記 者 説 明 資 料 平成17年3月4日 独立行政法人国民生活センター
子どもの個人情報に係る消費者トラブルの現状と対応(概要)
(調査目的と方法)
個人情報に係わる消費者トラブルが急増している。2003年度の個人情報に係る相談の総 件数は約3万6000件であったが、とりわけ子どもの個人情報1に係る相談件数の増加が顕著 で、2003年度は1409件に上り、前年度の300件に比べて5倍近く増加し、4年前の2000年度に 比べると30倍以上も増加している。子どもの個人情報に係る消費者トラブルの急増は、情 報通信ネットワークの急速な普及と関連が深く、ネットワークを通じて取得された個人情 報が利用されるケースが少なくない。 本調査では、①子どもの個人情報に係わる消費者トラブルについて消費生活相談を通し て集計分析、②日本と米国にみる子どもの個人情報保護への取組みの現状、③子どもの個 人情報保護の課題についての検討・整理を行った。 調査は、専門家および事業者団体等からヒアリングを重ね、子どもの個人情報の保護の ための課題の整理・検討を試みた。ご協力いただいた専門家は、堀部政男中央大学法科大 学院教授、新保史生筑波大学大学院図書館情報メディア研究科助教授、関係機関は、電子 商取引推進協議会(ECOM)、日本マーケティング・リサーチ協会、全国学習塾協会、TRUS Te認証機構である。1 子どもの個人情報に係る消費者トラブルの動向
子どもが携帯電話やパソコンを日常的に使用するようになり、情報通信ネットワークを 通じて子どもの個人情報までが取得され、悪質な勧誘や不当な請求に無差別的に利用され 1 本調査の相談事例の集計分析では、「子ども」とは小学校~高等学校の学齢期にほぼ対 応する年齢、6歳~18歳未満の消費者とした。「個人情報に係る相談」とは、国民生活セン ターのPIO-NET(全国消費生活相談情報ネットワークシステム)に収集・蓄積された消費生 活相談のうち、プライバシーを含む個人情報に関連する消費生活相談である。 1るという事態が進行している。本人が気づかないままに個人情報が取得・利用あるいは第 三者に提供され、子どもの個人情報に係る消費者トラブルが著増している。
① 個人情報に係る相談件数が増加、全体に占める割合も上昇
各地の消費生活センターや国民生活センターに寄せられる消費生活相談では、近年、個 人情報に係る消費者トラブルに関連する相談が著増している。 国民生活センターのPIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)によると、個 人情報に係る相談は、1995年度から2003年度までの9年間の累積で6万8千件を越え、特に2 000年度以降に急増し、2003年度は3万6,228件に達した。相談の総件数に占める割合も高ま り、2000年度の0.7%から、2003年度には2.4%へと高まった(表1、図1参照)。② 個人情報に係るトラブルの当事者は20歳~30歳代が中心
個人情報に係る消費者トラブルの当事者になることが多い年代は、20歳代(31.0%)、3 0歳代(27.4%)である。40歳代以上では年齢が高くなるほど相談件数は減少する(図2参 照)。③ 子どもの個人情報に係る相談の急増が目立つ
全体的に個人情報に係る消費生活相談件数が増加しているが、子どもの個人情報に係る 相談件数の急増が特に目立つ。2002年度は300件、2003年度には1400件を超えた。2000年度 を基準とすると、個人情報に係る相談件数全体は約9倍、子どもの場合に限ると30倍以上に 増加している(図1参照)。④ 子どもの個人情報トラブルの第1位は「電話情報提供サービス」
個人情報に係る消費者トラブルと関連する商品・サービスは、40歳代以下の消費者では 「電話情報提供サービス」(携帯電話などで有料情報を利用したとして高額な料金請求を 受ける等)、50歳以上では「フリーローン・サラ金」(金融業者に個人情報が利用され脅 迫めいた勧誘や不当・架空の返済請求を受ける等)などが最上位を占める。 子どもの個人情報に係る消費生活相談では、8割以上(85.7%)が「電話情報提供サービ ス」、「オンライン情報サービス」は5.6%である。 2(表1)個人情報に係る消費生活相談件数の推移(1995~2003年度)
