゼンテーションを行い、 プログラム実施を促した後の被験者の心身の変 容や実感をもとに学習した知識を加え、再度練 り直していった。この学習を展開していくこと で、保健に関する見方や考え方が育成されると 考えた。 質問紙調査 保健に対する意識調査 保健学習推進委員会報 告書(2005、2011)で用いられた保健の学習意 欲(11問)、健康の価値の認知(3問)、日常生 活での実践状況(3問)を「そう思う」~「そう 思わない」の4段階で問い、かつ選択肢に「わ からない」を加えた5択で行った。日常生活で の実践状況については「している」~「していな 図1 単元構成における本課題解決学習の位置づけ 人一人がよりよく解決していく能力や資質 を身に付け,生涯を通して健康で安全な生 活を送ることができるようにすることが求 められてきた。 そこで本研究では,附属中学校3年生の 生徒を対象として,単元「健康な生活と疾 病の予防」での課題解決学習を中心とした 授業実践を通して,保健に対する意識の変 化と,アクティブラーニング(以下,AL) の3つの視点に基づく学びの成果を評価す ることを目的とした。 方法 対象 香川大学教育学部附属高松中学校3年生 3クラス119 名(男子 70 名,女子 49 名) を対象とした。 授業実践 「20 代~50 代の男女の生活習慣を分析 し,個人に応じた生活習慣改善プログラム を作成してください。」という単元のパフォ ーマンス課題を設定し,これまでの知識や 技能を総動員して課題を追求していく課題 解決学習「生活習慣改善プログラムをつく ろう!・生活習慣改善プログラムを見直そ う!」(計5時間)を実施した。具体的には, 4人1チームで課題に取り組み,一人の被 験者に対して「食事」「運動」「休養」「環境」 の4つの担当をそれぞれが担うようにした。 担当は,それぞれの視点から課題を分析し, 改善プログラムを作成するようにした。被 験者(20 代~50 代の男女教員)の一週間 の生活実態調査をもとに,作成した改善プ ログラムを実施してもらうためのプレゼン テーションを行い,プログラム実施を促し た後の被験者の心身の変容や実感をもとに 学習した知識を加え,再度練り直していっ た。この学習を展開していくことで,保健 に関する見方や考え方が育成されると考え た。 質問紙調査 図1 単元構成における本課題解決学習の位置づけ

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-75- い」の4段階で行った。調査は本単元の最初と 最後の2回実施し、授業実践前後での変化につ いてχ2検定を行った。 AL 関連質問紙調査 平成28年4月28日の教育 課程部会体育・保健体育、健康、安全ワーキ ンググループにおける資料9(体育科・保健体 育科におけるアクティブラーニングのイメージ (保健)(検討素案))で取り上げられた3つの 視点における11項目を質問項目化し、それぞれ 「4できた」~「1できなかった」の4件法で質 問し、分析には回答の平均値を用いた。「食事」 「運動」「休養」「環境」の担当間の平均値の差、 そして担当する被験者(5人の教員)間の平均 値の差の分析には、分散分析を行った。 結果と考察 保健に対する意識の変化  表1に保健に対する意識調査結果の授業実施 前後での変化を示す。保健の学習意欲につい ての質問項目のうち、感情に関する3問では、 「保健の学習は大切だ」「保健の学習をすれば私 の今の生活に役立つ」と思っているもの(そう 思う)が約7割以上を超え、ややそう思うもの を加えると約9割以上のものが肯定的に捉えて いたが、「保健の授業が好きだ」と回答したも のは、それらを下回っていた。また、価値に関 する3問でも、「保健の学習をすれば、健康な 生活ができるようになる」「保健の学習は、健 康な生活を送るために重要だ」と思っているも のが大多数を占めるのに対して、「保健の学習 はおもしろい」と回答したものは、同様に低い 傾向を示していた。このことから、健康の価値 や重要性については認識している一方で、「好 き」「面白い」と感じるものが若干少なくなる 傾向が窺えた。期待に関する5問では、約7割 が肯定的に捉えていた。