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取締役・会社間の取引と「取引」--フランスにおける取締役・会社間の取引---香川大学学術情報リポジトリ

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取締役・会社聞の取引と「取ヲ

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一一フランスにおける取締役・会社間の取引*一一

田 村 詩 子

I はじめに フランス法が規制す旧る取締役・会社聞の取引

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とがある。 規制される取引,すなわち,取締役会の事前の認許および株主総会の承認を えなければならない取引とは,会社とその取締役または副社長との間で締結さ れるすべての取引である。規制対象となっているのは,直接取引だけではなく, 間接的な取引もである。そして,間接的な取引として,会社の取締役または副 社長が間接的に利害関係を有する取引と,取締役または副社長が他の者を介し て締結する取引とに分けて規制されている(法

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条〕。しかし,この規制は, 日常の取引に関してかつ通常の条件をもって締結される取引を,第

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の例外と して除外している。さらに,第

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の例外として,禁止された取引,すなわち, 取引の性質上,会社にとって特に危険であると立法者が判断した一定の取引, が原則として禁止されており,取締役会の事前の認許および株主総会の承認を えてもなしえない取引である。この禁止の適用対象となっているのは,取締役 および法人取締役の常任代表者,副社長,これらの者の配偶者,直系尊属およ び直系卑属ならびにすべての介在者である。しかし,この禁止にも例外があり, その第

1

として,会社が銀行業または金融業を営む場合には,通常の条件で締 *本稿は, 1985年10月12日の私法学会での報告原稿に加筆したものである。

(2)

-36← 第58巻 第4号 684 結されたこの営業のためにする日常の取引には適用されない。第2として,会 社の取締役である法人には,適用されないのである。 このように, フランス法上,-規制される取ヲ

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および「禁止された取ヲ

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の 内容が明文で規定されているだけでなく,その規制対象に含まれる人的範囲も 明文で規定されている。そして,規制の対象とならない取引の条件も明文で規 定されている。 これに対して, 日本では,取締役・会社聞の取引を規制する商法265条によ り,取締役が会社と取引をする場合は,取締役会の承認を得なければならない。 承認を要する取引には,法文上例示的に列挙されているような直接取引をなす ときだけでなく,取締役以外の者との聞において会社と取締役との利益相反す る取引をする場合のような間接取引も含まれることが規定されている。しかし, 取締役会の承認を要する取引の内容および規制される人的範囲について,法文 上詳細な規定をおいてないため,詳細は判例・学説の展開に委ねられている。 ところで,取締役・会社聞の取引には,まず,取締役が利害関係を有する取 引が存在し,その取引には, さらに取締役の利益と会社の利益とが相反する取 引が存在する。取引の安全の見地からは,商法265条の適用範囲を狭く解し, 利益相反取引のうち,規制対象としうる取引の範囲を限定して商法265条によ り会社の利益を保護し,利益相反取引の他の残りの部分については取締役の責 任追及でカパーすることにより,会社の利益を保護することが考えられる。こ れに対して,会社の利益保護の見地からは,取締役が利害関係を有する取引の うち,予防的に可能な限りの範囲の取引を取締役会の承認事項として,利益が 相反する取引であるかどうかを検討さぜることとする一方,取ヲ│の安全を考慮 し,その規制範囲を利益相反取引の実質に近づける必要が生じる。 本稿では, このような境界線をどのように号│くべきかを検討するにあたり, フランス法における規制を比較法的に考察し,検討したい。 ( 1) G Ripert et R. Roblot, Traile elementaire de droilじommercial,11eed, t 1 1983 nO 1280, p. 875; 1 Balensi, Les wnventions entre les societes ωmmeκiales et leurs dirigeants, ed.Economica, 1975, n0120p.83

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685 取締役・会社間の取引と「取号IJ 37 II フランスにおける取締役・会社聞の取引

1

規制される取引 ( i ) 概念と手続の概要 規制される取引として,会社の取締役または副社長との聞で締結されるすべ ての取引は,取締役会の事前の認許 (autorisationprealable)を得なければなら ない。それは,会社の利益を保護する責任は,取締役会にあるからである。規 制される取引には,会社と取締役もしくは副社長との聞の直接取引だけでなく, 取締役もしくは副社長が間接的に利益を有する取引,または,他の者を介して 締結される取引も含まれる(法

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項・

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項〉。また,会社と他の企業との 間で締結される取引であっても,会社の取締役もしくは副社長が,他の企業の 所有者,無限責任社員,業務執行者,取締役,副社長または業務執行役員会 (dire -ctoire)もしくは監査役会の構成員である場合には,取締役会の事前の認許を得 なければならない(法

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項〕。 規制される取引の手続きとして,取締役会による事前の認許手続きと,株主 総会による承認手続きを要するが,法は,五段階の手続きを定めている。すな (2) 副社長が特に対象とされているのは,社長と異なり,取締役会以外で選出されることが あるからである。このように副社長が対象とされたのは, 1966年法によってであり, 1867 年の旧会社法40条 (1943年 3月 4日法により改正〉は,取締役のみを対象としていた。 したがって,取締役会以外で選出された副社長は関係がなかった。それは明らかに条文の 不備であり,副社長の会社の中での影響力は,取締役と同様重大で、あるからである,とさ れていた。LBalensi, op cit, n059, p..40;J HmardF. Terre et P MabilatSoαetes commercial, .tI.1972, n01019, p..891 ; M. Juglart et B IppolitoTraite de droitι om-mercial, 2 evoL, Les soαetes, par du E Pontavice etJ Dupichot, 2 epartie, 1982, 3ednO 722-2p 455 本稿では, le directeur gener alの訳語として r副社長」を用いた(早稲田大学フラン ス商法研究会編・フランス会社法(増補版)0980年) 119頁 〉 が 総 支 配 人J(アント レ・タンク) (山本桂一訳)r株式会社とその取締役の一人との聞に締結された契約のフラ ンス的規制ー現行法と改正案一」ジュリスト 336号 60頁以下 J菅原菊志「商法 265条の 適用範囲と違反の効果J(鈴木先生古稀記念)現代商法学の課題(下) (昭和50年) 1409 頁), r業務執行役員J(加藤徹「取締役の自己取引とフランス新会社法」企業法研究201輯 40頁以下〉がある。