個人情報に係る消費生活相談件数 年度 全年代の相談件数 (全相談件数に占める%) 子どもを当事者とする 相談件数 全相談件数 1995 663(0.2%) 6 274,076 1996 1,135(0.3%) 12 351,139 1997 2,036(0.5%) 20 400,511 1998 2,456(0.6%) 27 415,347 1999 3,341(0.7%) 49 467,110 2000 3,992(0.7%) 45 547,145 2001 6,194(0.9%) 94 655,898 2002 12,777(1.5%) 300 832,644 2003 36,228(2.4%) 1409 1,509,292 (注)国民生活センターのPIO-NETによる(2005年2月10日までの登録分)(図1)個人情報に係る相談の総件数と子どもの件数の増加倍率
0 5 10 15 20 25 30 35 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 年度 増加倍率 (2000年度=1) 個人情報に係る相談件数 増加率(倍) 子どもの個人情報に係る相談件数 増加率(倍) (注)国民生活センターのPIO-NETによる(図2)トラブル当事者の年代別にみた個人情報に係る相談件数(2003年度)
32699 11234 9928 4918 3038 1676 951 219 1565 0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 20歳未満 20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳代 80歳以上 年代不明 年代 相談件数 (注)国民生活センターのPIO-NETによる
2 子どもの個人情報に係る相談の具体例
子どもの個人情報に係る相談にみられる典型的なケースは、子どもの名前や携帯電話番 号を知る業者から有料情報サービスの高額な料金請求を受ける(子ども個人を特定した不 当・架空の請求)、子どもの名前で自宅に勧誘のダイレクトメールや注文した覚えのない 商品が送りつけられる(子ども個人を特定した郵便物や配達物)、子どもから個人情報を 聞き出そうとする不審な電話や電子メールなどを受け取る(子どもの個人情報を狙う電話 やメール)などである。(1)無差別的に取得・利用される子どもの個人情報
子どもの電話番号や住所などの個人情報が相手の業者に捉まれたことによって、年齢を 問わない無差別的な勧誘や請求に、子どもまでもが巻き込まれていく状況が進行している。 子ども個人を特定した執拗な勧誘、脅迫まがいの請求、大量のダイレクトメールの送りつ けは、どうして子どもの個人情報が相手に捉まれたのか、他にも悪用されるのではないか と、親や子どもを不安に陥れる。特にこれらが、消費者金融やアダルト情報提供サービス 4など、子どもには不向きな商品やサービスに関するものであればなおさらである。 [事例 1] 小学生の娘の携帯電話に広告メールが頻繁に届き、メールに記載されたホームページに アクセスしたところ登録したことになり、利用料金を請求されている。(相談者:母親) [事例 2] 小学生の息子の名前宛で、貸金業者から融資するというハガキが何度も届いている。業 者に苦情を伝えると「放っておいたらいいじゃないか」と反省する様子がない。子どもの 個人情報がどうしてこのような業者に知られているのか不審である。(相談者:父親) [事例 3] 中学生の息子の名前で、毎日膨大な量のダイレクトメールが送られて来るが、送付を止 めさせる方法はないか。(相談者:母親) [事例 4] 高校生の娘に名指しで電話が来て、着物が当ったのでプレゼントすると言う。いらない と答えたが、相手がどうして娘の名前や自宅の電話番号を知っているか不審である。(相 談者:母親)
(2)ひとりの時に狙われる子どもの個人情報
