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アストログリアをターゲットとした脳梗塞治療戦略の構築

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(1)● シンポジウム 3 脳梗塞病態と新治療開発. アストログリアをターゲットとした脳梗塞治療戦略の構築 髙橋 愼一. 要 旨  我々はこれまで neurovascular unit におけるニューロンとアストログリアの代謝コンパートメントについて研 究を進めてきた.脳梗塞の病態においてもアストログリアの代謝応答は重要な働きを担うが,ニューロンに対 する障害作用と保護作用は表裏一体であり,一方のみを強調して論じることは難しい.アストログリアの主要 な代謝コンパートメントには,1)グルコース代謝,2)脂肪酸代謝,3)アミノ酸代謝がある.それぞれ,1)虚血 下で増加する解糖系代謝産物である乳酸の影響,解糖系のシャント路であるペントースリン酸経路の亢進によ る抗酸化ストレス作用,2)脂肪酸代謝活性の高いアストログリアからの内因性ケトン体産生と虚血性神経細胞 障害に対する保護作用,3)虚血性神経障害で重要な役割を演じるグルタミン酸の co-agonist である D-セリンと その立体異性体である L-セリンの代謝コンパートメントについて,脳虚血における障害 / 保護作用をまとめ, 脳梗塞治療への応用を考察する. (脳循環代謝 26:67∼75,2015). キーワード : 代謝コンパートメント,乳酸,ケトン体,脂肪酸,D/L-セリン. 梗塞に対する新治療法開発の 1 つの重要なターゲット. はじめに. である.  主要な代謝コンパートメントには,1)グルコース代.  脳のエネルギー産生はグルコースの酸化的代謝に依. 謝(図 1),2)脂肪酸代謝(図 2),3)アミノ酸代謝(図 3). 存するが,脳内にはグルコース,酸素ともに十分な備. がある.虚血の程度に応じたいくつかの段階を経て神. 蓄がないために外部からの間断ない供給が必要であ. 経細胞死は完成するが,この時に起こる代謝コンパー. る1~3).脳微小循環(毛細血管)はこれらの物質供給ルー. トメント応答として,1)では解糖系亢進による乳酸産. トであり,解剖学的には毛細血管周囲はアストログリ. 生の増加および解糖系のシャント路であるペントース. アの足突起に覆われる.毛細血管とニューロンとの間. リン酸経路 (pentose-phosphate pathway; PPP) 活性化によ. には常にアストログリアが介在し,毛細血管−アスト. る酸化ストレスへの保護作用誘導,2)では低酸素,低. ログリア−ニューロンを 1 つの構成単位ととらえ,代. グルコースによって誘導されるアストログリアの内因. 謝における相互作用を検討することは有用である. .. 性ケトン体(ketone body; KB)産生亢進による虚血性神. 脳血流の遮断は短時間で虚血性細胞障害を引き起こ. 経細胞障害に対する保護作用,3)では虚血性神経障害. 4, 5). し,非可逆的なニューロンの障害,すなわち脳梗塞に. で重要な役割を演じるグルタミン酸の co-agonist であ. いたる.その病態の理解のための conceptual framework. る D-セ リ ン(D-serine; DS)と 立 体 異 性 体 L-セ リ ン. として neurovascular unit (NVU)6)が用いられるように. (L-serine; LS)の代謝コンパートメント応答の意義につ. なって久しいが. ,アストログリアとニューロンの代. 7, 8). 謝コンパートメントは,NVU の包括的理解による脳. いて,それぞれの障害 / 保護作用をまとめ,脳梗塞治 療への応用を考察する.. 慶應義塾大学医学部神経内科 〒 160-8582 東京都新宿区信濃町 35 TEL: 03-3353-1211 (62316) FAX: 03-3353-1272 E-mail: takashin@tka.att.ne.jp. ─ 67 ─.