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わち,まず第1に,取締役, または副社長は,自己が会社と取引をすることに なることを関知したことを示すため,取締役会に報告しなければならなし、。第 2に,取締役会は,認許をするときには事前のかつ特別の審議をし,また,こ の認許に関する決議に,利害関係を有する取締役は加わることができない(法 103条 1項)。第 3に,社長は,会社法 101条の適用により認許されたすべての 取引を,取引締結後1カ月内に,会計監査役に通知しなければならなし、(法 103 条2項・令 91条)。第 4に , 会 計 監 査 役 は , こ の 取 引 に 関 す る 特 別 報 告 書 (rapport special)を株主総会に提出しなければならなし、(法 103条 3項)。特 別報告書は,株主が事情をよく知って決定できるように非常に正確でなければ ならなL、。第5に,株主総会は,特別報告書にもとづいて,承認決議をする。 利害関係を有する者は決議に参加することはできず,かっその者の株式は定足 数および多数決の計算に算入されない(法103条 3項・ 4項〉。 以下,規制される取引の人的範囲および取引範囲につきみてみる。 (ii) 人的範囲 [ 1 ] 法人の財産の管理には,民法学者が「自己取引 (contrat avec soi -meme)Jと呼ぶ問題がある。同ーの自然人が一つの取引において同時に2つの 対立する利益を代表するのである。すなわち,例えば,売買であり,個人とし て売り,そして,法人の代表者として買うのである。それは,常に明らかな一 つの形をとってあらわれるのではないが,株式会社における利益の対立は非常 に多い。会社の取締役の一人が個人的に経営すると同時に,その資格で供給業 者または顧客でありうる。そして,彼は,さらに会社と関係のある企業におい て重要な利害関係を有することもある。 ある一定の取引において 2つの相反する利益,すなわち,自己が取締役で (3) M. Juglart et B.lppolito, Cours de droitじommenial,2 eyoL, Les sodetesω m-meκiales, 1983, 7宅d,n0722p.581. (4) J Hamel, G Lagarde etA.Jauffret, Droit Commeraal, t. 2 1. eyo!, So

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etes, Gro -ゆment古 d'interet economique, entrψ,risesρubliques, 1980 2 eed, n0657, p.396; B Mercadal et P J anin, Mementoρratique des soaetぬ commeraalesF:内側出Lゆbvre, 1984-1985, 15eed, n01384pp395-396

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687 取締役・会社間の取引と「取ヲ

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dっ QJ ある会社の利益と取引の当事者としての利益,の聞に立たされた取締役が,後 者の利益のために前者の利益を犠牲にする虞がある。法101条は,取引が, 取締役の直接かっ個人的な利益に対して,または取引の相手方の利益に対して 非常に好意的であると疑われる場合の条件を列挙しているのである。 規制される取引として,会社によって締結された取引が認許手続きに従わな ければならない場合を,法101条は,明確に3つの場合を対象としている。そ れは,まず,第

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に,会社とその取締役または副社長との闘で直接に締結され た取引(法101条〉である。しかし,規制の範囲はこれに限られず,次の場合 にも及ぶ。すなわち,第

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に r間接的な」取引または「介在者」による取ヲ

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項),第3に,会社が共通取締役(administrateurscommuns)を有するような他 の会社と締結する取引(3項〉に対しても適用される。 [ 2 ] 法101条が規制する第lの場合の直接取引とは,会社がその取締役 または副社長と直接に取引する場合である。この場合には,取締役が自己の利 益のために会社の利益を犠牲にする危険性があるからである。すなわち,会社 の利益と取締役の直接かっ個人的な利益(inter官 directet personal)とが相反 する取引である。 [ 3 ] 間接的な取引,すなわち,取締役または副社長が, 自ら契約当事者 でなくても,取引に間接的に利害関係を有する場合に,規制は適用される。例 えば,取締役または副社長が,それがし、かなる形式であろうとも取引から利益 (割引き,手数料,他の非金銭的利益〉をうる場合である。 間接的な個人的利益の概念は非常に柔軟であり,契約当事者聞の機関の関係 という規制対象の基準から外れる多くの状況を捉えることができるものであ る。取締役が間接的利益を取引の締結に有していることを判断するのはいかな る場合でも裁判官である。例えば,取締役が過半数株主であるか,または取締 ( 5) L Balensi, 0戸ιit,n065p 43; B.. Mercadal et P J aninot ciln01384p.396 ( 6) 1 Balensi, ot..a,.tn064pp 42-43; B Mercadal et P J anin,じゅば, n01384p 396; J Hemard, F. Terr百etP Mabilat, ot.cit, n01018p. 891 ( 7) I. Balensi, ot..cil, n065pp 43-44 (8) B. Mercadal et P Janin, op.a,.tn01384, p.. 396; G Ripert et R Roblot, ot

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t, nO 1280, p. 874

(6)

688 役でないにもかかわらず重要である契約相手方会社をその取締役が支配してい る場合には法101条の適用理由ありと判断されることもある。しかしながら, 間接的な利益は,それが相当重要である場合および取引の条件に影響を与える 余地のある場合にのみ考慮される。 また,取締役または副社長が他人を介して会社と締結する取引についても, 規制は適用される(法 101条2項)。この場合に問題になるのは,特別な状況に あるという事実の問題であり,親子関係は,それだけでは,他人の介在を推定 するためには,十分でないことは,明らかである,とされている。禁止された 取引に関する法106条と異なり,条文上いかなる介在の推定も規定されていな いが,他方,後述するように,取締役または副社長が間接的利益を有する取引 を厳格に規定し,かつ会社の取締役または副社長が所有者または無限連帯責任 社員である企業が取引の相手方であるような取引を規定している。このような 立場におかれている取締役または副社長は,取締役会へ届出なければならない からである。無限連帯責任を負わなければならないとしても,経済的利益を有 するグループのメンバーであることが非難されるが,取引をする会紅と経済的 利益を有するグループのメンパーである取締役は少なくとも取引に間接的利益 を有している。 介在者によってなされる取引とは,取締役が,自己が取締役である会社と, 彼に名義を貸す第三者の媒介者を通じて締結する,ような取引である。例えば, 取得する権利を会社の取締役の一人に取得させる者と会社が取引をする場合で ある。また,取締役が会社の名で妻と取引をして彼に個人的な利益を与える場 合も同様である

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れ23janvier 1968.