子どもが留守番中に受けた電話などで、相手に問われるまま、自分や家族、クラスメイ トなどの個人情報を知らせてしまうことも多い。相手が名乗る職業も多種多様で、宅配業 者、学習教室、消防署、郵便局、教育委員会、警察などさまざまである。宅配業者が届け たいという商品が「ゲームソフト」「電子ゲーム機」「スポーツ用品」「文房具」など、 子どもと関連が深い商品が多いことから子どもを狙って個人情報を聞き出そうという意図 がうかがえる。また、路上や遊び場でのアンケートに、子どもが無防備に応えたため個人 情報が取得される例もある。 [事例 5] 小学生の息子が留守番中、知らない者から電話があり、学校の連絡網に記載されている 氏名と電話番号を尋ねられ答えたという。悪用されないか心配である。(相談者:母親) [事例 6] 小学生の娘の名宛てで代金引換郵便の品物が届いているので、頼んだか否かの確認をし ているという電話があった。他の子どもの分もあるので、クラス全員の名前の呼び方や電 5話番号をしつこく教えてほしいと言われたという。(相談者:母親) [事例 7] 中学生の娘が留守番していると消防署員を名乗る男から電話があり、災害時の集合場所 が変ったので学校の卒業生の名前と電話番号を教えるように言われ読み上げた。母親が帰 宅し不信に思って電話をかわると切られた。(相談者:母親) [事例 8] 女子中学生が路上で呼び止められ、エステに関するアンケートに応えて、名前・住所・ 電話番号なども記入した。その後、アンケートに答えた店から連絡があり契約を断ったが、 それ以外の業者からも勧誘の電話が来るようになった。(相談者:本人)
(3)家族もトラブルに巻き込まれる子どもの個人情報の提供
子どもの個人情報は、両親や兄弟姉妹など家族の個人情報と共通してい場合が少なくな いうえ、子どもと知ってその家族の個人情報を取得しようとする業者もいる。子どもから 家族に及ぶ個人情報が取得され、家族までが消費者トラブルに巻き込まれるケースがみら れる。 [事例 9] 高校生の息子の携帯電話に中学生の弟が出て、有料番組の利用料を請求者する相手に、 自宅の住所、電話番号、夫の会社名などを教えてしまった。その後、高額な利用料、延滞 料を払えという電話が、自宅や夫の会社にかかるようになった。(相談者:母親) [事例 10] 中学生の娘が携帯電話の「無料サイト」に登録だけしたが、変だと思いすぐに切った。 折り返し脅迫するような料金請求の電話があり、自宅の電話番号や住所も分かっているか ら、取りに行くといわれ怖がっている。(相談者:母親)3 子どもの個人情報保護への対応の現状
個人情報に係る消費者トラブルが急増しているなか、個人情報保護法が、2005年4月から 全面施行される。同法では特別の対象として子どもを規定していないが、同法を受けて作 成・改訂された各省庁や事業者団体等の各分野ごとの個人情報保護ガイドライン等には、 6特に子どもの個人情報の取扱を規定・解説した部分もみられる。なかでも事業者団体等が 自主的に作成した個人情報保護ガイドラインには、子どもの個人情報に対する特別な配慮 を規定している場合がある。また、認証マークの付与に際して子どもの個人情報保護への 対応を審査項目に加えている場合がある。 また、子どもからの個人情報は、子どもから電話や対面によって直接収集されるだけで なく、情報通信ネットワークを通じた取得があり、この場合には子どものオンラインプラ イバシーの保護が問題となる。こうしたことから、米国では「児童オンラインプライバシ ー保護法」
(COPPA:Children's Online Privacy Protection Act of 1998)に基づき、13歳未満の子 どものオンラインによる個人情報の取得などを法的に規制している。
(1)事業者団体等のガイドラインにおける子どもの場合の特例
これらの個人情報保護ガイドラインにおける子どもの個人情報に関する特別な配慮は、 ①子どもの理解を求める(理解力に応じた平易な説明など)、②子どもから個人情報を取 得する前に親(保護者)の了解をとるという規定である。(表2)事業者団体等の主なガイドラインにおける子どもの場合の特例
(注1) 事業者団体等 の名称 ガイドライン等 の名称 ガイドライン等における子どもの場合の特例 ECOM (電子商取引 推進協議会) 民間部門におけ る電子商取引に 係る個人情報の 保護に関する ガイドライン (Ver.3.0) (子どもから個人情報を取得する場合の措置) ・事業者は、子どもから個人情報を取得する場合には、 子どもが理解できる平易な表現で利用目的を明示する ものとする。また、子どもに個人情報の入力を求める場 合は、保護者の了解を得るように促すものとする(第14 項)。 (子どもの個人情報に関する保護者の求めへの対応) ・事業者は、子どもである本人の保有個人データについ て、その保護者から開示等の求めがあった場合は、子ど ものプライバシーに配慮し、一定の範囲で第25項から第 29項(注2)の規定に準じてこれに応じなければならない (第30項)。 