資
料
出産後に仕事へ復帰した女性が働きながら母乳育児を継続した体験
Mothers' experiences of continuing breastfeeding while working
after returning to work following childbirth
中 田 かおり(Kaori NAKADA)
*1片 岡 弥恵子(Yaeko KATAOKA)
*2 抄 録 目 的 本研究の目的は,出産後に仕事へ復帰した女性が,働きながら母乳育児を継続した体験を記述するこ とである。 対象と方法 都市部にある助産院2か所に研究協力を依頼した。出産後に母乳育児を行い,復帰前に母乳育児継続 を希望し仕事または学業に復帰した女性10名を対象とし,フォーカス・グループ・インタビューによ りデータを収集した。内容分析の方法を参考に質的記述的に分析した。 結 果 研究参加者の年代は20歳代から40歳代で,出産後に仕事に復帰した人は8名,学業に復帰した人が2 名であった。復帰時期は出産後2か月から10か月であった。復帰前の授乳方法は,母乳栄養が9名,混 合栄養が1名であり,復帰後は母乳栄養が4名,混合栄養が6名であった。 データから200のコードが抽出され,61のサブカテゴリ,17のカテゴリが抽出された。出産後,仕事 へ復帰した女性が働きながら母乳育児を継続した体験として,【母親として選択した復帰後の母乳育児 継続】,【復帰後の母乳育児を見越しての準備や調整】,【母乳育児継続のサポーターの存在】,【生活の一部 として続ける母乳育児】,【折り合いをつけていく様々な障壁】,【母乳育児に対する価値観とスタンス】, 【子どものうれしさが自分にとってのうれしさになる】という7つのコアカテゴリが抽出された。 結 論 女性は仕事や学業へ復帰するにあたり,母親としてできることとして母乳育児を継続することを選択 し,様々な体験をしながら母乳育児を継続していた。助産師は,出産後に復帰する女性がこのような体 験をしていることを理解して支援していく必要があることが示唆された。 キーワード:母乳育児,仕事復帰,働く女性,体験 2017年5月24日受付 2018 年3月26日採用 2018年5月18日早期公開*1聖路加国際大学大学院博士後期課程(Doctoral Course, St. Luke's International University) *2聖路加国際大学(St. Luke's International University)
Abstract Purpose
The principal aim of the present study was to describe the experiences of mothers regarding continuation of breastfeeding after returning to work following childbirth.
Methods
Cooperation of two maternity homes in an urban area was sought for the study. Data were collected using focus group interviews with 10 women who were breastfeeding after childbirth and desired to continue breastfeeding before returning to work or school. Data were qualitatively analyzed using the content analysis method.
Results
The subjects were eight women who returned to work and two who returned to academia after childbirth (age range: 20-40 years). The time taken to return to work was between two and 10 months postpartum. Regarding the method of breastfeeding before return to work, nine subjects selected breastfeeding and one selected mixed feeding; following return to work, four selected breastfeeding and six selected mixed feeding.
A total of 200 codes, 61 subcategories, and 17 categories were extracted from the data. The following seven categories were extracted from data of women who returned to work following childbirth and continued breastfeeding while working:“selection of continuing to breastfeed after returning to work as a mother,” “preparation and adjust-ment in anticipation of breastfeeding after return,” “presence of supporters for continuation of breastfeeding,” “con-tinuation of breastfeeding as part of life,” “various barriers to maintain balance,” “values and stance regarding breast-feeding,” and “happiness of child becoming happiness for self.”
