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消費者にとっての出産前教育の価値

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原  著

聖路加国際病院(St. Luke s International Hospital)

2005年10月21日受付 2006年6月7日採用

消費者にとっての出産前教育の価値

─WTPを用いて─

Assessing the importance of

childbirth education for consumers

─Using WTP─

丸 山 彩 香(Ayaka MARUYAMA)

* 抄  録 目 的  消費者の立場から経済的評価方法を活用して出産前教育の価値を明らかにするとともに,価値付け内 容とその価値に関連する要因を探索することである。 対象と方法

 出産施設に通院中の妊婦383名を対象に,仮想評価法(Contingent Value Method:以下CVM)を利用し, 出産前教育に対する支払意思額(Willingness to Pay:以下WTP)による出産前教育の価値,価値付け内 容,価値に関連する要因について自記式質問紙を用いて調査した。 結 果 1.出産前教育の価値として回答された出産前教育へのWTPは,無回答34名(8.9%),0円とした回答32 名(8.3%),1円以上の有料回答315名(82.8%)であり,有料回答内のWTPは平均900.8 675.5円であった。 2.出産前教育の価値付け内容は,[他者との交流],[専門性への期待],[出産・育児の具体化],[不安・ ストレスの軽減],[個別性の重視],[家族関係の変化への適応],[場の雰囲気作り],[物質的な充足]お よび[状況・環境の設定]の9要素であった。 3.WTPには,妊娠週数および出産前教育の参加経験の有無が関連し,妊娠・出産・育児への不安,出 産前教育への参加動機との関連性が示唆された。 結 論  出産前教育の価値は,WTPとして平均900.8 675.5円として示され,妊娠週数がすすみ,出産前教育 に参加経験がある人ほど低い傾向にあった。また,その価値付け内容として9要素が抽出された。 キーワード:妊婦,消費者,WTP,出産前教育 Abstract Purpose

The objective of this research is to apply economic evaluation to clarify the importance of childbirth education from the perspective of the consumer and to reveal reasons for its perceived importance and related factors.

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消費者にとっての出産前教育の価値 Method

In applying the Contingent Value Method (hereafter, CVM) to survey 383 pregnant women (71.4%) attending a childbirth facility, a questionnaire was used to investigate the perceived importance of childbirth education based on willingness to pay (WTP), along with associated reasons and related factors.

Results

1. For the importance of childbirth education questionnaire, 34 women (8.9%) did not respond to the question regarding WTP for childbirth education, 32 women (8.3%) responded that it should be free and 315 women (82.8%) answered that it should cost the consumer. For those WTP, the mean price was 900.8±675.5 yen.

2. The following nine factors were found to contribute toward the importance of childbirth education: inter-action with others, expectations concerning expertise, embodiment of childbirth and childrearing, alleviation of anxiety and stress, regard for individuality, adaptation to changes in family relations, atmosphere creation, material satisfaction, and the specification of conditions/environments.

3. WTP was found to be linked to: pregnancy term, and whether the pregnant woman had previously partici-pated in childbirth education.

Conclusion

The importance of childbirth education for pregnant women is revealed by the WTP, which was mean 900.8 yen. The WTP was lower the longer the term of pregnancy and the more they had participated in childbirth educa-tion previously. Furthermore, nine factors were revealed that contribute to the importance of childbirth educaeduca-tion. Key Words : pregnant woman, consumer, WTP, childbirth education

