【技術分類】3-6-3-1 試料・目的別技術/生体試料/メタボローム/糖鎖 【技術名称】3-6-3-1-1 同位体標識(IGOT 法) 【技術内容】 糖タンパク質のペプチド配列と糖鎖付加位置を同定する方法である。レクチンカラムを用いたアフ ィニティークロマトグラフィーで糖ペプチドを捕集後、N-グリカナーゼを作用させる。Asn結合型(N -結合型)糖鎖はコンセンサス配列(Asn-Xaa-Ser/Thr, XaaはPro以外)に付加されておりこの酵素で 特異的に切断される。切断時にコンセンサス配列のAsnはAspに変換されるが、酵素処理を安定同位 体18Oで構成された水中で行うと、コンセンサス配列のAsnの側鎖に18Oが取り込まれたAspが生じる。 これをタグとしてペプチド配列の決定を行うことで糖鎖付加位置を同定する。 【応用分野】 マウスやヒト組織中のN-結合型糖タンパク質を網羅的に同定する際に使用される。 【図】IGOT 法概略
出典:Reprinted by permission from Nature Biotechnol, Vol. 21 (6) pages 627-629, 2003, Kaji H et al., Copyright: Macmillan Magazines Ltd, Fig.1 Schematic representation of the IGOT strategy
【出典/参考資料】
・ “Lectin affinity capture, isotope-coded tagging and mass spectrometry to identify N-linked glycoproteins.”, Nature Biotechnol, Vol. 21 (6) 2003, Kaji H et al., pages 627-629
【技術分類】3-6-3-2 試料・目的別技術/生体試料/メタボローム/脂質 【技術名称】3-6-3-2-1 グループ特異的解析、LC-ESI-MS による網羅的解析 【技術内容】 グループ特異的解析とは、トリプルステージ型質量分析計のMS/MS 解析を利用し、ニュートラル ロススキャンやプリカーサースキャンを用いて、特定のフラグメントイオンやニュートラルロスを持 つプリカーサーイオンのみを全て検出し、解析する手法である。一方、LC-ESI-MS による網羅的解 析とは、リン脂質など一定の抽出条件で分離される分子群全体を対象とし、LC-ESI-MS、MS/MS を 用いて網羅的に同定する手法である(下図) 。 【図】グループ特異的同定と網羅的同定 出典:「Part3 11 章メタボローム解析」、ポストゲノム・マススペクトロメトリー、2003 年 7 月 15 日、 東京大学大学院 田口良著、丹羽利充編、株式会社化学同人発行、204 頁 図 2 脂質メタボローム 解析における網羅的同定法と特異的同定法 例えばリン脂質の各クラス(下図(a)の X の種類)由来のニュートラルロス、プリカーサースキ ャンで測定することにより、各クラスでグルーピングされたスペクトルを得ることができ(下図(b))、 グループ特異的な解析が可能となる。
【図】リン脂質構造(a)とグループ特異的な同位体法により検出された脂質のスペクトラム例(b) (a) (b) PC:ホスファチジルコリン、PE:ホスファチジルエタノールアミン、 PS:ホスファチジルセリン、PG:ホスファチジグリセロール、PI: ホスファチジルイノシトール 出典:東京大学大学院医学系研究科 田口良 教授より提供 ※関連資料:「メタボロームによる脂質代謝パスウェイ解析」、ダイナミックに新展開する脂質研究、実験医学増刊号、
これらの手法により得た脂質のMS 解析の知見はデータベース化し、質量分析データから自動で同 定する手法、変動を検出するための定量的解析手法、さらにこれらの結果を代謝パスウェイ解析に結 びつける可視化の手法等の開発が進められている(下図)。 【図】リン脂質全体を対象とした網羅的解析システムの概略 出典:「ダイナミックに新展開する脂質研究」、実験医学増刊号、Vol.23 No.6、2005 年 3 月 30 日、 清水孝雄、新井洋由編、株式会社羊土社発行、153 頁 図 リン脂質全体を対象とした網羅的解析シス テムの概略 【出典/参考資料】 ・ 「Part3 11 章メタボローム解析」、ポストゲノム・マススペクトロメトリー、2003 年 7 月 15 日、 東京大学大学院 田口良著、丹羽利充編、株式会社化学同人発行、204 頁 ・ 「ダイナミックに新展開する脂質研究」、実験医学増刊号、Vol.23 No.6、2005 年 3 月 30 日、清 水孝雄、新井洋由編、株式会社羊土社発行、151-157 頁
・ “Two-dimensional analysis of phospholipids by capillary liquid chromatography/electrospray ionization mass spectrometry.” J Mass Spectrom., 2000 Aug;35(8), Taguchi R, Hayakawa J, Takeuchi Y, Ishida M., pages 953-966
・ "A shotgun tandem mass spectrometric analysis of phospholipids with normal-phase and/or reverse-phase liquid chromatography/electrospray ionization mass spectrometry.", Rapid Commun Mass Spectrom. 2005;19(5), Houjou T, Yamatani K, Imagawa M, Shimizu T, Taguchi R., pages 654-666.