Conclusion
On returning to work or academia, the women selected to continue breastfeeding as a mother and had various experiences while continuing breastfeeding. Our results suggest that midwives need to understand that women re-turning to work after childbirth have such experiences and provide support for these women.
Key words: breastfeeding, return to work, working mother, experience
Ⅰ.諸 言
働く女性は増加し,出産後に復職する女性も増加傾 向にある。2015年の調査では,M字カーブの底にあた る30~34歳代女性の労働力率は30年前と比較して20.6 ポイント上昇した。この背景には有配偶者の労働力上 昇があると報告されている(厚生労働省,2016a)。さ らに結婚や出産を機に仕事を辞める女性が減少した。 第1子出産前に就業し,出産後も就業を継続した女性 の 割 合 は 2010~2014 年 の 調 査 で 53.1% で あ り, 2005~2009年と比較して9.3ポイント上昇している(国 立社会保障・人口問題研究所,2016)。2015年の女性 の育児休業取得率は81.5%であるが,取得期間には幅 があり個人差が大きい。育児休業期間が10か月未満で 復職する割合は 34.6% であり(厚生労働省,2016b), これらの女性は子どもが乳児期のうちに復職している といえる。 母乳育児は女性と子どもの健康にとって利益が大き いことが多くの疫学的研究から明らかにされており (AAP, 2012),WHO/UNICEF(2002)は 2 年以上母乳 を継続することを推奨している。母乳には量依存性効 果があることから,混合栄養であっても長く母乳育児 を継続することは母子の健康にとってメリットになる といえる。平成27年度乳幼児栄養調査結果によると, 2015年の 3か月時の授乳方法は母乳栄養 54.7%,混合 栄養 35.1% であり,9 割近い子どもが母乳を飲んでい る状況がある(厚生労働省,2016c)。しかし働く女性 に目を向けると,復職後に母乳育児を続けようとして も人工栄養にシフトしてしまう状況が報告されている (安藤他,2002;内海他,2005)。滝(2015)は,母乳 育児を継続できることやメリットを知らないことによ り,復職前に母乳育児をやめてしまう場合も多いと述 べていることから,仕事復帰が母乳育児継続の妨げに なっていると考えられる。 研究者は働く女性の母乳育児継続を推進するために は,まず実際の体験を知ることが必要であると考え た。働く女性の母乳育児に関する語りを分析した藤田 (2015)によると,母乳育児は寝不足等の身体的負担 になっていたが,母としての確認行為にもなっていた と報告されている。しかし,藤田(2015)の研究は妊 娠期から育児期までの心と身体の変化に着目している ため,母乳育児継続のプロセスについては十分明らかにはされていない。 本研究の目的は,出産後に仕事へ復帰した女性が働 きながら母乳育児を継続した体験を記述することとし た。本研究により,働く女性の母乳育児継続上の課題 が明らかになり,母乳育児支援の方向性が示唆され る。また,出産後に仕事と子育ての両立を考える女性 にとって,情報提供の一つとなる可能性がある。
Ⅱ.用語の定義
母乳育児:母親が子どもに母乳を与えて育てること であり,完全母乳だけでなく混合栄養も含める。本研 究では,少しでも子どもに母乳を飲ませていれば母乳 育児を継続しているとした。Ⅲ.研 究 方 法
1.研究デザイン 本研究は質的記述的研究である。 2.研究参加者の条件と抽出方法 研究参加者の条件は次の3つの条件を満たす女性と した。①出産後に母乳育児を行い,復帰前に母乳育児 継続を希望し仕事または学業に復帰したこと,②母乳 育児継続の対象となる子どもが 4 歳未満であること, ③日本語での会話が可能であること。 都市部にある助産院 2 か所に研究協力を依頼した。 リクルート期間は2016年2月~6月であった。院長か ら説明をしてもらい,研究参加の意思がある場合には 本人から研究者に連絡をもらった。インタビュー当日 に研究者自身が文書を用いて説明を行い,同意書に署 名をもらった。インタビューは 2016年5月~6月に実 施した。 3.データ収集方法 属性として,研究参加者の年代,子どもの人数,復 帰時期,仕事内容,職場・保育園の環境等について フェイスシートに記入してもらった。 インタビューでは,参加者同士が語り合うことで共 通の体験や記憶を想起することを期待しフォーカス・ グループ・インタビューを行った。しかし,研究参加 者の都合により1名は個別インタビューとなった。プ ライバシーが確保される個室において,保育者を2名 おき子どもの安全に留意しながら行った。インタ ビュー内容は研究参加者の承諾を得て IC レコーダー に録音した。インタビューガイドは,復帰後に母乳育 児を継続しようと思った理由,復帰までにした準備や 調整,母乳育児と仕事や学業との両立の実際であっ た。 4.分析方法 分析は内容分析(グレッグ他,2016)を参考にした。 インタビュー内容を逐語録におこし,逐語録を繰り返 し読みグループで語られた内容を理解した。次に 個々の参加者の逐語録を読み,語られた内容を理解し た。