健康の価値の認知に 関する3問では、「健康は何をするにも、必要 だ」「健康は、幸せな生活を送るために重要だ」 と思っているものが殆どであったが、「健康は、 何よりも大切だ」という問いでは若干肯定的に 図2 AL関連の質問項目のもとにした教育課程部会作成の資料(教育課程部会、2016) 保健に対する意識調査 保健学習推進委員 会報告書(2005,2011)で用いられた保 健の学習意欲(11 問),健康の価値の認知 (3 問),日常生活での実践状況(3 問)を 「そう思う」〜「そう思わない」の4段階 で問い,かつ選択肢に「わからない」を加 えた5択で行った。日常生活での実践状況 については「している」〜「していない」 の4段階で行った。調査は本単元の最初と 最後の2回実施し,授業実践前後での変化 についてχ2検定を行った。 AL 関連質問紙調査 平成 28 年 4 月 28 日の 教育課程部会体育・保健体育,健康,安全 ワーキンググループにおける資料 9(体育 科・保健体育科におけるアクティブラーニ ングのイメージ(保健)(検討素案))で取 り上げられた3つの視点における 11 項目 を質問項目化し,それぞれ「4 できた」〜 「1 できなかった」の4件法で質問し,分 析には回答の平均値を用いた。「食事」「運 動」「休養」「環境」の担当間の平均値の差, そして担当する被験者(5人の教員)間の 平均値の差の分析には,分散分析を行った。 結果と考察 保健に対する意識の変化 表 1 に保健に対する意識調査結果の授業 実施前後での変化を示す。保健の学習意欲 についての質問項目のうち,感情に関する 3問では,「保健の学習は大切だ」「保健の 学習をすれば私の今の生活に役立つ」と思 っているもの(そう思う)が約7割以上を 超え,ややそう思うものを加えると約9割 以上のものが肯定的に捉えていたが,「保健

深 い 学 び 体育科・保健体育科におけるアクティブ・ラーニングのイメージ(保健)(検討素案) ・特定の型や、方式化された授業の方法や技術ではなく、授業改善の考え方として捉える。 ・子供の学びへ の積極的関与と深い理解を促すような指導や学習環境を設定することによ り、子供たちの自信を育み、 必要な資質・能力を身に付けていくことができる ようにする。 ・具体的な学習プロセスは限りなく存在し得る ものであり、教員一人一人が、子供たちの発達の段階や発達の特性、 子供の学習 ス タ イルの多様性や教育的ニーズと学習内容、単元の構成や学習の場面等に応じた方法について研究 重ね、ふさわしい方法を選択しながら、工夫して実践できる ようにすることが重要。 習得・活用・探究という学習プロセスの中で、問題発見・解決 を念頭に置いた学びの過程の実現 ・健康に関する身近な生活やそれ を取り巻く社会環境の状況から、健康課題に気付く。 ・健康に関する情報を収集、批判的に吟味し、健康課題の解決に役立つ情報を選択する。 ・選択した健康情報や習得した知識や技能を活用して、健康課題の解決方法を考える。 ・健康課題の解決方法を自他の生活と比較したり、関連付けたりし、意志決定・行動選択に役立てる。 他者との協働や外界との相互作用を 通じて、自らの考えを 広げる学びの過程の実現 ・健康課題や健康情報を仲間と共有する。 ・健康課題の解決に向けて、仲間と教え合ったり相談し合ったりしながら多様な解決方法を考える。 ・健康に関する考えや提案を相手の立場を考えて伝え合う。 ・健康に関する話し合いを通して、仲間の学びや取組に対する よさを認め 、自己の健康の保持増進や回復に生かす。 見通しを もって粘り強く取り組 み 、自らの学習活動を 振り返って次につなげる学びの過程の実現 ・健康に関心を もち、健康課題の解決に向けて意欲的に取り組む。 ・学習の見通しを もつとともに、健康の大切さに気付き、健康課題の解決に向けて粘り強く取り組む。 ・学習を振り返り、獲得された健康に関する知識・技能や考え方を確認する。 主 体 的 な 学 び 対 話 的 な 学 び 8 3 図2 AL 関連の質問項目のもとにした教育課程部会作成の資料(教育課程部会,2016)