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28)。ここで,注目すべき ( 9) L Balensi, ot..cil, nos79-80..pp.50-51 (10) B.. Mercadal etP Janin, ot..cit, n01384p..396; Lyon21 mai 1951Gaz.. Pal.1951 2 179.一本件では,社長である息子によって会社の名で締結された,その両親との代理 契約に関して,両親と怠子との聞には人の介在が法上推定される理由は存在しない,と し,また,息子が間接的な利益を有しているといういかなる証明もなされていない,と判 示されている。 (11) J Hamel, G Lagarde et A Jauffret, opα,.tn0658, p..398 (12) この判決において,別財産制をとっている夫婦であろうとも,妻に対して会社の不動産

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689 取締役・会社聞の取引と「取ヲIJ -41-ことは,認許手続に,取引が従う取引の締結形態である。すなわち,取引が取 締役によって間接に締結されることである。取締役にとっては,法を回避する ために名義を貸すことに応ずる葉人聞をみつけるのは容易である。このように, 締結された取引は,実際の利害関係の一致を隠すことを目的としているだけに 一層危険である。取締役がその取引に間接的な利益を有することは,明らかで ある。法は,介在者によって締結される取引を明文上対象にして,取締役の間 接的な利益を規定している。したがって,取引が認許手続に従う取引であるた めには,人の介在を証明するだけで十分である。この場合,人の介在を証明す ることを利用することは必要であり,そして,禁止された取引の場合に関する 法 106条2項のように人の介在の推定は存在しない。 人の介在が証明されれば,取締役の間接的な利益を証明する必要はない。そ の証明は,容易であり,そして,人の介在を確認する判決は,通常,取締役が 取引に間接的な利益を有することをつけ加えている。取引の締結形態と取締役 の利益との聞に統計的にかつ心理学的に存在する相関関係は,立法者によって 規定された推定を十分に判断することである。法上,介在者と推定される者が 列挙されていない場合に明らかなことは,ある者が家族であるという関係を理 由として関与したとの法上の推定は存在しない。したがって,人的関与の証明 責任は,法 101条により手続を経なければならないことを証明する利益を有す る者に常にある。すなわち,当該介在者が,近親者の一員または,いかなる他 の自然人または法人を介して行われたということを証明する利益を有する者に ある。 しかし,法人に関しては,特別の場合として,法は,会社と取締役または副 社長との聞の人的介在を法律上推定しており,企業は,異論を唱える余地なく 人が介在していると推定され,したがって,取締役会の認許手続が適用されな の一部を売却する契約に合意した株式会社の社長は,契約から間接的に利益を得ており, そして,社長の妻と取引をする場合には,会社は実際には介在者によって会社は社長と取 引をしているのである。それは,当該社長は契約の目的となっている不動産に妻と同居し ているから,である,と判示されている。 Rev.trim.. drじom,1968 730

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第58巻 第4号 690 ければならない。 [ 4 ] さらに,規制される第 3の場合である会社聞の取引として,会社と 他の企業との聞で締結される取引が,規制される取引の手続をへなければなら ない場合がある。それは,会社の取締役または副社長が他の企業の所有者,無 限責任社員(合名会社もしくは合資会社の社員または組合員),業務執行者,取 締役,副社長,経営する会社の業務執行会もしくは監査役会の構成員であると きである(法101条3項)。会社の利益と取引の相手方企業の利益とが相反する 場合である。この場合は,会社の利益が,取締役個人のためでなく,取締役と 関係のある他の企業のために犠牲にされる危険があるのである。取締役個人の 利益はあまり重要で、はなく,契約相手方企業の利益と混同することが問題なの である。このような規制を受ける取引の大多数は,共通取締役を有する会社間 または同一グループに属する会社間でみられる。しかし,共通取締役でない親 子会社聞の場合は規制対象とならず,そして,親会社を同じくする会社聞の場 合も同様である, とされている。また, この規制は,フランスの会社と外国会 社との聞で締結される場合にも,適用される。

[

5

]

法人取締役の常任代表者は,取締役と同ーの条件に従いかつ同ーの 義務をおう。したがって,規制される取引が得なければならない認許手続きは, 常任代表者と会社との聞で直接にもしくは間接に締結された,または介在者に よって締結されたすべての取引,および会社と常任代表者が規制される取引の 規制により規制される地位に就いている他の企業との間で締結されたすべての 取引に対しても同様に適用がある。それは,法人の常任代表者は,会社の決定 につき取締役等の他の業務執行者と同様に影響力が大であるからである,とさ れている。 (13) 1 Balensi, op. cil, nos81-82, pp. 52-53; M. Juglart et B. Ippolito, opω (注(2)掲 文献一以下同じ) n0722-2, p. 456 (14) 1 Balensi, OJうcit,n067p.. 44; Lamy sodetesDroit des sodetes commercialesed Lamy S. A 1985, n03353, p.. l325 (15) B Mercadal et P Janin, op at, n01384p.. 396; Lamy societesopαtn03353, p 1325 (16) B Mercadal et P J anin, 0ραt, n01384p. 396; 1 Balensiop. dtno62pp. 41-42.