Ⅰ.緒   言

 出産前教育は,母子保健法に明記される保健指導の 一形態として広く普及し,定着した母子保健の基本施 策のひとつである。妊娠・出産に関する情報提供は健 やか親子21においても推進されており(厚生労働省, 2005),出産施設をはじめ,地域や企業など様々な実 施主体により提供されている。  これまでの出産前教育に対する評価研究は,帝王切 開率や薬物使用率などの産科学的な指標(Sturrock& John, 1990;Hetherington, 1990a:Hetherington, 1990b),仲間作り,不安,親準備性などの心理・社会 的な指標(中窪ら, 2000;Ho& Holroyd, 2002;岡野ら, 1997)を用い,様々な視点から検討されている。しかし, これらの研究は出産前教育の提供者側の意図に沿って 評価されたものであり,受け手である消費者が出産前 教育をどのような視点で,どの程度の評価をしている かについては明らかにされていない。  また,出産前教育の効果については,ランダム化比 較試験(RCT)を含む研究が行われており,それらの 論文のsystematic reviewが存在するが,帝王切開率の 減少などのほかにも未知な効果が残されていると報告 されている(Gagnon, 2005)。こうしたことからも,出 産前教育の価値や有用性については十分に評価されて いるとはいいがたく,今後,更なる評価研究が求めら れている。  本研究は,消費者の視点から出産前教育の価値と価 値付け内容を明らかにするとともに,その価値に関連 する要因を探索することを目的とした。  なお,本研究で用いる出産前教育とは,妊娠中の女 性が出産や育児に向けて必要な能力を高められるよう に,知識や技術,情報などを提供するために医療関係 者が行っている集団教育をさす。また,消費者とは, 出産前教育に参加したことがある,または,参加する 可能性のある妊娠中の女性をさす。

Ⅱ.研 究 方 法

1.調査対象  出産施設に通院中の妊婦で,出産前教育を利用した ことがある,または,利用する可能性のある383名と した。 2.調査期間と手続き  調査期間は,2003年8月15日から11月7日。有為抽 出法を用い,北陸,東海および関東地方の出産施設ま たは産科診療科のある施設の看護責任者に,研究の目 的・主旨・研究方法を説明した文書および質問紙を郵 送し,研究への協力を依頼し,返信用はがきによって 諾否の返答を得た。承諾の得られた施設の看護者およ び研究者自身が外来または出産前教育開催の際に質問 紙をその場で妊婦に配布した。質問紙は,回答者自身 が封書したものを各施設から一括して研究者に返送さ れるか,回答後即時回収した。対象には,調査の主旨,

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調査用紙の提出をもって研究協力の同意が得られたと 判断した。 3.予備調査  調査の枠組みについて検討するために文献検討と半 構成的面接による予備調査から,出産前教育に対して 価値付けられる内容とその理由や背景について明らか にした。  面接では「現在,出産前教育は無料またはそれに近 い料金で実施されていますが,もしあなたがお金を支 払うとしたら,1回参加するのにいくらくらいの参加 料金が適当だと考えますか?」という問いかけを中心 として,出産前教育への対価とその対価として価値付 けられる内容について聞き取りを行った。また,価値 付けられた(または価値付けられなかった)内容とし て語られた理由について把握するように努めた。面接 内容は,対象者の同意を得て,テープ録音し,逐語録 として記述した。その後,語られた内容の類似性と差 異性を検討しながら分類し,カテゴリー化した。  その結果より,消費者の出産前教育に対する価値付 け内容を[存在価値]と[利用価値]から構成した。[存 在価値]は,自分が利用する,しないにかかわらず, 出産前教育というサービスがある(存在する)ことに 対しての価値付けであり,一方,[利用価値]は,妊婦 が出産前教育を利用することによって得られるとした 価値である。また,出産前教育への価値に関連する対 象背景は,[対象属性],[妊娠生活]および[出産前教 育に関する認識]から構成した。(図1) 教育に対する価値付け内容,出産前教育の価値に関連 する要因で構成した。 1 )出産前教育の価値  便益計測の一手法である意識分析を用い,仮想評価 法(Contingent Value Method:以下CVM)から消費者 の支払意思額(Willingness to Pay:以下WTP)を出産 前教育の価値とした。便益計測の特徴の一つとして, 単一の指標のみで評価が行いにくいサービスに対して, いくつかの共通する多項目の効果や効用を単一の価値 指標(金銭)によって評価できる点があげられる。こ れまで出産前教育の効果や効用は,様々な指標で評価 されてきたが,それらは単一の要素のみを評価したも のであった。出産前教育の評価に便益計測を用いるこ とは,そういった単一の指標のみでは評価し得ない価 値を明確にする上で有効な手法と考えられる。便益計 測には,意識分析,行動分析,市場分析が存在するが, その中でもCVMを用いた意識分析は,もともと市場 がない財やサービスの便益を計測する手法として開発 され,当初は,環境などかけがえのない存在物の価値 を明らかにする手法として1980年代からアメリカ合 衆国で脚光を浴びた(肥田野, 1999)。現在では,環境 評価ばかりでなく,政策や行政,さらには保健医療 サービスにも応用可能であることから様々な医療保健 サービスに対するWTP が測定されており(Diener, A. 1998.),出産前教育の評価にも適用可能である。本研 究では,WTPは,出産前教育への1回の参加料金とし て回答を求めた。具体的には,「もしも,今のあなた が出産前教室に参加するためにお金を支払うとしたら, 1回の参加料金としていくらくらいが適当だと思われ ますか?」とする調査項目を設定した。  CVMを用いることによるバイアスを軽減するため に以下のことを行った。まず,回答結果による料金化 への危惧など,自己の回答が調査結果や政策に与える 影響について考えて回答すること(戦略バイアス)を 少なくするために,口頭および文書で「協力施設と一 切関係のないこと」,「料金化を目的とした調査でない こと」を説明した。また,WTPの選択肢の初期値に よって回答が影響されること(初期値バイアス)を回 避するために自由回答を用いた。さらに,回答者が調 査者にとって望ましい方向に偏った回答を行うこと (調査者バイアス)がないように,調査用紙は無記名 とし,回答が調査者にわからないように封書後,回収 ・存在価値 ・利用価値 対象背景 ・対象属性 ・妊娠生活 ・出産準備教育に関する認識 価 値 価値付け内容 :関連性の探索 図1 調査の枠組み