《子どもの年齢は12歳~15歳以下(JIS Q 15001 に準 拠)》 日本マーケテ ィング・リサ ーチ協会 (JMRA) マーケティン グ・リサーチ綱 領 ・子供及び若年者にインタビューを行う場合には,リサ ーチャーは特に配慮しなければならない。子供に対する インタビューでは,まず親または責任ある成人の承諾を 得なければならない(第6条) 《「子供」の年齢は14歳未満、「若年者」は14歳~17歳》 7全国学習塾 協会 個人情報の保護 に関する法律に ついての学習塾 におけるガイド ライン(04版) 児童・生徒・学生の個人情報の最初の収集は、契約締結時 の場合が多く、適正な契約書の形式を定める。塾生の個 人情報の利用には、事前に子ども本人と保護者の同意を 得る(第11条)。保管期間を過ぎた個人情報はすみやか に確実な方法で廃棄する(第30条)。 《児童~学生は小学生~高校生に対応するが、年齢によ る規定はない》 TRUSTe 認証機構(注3) TRUST Children's 自己査定書 13歳未満の子どもを対象とする事業者には、一般のTRUS Teプライバシー保護プログラムの規準に加えて、子ども のオンラインプライバシー保護への対応が審査される。 《子どもの年齢は13歳未満》 (注 1)今回のヒアリング対象のみを示す。例えば、社団法人日本通信販売協会(JADMA)「通 信販売における個人情報保護ガイドライン」は、「子どもから個人情報を取得する場合には、 子どもが理解できる平易な表現で利用目的を通知するものとする。また、子どもに個人情報の 提供を求める場合は、親権者等の了解を得る機会を与えることとする」(第 11 条)を規定し ている。 (注 2)第 25 項~第 29 項は、自己情報の開示・訂正・削除・利用停止等の請求に関する規定で ある。
(注 3)TRUSTe 認証機構は、米国で設立された非営利活動団体 TRUSTe と提携し、TRUSTe の個人 情報保護プログラムを遵守するよう事業者向けの認証制度を運営している団体である。
(2)米国 COPPA による子どもの個人情報保護
① 米国COPPAによる規制の概要
米国のCOPPAの場合は、a.13歳未満の子ども、b.子ども向けのあらゆるウェブサイトの 管理者およびオンラインサービスの提供者、c.子どもとその家族に関する個人情報、とい う点に対象範囲を具体的に限定したうえで法的規制を定めている。(表3)COPPAによる規制の主たる項目と概要
主たる項目 概 要 プライバシー保護 方針の明示 ウェブサイトの管理者は、子どもから収集した情報の取扱方法等につ いて詳しく記述したプライバシー・ポリシーを、サイトの目につきや すい場所に明示しなければならない。表示事項は、ウェブサイト管理 者の名称、所在地、取得する情報の種類、利用方法、第三者への公開 の有無など。 8事前に証明可能な 親の同意の取得 ウェブサイトの管理者は、どんな種類の個人情報を子どもから収集す る場合であっても、適切な方法により、事前に証明可能な親の同意を 得なければならない。 【例示された方法】①親の同意を明らかにする署名を郵送やファクス で返送する一定様式をあらかじめ親に提供する、②親が利用できるフ リーダイヤルを設置する、③親にデジタル署名が付された電子メール を送るように求めるなど。 【例外】①子どもからの特定の要求に応ずるため一回限りで直接返答 する場合(電子メールアドレスの収集は許されるがアドレスは使用後 に削除されなくてはならない)、②親の同意を得るためだけに子ども や親の氏名などの個人情報を収集する場合など。 取得した個人情報 に対する親の権利 の通知 ウェブサイトの管理者は、子どもの親に対して、どんな情報が取得さ れているか確認できる機会を提供しなければならない。子どもに関す るの情報の確認、以前にした取得の同意の取消し、情報の変更、情報 の削除を要求する権利があることを通知しなければならない。 必要以上の情報取 得の禁止 ウェブサイトの管理者が、オンラインでのゲームやコンテストに参加 するための条件として、必要と考えられる以上の個人情報の提供を子 どもに求めてはならない。
② COPPAの施行による影響