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691 取締役・会社聞の取引と「取引」 -43 法(法

9

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条)によって定められた取締役と同視される者の原則を考慮すると, 法 101条による規制される取引の規制は,例えば次のような場合にも適用され る。すなわち, A社の取締役または副社長(または法人取締役の常任代表者) の一人がB社の法人取締役の常任代表者Cでもある場合には, A社とB社との 間で締結された取引に対しても, また適用されるのである。したがって

B

社 におけると同様に, A社においても認許手続きをへなければならない。しかし, このような解釈によれば,法101条による規制の適用が非常に形式的になされ るということになり,そして, この形式主義により適用が倍加されるという実 務上の問題が生じる結果になる, とされている。 (iii ) 取引範囲 法101条は,すべての取引に対して適用されることから,規制される取引の 規制手続きをへなければならない取引は,非常に多し、。すなわち,売買(vente), 賃貸借(bail),役務の提供 (prestation de services), ライセンスの許可 (con -cession de licence),会社に対する貸付 (pretconsentia la societe),等であ る。取締役に委託された任務または委任に対して取締役会によって支給される 特別報酬も含まれる。 したがって,事前の認許手続きを要するのは次のようなものである。すなわち, 社長によってなされた,社長個人と会社との共同名義のライセンスの出 願, 取締役によって,取締役名義の会社の「当座預金」に払い込まれた金額 の利子を付与すること, 当事者が直接にかつ無償で会社を利用して金銭を銀行から社長が個人的 に貸付を受ける取引(その借入金に関する利子を銀行に直接に会社が払い 込む), (17) B.Mercadal etP Janin, opcit, n01384p. 396 (18) B..Mercadal etP Janin, op.cit, n01385pp. 396-397 (19) Rm. M. Liot, I 0.deb. Senat 20aout1974n014764, p 1084 (20) Rm.M. Valbrun, I 0.deb.. Ass. nat, 17janvier1976n024332p..258

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692 取締役への現物での利益の供与,例えば,会社の車の使用,または会社 所有の住居の使用〔しかし,このような現物での利益は,会社の利益に反 L,さもなければ,取締役には,会社財産の濫用の罪がある), 社長のための生命保険契約の申し込み, 取締役の自宅での接待の費用を会紅が引き受けること,かっ令93条によ る取締役会の承認をえていない場合, である。 これに対して,次の場合には,事前の認許手続きは適用されない。すなわち, 会社自身によって締結されない取引〔すなわち,会社の社長が会社に対 する自己の債権を銀行に譲渡する場合のような取引であり,譲渡された債 務者たる会社はこの取引に加わっていないのである

λ

取締役に就任前の者と締結する取引,または就任期間終了後の者との取 引(しかし,この取引が暗黙のうちに更新された取引,およびこの取引の 変更には,事前の認、許をえなければならない。当事者が取締役の資格を有 するか有しないかを決定する時期は取引締結時としなければならなL、。例 えば,就任後,取引の目的である品物が新任社長によって受け取られた場 合でも,取引は事前の認許をえなければならなし、), 共通取締役を有する会社聞の合併一分割, (21) R m M Braconnier,

1

0.deb Senat 24 aoOt 1979 n03593, p 2737 ; Rm M. Serghe ・ raert,

1

0.deb. Ass. nat, 9 mars 1981, n037140p..1028 (22) B.. Mercadal et P Janin, ot..cit, n01385pp. 396-397 (23) R m M. Bajeux, J 0.deb Senat 13 decembre 1979 n031477, p..5425 (24) B. Mercadal et P Janin, ot..cit, n01385pp 396-397 このような取引は,日本法上の規制対象とは全く異質なものが多いと言え,フランス法 上,取締役会等の規制手続きを経れば取引できるのは,日本法上考えられないものが,多 いようである。 (25) Com 11 janvier 1966, Bull.III 17.

(26) Soc. 28 mars 1979, Rev 50正1979.819 note Le Cannu

(27) Com. 11 d吾cembre1963, 1 C P 1964.. II. 13873 note Alfandari; Rm. M. Esteve, J 0.deb.. Senat 16janvier 1973 n012269p. 23; Rm M. Valbrum

1

0.deb. Ass.nat24 janvier 1976 n024333, p..365

(11)

693 取締役・会社聞の取引と「取引」 -45-である。 (iv) 通常の条件で締結された日常取引 [ 1 ] 取締役会の事前の認許手続きを経なくてよい場合として, 日常の取 引に関する取引でかつ通常の条件で締結される取引が定められている(法102 条〉。そして i通常の条件で締結される日常取引に関してなされる取引J(法102 条〉は自由であるとされ i自由な取引(conventionslibres)Jとよばれている。 このような例外を設けることによって,法は,取締役に会社の顧客と同様の 利益に浴する恩恵を与えようとするものである, とされているプ 旧会社法4ωO条は i顧客との会社の取引に関して締結される通常の取号

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に 対する認許手続きを除外していた。そして,判例は,その除外の制限的解釈に よって,会社とその供給業者との聞で締結される通常の取引には認許を要する と判示していた。 法102条は,供給業者と締結した取引と顧客と締結した取引とを同様にする ものである。 [ 2 ] i日常取引」とは,会紅によって,その活動の範囲内で通常の方法で 行われる取引, と解さなければならない, とされている? 取引が日常的であると判断されるためには,取引が会社の目的の範囲内にあ るだけでなく,通例の方法で会社が行う取引であることを要する。 (29) B. Mercadal et P Janin, op cit,.n01385p 397; G.. Ripert et R Roblotopα.tnO 1280, p.875 (30) B. Mercadal et P J anin, opば, n01383p. 395; M Juglart et B Ippolitoopαt, n0722-2p 459 (31) G Ripert et R Roblot, op

ω

, n01280p 875; M Juglart et B Ippolitoot. at. n0722-2p 459; 1 B.alensiop cil, n084pp.. 55-56; Paris24 fevrier 1954Gaz Pa,.l1954 1 166, concL G吾ogout,Rev. So,正1954 27 note Dalsace; Bethune civ, 14 decembre 1955, D. 1955. 670. note Gore (32) G.. Ripert et R Roblot, 0戸cit,.n01280p 875; M Juglart etB.. Ippolitoopαt n0722-2p 459; 1. Balensiop. cil, n085pp 56-57 (33)1 0 deb.. Ass.. na,..t3 avril 1976, n04276p 870; B Mercadal et P Janinot. cit.. n01383p 395;M.Juglart et B. IppolitoOJ(i,.ln0722-2p 458; 1 Balensi, op. cit, n087pp 58-59