(2) 図1. 脳循環代謝 第 26 巻 第 2 号. Glutamine ↓ Glutamate. Na+ Glutamate. Glucose ↓ Glucose 6-P ↓ Fructose 6-P ↓ Fructose 1,6-bisP ↓. Glutamine. ⑦ ⑥. ⑧. Glutamate. ② ②. Glucose. Glyceraldehyde 3-P. TCA cycle. ⑤④. Lactate Pyruvate. ↓ Pyruvate. Lactate. TCA cycle. ↓. Na+. Glucose. ⑨ ②. ①. ③. K+. SYNAPSE. ASTROGLIA. CAPILLARY. ①Na+,K+-ATPase ②Glucose transporter 1(Glut1) ③Glucose transporter 3(Glut3) ④Monocarboxylic acid transporter(MCT) 1&4(astrocytic form)㻌 ⑤Monocarboxylic acid transporter(MCT) 2(neuronal form) ⑥System N transporter(astrocytic form) ⑦System A transporter(neuronal form) ⑧Na+-dependent glutamate transporter(GLT1, GLAST) ⑨Fatty acid binding protein (FABP) 図 1.ニューロン(左)と毛細血管(右),これを橋渡しするアストログリア(中央)によって構成される neurovascular unit(NVU)の構造とグルコース─乳酸代謝の cellular metabolic compartment モデル(文献 20 より引用). 図2. Glutamine ↓ Glutamate. Na+ Glutamate. Glucose ↓ Glucose 6-P ↓ Fructose 6-P ↓ Fructose 1,6-bisP ↓. Glutamine. ⑦ ⑥. ⑧. Glutamate. ② ②. Glucose. Glyceraldehyde 3-P. TCA cycle. ⑤④. Lactate Pyruvate ↓. Glucose ③ SYNAPSE. Lactate. Na+. Ketone Bodies. ↓ Pyruvate. TCA cycle. Fatty Acid ⑨ ②. ① K+. ASTROGLIA. CAPILLARY. ①Na+,K+-ATPase ②Glucose transporter 1(Glut1) ③Glucose transporter 3(Glut3) ④Monocarboxylic acid transporter(MCT) 1&4(astrocytic form)㻌 ⑤Monocarboxylic acid transporter(MCT) 2(neuronal form) ⑥System N transporter(astrocytic form) ⑦System A transporter(neuronal form) ⑧Na+-dependent glutamate transporter(GLT1, GLAST) ⑨Fatty acid binding protein (FABP) 図 2. ニ ュ ー ロ ン(左)と 毛 細 血 管(右), こ れ を 橋 渡 し す る ア ス ト ロ グ リ ア(中 央)に よ っ て 構 成 さ れ る neurovascular unit(NVU)の構造と脂肪酸─ケトン体代謝の cellular metabolic compartment モデル(文献 20 より引 用). ─ 68 ─.

(3) 図3. アストログリアをターゲットとした脳梗塞治療戦略の構築. L-serine SRR ↓ D-serine ⑦. L-serine. ⑦ ⑥. 3-PGDH ⑥ D-serine. D-serine. DAO. TCA cycle. ⑤④. Lactate Pyruvate ↓. Glucose. Lactate. Glucose ↓ Glucose 6-P ↓ Glyceraldehyde 3-P ↓ 3-phosphoglycerate ↓ ↓ ↓ Pyruvate. TCA cycle. Na+. ② ②. Glucose. ②. ①. ③. K+. SYNAPSE. ASTROGLIA. CAPILLARY. ①Na+,K+-ATPase ②Glucose transporter 1(Glut1) ③Glucose transporter 3(Glut3) ④Monocarboxylic acid transporter(MCT) 1&4(astrocytic form)⑤Monocarboxylic acid transporter(MCT) 2(neuronal form) ⑥ASCT2 ⑦Asc-1 図 3. ニ ュ ー ロ ン(左)と 毛 細 血 管(右), こ れ を 橋 渡 し す る ア ス ト ロ グ リ ア(中 央)に よ っ て 構 成 さ れ る neurovascular unit(NVU) の構造と L-セリン─ D-セリン代謝の cellular metabolic compartment モデル. るため神経活動亢進時にはより多くの乳酸が産生され. 