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表1 保健に対する意識調査結果の授業実施前後での変化 そう思う どちらかいえばそう思う どちらかといえばそう思わない そう思わない わからない 人数 % 人数 % 人数 % 人数 % 人数 % (感情)保健の授業が好きだ。 実施前 37 31.4% 57 48.3% 12 10.2% 5 4.2% 7 5.9% 実施後 51 44.3% 53 46.1% 8 7.0% 0 0.0% 3 2.6%* 増減 14 13.0% -4 -2.2% -4 -3.2% -5 -4.2% -4 -3.3% (感情)保健の学習は大切だ。 実施前 83 70.3% 32 27.1% 0 0.0% 1 0.8% 2 1.7% 実施後 90 78.3% 21 18.3% 3 2.6% 1 0.9% 0 0.0% 増減 7 7.9% -11 -8.9% 3 2.6% 0 0.0% -2 -1.7% (感情)保健の学習をすれば、私 の今の生活に役立つ。 実施前 76 64.4% 34 28.8% 4 3.4% 1 0.8% 3 2.5% 実施後 83 72.2% 29 25.2% 1 0.9% 0 0.0% 2 1.7% 増減 7 7.8% -5 -3.6% -3 -2.5% -1 -0.8% -1 -0.8% (価値)保健の学習をすれば、健 康な生活ができるようになる。 実施前 74 62.7% 30 25.4% 8 6.8% 2 1.7% 4 3.4% 実施後 51 44.7% 42 36.8% 15 13.2% 4 3.5% 2 1.8%* 増減 -23 -18.0% 12 11.4% 7 6.4% 2 1.8% -2 -1.6% (価値)保健の学習はおもしろ い。 実施前 40 33.9% 60 50.8% 11 9.3% 4 3.4% 3 2.5% 実施後 53 46.5% 50 43.9% 8 7.0% 2 1.8% 1 0.9% 増減 13 12.6% -10 -7.0% -3 -2.3% -2 -1.6% -2 -1.7% (価値)保健の学習は、健康な生 活を送るために重要だ。 実施前 78 66.1% 38 32.2% 0 0.0% 1 0.8% 1 0.8% 実施後 82 71.3% 29 25.2% 3 2.6% 1 0.9% 0 0.0% 増減 4 5.2% -9 -7.0% 3 2.6% 0 0.0% -1 -0.8% (期待)保健の学習をすれば、心 や体の不安や悩みを軽くしたり 解決したりするのに役立つ。 実施前 36 30.5% 56 47.5% 13 11.0% 9 7.6% 4 3.4% 実施後 44 38.9% 48 42.5% 11 9.7% 6 5.3% 4 3.5% 増減 8 8.4% -8 -5.0% -2 -1.3% -3 -2.3% 0 0.1% (期待)保健の学習は楽しい。 実施前 42 35.6% 56 47.5% 12 10.2% 3 2.5% 5 4.2% 実施後 64 55.7% 43 37.4% 6 5.2% 1 0.9% 1 0.9%* 増減 22 20.1% -13 -10.1% -6 -5.0% -2 -1.7% -4 -3.4% (期待)保健の学習は学校での勉 強において必要だ。 実施前 54 45.8% 42 35.6% 14 11.9% 2 1.7% 6 5.1% 実施後 60 52.2% 47 40.9% 6 5.2% 1 0.9% 1 0.9% 増減 6 6.4% 5 5.3% -8 -6.6% 一1 -0.8% -5 -4.2% (期待)保健の学習をすれば、社 会に出てからの生活に役立つ。 実施前 61 51.7% 44 37.3% 4 3.4% 3 2.5% 6 5.1% 実施後 77 67.0% 34 29.6% 2 1.7% 1 0.9% 1 0.9% 増減 16 15.3% -10 -7.7% -2 -1.7% -2 -1.7% -5 -4.2% (期待)保健の学習をすれば、国 民全体の健康づくりにつなが る。 実施前 55 46.6% 26 22.0% 23 19.5% 6 5.1% 8 6.8% 実施後 62 53.9% 38 33.0% 10 8.7% 3 2.6% 2 1.7%* 増減 7 7.3% 12 11.0% -13 -10.8% -3 -2.5% -6 -5.0% (健康の価値の認知)健康は、何 をするにも必要だ。 実施前 82 69.5% 29 24.6% 4 3.4% 3 2.5% 0 0.0% 実施後 96 83.5% 17 14.8% 1 0.9% 1 0.9% 0 0.0% 増減 14 14.0% -12 -9.8% -3 -2.5% -2 -1.7% 0 0.0% (健康の価値の認知)健康は、何 よりも大切だ。 