タ
イ
ポ
グ
ラ
フ
ィ
を
支
え
る も
の
The
Supporting
Elements
of Typography新島 実
株 式 会 社 新 島 実 デ ザ イン室
NllJIMA,
Minoru
Minoru Niijima Design Studio
デ
ー
ター
ベー
ス と画 像 処理 に対する デジタル ビジネ ス か ら 見 れば、
殆どあるか ない かのマ イナー
な存 在 と して扱 わ れて きたのが、
和 文タイ ポ グラフ ィの 肚 界だ。 その理 由として幾つ か考え ら れ る が、
やは り その第一
は、
我々 日本 人の、
書か れ た文 字と「活 字」 に対 する意 識の 落 差だ。 第二 は、
扱う文 字の数の 多 さ によるだろ う。
第三は、
和 文タイ ポ グ ラフ ィその もの に対 するデジ タ ル ビ ジ ネス の無関心。 つ まりビ ジ ネス と して成 立させ るた めの順 位 付 けの 低さだ。 こ の よう な 理由か ら画 像処 理 など に比べ、
技 術 開発 を 先 送 り され、
わ きに置か れ 続 けて きた。メ タル
、
写植の時代か ら和文タ イ ポ グ ラフ ィの世 界は、
主 に第一・
の理 由か ら ブラック ボッ クス と化し てい た。
写真や イラス トレー
シ ョ ン の ように誰もが その メ ディ ア に対し て、
自 由 な 関わり を持つ ことに なるな ど とは、
考えてもい な かっ た。 しか し意 外な こ と に、
こ こ に きてざ わ め き始 めてい る のだ。 どう もデジ タ ル ビジ ネス が、 ブラッ ク ボ ッ ク ス化したタ イ ポ グ ラフ ィのふ た を無 造作に開け始め た ようだ。
ちょ うど今か ら10年前、
ア メ リカ の Intemational TypefaceCorporation
か ら一
冊の 大 きなタイ ポ グラ フ ィに 関する本が出 版さ れ た。
造 本 デ ザ イン とは裏腹 に内容は大 変に濃い 。 た だ その殆ど が グ ラフ ィ ック デザ イン、
広 告との 関 わ りの なか で タイ ポ グラ フ ィ が語ら れてはい る もの の、
今世紀に おける タイ ポ グ ラフ ィの大き な 流 れ を 俯 瞰 する ことは出 来る。 そ し て この本の 出版目 的 が、
主に デ ジ タ ル技術の進 歩に よっ て激 増 するで あろ う、
こ れ まで タイ ポ グラ フ ィ な どに興 味も関 心もな かっ 人々 に、
その意味、
歴史、
ま た現 代にお け る タ イポグラフ ィの位 置づ け な ど を 伝え ようとする もの だ。 出版の準 備 期 間を考える と、
既に15年も前から、
デジ タ ル技 術の進 歩によっ て混 乱す る であろう今 を読ん でい た わ け だ。 ちょ うど和 文の デジ タル の 環 境 が、
10 年遅 れて、
やっ と欧 文並 に なっ た今、
同様の 問題に我々 も直 面 し だした とい っ た と こ ろ か。 タ イ ポ グラフ ィを考えると き、
こ れまでの流れ か らみ れ ば、
今世紀 初頭のヨー
ロ ッパ の非具象芸 術を 中心とする一
連の造 形活 動との 関係 を考え ね ば な ら ない だ ろう。 ま た、 現 在、
そ して こ れ か らを考える な ら ば、
当 然の こと と して、
WEB
上 に おける タイ ポ グ ラフ ィを。 さ らにマ ル チメ ディ ア に お ける デジ タ ル技 術を駆 使し な が ら、参
加 型の造 形の可 能 性を探 り始めた、
メ デ ィ ア・
アー
トなどとの関係も考 慮せ ね ば な ら ない だろ う。
しか し今回は デジタル技 術の 進 歩が 生 じ させ る、 タ イ ポ グ ラフ ィ の問 題 と は 何 か を、
実際に組む 側 か らの視点で、
既に我々 の机ヒに あるDTP シス テム との 関 連で考 えて み る ことにす る。
デ ジタル の時 代 街 中のパ ソコ ン シ ョ ッ プに は、
デジ タル フォ ン トの パ ッ ケー
ジ が ず ら りと並び、
ま た 出力セ ンター
か ら 送ら れてく る 出 力 可能な和 文 書 体の数は、
写 植 が全 盛期の1980
年代 と比べ て遜色がない とこ ろ まで 整 備 され、 その数も すで に ヒ回っ てい る。
こ の恩恵は、
もっ ぱ らコ ン ピュー
タの処 理 能 力の 向上 に よ る もの だ。 写研書体が デジ タ ル の環 境には供 給さ れ な い と い うこ と を 除 けば、
和文デ ジ タル フォ ン トの充 実ぶ りに はおどろか さ れ る。 ま たデジタル の 画像 処理の 記事
で埋め尽 くされ てい たパ ソコ ン雑 誌 にも、
プロ の タ イ プ デ ザ イ ナー
しか使わ ない だ ろうと思わ れ る、
デジ タル フ ォ ン ト作 成ソ フ トの特集 す ら組 まれ、
「さ あ、
み ん なも 自分のフ ォ ン トを作っ て み よう」と。確かに コ ン ピュ
ー
タ の性 能 は、
格 段に良 くなっ た。 我々 はやっ ときつ い 仕 事のス ケ ジュー
ル か ら解放さ れ、
思 考 に専 念 出 来る と楽しい思い をめ ぐら し、
い そいそとデジ タ ル の イン フ ラ整 備 を し て きた。 しか し 生 産 性の 向上 を 至 上の 命題 とする デジタ ル技 術は、
Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service Japanese Sooiety for the Soienoe of Design
我々 の期 待 を ばっ さり と切 り捨て る 。 時 間に余裕 が 出 来 る どこ ろかス ケ ジュ
ー
ル は ますますタイ トに な り、
作 業 は 以前にも ま して煩雑さを増 す。 なに しろ 依頼 者 も編集 者も、 皆 同じ様なマ シー
ン を使い、
同 じアプ リ ケー
シ ョ ン ソ フ トを使っ て仕 事をし てい る の だか ら当 然の こと だ。DTP
ソ フ トは、
すべ て米 国 製だ。 米 国で の印刷の 発 注シス テム を前提と してい る。 つ まり人の手 を経 れば経るほ どに予 算は積みあがる方式だ。 開 発の 基 本的 な考 えは、
い かに人の手を経 ずに複 雑な組 版、
製 版 を 終 え ら れ る か と。 完全版.