仕事復帰時に母乳育児をやめずに継続しようと 思った理由,働きながら母乳育児を続けた体験,続け るなかで感じたことやわかったことについて表現され た記述を,意味のあるまとまり毎に抽出し一次コード とした。一次コードの意味内容を損なわないように抽 象度をあげて二次コードとした。コード化する際は, 可能な限り研究参加者の言葉を使うように留意した。 二次コードを類似性・相違性に基づき集約し,さらに 類似性・相違性に基づき,抽象度をあげてサブカテゴ リ,カテゴリ,コアカテゴリを生成した。コアカテゴ リの関連性を検討し,構造化した。結果の厳密性を確 保するため,分析の過程ではコード化からカテゴリ生 成までのプロセスを記述し,質的研究の経験を持つ助 産学の専門家である研究者2名でディスカッションし ながら進めた。データの解釈が妥当であるかどうかに ついて,了承の得られた参加者 2 名に対してメン バーチェッキングにより最終的なチェックを受けた。 5.倫理的配慮 研究参加の自由意思の尊重,インタビュー後に同意 を撤回できること,プライバシーの確保,匿名性の保 持, 安全なデータの保存と破棄,研究成果の公表等に ついて説明した。本研究は聖路加国際大学研究倫理審 査委員会の審査で承認を得て実施した(承認番号: 15-083)。Ⅳ.結 果
1.研究参加者の背景(表1) 研究参加者は10名であり,年代は20歳代から40歳 代であった。子どもの人数は 1 名が 3 名,2 名が 4 名, 3名以上が 3 名であった。以下,末子の場合について 述べると,出産後に仕事に復帰した人が8名,学業に復帰した人が2名であり,復帰時期は最も早い人で出 産後2か月,最も遅い人で10か月であった。復帰前の 授乳方法は母乳栄養が 9 名,混合栄養が 1 名であり, この1名は,復帰に備えて出産直後から混合栄養にし ていた。復帰後は母乳栄養が 4名,混合栄養が 6名で あり,混合栄養の6名は,自宅では母乳を飲ませ,保 育園では人工乳を飲ませてもらっていた。 日中の授乳・搾乳状況について,復帰後も母乳栄養 だった4名は,仕事中に直接母乳を飲ませたり,搾乳 を冷凍保存して保育園に届けたりしていた。復帰後に 混合栄養だった6名のうちトイレで搾乳して捨てると いう経験をしていた人は3名いた。そのうち2 名は保 育園では人工乳と決めていたため,職場で保存するつ もりはなく捨てており,1名は搾乳を保存したい気持 ちがあったが環境が整っておらず保存できなかった。 残りの3名は職場では搾乳しなかった。 2.働きながら母乳育児を継続した女性の体験 女性10名の語りから200のコードが抽出され,61の サブカテゴリ,17のカテゴリ,7のコアカテゴリが抽 出された(表2)。結果の記述にあたっては,コアカテ ゴリを【 】,カテゴリを《 》,サブカテゴリを〈 〉, 研究参加者の語りを「斜体」,研究者が補った部分は ( )で示す。 仕事復帰後に働きながら母乳育児を継続した女性の 体験を次のとおり構造化した。女性は復帰前から子ど もを母乳で育て,【母親として復帰後の母乳育児継続 を選択】していた。あらかじめ【復帰後の母乳育児を 見越しての準備や調整】をし,復帰後も必要時は職場 や保育園等と調整をしていた。復帰後は【母乳育児継 続のサポーターの存在】があり,【生活の一部として母 乳育児を続け】,【様々な障壁に折り合いをつけて】い た。女性にはそれぞれの【母乳育児に対する価値観と スタンス】があり,母乳だけ,あるいは人工乳も飲ま せながら母乳育児を継続していた。継続のプロセスに おいては【子どものうれしさを自分にとってのうれし さ】と感じていた。 各コアカテゴリの具体的内容は次のとおりであった。 1)【母親として選択した復帰後の母乳育児継続】 これは3つのカテゴリから生成され,復帰するから といって母乳育児をやめずに,母親としてできること として母乳育児の継続を選択するという状況を示し た。《母親として子どもにとって一番である母乳をあ げたい思い》は,3つのサブカテゴリから生成された。 〈母親としてできることとして母乳や搾乳をあげたい〉 では,出産後3か月で学業に復帰したCさんは,「復帰 するのも早かったので,母親としてできることってい うのが,あー,なんか母乳とか授乳とかかなーって」 と語り,子どもに母乳をあげられるのは唯一母親にし かできないことであるから,復帰後もできるだけ母乳 を続けたいという思いを語った。 《子どもと離れる時間が増えるからこそ続けたい母 乳育児》は,4 つのサブカテゴリから生成された。〈仕 事で離れるからこそおっぱいは子どもとの大切なスキ ンシップの時間〉では,Dさんは,「仕事から帰ってき た後も,その,スキンシップっていうのもあって,母 乳はやっぱり続けたいなっていうのがあったので」と 語った。仕事復帰により子どもと一緒にいる時間が減 表1 研究参加者の背景 ID 年代 子どもの数(出産後の月数)復帰時期 復帰時の仕事内容 勤務形態 授乳方法 復帰後の職場・学校での授乳・搾乳状況 インタビュー時の授乳状況 復帰前 復帰後 A 20歳代 1人 6か月 事務・接客 非常勤 母乳 母乳 直接母乳を飲ませる 継続中 B 30歳代 2人 7か月 事務 常勤 母乳 混合 第1子:搾乳して捨てる 第2子:搾乳は必要ない 継続中 C 30歳代 3人以上 2か月 学生 - 母乳 母乳 搾乳して冷凍保存 卒乳 D 30歳代 1人 8か月 事務 常勤 母乳 混合 保存したいができないため 搾乳して捨てる 卒乳 E 40歳代 3人以上 2か月 サービス業 非常勤 母乳 混合 搾乳するほど乳房が張らない 継続中 F 30歳代 2人 10か月 医療職 非常勤 母乳 混合 搾乳はしない 継続中 G 30歳代 2人 3か月 教員 常勤 母乳 母乳 搾乳して冷凍保存 卒乳 H 40歳代 3人以上 3か月 学生 - 混合 混合 搾乳して捨てる 継続中 I 30歳代 1人 5か月 教員 常勤 母乳 混合 搾乳はしない 継続中 J 40歳代 2人 4か月 医療職 非常勤 母乳 母乳 直接母乳を飲ませる 卒乳 複数の子どもがいる場合,特に記載がない場合は末子の状況について記載している