実施前 46 39.0% 45 38.1% 15 12.7% 9 7.6% 3 2.5% 実施後 57 49.6% 46 40.0% 8 7.0% 4 3.5% 0 0.0% 増減 11 10.6% 1 1.9% -7 -5.8% -5 -4.1% -3 -2.5% (健康の価値の認知)健康は、幸 せな生活を送るために重要だ。 実施前 86 72.9% 27 22.9% 2 1.7% 2 1.7% 1 0.8% 実施後 100 87.0% 12 10.4% 1 0.9% 1 0.9% 1 0.9% 増減 14 14.1% -15 -12.4% -1 -0.8% -1 -0.8% 0 0.0% (日常生活での実践状況) している どちらかといえばしている どちらかといえばしていない していない 保健で学習したことから、自分の 生活や身の回りの環境について、 振り返ったり考えたりしていますか。 実施前 35 29.7% 42 35.6% 28 23.7% 13 11.0% 実施後 42 36.5% 59 51.3% 12 10.4% 2 1.7% *** 増減 7 6.9% 17 15.7% -16 -13.3% -11 -9.3% 保健で学習したことを、自分の 生活に生かしていますか。 実施前 40 33.9% 56 47.5% 15 12.7% 7 5.9% 実施後 45 39.1% 55 47.8% 13 11.3% 2 1.7% 増減 5 5.2% -1 0.4% -2 -1.4% -5 -4.2% テレビや新聞、インターネット などで、健康に関する情報を見 たり調べたりしていますか。 実施前 20 16.9% 43 36.4% 37 31.4% 18 15.3% 実施後 33 28.7% 34 29.6% 37 32.2% 11 9.6% 増減 13 11.7% -9 -6.9% 0 0.8% -7 -5.7% ***:p<0.001、:p<0.05

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-77- 捉えているものが減っており、健康以外の価 値を重要視しているものも少なからずいるこ とが窺えた。授業実施前後での比較において、 有意な差がみられた質問項目のうち、「保健の 授業が好きだ(χ2p 値:0.0451)」「保健の学習は 楽しい(χ2p 値:0.0181)」「保健の学習をすれ ば、国民全体の健康づくりにつながる(χ2p 値: 0.0149)」は実施前後で改善傾向を示すものと なった。しかし、その一方で「保健の学習をす れば、健康な生活ができるようになる(χ2p 値: 0.0472)」については実施後において否定的見解 を示すものの増加がみられた。このことは、今 回の課題解決学習ではアドバイスシートを作成 したものの、そのプレゼンテーションを通して も、被験者(担当した教員)の生活習慣の改善 が見込めないのではないかと考えるものがいた ためと推測される。  日常生活での実践状況に関する3問では、 「保健で学習したことから、自分の生活や身の 回りの環境について、振り返ったり考えたりし ていますか」「保健で学習したことを、自分の 生活に生かしていますか」の問いに「している」 と回答したものは約3割にとどまり、「テレビ や新聞、インターネットなどで、健康に関する 情報を見たり調べたりしていますか」の問いに 対しては「している」と回答したものは2割を 下回っていたことから、今後保健授業で獲得し た知識を、健康情報を活用することでさらに深 化させ、生活に活かす力の育成が必要に感じら れた。しかしながら、授業実施前後で「保健で 学習したことから、自分の生活や身の回りの環 境について、振り返ったり考えたりしています か(χ2p 値:0.0005)」について、有意な変化がみ られ、今回の課題解決学習による改善がみられ たことから、AL による学校での授業が日常生 活での実践につながる可能性が示唆された。 ALの3つの視点に基づく学びの成果  図3に教育課程部会の資料をもとに作成した AL 関連質問紙調査の結果を示す。「深い学び」 について4問、「対話的な学び」について4問、 「主体的な学び」について3問の質問を実施し た。全11の質問項目中、最も良好な成果が得ら れたものが、78.6%が「できた」を選択した「学 習を振り返り、獲得された健康に関する知識 や技能、考え方を確認することができた」であ り、次いで77.8%が選択した「健康に関心をも ち、健康課題の解決に向けて意欲的に取り組む ことができた」で、第5位72.6%の「学習の見通 しをもつとともに、健康の大切さに気づき、健 康課題の解決に向けて粘り強く取り組むことが できた」と合わせると、3つの視点のうち「主 体的な学び」についての成果が高いことが窺え た。