ドに対 する認 識 が ま るで違 う。
これ まで の、 曖味でなれ合い 的な 日本流 の 印刷の発 注シ ス テム と は、
対照的なビ ジネス をベー
ス に開 発 さ れ た もの だ 。 既にフ ィル ム に よ る入 稿 が当た り前 に な りつ つ ある中で、
製 版、
印刷 所は何 もして くれ ない な ど と、
嘆き悲しむ時問すら持てな く なっ て し まっ た。 校正刷 りに赤 字を 入れ る こ と は、
即、
自身に はね 返るこ とになるわけだ。誰 もが 基 本フ ォ
ー
マ ッ ト さえ手に入れ、
マ ニ ュ ア ル どうり に操作 を す れ ば同じ もの が出来ると考 えて い るふ しが あ る。 確かにある部分で はそうなの だ。 和 文 全角の 縦組み におい てならば、
全 角万能の和 文 組 版シ ス テム は、
再現 技 術に関係なく素 晴 らしい 合 理性を 発 揮 す る。
DTP 用語の 「文 字 枠 」を、
全角の 倍寸で設 定 し さ え す れ ば殆ど組 版の経 験と知識の な い 人でも そ れ な りに組めてし まう。 さら に ほ んの少 し だけ、
やは りDTP 用語の 「食い 込み処理」(この 言 葉は欧文の カー
ニ ング の和訳なの だ ろうか) を 見 出 し などに 用い れ ば、
不運に遭 遇し たプロの仕 事より は、
よほ ど ま し な結 果を得る こともで きる。 和 文 組 版ソ フ トの欠点を補 うため の支 援ソ フ トもか な りの 数にの ぼ り、
日本 語ワー
プロが出 現 し た頃、
半 分た か をくくっ てい た デ ザ イ ナー
、
タイ ポグ ラフ ァー
も 現在の デジタル ビジ ネス の勢い には、
い さ さか面食 らっ てい るの で は ない だろうか。 ポー
ル・
ラ ン ドが数 年前に来凵 したさい、
和 文の 印 刷 物 を見て、
「日本人の デザイ ナー
は、
こ れ だけの 複 雑な 要 素 を完 全に理解した 上で、
コ ン トロー
ル し ようとしてい るの か」と私に質 問を してきた。 明朝、
ゴ シッ ク、
異 サ イズ、
縦 組み・
横 組み、
約物、
和 欧 混 植。 さ らに、
白ぬ き、
ふ くろ、
長 体、
平 体、
網 掛 け と、
なん でもあ りだ。 そ して けっ こう読みやすい と 言っ ては ば か ら ない 。 こ れ らは何 も特殊な印刷 物 では な く、
通常 我々が見慣れ てい る印刷 物 だ。 ラ ン ドは、
こ の視 覚 的 混乱を どうしよう もない もの と 見 たの で はない。
あ く まで この複 雑な紙 面が、
コ ン ト ロー
ル さ れ た 空間と して成 立 して い るの か と疑 問 に 感じ、
さ らに組む人 間の態 度に疑問を感じてい た。
し か し正直な とこ ろ は、
この混 乱 し た タ イ ポ グラ フ ィ や デザ イン の現 状と 円本の歴史・
文 化 との落 差に 驚 き を 隠せ なかっ た ようだ。 確か に私 も不思議に思 う。
書 か れ た文字か ら は、
その書 き手の 人 間 性 を も 読み とろ うと する ぐらいの美 意識 を 個々 には持ち な が ら も印刷 物に対し て は、
せい ぜい が、
写真の刷り 具 合の美 し さを見る に止 まっ てい る。 活字など、
は な か ら 意 識の外だ。 だ か ら印 刷 物に対して は、
ひ た す ら 目立つ こ と ば か りが強 調され る。
目 立つ こと と 読み やすさ を勘 違い してい る。 だか ら 我々 を取り巻 く印刷 物は、
ます ます 強い コ ン トラス トを求めて止 ま ない。
驚い たこ とにDTP は既に分 化して し まっ てい るの だ。DTP
のハ ン ドリ ン グだ けを専門 に業 務 を 行っ て い る人 た ち がい る。 仕 事のス ケジュー
ル が ど ん ど ん 短 縮 されてい く、
出版 社・
印刷 会 社の支 援業 務 部隊 と なっ てい る。 もっ と驚い たことに、
この分 野に は 続々 と 人 が な だ れ込ん できてい ると 聞 く。
し か しコ ン ピュー
タ のハ ン ドリ ン グだ け が熟 練し た 人 た ち と、
その予 備軍 とも 言える人たち なの だ が。
メ タルか ら 写 植へ の移行 期に こ ん な に人の流れが お き たと は 聞 い たこ と が ない。 越え なけれ ば ならない 技 術 的ハー
ドル は か な り高かっ た し、
文 字配 列 を 記 憶 す る だ け で も大 変なこ とで、
さら に組 版につ い て学 ば な け れ ばな ら な かっ た。 そ れでも ま れに、
「デジタ ルの横 組み に は、
もう飽 き が き ま し た。 写 植 時代の ような美しい 組み が 欲 し い の です が」と。 少々疑 問に思い つ つ も、
か な り 感 度の 良い編 集 者 も現れ る ように なっ た な と。
そ して 後ろを向く と もう熟達 し た写 植オペ レー
タ は こ の業 界か ら姿を消して しまっ てい る。
製 版・
印刷 も同 じ 道 を た どっ てい る。CPU
の性 能が 上がれ ばあ が るほ34 sPEcIAL IssuEoF JSSD vol