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消費者にとっての出産前教育の価値 した。 2 )出産前教育に対する価値付け内容  出産前教育への価値付け内容としては,[存在価値] および[利用価値]の2つのカテゴリーの内容をもとに 12項目を設定した。[存在価値]としては,「専門職と 接触できる場や機会」,「妊婦同士が集まることができ る場や機会」の2項目を設定した。また[利用価値]と しては,参加を通して得られる「物質的な充足」や「安 心感」,専門職からの「指導・情報提供」,参加者間の「交 流」,妊娠や出産への「家族の巻き込み手段」,「出産・ 育児にむけた準備」についての10項目を設定した。  これらの項目は,出産前教育へのWTPに1点(含ま れない)から4点(含まれる)の4段階のリッカート評 定を用い,得点が高いほどその内容への価値付けが高 くなるように設定した。また,設定した項目以外の出 産前教育に対する価値付け内容については自由記載欄 を設けた。 3 )出産前教育の価値に関連する要因  出産前教育の価値に関連する要因は,[対象属性]9 項目と[妊娠生活]および[出産前教育に関する認識] から20項目を設定した。[対象属性]は,年齢,妊娠 週数,出産経験の有無,今回の妊娠経過中の異常の有 無,産科学的異常の既往の有無,産科学的疾患以外の 合併症の有無,妊婦健康診査をうけている施設,経済 状態,出産前教室への参加経験の有無を設けた。[妊 娠生活]は,「時間的な余裕」1項目,「知識の程度」1項 目,「不安の程度」3項目,「夫(パートナー)に対する認 識」3項目,「情報収集の状況」3項目,「出産前教育への 参加負担」2項目,「日常の交流」3項目の計16項目を設 定した。[出産前教育に関する認識]としては,過去に 参加した出産前教育の「満足感」11項目,「期待と実際 のギャップ」1項目,「出産前教育への参加動機」1項目, および妊婦すべてにとっての「出産前教育の存在価値」 1項目を設定した。  調査内容の妥当性については,出産教育の企画・ 運営者2名,助産研究者3名に依頼し検討した。また, 調査前に調査協力施設の看護責任者または出産前教育 担当者に宛てて,調査協力依頼書とともに質問紙を郵 送し,疑問のあった表現などは質問紙の意味が変わら ないように修正した。 4.分析方法  統計パッケージSPSS11.0 for Windowsを用いて,記 述統計,主要変数の抽出のための因子分析(主因子法, バリマックス回転),各変数間の関連ではSpearman の相関係数,変数間の差の検定ではKruskal-Wallisの 検定およびMann-WhitneyのU検定,度数の割合の差 の検定ではχ2検定を行った(有意水準はp<.05)。自 由記載の内容については,文脈単位で区切って,因子 分析により抽出された内容との類似性と差異性を検討 しながら分類した。差異の認められた内容については カテゴリー化し,カテゴリーを代表するような命名を した。