「深い学び」では「選択した健康情報や習得 した知識や技能を活用して、健康課題の解決方 法を考えることができた」について74.1%、「対 話的な学び」では「健康課題の解決に向けて、 仲間と教え合ったり相談し合ったりしながら多 様な解決方法を考えることができた」について 74.4%が「できた」を選択しており、多くのもの に成果がみられた一方、「深い学び」の「健康課 題の解決方法を自他の生活と比較したり、関連 づけたりし、意思決定・行動選択に役立てるこ とができた」について52.1%、「対話的な学び」 の「健康に関する話し合いを通して、仲間の学 びや取組に対するよさを認め、自己の健康の保 持増進や回復に生かすことができた。」につい て51.3%が「できた」を選択しており、成果は約 半数のものに限られた。また「対話的な学び」 については「あまりできなかった」を選択した ものが他の「深い学び」「主体的な学び」よりも 多くみられた。  また、AL の学びの成果に関する分析を、担 当する被験者5名間での違いについて行った が、被験者間での各質問項目の平均値に有意な 差はみられなかった。一方、「食事」「運動」「休 養」「環境」の担当分野間での違いについては、 「主体的な学び」の「健康に関心をもち、健康課 題の解決に向けて意欲的に取り組むことができ た」について、有意な差(F値3.379、p値0.0209) がみられ、多重比較検定を行ったところ「食事」 担当と「環境」担当との間に有意な差(p<0.05) がみられた(図4)。

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-78- いて 51.3%が「できた」を選択しており, 67.2% 63.2% 74.1% 52.1% 70.9% 74.4% 64.1% 51.3% 77.8% 72.6% 78.6% 31.9% 34.2% 24.1% 41.0% 23.1% 19.7% 32.5% 41.9% 20.5% 23.9% 19.7% 0.9% 2.6% 1.7% 6.0% 6.0% 4.3% 3.4% 6.8% 1.7% 2.6% 0.9% 0.0% 0.0% 0.0% 0.9% 0.0% 1.7% 0.0% 0.0% 0.0% 0.9% 0.9% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 健康に関する身近な生活やそれを取り巻く社会環境の状況から健康課題に 気づくことができた。 健康に関する情報を収集し、批判的に吟味し、健康課題の解決に役立つ情 報を選択することができた。 選択した健康情報や習得した知識や技能を活用して、健康課題の解決方法 を考えることができた。 健康課題の解決方法を自他の生活と比較したり、関連づけたりし、意思決 定・行動選択に役立てることができた。 健康課題や健康情報を仲間と共有することができた。 健康課題の解決に向けて、仲間と教え合ったり相談し合ったりしながら多 様な解決方法を考えることができた。 健康に関する考えや提案を相手の立場を考えて伝え合うことができた。 健康に関する話し合いを通して、仲間の学びや取組に対するよさを認め、 自己の健康の保持増進や回復に生かすことができた。 健康に関心をもち、健康課題の解決に向けて意欲的に取り組むことができ た。 学習の見通しをもつとともに、健康の大切さに気づき、健康課題の解決に 向けて粘り強く取り組むことができた。 学習を振り返り、獲得された健康に関する知識や技能、考え方を確認する ことができた。 