,
6 No.
1 1998 デ ザ イ ン学 研 究 特 集 号ど
、
後戻 りは きかな く なっ てい く。 現在の デ ジ タ ル タ イ ポ グ ラ フ ィ の現 状を見て くる と、
良い 面と悪い 面が重なり合っ て い る こ とが よ くわか る。 個 別な事 情に よっ て、
善し悪しの判 断が まる で 異なっ て くる。 だか ら わか りに くい 。 ある時は、
「こ ん な こ と まで出来る の か」、
またある時は、
「こ ん な こと が どうして出来ない の か」と。 ま た 「こ んな程 度なの か」と言え ば、
「それ で もこ こまで出来れ ば」 と往々 にして、
判 断に窮 する。 我々 の机上のマ シー
ン とソ フ ト は、
忍耐 力と労 力 を惜しまなければ、
自身の構 想をと こ と ん実現 出来 るとこ ろまで きてい る。 しかし我々 の マ シー
ン とソ フ トは、 必 ずし も その内容に対 する品 質を、 保 証を してはい ない とい うこ と なの だ。 現 在の問 題 点 デ ジタ ル技 術が社 会を変えてい くと言われ てい る が、
ビジュ ア ル コ ミュ ニ ケー
シ ョ ン の枠 組み の中で こ の こ と を考え た場 合、
最も重 要なこ と とし て浮かび 上 がっ て くるの は、
情 報の受発信の並行的 な相互関 係 を 可 能にした とい うこ と だろ う。 更に タイ ポ グラフ ィ に限っ て言 うな ら ば、 タイ ポ グラ フ ァ とい わ れて きた専門家の専 門性が問わ れるこ とになっ た とい え る。
ソ フ トの 能 力の 向上 が、
写真やイラス トレー
シ ョ ン の よう に 專 門 家 と非 専 門 家の境界線 を 瞹味に し て し まっ た。 特 殊が ゆ えに専 門性が高い と思 わ れて い た技 術は、
ソ フ トの中に格 納されて し まっ た。 そ の レベ ル は、
プロ ポー
シ ョ ナル とい う欧文組 版の 概 念が、
和 文 写 真 植 字に適 用 さ れ た 頃 よ り も、
はるか に進ん でい る。
では タ イ ポ グラ ファに とっ ての専門性と は何なの か。
豊富な経験だろ う か。 マ シー
ン に 組み 込 ま れ た ソ フ ト は、
経 験 豊 か な 専 門 家の ア ドバ イス に よっ て 構成さ れてい る以 上、
そ れ が 決 定 的 な 差 を 生 み 出 す とは考 えに くい。 タイ ポ グラフ ィに 関 す る 知 識 だ ろ うか。 知識 は 「何」 「な ぜ」あ るい は 「どうして」に 対 して は役に たつ、
し か し 「い かに」に対して は、
必ずしも有効に働 くと は思 え ない。
皮 肉なこ と だが、
デジ タル技 術の 進 歩は、
長い 間 に渡っ てタ イ ポ グラフ ィを 支 えて き た ものが 何 か を、
我々 に 問い た だ してい る。 タ イ ポグラフ ィ を支え て きたもの 1)写植の 時代に文字の組に こ だ わ りを持っ て仕事 を してきた人に は、
自分の 求め る組み上 が りを十 分 理 解し て くれ てい た写植の オペ レー
タの 人た ち が、
専 属にい た と思 う。 促 音、
句 読 点の スペー
シング、
和 欧 混植の場合に は、
文字サ イ ズ、
ベー
ス ライン の設 定等、
そ して使い慣れた書 体が有 り、
その書 体の特 性 までも理解して くれてい た。 極 端な 場合は、
何の 指 定もせずにい つ もの 質を保っ た ま ま、
短 時 間の う ちに組み上げて くれた もの だ。 こち ら も その 人の癖 を知っ てい る せ い か、
入 稿 時に ほ ん の ちょ っ とした 感 覚 的な指 示で、
卜分にとは言わ ない まで も、
ある 程 度納 得のい く結果 を得てい た。 指 定する身とし て は、
なんと楽を してい た か だ。 こ んなに恵ま れ た環 境であ りながら、
誰もが全てを自分で や っ た ら もっ と出来る の にと、
ぶつぶ つ文 句を言っ てい た。 今そ こにあるもの が、
どれ ほどのもの に よっ て支え られ てい た かも知らずにだ。 良 質なタ イポグ ラフ ィとは、
まずこ の ような名人芸 的な技 術を持っ た 人 た ちによ っ て支え ら れてい た とい える。 彼 等の持っ てい た、
技 術の標 準 化し や すい部 分のみが、 デ ジタル 技術に よっ てマ シー
ンに組み込 ま れてし まい、
そ れで よし と さ れてい る が、
彼 等の 態 度 まで は、
格 納 さ れ ず、
その部 分が、
い ま我々 に覆い被さっ て きてい る。2
)た と え ば、 ニ コ ラ・
ジェ ン ソンの活 字と その組 ま れ た表情を 思い 浮かべ て み る。 残 念なこ とに、
私は そこ に組 ま れ た文を読むこ と は 出 来 ない。
ス タン レー ・
モ リソ ンやエ ミー
ル・
ル ダー
的に言 えば、
「読め ない 印刷 物な ど は、
ゴ ミの ような もの だ。
」と な る が、
も し捨て る 人 がい た ら、
是非教 えて欲しい。
額縁 に 入 れて、
飾っ てお きたい。
言い たい とこ ろは、
タイ ポ グラフ ィ の第一
