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ロボットファーミングの可能性について

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Academic year: 2021

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2018 年 3 月 6 日受理 連絡責任者:飯田訓久(iida@elam.kais.kyoto-u.ac.jp)

ロボットファーミングの可能性について

飯田訓久

京都大学大学院農学研究科地域環境科学専攻フィールドロボティクス分野 (〒 606-8502 京都府京都市左京区北白川追分町) 要旨:農業従事者の高齢化と農業就業者人口の減少による労働力不足を解決するため,無人で農作業を行う「ロボッ トファーミング」が期待されている.国内では 2017 年 5 月にロボットトラクタの市販化が発表された.海外にお いても,農業機械のロボット化は大きな課題であり,これを実現するための技術開発が進められている.本報告 では,著者らが開発を進めている自脱コンバインのロボット化技術について紹介し,ロボット農機の現状と可能 性について述べる. キーワード:農業機械,自動運転,稲収穫,衝突回避

1.はじめに

我が国の農業は,食料自給率の維持向上をはかることを 目指しているが,農業従事者の高齢化や農業就業者人口の 減少により労働力不足が大きな問題である.この問題への ひとつの対策として,農作業の無人化を行う「ロボット ファーミング」が期待されている.国内では 2017 年 5 月 に自動化レベル 2 のロボットトラクタが発表((株)クボタ, 2017)され,順次他社からも発売される予定である.海外 においても,農業機械の自動化・ロボット化・情報化は大 きな課題であり,これを実現するための技術開発が進めら れている.我々の研究室でも,稲の収穫に用いる自脱コン バインのロボット化技術について研究を行っており,1) 自動刈取(内田ら,2013;Iida et al., 2013),2)穀粒の自 動排出(栗田ら,2014;栗田ら,2015;Kurita et al., 2012; Kurita et al., 2014;Kurita et al., 2017),3)複数台ロボット による協調収穫(Iida et al., 2017),4)障害物検出による 安全システム(張ら,2018),および 5)遠隔監視システ ム(石橋ら,2014;小倉ら,2017)などの技術開発を進め ている.これらは,個々の農作業の省人化だけでなく,農 作業全体での効率化とコスト削減を目的としている.

2.ロボット農機の社会実装

農業機械の自動運転技術に関する研究は,農業機械の実 用化と共にすぐに始まり,1970 年代に主に圃場での耕う ん作業時の直進操舵制御(笈田ら,1977)や稲の刈取り作 業時の稲列への倣い制御(池田ら,1973)が行われた.稲 列への倣い制御は自脱コンバインに実用化され,多くの市 販機に装備された技術となった.これらの自動運転技術で は,マイクロスイッチやポテンショメータなどの接触式セ ンサや,光や音波による非接触センサを用いて,稲列や既 耕地を検出して操舵を行うものである. 1990 年代前半には,マイクロコンピュータや電子デバイ スの発達により地磁気センサやジャイロセンサを用いて圃 場内の位置を自己推定しながら,直進走行と枕地旋回を自 動で繰り返す自律走行に関する研究が行われた.1990 年代 後半になると,光波測距儀による追尾式測量システムによ る農用トラクタの自動走行が達成(行本ら,1998;行本ら, 1998)されると共に,米国の Global Positioning System(GPS) を用いた自動走行に関する研究が始まった.2000 年代にな ると,誤差数 cm の高精度測位が可能なリアルタイム・キ ネ マ テ ィッ ク GPS(Real Time Kinematic GPS,RTK-GPS) の 利 用 と 慣 性 航 法 装 置(Inertia Measurement Unit,IMU) を融合した航法システム(木瀬ら,2002;Nagasaka et al., 2004;飯田ら,2006)によって,大規模農場では,自動直 進操舵(Auto Steering System)の実用化が進んだ.