Ⅲ.研 究 結 果

 本研究に調査協力を得た施設の出産前教育の形態は, 講義や実技指導を中心とした専門職からの指導および 参加者間の交流を交えた形態が多く,施設独自の出 産前教育を開催していないのは2施設であった。また, 出産前教育を有料で提供している施設は16施設中2施 設であった。  536部の調査用紙を配布し,383名の回収(回収率 71.4%)であった。そのうち,無記入回答用紙を除い た有効回答は,381名(有効回答率99.5%)であった。 1.対象の背景  妊婦の年齢は,19歳から40歳で29.8 4.2歳(平均 SD)であった。妊娠週数は,5週から40週で28.9 7.8 週で,妊娠期間別にみると,初期30名(8.3%),中期 88名(24.2%),後期245名(67.5%)であった。出産経 験「あり」は164名(43.0%)で,出産回数は1回が131 名(79.9%),2回以上が33名(20.1%)であった。出産 前教育の参加経験「あり」は,272名(71.4%),「なし」 は105名(27.6%)であった。また,参加経験「あり」の うち有料で提供されている出産前教育への参加経験 者は41名(12.9%)あった。現妊娠経過中の異常の有 無では,異常「あり」は30名(7.9%)で,正常は343名 (90.0%)であった。過去に早産・流産の既往「あり」 は67名(17.6%),産科学的疾患以外の合併症「あり」 は30名(7.9%)であった。現在健診を受けている施設 は,診療所130名(34.2%),総合病院229名(60.1%), 大学病院19名(5.0%)であった。経済状態については, 「余裕がある」としたものが191名(50.1%)であり,「余 裕がない」としたものが177名(48.3%)であった。(表1) 2.出産前教育に対するWTPの実態  出産前教育に対するWTPの回答記載「あり」は,347