義 的 目 標の可 読 性 を あ ま り教条的 に持 ち 出 し、
その こ との み によっ て タイポ グラフ ィ の意 味を考 える と、
片手
落 ち に な るの ではない だ ろ う かと言うこ と だ。 ジェ ン ソ ン の 活字に よっ て組 ま れ た 紙 面の かもし 出 す 雰 囲気は、
時代 を超 え 文化を 越 えて も、
な お その表情 に 感覚と精 神の 反応 を呼びJapanese Society for the Science of Design
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起こ させ ら れ る
。
つ ま り ジェ ン ソ ン的 空 間 を 目指 す 態 度 を現 在の我々 で も共 有で きる と言う理 由か ら だ。 しか し時間の 流 れは、
そこ にあっ た 目的と結果 を逆 転 させる。 い つ しか 結 果 が 目 的に変わ り、
その空間 の 再 現 その もの を 目指すこ とに なる。 そ して この逆 転こそが タイポグラ フ ィを長い 間 支 え続けてい る、
あるい は タイポ グラ フ ィに向かわせ る姿 勢を形 成 す る、
動機 付けの重要 な 要因と な る。
つ ま り、
後に続 く もの に とっ ては、
この動 機 その もの が、
重 要 なの であっ て、
タ イ ポ グラフ ィの 意味 とか 機 能 に 関 して は、
後か らつ い てきた と して も何 ら問 題で はない だ ろ う。
3)
既 に ブ ラッ クボッ クス の中 に封 じ込め られてい た タ イ ポ グラフ ィの技 術は、
デジ タル化の流 れの 中で、
一
般 的 な ものへ とその 性 格を変 えた。 し か し同じ技 術を使い な が らも様々 な結果を もた らす。
なぜ素 晴 ら しい構想 が 思い どうりの 結果を生み出 さ ない の か。 あ るい は、
同 じような 構 想であ りな が ら、
どうして その結果 が 異 な るのか。
つ ま り構 想 と具 体 化の 間 に、
技術 だけで は越 えら れない何かが ある からだ ろう。 これ を単に タ イポグラフ ァの、
あるい は デザ イ ナー
の個 性、
あ るい は才 能 とい っ てし まうの で は、
あ ま り に 短 絡 的 す ぎ る。 ヤ ン・
チ ヒ ョル トの タイポグラフ ィに対 する考察 から、
あるい はバー
ゼル派と呼ばれ るエ ミー
ル・
ル ダー、
アー
ミン・
ホフ マ ン らの ス タディ に、
その何 か を 見 出 すこ とが 出来る。 勿論直
ぐ に 思い浮 かぶも の と して、
バ ウハ ウス での タ イ ポ グラフ ィの ス タ デ ィが ある。
しか しバ ウハ ス で の タイポグラ フ ィ の ス タデ ィ は、
他の造 形との閧 係の な かで考
察さ れて お り、
問 題 が 複 雑 な だ け に わ か り に くい 。 対 照 的 に チ ヒ ョ ル ト、
ル ダー
は、
タ イ ポ グラフ ィを タ イ ポ グラ フ ィ として、
取り上げて い る だけに、
わ か りや すい 。 しか しわ か か り易い か らと言っ て、
彼 等の ス タ デ ィ の 内 容が、
バ ウハ ウス の そ れ に劣るの か とい うと、
決 してそうで はない。 タ イポグ ラフ ィの位管づけの 差 で あ り、
い わ ば タ イ ポ グ ラフ ィの 解 釈の相違だ。
また私の 言い たい こ と との 関係で み る と、
さらにチ ヒ ョ ル トよりも、
ル ダー
の、
バー
ゼル で の ス タ デ ィ の 方が、
より明 快だ。 視 覚 行 為に お い て構 想を具 現化 するとは、
形 態と 形態、
あるい は所 与の 空 間 と形 態等の関係 性を明ら かにする こ とだろう。 つ まり、
形 態 あるい は形 態と 形態との関 係 性は常に曖 昧であ り、 ある関係 性の な か で決 定され る ものゆ え、
構 想の具現 化と は、
こ の 曖 昧な関係を決 定づける た め の、
空 間の解 釈と考え られ る。 この構 想を具 体 化してい く空間の解 釈に際 して重 要 な要 因となる のが、
個々 の視 感 覚だ。 タイ ポ グラフ ィに お い て、
こ の視 感 覚は、
微 細な空 間の コ ン トロー
ル に欠 くこ との できない最 も重 要なもの だ。 た だ こ こ で言う視 感 覚と は、
「視 覚 優 先か ら身 体 性へ 」とい っ た意味で用い られ る身体と対立するも の で はなく、
逆に身体 性に内包さ れ る視 感 覚だ。 だ か ら当 然の こと と して、
個別的 な もの である。 バー
ゼ ル派の 人 たちは、
この視 感 覚を 開 発 し、
更 に鍛えるための プロ グ ラ ムを構 築した、
唯一
のグルー
プ とい える 。 彼 等の手 法は、
一
貫し て、
目と手の 同化 を目指してい る。 清刷 りを・
文 字.
一
文 字切 り放 し、
少しつ つ 少しつ つ 動 か し な が ら、
目的と自身の 感 覚に反応する空 間が見つ か る ま で、
延々 とそ の作 業 を繰 り返 す。 非常に忍耐力を要 する作 業であ り、
真 摯な態 度だ。一
.