(12)

取引の条件は,会社により第三者との関係で日常行われる通常の条件でなけ ればならないから,利害関係を有する取締役が会社の供給業者または顧客であ る場合に有することのできない利益を取ヲ│から得てはならないのである。同穫 の営業を行っている他の会社における類似の取引について用いられる条件につ いても考慮しなければならない。 取引は,事前の認許を得ていないときは無効になる危険がある。取締役の判 断では,通常の条件のようにみえるが,買主に対して通知しないことが疑わし い場合がある。したがって,通常の条件をどのように解するのかが問題になる。 通常の条件の決定は特に微妙である。実際,通常の概念は,本質上相対的な 概念であり,適用の幾つかの方法が存する。 問題のない場合は,次のような場合である。すなわち,取引の条件が法定さ れている場合,専門の機関によって定められている場合,または,内部規範お よび一般規範によって定められている場合である。そして,また,取引が,売 買の一般的な条件,一般的な価格表,取引形態,または,価格決定令もじくは 物価凍結令に従っているならば,それは,必然、的に,通常の条件で締結されて いるのである。 取引が通常の条件で締結されたかどうかを決定するためには,同一地域で活 動をしている会社において同様の取引が通例締結される条件を考嵐しなければ ならなし、。

[

3

]

その他に採る基準は,同一グループに属する会社間で,関係を有す ることが望まれているという状況に従わなければならなし、。実際に,グループ 内部に対する実務上の条件は,必然的にク事ループに属さない者に関する条件と 異なる。 通常の客観的な評価に賛成するようである。実際には,当該会社においてだ (34) B.Mercadal et P Janin, op. ci,.tn01383p. 395; Lamy societeso/J.ciln03352p 1323 (35) M Juglart et B Ippolito, op.. a,.tn0722-2p 459 (36) L Balensi, op.. ci,.tn088pp.. 59-60 (37) J 0.deb. Ass 向。.t3 avril 1969,ゅ cit

(13)

695 取締役・会社聞の取引と「取号IJ 47-けでなく,同様の活動範囲の他の会社において,類似の取引を通例締結してい る条件を考慮するのは当然である。また,その活動がし、かなる他の企業とも比 較することができない企業が存する。そして,いずれにせよ,企業は,それぞ れ経済的かっ財政的構造を示しており,それは,その企業に特有のものであり, 供給業者との取引および顧客との取引の条件を大部分決定する構造を示してい る。 これに対して,主観的評価に賛成する論拠は, 日常取引が問題であるから, 利害関係を有する会社において同ーの取引を締結する際の条件に従うのが容易 だから,とされている。 この評価が,抽象的であるべきか,具体的であるべきかである。抽象的で主 観的な評価は,実際に適用するのは,容易であるだけでなく会社の保護にもよ いので侵害される危険もない。それは,取締役は,任意の取引と同ーの条件, そして一番よくて最も優遇された取引と同ーの条件で取引をするからである。 しかし,この評価は,取引の特別事情, とりわけ取引の個性を考慮、にいれてい ない。それは,結果として,同ーグループに属しかっ共通取締役を有する会社 聞のし、かなる取引も取締役会の認許手続きから免れさせなし、。このような取引 は,他の取引に比べて,実務上の取ヲ│と異なった特別の条件で実際にはたいて いの場合締結されている。 具体的で主観的な評価のみが会社のグループ内における関係を実際の方法で 考慮するものである。親会社は子会社に対して,他の顧客に対して同意しない ようなより多くの利益を支払う高価または条件で同意するのが通常であるよう である。さらに,その利益は,子会社が親会社に対して同意する等価値の利益 の代償でありうる。実際は,特別の関係で、結びついた

2

つの会社間の契約上の 均衡は,唯一の取引と同程度に実現することはできないが,その関係の調和と 同程度に分析されなければならなし、。 しかし,旧会社法

4

0

条に関する判例は,決してこの抽象的評価をとらなかっ (38) L Balensi, ot.cit, n089, p..60 (39) L Balensi, ot.cit, n090, p.60

(14)

た。パリ控訴院も独占権のある取引は契約当事者会社聞の特別事情を決して考 慮せずに通常と同視されえない, とした。 取引が会社によってその活動の範囲内で通例の方法でなされ,かっ同一グ ループ内でなされている場合には,グループ内での会社の活動を本質的に考慮 しなければならない。工業会社およひ商事会社は, 日常の方法で,姉妹会社に 対して,使用しているが総てを使用していない設備を収益化するために,情報 処理的な現物給付を与えることができる。同様に,貸付に同意するのがふさわ しくない会社は,一般に財産に釣り合う範囲でそのグループの会社に貸付をな しうる。取引の通常性は,契約の条件または売却財産の原価または労務の提供 の価値を評価することによって評価される。 他方,法102条の広義の解釈は,合目的性を幾分断念させることを看過して はならない。実際,規定の趣旨は,会社にいかなる危険も予想させない取引の みを取締役会の事前の認許手続きから免れさせるものである。例外の広義の解 釈が認められる結果,会社の保護が全く効果のない恐れがある。そして,少数 者が侵害される危険がある。また, フランス法上,少数者を保護するグループ 法が存在しなし、。したがって,法102条を会社のグループの内部関係において 認許手続を免れるために適用することはできない。グループ聞の取引上の関係 は,その取引上の関係に応じて一定の会社の内部で日常取引に関してかつ通常 の条件で締結される取引には関係がない。換言すれば r日常取ヲ