このような背景を踏まえて,2009 年度から 5 カ年の農 林水産省委託プロジェクト(通称:アシストプロ)による 農業機械のロボット化研究が進められた.この研究では, 北海道の畑作を中心とした大規模農地で使用する大型のト ラクタ,コンバイン,施肥機のロボット化技術と,本州な どの水田の分散鎖圃を対象とした中小規模圃場向けのトラ クタ,田植機,コンバインのロボット化技術の開発研究が 行われた.これらの研究では,圃場での耕うん,移植や播 種,作物管理,収穫の一連の作業を自動運転で行うことを 目 的 と し て, 人 工 衛 星 測 位 シ ス テ ム(Global Navigation Satellite System, GNSS)と IMU による航法センサによる自 律走行が達成された.しかしながら,無人運転時の安全技 術に関しては一部トラクタ用に障害物検出システムの開発 が実施されたが,他の機械では未対応であった. このような研究開発を経て,ロボット化された農業機械, いわゆる「ロボット農機」を社会実装するため,2014 年 度から内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(次 世代農林水産業創造技術),SIP」が進められている.また, ロボット農機の実用化に向けて,農林水産省でも「農業機

総 説

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械の自動走行に関する安全性確保ガイドライン」を策定し ている(農林水産省,2017). このガイドラインでは,ロボット農機の自動化を 4 つの レベルに分けている.レベル 0 は通常の有人運転による農 作業,レベル 1 は人が乗車した状態での自動運転あるいは 自動作業,レベル 2 はロボット農機の使用者が圃場内や圃 場周辺から監視しながらの自動運転,そしてレベル 3 が遠 隔監視などによる完全な自動運転や自動作業である.この ガイドラインに従って,2017 年 5 月には自動化レベル 2 のロボットトラクタが国内の(株)クボタから発表され, 2018 年度には他社からも順次発売予定である. 京都大学でも,前述のアシストプロと SIP に参画し,稲 の収穫作業に用いる自脱コンバインのロボット化研究を 行っており,次章でその研究に関して少し詳しく紹介する.

3.ロボットによる稲収穫

1)自脱コンバインロボットの概要 図 1 に開発した自脱コンバインロボットの制御システム を示す.航法センサには,マルチ GNSS 受信機(トプコ ン AGI-3),GPS コンバス(ヘミスフィア,ssV-102),お よ び IMU(Xsens,MTi-30-2A5G4) を 用 い て い る.RTK 方式による高精度測位を行うために,GNSS 基地局からの 補正信号をデジタル無線機(サンライズテクノ,A7000) で受信する.コンバインの制御は,CAN(Controller Area Network)バスを介してメイン PC で制御する.遠隔から 自動走行の開始/停止,および緊急停止はワイヤレスコン トローラ(双葉電子工業,FRP-0601)で行う. 図 1 自脱コンバインロボットの制御システム 2)ロボット作業手順 このコンバインロボットによる収穫作業の方法は,圃場 の外周から 3 ∼ 4 周分の稲を有人運転で収穫を行う(周囲 刈り).これは,圃場の畦際の正確な位置が不明瞭なこと や水口や水尻にかんがい排水設備があるなどして接触など によるトラブルを防ぐためである.この周囲刈り時に GNSS 受信機で測定したコンバインの走行軌跡を用いて, 残りの稲領域の位置を算出し,ロボット作業のための刈取 経路を自動生成する.刈取経路は直進走行と枕地旋回を組 み合わせたもので,左回りのらせん状経路である.この経 路を目標経路として追従走行しながら,コンバインロボッ トは稲を刈り取る. 刈取方法としては,外周に沿って直進で稲を刈り取った あと,枕地で 90°左旋回を繰り返す,「回刈り」と,中割 作業を行って稲領域を 2 ∼ 3 区画に分けて長辺方向を刈り 取ったあと,枕地で 180°旋回を繰り返す「往復刈り」が ある. また,刈取り中に穀粒タンクが満量になると,その稲列 を刈り取ったあと,穀粒運搬車の付近まで自動走行で移動 し,画像処理によって穀粒運搬車上のコンテナを認識して, コンバインの排出オーガの排出口を位置決めし,穀粒を排 出する(図 2 自動穀粒排出).そのあと,残っている稲 領域に対する刈り取り経路を再計算し,最寄りの稲位置か ら刈取りを再開する.このように自脱コンバインロボット は刈取りと穀粒排出を繰り返して,稲収穫を自動で行う.  図 2 コンバインロボットによる自動穀粒排出 3)マルチロボットによる収穫 収穫作業の高効率化と大規模農地で既存のコンバインで 収穫時間を短縮するため,2 台のコンバインロボットによ る同時作業を行うマルチロボットシステムの開発を行って いる(図 3).刈取方法は 2 通りあり,a)2 台のロボット が併走して回刈りで刈取る方法,b)中割によって分割し た稲領域を各ロボットが往復刈りで刈取る方法である.こ れらの方法を用いて,圃場実験を行ったところ,b)の方 が刈取の作業能率 24% の向上が見込まれた.これは,a) による刈取りでは,本質的にロボットの作業量(刈取面積) に差があることと,片方のロボットの作業速度が低下する ともう一方も速度低下や停車をする必要があるためであ る.しかし,b)による方法でも,往復刈りのための旋回 スペースを枕地に確保するまでの時間が必要である.従っ て,a)と b)の刈取方法を効果的に組み合わせて刈取経 路を計画する研究も行っている.