1.グルコース代謝におけるアストロサイトと ニューロンの機能分担と虚血応答. る.乳酸はアストログリアからニューロンに供与さ れ,そのエネルギー基質として直接 TCA サイクル内 で効率的な ATP 産生に使用される可能性がある9).ア.  正常脳において,安静時の脳グルコース消費量は完. ストログリアにおける乳酸産生の起源については,血. 全な酸化的代謝で消費される酸素とグルコースの理論. 管内から供給されるグルコース以外,アストログリア. 比 6:1 よりわずかに多く(5:1) ,グルコースは酸化的. にはグリコーゲン蓄積がありこれが分解されて解糖系. に代謝されずに破棄されるか,別経路で利用されてい. に流入する可能性もある9).さらにごく最近,神経活. る可能性がある9).この現象は脳の活動亢進によって. 動に伴って興奮性ニューロンから放出され,その大部. さらに顕在化し,より多くのグルコースが酸化的代謝. 分がアストログリアに取り込まれるグルタミン酸が,. を受けずに消費されるようになる .脳の機能活動亢. まず α-ketoglutarate(αKG)に変換後 TCA サイクルに流. 1). 9). 進時には同時に乳酸産生は増加することから,少なく. 入して代謝を受け,malate の脱炭酸によってピルビン. とも一過性に解糖系が亢進し,ミトコンドリアにおけ. 酸に変換,さらに乳酸の起源となる可能性13)が提起さ. る酸化的代謝を上回る乳酸がオーバーフローしている. れている(図 4).. ことを示唆する .この代謝現象の主体となる細胞に.  低酸素環境においてはミトコンドリアにおける酸化. ついてはいまだ仮説の域を出ないが,アストログリア. 的代謝の低下から,乳酸産生亢進が起こる14).低酸素. は血管内から供給されるグルコースを直接受け取り,. では転写因子 HIF1α によるグルコーストランスポー. 消費しうる細胞として無視できない10).培養細胞を用. ターの発現上昇によるグルコース取り込みとともに,. いた in vitro の実験では,アストログリアはニューロ. 解糖系酵素の発現も HIF1α に制御され解糖系全般の亢. ンに比して同等から 2 倍のグルコース消費活性を有す. 進が起こる.これは TCA サイクルに比して ATP 産生. ると推測される10, 11).逆にアストログリアの酸化的グ. 効率の低い解糖系による代償作用と考えることができ. ル コ ー ス 代 謝 活 性 は, ニ ュ ー ロ ン の 半 分 以 下 で あ. る.重要な点は,乳酸自体の増加が神経細胞障害の一. り. 9). ,結果としてアストログリアは乳酸産生能が高. 因となっている可能性である.乳酸のもたらす虚血下. い.アストログリアのグルコース消費は,ニューロン. ニューロンへの作用には障害的,保護的と双方の議論. から放出されるグルタミン酸をシグナルとして亢進す. がある15, 16).閉塞血管の自然再開通,あるいは治療介. 10, 12). ─ 69 ─.

(4) 図4. 脳循環代謝 第 26 巻 第 2 号. Na+ ①. Glutamate SYNAPSE. Na+. ⑧. Glycogen. K+. Glutamine. ②. ↓. ③⑤ ④ Glutamine ⑦ ⑥ ↓ Glutamate. Glucose ↓ Glucose-6-P ↓ Lactate Pyruvate Glutamate +CO2 -CO2 malate PC. TCA cycle. ②. ②. Glucose. oxaroacetate. a-ketoglutarate CAPILLARY ASTROCYTE. ①Na+,K+-ATPase ②Glucose transporter 1(Glut1) ③Glucose transporter 3(Glut3) ④Monocarboxylic acid transporter(MCT) 1&4(astrocytic form)㻌 ⑤Monocarboxylic acid transporter(MCT) 2(neuronal form) ⑥System N transporter(astrocytic form) ⑦System A transporter(neuronal form) ⑧Na+-dependent glutamate transporter(GLT1, GLAST) 図 4.ニューロン(左)から放出されたグルタミン酸のアストログリア内での代謝モデル. 入による再灌流に伴う再酸素化において蓄積した乳酸. る glucose-6 phosphate dehydrogenase(G6PDH)の酵素誘. は,急性細胞死を免れたニューロンにおいてミトコン. 導 も 加 わ り さ ら な る PPP 活 性 化 が 生 じ る と 考 え ら. ドリアのエネルギー基質となる可能性がある.虚血時. れる18, 19).. にニューロンのミトコンドリアの酸化的代謝酵素のう. 2.脂肪酸代謝におけるアストロサイトの ケトン体合成と神経保護作用. ち,最初のステップとなる pyruvate dehydrogenase complex (PDHC)は活性酸素(reactive oxygen species; ROS)による再灌流障害を受けやすく17),再酸素化後 もピルビン酸を利用することができない.in vivo ラッ.  