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名(91.1%), 無 回 答 は34名(8.9%)で あ っ た。WTP の回答記載「あり」のうち0円と回答したものは32名 (8.3%),0円回答を除く有料回答は315名(82.8%)で あった。出産前教育に対するWTPは,0円から3800円 にわたり,平均817.7 678.5円,中央値500.0円であった。 また,0円回答を除く有料回答では,100円から3800円 にわたり,平均900.8 675.5円,中央値700.0円であっ た。(図2) 値付け内容の潜在的な因子を抽出するために主因子 法(バリマックス回転)による因子分析を行った。項 目内容は「 」,因子名は[ ]内に示した。因子分析 の結果,共通性の値の低かった1項目を除いた11項目 より,固有値1以上の3因子を抽出し,[他者との交流], [専門性への期待]および[出産・育児の具体化]と命 名した。3因子の累積寄与率は67.02%であり,Cron-bach’sのα係数は,第1因子から第3因子まで,それ ぞれ.91,.94,.80であった(表2)。設定した調査項 目以外の価値付け内容としては自由記載によって74 名から回答が得られた。内容記載人数はのべ76名で, そのうち因子分析により抽出された内容に該当する記 載は45名であり,[他者との交流]7名,[専門性への期 待]32名,[出産・育児の具体化]6名であった。また, それ以外の価値付け内容には,のべ31名の記載があり, その内容は[不安・ストレスの軽減],[個別性の重視], [家族関係の変化への適応],[場の雰囲気作り],[物質 的な充足]および[状況・環境の設定]の6つのカテゴ リーに区別された。  [不安・ストレスの軽減]は,妊娠,出産および育 児などに対する不安や妊娠に伴うストレスの軽減にむ けた支援や内容であり2名,[個別性の重視]は,個別 指導や個々の質問や疑問への対応であり4名,[家族関 係の変化への適応にむけた支援]は,夫(パートナー) の妊娠や出産ついての理解を深めるための関わりや上 の子への対応についての情報提供などであり4名,[場 の雰囲気作り]は,話しやすい,和やかな,楽しいな どの雰囲気づくりなどであり1名,[物質的な充足]は, 出産前教育で提供される栄養補助食品などの試供品や パンフレットなどであり7名,[状況・環境の設定]は, 出産前教育の開催日数や開催日時,参加者の人数およ び参加対象区分,施設設備の充実であり3名の記載が みられた。 4.出産前教育のWTPに対する関連要因  出産前教育に対する価値付け内容として抽出され た3因子をもとに作成した項目の回答を得点化し,そ の合計を因子合計得点として算出し,WTPとの関連 性について検討した。因子合計得点が高くなるほど内 容に対する価値付けが高いように設定した。因子合計 得点と各因子得点の相関は.90以上であり,因子合計 得点の信頼性は保証された。因子合計得点とWTPの 無回 答 34名( 8.9% ) 有料回答 315名(82.8%) 0円回答 32名(8.3% ) WTP 範 囲: 100∼3800円 平均値: 900.8円 標準偏差: 675.5円 中央値: 700円 図2 出産準備教育に対する消費者のWTP 年  齢 10代 20代 30代 40代 3 176 196 2 ( 0.8) (46.2) (51.4) ( 0.5) 妊娠週数 初期中期 後期 30 88 245 ( 8.3) (24.2) (67.5) 出産経験 なしあり 215164(56.4)(43) 出産前教育への 参加経験の有無 なしあり 105272(27.6)(71.4) 今回の妊娠経過中の 異常 なしあり 34330(90)( 7.9) 産科的異常の既往 (流産,子宮外妊娠など) なしあり 31167(81.6)(17.6) 産科的疾患以外の 合併症 なしあり 34830(91.3)( 7.9) 健診をうけている 出産施設 個人医院 総合病院 大学病院 130 229 19 (34.2) (60.1) ( 5) 経済状態 余裕がある余裕がない 191184(50.1)(48)

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消費者にとっての出産前教育の価値 関連は,[他者との交流]r=.19,[専門性への期待]r =.22および[出産・育児の具体化]r=.25であり,3因 子ともに低い正の相関が認められた(p<.001)。  対象背景のうち【妊娠生活】は,主因子法(バリマッ クス回転)による因子分析を行い,潜在的な因子を抽 出し,それぞれの因子ごとにWTPとの関連について 検討した。因子分析の結果,固有値1以上の5因子を 抽出し,[妊娠・出産・育児への不安],[夫(パート ナー)に対する認識],[出産前教育への参加負担],[情 報の収集]および[身近な人・peerとの交流]と命名 した。5因子の累積寄与率は48.1%であった(表3)。各 因子の合計得点が高くなるほど,[妊娠・出産・育児 への不安]は強く,[夫(パートナー)に対する認識]は 肯定的であり,[出産前教育への参加負担]が大きく, [情報の収集]に積極的であり,[身近な人との交流] は頻繁であることを示す。5因子それぞれの合計得点 とWTPとの関連をみると,[妊娠・出産・育児への不 安]との間で弱い正の相関が認められたが(r=.14, p <.05),その他の因子ではいずれも有意な相関は認め られなかった。  また,〈出産前教育に関する認識〉では,WTPと「出 産前教育への参加動機」との間で弱い正の相関が認め られたが(r=.15, p<.05),その他の項目ではいずれ も有意な相関は認められなかった。  さらに〈対象属性〉によるWTPの傾向をみると,出 産前教育に参加経験「あり」群の妊婦は平均724.0 581.4円で,「なし」群の妊婦の平均1073.1 847.3円に 比べて有意に低かった(p<.001)(表4)。同様に「妊娠 初期」群のWTPは1089.7 813.4円と最も高く,ついで 「妊娠中期」群は974.7 789.4円,「妊娠後期」群は725.1 598.5円の順で,妊娠時期ごとに有意な差を認めた。 (表5)

