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専門教育の水準

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Academic year: 2021

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専門教育の水準 709  水準とはその国あるいはその分野の知識や業務遂行能力の標 準的な高さ(レベル)を示すものであり,教育水準は学校や国 など一定の集団における教育の質・量の高さである。文部科学 省では「教育活動内容及びその成果」から教育水準を判断して いるが,WCPT の教育ガイドライン1)では 1.教育課程の内容, 2.学生の質,3.大学教員の質,4.研究者の質,5.教育・研 究環境の整備状況,6.管理運営方式などを挙げており,学校 認証評価でも対象になる内容である。「教育水準は高くあるべ き」と考えるに異論のないところであるが,教育水準を他医療 職と比較するには専門職として求められる内容が異なり,世界 の理学療法養成校と比較するには十分な資料がないことから, 本セミナーでは 50 年の理学療法士教育における「教育課程の 内容」と「学生ならびに教員の質」に関するレベルについての 変遷と現状ならびに課題を検討する。  教育課程の内容では理学療法士作業療法士学校要請施設指定 規則(以下,指定規則)の改定による教育時間変遷に伴う科目 別時間を資料とした(図 1)。厚生労働省による最初の指定規 則は 1966(昭和 41)年に制定された(当時は厚生省)。卒業ま での 3 年間で 3,300 時間を設定し,基礎科目 120 時間,基礎医 学・臨床医学 960 時間,理学療法 540 時間,臨床実習 1,680 時 間が実施された。これは現在の大学の基準に照らすと 141 単位 に相当し2),教養科目が少なく,臨床で即戦力となる技術者を 育成する意図が明確にだされたカリキュラムであった。その中 で,指定規則の対象となった養成校のほとんどで 4,000 時間を 超える授業が行われており3),より多くの知識と技術を求める 姿勢がみられる。  1972(昭和 47)年の指定規則の改定では,前指定規則に比 べて教養科目の時間が約 3 倍の増加,基礎・臨床医学が 20%, 理学療法が 10%の減,臨床実習に至っては 35%も時間数が減 少した。これは専門知識一辺倒から教養を重視したカリキュラ ムへの修正と捉えられるが,教養科目でも人間発達や物理学な どを含めた専門科目への基礎づくりといった意味合いがみられ た。一方で臨床家育成に必要な臨床実習時間の減少は即戦力へ の必要性が低下したことの表れと考える。  1989(平成元)年の第 2 回指定規則の改定では,教養科目や 基礎・臨床科目の時間が微増,理学療法は自由裁量時間 200 時 間を含めて 2.1 倍に増加した。専門基礎科目に地域保健学や地 域福祉学などが含まれ,教育内容の幅が広がった改定であっ た。一方,臨床実習時間は 25%も減少したことで,卒前にお ける臨床経験の機会が失われ,臨床家の育成さえも危うい状況 となった。  1999(平成 11)年の第 3 回改定はカリキュラムの大綱化と 科目の時間数から単位数への表示変更が主であり,現在もこの 規定の下で実施されている。  理学療法士教育の 50 年を振り返り,卒業までの教育時間数 や単位数からみて,教育の量が少ないとはいえない。質にして も教育内容や範囲を鑑みれば,知識レベルは向上したと判断で きる。しかし,臨床実習時間が半減したことで卒業直後では, 以前に比べて業務の遂行に多くの助言が必要になっていること から,臨床能力のレベルが低下したことは多くの認めるところ である。  専門知識レベルについては国家試験合格率を社会的な判断基 準としてみた場合,問題の難易度や出題傾向に左右されるが, 平均 80%を維持している現状では特に知識レベルが低いとは いえないであろう。しかし,大学と専門学校間では過去 5 年間 の合格率に有意な差が認められたことから,養成施設の形態に よって知識レベルに差があると判断できる。一方,最近は国家 試験の出願をしたものの受験できない(しない)学生数も増加 している。そこで[(出願者数―受験者数)/出願者数]から 未受験率を算出した(図 2)。2010・2011(平成 22・23)年は 専門学校の方が大学に比べて有意に高かった。2012(平成 24) 理学療法学 第 41 巻第 8 号 709 ∼ 711 頁(2014 年)