COPPAは、13歳未満の子どもから個人情報を取得し利用する際に、事前に親の証明可能 な同意を取り付けることを規定する。COPPAの施行によって、子どもに対する注意を表示す るサイトが増えたが、13未満の子どもは利用できない旨のプライバシー政策を表示するケ ースも増えた。また、電子メールアドレスの入力だけを求め、子どもの住所や電話番号な どの個人情報まで求めるケースは減少した。違反した場合には高額な罰金が課されること もあり、COPPAの施行によりサイトの運営方法に影響を与えている。③ COPPA違反に対するFTCの行政処分の事例
FTC(米国連邦取引委員会)は、事業者が自ら表明したプライバシー・ポリシーに反す る行為を行った場合に、行政処分を課す権限を有する。以下は、COPPAに基づく行政処分の 主な事例である。 ● Mrs.Field社の場合(2003年2月):同社が運営する3つのサイトで、13歳未満の子ど もを含む対象に無料プレゼントがもらえる「誕生日クラブ」への入会ページを設置、8万人 以上の児童の氏名・住所・電子メールアドレスなどの個人情報を取得していたが、両親の 9同意を得る手続きをしていなかった。 ● Hershey Food社の場合(2003年2月):子どもを対象に数多くの菓子関連のサイトを 運営し、13歳未満の子どもから個人情報を取得するに際しては、オンラインで両親の同意 事項を入力するフォームを設置していたが、同意のフォームに入力がなくても、子どもの 個人情報が取得できるものであった。 ● UMGレコード社の場合(2004年2月):同社が運営する音楽関係の多数のサイトには、 生年月日を入力する項目があり、13歳未満の子どもである確認がとれる状態でありながら、 両親へ事前通知や同意を取得する手続きを怠っていた。 ● Bonzaiソフトウェア社の場合(2004年2月):フリーウェアのダウンロードサイトを 運営し、生年月日を含む個人情報の登録を求めており、13歳未満の子どもである確認がと れる場合にもCOPPAが規定する手続きをとっていなかった。
4 子どもの個人情報保護のために
子どもの個人情報に係る消費生活相談の急増、子どもの個人情報保護への対応の現状か ら、子どもの個人情報保護をめぐる課題について以下5点に整理した。(1)子どもに対する啓発・教育の必要
子どもの個人情報に係る消費者トラブルには、個人情報を相手に知らせてしまうことに 対する子どものあまりに無防備な行動がみられる。留守番中の電話や路上アンケートに対 して、本人や家族の個人情報まで答え、懸賞に応募するために詳細な個人情報を書き込む、 オンライン上のサイトの「お試し無料」「登録は無料」「当選しました」などの言葉に誘 われて個人情報を登録することも多い。 子どもの個人情報保護のために、まず最初に接近の対象となる子ども自身が、個人情報 が取得・利用される意味と危険の可能性が理解できるような啓発情報の提供、教育的な支 援が必要である。学校における情報教育の中で、子どもの個人情報に係る消費者トラブル の実態を通じて、不必要な個人情報を安易に提供しないなど、自らを守るために個人情報 を「いつ、どのような場面で、誰に対して、どのような方法で、どのような内容の情報を、 10どの程度」提供するのか教育をすることが必要である。コンピュータやネットワーク利用 のための情報リテラシー教育が進展しているが、トラブルの実態からすると、携帯電話を 通じたネットワークのトラブルに関する啓発・教育も望まれる。
(2)子どもの個人情報を守る親の役割の発揮
子どもの個人情報に係る相談の多くが、トラブルに遭った子どもの親から寄せられる。 子どもの親には、理解力や判断力が十分でない子どもの個人情報を守る第一の責任がある という自覚が必要である。子どもが直面している個人情報に係るトラブルを発見するため にも、子どもが携帯電話やパソコンを使って、どのように情報通信ネットワークを利用し ているかをできるだけ知っておくことが必要になる。また、事業者団体等のガイドライン は、子どもの個人情報を取得する以前に親の同意や承諾を得るという規定を設けており、 この規定に沿った要請を受けた場合、サイトの信頼性や子どもの個人情報の利用のされ方 などをもとに、親の役割として適切に同意するか否かの判断ができることが重要である。(3)オンライン上での取得に当ってのサイトの工夫