Ⅳ.考   察

1.消費者にとっての出産前教育の価値  母子保健法の発令以来,妊婦とその家族に対する「知 識の普及」および「保健指導」は,国策として取り上げ られ,現在に至るまで続く母子保健の基本施策の一つ である。そうした中でも,出産前教育は,出産や親準 備のために推奨され,マチソン女史の提唱から今日に 至るまで広く普及し,定着したサービスである。出産 前教育が,これほどまでに普及し,定着した背景には 提供者側の必要性と同時に,消費者がその利用に何ら かの価値をおいているからであると考える。  わが国では,医療をめぐる財政は,公的な形でまか なわれており,そこにおける医療行為の価値は,診療 報酬という形で一律に公定されている。しかし,周産 期における医療は,自由診療に含まれるものが多く, 出産前教育もまた自由な価格設定により提供されてい 表2 出産前教育に対する価値付け要因の抽出(N=340) 項      目 因子負荷量 共通性 信頼性係数 1因子 2因子 3因子 第1因子:「他者との交流」 参加をきっかけに仲間作り,友達作りができること 他の参加者(妊婦さん)との交流 複数の妊婦さんが集まることができる場や機会があること 参加をきっかけに家族に出産について話せること 参加によって得られる安心感 .92 .91 .75 .72 .48 .19 .28 .19 .22 .47  .02 ­.02  .12  .33  .36 .89 .91 .61 .68 .57 .91 第2因子:「専門性への期待」 専門職から得られる知識や情報 専門職による妊婦体操・呼吸法・リラクゼーションなどの指導 専門職と接触できる場や機会があること .15 .17 .30 .82 .76 .59  .22  .07  .19 .75 .61 .48 .94 第3因子:「出産・育児の具体化」 参加をきっかけに自分の出産について具体的に考えられること 参加をきっかけに今後の育児について具体的に考えられること 参加をきっかけに出産に向けて心とからだの準備ができること .56 .55 .47 .28 .26 .42 .70 .69 .64 .88 .85 .80 .80 固有値 寄与率 累積寄与率 6.45 33.14 33.14 1.42 19.58 52.72 1.03 14.30 67.02 主因子法  バリマックス回転