専門教育の水準

髙橋精一郎

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教育・管理理学療法研究部会

Education Level of the Employment

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九州栄養福祉大学リハビリテーション学部理学療法学科 (〒 800‒0298 北九州市小倉南区葛原高松 1‒5‒1)

Seiichiro Takahashi, PT, PhD: Department of Physical Therapy, Faculty of Rehabilitation, Kyushu Nutrition Welfare University キーワード:理学療法士教育の変遷,教育の水準,課題と対応策

図 1  指定規則改定による教育時間の変遷(日本理学療法士

協会資料より,2012) Japanese Physical Therapy Association

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理学療法学 第 41 巻第 8 号 710 年以降も専門学校の未受験率の方が高いものの,有意な差はな い。増加率は 5 年前と比べて専門学校が 1.4 倍,大学が 4.8 倍 であり,大学では 2011 年に比べ 2014(平成 26)年では有意な 増加を認めていることから,大学生の知識レベルが低下してい ることが推測される。国家試験合格率もさることながら,未受 験者の比率が上昇していることの方が養成校にとって問題では ないだろうか。この一因として,国立大学を除いて多くの大 学・専門学校の定員充足率の低下が考えられる。大学の定員充 足率は 98%であるが,専門学校のそれは 56%である(図 3)。 この現状から定員割れを防ぐために,入学時に学力によるふる い分けができず,学力や勉強意欲の低い学生が入学しているこ とが推察できる。年々,入学者の学力レベルが低下しているこ とは放置できない課題である。このような現状で学生を教育し ている教員の状況を検討する。理学療法士教育の教員としての 教職課程というものがないので,教員の教育・指導レベルを判 断する指標は見つからないが,教員の能力判定に使われている 学位を参考にすると,大学の方が専門学校に比べて高い学位の 比率が多くなっている(図 4)。それぞれの設置基準の違いも あることから当然の状況といえる。学位の高さが学生の学習意 欲や能力を引きだす教育力や指導力に比例するとは限らない が,研究面での思考や分析などについては指導力の高さは保障 されていると考える。  教員の教育力の質・量を高める目的で「理学療法士作業療法 士養成施設等教員講習会」(以下,リハ教員講習会)が開催さ れている。「教育原理」や「教育方法論」など 7 項目 132 時間 の内容で,単位換算では 6.4 単位程度である4)。臨床経験や教 育経験をもった教員が受講するとしても,この時間で十分であ ろうか。  教科教育の教員免許を取得する場合,教職関係の単位は概ね 30 単位程度が必要である。これを時間数に換算すると講義形 式で約 340 時間となり,演習や実習形式であればさらに時間数 は増える。看護の専任教員養成講習会では,講義や演習形式で 34 単位・855 時間の内容が組まれている5)。実にリハ教員講習 会の 5 倍の単位数であり,時間数は 6.5 倍となっている。専任 教員の要件として看護業務 5 年以上に加えて教員として必要な 研修会を受けていること,またはそれに同等程度の学識経験が あることとなっており,理学療法養成校教員よりも厳しい要件 である。講習会を受けていない場合は,成人看護学や老年看護 学などの専門領域のうちひとつの業務を 3 年以上行い,かつ大 学において教育に関する科目を履修していることが必要となっ ている。我々にはこのような要件が記されておらず,教員とし ての質の向上には経験年数のみの規定では不十分で,隣接医療 分野と同等の内容の講習会が必要と考える。  問題点として挙げた「臨床能力の低下」については臨床経験 値を上げることでしか解決はできない。診療参加型臨床実習と いう実習形態の中で臨床経験が増やせる方法の構築が急がれる が,臨床実習時間が減少している現状では臨床能力を上げるこ と自体も難しくなっている。卒前に経験値を上げるには教育年 限をはじめとして,教育制度の変更が必要であろう。  学生の学力面については,養成校の増加と少子化が重なって 定員確保も難しい状況となっている。受験生の青田刈りともい える AO 入試では成績の裏づけも乏しい状態で学生確保が行わ れることから,必然的に学力の低い学生が入学する。学生の学 力低下は理学療法分野だけでなく,全国的な傾向である。  大学に対する学生の学力に対する意識調査6)では私立大学 の 93.7%が「大きな課題」・「ある程度の課題」があるとしてお り,公立大学では 61.5%,国立大では 57.7%であり,私立大学 が高いものの国・公立大学でも半数以上の学生の学力低下を憂 慮している。また,九州地域内の 8 国立大学法人工学部へのア ンケート7)では 6 校が学生の質の低下を認めており,7 校で推 薦入学者への補習やマンツーマン授業,基礎学習クラスあるい は習熟度別クラスを編成していることから,学力低下に対する 対応策を講じなければ授業についてこられない学生に苦慮して 図 2  養成形態別国家試験未受験率の変遷(厚生労働省資料 より筆者作成,2014) 図 4  養成校の形態別教員学位の状況(日本理学療法士協会 白書より,2010) 図 3  養成校における理学療法学科学生定員充足の推移(全 国理学療法士・作業療法士学校連絡協議会 資料より) Japanese Physical Therapy Association