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 a)2 台のロボットが併走して回刈りで刈取る方法 b) 中割によって分割した稲領域を各ロボットが往復刈りで刈取る方法 図 3 ロボット 2 台による同時収穫 4)障害物の検出と衝突回避 ロボット作業を実現するための大きな問題は安全対策で ある.安全対策にも,a)ロボットの誤動作や暴走の防止 と b)ロボットが周辺の人や物に危害を与えないことの大 きく 2 つがある.a)に関しては,ファイルセーフ装置の 導入が進められている.b)に関しては,産業機械や自動 車でも進められている技術を農業ロボットにも応用し,セ ンサで周辺の人や物を検出し,減速や停車を行って安全に 衝突を回避する研究を行っている.具体的な事例として, 3 次元レーザーレンジファインダ(3D LRF)を用いて,ロ ボット前方の障害物を検出する(図 4)と,その位置関係 に応じた衝突回避行動として,減速と停車を行う(図 5). また,ロボットの行動を近くの作業者に示すため,カラー 表示灯の点灯とブザーによる警告音を発する.  図 4 3D LRF センサによる人検出 図 5 障害物の位置に応じた衝突回避行動 5)遠隔監視システム ロボット農機による完全無人化(自動化レベル 3)に向 けて,ロボットを遠隔地で監視するシステムの構築が進め られている.コンバインロボットの開発でも,図 6 に示す ようにロボットの作業状態をモニタリングするための Web アプリケーションの開発を行っている.このシステムでは, 遠隔地,例えば圃場と農家事務所といった離れた場所でロ ボットの作業状況を監視するため,移動通信システム(3G/ LTE)を利用して,ロボットから位置や作業状態(速度, 作業機速度,燃料残量,収穫量など)をサーバーへ送信し て記録すると共に,監視者がパソコンやスマートフォンな どの情報端末でサーバーに Web ブラウザで接続すること でコンバインの作業状態を確認することができる.  図 6 コンバインロボットの遠隔モニタリング

4.おわりに

国内の農業機械のロボット化技術の動向について報告し た.稲作を対象とした農業機械は,国内だけでなく東南ア ジアおいても独自性と優位性があり,これらの機械のロ

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ボット化技術も将来国内だけでなく,東南アジアを中心と した稲作地域での導入が期待される.急激に労働力不足が 進む日本国内において,ロボット農機の実用化とその適応 性を改善し,海外においても利用可能な技術にしていくこ とが重要である.

謝辞

本報告に関する研究の一部は,SIP(戦略的イノベーショ ン創造プログラム)「次世代農林水産業創造技術」による 研究助成金を受けて行った.記して関係各位に謝意を表す.

引用文献

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Feasibility and Prospect of Robotic Farming

Michihisa Iida

Laboratory of Field Robotics, Division of Environmental Science and Technology, Graduate School of Agriculture, Kyoto University (Kitashirakawa-Oiwake-cho, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8502, Japan)

Summary:In order to solve aging of farmer and decrease of farmer population in Japan, it is expected that Robotic Farming by unmanned machine will be realized. In May, 2017, it was released that a robot tractor was commercialized in Japan. Robotization of agricultural machinery is important theme overseas too, technology development for implementation of agricultural robot is promoted in the world. In this report, technology for head-feeding combine robots that author has been developed are introduced, and feasibility and prospect of robotic agricultural machinery is described.

Key Words:agricultural machinery, automatic drive, rice harvest, collision avoidance

Journal of Crop Research 63: 49-53 (2018) Correspondence: Michihisa Iida (iida@elam.kais.kyoto-u.ac.jp)

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