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る。そのため,その価値について「財」としての社会 的な評価はない。  本研究の結果より,消費者の出産前教育に対する価 値付けは,WTPでは平均817.7 678.5円であった。こ れは,診療報酬の中の指導管理料として定められる「集 団栄養食事指導料」に値する金額である(厚生労働省, 2005)。WTPの範囲は0円から3800円と広く,消費者 の出産前教育というサービスの価値やその認識には 個々人によって差があることが推測された。また,出 産前教育は,基本的サービスとして無償で提供され ていることが多く,「低料金または無料で実施される べき」,「提供されて当然のサービス」という認識が強 いことも考えられる。そのため有料化や自己負担料 の増加を危惧してWTPを過小に表明した可能性があ る。全国の出産施設を対象とした調査(早坂ら, 1991) では,出産前教育を提供している151施設のうち104 施設(68.9%)で出産前教育が無料で提供されていた。 よって,有料回答が8割を上回った今回の結果は,無 料提供が多い現状とは対照的であり,実際の提供価格 と比較すると,消費者にとっての出産前教育の価値は 高く位置づけられていると推察される。  また,WTPの設問に対する無回答は,多様な出産 前教育が存在するため,WTPを回答する際に想定す る出産前教育が多岐にわたり,出産前教育への対価が 困難であったことが推察される。 2.出産前教育の「財」としての価値  出産前教育の運営に必要とされる費用の中の人件費 項      目 共 通 性 相関係数* 1因子 2因子 3因子 4因子 5因子 第1因子:「妊娠・出産・育児への不安」 妊娠中の不安 出産に対する不安 育児に対する不安 あなたの妊娠・出産・育児についての知識 .86 .78 .68 ­.38 ­.06 ­.04 .03 .15 .03 ­.02 ­.02 .05 .02 .04 .06 .10 ­.03 .00 ­.26 .20 .62 .74 .53 .22 .91 第2因子:「夫(パートナー)に対する認識」 妊娠中の不安や悩みに対する夫(パートナー)の理解 夫(パートナー)からの家事や日常生活での手伝い(サポート) 夫(パートナー)の父親になるという自覚 .03 ­.01 ­.22 .81 .66 .63 ­.10 .02 .03 .10 .13 ­.10 .09 ­.03 .12 .68 .45 .47 .98 第3因子:「出産前教室への参加負担」 出産前教室が行われる時間や場所に参加すること 出産前教室に参加するために普段の予定を調節すること ­.05­.00 ­.05.02 .89 .81 ­.06­.01 ­.03­.07 .66 .81 .96 第4因子:「情報の収集」 助産師や医師などの専門職から情報を集めること 雑誌・本・インターネットなどからの情報を集めること 身近な人から情報を集めること 妊娠・出産・育児について医師・助産師・保健師など専門職への相談 あなたの出産・育児にむけて準備するための時間 ­.04 .16 .08 ­.20 .00 .06 ­.04 .00 .05 .18 .01 ­.04 .00 .06 ­.19 .71 .58 .43 .38 .35 .13 ­.00 .40 .16 .09 .52 .36 .35 .22 .20 .92 第5因子:「身近な人・peerとの交流」 妊娠・出産・育児などについて相談できる身近な人 他の妊婦さんや育児中のお母様方との交流 ­.17­.16 .05.09 ­.10 ­.02 .11.16 .62 .54 .44 .35 .90 固有値 寄与率 累積寄与率 3.02 12.89 12.89 2.37 10.19 23.07 1.78 9.50 32.57 1.72 8.63 41.20 1.10 6.90 48.10 主因子法  バリマックス回転 *注)回帰法によって推定した因子得点と因子合計得点とのSpearmanの順位相関 表4 出産前教育への参加経験の有無によるWTP(N=345) 参加経験 人数 範囲 中央値 平均 標準偏差 あり 252 0­3000 500 724.0 581.4 なし 93 0­3800 1000 1073.1 847.3 **p<.001 Mann­WhitneyのU検定 表5 妊娠時期別にみたWTP(N=333) 時期 人数 範囲(円)中央値 平均 標準偏差 妊娠初期中期 後期 29 79 225 200­3000 0­3000 0­3800 1000 800 500 1089.7 974.7 725.1 813.4 789.4 598.5 **p<.001 Mann­WhitneyのU検定 ** ** **