表2 働きながら母乳育児を継続した女性の体験 コアカテゴリ(7) カテゴリ(17) サブカテゴリ(61) 母親として選択した復帰後の 母乳育児継続 母親として子どもにとって一番である 母乳をあげたい思い 母親としてできることとして母乳や搾乳をあげたい 自分の中で作られた母乳を飲ませるのは,理にかなっている 子どもへの母乳の効果を期待して続ける 子どもと離れる時間が増えるからこそ 続けたい母乳育児 仕事で離れるからこそおっぱいは子どもとの大切なスキンシップの時間 子どもの環境が変わるからこそ精神安定剤の意味で母乳を続ける 復帰後も子どものためにできるだけ授乳状況を変えたくない 保育園に入るからこそ,母乳の免疫効果を期待する 上の子の授乳経験からくる自己効力感 上の子を母乳で育てた自信から,次もまたおっぱいをあげよう,できるはずだと思う 上の子を育てた経験をもとに復帰時期や授乳方法を自分で決めていく 復帰後の母乳育児を見越しての 準備や調整 復帰後の母乳育児継続についての準備や調整 保育園に母乳育児継続の希望を伝えて具体的に調整する 妊娠中から復帰後の勤務と授乳方法について調整し準備する 子どもの月齢や様子から哺乳瓶の練習をしなくてもなんとかやれそうだと思う 子どもを預ける準備として哺乳瓶で飲ませる練習をする 母乳育児継続のサポーターの 存在 思いを理解してくれるサポーターの存在 職場の上司は,母乳を続けたい気持ちを理解してくれる 保育園スタッフがみな母乳育児にサポーティブ 保育園はその場でおっぱいを飲ませることに対してウェルカム 担当教員は,実習中の搾乳に気を遣ってくれる 夫はどうすれば母乳がよく出るのかだんだんわかってくる 母乳仲間と体験を共有することで精神的に楽になる 母乳については看護師である実母に相談する 母乳育児を続けられる環境と具体的なサポート 職場を抜け出して母乳を飲ませに行くことができる 哺乳瓶で飲めなくても保育園で個別に対応してくれて助かる おっぱいを相談できる助産師が身近にいる 仕事をしながら子どもに母乳をあげることができる 保育園には,希望すれば冷凍母乳を受け入れる体制がある 上司が復帰 1 か月間は半日勤務を提案してくれる 夫は冷凍母乳を解凍して子どもに飲ませてくれる 生活の一部として続ける 母乳育児 復帰後も続けた方が楽だから続けるおっぱい おっぱいは夜の寝かしつけが楽だし,添い乳するとよく寝てくれる おっぱいは人工乳よりも手間がかからなくて楽 母乳を続けることによる自分へのメリットを期待する 朝と夜のおっぱいで続く母乳育児 子どもを預ける前後で母乳をたっぷり飲ませる 復帰後の授乳ペースに身体が慣れて母乳分泌量が落ち着く 続けながら見つけていく自分なりの方法 母乳分泌をトラブルなく維持するために自分で対処する 試行錯誤しながら自分なりの搾乳方法を見つけていく 子どもに飲ませるために搾乳して冷凍保存する 一人目と二人目でおっぱいの張り方が違う 帰宅後の家事がスムーズにいくように段取りを工夫する 助産師には母乳にこだわらない人も多いから相談しない 折り合いをつけていく 様々な障壁 母乳をあげ続けることへの職場や学校の障壁 搾乳するための個室や保管場所の確保が難しい 周囲への後ろめたさを感じながらこっそり搾乳する 職場によって母乳に対する考え方や対応に違いがあるとわかる 気兼ねしながら職場のトイレ等で搾乳する サポート体制を自ら作っていく苦労 保育園との具体的な母乳の受け入れ方法を調整するのに苦労する 気持ちは理解してもらえても具体的なサポートを期待できるとは限らない おっぱいと仕事モードの切り替え困難 仕事中に搾乳のタイミングを計るのが難しい 母乳が洋服ににじんだり染みになることへの心配がある 仕事中におっぱいが張ってくる 思いがけないトラブルに対する悩みと試行錯誤 子どもが全力で哺乳瓶を拒否し,おっぱいを続けざるを得ない 復帰直後は授乳や搾乳のペースが変化するため乳房トラブルを起こしやすい 子どもの抵抗に悩み,対応に試行錯誤する 母乳育児に対する価値観と スタンス 母乳だけで育てたいという強い意思 母乳だけで育てたいという思いがある 人工乳を子どもに飲ませることへの抵抗感 おっぱいは母親が身をもって子どもを育てるイメージがある 母乳分泌が減少した焦りと怖さから搾乳が辛くなる 母乳じゃなきゃという思い込みやこだわりがある 気負わずに続けるおっぱい 母乳が出るからあげる,飲みたかったら飲めばいいという感じ 臨機応変に母乳と人工乳を使い分ける 母乳へのこだわりが変化し,人工乳を飲ませてもいいと思える 子どものうれしさが自分に とってのうれしさになる 子どもに必要とされるうれしさ 子どもに必要とされているうれしさが継続のモチベーションになる 母乳を続けたことによる達成感 卒乳後もおっぱいが大好きで,母乳がいい体験になっている子どもの姿を見ることが うれしい 母乳を続けたことによるやりきった感がある
るからこそ,授乳の時間を子どもとの大切な時間だと 考えていた。また,〈子どもの環境が変わるからこそ 精神安定剤の意味で母乳を続ける〉では,Jさんは第1 子の仕事復帰の際に断乳をした経験があり,「子ども なりに保育園に入って,こう精神的に不安定になると きにおっぱいも取り上げてしまったので,ちょっとか わいそうだったかなって」と後悔していた。そのため 第 2 子の転園時には,1 歳 3 か月ではあったが「まあ, 精神安定剤というおっぱいの状況になっていました し,(中略)この子の気持ちがそれで安定するなら,少 し続けてからやめようって。」と語り,環境の変化に 伴う子どもへの影響を考慮し,母乳を続けていた。 《上の子の授乳経験からくる自己効力感》は,2つの サブカテゴリから生成された。