見 する と細 部に対 する拘 りば か り が 強 調 さ れ が ちに見えるが、
細 部の無 数の変化の蓄 積を常に全体との 関 係の な か で、
検 討 する とい う態 度を貰 きとうし てい る。 それ ゆえ、
彼 等の 提 示 する タイポグラフ ィの空間は、
硬 直せず、
柔ら かく、
余 白の スペー
ス は、
積 極 的に解釈され、
絵 画の空間と 同等の質 を 保っ て い る。 こ の 良質な 視 感 覚に よっ て コ ン トロー
ル さ れ た、
タイポグラフ ィ の仕 事に は、
その解 釈の差 あるい は 程 度の差はあ れ ど、
我々の 精神に直接 訴えかけて く るものが あ る。 目 的 に 対 する構想と、
それ を具体 化 する た めの 視 感覚、
そ し て この 関 係 を支える姿 勢こ そ が、
タイポ グラ フ ィを支えて きた もう一
つ の理山 だろう。
次に書 体制作と欧 文 組 版 を例 に、
構 想と その具 体 化 におい て、
視 感 覚が どの様な 関 係にある か を考えて みる。
1:書 体制作に お ける空間のコ ン トロー
ル36 sPEcIAL tssuE oF JssD
・
voL 6 Ne.
1 1998 デ ザ イ ン学研 究 特 集 号[
ユ ニ バ
ー
ス がヘ ルベ チ カ と異 な る 書 体 と認 識で きる 形態上 の差は、
微 細な変 化だ。
次ペー
ジ にその例 を 示 し た (比べ た 書体は、
どち らもア ドビ社の ユ ニ バー
ス とヘ ルベ チ カ体を使用 してい る)。 おそ らくそ れ ぞれを一
文字 単位で見ても、
大半の人に は判 別は困 難な ものと なるだろ う。
私 自 身も大 文 字の A やTあ るい はL だ け を見せ ら れて もその差は判 別しが たい 。 しか し組ま れ た結 果を 見 る と、
その差が、
はっ きり とし て くる。 微 妙な曲線の変 化と線 率の 差、
x−
hightそ してセ ッ ト幅とい っ た要 素が、
同時に関 係しあい な が ら、
そ の差 異 を 形 成 してい るのが読みとれ る。 さらにも う・
つ 大切 なこ と が あ る。 字 間の設定がそれだ。 こ の 設定い かん によっ ては、
形態E
の 差が必 ずしも書 体 とし ての 差 異 を示さ な くな る か らだ。 初期設定の仕 様で組 ま れ たヘ ルベ チ カの字 間をユ ニ バー
ス の字間 に合 わせたもの を組ん で み た (図2
)。 ピリ オ ド、
カ ンマ、
あ るい は 明 ら か に形態の違い を持つ 文 字を除 けば、 ど ち ら も ま るで 同 じサンセ リフ に見えて し ま う。 欧文の 書体に とっ て この 字 間の設定は、
文字を 組み ヒげてい く過程におい て、
活字の形 態の 差 異 と 同様に、
重 要 な 要 因となる。 つ まり活 字の集 合が か も し 出 す 印象は、
活 字 個々 の形 態に含ま れて はい な い。 活 字個々 の差 異の総和が、
全体を決 定づける と は言えない の だ。 細 部の微 妙な変 化の集積に よっ て 作 ら れる全 体は、
異な るフェー
ズ に属す るこ と に な る。
ゆえに 我々 は、
形 態の変化が 全体にどの様な影 響を与えてい る か を常 に読みと ら ね ば な ら ない 。 ユ ニ バー
ス の実 制 作者、
ア ド リ ア ン・
フ ルテ ィガー
の 書 体 制作にあたっ ての構 想は、
1:今まで には な い よ う な サンセリフの フ ァ ミ リー
の設定。2
:どの よ う な 言 語 に対 しても対 応可能な書 体の 実 現 (言 語に よっ て は特定の キャ ラ ク ター
の使用 頻 度 が異なる。
これに よっ て派生する、
組 版 濃度の破 綻 を 防 ぐこ と)。
3
:それまで の サ ン セ リ フより、
幾何 学的で はない形 態を持つ 書 体の実 現、
な どであ る。 フル テ ィ ガー
は、
この壮大な構 想 を、
微 網な線 率の 変化だ けで具 体化 させて い る。 特に2に関し て は、
エ ミー
ル・
ル ダー
の 言 語 と書 体の関係の ス タ デ ィが、
ユ ニ バー
ス の 他の 書体 に対 する優 位 性を明快に語っ てい る。 2 :欧 文 組版における 空 間の コ ン トロー
ル 欧文の組版には、 均一一
な濃 度を 求め る異常なまで の 拘 りを感じ る が、
なぜ なの だろ うか。 当然の こと と し て、
良質な視 感 覚抜 き には考 えら れず、
な かには、 あま りに組 版 濃度 が 均 す ぎて、
私 な どは、
本 当に これが読み やすい の だろ うか と、
疑い た くなる よう なサ ン セ リフ の例 もある。
よく耳にする、
セ リフ か サンセ リフか とい っ た論 争 も、
こ こか ら来てい るの だ が。欧 文組 版の基本は
、
グー
テ ンベ ルグの42 行聖書に 見られ るジャ ステ ィフ ァ イだ。 セ ッ ト幅の異 なる活 字を 用い て左 右 を 揃える こ とは、
現 在の デジ タル の 環 境下で も難 しい ものだ。”
The Book ”と言え ば、
聖 書 と な る よ うに、
西 欧 に お ける書 物の組み仕 様は、
厳 格な まで にその様 式を踏襲し てい た。
そ れゆえ欧文 の タイポグラフ ィ に は、
字 間・
語 間の コ ン トロー
ル の必 要 性 が 初め か ら意 識さ れ た。 ま た 文の 中で 意味 を表 す 最 小 単位と しての 語は、
一
つ のま と ま り と して存 在し なければ な ら ない.