I

J

および「通 常の条件てず締結」とし、う表現は,会社のグループの内部には適用すべきではな い。それは,結合していない

2

つの会社聞において関係があるように見えるの とは,別の意味であり,緩和するものである。しかし,会計監査役の役割は, 少数者に,濫用の可能性について,警告することが考えられなければならない。 それは,法103条により,特別報告書において記載することによってだけでな く,利害関係のある取締役または副社長によって報告されなかった取引を明ら (40) Paris, 18 mars 1959, Gaz..Pal,.1959 2 7

(41) Lamy 50αetゐ,Op at, n03352p..1324B Mercadal et P Janinop.. at, n03392 pp 926-927

(15)

697 取締役・会社関の取引と「取ヲ[J -49ー かにすることを強いるとしづ義務によっても,通知することが考えられなけれ ばならないのである,とされている。

2

禁止された取引 ( i ) 概念と手続きの概要 会社がその取締役と取引をせざるをえなくなる取引のなかで,立法者が会社 にとって特に危険だと判断した取引が禁止されているのである。それは,取締 役に会社の信用を供与したり, または,会社の金融資産を役立たせる目的であ る取引である。その性格上,金銭的取引は,会社の目的の範囲内でないのが通 常であり,かっその成果が必要であることは滅多にないのである。そして,そ れらの取引が取締役のためになされる場合には,特に疑問である。したがって, 禁止された取引として,会社にとって特に危険だと考えられる取引を会社がそ の取締役と締結することが,絶対的に禁止されている,のである。その取引と は,取締役の利益になると特に考えられるような取引である。すなわち,取締 役に対しては,いかなる形式であるかを間わず,会社から金銭の貸付を受ける 取引をすること,当座勘定その他の方法により無担保信用を受けることを会社 に同意させること,第三者に対する自己の債務について会社に保証または手形 保証をさせること,である(法106条1項〉。 この禁止は,取締役に対してだけでなく,副社長(取締役である否とを問わ なし、〉・法人取締役の常任代表者・取締役,副社長および法人取締役の常任代表 者の配偶者,尊属・すべての介在者,に対して,適用される(法106条3項〉。 しかし,この禁止の理由も,会社が,銀行業または金融業等を営む場合には, 失われるとして,立法者はそれを除外した。また,金銭的な取引は,同一グノレー (43) M. J uglart et B Ippolito, 0.ρcil, n0722-4p 461. (44) M.. Juglart et B. Ippolito, op. cit, n0722(注(3 )掲文献), p 581 ; L Balensi 0戸cil, n0120p. 84.; J HemardF Terre et P Mabilatop.. at, n0120, p.886 (45) B Mercadal et P Janin, op.. cit, n01382pp. 393-394; G Ripert et R Roblot, op α1, n01284p..878; M. Juglart et B..lppolitoop. cil, n0722-2p. 457; L Balensi op at, n0137p..97.

(16)

プに属する会社間,例えば,親子会社間,では, ときどき有益である。その関 係を妨げないために,禁止は原則として,会社と法人取締役との間で締結され る取引を適用対象としていなし、。すなわち,取締役が法人である場合(法106条 l項),会社が銀行業またはその他の金融業を営む場合一一通常の条件で締結さ れた営業のためにする日常取引であるとし、う条件のもとで一一(法106条2 項),保険企業において 通常の条件で締結された日常取引であることを条件 とする,保険契約に関する抵当権付金銭貸付または保険契約の前払いに対して 一一(保険法332-4条),には適用が除外される。 この禁止に反して,違法に締結された金銭貸付,無担保信用,保証または手 形保証は無効である(法106条l項〕。 ( ii ) 人的範囲 禁止された取引をすることは,取引の当事者の一方が取締役で,他方が会社 であるような場合に,禁止されているが,次の者に対しても,禁止されている。 すなわち, 副社長(取締役であると否とを問わない), 法人取締役の常任代表者, 取締後,副社長または法人取締後の常任代表者の配偶者,尊属および卑 属, すべての介在者 (personneinterposee), である(法106条3項〉。 禁止された取引の形体は,会社が貸主または保証人であるばあいにおいての みであり,当事者トの立場が逆である場合には,禁止されなし、。それは,立法者 (46) この無効の性質は,学説・判例j上,絶対的無効であるとされているが,相対的無効であ るとする判決もある。詳細については, B.. Mercadal et P J anin, op.cit,が1382,pp 394 -395; G.. Ripert et R Roblot,。ρcil,n01284pp.878-879; M..Juglart et B..lppo ・ lito, opcit, n0722-2p 458,拙稿「フランスにおける取締役・会社聞の取ヲIJ香川大学 経済論叢・第57巻第3号619頁以下,参照。 (47) B..Mercadal etP Janin, opαt, n01382p..393

(17)

699 取締役・会社間の取引と「取ヲIJ 5

7

-が特に保護しようとしていたのが,会社財産であるからである,とされている。 しかしながら, この禁止は,次の

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つの場合には適用されない。 (a) 会社の取締役が法人である場合(法

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項〉。 この場合,このような取引は,同一グループ内で通常であるからである。 例えば,親会社が子会社に金銭を貸付けること,またはその逆のような場 合には,この禁止は,適用されないのである。しかし,このように禁止が 適用されない場合には,その取引は,規制される取引に対する手続きを遵 守しなければならないのである。 またこの禁止は,法人取締役の常任代表者に対して適用される。ただ し w通常の条件で締結される日常取引』については, この限りではない。 このような相違点,すなわち,一方では,法人の常任代表者を,個人の 資格の取締役に対すると同様に厳しく取り扱い,他方,その法人に対して は,会社から自由に貸付を受けさせ,または保証をしてもらいうる,のは, 立法者の見解によれば,一方が他方の取締役であるような同一クソレープの 会社間では時には有益である取引を妨げないことにあり,不当な取引の危 険は,あまり重要視されないようである。 (b) 会社が,銀行業(etablissementbancaire)またはその他の金融業を営む 場合。 この場合,契約当事者がどのようなものであっても,通常の条件で締結 された日常取引には,この禁止は,適用されないのである(法

1

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項〉。 (c) 保険企業において この場合,通常の常件で締結される日常取引であることを条件として, 担保付金銭借入または保険契約に関する前払いには,この禁止は,適用さ (48)J H吾mard,F Terre et P Mabilat,op.cit.., n010l3p.886.. (49) B.. Mercadal et P J anin, op..ci,.tn01382p.. 394;G..Ripert et R Roblotφ αt, nO 1284, p..879. ; M.. Juglart et B. Ippolito, opcil, n0722-2pp 457-458 (50)J Hamel, G. Lagarde et A. Jauffret, 0ρ,ci,.tn0658p 398 (51) B. Mercadal et P Janin, opαt, n01382p.. 394. ; G. Ripert et R Roblot, opcit, nO 1284, p. 879.