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専門教育の水準 711 いる現状がみえる。理学療法養成校でも大半は同様の状況で, 時間割とは別に「学修支援クラス」の実施が不可欠な状態であ ろう。  現在の入学選抜方法(図 5)では私立大学は一般入試と推薦 入試が多く,国立大学は一般入試が主体である。今後の入試方 法(図 6)は,私立大学では一般入試とセンター入試による筆 記試験にシフトさせ,推薦や AO 入試を減少させる方向である。 一方,国立大学では私立と反対に一般入試やセンター入試を減 らして推薦や AO 入試の割合を増やす方向で検討している。私 立大学は学力低下に歯止めをかけ,学力を確保する方向での対 応であり,国立大学は学生の学力は維持できているため,研究 や国際的活動能力の高い学生を育成するために個性や特性を もった学生を募集したい方向性であるといわれている。  専門学校における教育の質向上の一方法として,「職業実践 専門課程」の認定が挙げられる8)。専門学校は厚生労働大臣の 認定を受けているが,専門教育の質の保証・向上を目指して専 門課程の教育の実践を行っていることを文部科学大臣から認定 を受けるものであり,教員の質や学校運営の内容を大学に近い ものにする必要がある。教員に対する研修の実施や授業評価の 実施,学校評価や情報の公開,企業等との連携体制を確保して 実践教育が授業科目に編成されていることなど,多岐にわたる 基準をクリヤしなければならない。  以上,教育水準としてここに取り上げていない項目も残って いるが,教育内容,学生ならびに教員の質の現状と課題,今後 の対応について論じた。これを参考に,今後の理学療法士教育 について議論していただければ幸いである。 文  献 1) 日本理学療法士協会(監訳):理学療法士初級向け教育に関する世 界理学療法連盟(WCPT)ガイドライン.日本理学療法士協会, 2012. 2) 森永敏博:理学療法教育の歴史的変遷,四条畷学園大学リハビリ テーション学部紀要 4.四条畷学園大学,2008,p. 12. 3) 乾 公美:日本における理学療法士教育の歴史的変遷.理学療法 ジャーナル.2007; 41: 8. 4) 厚生労働省医政局:第 40 回理学療法士・作業療法士養成施設等教 員講習会.厚生労働省,2014. 5) 厚生労働省:看護教員に関する講習会の実施要領について(平 成 22 年 4 月 5 日 医 政 発 0405 第 3)http://www.mhlw.go.jp/stf/ shingi/2r98520000021c5z-att/2r98520000021czp.pdf#search.(2014 年 4 月 22 引用) 6) 朝日新聞社:学生の学力に対する課題意識(リクルートマーケティ ングパートナーズ調査).朝日新聞(2014 年 2 月 7 日付). 7) 日刊工業新聞社:モノづくり・ヒトづくり―九州をゆく,学生の 「質」低下―.日刊工業新聞西部本社(2008 年 10 月 8 日付). 8) 文部科学省:専修学校の専門課程における職業実践専門課程の認 定に関する規程(平成 25 年 8 月 30 日文部科学省告示第 133 号). 文部科学省,2014. 図 5  選抜方法入学者割合(リクルートマーケティングパー トナーズ調査より,2014 年 2 月 7 日付,朝日新聞) 図 6  今後の選抜方式(リクルートマーケティングパートナー ズ調査より,2014 年 2 月 7 日付,朝日新聞) Japanese Physical Therapy Association

図 1  指定規則改定による教育時間の変遷(日本理学療法士

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