語 の 中で どれ か一
つ の活 字の濃 度が変わっ た り、
ある い は 字 間、
語 間の 設定が くるうと、
語の ま と ま りを 欠 くことになる。 これ は文にお け るシンタッ クス の くずれ を意 味し絶 対に回 避 し な け れ ば ならない こ と だ。
必 然 的に字間・
語間のコ ン トロー
ルは均一
な 濃度 を求め る ことになる。 このよ う に、
欧文に お け る 字 間の 調節と均一
な濃 度を組版に求め る意 味は、
文に お ける シン タ ック ス の くずれ を 同 避 する こ と で あ り、
こ の 意味 に おい て、
タイ ポ グラフ ィと は、
可 読1
生 を第 義 とするもの であ り、
視 感覚は、
機 能を 満 足 なもの とするた めに不可 欠の もの となる。 ただ し依然として、
セ リ フ、
サンセリフの 論争に は、
答 え は 出せ てい ない 。一
時 期、 猫も杓 子もとい っ た感 じで 飛びつ い た、
ロー
テ ィ ス体 もや は りこの 間に完 全に答えてい る と は言え ない。
さら に組まれた文字は
、
選 択 する書 体の ウエ イ ト、 字間・
語間の設 定によっ て、
様々 な 濃度 をつ く り出 す。 また組み幅は、
そ れ らの解 釈に更に影響を及ぼ す。 この 行っ た り来た りの 関 係は、
そこ に他の視 覚 的要素が一
つ で も加わ るこ とに よっ て、
更に複 雑に 影 響し合い 出す。 こ の混乱 す るフ ェー
ズ の関係 性をJapanese Society for the Science of Design
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38SPECIAL ISSUE OF JSSD VoT.6 No.1 199S7if-tz\dieekkt
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どう処 理 する か。 前述 し た 「文字 枠さえ設定すれば」
、
とか な り簡 単に文 宇枠の 設 定を書い てい るが、
実 際 の と こ ろ は、
それ ほど単純なことでは ない。 もっ と も依頼する側が、
それ ほ ど印刷 物に期 待を かけてい ない 場合は、
制作 する側 もそれ ほどに気 負 う必 要は ない 。 依頼者、
制 作 者 共に不幸な結 果を 招 くこ と が 十 分に予 想で きるか ら だ。 話は少 しずれ た が、
こ の 複 雑さを何とかすべ く考え出さ れ た ものが、 グ リッ ドシス テ ム だ。 わ が 国に この シス テムが紹 介さ れたの が、
1957 年 頃だっ た と思 うが、
殆どの デザ イ ナー
がこ の シ ステ ム に飛びつ い た。 何しろ全角を 基本にしてい る和 文 だけにまことに都 合も良かっ た。 しか しす ぐに 「グ リッ ドを使 うとみ んな同じになっ て し まう 。 これは ダ メだ」と。 まる で理 由にな ら ない 理 山 か ら、
グ リ ッ ドシステム は、
凵本の デザ イン、
タ イ ポ グラフ ィ の世界か ら姿を消して し まっ た。
しか しこ の 現象は、
なにも凵本だけのもの では な かっ た。 つ ま り 自分で 設定し た シス テム ゆえ、
そこ に どの様 な 異 な る 空 間 の 関係が 生 じ ようと も な ん ら問 題に せず、
シス テ ム こそ が、
その関係を 既に解 決してい る と錯 覚 してい たのだ。 ポー
ル・
ラン ドは、
こ の グ リッ ド シス テム に対し て、
「グ リッ ドを使 うと全 てが 同 じように なる とい うの は、
グ リッ ドに対 する誤っ た考
えだ。
問 題 は、
グ リッ ドにあ るの では な く、
そ れ を扱 う側 にあ る」と言っ てい る。
ラ ン ドは、
更にル・
コ ル ビ ジェ の 「モ ジュー
ル に よっ て与え ら れた結 果に対 して は、
い か なる場 合に も疑い を さ しは さ む権利 を、
私は持 ち続け る.
私の理 性 よ りは、
む しろ私の感 受 性にの み 依存 しな け れ ば な ら ない私の 自 山 を そこなわずに」 (ポー
ル・
ラン ド:A
デザ イ ナー
ズア
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ル 大 学出版 局、 朗 文堂、
1986)との 言 葉を引 用 して、
グ リッ ドシ ス テム とそ れ を扱 う人 間の 関係を 説 明し てい る。
そ れは、
生 成 さ れる空 間 に 対する予 測 と、
結 果に対 す る 自 身の感 覚の 反応を、
自らの視 感 覚に 絶 対 的 な 自信 を持 ち なが ら、
泥 沼に入 り込 む こと を 意味 する。
ミュー
ラー ・
ブロ ッ クマ ン は、
その 著 書グリッ ド システム の 中で、
ペー
ジ番号 をど こ にお くか は非 常 に重 要 なこ とだ と 言っ てい る。 たかだ かペー
ジ番 号 だ。
だ がこ の繊 細 な、
空 間に対 する視 感 覚の反応を 理解で き な かっ たこ とが、
グ リッ ドシス テム におか し な烙印 を押 して し まっ た。3
:和 文組版にお ける空 問の コ ン トロー
ル 比べ て和文 を見る と、
言 語の 文字 表記の違い か ら、
欧 文 とは対 照 的だ。 欧 文 組 版で問 題に した均一
な 濃 度の設定は、表