心筋や骨格筋細胞は脳とは異なり脂肪酸を主要なエ. ト虚血再灌流モデルにおいて虚血後には一過性の PDH. ネ ル ギ ー 基 質 と す る1, 2). す な わ ち, 長 鎖 脂 肪 酸 は. 活性の上昇を認めるが,再灌流後には次第に活性低下. long-chain fatty acid acyl-CoA に変換後,カルニチン依. が生じることが報告されている.さらに,障害された. 存性に carnitine palmitoyl transferase I によってミトコン. ミトコンドリア内の電子伝達系では ROS 産生が増大. ドリアに取り込まれ,β 酸化を受け acetyl-CoA に分解. し,再灌流障害全般の重要な原因であり,活性酸素除. される(図 6)5, 20, 21).その後 acetyl-CoA はグルコース由. 去は重要な治療戦略である.脳内の内因性抗酸化スト. 来の acetyl-CoA 同様に TCA サイクルで代謝される. レス機構としてはグルタチオンによる活性酸素除去が. が,脳ではグルコース由来の acetyl-CoA と脂肪酸由来. 重要である.グルタチオンの合成とその還元を担うの. の acetyl-CoA は明瞭に分別され代謝される.すなわち. はアストログリアである.アストログリア内で合成さ. グルコースと脂肪酸はエネルギー基質として相補的で. れるグルタチオンのアミノ酸の 1 つであるグルタミン. あり,一方の利用率上昇は他方の減少となる.. 酸は,前述のとおりニューロンの活動亢進に伴って放.  14C で ラ ベ ル さ れ た パ ル ミ チ ン 酸(PAL),[1-14C]. 出後,アストログリアに取り込まれる.これに伴って. PAL を用いて,酸化的代謝(ミトコンドリアによる. 解糖系の亢進が起こるが,そのシャント路である PPP. [14C]acetyl-CoA → 14CO2 反応)を定量したところ.酸. は受動的に活性化する(図 5).低酸素状態での PPP 活. 化的グルコース代謝の約 1∼5%程度であった22).また. 性亢進に続いて,再酸素化後に ROS 産生亢進が生じ. この時,14C でラベルされた acid-soluble fraction は,. る と, こ の ROS 自 身 が シ グ ナ ル と な り keap1/Nrf2. [14C]acetyl-CoA が acetoacetyle-CoA → HMG-CoA →. システムを介した転写制御によって PPP 律速酵素であ. acetoacetate(AA)→ β-hydroxybutyrate(BHB)と代謝され. ─ 70 ─.

(5) 図5 アストログリアをターゲットとした脳梗塞治療戦略の構築. Glucose. Glucose-6-phosphate dehydrogenase. Glucose 6-phosphate. Pentose phosphate pathway. Fructose 6-phosphate Fructose 1,6-bisphosphate Dihydroxyacetone phosphate Glyceraldehyde 3-phosphate TCA cycle. Pyruvate. 図 5.解糖系から分岐するペントースリン酸経路は抗酸化ストレス作用を担うグルコース 代謝のシャント路である(文献 29 より引用). 図6. Blood. Fatty Acid (Palmitic Acid: PAL; C16) + Albumin. Endothelium. Fatty Acid (Palmitic Acid: PAL; C16) FABP. Outer membrane of mitochondria. Astroglia/Neuron. Fatty Acid (PA). Fatty Acid (PAL) acyl-CoA Acyl-CoA synthase Inner membrane of mitochondria CPT-I. Mitochondria. Fatty Acid (PAL) acyl-CoA. Glucose. b-oxidation Pyruvate. Acetyl-CoA (C2) PDH. Lactate. TCA cycle. Ketogenesis. MCT Ketone bodies (KBs): b-hydroxybutyrate, Acetoacetate. 図 6.血液中の脂肪酸の神経系細胞内への取り込みとミトコンドリア内 β 酸化およびケトン体合成と細胞外輸送機構 モデル(文献 20 より引用). 生じる AA と BHB の 2 種類のケトン体を反映する.. ことはニューロンの KBs 産生に比してアストログリ. ニューロン,アストログリアともに PAL からの KBs. アにおける産生は約 5 倍と高く,これは cyclic thio-. 産生は,その酸化的代謝(CO2 産生)の約 10∼50 倍で. NADH 法を用いた NAD の吸光度による AA と BHB. あった22).したがって神経系細胞では脂肪酸代謝はケ. の直接測定による結果でも確認された.またアストロ. トン体合成が主たる経路を考えられた.さらに重要な. グリアにおけるその産生は低エネルギー状態で活性化. ─ 71 ─.