オンライン上で子どもの個人情報を取得する機会が増えていることと、オンラインで個 人情報を取得する場合は、対面で個人情報を取得する場合とは異なり、本人の年齢確認が 困難であることから、個人情報を取得するウェブ・サイトの仕様には一定の制約を設ける 必要がある。例えば、年齢だけの情報で他の情報とリンクがなければ個人を特定する情報 にはなりにくいことから、最初に年齢に関する情報の入力だけを求めることには問題が比 較的少ない。入力された年齢が、規定に該当する子どもであれば、子どもにも分りやすい プライバシーポリシーの説明、親と相談して許可を受けることの必要、親に対して子ども の個人情報の取扱を説明するなど、ウェブ・サイトの仕様上、フォームに入力された「年 齢」から自動的にその年齢に合わせて適切な画面の表示を行い、一定の年齢以下の子ども がアクセスし個人情報を入力する場合には、その入力画面の前に親の承諾を得た後でなけ れば、子どもだけでは先には進めないページを表示させるなどの工夫も必要である。(4)事業者団体等のガイドラインの普及と活用
子どもを特定の対象とした個人情報保護の法律上の規定はないが、子どもの個人情報に 関する特別の配慮を規定している事業者団体等の自主的なガイドラインがある(表2参照)。 これらのガイドラインは、子どもから個人情報を取得するに先立って、a.子ども自身の理 解が得られるように十分な事前の説明を行うこと、b.親の了解を得ることなどの規定に特 徴がある。自分の個人情報が収集・利用されることの影響に十分な理解力や判断力を持た 11ない子どもについて、その個人情報を特に慎重に扱うことを規定するガイドラインが、実 際に商品・サービスを提供する事業者団体等によって自主的に作成されていることには意 義がある。 事業者団体等が作成したこれらのガイドラインが、これらの事業者団体に加盟している 事業者ばかりでなく、子どもの個人情報保護のための基本的なルールとして、より社会的 に幅広く活用されることになれば、消費者トラブルの多発等の改善につながることが期待 できよう。
(5)ルール整備の必要
判断力や理解力が十分とはいえない子どもの個人情報の保護に注目すると、上記のよう な事業者団体等のガイドラインの充実とともに、子どもからの個人情報の取得・利用に先 立って、一定の年齢に達しない子どもから個人情報を取得する場合には親に承諾の機会を 与えるなど、米国のCOPPAによる対応などを参考にしつつ、子どもの個人情報を特に守るた めのルールの検討が必要な時期を迎えている。報告書の構成
はしがき [調査報告の概要] Ⅰ 子どもの個人情報に係る消費者トラブルの動向 1 消費生活相談からみた個人情報に係るトラブルの現状 (1)個人情報の係る相談件数が増加、全体に占める割合も上昇 (2)子どもの個人情報に係る相談の急増が目立つ (3)個人情報に係る相談の当事者の年代と関連する商品・サービス (4)子どもの個人情報に係るトラブルの第1位は「電話情報提供サービス」 2 子どもの個人情報に係る消費生活相談の具体例 (1)無差別的に収集・利用される子どもの個人情報 (2)ひとりの時に狙われる子どもの個人情報 (3)家族もトラブルに巻き込まれる子どもの個人情報の提供 Ⅱ 子どもの個人情報保護に対する対応の現状 1 事業者団体等のガイドラインによる対応 (1)ECOM(電子商取引推進協議会) 12(2)日本マーケティング・リサーチ協会 (3)全国学習塾協会 (4)TRUSTe認証機構 2 米国のCOPPAによる子どもの個人情報保護 (1)「児童オンラインプライバシー保護法(1998年)」の概要 (2)米国のオンラインプライバシー保護への対応 Ⅲ 子どもの個人情報保護の課題と方法 -オンラインプライバシーを中心に- 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科助教授 新保 史生 1 オンラインプライバシーをめぐる諸問題 2 米国における子どものオンラインプライバシー保護関係法令 3 COPPA違反に対する連邦取引委員会による行政処分 4 諸外国の個人情報保護制度にみる実効性担保の仕組み 5 わが国の個人情報保護制度と子どもの個人情報保護 6 子どもからの個人情報の取得 7 オンラインにおける子どもの個人情報保護のあり方 [専門家ヒアリングの概要]子どもの個人情報保護に関する基本的な考え方 中央大学法科大学院教授 堀部 政男 Ⅳ 子どもの個人情報保護のために 1 子どもに対する啓発・教育の必要 2 子どもの個人情報を守る親の役割の発揮 3 オンライン取得の場合のサイトの工夫 4 事業者団体等のガイドラインの普及と活用 5 ルール整備の必要 <title>子どもの個人情報に係る消費者トラブルの現状と対応(概要)</title> 13