記の 違いか ら望むべ く もない。 逆に 漢 字か な混じ り文が 醸 し 出 す 強い コ ン トラス ト は、
和 文の可 読 性 を高めて い る と考えら れ る ぐらい だ。 ま た 欧 文で苦 労 する ジャス ティ フ ァ イ は、
文 字が正 方 形の 中 に 設 計 さ れた時 点で、
全て が解決 済み と な る。
欧 文の ように 字 間の コ ン トロー
ル が表 記の意 味 内 容と関 係して くる とい っ た こ とも生 じ ない 。 和 文 縦 組みで は、
タ イプデザイナー
が タイ プフ ェー
ス デ ザ イン の最終 段階で の文 字の寄 り引きの調 整を終え た時 点で、
文 字 枠 内で の組 版の精 度は、
八割が た完 成 した とい っ て 良い。 結果 と して、
和 文の場 合には、
欧文の ように字 間 の コ ン トロー
ル に始まる、
空 間解 釈とし て の タイ ポ グ ラフ ィ とい う意識は希 薄にな ら ざるを得な かっ た。 全 角万能とい う、
和 文活字の素 晴らしい 特性と して の合 理 性に、
全てを委ね て しまっ てい たの で は ない だろうか。 しか し、
和文 横 組み になると話は別なの だ。
和文 の組 も、
一
気にその複 雑さ を欧 文組 版な みにお しあ げら れ る。 文 字 枠 内におい ても、
タイ ポ グラフ ィと して の 空 間解釈に際し て の視 感 覚の介在の必 要 が 生 じ る のだ。 こ の時 点か ら、
コ ン トラス トが 強い分、
欧 文以 上の良 質な視 感 覚を必 要と する。 現在 すで に横 組み があたり前になり、 更に和 欧 併 記の組 版の要 求 強く なる であろうこ と は、
容易に想 像がつ く。 しか し同じタイ ポ グラフ ィ とい う考えで は、
くくれ ない ほ どに、
和 文と 欧 文の タ イ ポ グラフ ィは、
異なる様 相を示す。 そ れゆえ和 欧 併 記の タ イ ポグ ラ フ ィ とい っ た、
もうひつ の概念の設定が、
必 要と さ れてい る の では ない か。
タ イポ グラ フ ィへ の姿勢 それ では、
タイ ポ グラ フ ィ を実 践する際に、
視 感覚Japanese Society for the Science of Design
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の介在だけでその全てが 解 決 す る か と言え ば、
確か に心 もとない。 当 然の こと と して、 再 現技 術との関 係は重 要 な 要 因だろ う。 グー
テンベ ル グ以来、
再現 技 術が タイポ グラ フ ィの 具 現 化に与え た影 響は、
計 り知れない ものが あ る。
ちょ う ど現 在の デジタ ル化 が、
まさ に大 きな 変革を せ まっ てい る のと同様にだ。 し か しよ く考え る と、
その技 術の開発 すら、 良質な 視 感 覚 抜きに は考え ら れ ない し、 さ らに、
「こ れまで よりは」、
とい う問 題解決に対する姿 勢、
あるい は拘 りの ような もの が な け れ ば、
その こ と自体 存 在しな かっ た だ ろう。
この 好 例と して ブ ラッ ドベ リー ・
トンプソンの デザイ ンに よ るバ イ ブル
(
The
Washbum
College Bible)が有る
。
ブ ラッ ドベ リー ・
トンプソンにつ い てだ が、
ト ン プソ ンは、
ポー
ル・
ラン ド と二分 する ほどに、
ア メ リ カの グラ フィッ ク デザ イン、 ブ ッ ク デザイン、
タ イポグラフ ィの世界に影 響を与え た 人である。 特に 造本 に 関 わ る姿勢 は、
単に デザ イン とい っ たことで な く、
編 集 面にも深く関わりを持ち なが ら制 作を進 め る姿勢 を崩さ な かっ た。 ち なみ にこの姿 勢は、
彼 が高 校 在学 中に、
アー
ト・
エ デ ィ ター
とし て制 作し た高校の 年 間 報告書によ る もの だ とい わ れてい る。 そのバ イ ブルであ る が、
左 にその図版を掲 載し た。 この バ イ ブル の 目的は、 欽 定 英訳 聖 書の、
伝 統 ある 言 語 を修整 するこ と なく、 読み やすさと、
よ り深い 理解 を得る為の タイ ポグ ラフ ィ ッ ク・
フ ォー
マ ッ ト を 用い、
聖書 離れ し た 人々を、
改め て聖 書に向かわ せ るこ と を 願っ た ものだ。 トン プソ ンは、 こ の制 作目的に対して、
グー
テ ン ベ ル グ 以 来の伝 統と も なっ てい る、
左 右 揃えの 組み 方 を行 頭 揃 えに変更し た。 この理由は、
ハ イフ ォネー
シ ョ ンの多用による叮読性の劣 悪 化を防 ぎ、
一
行 の 区 切 り を、
もっ と も話し言 葉に近い、
完全 句と し て成 立 させ、
文により親し みを持たせ るこ と な どで ある。
結 果 と して、
1800ペー
ジ にわたっ て、
一
度と し てハ イフ ォ ネー
シ ョンは、
使 用さ れてい ない 。 章 見 出 し を除い て、 文 字サイ ズは、
全て14ポ イン トに 統一
してい る。 ま た イタ リッ ク体 も本 文中で は、
使 用 さ れてい ない。
これも可読 性か らの 判断であろう。 図4TheWashbuthCollege B/ble Bradbury Thompson
欽定 英 訳 聖 書 ブ ラッドベリ
ー
・
トンブソ ン40 SPEcIAL lsSUE OF JssD vol
.