できた まあまあできた あまりできなかった できなかった 図3 AL 関連質問紙調査の結果 3.74 3.56 3.83 3.93 0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 運動 環境 休養 食事 健康に関心をもち、健康課題の解決に向けて意欲的に取 り組むこと(主体的な学び) p<0.05 図4 グループ別 AL の成果に関する平均値の比較(有意な差がみられたもの) 図3 AL関連質問紙調査の結果 図4 グループ別ALの成果に関する平均値の比較(有意な差がみられたもの) いて 51.3%が「できた」を選択しており, 67.2% 63.2% 74.1% 52.1% 70.9% 74.4% 64.1% 51.3% 77.8% 72.6% 78.6% 31.9% 34.2% 24.1% 41.0% 23.1% 19.7% 32.5% 41.9% 20.5% 23.9% 19.7% 0.9% 2.6% 1.7% 6.0% 6.0% 4.3% 3.4% 6.8% 1.7% 2.6% 0.9% 0.0% 0.0% 0.0% 0.9% 0.0% 1.7% 0.0% 0.0% 0.0% 0.9% 0.9% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 健康に関する身近な生活やそれを取り巻く社会環境の状況から健康課題に 気づくことができた。 健康に関する情報を収集し、批判的に吟味し、健康課題の解決に役立つ情 報を選択することができた。 選択した健康情報や習得した知識や技能を活用して、健康課題の解決方法 を考えることができた。 健康課題の解決方法を自他の生活と比較したり、関連づけたりし、意思決 定・行動選択に役立てることができた。 健康課題や健康情報を仲間と共有することができた。 健康課題の解決に向けて、仲間と教え合ったり相談し合ったりしながら多 様な解決方法を考えることができた。 健康に関する考えや提案を相手の立場を考えて伝え合うことができた。 健康に関する話し合いを通して、仲間の学びや取組に対するよさを認め、 自己の健康の保持増進や回復に生かすことができた。 健康に関心をもち、健康課題の解決に向けて意欲的に取り組むことができ た。 学習の見通しをもつとともに、健康の大切さに気づき、健康課題の解決に 向けて粘り強く取り組むことができた。 学習を振り返り、獲得された健康に関する知識や技能、考え方を確認する ことができた。 できた まあまあできた あまりできなかった できなかった 図3 AL 関連質問紙調査の結果 3.74 3.56 3.83 3.93 0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 運動 環境 休養 食事 健康に関心をもち、健康課題の解決に向けて意欲的に取 り組むこと(主体的な学び) p<0.05 図4 グループ別 AL の成果に関する平均値の比較(有意な差がみられたもの)

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-79- 総合考察 保健学習とアクティブラーニング  森良一(2016)は保健学習におけるアクティ ブラーニングについて「特に、保健は健康課題 をどう解決していくかということが中核にな る。しかし、今、世の中に出た時に健康を保つ ためには当然対話的にならなければいけない し、自分の健康というのを優先的に考えるとい う主体的な力というのも求められる。そういっ た三つの視点から保健の授業を考えるとどんな プロセスが必要なのかということを考えている ところである。」とし、(深い学びとしての)課 題解決学習が保健学習におけるこれからの中心 的な学習方法になることを示唆していると思わ れる。また、平成29年3月に公示された新学 習指導要領(2017)においても、内容の取り扱 い(11)で「保健の指導に当たっては、健康に関 心をもてるようにし、健康に関する課題を解決 する学習活動を取り入れるなどの指導方法の工 夫を行うこと。」と新たに記載されたことから、 保健学習におけるアクティブラーニングでは、 課題解決学習を取り入れ、既習の知識を活用す る学習活動が期待されていると言える。一方 で、グループ学習の形態での課題解決学習は同 時に対話的な学びでもあることから、今回の研 究でも対話的な学びの成果が期待された。しか しながら、本研究での授業においては対話的な 学びに関する評価が低かったことから、自らの 健康課題については主体的に取り組めるが、他 者の健康を仲間と一緒に解決する、しかも「食 事」「運動」「休養」「環境」といった役割分担 をした上での今回の課題は、グループ学習であ りながら対話的な学びを促進しない要因を含ん でいたかもしれない。そして、主体的な学びに ついては、先述した通り、今回は身近な存在で ある教員を被験者として行った課題学習であっ たため、生徒が自分ではない他人の健康課題を 主体的に取り組むのは難しいのではと考えた。 