(6) 脳循環代謝 第 26 巻 第 2 号. 図7. Acetyl-CoA. •AICAR •Metoformin AMPK↑. Acetyl-CoA carboxylase. Outer membrane of mitochondria. Fatty Acid (PAL) acyl-CoA Malonyl-CoA ↓. Inner membrane of mitochondria. CPT-I. Mitochondria. Fatty Acid (PAL) acyl-CoA. Glucose. b-oxidation Pyruvate. Acetyl-CoA (C2) PDHC TCA cycle. Lactate. Ketogenesis. Ketone bodies (KBs): b-Hydroxybutyrate, Acetoacetate. 図 7.細胞内エネルギー状態の低下に伴う AMPK 活性化によるアストログリアの脂肪酸代謝─ケトン体合成 亢進機構(文献 21 より改変引用). 22) される AMPK 依存性と考えられた(図 7) .. もとに脳内ではアストロサイトで合成され,“内因性.  ケトン体は,哺乳期には脳のエネルギー基質として. KBs”としてニューロンで利用される可能性を示す(図. 利用されるが,成体においても飢餓状態,低血糖,糖. 22, 23) 8) .KB にはそれ自身,神経保護作用があること. 尿病にともなうインスリン抵抗性の高い病的条件下で. は古くから知られており24),アストログリア由来の. はグルコースの代替エネルギーとして利用される.生. KB 合成は虚血性神経障害の病態修飾に重要な働きを. 体におけるケトン体の産生は主に肝臓であり(“外因性. 持つと考えられた.. KB”),脳には血中から BBB に発現するモノカルボン. 3.D-セリンと L-セリン. 酸 ト ラ ン ス ポ ー タ ー(monocarboxylate transporters; MCTs)によって脳内に運搬される.その後,神経系細 胞に取り込まれ,ミトコンドリアでは,KBs → HMG-.  D-セ リ ン(DS)は NMDA 受 容 体 co-agonist と し て. CoA → acetoacetyle-CoA → acetyl-CoA として TCA サ. グルタミン酸作動性神経の興奮に不可欠であるが,. イクルで利用される可能性がある.しかし,MCTs に. 脳虚血時には神経障害を増悪させる.DS はニューロ. よる脳内輸送は十分なケトン体を供給できないことか. ン の serine racemase(SRR)に よ り L-セ リ ン(LS)か. ら,生理的条件下では脳のエネルギー基質とはならな. ら 代 謝 さ れ,LS は ア ス ト ロ サ イ ト に 存 在 す る 3-. い.脳内で合成された KBs に関しては,細胞(群)間. phosphoglyceratedehydrogenase (3PGDH)の働きにより. 移送が生じている可能性がある21~23).脂肪酸由来の. 合成される(図 3)25).脳虚血巣における DS,LS の代. acetyl-CoA の利用を検討するため,[1- C]BHB の酸化. 謝制御機構については十分検討されておらず,in vitro. 14. 的代謝を検討した.ニューロンではアストログリアの. ラット培養細胞系を用いて検討した.SD ラットより. 1.5 倍の代謝を有したが,興味深いことに乳酸との競. 培養ニューロンおよびアストログリアを調整した.. 合実験では,ニューロンの BHB 代謝は乳酸による抑. 1%O2 チャンバー内で 24 時間低酸素負荷後のメディ. 制を受けなかったことから,双方が利用可能な状態で. ウム中の DS,LS の濃度変化を 2 次元 HPLC により測. は BHB を TCA サイクル基質として利用する可能性を. 定し,net 産生率を定量した.培養ニューロンでは低. 示した.これらの結果は,ケトン体に関して脂肪酸を. 酸素負荷にて上清中の DS がコントロールに比して有. ─ 72 ─.