(18)

第58巻 第4号 700 れないのである(保険法

322-4

条〉。 さらに,日常の商取引の場合に会社によって許可されている金銭上の利益(例 えば,掛売り (ventesa credit))および取締役が会社の他の顧客と同様の利益 を得ることができる場合にもまた, この禁止は適用されない, とする見解があ る。 このように会社聞で信用を供与する取引は,禁止されていないが,明文上, 介在者による取引は禁止されている。外見上は第三者に対する会社による金銭 貸付または保証の真の受益者が取締役または副社長である場合,介在者が存在 する。人の介在の証拠は,事実の状況である。例えば,会社が第三者に金銭を 貸付け,そして直ぐに同額の貸付金がその会社の取締役に対して譲渡される場 合には,その証拠は明らかである。反対に,取締役または副社長が,金銭の貸 付を受けた会社に,重要な関係を有するとL、う事実は,人の介在の証拠とはな らないのである。さらに,当該信用供与が取締役または副社長に個人的に利益 をもたらしたことが証明されなければならないナ 人の介在は証明されなければならないのである。真の受益者を隠す人の介在 は総て当然に禁止されるが,法106条3項は,法101条と異なり,取締役・副 社長および常任代表者の配偶者・直系尊属および直系卑属は,介在者として法 律上の推定をしている。これに対して,貸付を受けた者が他の企業であり,か つ会社の取締役または副社長が重要な利害関係を有する場合でも,し、かなる推 定も存在しないのである。

C

i

ii) 取引範囲 禁止された取引は,会社によって同意された信用供与取引であり,それは, (52) B Mercadal et P J anin, op cil, n01382p.. 394 (53) B. Mercadal et P Janin, 0戸, cit,.n01382, p.. 394 (54) T. G. 1 Seine 27 novembre 1962.. D 1964..730 note Dalsace (55) B Mercadal et P Janin, op cit,..n01382p. 394. ; Rm. M. LabbeJ 0 deb. Ass nat, 12 juillet 1982

n012232p.. 2924; Lamy societes, opα.tn03363p.. 1.336 (56) M. Juglart et B Ippolito, op.. cit,.n0722-2, p 457

(19)

701 取締役・会社閣の取引と「取引」 -53-直接的な取引,すなわち, いずれの形式であるかをとわず,会社から金銭の貸付を受けること, もしくは, 当座勘定その他の方法により信用を受けることを会社に同意させるこ と, または,間接取引的な取引,すなわち, 第三者に対する自己の債務につき会社に保証させもしくは手形保証をさ せること, である(法

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6

3

項〉。 金銭貸付の禁止は,会社iから貸付をうけさせないだけであると解するか,す べての貸付をも含むのか問題である。しかし,禁止を定めた法は厳格に解され なければならないから,法の主たる規制対象は,金銭を貸付ける取引であり, 掛売または分割払いは対象とされないと解する。したがって,付随的な結果と して金銭の貸付となるような取引は対象とされないのである, とされている。 信用を供与することまたは手形貸付が禁止されているのは,取締役の債務の 履行を会社が保証することは金銭の貸付とまったく同様に会社には危険である と判断されたからである。保証と手形保証は同義語であり,手形保証は,保証 の特別形態の一つである。保証には,取締役の債務を保証するために会社がな す担保の提供も含まれる。どちらの場合にも,取締役が債務を履行しない危険 を会社が被るからである。また,取締役が第三者に対する自己の債務につき会 社に手形保証させることも禁止されるが,取締役も署名をしている手形に会社 が振出人,受取人または裏書人となっている場合が問題である。その場合に, 取締役の代わりに支払うとし、う危険があるのか,または第三者に対する債務の 保証であるのかが問題である。会社が振出人であり取締役が支払人である場合 に,取締役が履行しないときは,会社が支払わなければならない可能性がある。 (57) B.. Mercadal et P Janin, opat, n01382, p. 393;M. Juglart et B. Ippolito, opα t, n0722-2p.. 457 note 3 (58).1Balensi, ot..cil, nos122-124, pp. 85-88

(20)

第58巻 第4号 702 会社が,取締役が主たる債務者であるかまたは保証をしている手形の裏書人で ある場合には,会社が被裏書人を保証することであり,第三者に対して債務を 支払わなければならない。会社が手形を引受ける場合には,会社は主たる債務 者でありその手形債務のみ履行すればよいが,引受の特性から,会社は取締役 に対して事実上信用供与の同意をしているのである。この場合,会社は,取締 役の保証人になっているのではないが,信用を供与していることから取引は法 106条によって禁止され,無効である。しかし,この無効は,手形所持人に対し て,悪意、の場合にのみ主張しうるのである。さらに,会社と取締役が同一債務 の連帯保証人または連帯債務者となる場合が問題である。法が禁止しているの は,会社が第三者に対する取締役の債務を保証することを禁止しており,会社 が取締役の債務を引き受けることを,禁止しているのである。会社と取締役が 同一債務を保証する場合,会社は取締役の債務を保証したのではなく第三者の 債務を保証したのであるから,禁止されない,とされている。第豆者に対する 取締役の債務を会社が保証する目的である取引のみが禁止されている。禁止規 定により,取締役と会社との取引が無効となるのは,取引の主たる目的が取締 役に対して金銭を貸付けたり,もしくは信用を供与することに同意することで あり,または取締役の第三者に対する債務を保証することである。 III 日本における取締役・会社聞の取引

l

商法

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6

5

条における取引 以上のように,フランス法上,規制される取引の範囲として,会社が取締役 と直接に取引をするときに会社の利益と取締役の直接的かっ個人的な利益とが 相反する場合を直接取引,会社の取引に取締役が間接的かつ個人的に利益を有 する場合を間接的利益を有する取引,および,取締役の会社の利益とその取締 役が兼任または無限責任を負うような他企業の利益とが相反する場合の会社間 (59) 1 B.alensi, ot.cit,.n0135pp. 95-96; Com. 12 novembre. 1969] C.P 1970 II 16264,note Guyon (60) 1. Balensi, O.戸α,.tnos129-136, pp..90-96