しかし、本研究の結果では主体的な学びに関す る成果が最も高かったことから、将来の自分を 見据えた学習活動に繋がっていたことが示唆さ れた。しかしながら、保健に対する意識調査か ら「保健の学習をすれば、健康な生活ができる ようになる」が授業前後で低下していた。これ は被験者である教員の生活実態に触れること で、現在課題とされている教員の過労問題につ いても考えるきっかけとなり、今回の設定した パフォーマンス課題である健康アドバイザーと して保健指導を被験者である教員に対して実施 しても働き過ぎの状況は改善されないという、 まさに現代的課題に直面した結果であることが 窺えた。このように現代的課題としての生活習 慣について課題学習を通して学習した結果、別 の現代的課題である働き方改革にもつながる展 開の可能性が見られたことから、保健学習での アクティブラーニングの活用は生徒の深い学び を我々の予測を超えて促進する可能性が示唆さ れた。 まとめ  本研究では、本学附属高松中学校の3年生を 対象とした保健学習の実践研究を実施し、保健 に対する意識の変化と、AL の3つの視点に基 づく学びの成果を評価した。  授業実施前後での保健に対する意識の変化で は、「保健の授業が好きだ」「保健の学習は楽し い」「保健の学習をすれば、国民全体の健康づ くりにつながる」は改善傾向を示したが、「保 健の学習をすれば、健康な生活ができるように なる」については否定的見解を示すものの増加 がみられた。また「保健で学習したことから、 自分の生活や身の回りの環境について、振り 返ったり考えたりしていますか」について改善 傾向がみられた。  ALの成果に関しては、「主体的な学び」の「健 康に関心をもち、健康課題の解決に向けて意欲 的に取り組むことができた」について、「食事」 担当と「環境」担当との間に有意な差がみられ た。  今後は、保健に対する意識調査の全国調査と の比較分析を行い、AL の成果を向上させるプ ログラムの考案をすすめる。

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文献 佐藤豊・菊幸一・森良一・高橋 修一(2016)新たな 時代の保健体育のアウトカムを考える「保健と体育 の充実に向けた教育課程の可能性」―九州体育・ 保健体育ネットワーク研究会2016ファイナルin 福 岡―.桐蔭論叢、35:35-41. 日本学校保健会(2005)「平成16年度保健学習推進委 員会報告書―保健学習推進上の課題を明らかにす るための実態調査―」.日本学校保健会. 日本学校保健会(2011)「平成22年度保健学習推進委 員会報告書―第2回 全国調査の結果―」.日本学 校保健会. 文部科学省(1997)「生涯にわたる心身の健康の保持 増進のための今後の健康に関する教育及びスポー ツの振興の在り方について(保健体育審議会 答 申)」http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/old_chukyo/ old_hoken_index/toushin/1314691.htm(2017年11月30 日最終閲覧) 文 部 科 学 省(2016)「体 育・ 保 健 体 育、 健 康、 安 全 ワ ー キ ン グ グ ル ー プ に お け る 審 議 の 取 り ま と め に つ い て(報 告 )」http://www.mext.go.jp/b_ menu/shingi/chukyo/chukyo3/072/sonota/__icsFiles/ afieldfile/2016/09/12/1377059_1.pdf(2017年11月30日 最終閲覧) 文部科学省(2017)「中学校学習指導要領(平成29 年 3 月 )」:114.http://www.mext.go.jp/component/ a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/ 2017/06/21/1384661_5.pdf(2017年11月30日 最 終 閲 覧)

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参照

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