(7) アストログリアをターゲットとした脳梗塞治療戦略の構築. 図8. Cytosol. Mitochondria. Lactate. Glut. Glycolysis Pyruvate Glucose. MCT. b-Hydroxybutyrate. MCT. Acetoacetate. Pyruvate b-Hydroxybutyrate. Acetoacetate Succinyl-CoA Succinate Acetoacetyl-CoA Oxaloacetate. Acetoacetyl-CoA. Fatty acid. ×. PDHC. Sterol Succinate. TCA cycle Citrate. Acetyl-CoA. Acetyl-CoA. Fatty acid. 図 8.虚血性障害時のニューロンにおいて,アストログリア由来の内因性ケトン体は PDHC を経由せず TCA 回 路の基質として利用される(文献 21 より改変引用). 意(p<0.001)に増加したが,アストログリアでは変化. 異的に発現する 3PGDH が解糖系のから分岐して LS. を認めなかった.LS の濃度は逆にアストログリアで. を合成すること,虚血下で解糖系が亢進するという事. 有意に増加し(p<0.05),ニューロンでは変化を認めな. 実を合わせ,アストログリア由来の LS コンパートメ. かった.脳虚血時に DS はニューロンから,LS はアス. ントのもつ意義の解明が必要であると考えられる.. トロサイトからの放出量が増加すると考えられた . 26). まとめ.  また in vivo マウス脳虚血モデルとして,ナイロン 糸 で 作 成 し た 塞 栓 糸 を 野 生 型 マ ウ ス(WT)お よ び SRR−/− マウスの内頸動脈に挿入,ウィリス動脈輪の.  NVU において,グルコースはアストログリアで乳. MCA 起始部まで挿入し MCA を閉塞,40 分後塞栓糸. 酸に分解され,ニューロンに供給されることでニュー. を取り除き再灌流した.WT と SRR−/− 群間で MCA. ロンの ATP 合成には効率的な代謝環境を提供する(図. 閉塞前後の脳血流低下度に有意差はなかったが,再灌. 1).さらにアストログリアの解糖系はペントースリン. 流 24 時間後の梗塞体積は SRR−/− マウスにおいて有意. 酸経路(PPP)を介して酸化ストレスの軽減作用を担. (p<0.05)に縮小していた.脳虚血後の組織において. う29).また脂肪酸代謝に関しても,アストログリアで. DS 含有量は 20 時間程度をピークに上昇を認めていた. KB 合成の基質となり,それはニューロンのエネル. が,SRR−/− で は DS 濃 度 は WT の 約 10 分 の 1 で あ. ギー基質となる可能性が示された(図 8).生理的条件. り,DS 含有量の低下が梗塞体積を縮小させると考え. 下での意義は不明であるが,虚血性神経障害の代替エ. られた.免疫染色では,虚血側において SRR の発現. ネルギーとなる可能性,KB 自身の有する神経保護効. がニューロンで増強しており,脳虚血時の D-セリン. 果をもたらす可能性が示された.DS の細胞障害に加. のソースはニューロンであると推測された .興味深. えて,アストログリア由来の LS の作用(図 3)を DS の. いことに,WT では虚血巣における DS の上昇に比し. 基質をとらえるのみでよいどうかの検討が必要であ. て,LS の上昇は極めて大きく,細胞障害因子として. る.総じて脳梗塞治療戦略においてアストログリアの. 26). の DS に対して,LS の意義には検討の余地があると考. 代謝応答のうち,ニューロンに対する障害作用を抑制. えられる.すでに LS 自体には細胞保護作用があるこ. し,保護的作用を増強する方法論の探索が重要と考え. とが報告されており. られる.. ,LS 産生はアストログリア特. 27, 28). ─ 73 ─.