〈上の子を母乳で育て た自信から,次もまたおっぱいをあげよう,できるは ずだと思う〉では,第 1 子の出産が想像とかけ離れた 体験であったHさんは,出産後これからできることを やっていこうと気持ちを切り替え,母乳をとにかく吸 わせていき,次第にたくさん分泌されるようになっ た。「出産のエピソードはなんかこう負な感じだった んですけど,あ,なんか自分にもできるっていう自信 がついたっていうのが母乳育児だった。」と語り,第1 子を途中から母乳だけで育てることができた体験が, 母乳育児の自信になったと語った。〈上の子を育てた 経験をもとに復帰時期や授乳方法を自分で決めてい く〉では,H さんは,「私は一人目の時は 3 年休んで, もうみっちり育児したいなっていう風に思ったので, (中略)三人目の時は早く仕事復帰したいって 6 か 月って。だんだん自分のなかでこう(仕事と子育て の)ウエイトが変わって。(中略)自分に余裕も出てき たので,あー今度は3か月で復帰できそうだなって。」 と語った。 2)【復帰後の母乳育児を見越しての準備や調整】 これは《復帰後の母乳育児継続についての準備や調 整》という1つのカテゴリ,4つのサブカテゴリから生 成された。〈保育園に母乳育児継続の希望を伝えて具 体的に調整する〉では,G さんは入園前の面接で母乳 継続の希望を伝えたところ,「じゃあ,こういう形で もってきてくださいって,こういうタイミングであげ ますねっていう。ただ,なんか,まあその時の子ども の状態もあるし,ご飯が食べられなくって,(中略)も しかしたらその時にストックの母乳がなかったら,あ の,ミルクをあげるかもしれませんってみたいなとこ ろの,なんていうかすり合わせを面接でやって,それ であの,(入園後は)保育士さんと協働してやってまし た。」と語った。〈妊娠中から復帰後の勤務と授乳方法 について調整し準備する〉では,J さんは,「やっぱり お産が照準に,ゴールになるじゃないですか。(二人 目は)妊娠中に産後の職場復帰のことまで,私は今 回,用意周到に妊娠中に整えたので,それが一人目と 違うところ。」と語った。 子ども側の準備として,〈子どもの月齢や様子から 哺乳瓶の練習をしなくてもなんとかやれそうだと思 う〉では,Bさんは,「一人目の時は(中略),哺乳瓶を 全然練習してなかったんで,(保育園で)受け付けなく て飲まない。で,まあ飲まないんだったらまあいい や。離乳食も進んでたんで,8 か月で」と語った。一 方,〈子どもを預ける準備として哺乳瓶で飲ませる練 習をする〉では,出産後 2 か月で復帰した E さんは, 途中で認可保育園へ移ったため2か所に預けた経験が あり,「どっちの保育園でも哺乳瓶使えますか,みた いのは聞かれて。で,最初の保育園では,まだ家では ずっと母乳しかあげていなかったので,練習しました ね,一応。」と語り,子どもの月齢と離乳食の進み具 合,保育園との調整を踏まえて,哺乳瓶で飲ませる練 習の必要性を判断している様子が伺えた。 3)【母乳育児継続のサポーターの存在】 これは2つのカテゴリから生成された。《思いを理解 してくれるサポーターの存在》は,7 つのサブカテゴ リから生成された。〈職場の上司は,母乳を続けたい 気持ちを理解してくれる〉では,職場の敷地内にある 保育室に子どもを預けて復帰した G さんは,「職場自 体もあの,呼ばれたらすぐ行っていいよってみたいな 感じなのと,お昼とか休憩時間の合間を縫って,あの 保育室に(中略)行きやすい,授乳しやすい環境だっ たんですよ。」と語り,母乳育児継続を職場全体で応 援する風土があったと語った。〈保育園スタッフがみ な母乳育児にサポーティブ〉では,Gさんは保育士か ら「大変だねーとか頑張ってますねーとか,うん,今 日これだけ飲みましたよ,とか。昼間あんまり飲まな かったりすると,お家でたっぷり飲ませてあげてくだ さいね。やっぱり直接飲んだ方がうれしいのかもしれ ないですね,とか言われると,まあ,なんか,そうい う言葉が支えになるみたいなところは確かにありまし た。」と語り,周囲の人々のサポーティブな声掛けが 精神的支えになっていたと語った。 《母乳育児を続けられる環境と具体的なサポート》 は,7 つのサブカテゴリから生成された。J さんは出
産後4か月時に仕事へ復帰したが,保育園に子どもを 入園させることができず,自ら職場の隣にある個人宅 に子どもの預け先を確保して復帰した。〈職場を抜け 出して母乳を飲ませに行くことができる〉では,J さ んは,「おっぱいをほしそうにしたら電話をもらって (授乳に行き),(中略)夕方まで(仕事をする)という 体制で」勤務した。さらに,「(乳が)さしてきてピー クを迎えるとなんとなく固いままですけど,(中略)少 ししたらタイミングよく呼ばれて。」と語り,職場と 保育者のサポートを得ながら仕事の合間に授乳に通う 状況が語られた。〈哺乳瓶で飲めなくても保育園で個 別に対応してくれて助かる〉では,I さんは,哺乳瓶 を拒否して全く飲まない子どもに対して「スプーンで 一生懸命保育園の方がミルクをあげてくれるってい う。(中略)すごい時間かかるし。すごい助かりまし た。精神的にも楽になりました。」と語った。〈おっぱ いを相談できる助産師が身近にいる〉では,復帰前か ら助産院に通ってケアを受けていた G さんは,「トラ ブルがあったとしても,ちゃんと相談にきちんと 乗ってくれて,(中略)職場復帰の時期のところまでも ずっと関わってくださってたので,(中略)それはそれ ですごく役に立ちましたね。」と語った。 4)【生活の一部として続ける母乳育児】 これは3つのカテゴリから生成された。《復帰後も続 けた方が楽だから続けるおっぱい》は,3 つのサブカ テゴリから生成された。〈おっぱいは夜の寝かしつけ が楽だし,添い乳するとよく寝てくれる〉では,Hさ んは,「寝かしつけるのが,やっぱりおっぱいの時は 楽。ただ,あの,腹持ちの状態で何回か起きることは あるんですけど,(中略)(人工乳より)母乳の方が自 分的には楽だし,慣れていたので。」と語り,I さん も,「睡眠取りたかったですね,仕事復帰してすぐは。 