(21)

703 取締役・会社間の取引と「取ヲIJ -55 の取引を,対象としている。 これに対して, 日本法上,用語法は必ずしも一定していない。取締役が会社 と直接に取引をする場合を直接取引とし,取締役以外の者と会社との聞におい て,会社と取締役との利益相反する取引がなされた場合を間接取引とする。そ して,取締役が兼任しているような会社聞の取引に関し,その会社聞で直接に 取引がなされる場合を直接取引,間接に取引がなされる場合を間接取引,とし, これらの取引を合わせて取締役の自己取引

(

2

;

たは利益相反取引とするのが一般 的分類のようである63)しかし,商法

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l

項前段を自己取引ないし直接取引, 後段を利益相反取引とし,昭和

5

6

年法改正前,判例法上認められていた利益相 反取引を間接取引とする,見解もある。すなわち,-取締役ガ…自己又ハ第三者 ノ為ニ会社ト取ヲ│ヲ為ス」場合を「自己取ヲ

I

J

ないし「直接取引」とし,商法

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1

項前段により取締役会の承認を必要とする金銭貸与契約と経済的には 同様に評価される信用供与契約を利益相反取引とするのである。 昭和

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年改正法

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1

項後段により,間接取引または利益相反取引に関す る明文の規定が設けられたことから,その規制対象たる取引の範囲をどのよう に解するかとし、う問題がある。すなわち,従来の判例法理を明文化したにすぎ (61) 商法265条前段を「直接取ヲIJ,後段を「間接取ヲIJとする。 (62)渋谷光子「利益相反行為の規則」民商85巻5号746頁,神崎克郎・新版商法II(会社 法)(昭和59年), 283頁。両説によれは,取締役が会社の犠牲において自己または第三者 の利益を追求する危険のある行為を一般に利益相反行為とし,商法上の典型的な利益相 反行為の類型に,取締役の会社との競業取ヲI(商法264条),取締役の会社との自己取引 (商法265条),取締役の報酬額の決定(商法269条),があるとされる。 また,商法265条が定めるものを「自己取号IJと呼び,そのうち1項前段の取引を「直 接自己取ヲIJ,同項後段の取引を「間接自己取引」とし,これらの取ヲ│と商法264条が定 める競業取引とを合わせ,利益相反行為とする見解もある〔龍田節「一人会社と利益相反 行為J(上柳先生還暦記念〉商事法の解釈と展望(昭和59年〕所収266頁〉。 (63)大隅健ー郎=今井宏・新版会社法論中巻I(昭和58年)213頁以下,竹内昭夫・改正会 社法解説(新版) (昭和57年)146頁以下,鈴木竹雄・新版会社法〔全訂第2版補正版〕 (昭和58年)183頁以下,稲葉威雄・改正会社法(昭和57年)211頁以下。なお,河本 一郎・現代会社法(新訂第2版) (昭和57年)288頁,同・「取締役の利益相反行為」法セ 371号103頁,によれば,自己取引とは直接取引のみをいう,とする。さらに,北沢正啓・ 会社法〔新版J(昭和57年)380頁以下によれば,商法265条1項前段の取引を r取締役 会社間の取引・取締役の自己取引・直接取ヲIJとする。 (64)森本滋「取締役のいわゆる利益相反取引の範囲」金融法務事情1026号12頁。

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第58巻 第4号 704 ないのか,またはそれより適用範囲を拡大したのか,そして,同項が取締役と 会社との利益相反する取引を規制するとし、う規定でなく前段と後段とを分けて 規定していることから,前段と後段をどのように解するか,とL、う問題である。 以下,判例・学説を検討する。 ( i ) 直接取引

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商法

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項前段により,明文により承認を要するのは,取締役 が会社の製品その他の財産を譲り受ける場合,会社に対して自己の製品その他 の財産を譲渡する場合,会社から金銭の貸付けを受ける場合,そして,その他 自己または第三者のために会社と取引をする場合であるc1項前段〕。これらの 取引は,例示的列挙である。 そして r取締役ガ…自己又ハ第三者ノ為ニ会社ト取ヲ│ヲ為ス」と規定してい ることから,取締役がみずから当事者として(自己のため),または第三者を代 理もしくは代表して会社と取引をなす場合に,その取締役が代表取締役たると 否とを間わず, また,その取締役が同時にみずから会社を代表する場合たると 他の取締役が会社を代表する場合たるとを問わず,取締役会の承認を要する。 したがって,代表取締役,取締役,他人の代理人である取締役,他の公私の法 人の代表機関である取締役,が規制対象となる。 さらに,任期の満了または辞任により退任した取締役でなお取締役の権利義 務を有する者(商法

2

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1

項),および裁判所の選任した仮取締役(商法

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2

項〉もこれに属する。また裁判所の仮処分によって選任された取締役の職 (66) 務代行者(商法

2

0

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条〉にも,類推適用すべきである,とされている。

[

2

]

まず,取締役個人と会社との取引に関して商法

2

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5

条が適用された 判例には, (65) 河本・注(63)掲論文104頁,鈴木・注(63)掲文献183頁,大隅=今井・注(63)掲文献213 頁,北沢・注(63)掲文献381頁。 (66) 大隅=今井・注(63)掲文献215頁,本間輝雄・注釈会社法(4) (増補版J(昭和55年〉 418頁。

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