(8) 脳循環代謝 第 26 巻 第 2 号. cerebral ischaemia: extended benefit after intracerebroven-. 文 献. tricular injection and efficacy of intravenous administration. Cerebrovasc Dis 34: 329–335, 2012. 1) Clarke DD, Sokoloff L: Circulation and energy metabolism of the brain. In: Basic Neurochemistry: Molecular,. 16) Dienel GA: Lactate shuttling and lactate use as fuel after. Cellular, and Medical Aspects, 6th Ed, ed by Siegel G,. traumatic brain injury: metabolic considerations. J Cereb Blood Flow Metab 34: 1736–1748, 2014. Agranoff B, Albers RW, Fisher S, Lippincott-Raven, Phil-. 17) Martin E, Rosenthal RE, Fiskum G: Pyruvate dehydroge-. adelphia, 1999, pp 637–669 2) Dienel GA: Energy metabolism in the brain. In: From. nase complex: metabolic link to ischemic brain injury and. Molecules to Networks: an Introduction to Cellular and. target of oxidative stress. J Neurosci Res 79: 240–247, 2005. Molecular Neuroscience, 2nd Ed, ed by Byrne JH, Roberts. 18) 髙橋愼一:アストロサイトと糖代謝.Clinical Neuro-. JL, Academic Press, London, 2009, pp 49–110 3) 髙橋愼一:脳循環代謝.In: 必携脳卒中ハンドブック (改訂第 2 版),田中耕太郎,高嶋修太郎編,診断と. science 29: 1262–1267, 2011 19) Takahashi S, Izawa Y, Suzuki N: Astroglial pentose phos-. 治療社,東京,2011, pp 336–345. phate pathway rates in response to high-glucose environ-. 4) 髙橋愼一:脳血管とアストロサイト─ neurovascular. ments. ASN Neuro 4. pii: e00078. doi: 10.1042/AN. unit の概念について─.神経内科 79: 247–256, 2013. 20120002, 2012. 5) 髙橋愼一:血液脳関門および脳循環・代謝調節とア. 20) 髙橋愼一,安部貴人,伊澤良兼,飯泉琢矢,鈴木則 宏:NVU における BBB の役割と cellular metabolic. ストロサイト.実験医学 31: 2195–2203, 2013. compartment.脳循環代謝 24: 75–82, 2013. 6) Report of the Stroke Progress Review Group. (National Institute of Neurological Disorders and Stroke, Maryland). 21) 髙橋愼一:6. 中毒・代謝疾患 神経細胞およびグリ. 2002; 1–116.(http://www.ninds.nih.gov/find_people/. ア細胞におけるケトン体代謝の重要性.In: Annual. groups/stroke_prg/StrokePRGreport-4-23-02.pdf). Review 神経 2015,鈴木則宏,祖父江元,荒木信夫, 宇川義一,川原信隆編,中外医学社,東京,2015, pp. 7) 髙橋愼一:脳虚血と Neurovascular unit.医学のあゆ み 231: 339–346, 2009. 196–203. 8) 髙橋愼一:Neurovascular unit ─その 10 年.医学のあ. 22) Takahashi S, Iizumi T, Mashima K, Abe T, Suzuki N:. ゆみ 239: 1132–1133, 2011. Roles and regulation of ketogenesis in cultured astroglia. 9) 髙橋愼一:脳の機能活動とエネルギー産生の時間. and neurons under hypoxia and hypoglycemia. ASN. 的,空間的プロファイル:ニューロン─アストロサ. N e u r o 6. p i i : 1759091414550997. d o i : 10.1177/. イト連関から見たグルコース代謝.脳循環代謝 9:. 1759091414550997, 2014 23) Guzmán M, Blázquez C: Is there an astrocyte-neuron. 1–17, 1997 10) 髙橋愼一:脳エネルギー代謝研究の最前線,ニュー. ketone body shuttle? Trends Endocrinol Metab 12: 169–. ロンとアストロサイトのエネルギー代謝.脳循環代 謝 21: 18–27, 2010. 173, 2001 24) Puchowicz MA, Zechel JL, Valerio J, Emancipator DS,. 11) Takahashi S, Driscoll BF, Law MJ, Sokoloff L: Role of. Xu K, Pundik S, LaManna JC, Lust WD: Neuroprotection. sodium and potassium ions in regulation of glucose metab-. in diet-induced ketotic rat brain after focal ischemia. J Cereb Blood Flow Metab 28: 1907–1916, 2008. olism in cultured astroglia. Proc Natl Acad Sci USA 92:. 25) 鈴木将貴,笹部潤平:アストロサイトとアミノ酸代. 4616–4620, 1995. 謝.Clinical Neuroscience 29: 1268–1272, 2011. 