そこで起き上がってなんて無理だなーって」と語っ た。母乳は手間がかからず,特に夜間が楽といったメ リットを実感し,その実感が母乳育児継続のモチ ベーションにもなっている様子が語られた。 《朝と夜のおっぱいで続く母乳育児》は,2つのサブ カテゴリから生成された。〈子どもを預ける前後で母 乳をたっぷり飲ませる〉では,Gさんは,「家についた ら(おっぱいを)あげる,行く直前まで飲んでる,そ んな感じでした。」と語り,子どもを保育園に預ける 前後にたっぷり飲ませることで,母乳分泌が続く様子 が語られた。〈復帰後の授乳ペースに身体が慣れて母 乳分泌量が落ち着く〉では,Dさんは,「搾乳していた の最初の1か月くらいで。それからは体の方がそのリ ズムに合わせてくれたっていうか。(略)それで夕方あ げて,あーすっきり,みたいな,そういう感じ。」と 語り,徐々に復帰後のペースに身体が順応して,子ど もに吸われれば母乳が分泌されるという状況が語られ た。 《続けながら見つけていく自分なりの方法》は,6つ のサブカテゴリから生成された。〈母乳分泌をトラブ ルなく維持するために自分で対処する〉では,おっぱ いが張りすぎないように気を付けていたFさんは,「食 事に気を付けないと(おっぱいが)詰まりそうになる んで,そこは今,気を付けながらいっている感じです ね。」と語った。一方,復帰後数か月経過し分泌が 減ってきたと感じた G さんは,「結構昼間の会えない 時間の搾乳の回数を増やして,たくさんストックを 作ったりとか。」と語り,母乳の分泌状況に注意を払 いながらトラブルなく母乳分泌が維持できるよう工夫 して自分の方法を見出していく様子が語られた。 5)【折り合いをつけていく様々な障壁】 これは4つのカテゴリから生成された。《母乳をあげ 続けることへの職場や学校の障壁》は,4 つのサブカ テゴリから生成された。〈搾乳するための個室や保管 場所の確保が難しい〉では,Cさんは職場で搾乳した 第 1 子のときの体験について,「個室がもちろんな くって,なんか会議室みたいなところで時間を見計 らって,あ,誰もいないとか思って搾乳するんですけ ど,でもやっぱりいきなりドアが開いたりとか,する じゃないですか。あっみたいな,で,お互い気まずい みたいな感じで。」と語った。搾乳の冷凍保存につい ては「冷凍庫の中でも,丸見えだとちょっとあれなの で,こう,保冷バッグなど中が見えないバッグで保存 してました」と語った。〈周囲への後ろめたさを感じな がらこっそり搾乳する〉では,Dさんは,「復帰直後は やっぱりすごく張っていたので会社のトイレにこ もって,こっそり搾乳をして,ま,でも会社で保存す る場所がなかったので,搾乳して捨てるという感じで 過ごしていた。」と語り,「時短をしているのに,さら にそこで 20 分とか席をはずして,搾乳して,ってい うのもなんかこうちょっと言いづらいっていうか。限 られた時間で,さらに別のことに時間をっていうの が。そういう後ろめたさっていうのは,ちょっとあり ましたね。」と語った。〈職場によって母乳に対する考 え方や対応に違いがあるとわかる〉では,D さんは復 帰後に人事担当者との面談があったので,搾乳や保管
場所の確保について相談した。しかし,「結構何人か 会社でも復帰している人はいるんですけど,彼女たち がそういう風に悩んでいるのって(人事担当者は)初 めて知ったみたいで,(中略)そういう少数の育休復帰 者のために冷蔵庫を準備してとか,あとその場所を準 備して,みたいなことにはもちろん至らず」と語っ た。職場等では授乳中の女性に対する環境が十分では なく,女性自身が工夫や努力をしている状況が語られ た。 《サポート体制を自ら作っていく苦労》は,2つのサ ブカテゴリから生成された。〈保育園との具体的な母 乳の受け入れ方法を調整するのに苦労する〉では,C さんは第1子を保育園に預けるとき搾乳を飲ませてほ しいとお願いしたところ,快諾してくれた。しかし保 育園にとって冷凍母乳の受け入れは初めてのケースで あり,「保育園が保健センターに(母乳の)管理の仕方 を問い合わせしたりして,で,こっちとしてはこうで すけど,どうやって持ってきますか,とそこからやり 始めた。一からだったので,(中略)そこが多分,調整 が難しかった。」と語った。〈気持ちは理解してもらえ ても具体的なサポートを期待できるとは限らない〉で は,Cさんは,子どもの具合が悪くなり実母や義母に 子どもを預けたときには,実母たちは搾乳を飲ませて ほしいという気持ちは理解してくれたが,「搾母乳を とかしてどうのっていうのは,(中略)私たちの親世 代って結構ミルクをあげていた世代だから(方法が) あまりわからないみたいで,そこも一から説明す るっていうのが,まあ仕方ないとは思うんですけど」 と語り,たとえ思いを理解してもらえたとしても,サ ポート体制を一から創り上げていくのは苦労を要する ものであったと語った。 《おっぱいと仕事モードの切り替え困難》は,3つの サブカテゴリから生成された。〈仕事中に搾乳のタイ ミングを計るのが難しい〉では,I さんは,「結構仕事 の時間限られてるので,仕事もわーってやって,はい 帰るーみたいな気持ちだったので,ここで1回おっぱ い出しとくか,みたいな気持ちにはなかなか切り替え られなかったというか,そのタイミングを自分で見計 らえなかったというか。」と語り,気持ちの切り替え が難かったと語った。 《思いがけないトラブルに対する悩みと試行錯誤》 は,3つのサブカテゴリから生成された。〈子どもが全 力で哺乳瓶を拒否し,おっぱいを続けざるを得ない〉 では,出産後 5 か月で復帰した I さんは,入園に備え て哺乳瓶の練習を始めたが,子どもが全力で哺乳瓶を 拒否した。「保育園でもお腹がすいても全く哺乳瓶か らミルクを飲むってことはないし,哺乳瓶に母乳を入 れてもだめだったので,(中略)私のおっぱいが頼みの 綱になった。」と語った。