【技術分類】3-6-3-3 試料・目的別技術/生体試料/メタボローム/イオン性代謝物質 【技術名称】3-6-3-3-1 キャピラリー電気泳動-質量分析(CE-MS) 【技術内容】 メタボロームとは、生体内の代謝産物を対象とした研究である。メタボローム研究ではこれまでに もGC-MS、LC-MS、FT-ICR-MS、MALDI-TOF-MS などが用いられているが、迅速かつ簡便な網羅 的解析方法としてキャピラリー電気泳動-質量分析(CE-MS)(1-8-2-2-1の項参照)にも期 待が寄せられている。CE-MS は、生体内でたんぱく質、脂質、糖質、無機塩類、ビタミンなど様々 な物質が代謝を受けると、そのほとんどが電荷をもつ分子となることに着目し、メタボローム解析に 応用された技術である。 まず、有機溶媒により夾雑物を除去した細胞の粗抽出液を、フューズドシリカキャピラリーに注入 し電圧をかけて電気泳動を行う。キャピラリーの出口はソフトイオン化法であるESI を用いて質量分 析と接続されており、陰イオンの測定の場合はキャピラリーの陽極側にMS を接続し(下図(a))測 定を行う。フューズドシリカキャピラリーに以下の工夫を施すことで、これまで難しかった測定も可 能となった。 ・陰イオンの測定 キャピラリーに電圧を印加すると、陽極から陰極に向かって液流が生じる。このため、陰イ オンが進む方向の先端とESI インターフェースの間に空気層が生じイオンが MS に導入され ない。この問題は、内面に塩基性物質をコーティングしたキャピラリーを用いて液流を反転 させることで解決し、陰イオン測定が可能となった。 ・多価陰イオンの測定 塩基性物質をコーティングしたキャピラリーを用いると多価陰イオンはキャピラリーの内 壁に吸着してしまう。これを解決するために、内壁を中性のポリマーでコーティングしたキ ャピラリーを用いる。内壁が中性になることで電流が流れなくなるが、エアーポンプで加圧 して一定流量をMS に送り込み測定を行う。 同一の泳動条件でほとんどのイオンを測定することができるため、網羅的解析に適した方法である と言える(下図(b)枯草菌代謝物の測定例)。
【図】CE-MS による代謝物測定例 (a) (b) 出典:「慶應義塾大学SFC オープンリサーチフォーラム」2004 年 11 月 24 日、曽我朋義(慶應義塾 大学 環境情報学部助教授、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社 取締役)プレゼン テ ーシ ョン資 料、(a)http://gc.sfc.keio.ac.jp/class/2004_gc00010/slides/16/index_18.html、(b) http://gc.sfc.keio.ac.jp/class/2004_gc00010/slides/16/index_19.html、2006 年 2 月 10 日検索 【出典/参考資料】 ・ 「慶應義塾大学SFC オープンリサーチフォーラム」2004 年 11 月 24 日、曽我朋義(慶應義塾大 学 環境情報学部助教授、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社 取締役)プレゼ ン テ ー シ ョ ン 資 料 、http://gc.sfc.keio.ac.jp/class/2004_gc00010/slides/16/index_18.html 、 http://gc.sfc.keio.ac.jp/class/2004_gc00010/slides/16/index_19.html ・ 「CE-MS によるメタボローム測定法」、メタボローム研究の最前線、2003 年 11 月 30 日、曽我朋
義著、富田勝、西岡孝明編、シュプリンガー・フェアラーク東京株式会社発行、9-24 頁
・ 「ケルナー分析化学II」、2003 年 9 月 25 日発行、R. Kellner 他編、不破敬一郎他著、中村洋他訳、 株式会社科学技術出版、1419 頁
・ "Determination of small carboxylic acids by capillary electrophoresis with electrospray-mass spectrometry", Analytica Chimica Acta, Volume 389, Issues 1-3, 14 May 1999, Steve K. Johnson et al., Elsevier B.V., Pages 1-8
・ "Analysis of peptides, proteins, protein digests, and whole human blood by capillary electrophoresis/electrospray ionization-mass spectrometry using an in-capillary electrode sheathless interface", Journal of the American Society for Mass Spectrometry, Volume 9, Issue 10, October 1998, Ping Caoa, Mehdi Moini, Elsevier B.V., pages 1081-1088