12) Abe T, Takahashi S, Suzuki N: Oxidative metabolism in cultured rat astroglia: effects of reducing the glucose con-. 26) Abe T, Suzuki M, Sasabe J, Takahashi S, Unekawa M,. centration in the culture medium and of D-aspartate or. Mashima K, Iizumi T, Hamase K, Konno R, Aiso S,. potassium stimulation. J Cereb Blood Flow Metab 26:. Suzuki N: Cellular origin and regulation of D- and L-ser-. 153–160, 2006. ine in in vitro and in vivo models of cerebral ischemia. J Cereb Blood Flow Metab 34: 1928–1935, 2014. 13) Dienel GA, McKenna MC: A dogma-breaking concept: glutamate oxidation in astrocytes is the source of lactate. 27) Wang GH, Jiang ZL, Chen ZQ, Li X, Peng LL: Neuropro-. during aerobic glycolysis in resting subjects. J Neurochem. tective effect of L-serine against temporary cerebral ischemia in rats. J Neurosci Res 88: 2035–2045, 2010. 131: 395–398, 2014 14) 髙橋愼一,伊澤良兼,飯泉琢矢,安部貴人,鈴木則. 28) Ren TJ, Qiang R, Jiang ZL, Wang GH, Sun L, Jiang R,. 宏:アストロサイトからみた脳虚血後の炎症.脳循. Zhao GW, Han LY: Improvement in regional CBF by. 環代謝 23: 66–74, 2012. L-serine contributes to its neuroprotective effect in rats. 15) Berthet C, Castillo X, Magistretti PJ, Hirt L: New evidence of neuroprotection by lactate after transient focal ─ 74 ─. after focal cerebral ischemia. PLoS One 8:e67044. doi: 10.1371/journal.pone.0067044, 2013.

(9) アストログリアをターゲットとした脳梗塞治療戦略の構築. 29) Takahashi S, Izawa Y, Suzuki N: Astrogliopathy as a loss of astroglial protective function against glycoxidative. stress under hyperglycemia. Rinsho Shinkeigaku 52: 41–51, 2012. Abstract Neuronal-astroglial metabolic compartment as a prime target in novel stroke therapy Shinichi Takahashi Department of Neurology, Keio University School of Medicine, Tokyo, Japan Astroglia play a pivotal role in the brain metabolism as well as in the regulation of cerebral blood flow. In particular, the astroglial metabolic compartment exerts supportive roles in making neurons dedicated to generating action potentials and protects them against oxidative stress associated with high energy consumption. Under ischemia, numerous metabolic derangements occur, resulting in irreversible neuronal damage. The neurovascular unit (NVU) is a conceptual framework used to better understand the pathophysiology of cerebral ischemia. The major components of the NVU are neurons, microvessels and the astroglia that are interposed between the neuronal synapses and the microvasculature. Thus, the metabolic responses of the astroglia in the early stage of ischemia could be either protective or deleterious. In this review, we focus on three major metabolic compartments: the 1) glucose, 2) fatty acid and 3) amino acid, especially D-/L-serine, compartments. Both the beneficial and detrimental roles of the metabolic responses induced in the astroglia will be discussed. A better understanding of the astroglial metabolic response may be expected to lead to the development of a novel strategy in stroke therapy. Key words: metabolic compartment, lactate, ketone body, fatty acid, D/L-serine. ─ 75 ─.

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