〈復帰直後は授乳や搾乳の ペースが変化するため乳房トラブルを起こしやすい〉 では,B さんは,「一人目のときはすごく乳腺炎とか, 仕事復帰してちょっと忙しくて搾乳できなかったりす ると,あの乳腺炎になっちゃって,熱が出て,ほんと に,それでまた仕事休まなきゃいけないとか,大変 だったんですけど。」と語り,復帰後に授乳や搾乳回 数が減少したことによりトラブルになった経験を 語った。 6)【母乳育児に対する価値観とスタンス】 これは2つのカテゴリから生成された。《母乳だけで 育てたいという強い意思》は,5 つのサブカテゴリか ら生成された。〈母乳だけで育てたいという思いがあ る〉では,Aさんは,「仕事を選んだときの一番の基準 が,おっぱいをあげられることというので選んだ」と 語った。〈人工乳を子どもに飲ませることへの抵抗感〉 では,Aさんは,「粉ミルクに抵抗があって,出産前に (中略)(人工乳の缶の)裏を見たときに,わからない 成分がいっぱい入っていたので,自分でもわからない ものを子どもにはあげられない,絶対あげたくないと 思って」と語り,母乳だけで子どもを育てたいという 確固たる意思をもって復帰後も母乳だけで授乳を継続 していた。〈おっぱいは母親が身をもって子どもを育 てるイメージがある〉では,Gさんは,「イメージとし て,なんとなくこう,お母さんが(中略)身をもって, なんかこう授乳して育てるっていうのは,うーん,な んかすごくお母さんらしいなって思うし,自分もそう いうお母さんやりたいなっていうのがあって。」と 語った。 〈母乳分泌が減少した焦りと怖さから搾乳が辛くな る〉では,Gさんは第1子の時と異なり第2子の復帰後 は母乳分泌が減ってくる体験をした。「(搾乳の)ス トック作っとかなきゃっていう焦りと,若干,あ,出 なくなってきているってみたいな感じで,なんかそれ はちょっと怖くって。搾乳,確かに辛かったですね。 今思うと,ほんとよくやったなと思います。」と語っ た。〈母乳じゃなきゃという思い込みやこだわりがあ る〉では,Gさんは,「なんかきっと,母乳にこだわり すぎているのかもしれないですね。(中略)心配すれば するほどなんか減ってくる感じもして,関連性はない
のかもしれないんですけど,(中略)母乳じゃなきゃ, 母乳じゃなきゃってみたいな,一人で勝手に思って て。」と語った。 《気負わずに続けるおっぱい》は,3つのサブカテゴ リから生成された。〈母乳が出るからあげる,飲みた かったら飲めばいいという感じ〉では,Fさんは,「栄 養としてあげてるわけじゃないから,自分の気持ち的 にも飲むんだったら飲めばいいし,飲まなかったら飲 まなくていいしっていう気持ちでやれてるから,そん なに気負わず続けられてるかなーって感じはあります ね。」と語った。〈臨機応変に母乳と人工乳を使い分け る〉で は, H さ ん は,「お っぱい 中心の,ミルクも 作ってますね。あの,出かけるときは臨機応変に,お ばあちゃんに見てもらう時はミルクっていう,保育園 のときはミルクってしてます。」と語った。 7)【子どものうれしさが自分にとってのうれしさに なる】 これは2つのカテゴリで構成された。《子どもに必要 とされるうれしさ》は,〈子どもに必要とされているう れしさが継続のモチベーションになる〉という1 つの サブカテゴリで生成された。Eさんは第3子について, 「3人のなかで一番(おっぱいに)執着があるかも。そ の,起きてる時間でも,なんかシャツをめくって おっぱいを探すなんていうのは(中略)上の子たちに はなかったんで,うれしいですね。それこそ必要とさ れてる感じが」と語った。 《母乳を続けたことによる達成感》は,2つのサブカ テゴリから生成された。〈卒乳後もおっぱいが大好き で,母乳がいい体験になっている子どもの姿を見るこ とがうれしい〉では,G さんは既に卒乳した 2 人の子 どもとおっぱいの話をするときに,「一番いいのは, やっぱり子どもがおっぱい飲んで,飲んだんだよって 聞かせて,(子どもが)満足している姿が一番ですか ね。」と語った。〈母乳を続けたことによるやりきった 感がある〉では,Gさんは,「なんとなく,それでもや り切った感があるんで。1歳まででしたけど」と語り, 母乳育児を続けたことに達成感を持っていた。
Ⅴ.考 察
1.働く女性が母乳育児を継続した体験にみられた特 徴 本研究の研究参加者は,仕事や学業への復帰にあた り,母親としてできることとして母乳育児を続けるこ とを選択し,仕事で離れるからこそおっぱいの時間を 大切に捉えていた。ピアサポートグループのリー ダーである齋藤(2015)は,復帰した女性が共通して 話すこととして,おっぱいタイムが赤ちゃんと離れて いる時間を埋めてくれるとか,おっぱいタイムをとお して赤ちゃんとふれあい,お互いに安心でき,絆を深 める時間をもてるということがあると述べている。ま た藤田(2015)は,働く女性が母乳を与える意味を母 としての確認行為と意味づけている。このように,働 く女性は仕事によって子どもと離れるからこそ,母乳 育児継続に意味を見出していると考えられた。 仕事復帰後の身体面の特徴として,女性の乳房の変 化が挙げられた。【生活の一部として続ける母乳育児】 のなかに,〈復帰後の授乳ペースに身体が慣れて母乳 分泌量が落ち着く〉というサブカテゴリがある。これ は,復帰直後は乳房が張り,人によっては職場で搾乳 せざるを得ない状況であったが,数か月すると日中の 乳房の張りが軽減し搾乳しないでも済むようになると いうものであった。決して母乳分泌量が減るというこ とではなく,迎えに行って子どもに吸わせれば母乳が しっかり分泌されるというリズムができていた。この ような乳房の変化は,先行研究(千葉他,2015;齋藤, 2015)でも述べられており,働く女性の特徴といえる ことから,復帰後に母乳育児が継続できるか不安に思 う女性にとって有益な情報になると考える。 2.働く女性が母乳育児を継続する上での職場におけ る課題 本研究から職場における課題が浮き彫りになった。 