6 No,
1 1998 デザ イン学 研 究 特 集号トンプソ ンは
、一
行一・
行丹念に何 度も繰 り返 し聖 書 を 読み込ん だ と言う。 それ は一
人の タイ ポグ ラ フ ァー
が、
途 方 もない 時間をかけて一
語一
語、
聖書の 文章と格 闘 してい るの である。 どこで改行すべ き か、
その改 行が、
読む人に誤 解を与えず、
親しみ を持っ て受け 入れ られ る か。 まさ に様 式を 越 え、 言語、
文 字、
そ して活 字とい う非 線 形の空 間の な かで翻 弄さ れな がら、
組の適 合 性を模 索し てい る のだ。 殆ど信 じら れない 世界だ。 この改 行は、
全て強 制 改 行であ る。
しかも18 0ペー
ジだ 。 この ような姿 勢は、
文字 枠を設 定し、 そこ に文 字 を 流 し込む だけと菁っ た、
処 理 優 先の姿 勢か ら は、 うか がい知 る こ との 出来ない世 界だ。 しか も そ れ が 己の 欲からでは な く、
あくまで読む 人 を前提と して い るだけに、
脱 帽 する。 タ イ ポ グ ラフ ィ を 支 えてき た もの が、
何 か を まと め る と以 上の 四点になるだろう。 技 術はマ シー
ンに 格 納さ れ て しまっ た が、
再 現技 術と そ れ を実 行す る 技 術 者の存 在。 タイ ポグ ラ フィ に向か わ せ る動 機付け。
構 想を 具体 化 する為の空 間 解釈における良 質な視 感 覚。 最後に制 作にあたっ ての姿勢 だ。
動 機と姿 勢は、
おのずと 自身のタ イ ポ グラフ ィの フィー
ル ドを決 定してい く。 そ してそ れ を 支えるも のは、
フ ィー
ル ドを問わず 個の 視 感 覚だ。
こ の 三要 素は常に ゆ らい でい る。
こ の ゆ らぎの 持 続こそが、
専 門 家と非 専門家との問に深い 海 溝の ようなもの と し て横た わ り、
専 門家と非 専門 家 を 分 けてい る。チ ヒ ョル トは、 晩 年になっ て 白身の 若い 頃の仕
事
を完全に否 定した が、 私はチ ヒ ョル トの 言葉と行動 を 理解しつ つ も、
依 然 とし て同.
一
で、
独自の チヒ ョ ル トの空間 解釈 を み るの だ が。 タ イ ポ グラフ ィに とっ て こ の視 感 覚の 第一
義的な 目 的は、
他 との差 別 化 あるい は個 別化を 日的とする よ り は、
形 態の変 容、
ま たは空 間の変化を、
他と共 有 す る為の枠組 みの 設定に供 す る。
F
タイ ポ グラ フ ィと は、
機能。
つ ま り可 読 性 を ま ず前 提とし な け ればならない」と吉 うか ら、
や や こ し く なる。
実 際に作業 を行 う者に とっ て は、
「瞹 昧な 可読 性を、
相 関関係の な かで よ り確 実 なもの として 提 示す る た めの 空 間 解 釈」と 理 解 す る 方 が 分 か り易 い だろ う。 こ の空 間解釈に 欠 くこ との 出 来ない 感 覚 こそ が 視 感覚だ。
そ して こ の 感 覚は、
色 彩感 覚と同 様に、
個の 問 題 として開 発 が 可能なものだ。 次に視 感 覚の 開 発の プロ セ ス の具体例を示 して み た。 視 感 覚の開 発の為のプロ グラム こ のプロ ジェ ク トは、
武蔵野美術大 学視 覚伝 達デザ イン学 科の2
年 次の 学 生 を 対象とした もの である。 このス タデ ィの 日 的は、
等しい ス テ ッ プの グ ラ デー
シ ョ ンを 設定する作 業を、
目と手だけを使い、
微 細 な 空 間の 変化に よく反応し、
それを自 由にコ ン トロー
ルする こ とがで きる、
視 感 覚の獲 得を 目指 すもの だ。
正 直 なと こ ろ、
10段階は、
あ ま りに複 雑 す ぎる の で、
通 常 は、
5段 階がい い と こ ろだろ う。 こ こ に提 示した点を使用 した場 合には、
3段 階が限界だ。 バ ウ ハ ウス には、
20 段階のグラ デー
ショ ンを自由に操れ る 天 才 的 な 学 生 がい たとい うが。 今 回の ス タ ディも含め てだ が、
こ の種のス タ ディ を 行うに あたっ て は、
複 数の 人間が、
同時に作 業を 行 うこ とが、
必 須の前 提 条 件と なる。 これ は相 当微 妙なコ ン トロー
ル ゆえ、
常に白分以外の人間の 目に よ る補正 が必要 と なる か らだ。 次ペー
ジ に提示 し たス タ デ ィ (図5−
7 )は、
点 を 用い て、
同様の こと を行っ てい る。 まず 点 を構成 す る幅 を設定し、
そ れに対 して、
等 しい ス テッ プによ る様々 な グ ラ デー
シ ョンを点で構 成する。 次にその どれ かを選 び だす。 グ ラ デー
シ ョ ン の表 情は同じ性 格を持つが、
異な る濃度を示す3段 階の線 を 設 定 する。
さ らにそれを集め て面とする。 つ ま り点によっ て生 成され た面の性 格は、
ち ょうど、 タイ プフェ イス で 言 うとこ ろ の フ ァ ミ リー
を形成するこ と になる わけ だ。 か な りな 忍耐を要するス タ デ ィ で あ り、
また面 の並べ 方に に よっ ては、
そのみ え 方 が 変 わるなど、
我々 の感 覚の曖 昧さ が、
実 感でき るス タ ディ だ。次の ス タ デ ィ (図
8
)は、 異 な る形 態4種
と 活 字 か ら一
一
・
文字を選び、
サイズを視 覚 的に統一
したう えで、
各形態を5段階の等しい 奥行 きの 関 係 を持た せ た階層 に、
置き換える ものだ。
い わ ば ウエ イ トの調整であJapanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service Japanese Soolety for the Solenoe of Deslgn
図 版作 成 高 波 雅 図 5
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図10 図 1142SPECIAL ISSUE OF JSSD Vol 6 No 1 199S デ ザイン学 研 究 特 集 号