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消費者にとっての出産前教育の価値 は,1回の出産前教育の運営に必要とされる時間,従 事者数,その時間給の積によって推定できる。仮に, 時間数を3時間,従事者を看護職2名とし,企業内最 低労働賃金(日本医療労働組合連合会, 2005)を参考に した時間給から人件費を算出すると7194円に想定さ れる。一方,消費者の出産前教育への支払いは,推奨 される少人数制(戸田, 2000;毛利, 2002)から参加者 数7名を仮定し,平均WTPと参加者数の積から算出 すると,徴収料金は5719円である。この両者を比較 してみると,平均WTPは出産前教育の価格として必 ずしも妥当ではない。しかし,安易な利潤追求から仮 に平均WTPより高い価格を設定した場合には,平均 WTPを満たさない約6割の消費者の不参加の可能性が 高くなることが予想される。消費者にとって価格とは, 市場での相対評価をもとにした価値判断基準として情 報提供したり,品質を推定したりするための機能があ るといわれている(近藤, 1999a)。しかし,今日の出 産前教育は,その価格によって消費者が内容や質を判 断することは困難であり,そうした機能を果たしてい るとは言いがたい。  また,出産前教育が「財」としての価値を得ること は,看護者の行為に経済的評価を得ることを意味する。 そのためには,こうした行為の「財」としての価値が, ある程度客観的に理解されることが必要であり,出産 前教育が消費者個人または病院組織において何らかの 便益をもたらすことを実証していくことが重要である。  今後,出産前教育の「財」としての価値を検討する 際は,その効果や有用性について実証し,支払い対象 を明確にすると同時に,その対価に対して消費者から 理解を得られるサービスを提供する必要がある。 3.出産前教育の価値付けへの関連要因  先行研究では,サービスの「他者への紹介」や「再利 用」には,サービスの体験をもとに認識された「サー ビスの質」や「満足感」が影響するといわれている(浅 見, 2002;堀内, 1997)。しかし,サービスの質や満足 感は体験してこそ認識されるものであり,体験前に推 測することは困難である。こうしたことからも,サー ビスを利用するか否かは消費者にとっての有用性など の「顧客(消費者)価値」が最も影響するとの指摘があ る(近藤, 1999b)。本研究でも,過去に参加したこと がある対象の出産前教育に対する「満足感」は高かっ たにもかかわらず,WTPには反映されず,個々の価 値付け内容との関連が示唆された。こうしたことから も,出産前教育では,個々の消費者の価値観がサービ スの利用決定を左右していることが推察される。  また,出産前教育の参加経験「なし」群が参加経験「あ り」群と比較して,WTPが有意に高かったことは,経 験「なし」群では,出産前教育に対する期待感からそ の価値を高く推定しやすい,と考えられる。一方,参 加経験「あり」群は,期待感と実際に参加した結果に ギャップが生じたか,参加を通して出産前教育の価値 を低下させている,ことが推察された。  今後,消費者の出産前教育におけるどのような参加 体験がWTPを変動させているのか,出産前教育の参 加前の期待と大きく異なるのかをさらに分析すること によってサービスの評価手段と質を高めるための具体 的道筋が見えてくるのではないかと考える。 4.本研究の限界と展望  本研究は,一部の地域および施設に限定された調査 であり,今後は偏りない大きなサンプル数で検討して いく必要があると考える。また,今回,出産前教育へ のWTPは,個々の消費者の体験や情報,価値観など から捉えた出産前教育の認識をもとに表明してもらっ た。しかし,今日の出産前教育は多様であり,また 無料で提供されていることが多いことからも,回答さ れたWTPの信頼性と妥当性についての課題が残った。 今後,具体的な出産前教育の内容(シナリオ)を提示 することやバイアスを軽減するための工夫をすること でWTPの回答の信頼性や妥当性を高めることが必要 である。また,提示する内容によるWTPの変動を明 らかにすることにより便益計測をはじめ,質と費用の 両側面からの評価へ発展させていく必要がある。

Ⅴ.結   論

 消費者にとっての出産前教育の価値とその価値付け 内容について明らかにするとともに,その価値に関連 する要因について検討した結果,以下のことが明らか になった。 1.消費者にとっての出産前教育の価値は,WTPとし て100円から3800円の範囲で,900.8 675.5円として 示された。 2.出産前教育に対する価値付け内容は,[他者との交 流],[専門性への期待],[出産・育児の具体化],[不 安・ストレスの軽減],[個別性の重視],[家族関係 の変化への適応],[場の雰囲気作り],[状況・環境

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教育に参加経験がある人ほど低くかった。また,出 産前教育への参加動機が自主的で,妊娠・出産・育 児への不安が強いほどWTPが高くなることが示唆 された。 謝 辞  この研究を行うにあたり,ご協力いただいたお母様 方,施設のスタッフの皆様に心より感謝申し上げます。 また,研究の全過程を通じてご指導いただきました金 沢大学大学院医学系研究科保健学専攻、島田啓子教授 に深く感謝申し上げます。  なお,本研究は2003年度金沢大学大学院修士論文 の一部であり,第20回日本助産学会学術集会におい て発表した。 文 献 浅見万里子(2002).顧客満足度に影響する出産サービス の構成因子,日本助産学会誌, 16, 15-23.

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参照

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