母乳だけで授乳を継続した2名は,専用の搾乳室や冷 凍庫はなかったが,自分で搾乳場所を確保して冷凍保 存していた。しかし,トイレでこっそり搾乳し捨てて いる女性も数名いた。トイレは搾乳場所として適切と はいえないが,他に個室がなかったためやむなくトイ レを使用していた。搾乳に行くことを上司や同僚に言 えた人もいれば言えない人もいた。いずれにしても女 性が職場で搾乳する場合は,周囲にとても気兼ねして いる状況が伺えた。上原他(2009)の調査では,56% の女性が職場には母乳育児を継続するための環境がな いと回答しており,女性が母乳育児継続を希望する場 合,職場側は育児時間制度を整備し,搾乳の時間だけ プライバシーの保たれる部屋,手洗い場と石けん,冷 凍・冷蔵庫の一角を,子どもが1歳を過ぎるくらいま での期限付きで提供することが必要であると述べている。また育児中の女性同僚が多いほど育児時間制度の 利用頻度が高いという報告(上原他,2009)や,上司 や同僚から搾乳時間の利用を勧められることが6か月 以上の母乳育児継続に関連していたという報告(Tsai, 2013)があることから,ハード面の整備とともに職場 の人々の理解と協力が重要であるといえる。WHO/ UNICEF(2002)は「乳幼児の栄養に関する世界的な運 動戦略」において,母乳育児を推進・支援するための 政府や保健医療従事者の責任と役割について明記し, 目標達成のために必要な援助を家庭や職場や地域で女 性に提供することを推奨している。本研究では,女性 の意思と努力により母乳育児を継続できたのであっ て,職場環境の課題は非常に大きいことがわかった。 母乳育児継続をサポートする環境や体制を少しずつで も整えていくことが保健医療者や職場の責任であると 考える。 3.働く女性に対する母乳育児支援への示唆 1)妊娠中から復帰時期までの継続的な支援の必要性 安藤他(2002)は,勤務中に直接母乳を飲ませられ なくても,職場環境が整っていれば母乳育児は継続で きると述べ,妊娠中に,復帰後に乳房の手入れができ る場所の確保を指導し,出産後には乳房の手入れや搾 乳等の手技を指導する必要性を指摘している。本研究 では復帰前に母乳栄養で復帰後混合栄養になった5名 のうち,復帰後,母乳を飲ませる頻度が急に減って乳 腺炎等のトラブルが生じた人が2名いた。一方,出産 後比較的早期である3か月で復帰したGさんは,徐々 に分泌量が減っていく体験をしていた。Gさんのよう に,子どもの栄養がまだ母乳中心で,保育園でも搾乳 を飲ませる場合は日中の搾乳が必要である。しかし, 生後 8~9 か月で,子どもがある程度食事が摂れるよ うになってからの復帰であれば,乳房の張りすぎを防 ぐ目的の搾乳でよいともいわれている(北野,2013)。 従って,復帰時期には,出産後の月数や母乳分泌状態 に応じた個別的な指導が必要であると考える。本研究 において女性たちは,周囲からのサポートを受けなが らも様々な障壁に対処しつつ,やがて自分なりの方法 を見つけていた。母乳育児を続ける方が楽だという実 感やうれしさが,母乳育児を継続するモチベーション になってもいた。母乳育児支援の最終目標は母親が自 信をもって子育てができるように支援することであ り,必要な情報を得ながら取捨選択して意思決定でき るように自立し,自信をもって子育てを楽しんででき るようにエンパワメントすることである(NPO法人日 本ラクテーション・コンサルタント協会,2015)。助 産師は,女性は自分なりの方法を見つけていく力を もった存在であることを心に留めてエンパワメントし ていくことが大切であると考える。 2)働く女性の母乳育児体験を伝える意味 齋藤(2015)によると,職場復帰する女性の相談で は母乳のやめ方に関するものが多く,それに対して搾 乳や保存の方法を説明し,実際に仕事復帰後も母乳育 児を継続している女性から話を聞くことで,母乳育児 を続けることを選択する場合があると報告されてい る。米国ではトレーニングを受けたピアサポーターに よる支援は母乳育児継続に有効であると報告されてい る(Renfrew, et al., 2012)が,日本では女性自身が求 めてピアサポートグループに参加しなければピアサ ポートを受けることはできない。従って助産師が,仕 事復帰を控え母乳育児を続けられるかどうか不安を抱 いている女性に対して,専門的知識や技術の提供とと もに実際の体験や長期的見通しを例として情報提供す ることは母乳育児支援の一助になる可能性があると考 える。
Ⅵ.研究の限界と課題
本研究は助産院の協力を得てリクルートを行ったた め,母乳育児継続に前向きな女性が多かった可能性や 地域性が結果に影響した可能性がある。今後は,特徴 が異なる地域でデータを収集し比較や蓄積をしていく ことにより,働く女性に対する母乳育児支援を推進し ていくことが課題である。Ⅶ.結 論
出産後,仕事へ復帰した女性が働きながら母乳育児 を継続した体験として,【母親として選択した復帰後 の母乳育児継続】,【復帰後の母乳育児を見越しての準 備や調整】,【母乳育児継続のサポーターの存在】,【生 活の一部として続ける母乳育児】,【折り合いをつけて いく様々な障壁】,【母乳育児に対する価値観とスタン ス】,【子どものうれしさが自分にとってのうれしさに なる】という 7 つのコアカテゴリが抽出された。助産 師は,働く女性がこのような体験をしていることを理 解して支援していく必要があることが示唆された。謝 辞 本研究にあたり,インタビューにご協力いただきま した女性の方々及びご協力下さいました助産院院長 宮下美代子先生,市川恵子先生へ心から感謝いたしま す。なお,本研究結果の一部は第 31 回日本助産学会 学術集会で発表した。 利益相反 論文内容に関し開示すべき利益相反の事項はない。 文 献
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